俺の親父がウザい話   作:體硬士

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■星野家、最近の悩み

・アクア「この歳はまだ、京極夏彦読むには怪しまれるか…」
・アイ 「映画出演緊張するー!」
・ルビー「ママが忙しくて、最近オギャバフランドに行けない…」
・ヒカル「ルビーがパパと読んでくれない…」


 映画と重曹と親父

 

 

 産まれてから数年が経ち、それなりの言動では怪しまれなくなっていた。時々俺やルビーが赤子では難しい言葉を使うと、

 

「え?どこで覚えたの?」

 

 と、時々怪しまれることもあったが、

 

「いやー俺に似て天才なのかもな」

 

「うふふ、遺伝だね」

 

 なんて、夫婦揃って微笑ましく思われるだけであり、問題になることは無かった。

 

 アイの方もそれなりにアイドルとして活躍しつつあり、メディアへの露出も増えてきていた。そして、そんな最中のことである。

 

「え、映画出演!?」

 

「そうだぞ!しかも結構いい役を貰ったらしいんだ‼」

 

 親父からそう聞いて、俺は嬉しくなった。それまでのアイといえば、アイドルグループの一員として音楽番組への出演が中心であり、知名度もドルオタ界隈が中心であった。しかし一般向けの映画出演となれば多くの人の目に入ることになる。更にそこで目に見える活躍をすれば、タレントとしても一気にスターダムにのし上がるチャンスでもあるのだ。

 

「しかもなぁ、それだけじゃないぞ」

 

 まだなにかあるようで、親父はニヤリと笑った。

 

「もったいぶらずに早く教えろよ」

 

「まぁそう急かすな息子よ。実はな、明日アイの撮影日らしい」

 

「と、言うことは?」

 

「アイには秘密で、こっそり見に行こう!!」

 

「イェーイ!!!!!」

 

 俺と親父は、拳を突き上げて叫んだ。

 

「なになにーどうしたの?」

 

 スマホでアイの動画を見ていたルビーも、俺達の声を聞いてこっちに来た。

 

「実はかくかくしかじかで…」

 

 俺はアイが映画に出演すること。そして明日、こっそり撮影を見に行くことをルビーに教えた。

 

「きゃあああ!!!!そんなのママの魅力が全世界、いや全宇宙にまで知れ渡っちゃうじゃん!!!!!ずぅーーーーーーーーーーと応援してきた身からしたら少し淋しいけれど…でもでも!でも‼でも!!!でも!!!!こうやってスターへと駆け登っていくママを間近で見れるのはちょーーーーーーー幸せ♡♡♡」

 

(また始まったか…)

 

 相変わらずアイのことになると暴走するルビーであった。

 

「な〜んだ、たまにはやるじゃん!この、穀潰し♡」

 

「アッハッハ!ルビーに褒められるなんて嬉しいなぁ!」

 

(こいつ今とんでもないこと言ったぞ)

 

 いや、基本無視させるか罵倒されるかなので、笑顔を向けられるとそう思うのかもしれない。こんな感じで親父とルビーの仲は、親父の一方通行のままである。

 

 まあ、ルビーも喜んでいるようなので俺は何も言わず、タクシーを呼び、3人でアイのいる現場へと向かった。

 

 

 

 

「はぁぁ〜♡♡ママ〜どこぉ〜♡♡」

 

「ちょ、ルビー!」

 

 現場につくなり、ルビーは車から降りて駆け出していった。親父は慌てて運転手に料金を払い、ルビーを追い駆けたが、

 

 “ドテッ”

 

 追いつく前にルビーが転んでしまった。

 

「うわぁぁぁん!! ママァァどこぉぉ!!!」

 

 そして大声で泣き出してしまった。親父は追い付くとルビーを抱え上げてあやすが、泣き止まなかった。端から見れば、転んで痛くて泣いている子を大人が慰める様に見えるだろう。だが、俺は違った。

 

 あれは痛くて泣いているのではなく、ああすれば声を聞きつけてアイが来てくれると踏んでいるからだ。実際、ルビーは良く転ぶが、毎回何事もなかったかのようにすぐに起き上がる。ああやって泣くのはアイが近くにいる時だけである。これは、しばらく一緒に生活する中でわかったことだ。

 

 ただ見守ってるだけでもいいが、親父も困っているのて、助け舟を出しに行こうとした。すると、

 

「ちょっと!何やってるの‼」

 

 一人の女性がそう叫びながらやって来た。だが、残念ながらアイではなく、所属事務所「株式会社苺プロダクション」代表取締役夫人の斎藤ミヤコである。夫人にしてはかなり若く、少し派手な印象だが、俺からすれば周りで一番マトモな人だと思っている。

 

「まったく、何しに来たのよ」

 

 ミヤコさんは親父を睨みながら言った。

 

「えっと、アイの撮影を見に…」

 

「それは明日‼今日はレッスンの日でしょ!!」

 

「え…」

 

 ミヤコさんがいるのは、役者やスタッフの人たちに挨拶するためらしい。親父は口をあんぐりとしたまま動けずにいた。すると、ずっと泣いていたルビーは泣くのを辞め、くるりと顔を動かし、ミヤコさんの方を見た。

 

「それ、本当?」 

 

 ルビーがそう尋ねた。ミヤコさんはそれにかなり驚いたようで、「え、ええ…」としか返せなかった。

 

「ねぇ、どういうこと?」

 

「ど、どういうことと言われましても…」

 

 ルビーに詰められ、親父は額から汗をダラダラと垂らす。そして次の瞬間胸倉を掴み、

 

「私の貴重な時間返せやぁぁぁ‼‼!!!」

 

「ぎゃあああ‼‼」

 

 親父がルビーにボコボコにされた。ミヤコさんが止めに入るものの、ルビーの手は止まることを知らなかった。このままでは埒が明かないので止めに入ろうとした。すると、

 

「おい!なんの騒ぎだ!」

 

 少しドスの効いた声が聞こえ、あれだけ騒がしかった現場が一瞬でシーンとなった。声のする方を見ると、不精髭を生やしたコワモテの男がこちらを睨んでいた。おそらく監督かプロデューサーかなんかだろう。

 

「ったく、誰だ!こんなガキ連れてきたの!」

 

「す、すみません私です!」

 

 ミヤコさんが申し訳無さそうに答えた。

 

「アンタ確かにアイドルのマネージャーだったか」

 

 男の目が一層険しくなる。ミヤコさんが何度も頭を下げているが、表情は変わらない。

 

「マネージャーが子連れで現場にねぇ」

 

 その瞬間背筋が凍った。俺だけでなく、ここにいる全員がそうだろう。コレはもう、俺たちは締め出されると思った。それに加えて、アイにまで迷惑をかけてしまったかもしれない。

 

「すみません、現場荒らしちゃって」

 

 誰もが動けずにいる中、一人だけ影響を受けていない男がいた。そう、親父だ。先程ルビーに殴られていた跡はなく、きれいな顔をしていた。(それはなんかムカつく)

 

「あぁ?テメェ誰…って、お前は」

 

 男は親父を見ると驚いた顔をしていた。

 

「なんでお前がここにいる…」

 

「実は迷惑かけたの、俺の子どもでして」

 

「子ど…お前の!?」

 

 男はさらにビックリして、口籠ってしまった。

 

 (この男、親父を知っているのか?)

 

 アイについては、俺が生まれ変わる前から完璧で究極なアイドルであることは知っているが、親父については元々なにをやっていたのか知らない。実のところ、俺の親であること以外情報が無いのだ。

 

「責任は全部自分が取るので、許してくれませんか?」

 

 俺が考え込んでいると親がペコリと、綺麗なお辞儀を見せた。家では全く見せない姿だ。それを見た男はしばらく黙っていたが、はあーと息を吐くと、少し表情を緩めた。

 

「まーいいや、なんか色々驚かされたし。勘弁してやる」

 

 そう言って、ポンポンと台本のようなもので肩を叩いた。どうやら無事に済んだようだ。

 

「その代わり…」

 

 すると男が近づき、俺の頭の上に手を置いた。

 

「コイツが映画に出てもらうことが条件だ」

 

「え?」

 

「は?」

 

 突然とんでもない条件を突きつけてきた。演技経験がなく、どこの事務所にも所属していない子どもをいきなり映画に出ろと言ってきた。

 

「いや、この子は子役ではなく駄々の素人ですよ!」

 

「そうですよ監督!それに今更新しい役なんて準備が…」

 

「一人熱出してしばらく来れない子役がいたろ?そこに充てがう」

 

「で、でもそれは…」

 

「あの事務所には俺が直接伝える。だから心配すんな」

 

「しかし…」

 

 この男、監督の鶴の一声で俺の映画出演が決まった。どうやらそれ程重要な役ではないらしく、映画全体にも影響は内容だった。

 

「これで今日は円滑に進むな。それじゃあこの子少し借りるよ」

 

「は、はい!よろしくお願いします!」

 

「頑張っておいでアクア♪」

 

 親父達に見送られ、俺は監督に連れられていった。

 

 

 

 

 

 

 

 監督に連れられた俺は、台本を渡された。

 

「お前のセリフはコレだ」

 

 渡された台本を見ると「子供B」の部分に丸がつけられており、セリフは二行だけだった。たしかにコレなら子どもでもすぐに覚えられる量だった。

 

「少な…」

 

 思わず声に出てしまった。

 

「まぁそう言うな。上手くやりゃあ、あのアイドルに次の仕事振ってもいいぞ」

 

「え!?」

 

 そうとなれば本気でやるしかない。俺のでき次第でアイの今後に影響するかもしれないのだ。

 

「あ、ありがとうございます!あと、先程は現場の進行を妨げないという最低限のルールを守れず申し訳ございませんでした!!その償いとして、微力ながら粉骨砕身して挑みたいと存じます‼!ですので、弊社のアイを今度とも何卒ご贔屓に…」

 

「めちゃくちゃ喋るなこの赤子!」

 

(し、しまった!)

 

 これでは、いくら喋ってもおかしくない年齢と言っても怪しまれるだろう。なんとかして誤魔化さないといけない。

 

「どこで覚えたそんな言葉!」

 

(なんて言おうか…そうだ!)

 

「ユーチューブで少々…」

 

「すげぇなユーチューブって!!時代だなぁ!!」

 

 これはなんとか誤魔化せたようだ。俺が安心していると、監督に抱き上げられた。

 

「こんな早熟な子どもを見るのは初めてだ。これは期待できるな!これは俺の名刺だ、映画に出たいとか思ったら連絡してくれ」

 

「ど、どうも…」

 

 どうやら俺は気に入られたようだ。監督は嬉しそうにぶつぶつ言っているが、正直アイが目立つ方が重要なので適当な距離を取って関係していくのが適切だと考えた。それに、俺自身あまり目立つのは好きではないからだ。

 

 取り敢えず台本を読み直そうとした時、さっきのことを思い出した。

 

「そうだ、監督!父さんのこと知ってるの?」

 

 さっきの感じからすると、監督は親父と会ったことある感じだった。

 

「知ってるってそりゃあ、あいつ元子役だしな」

 

「ハア!?」

 

 初めて聞いた情報だ。そんなことアイや社長たちは言っていなかった。

 

「なんだ知らなかったのか。まぁテレビとか殆ど出ないで舞台中心だったし、仕方ねぇか」

 

「監督!もっと親父については教えてくれ!」

 

 今までしらなかった親父(アイツ)について知れるかもしれない。そう思い、食い気味に尋ねた。

 

「いいけど、直接アイツに会うのは今日が初めてだし、全部伝聞だけどいいか?」

 

「うん!」

 

 監督は「わかった」というと語り始めた。

 

「アイツを知ったのはもう十年くらい前なるか。劇団ララライに天才がいるって聞いてな。それがお前の親父だった。俺も一度見に行ったことがあるが、まさに天才という演技をしていたな。そんなもんで、裏ではドラマのオファーがあったようだが、結局一つも出ること無く辞めちまった」

 

「どうして?」

 

「理由は知らん。だが、風のうわさでは、何か別にやりたいことができたとか。まあその辺はお前自身でアイツに聞いてくれ」

 

 俺は衝撃を受けた。あの親父が役者をやっていて、しかも天才と言われながら急に辞めるなんて、驚きも驚きだ。

 

「でもまさか、子ども作ってるなんてなぁ。今までで一番驚いたぜ」

 

「ハハハ……」

 

 そんな人が家での親父を見たら腰抜かすかもしれない。なるべく素の部分を出さないよう後で注意することにしよう。

 

「ってことは…母親はあのマネージャー(ねーちゃん)か?」

 

「いや、ちがっ」

 

 そこまで言って辞めた。本当の母親はアイなのだが、公表はしてないし、何よりこれからは売れようとしているアイドルが子持ちと知られれば、何かと不味いと思ったからだ。ならば、

 

「は、はい…」

 

「かーマジかよ!まぁ前から年上を誑かしそうな感じはしてたけどよ!」

 

「ハハ…」 

 

 なんかこれはこれで不味い気もするが、アイだとバレるよりはマシだろう。

 

 俺がひと安心してると監督が俺の頭に手を置き、こっちを見た。

 

「だが、そんな天才の血をお前は引いてるわけだ。期待来てるぜ早熟ベイビー」

 

 そう言って監督はフッと笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本気はもっと親父について聞きたかったが、監督は忙しそうだったし、何よりこれ以上情報は引き出せそうに無かった。仕方ないので控室に行くとルビーと親父がおり、またもやルビーはぐずりだしていた。

 

「ママぁああママぁあああ!!」

 

「ルビー!ママは居ないけど、パパが居るよぉー」

 

「ママのどごがえりだい!!早く帰ってバブリたい!!ママの胸でオギャりたいよおーー!!」

 

「あれ?無視?」

 

 俺が急遽撮影に参加することになったことで、二人も終わるまで残ることになっていた。そのせいでルビーはここにアイがいないばかりか、いつ終わるかわからない撮影に拘束され、さっきよりひどい。

 

(ていうか、コイツ良い歳して恥ずかしくないのか?)

 

 ルビーに呆れながらも原因は俺にもある(大半は親父)ので、ここは早く済ませようと思った。すると、子役の一人が“バン!”と台本を叩きつけて、俺たちの方を睨みつけた。

 

「うるさいわね!ここはプロの現場なんだけど!遊びにきてるんなら帰りなさい!」

 

(あれ?この子は確か…)

 

「私は有馬かな。今日の共演者よ」

 

 俺の考えを読んだのか、自分から自己紹介してくれた。

 

「えーと…重曹を舐める天才子役だ!」

 

「10秒で泣ける天才子役!ドラマでの泣きっぷりが凄いって皆言ってるんだから!!」

 

 ルビーの間違いをすぐさま訂正した。この子はあるドラマで話題になってから、ドラマにバラエティーに引っ張りだこになっている子役だ。ただ、俺はそんなに興味ないので、何となくしか知らない。

 

「10秒でも重曹でもどっちでもいいじゃん」

 

「良くないわよ!それにアンタ確か、あのアイドルの子の…えーと…バター…だっけ?」

 

「バーターな」

 

「う、うるさいわね!それにこないだ監督が撮ったドラマ見直したけど全然出番無かったじゃん」

 

「……」

 

「どうせカットしなきゃいけないほどへったくそな演技してたでしょ。媚び売るのは上手みたいだけど!」

 

 有馬はそう言い張ると立ち去った。俺はかつて無いほど怒っていた。会ったこともない癖にアイの事を馬鹿にしてきた。このままではいけない。ギャフンと言わせる必要がありそうだ。

 

 隣を見ると、ルビーも同じことを思っていたようで、

 

「お兄ちゃん」

 

 と、怒りの表情でこちらを見てきた。

 

「分かっている。相手はガキだ……殺しはしない……」

 

「その意気だアクア……十分にわからせやれ……」

 

「「お前は黙ってろ!!」」

 

 そう俺たち言われて、親父はしゅんとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺たちは現場へ赴き、まもなく撮影が始まろうとしていた。この映画のあらすじをざっくり言うと、自分の容姿にとことん自身の無い女が、何故か山奥にある怪しい病院で整形を受ける……という話だ。

 

 俺はさっきあ会った有馬かなとともに、その村の入口で出会う気味の悪い子供達を演じる。ただ、素人である俺はどうすればよいか悩んでいた。

 

「どうしたんだい、アクア?」

 

 するとそこに親父がやってきた。

 

「ああ。どうすれば上手くいくかなって」

 

 親父はう~んと少し考え込んだ後、俺に微笑みながら言った。

 

「そのままでいいんじゃない?」

 

「え?」

 

 俺は素っ頓狂な声で言った。そのままとは星野アクアでやれということなのだろうか。

 

「アクアは演技初めてだし、難しく考える必要はないよ」

 

 そう聞いて少し気が楽になった。まあ、そんなに重要な役じゃないし、駄目でも監督やらが何か指示を出してくれるだろう。

 

「わかった、やってみる」

 

 有馬にギャフンと言わせることはできそうに無いが、初めてだし、仕方ない。後で重曹をプレゼントする位にしてやろう。

 

「大丈夫、自分を信じて」

 

 そう言って親父は俺を送り出した。

 

 

 

 

 

 撮影が始まり、俺の出番となった。

 

「ようこそおきゃくさん。かんげいします……どうぞゆっくりしていってください…」

 

 天才子役の名は伊達ではなかった。間近で見ていた俺はあまりの上手さに声を上げそうになった。だが感心してばかりではいられない。次は俺の番だ。俺が監督に求められていること、そしてさっき親父が言ってたことを踏まえると

 

「演じなくても十分に気味が悪い俺」ということだろう。

 

(つーか親父(アイツ)、俺の事そんなふうに思ってたのかよ)

 

 多少ムカつきながらも表情には出さず、俺は淡々とこなしていった。

 

「カット、OKだ!」

 

 撮影は一発OKだった。初めはどうなるかと思ったが、とりあえず上手くいったようだ。

 

「君凄いねーお姉さんぞくってきちゃった」

 

 主演の女優から声をかけられた。俺自身あまりのどうだったかわからないが、褒められる事は嫌ではなかった。

 

「そうですか?良かったー」

 

「良くないわ」

 

 俺が言ったそばで、有馬がボソッと呟いた。

 

「監督撮り直して」

 

「ん?いや問題なかったから」

 

「問題大ありよ!」

 

 突然の大声に、全員の視線が有馬に注がれた。

 

「今のかな……!あの子より全然だめだった…!やだ!もっかい!!お願いだから‼次はもっと上手にやるから!もいっかい!ねえ!」

 

 自信たっぷりだったさっきとは打って変わり、目にいっぱいの涙を浮かべ、監督に必死に縋っていた。あまりの悲痛さに、俺は心を痛めた。子役の賞味期限は短い。大きくなるか、自分より演技の上手い子がいれば取って変わられる。その事をあの子はもうわかっているのかもしれない。

 

 皆が有馬を見つめる中、親父が近づき、目線を合わせて話しかけた。

 

「そんなに駄目に思ったのかい?」

 

「うん……あんなんじゃ…みんなにがっかりされる…」

 

「確かに、物足りなかったかもね」

 

「お、親父!」

 

 流石に今のはひど過ぎる!相手はまだ年端も行かぬ子どもだ。もし真に受けたら一つの才能を潰してしまうことになるかもしれない。ここは嘘でも優しい言葉を掛けるべきだろう。俺が注意しようとしたが、親父は続けた。

 

「でもね、君はまだ幼い。天才と言われてもそれは子役の中であって、これからは大人になったら自分より上手な人なんてごまんといるからね」

 

 そう言った親父は少し悲しそうな顔をしていた。聞いていた有馬は下を向いたままだったが、泣き止んでいた。

 

「君に足りないのはライバルだ。天才って言っても、一人だとこれ以上成長しないし、何を目指したらいいのかわからなくなっちゃう……アクアの演技を見て凄いって思ったでしょ?」

 

「うん」

 

「だからアクアに負けたくない、もっと上手くなって見返してやるって気持ちを持って続けたら、きっとかなちゃんは誰にも負けない女優さんになれると思うよ」

 

「本当に?」

 

「ああ、俺が保証する」

 

 有馬は「わかった」と言うと、監督や他の役者の人たちにごめんなさいと頭を下げていた。親父が場を収めた事により、このシーンは撮影終了となった。

 

 俺は、普段からは想像できない親父の行動に呆気にとられていた。そして、もしかしたらすごい役者だったのは本当だったのかもしれないと感じていた。

 

「早熟のパパ、カッコ良かったな」

 

 監督はそう言うと、次のシーンの撮影を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日が沈みかけた頃、ようやく今日の撮影が終了した。ルビーはミヤコさんが先に連れ帰ったことにより、俺は親父と二人きりとなった。

 

「どうだった、今日は?」

 

「疲れたけど、まあ悪くなかったかな」

 

「そう、良かった」

 

 親父を見ると、少し嬉しそうな顔をしていた。監督の話に、有馬に対しての行動。元天才子役というのは本当な気がした。今まで1ミリも興味を持たなかったが、今日初めてどういう人物なのか気になった。

 

「ありがとう父さん」

 

「ん、何が?」

 

「撮影前にアドバイスしてくれたでしょ、あれで上手くできたと思う」

 

「そうなの?適当なこと言っただけだけどなぁー」

 

 親父はアハハと笑っていたが、俺はちょっとガッカリした。ああなると計算した上で俺に言ったのだと本気で思ったからだ。やっぱりただのヒモなのかもしれない……

 

「でも、結果的に上手くいってよかったよ。あの有名な有馬かなちゃんと知り合えたわけだし」

 

「は?どういこと?」

 

「え?だってこれを機にアクアとかなちゃんが仲良くなって、結婚することになったらうちの義娘になるわけでしょ?いやーよくやったよアクア!」

 

「と、父さん、何を言って……」

 

「そうなったら俺の事パパって呼んでくれるかなぁー

 ぐふふ♪いやーまいっちゃうな〜 娘が二人……ん、どうしたんだアクア?そんな怖い顔して」

 

 どうやら俺は間違っていたようだ。元天才子役?カッコいいパパ?いや、そんなんじゃない。コイツは…

 

「お前も人生やり直せやぁ!!!!」

 

 日はすっかりと沈み、山に親父の断末魔がこだまするのであった。

 

 




久しぶりとなって申し訳ございません。
自堕落な私めをお赦し下さい。
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