『さしすけ』ってなんだよ   作:Ex falso quodlibet

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猫を飼いたいので初投稿です。


#10 あの夢をなぞって

夏本番、とは正にこのこと。

最近まで降り続いていた雨が止んだことで連日暑い日が続き、熱中症患者も増えてきたと報じられる今日この頃。

俺たち4人は、静岡県浜松市に位置する一つの大きな館へと向かっていた。

 

「んで? なんだっけ、そこ」

「一家心中した家族が住んでた家。それが原因で呪いが溜まって、その後に肝試しで館ん中に入った奴らが次々と行方不明になって、更に呪いが溜まって。こんな感じで悪循環してるってわけ」

 

俺の質問に答えたのは五条だ。この程度の任務内容くらい覚えておけ、と言わんばかりの気怠げな様子。

でも教えてくれるあたり可愛いね♡ んな訳ねえだろ殺すぞ。

 

「そこに庵先輩と冥冥先輩がいるんだな」

「そう。歌姫先輩と冥さんが任務に出向いてから、既に2日が経過している。にも関わらず、冥さんから何も報告がない。これは流石におかしいということで、我々が派遣されたのさ」

「引き継ぎどーも、傑さん」

 

五条の会話を引き継いだのは夏油だ。お前マジで庵先輩のことバカにしすぎだろ、五条もだけどさ。そのうちボコボコにされても知らんぞ。

 

「へー、此処がその洋館。たかが一家族が住むにはちょっと大きすぎない?」

「確かに。ここ新しい高専の校舎にしようぜ」

「良いからとっととやんぞ。中で何が起きてるか分からねえからな」

 

硝子ちゃんと五条がまた遊びそうだったので俺が止める。全く、手のかかる奴らだぜ。(←棚に上げてる)

 

「へーへー。わかりましたよパパ」

「誰がパパだ誰が。強いて言うなら傑さんだろ」

「何言ってんだ傑はママだろ」

「じゃー私娘ねー」

「さっきから何を言っているんだ君たちは」

 

はい、ママに怒られたので任務開始しまーす。

 

「うっし、んじゃあ‘‘帳’’を下ろしてもらおう。五条と傑さんが行けばそれで十分だと思うけど、俺と硝子ちゃんは万が一のために待機ってことで」

「いや、俺1人で良い。と言うか‘‘帳’’も俺が下ろすから補助監督帰らせて良いぞ」

「おい、悟。1人で大丈夫かい?」

「歌姫でもやれるような任務を俺ができないわけがねェだろ。良いから待っとけ」

 

有無をいわせず、五条は洋館の敷地内へと這入っていってしまった。補助監督も五条にビビって本当に帰っちゃったし。いやどーすんのこれ?

 

「……はぁ。傑さん、アンタも五条についていってくれるか。あの馬鹿のストッパーが要る」

「分かった、2人はここにいてくれ。何かあったら戻ってくるよ」

「りょーかい。死にかけたら治してあげる」

 

五条の背中を追うように、夏油も門を潜って敷地内へと侵入って行く。これでまあ大丈夫だろう、と鷹を括った僅か数十秒後のことだった。

 

空間が軋む音がする。ズズズ、と地面が悲鳴を上げて割れていく。そんな予兆を感じ取った俺と硝子ちゃんは、顔を見合わせて溜め息を吐いた。まあ硝子ちゃんは嘲笑を絶やさない一方で、俺は冷や汗塗れだが。

 

「やばいやばい! 硝子ちゃんって‘‘帳’’下ろせるっけ?!」

「いや、下ろせない。私ヒーラーだからさ」

「自分で言うなっての! ああもう、結界術はそんなに得意じゃないってのに!『闇より出でて闇より黒く、その穢れを禊ぎ祓え』! 

アイツら、後でブン殴る……っ!」

 

‘‘帳’’が下りきってすぐ、洋館が半分ほど消し飛んだ。

 

 

ニュースでは速報として、ガス漏れが原因で大爆発を起こしたとされる洋館が中継されていた……と言うこともなく、果物農家にインタビューをしていた。つまり、非術師に呪術が露見する事態は避けられたと言うことだ。その放送が流れているテレビを夜蛾先生が消し、こちらを向いた。俺たち4人は教室で仲良く正座をしている。

 

 

「なんで俺も正座してんの?」

「それ言ったら私もだよ」

「‘‘帳’’下ろしたの俺! 硝子ちゃんヤニ吸ってただけじゃん」

 

夜蛾先生が咳払いをした。俺たちは慌てて姿勢を正す。

 

「今回は瓊弌のお陰で事なきを得た。だがこの中に、『‘‘帳’’は自分で下ろすから』と言って、補助監督を帰らせた人間がいるな。名乗り出ろ」

「先生! 犯人探しは良くないと思います!」

 

五条が手をまっすぐ上げて言う。一方の俺と夏油、硝子ちゃんは無言で五条を指差した。それを見た夜蛾先生は溜め息を吐いて目を伏せたのち、口を開いた。

 

「悟だな」

 

という訳で、物理的指導。

 

 

 

「っつー……あの先公思いっ切り殴りやがって。そもそもさぁ、‘‘帳’’ってそこまで必要? 別に一般人に見られたってよくねぇ? 呪霊も呪術も見えねぇんだし」

「駄目に決まってるだろ」

 

夏油は五条の文句に苦言を呈する。一般の出であった夏油と、呪術界御三家の神童であった五条とでは、その価値観の違いは推して然るべきだろう。

 

「呪霊の発生を抑制するのは何より人々の心の平穏だ。そのためにも目に見えない脅威は極力秘匿しなければならないのさ。それだけじゃない———」

「分かった分かった」

 

五条は夏油のご高説に嫌気が差し、彼の話を途中で遮った。硝子に取られたサングラスを掛け直すと、憂い顔で夏油との会話を続ける。

 

「弱い奴等に気を遣うのは疲れるよ、ホント」

「‘‘弱者生存’’。それがあるべき社会の姿さ。弱きを助け強きを挫く。良いかい悟、呪術は非術師を守るためにある」

 

夏油は五条の目を見据えてそう説いた。これが一般人であればその高潔さに平伏していることだろうが、残念ながら相手は五条だ。

 

「傑さ、それ正論?」

 

夏油の眉がピクリと動く。五条はいつの間にか不敵な笑顔へと表情を変えていた。

 

「俺、正論嫌いなんだよね」

「……何?」

呪術(ちから)に理由とか責任を乗っけんのはさ、それこそ弱者のすることだろ。ポジショントークで気持ち良くなってんじゃねえよ。オ゛ッエー」

 

2人が術式を発動する。先程までの雑談は何処へやら、家入は既に逃げ出し一触即発の空気になっていた。

 

「外で話そうか、悟」

「寂しんぼか? 1人で行けよ」

 

 

 

……俺がションベン行ったらなんか喧嘩してたんだけど、何してんのコイツら。あ、硝子ちゃん逃げた。まぁ取り敢えず止めるか。こんな所で戦闘されたらたまったもんじゃないからな。

 

「喧嘩の理由は知らねえけどまあ落ち着けよ。血圧上がんぞ」

「るせぇ雑魚は下がってろ」

「これは瓊弌には分からないことだ。邪魔だから退いていてくれるかい」

 

俺は2人の間に挟まるようにして説得を試みるが、失敗。こっちが親切心利かせてやったらこれだよ。全く、この強情共はこれだから。良いさ、お前らがその気なら俺にも手はあるもんね。

俺は徐に携帯を取り出し、ボタンを押す。

 

「あ、夜蛾先生? お疲れ様でーす。あのですね、五条と夏油さんがなんか校舎内で戦闘しようとしてんですけど。場所? 体育館です」

「あ、コイツ夜蛾センにチクりやがった!」

「流石に良くないと思うなそれは!」

「へっ、ざまあみろブァーカ!!」

 

人の親切心踏み躙るからそうなるんだよ。ちょっとは怒られろってんだ。

ほら、夜蛾先生が来たぞ。

 

「お前たち、学内での戦闘はするなと言った筈だぞ! 硝子はどうした!」

「さあ?」

「便所でしょ」

「コイツらが喧嘩してたんで逃げました」

「「テメェ!」」

「お前たち、こっちへ来い!」

 

物理的指導(2回目)。

 

 

 

「この任務は、オマエ達2人に行ってもらう」

 

いつかは来ると思っていた。けれど実際にこの言葉が夜蛾先生から発された時、俺の身体には鳥肌が立った。

 

(———あの時の、夢)

 

夜蛾先生はたん瘤を作った夏油と五条に1つの任務を与えた。それは星漿体である少女の護衛と抹消。なんでも、500年に一度の一大行事らしい。不死ではあるが不老ではない天元様?って奴と同化して、肉体の情報を書き換えることで天元様の‘‘進化’’を防ぐ。そして天元様と同化した星漿体は、高専を覆う結界の基礎になるのだそうだ。そんな重要極まりない存在の居場所がバレてしまったから、五条と夏油が呼び出されたのか。

 

(少女ってのは、夏油の前で泣きじゃくっていた……)

 

笑って手を差し出して死んだ、あの少女なのか。嫌な想像を振り払うために、自然な形で、努めて普段通りに彼らの会話に混ざる。

 

「せんせーい、しつもーん」

「どうした、瓊弌」

「そもそも居場所が漏れたってのがよく分かんないんですけど、それ呪詛師からめっちゃ狙われません?」

 

だって星漿体さえ殺しちゃえば天元様が‘‘進化’’して呪術師側にとんでもない不利益が発生するんだろう。

 

「その通り。故にこそ、悟と傑、お前たち2人への任務だ。天元様直々のご指名でな」

「げェ、めんどくせ。それっていつから?」

「……今からだ」

「はあ?」

 

(今から行くのか、また随分と性急だ)

 

「もうちょい準備する時間とかないんです?」

「ないな。任務はもう始まっている。二人は星漿体、天内理子の居住地へ向かえ。既に呪詛師が潜伏している可能性がある、注意しろ」

「そんな急に言われても困りますよ」

「仕方がないだろう。俺もついさっき聞いたばかりだ。しかし、星漿体である天内理子が死亡すれば呪術界にどれだけの影響があるか分からん。急げ」

「チッ、しゃあねえな。傑、天元様に後で飯奢らせようぜ」

「良いね、何にしようか」

 

流石は五条と夏油と言った所か。驚きはすれど、任務の脅威になる可能性のある輩の情報を聞いた2人は、愚痴を垂れながら直ぐに任務地へと赴いていった。

 

 

五条と夏油が体育館を出ると、硝子ちゃんはまだ戻って来ないため俺は夜蛾先生と2人きりになった。そこで俺は質問を投げかける。

 

「実際の所、どうなんです?」

「どう、とは」

「いくらアイツらでも限界はあるでしょう。その限界を超える事態になり得るかどうかです」

「今の所は差し支えないと考えている。並大抵の呪詛師なら問題なく対処できるだろう」

「……並大抵の呪詛師、ですか」

 

俺が思い浮かべるのは、未だ脳裏にこびり付いて離れないあの男。天与呪縛によるフィジカルギフテッドを得た呪詛師。

 

数年前、禪院家には術式を持たないどころか呪力が全くない人間がいた。ある日、その男は禪院家に保管されている大量の呪具と共に行方不明になった。禪院家の人間に殺されたか、はたまた生き延びて今も尚どこかに潜んでいるか。その後どこで何をしているか一切の痕跡は無いので、判断することはできない。

ってのは五条に御三家特権で調べて貰って得た情報。

 

五条が言っていたその呪詛師の名は確か、禪院(ぜんいん)甚爾(とうじ)

 

仮に俺が出会(でくわ)した呪詛師が禪院甚爾その人で、そいつが出張ってくるとしたら、多分とんでもなく厄介なことになるだろう。そんな想像したくもないが、数ヶ月前に見た夢に奴はいた。ならばやはり、と俺は身震いする。

そして、もし夢の通りであるのなら。五条と夏油は禪院甚爾に敗北し、星漿体は死亡という最悪の形で任務を終えることになる。

 

(このことを2人に伝えるか? いや、夢で見たなんて戯言信じてもらえるわけがない。しかも、お前ら2人は任務に失敗して星漿体を死なせてしまう、なんてことを)

 

1年の時よりかはマシかもしれないが、現状の俺では、まだ着いて行っても足手纏いにしかならない。だから、今は俺のできることを全力でやろう。それが、お互いの最善に繋がることを信じて。

 

「……気ィ抜くなよ、五条、夏油」

「何か言ったか、瓊弌」

「いえなんでも。それより硝子ちゃん探しに行きましょ」

 

俺のそんな独り言は誰に聞かれることもなく、青い空へと消えていった。

 

 

 

 

「狙うは星漿体。それさえ仕留めてしまえば天元様の暴走は容易い」

 

「「「「「純然為る星漿体こそを崇めよ」」」」」

 

「これで3000万? 流石に優良案件にも程がある」

 

「さて、呪術師連中はどう出るかな」

 

『Q』が、『時の器の会』が、呪詛師達が、動き出す。

 

 

 

「……チッ、また外した」

 

そしてまた、持たざる者も、動き出す。




あの夢をなぞって  YOASOBI(2020)

お気に入り100件、誠にありがとうございます。少しでも皆様を楽しませられるよう、これからも精一杯頑張ります。

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