『さしすけ』ってなんだよ   作:Ex falso quodlibet

12 / 23

しゃぶしゃぶが美味しかったので初投稿です。


#11 アウトサイダー

「あ? 呪詛師に気をつけろ?」

 

いきなりかかってきた電話の相手は瓊弌だった。態々連絡を寄越したこと自体は殊勝で良い。だが。

 

「気をつけるも何も、もう戦闘中だっつの。ガキ抱えながらな」

「誰がガキじゃ!」

「つーわけで、一回切るわ。またなんかあったら連絡しろ」

 

まだ瓊弌は何か言いたそうにしてたが、一度電話を切る。その内かけてくんだろ。そんで小脇で騒いでるガキ——星漿体、天内理子——は無視して、呪詛師を見据える。目の前には紙袋を被った男が2、3、4……5人か。

と、ここでまた電話がかかってくる。

 

(んだよ藪から棒にうるせえな。……なんだ、傑か)

 

《悟、理子ちゃんの首に3000万の懸賞金がかけられた》

「はあ? んだそりゃ」

《ああ。呪詛師御用達の闇サイトで期限付き、明後日の午前11時までだそうだ》

「成程ね」

 

道理で特別なパイプもない呪詛師連中が襲ってくるわけだ。ガキ守りながらってのが只管に面倒だな。まあそういう任務だし、割り切るしかねえが。

 

「ったく、呪術師は年中人手不足だってのに。転職するなら歓迎するよオッサン」

「いやぁ、職安も楽じゃねえだろ。そのガキ譲ってくれればそれでいい」

「増えた!5人じゃ!」

「どこが良いんだよ、こんなガキ」

 

別にゆっくりする理由も特にねえし、ちゃちゃっと片付けるか。術式順転・蒼っと。俺が蒼を、つまり吸い込む術式を発動すれば、俺は攻撃してくる男———面倒だから紙袋A〜Eとしよう———紙袋Aと紙袋Bが俺の頭上でぶつかった後に溶けた。

間髪入れずに紙袋Cと紙袋Dが殴りかかってくるが、いずれも無下限で止める。

 

「んだコレ!」

「無限」

「あ゛ぁ?!」

「俺の術式はさ、俺に近づくほど遅くなんの。

アキレスと亀って知ってる? その話が1番楽なんだけど、まあ知らなくても無理ないか。取り敢えず、お前の攻撃は俺には当たらない。あ、さっき使ったのは術式の順転ね」

 

殴りかかる体勢のまま止まったDとEの顔面を捉えれば、その2体はあっさりと消えた。コイツら、分身体の耐久力は大したことない感じか。

 

「本体含めMAX5体の分身術式か。しかも本体を好きに設定できる、と。良い術式持ってんじゃん。それで弱い理由がマジで分からん」

 

(破壊されたら暫くは分身は出せない、と。まあ、んなポンポン出されちゃ対応もクソもなくなるからな、丁度いい)

 

「俺の術式を知ってんのか」

「いや、視ただけだよ。俺の眼は特別製でね、全部視えんの。だからお前の術式もお見通しってワケ」

「フン。術式が分かっても、俺がどう動くかまでは分かんねえだろ」

 

分かんねえわけねえだろ、六眼舐めんな。本体がどれか見分けるなんて七海にスマブラで勝つくらい簡単だわ。

 

「笑わせんなよオッサン。動きも何も、お前もう本体しか残ってねえじゃん」

 

術式の開示もした。あとはアレが決まるかだけど、モノは試しだな。

 

「今さっきのは無限の収束ね。じゃあ収束があるなら発散もあるわけで。これが無限の発散」

 

紙袋野郎の本体に人差し指と中指を向ける。使うのは術式反転。負の力である呪力同士を掛け合わせて、正の呪力を生成すること、これが反転術式。その反転術式によって生まれた正の呪力を自らの生得術式を流し込むことで発生するのが術式反転だ。

 

順転が吸い込む反応なら、反転は?

当然、吹っ飛ばすよな。

 

「術式反転———赫!」

「ッ!…………?」

 

結果は何も起きない。

あー、つまり、

 

「失敗!」

 

アッパーカットでKO。

 

 

紙袋野郎が倒れたのとほぼ同時に、再度瓊弌から電話がかかってくる。全く、今日は電話が多いな。

 

「どした」

《さっきの話の続きなんだが》

「呪詛師の話か? そこらへんの呪詛師なんざ俺の敵じゃねえよ。傑もいるし、まず負けねえ。心配するだけ時間の無駄だからやめとけ」

《そうじゃねえから心配してんだよ。前話した禪院家の呪詛師、いるだろ》

「……あーいたな、そんな奴」

 

俺は瓊弌との会話の中に出てきた呪詛師を思い出す。確か、去年のこの時期だったか。2級術師とそれについていった瓊弌が任務中に呪詛師に襲われる事件があったのは。2級術師は即死。瓊弌もほんの少し位置がズレてたら心臓を一突きだったってのは硝子の言。それ以降の目撃情報は掴めてないが、死んだってことはないはずだ。そいつが出てくるってことか?

 

「にしても急だな。夢にでも出てきたか?」

《…………》

「瓊弌? どうした」

《今から話すことは、とんでもなく滑稽かもしれない。……信じてくれるか》

「そりゃ内容次第だな。何があった」

《俺は少し前に、見たんだ》

 

 

 

「テキトーに言ったつもりだったが、マジで夢見てたのか。それも、お前の話聞く限り随分な夢だ。予知夢か?」

《こんなん信じてもらえると思えないだろ。だから黙ってようと思ったんだ》

「でも、お前は今話した」

《そうだな。信じてもらえない怖さよりも、黙ってたせいでお前たちに何か良くないことが起きちまう怖さが勝ったのかもな》

「良くないこと、ねぇ」

 

(瓊弌が直接口には出さなかったってことは、よっぽどのことなのか)

 

《兎に角、明日の24時までっつったか? 五条にとっては辛いかもしれんが術式は高専に入っても———》

「おい!」

「瓊弌」

「ん?」

「俺はどうなった」

「……!」

 

このあたりは聞いておきたい。コイツの予知夢じみたものの中で、俺は一体どうなったのか。それによって、これからの数日の動きが変わってくると思う。

 

「……五条は———」

「おい、おい!」

「っせえな! 今会話中だっての!」

「黒井が……黒井が!」

「!」

 

天内は、俺と瓊弌の会話を遮ってまで自らの携帯を見せる。イラつきながら天内の携帯を見ると、その携帯に写っていたのは猿轡と手枷足枷をつけられた黒井美里だった。

 

(チッ、何から何までめんどくせ)

 

「わりぃ瓊弌。護衛対象の1人が拉致られた。今から救けに向かうから切るぞ」

《あっおい、五条》

「大丈夫だよ。さっきも言ったが今回は俺だけじゃなくて傑もいる。硝子とお前がいりゃ尚更万全だったけど、そりゃまあしょうがねえ。俺達2人で十分すぎるくらいなんだし、安心して待っとけ」

《…………わかった。絶対油断すんなよ》

「おう」

 

そうお互い言葉を交わして電話を切った。無理矢理だったとは思うが良い妥協点だろ。聞きたいこともあったが、取り敢えず人質を救出してからだな。

 

「おい天内。メールに書いてある内容教えろ。一旦傑と合流するぞ」

 

 

 

 

《……んで、救助に行ったんだよな、アイツらは》

「ええ、その筈です」

《だったらなんで沖縄にいるんだアイツらはァ!》

「そんなの私が知りたいですよ」

 

つい反射的にため息を吐いてしまう。高専に入学してからまだ半年足らずだと言うのに、何度ため息を吐いたかわからない。

 

《お前らもだぞ建人ォ! 俺も沖縄行きたかったんだけど!!》

「貴方は今日任務があるじゃないですか。明日も」

《めんどくせ〜……。夜蛾先生に押し付けたりとか出来ないかな》

「逆に出来ると思ってるんですか?」

《だよなぁ……》

 

なぜこんなことになっているのか、疑問は尽きない。隣にいる私の同期が何故ここまで元気でいられるのかも。そんなことを思っていると、電話口の相手が大きなため息を吐くのが聞こえた。彼も中々苦労人なのだなと同情する。

 

電話の相手は誰か、ですか? 2年生、つまり一つ上の祚咫瓊弌さんです。

術師としては中の下と言った所だろうが、私個人としては彼の人格を高く評価している。彼の同期があの方々(五条さんと夏油さんと家入さん)なので、相対的評価にはなってはしまうが。同時に、術師の腕が中の下という評価も同期が原因の一つだと考えられる。彼の世代は所謂黄金世代。眉唾物でしかない特級術師になり得る人間が2人もいるのだから、祚咫さんも大変だと思考する。

 

《ハァーーー…………。なんかすまねえな建人。あとで俺から言っとくわ》

「是非お願いします」

 

直ぐに謝れる所も私的に高評価だ。彼らは自らの謝罪を安売りしないので。

 

《おう、任せな。んで、隣に雄はいるか?》

「はい!! います!!!」

《良い返事だ雄。けど耳がイカれるからもうちょいトーン落とせ》

「はい!!! 分かりました!!!!」

《上げてどうすんだ馬鹿!!》

「すみません!!!!!」

《うるっせえ耳が壊れるっつってんだろが!!!》

 

隣で会話を聞いていた灰原が待ってましたと言わんばかりに祚咫さんと会話を始めた。それ私の携帯ですからね、壊さないで下さいよ。

 

「灰原、周りの方が驚いているだろう」

「あ、ごめん七海。すみません皆さん!」

 

私が注意すると声を小さくして周囲に向けて謝罪した。なぜ祚咫さんの注意では声が大きくなるのかは未だに謎だ。彼も声が大きいからシナジー効果でも起きているのか?

 

《元気そうで何よりだよ。ウチのバカが迷惑かけてすまんな》

「とんでもないです! 身を粉にして働いている先輩方の為ですから!」

《それあとで本人達の前で言ってやんな、多分咽び泣くから。最後に、毎回言ってるが物事の優先順位を決めておけよ。その場その場で何をすべきか、どう動くべきかを常に脳内でシミュレーションしておくこと。あと命大事に! んじゃ、頑張れよ》

「はい! ありがとうございます!!」

 

こういう事をストレートに言えることも素晴らしいと思う。やはり、祚咫さんが一番尊敬出来る。信頼できるのは五条さんと夏油さんではあるのだが。と、灰原が私に携帯を返す。どうやらまだ祚咫さんから話があるらしい。

 

《すまん建人、俺と硝子ちゃんにお土産買ってきて! ちんすこう、よろしくぅ!》

 

それだけ言って、祚咫さんは電話を切ってしまった。……前言撤回。2年生の中ではマシな方というだけだ。

 

 

 

夜、寮の自室で一人外の景色を眺めながら思案する。

 

(これで良いはずだ。五条には釘は刺したし、建人と雄にも協力は要請できた。やれることはやった、と思う。あとはこっちに戻ってきてからのアイツら次第だ)

 

結局五条たちは滞在を延ばすことにしたらしい。なんでも星漿体本人がぐずったそうだ。建人からの折り返しの電話で教えてもらったが、ずっとキレてて面白かったな。

 

(闇サイトに載ってた星漿体の懸賞金は明日の11時で取り下げられる。その後に高専内の結界に入っちまえばその時点でこっちの勝ちみたいなもんだ。だから、特に問題はない、筈だ)

 

良いのか? 本当に?

五条と夏油が任務に赴いてから、言い知れぬ違和感が俺に取り憑いて離れない。何か見落としてはいないか? あらゆる可能性を模索したか?

 

これから現れるであろう呪詛師。五条と夏油の敗北。星漿体の死。

 

あの夢の通りにしないためには、あと何が足りない?

 

「……待て。懸賞金は、本当に11時で取り下げられるのか?」

 

星漿体が天元様と同化する時刻は満月の日。つまり、取り下げられてから半日程の猶予がある。星漿体を殺すチャンスは、五条たちが結界に入るまでの筈だ。なら、何故態々昼間にゴールが設定されている? 逆に時刻を設定しなくとも、五条たちが即高専に入ってしまえばそれで手出しできなくなる。……向こう側(呪詛師共)の意図が読めねえな。

 

それに、五条からは禪院甚爾の話はまだ出てきていない。夢の中で出てきた奴は、間違いなく高専にいた。なんで禪院甚爾は高専内にいた? 高専には強力な結界が張られているんだろう。同化前だから結界が緩んでんのか?

 

「…………だー、疑問が芋蔓式に増えていきやがる。一回五条に相談するか?」

 

俺は俺で明日任務が入っている。俺は恐らくアイツらの任務に直接関わることはできない。今のうちにやれることがまだあるなら、全部やっておこう。

早く何事もないまま満月になってくれと思いながら、俺は明日の任務情報を頭に叩き込んだ。




アウトサイダー  Eve(2018)

0編は要りますか?

  • いる
  • いらない
  • どっちでも
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。