『さしすけ』ってなんだよ   作:Ex falso quodlibet

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学校のWi-Fiが弱いので初投稿です。


#12 オンリーワンダー

その日は特に胸騒ぎが酷かった。朝起きてからずっとそれが止むことはない。任務を終えると、胸騒ぎはより酷くなった。どこかで取り返しのつかないミスをしてしまったような感覚が俺を襲っている。何も起こらないでいてくれと願いながら、俺は急いで高専に戻った。

 

 

 

未登録の呪力を知らせる高専のアラートがけたたましく鳴り響いている。高専の敷地に入ってすぐに祚咫が目にしたのは、景色一面を覆い尽くすような蠅頭と、半壊した建物。

そして微かに感じる、夏油と五条の残穢。

 

「何が、どうなってやがる……?!」

 

目の前の情報から、おそらく2人は誰かと戦闘をしていたと祚咫は判断する。

 

(奥に見える建物とそこに通じる道は半壊しているが、逆に言えばそこだけしか壊れてない。誰かが戦ってるような音も聞こえねえ。つまり戦闘は既に終わったのか?———いや、まさか)

 

妙な汗が祚咫の額に浮かぶ。

とにかく、現状を把握しなければ。そう考えて、うじゃうじゃと湧く蠅頭を祓いながら壊された建物の爆心地に向かう。歩を進めるごとに、彼の心拍数が上がるのを感じていた。

 

100メートルもない距離を行くのに、どれだけかかったろう。一瞬で辿り着いた気もするし、1時間以上かかった気もする。ともあれ、到着した爆心地には大きなクレーターができていた。五条の蒼によるものだろう。

 

その中心部にいたのは、間違いなく五条だった。祚咫はほっと一息をついて、それから五条の異変に気づいた。それすらも、もう手遅れではあるが。

 

「よかった。おい五条、今の状況、を……」

 

五条は、全く以ていつも通りだった。五条悟が、『最強』が、血溜まりに沈んでいることを除けば。

 

 

 

「は」

 

———クソ。クソクソクソ、クソ!!!

結局、あの時見た夢の通りじゃねえか!

 

———五条が、やられた!

 

「ご、じょう」

 

五条の肩を揺さぶるが、それは届かない。

 

「———おい、五条! 五条!!

何があったんだ、説明しろ! おい!!」

 

在らん限りの大声を張り上げる。しかし、それも届くことはない。彼に触った時点で、俺はなんとなく分かっていた。五条は既に事切れている。俺はその事実から目を背けたいだけだ。

 

(何があった? 五条がそう簡単に殺される筈がねぇ!! いや違う、今はそこじゃない! 任務はどうなった。星漿体はどこにいる?!)

 

滝のように情報が脳に流れる。そこまで考えて、夢の内容を思い出した。もしも、これが本当に夢の通りであるのなら。

 

「もしかして、禪院甚爾か……?」

 

だとすれば、まずい。

夏油がこの場にいないことを考慮すれば、禪院甚爾から星漿体の保護に回っていると考えるのが妥当だろう。五条の血がまだ温かいことから、禪院甚爾が五条を殺したのはついさっき。だがアイツのスペック的に、星漿体に辿り着くまでそう時間はかからないと思って良い。

夏油が星漿体を守りながら禪院甚爾とマトモに戦えるか? 多分無理だ。じゃあどうする?

今の俺に、できることはなんだ?

 

悩んで、悩んで、悩み尽くしたとも思えた時、ふと、夜蛾先生と五条の会話が頭に浮かんだ。

 

「呪術師の優先事項は民間人の救助と呪霊の討伐、そして何より任務の遂行だ。仲間の死を悼むことではない。つまりどういうことか分かるか、悟」

「仲間が死んだとしても、それ気にしてる暇があったらパンピー助けて呪霊祓えってことだろ。ま、同僚の1人や2人死んだくらいで狼狽える奴が呪術師務まるとは思えねぇしな」

 

……そうだ。昨日雄にも言ったろうが。優先事項を考えろ。

現状の最優先事項は任務の遂行。そんで五条の任務は星漿体の保護とその抹消。その五条が死んだ今、代わりに出来るのは。

 

「……俺しか、いねえじゃねえか」

 

 

そう息を巻いたは良いものの、夏油達に追いつくのは簡単なことではない。星漿体は天元様と同化するために、天元様の(おわ)薨星宮(こうせいぐう)に向かう手筈だ。なら俺も薨星宮に向かう必要があるわけだが、セキュリティの問題上、日々配置を変える1000の扉の中から昇降機に繋がる扉を見つけなきゃならない。

 

(早くも手詰まりか、畜生。夏油の残穢を追うか? いや、んなことしてる時間はねぇしそもそもあの夏油が残穢を碌に残すとは思えねぇ……)

 

どうする。どうするどうするどうする!!

 

「ッ?! ぐ、あっ」

 

その時、猛烈な頭痛が俺を襲った。僅かながらはち切れそうな痛みに、俺は頭を抱える。一時的なもので良かったと安心して顔を上げると、俺の視界には、遠くに一際濃い呪力を纏った扉が見えた。

 

「……んだ、これ」

 

あの扉はもしかして薨星宮に繋がるものか? でも俺にこんな六眼めいた能力はない筈だ。ならこれは一体なんだ?

 

「———まあ、良い。使えるもんは使うだけだ!」

 

今はそんなことを気に掛けている余裕はない。仮にあそこが薨星宮なら、そこに繋がる扉までは多分1分もかからない。横たわる五条を一瞥する。

 

(ごめん、五条。何も出来なくてごめん)

 

せめてこれくらいは、と見開かれたままの五条の瞳に瞼を被せてやる。五条が少しだけ安らかに見えたことを確認すると、俺は全身に呪力を巡らせて術式を使い、駆け出した。

 

「振作呪法『肉叢(ししむら)(かい)』!」

 

さて、追いかけっこの時間だ。頼むから間に合ってくれよ。

 

 

 

「やっぱり、もっとみんなと、一緒にいたい」

「…………」

「もっと皆と、もっと……!」

 

目の前の少女は、ただの一般人ではない。呪術界を守るための結界を生成している天元様、その適合者。この少女の要望を飲めば、呪術界がどうなるかも分からないし、最悪天元様と戦うことになるかもしれない。だから、天内理子の望みなど吐き捨てて、淡々と任務を行えばいいだけだ。

 

けれど、それは違うと私の本能が叫んでいた。1人の少女にそこまでの重圧を乗せる必要など、どこにもないのだ。悟とも既に話した。私たちは最強だから大丈夫だろうと言っていた。もしも天元様と戦うことになったら、瓊弌と硝子には申し訳ないが手伝って貰おう。

 

「帰ろう、理子ちゃん」

 

私はそう言って手を差し出す。

星漿体、天内理子は驚いたような顔をしたが、直ぐに涙を拭って、微笑んで。

 

「……うん!」

 

そして、薨星宮内の建物が崩れ落ちた。

 

 

「……!? 何が起きた……?」

「傑さん!」

 

声がした方向に顔を向ける。私たちが通ってきた通路にいたのは瓊弌だった。肩で息をしていて、相当に焦っていたことが伺える。

 

「瓊弌? 何故ここにいる!」

「話は後だ、まずは星漿体の保護を!」

 

瓊弌に促されるようにして、私は天内理子を守るように呪霊を展開する。

 

「……よし、ひとまずなんとかなったな。傑さん、アンタはここから星漿体を連れて逃げるんだ」

「何を言っているんだ? 呪詛師は悟が止めてくれているんじゃないのか?」

「……そうだったら、俺はここにいねえよ」

「なっ——。……?!」

 

(ッ、数匹祓われた!)

 

原因はすぐに分かった。先程私達を襲った呪詛師が、崩れた建物の上に立っていたのだ。

 

「チッ、邪魔が入ったか」

「拳銃なんかで殺そうとするからだよバァカ。詰めが甘ぇってこった」

「瓊弌、何故奴がここにいる?! 悟はどうした!」

「……それ、は」

「あー、なんだそういうことか」

 

瓊弌の言葉を遮るように、目の前の呪詛師が口を開く。その言葉に、自分でも驚くほど憤怒したのを覚えている。

 

「五条悟は、俺が殺した」

「———」

 

「そうか、死ね」

 

血液が沸騰するような怒りを抑えきれず、虹龍と口裂け女、それに4級の呪霊をいくつか召喚して呪詛師へとぶつける。

奴が虹龍に喰われたのを確認して追撃を仕掛けようとするが、そこで瓊弌に止められてしまった。

 

「待て、傑さん!」

「放せ瓊弌。奴は私が殺す」

「五条のことは分かるが落ち着け! その状態じゃアイツの思う壺だ!」

「悟を置いておけだと? 君は悟を仲間だと思っていないのか?!」

「思ってねぇ訳ねぇだろ! 今はそんなことより大事なことがあんだろが!」

「奴を殺す以外に、一体何が———」

 

瓊弌に胸倉を掴まれる。瓊弌には、怒りというよりも焦燥と動揺が見受けられた。瓊弌が私に対してここまでになるのは珍しいことだった。

 

「いいか、目的を間違えるなって言ってんだ! 今のアンタの任務はなんだ? 五条の仇を取ることか?!」

「ッ……!」

「違うだろ! 傑さん、アンタがここにいる理由を思い出せ!!」

 

瓊弌の言葉にはっとする。漸く自らの状況を俯瞰して見ることができた。そして私がしようとしていたことが、どれだけ愚かであるかも、同時に理解できた。

瓊弌だって、普通の状態の筈がない。あの悟がやられたのだ。苛立ちも、不安もあるだろう。けれど、それを押し殺して、瓊弌はここまで来たんだ。ならば、私が自らの感情に流されるなんてことは、あってはならない。

 

「私は……星漿体を保護するために、ここにいる」

「そうだな。やっと理解してくれたようで嬉しいよ。だったら、そこで泣きじゃくってるガキ連れて逃げろ」

「いや、待て。瓊弌はどうするつもりだ」

 

まさか奴と戦うつもりではないだろうな。奴と瓊弌の言葉を信じるのであれば、奴は悟を殺している。悟を殺せる人間に、瓊弌が太刀打ちできるとは思えない。

 

「どうするって、時間稼ぎかな」

「あの男からか?悟がやられる程だぞ、君じゃ10秒も持たない!」

「そりゃ俺のことバカにしすぎだっつの」

 

10秒は持ったとしても直ぐにやられるのは目に見えているだろうに。何故そんなことをする?

 

「適材適所ってやつだよ」

「っ、なにを」

「俺じゃあ、星漿体を護れない。五条も死んだ以上、誰かを護りながら戦えるくらい強いやつは、アンタしかいないんだよ。……けど、禪院甚爾の相手くらいなら俺にもできる」

「できるできないの話じゃあないんだ! 仮にできたとしても、そんなことをしたら君は———」

 

その時、呪霊の消失反応が確認された。それは私だけではなく瓊弌も理解していたようで、苦い顔をしている。

 

「!」

 

(なっ、虹龍が祓われた……!? 手持ちの呪霊の中で最高硬度だぞ! 奴は、どこに——!)

 

 

私が奴を認識した時には、男は既に天内理子の眼前に迫っていた。右手には拳銃を携えており、既に引鉄に指を掛けていた。

 

これは、間に合わない。呪霊を出そうが、身体を呪力で強化して走り出そうが、無意味だ。確実に殺される。

 

(っ、理子ちゃん……!!)

 

 

 

「ッぐぅっ……!!」

「! マジか」

「ど、きやがれェ!」

 

夢で見たように星漿体が殺されることはなかった。夏油のすぐそば、つまり俺がさっきまでいた場所に星漿体はいたからだ。

 

(あっぶねえ、間に合った。覚えといて良かったな、入れ換え技)

 

俺は苦し紛れに裏拳を放つが、当然避けられる。が、禪院甚爾は俺たちから距離を取った。

よし、これで良い。

 

「瓊弌!!」

「大丈夫だよ。銃弾一発くらい、撃たれた所を呪力でカバーすりゃなんとでもなる。セーターに安ピン通したようなもんさ」

 

夏油を安心させるために言ったのだが、当の夏油は酷い表情をしている。なんかあったか?

 

「……私も一緒に」

「アンタが星漿体殺してぇっつうなら止めねえが、どうする」

「ッ……。……クソ……!」

 

相当悩んでいるようだが、やっと分かってくれたみたいだな、良かった。

 

「星漿体を安全な所まで連れて行く! それまで耐えてくれ!」

「おう、任せな」

「必ず戻ってくる! だから、決して死ぬな!」

「……行け!!」

 

夏油と星漿体は元来た通路に向かって走り出す。が、禪院甚爾がそれを放っておくはずもない。勿論、禪院甚爾をフリーにする俺でもねえがな。

 

「このまま行かせると思ってんのか?」

「寧ろアイツらを殺れると思ってんのか? 俺がいる以上無理な話だ」

 

俺の呪具と禪院甚爾の呪具がぶつかり合い、火花が散る。このゴリラには身体能力じゃ絶対に勝てないので、相手の呪具を弾いて距離を取る。

 

「ハッ、自信のあるガキは嫌いじゃねえぜ。が、その傷そこそこ深ェだろ。直に失血死すんぞ」

「敵の心配してる場合か? 辞世の句を読む準備でもしとけや!」

 

悔しいが、禪院甚爾の言う通りだ。思ってたより良くない位置に中っちまった。出血もそうだが、多分このままだと内臓のどっかがやられちまう。ぶっちゃけまともに会話するだけでもクソ痛え。が、かと言ってこのまま棒立ちする訳にも行かないもんな。

 

この薨星宮で星漿体は死んでいない。この時点で俺はあの忌々しい夢から解放されたってわけだ。なら、ここからは夢の内容は意味を為さなくなる。

 

(気合い入れろよ、俺)

 

「この先の未来は、俺次第ってことか。……おもしれぇ、やってやるよ」

 

 

 

———高専内某所にて。

どくんと、心臓が、跳ねた。




オンリーワンダー  フレデリック(2016)

ストックが完全に尽きてしまいました。なるべく早く執筆致しますので、大変申し訳ありませんが少々お待ちいただけますと幸いです。

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