『さしすけ』ってなんだよ   作:Ex falso quodlibet

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2ヶ月も経ってしまって本当に申し訳ないので初投稿です。


#20 生業

「……う、ん……」

 

ゴソゴソと何かが蠢く音で、俺は目を開いた。

 

「……おい、何やってんだ」

 

ぼんやりとした視界の中で見えたのは、2つの影。俺が言葉を投げれば、その影は脱兎の如く退がった。どうやら鼠やらが蠢いていたのではなく、少女たちが俺のポケットを漁っていた音だったらしい。

 

「てかここは……あー、そうか。君たちと同じ所に入れられたのか」

 

よく見れば血の跡が俺の目の前まで続いている。村民が俺が倒れた所から座敷牢の中まで引き摺ったのだろう。

 

「何はともあれ、まずはここから出ねえと———」

 

が、体は動かない。良く見れば腕は鉄の鎖で頭上に縛られ、足には大きな重石がつけられていた。しかも———

 

(痛ってぇ……ぐえぇ、頭がずっとぐわんぐわん揺れてやがる。そのせいだろうか、上手く呪力が練れない)

 

普段ならこの程度の拘束なんともないんだが、呪力をほとんど使い切った状態でかつこれだけ血を流した状態では、練れるモノも練れない。

 

(呪力を練れるようになるまで……クソ、半日はかかるか)

 

「はっ、これじゃまるで囚人だな。……にしても」

 

随分と、痛々しい姿だ。目の前の少女2人を見てそう考えた。身体の様々な所に出来た傷は明らかに他者につけられたもの。まあつまり、この村の人間がここに幽閉して虐待していたんだろう。親は逃げたか、殺されたか。呪いが見えたせいでここら一帯に発生していた呪いの元凶だと思われたんだな。んで、俺もその仲間って見做されたわけだ。

 

(ひでェな、こりゃ)

 

腕は細く、力を少し入れるだけで折れてしまいそうだ。余程栄養が足りていないんだろう。あ、そうだ。確か試作品だけどアレがあったはず……。

 

「ねぇ2人共。ちょっとお願いがあるんだけど、俺の服の内ポケット探してみてくんない?」

 

突然話しかけられたことに驚いたのだろうか。びくりと身体を僅かに跳ねさせると、2人は出来るだけ距離を取ってしまった。警戒心は非常に強いようで、微塵もこちらに近づこうとしない。

 

「君たちに悪いことはしないよ。誓って言える」

「……信用、出来ない」

 

お、喋ってくれた。黒髪の人形を持っている方の女の子だ。信用ね、まあそれもそうか。この子たちにとって大人って言うのは自分を虐げる存在だもんな。

 

「君たちの気持ちは分かる。けどこれは感情論でどうこうできる話じゃない。縛りって言ってね、とんでもなく厳しい約束みたいなもんだ。その約束を破ってしまえば、不幸が降りかかるのは君らではなく俺の方」

 

だからと言って、俺を信じろとは言い切れないんだけども。

 

「「…………」」

 

沈黙の後、二人が顔を見合わせて頷くと、こちらに近寄ってきた。

 

「……ありがとう」

 

2人は無言で服の内側を漁る。俺が今着ている服には内ポケットは一つしかないから、その場所さえ分かればあとは簡単だった。彼女らが弄り終わると、手に持っていたのは飴玉が入った小さな袋だった。

 

「……これ、飴?」

「お、飴は知ってんのな。まあ食べてみ。……言ったろ、2人に不利益は生じないって」

 

俺と飴の袋を何度も交互に見てから2人で見合わせると、訝しみながらも飴玉を口に運んだ。

2人が飴を舐め始めると、立ち所に彼女達についていた傷がなくなって行く。

 

「……!」

「お、上手く行ったみたいだな。良かった」

 

負のエネルギーである呪力を物質に流し込むことが出来るのなら、反転術式で生まれた正のエネルギーもまた同様のことができるはずだ。そう考えて硝子ちゃんと色々試行錯誤して出来たのが、これ。正のエネルギーが篭った飴。自分達ではやってたけど、一般人に対して行使するのはほぼ初めてのことだった。だからぶっちゃけ上手く行くかは半々だったが……そこは結果オーライってやつだろ。

 

「……なんで、こんなことするの」

「あん? 別に、大した理由じゃないさ」

「……私たち、バケモノが見えるよ」

 

2人はまだ訝しげにしていた。こちらを信用していないからではなく、単純な疑問からだろう。

 

「? だからなんだ。見えようが見えまいが困ってる人には変わりないでしょ。俺はそういう人は助けるって決めてんの」

「……!」

「てかそれ俺も見えるし。なんかアレだろ? 超キモいやつだろ?」

「なんで、それ」

 

なんでって、そのバケモノを祓うのが、俺の仕事だからさ。そう言おうとした所で、小屋の扉が開いた。既に外は明るいようで、開かれた扉から眩い陽射しが差し込んでくる。逆光でよく見えないが、数人がこの小屋に入ってきたようだ。彼らが座敷牢の前まで来たのを確認すると、俺から口を開いた。

 

「……どうも、勝手に山とか入って詮索しちゃってすみませんでした」

「お前も、その子供と同じか」

「似てはいるかもしれません。ただ、俺には少なくとも貴方がたの困り事に対処する力があります。それにこの子ども2人と同じように、貴方がたに危害を加える気は全くありません」

「では、その子供をなんとかしてくれ」

「それは何故」

「この村で、住民が変死したり神隠しに遭ったりしている! その原因がこの子供だと言っているんだ!」

 

別の村民が割り込んできた。話の途中で無理に入り込む奴は嫌われんぞー。呪いが見えないからってここまで歪むものかね?

 

「それは違いますよ。彼女たちはその原因が『視え』てしまっているだけです。彼女たちとこの村に起きている現象にはなんの関係もない。それに、その原因は既に俺が粗方片づけました」

「嘘をつくな! そのガキが何かしたのは知っているんだ!」

「ちが、それはそっちは勝手に———」

「五月蝿いこの売女め! クソ、こんな事なら早く殺しておくべきだった!」

「っ……!」

 

必死の抗弁も虚しく、大人たちの大声によって遮られる。2人は身を寄せて震えており、そんな彼女達は誰か、或いは何かに助けを求めている。恐怖と憎悪、憤怒と怯臆が入り交じるこの空間で、俺が感じていたのは呆れだった。そしてそんな中で、ぼんやりと思う。

 

(……なぁるほど、これが傑さんが言っていた非術師の醜さってやつか。そういや理子もこんな経験してたって言ってたっけ。ったく、難儀なモンだな、この世界は)

 

呪力はまだ練れねえが、こんな奴ら今すぐ制圧しちまうのは簡単なことだ。けど……非術師を徒に傷つけるわけにはいかないもんなあ。……はぁ、しゃあねえ。

 

「なぁ、おい」

「!!」

「理解できないものに恐怖を覚えるのはまだ分かるが、じゃあそれが理解できないものに蓋をして、逃げて。さらにガキ2人を虐待して良い理由になんのか?」

「し、しかし———」

「良い加減煩えな」

 

手足に繋がった拘束具をガチャガチャと鳴らし、態と大きな声で威圧する。

 

「アンタらがどう思おうが勝手だが、俺がいる限り、この子らには指一本触れられると思うなよ……!」

 

出来るだけキレた顔をしたつもりだ。まあ実際キレてはいたのだが。俺のしたことが功を奏したのか、村の人々はすごすごと小屋を出て行った。

 

「……はぁ、めんどくせ」

「……なんで、守ってくれたの?」

「んー? まあ、助けられるからな」

「え?」

 

未だ震えている2人からの問いに、俺は逡巡する。……話しても大丈夫か、多分。

これからの話は聞き流すくらいで良いよ、という前置きをしてから、俺は話し始めた。

 

「……俺のこの両手に乗せられる命には、限度がある。俺だって助けられるなら全員漏れなく助けたい。けど、それは無理だってことに最近気づいたんだ」

 

人はいずれどこかで死ぬ、俺が何もしなくたって。なら、別に誰かを助ける必要はないのか? 何もしなくても良いのか?

 

「でもさ、救える筈の命を見過ごして、人間はいずれ死ぬんだから関係ないって?」

 

俺は、今は違うんじゃないかって、そう思う。

だって傲慢ってやつだろう、それは。

 

「それに、そんなことしててカッコいい人間になれるかってんだよ。だから、俺はこう考えた。確かに救える人の命には限りがある、ならその限りを全部救えば良い。俺のこの手の届く所にいる奴らは、全員助けるんだ、ってな」

 

ソイツがどれだけ極悪人だろうと、どれだけ救う価値が無かろうとも。

 

「……もしあなたを殺そうとする人がいたら、その人はどうするの?」

「助けるさ」

「どうして」

「俺の手が届くから」

「!」

 

俺の目の前で、もうこれ以上、誰1人死なせねえ。そう俺は誓ったんだ。もういない、俺の親友(幼馴染)に。

 

「「…………」」

「だから君たちも、当然助ける範疇に———」

「……美々子」

「……菜々子」

「え?」

「名前。私たちの、名前」

「……くくっ」

「何笑ってるの」

「いやあ、別に。……ありがとうな」

 

暫し放心した後に嬉しくなった俺は、少女2人、いや美々子と菜々子の頭をわしゃわしゃと頭を撫でた。

 

 

 

さぁて、ここからどうするか。恐らく、と言うかほぼ確定で、『虐待された状態の』美々子と菜々子が夏油にとってのトリガーだろう。だからこの2人をこのまま無事に護り切れば、アイツが暴走することもなくなる……筈だ。

本当なら今すぐにでもこの村を出るのが一番なんだが……また呪霊が湧いていやがる。スポナーでもあんのか? 兎に角、まずは呪霊を祓い切ってからじゃねえと話にならねえ。美々子と菜々子、それにマトモじゃねえ村の奴らを守りながらってのは相当に骨が折れるからな。

だが、放っておけばおくほど呪霊が増えていくこの場所じゃ、じっとしてるだけ時間が無駄だ。出来るだけ祓って、呪霊発生の原因究明と行くか。

 

 

 

「アアァィイ、いぃ?」

「こっ、チ……こ、こここコっちぃイイ」

「るせぇなァ、『閃鴻』!」

 

本当なら俺が爆睡しているであろう真夜中。暗闇の中、展開された仮想領域内で呪霊を斬り伏せる。呪霊の目の前にいちゃ危ねえんで、美々子と菜々子は小屋の中に置いてきた。2人が呪霊に狙われることも考慮して、戦闘する場所は小屋の周囲200メートル内。それに従って仮想領域を展開しているのだが……呪霊が次から次へとわんさか湧いて来やがる。ご丁寧に下手な日本語を発してくれるから感知はしやすいが、兎に角多い。数で言えば俺が祓う前と同じ、いや下手すれば増えている?

 

「クソ、はあっ、もう祓った数は100は超えたぞ!? どうなってんだココは!!」

 

こうなるとどこかに呪物があるか、でなければこの村の住民が意図的に呪霊を発生させているとしか思えねえ。と言うかさっきからなんだ、この違和感は。呪霊の数が多いのはまだ分かるが、ならなんでコイツらはここに集まる?

 

「いぃ良いィ、におオぃいい!」

「あ、てめっ、待ちやがれ!」

 

俺が他の呪霊に手間取っている隙を突かれ、数体の呪霊が小屋へと向かって行く。小屋には美々子と菜々子がいるため、這入らせる訳にはいかない。

 

「その子たちに、手ェ出すんじゃねェよ!!」

 

小屋の扉の前に居座っていた呪霊の頭に刀をブッ刺し、祓う。だが、他の呪霊もこの小屋に接近していたことを失念していた。背後からこっそりと近づいていた呪霊に背中を殴られ、小屋の壁を破って屋内の床に倒れ込む。

 

「ぐっ……」

「おぉおオご、ごハん!」

「……舐めんな!」

 

呪霊は倒れ込んだ俺を見て嬉々として追撃を仕掛ける。それに呼応するようにして直ぐに振り向いた俺は指先に神経を集中させた。そして無下限呪術を発動し、より指向性を持たせた『赫』を放つ。

 

「術式昇華『無下限呪術』———死に腐れやボケがァッ!!」

 

小屋の半分が消し飛んだが、呪霊は祓えたし問題ない。でもこれは……不味いな。呪霊を処理しきれなくなってきたぞ。今は呪霊から距離があるから良いが、これ以上の数が同時に襲って来たら、多分俺は押し負ける。

 

「ハァ、ハァ、ハァッ……。ッ?!」

 

突然異質な呪力を感じ、そちらに目をやると、そこには村の人間が10人ほどいた。そして、その異質な呪力は村民の1人に握られた呪力の籠った指から感じられる。アレは———両面宿儺の指!?…………なるほど、アレが呪霊が大量に発生している元凶か!

 

「おいアンタ! その変な指をコッチに———」

 

そこまで言ったところで俺の視界を埋め尽くしたのは、俺から飛び出た血液だった。出処は俺の右肩、そんで原因はそこに鋭角に刺さった大きな斧。俺は傷口を抑えながらそのまま床に崩れ落ちた。

 

 

 

「……そこまで、俺らが、邪魔かよ……」

「……この指を、そこのガキに飲ませれば、この村での被害は収まるはずだ」

「巫山戯ろ……!! お前たちが大事に抱えているソレはとんでもねえ厄ネタだ、激毒なんだよ!! 人間が食いでもしたら即死するに決まって———まさ、か」

 

祚咫に斧を刺した人間の口角が、歪に上がったような気が、彼にはした。そして祚咫は、この村の人間がどれだけ醜悪かを思い知る。

 

(コイツらは……呪いの発生を防ぐためじゃなく、美々子と菜々子を殺すために呪物を人間に取り込ませようとしているんだ……!)

 

「っ、美々子、菜々子!! 逃げろォ、ぐっ……」

 

祚咫は慌てて2人の下へ行こうとするが、鋭い痛みを感じてへたり込んでしまう。

 

「邪、魔ッ……!」

 

斧を肩から引っこ抜く。当然血が更に大量に出るが、彼は気にも留めない。

 

(反転を全力で回せ……! 美々子と菜々子は恐怖で動けてねえんだ、俺が動かねえでどうすんだよ! 目の前の命はもう一つも取り零さねえって、幼馴染(アイツ)と約束したろうが!!)

 

祚咫は這いずりながら村民へと近づき、呪物を持った住民の足を全力で握る。

 

「待てよ、馬鹿共が……。げほっ、その2人には手出すなって、何度言ったら分かんだ。テメェら耳と脳味噌ついてんのか……」

 

(反転で肉体が再生するまでの時間を稼げ。治っちまえばこっちのもんだ。大丈夫だ、美々子、菜々子。お前たちに、これ以上何もさせやしない)

 

「ひっ、ば、化け物ぉ!」

「私に触るんじゃない、この醜い化け物め!」

 

一般人であれば失血死するレベルの出血でも尚動く祚咫に、村民は声を裏返らせて怯える。そしてそれを合図にするように、彼らはそれぞれの武器を持って俺に襲いかかった。ある者は鎌を、ある者は石を、ある者は拳を。そうして祚咫は抵抗できずに血に塗れていった。

 

「がッ……はっ…………っ………………」

「「ひっ……」」

 

美々子と菜々子に、その蛮行を止める力などあるはずもなく、ただ祚咫から血が流れ続ける様を見ていることしか出来なかった。或いは、それを見て悲痛な叫びを上げることしか。

 

「っいや、いや、いやあ!! 瓊弌! 瓊弌ぃ!!」

「やだ、やだよ!! やめてぇ!! お願い、私には何でもして良いから!! 瓊弌には何もしないでよぉ!!」

 

そして同様に、その叫びが村民に通じる訳はない。祚咫はびくびくと身体を震わせるだけになる。

 

「「けい、いち……」」

 

村民は満足したのか、次は2人へと意識を向けた。彼らは先に目についた方、つまり美々子を牢から引っ張り出した。美々子に手を伸ばす菜々子は大人に押さえつけられる。

 

「な、菜々子! 助けて、菜々子ぉ!!」

「ま、待って! いや! 美々子! 美々子ぉ!!」

 

彼女達の悲鳴を聞き届ける者はこの村にはいない。祚咫1人を除いて。

 

(……肉体は治った。俺は死んだとコイツらは考えている筈、その虚を突く! 手段は選べねえ以上仕方ない。多少村の奴らには傷をつけてでも美々子と菜々子を保護、そんで呪物を回収!!)

 

「仮想、領域!!」

 

村民は呪物を菜々子に食べさせようとし、祚咫は刀を持って立ち上がった時、突然爆発音が轟く。全員がそちらの方に意識が行った次の瞬間には、1人の青年が小屋の扉があった場所に立っていた。

 

「これは、なんですか?」




生業  Creepy Nuts(2019)


ほんっとうにお待たせしました。大変申し訳ありません。気がつけば呪術廻戦のアニメも終わり、年が明けるどころかバレンタインデーが近づくほどになってしまいました。前話の後書きと同じようなことを言ってしまいますが、懐玉・玉折編の終わりまでは構想を考えられていますので、全力を尽くして皆さんの下へ届けられるように頑張ります。
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