『さしすけ』ってなんだよ 作:Ex falso quodlibet
前回の後書きを無視してしまったので初投稿です。
神社で死にかけてから数日後、俺は夜蛾さんと再会して事情聴取を行った。夜蛾さん曰く、俺がバケモノと呼んでいたそれは”呪い”と言うらしい。”呪い”は、人の負の感情の集合体で、学校や病院といった負の感情が集まりやすい場所に溜まる傾向にあるのだとか。更に呪いが凝縮したものが”呪霊”であり、俺を殺そうとしていたのも”呪霊”だそうだ。
そして、その”呪霊”を祓うことを生業としている人達の事を『呪術師』と、そう呼ぶらしい。本来であれば、一般人に呪いは見えず、呪いが見える一握りの人間が呪術師になるんだと。
しかし、俺が呪いを見ることができたと話すと、夜蛾さんは少し驚いた様な表情をしていた。
以上の会話を踏まえて、俺は夜蛾さんに質問をすることにする。
「それって、俺も呪術師になれるかもしれないって事ですか?」
「まぁ、間違ってはいないが……呪いが見えてしまうのか。ふむ、どうした物か……」
「……えーと、呪いが見えるって良い事じゃないんですか?
呪いが見えたりすれば対処法とかも分かって来るんじゃ?」
「残念だが、そこまで単純で有れば我々呪術師も苦労しないさ。祚咫ははっきりと目視していないから分からないかもしれないが、呪いというのは人の神経を逆撫でする様な様相をしているんだ。それが原因となって呪術師を辞めた人間は大勢いる」
「……?えっと、どういう事ですかね?」
「端的に言えば、非常に気色が悪い」
「あー、成程。その気持ち悪さに耐えられなくて、って事ですか」
「その通りだ。だから君にはこのまま一般社会で生活してほしいんだが……」
そう言うこと。だから夜蛾さんは俺が呪いを視認出来る事に対して少し悲観的だったのか。けれど、呪術という世界に片足を突っ込んでしまった以上、あんな怖い思いをしても好奇心に身を委ねてしまうのは、人間の性なのだろうか。
「大丈夫ですよ。俺、そう言うのなんとなくイケる口なんで」
「…………先程も言ったが、呪術師という職業はそこまで単純な物ではない。呪術師になるという事は、学生の内から戦場に出なければいけないと言うことだ。一般人の死体を見ることもあるだろうし、時には仲間の亡骸を横目に呪いと対峙しなければならないこともある。
……君に、それ程の覚悟があるのかね?」
「え、いや、それは……」
夜蛾さんは厳しい表情で俺を見つめている。
彼の纏う空気が変わった気がする。不味い、軽率だったかもしれない。それにしまった。そこまで考えていなかった。
……そうか。今回偶々俺が被害者の第一人者で、尚且つ助かったから良いものの、もしかしたら俺が血に塗れた死体を夜蛾さんが見る事になっていたのかもしれないのか。そんで俺も、そう言う立場に置かれる可能性がある、と。実際、死体なんてテレビやゲームでしか見たことない。
そんな俺が呪術師として戦えるのか?
ただ足引っ張っておっ死ぬだけじゃないのか?
だったら夜蛾さんの言う通り、呪霊とやらを見ない振りして普通に生きて行った方が良いんじゃないか——。
俺が思考の海へと沈みそうな時、ふと顔を上げれば、夜蛾さんが先程とはまた少し違う真剣な表情で此方を見ていた。夜蛾さんは、一切の口出しをせずに俺を見守ってくれているのだ。そんな夜蛾さんを見て、俺はハッとなる。
俺が呪術師になれるかどうかだと?
……いや、大事なのはそこじゃないだろ。
「…………めっちゃ怒られるかもしれないですけど、良いですか」
「ああ、良いぞ」
「ありがとうございます。……正直、今俺に夜蛾さんが言ったような覚悟はない、と思います」
「そうか」
「はい。ぶっちゃけ遊び半分みたいな感覚で呪術師になろうって思ってましたし、仲間が死んでも呪霊を祓う、なんて可能性考えてもいませんでした。だから、俺今ビビってます。呪術師って、そんなヤバいのかって。
俺が仮に呪術師になったって、何も出来ずにあっさり死ぬんじゃないかって」
「では」
「でも、そうじゃないんです」
俺はあの時、何を思った?
呪術師になりたいと思ったのか?
呪いなんかと関わらずに生きていきたいと思ったのか?
違うだろバカが。
俺は。
「……と言うと?」
「俺は、別に呪術師になりたい訳じゃないんです。そりゃまあ、人助けとか、特別な力で悪い奴らをやっつけるとか。カッコいい事したいっていうのはありますけど。
俺は呪術師じゃなくて、夜蛾さん、貴方みたいな人になりたいんです」
「……!」
「孤立無援で、自分も死ぬかもしれない。そんな状況でも自分を省みずに他人を救ける。呪術師とか一般人とか、そういうのじゃなくて、一人の人間として誰かを救ける。
そんな人間に俺はなりたいと思ったんです」
「……それは呪術師である必要はあるのか?将来警察官や消防士になっても、同様に人を救う事は可能だ」
確かにそうだ。
夜蛾先生の考えは正しい。
でも、きっと、今じゃなきゃ駄目なんだ。
「ええ、可能です。
でも、これってきっとチャンスなんですよね。夜蛾さんみたいな人になる為の、最初で最後のチャンス。これを逃したら、俺はこの先クソみたいな人間性を以て生きていく事になる。今変わらなくちゃいけない。だから、呪術師になるしかないって思ったんです」
「……そうか」
「はい。夜蛾さんや、他の呪術師に比べたらちっぽけかもしれませんけど、これが俺の覚悟です」
はっきりと俺がそう言い切ると、夜蛾さんは笑って、俺に手を差し伸べた。
「……合格だ。ようこそ、呪術高専へ」
「……ありがとうございます!!」
どうやら、なんとか合格出来たらしい。
自分でも口角が上がったのが分かった。夜蛾さんには、きっと俺の顔はとても明るく見えているだろう。
これからの呪術師生活は大変だろうけれど、頑張ってみせる。
俺はそう意気込んで、席を立った。
「いや、まだ引っ越し等の諸々の話があるから帰らないで欲しいんだが」
あ、そうだった。
らしさ SUPER BEAVER(2014)
呪術師に関する問答の件は高専に入るに当たって必要かと考え、作ることにしました。
個人的には、夜蛾先生は夏油が離反したことで、呪術師について考え直し、原作第一巻にあるような面接を行うようになったのであれば良いなと思っています。
さしす組を心待ちにしている皆様には大変申し訳ありませんが、今度こそ次話から彼らが登場しますので、もう少々お待ちいただければ幸いです。
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