『さしすけ』ってなんだよ 作:Ex falso quodlibet
五条と仲良くなれなさそうなので初投稿です。
8月第2週。
茹だるような暑さに悲鳴を上げる中、俺の任務はあった。初めての任務ではあるものの、相手は低級の呪い。それでいて2級術師の先輩も同行してくれる。
危険な要素は何一つない。
俺はそう考えていたんだ。
その慢心が、悲劇を生むとも知らずに。
「今日は宜しくお願いします、塚田さん」
「ああ。宜しく」
今日同行してくれるのは塚田2級術師。強力な術式を持っている訳ではないが、持ち前の精密な呪力操作で2級へとのし上がった実力者だ。
と、夜蛾先生からは聞いている。
「今日の任務内容は分かっているな?」
「はい。『自殺が何回か行われた樹海に低級の呪いが発生。樹海にやって来た人間を襲っているとの事。上級の呪いへと変態する可能性もある為、早急に祓うべし。』という内容です」
「その通りだ。今回相手する呪霊は4級だが、決して油断するなよ」
「了解です!」
「良い返事だ。では早速現場へ向かうぞ」
「現着、っと。うお……如何にもって感じだな……」
俺と塚田さん、それと補助監督の3人は現場に到着。
俺は樹海に入る前に準備運動を、塚田さんは補助監督と何やら話をしている。
ま、ペーペーの俺には関係ねえし準備を続けよう。
数分後、塚田さんが俺の元へとやってくる。話は終わったようだ。
「準備は良いか?」
「大丈夫、です!宜しくお願いします!」
「その前に、お前の術式を教えてくれ。初任務ということだし、基本的には俺が戦うが万が一もある。協力する時にお互いの手札は知っておいた方が良いだろう」
「うぐ……」
これは良くない。当然塚田さんの言っていることは至極真っ当で、十分理解できるものではある。あるのだが……
「?どうした?」
「えーと……誠にお恥ずかしながら……自分の術式、まだ分かっていなくて……」
「はっはっは、冗談はよせ」
「…………」
冷や汗を顔中から流した俺を見て、流石に冗談だとは思わないだろう。呪術師をする上で、術式というのは切っても切れない関係にある。それを知らないと言うのだから、信じないのも無理はない。俺と塚田さんの間には気まずい雰囲気が流れていた。
「極力俺の後ろにいろ。帳はもう降りている。行くぞ」
「……ッス」
話を断ち切ってくれた塚田さんに心の中で深々と頭を下げておいた。
気を取り直して、初任務と行こう。どうか無事でいられますよーに!
……呆気なく終わった。拍子抜け、という言葉が一番適切であるくらいには。
「これで終わりですか?」
「ああ、恐らくな。今の所周囲に呪霊の反応は見られない」
マジで終わりなのか。なんというか、もっと大変なもんだと思ってたんだけど。いや、それは塚田さんありきなのか?まあどうあれ初任務は無事完了って訳だ。俺が何をしたってわけでもないが、一先ず安堵する。
「ふぅ。じゃあ、もう上がりますか?」
「そうだな。帳も上がったし良いだろう———ん?」
塚田さんがピクリ、と何かに反応した。
「塚田さん?どうかしました?」
「いや、呪霊はもういない筈なんだが……。ここで待っていろ。少し様子を見てくる」
「え?何かあったんですか」
「良いから大人しく待っていろ」
そう言うや否や、塚田さんは何処かへ走って行ってしまった。一体どうしたんだろうか。呪霊はいないって言ってたし……。てか残穢とかまだ全然分かんねえんだよな。本当にうっすら見えるくらい。これって慣れればちゃんと見えるもんなのか?うーん、塚田さんの残穢全く見えねぇ。
にしてもどこ行ったんだろあの人。まあ待ってろって言われたし、上司の命令には従いますかね。どうせその内帰ってくるでしょ。
……おかしい、もう30分は経ってる。なのに帰ってくる気配が一切しない。塚田さんはかなりマメな性格だ。まだ関わって半日かそこらだが、塚田さんの特徴は十分把握した。異常事態が発生した場合、何かしらの連絡を入れる筈。
これは塚田さんが連絡も出来ない程の事態に見舞われたと考えるべきなのだろうか。となれば、俺も塚田さんが向かった方向へと行くべきか……?
ガサリ、と音がした。戦闘態勢を取ってその方向を注視していると、四肢をもがれた呪霊が地面を這いつくばりながら出てきた。
(呪霊……!全部祓ったんじゃなかったのか?)
呪霊にも痛みがあるのか分からないが、聞くに堪えない声をずっと上げている。キッショいなマジで。これ殴んの?
(塚田さんはこれを祓いに……?まあそこら辺は取り敢えず祓ってから考えよう)
そう思い、俺が拳に呪力を纏わせ、呪霊を殴ろうとした瞬間。
「おいおいなんだよ。折角小遣い稼ぎに来たってのにガキ一人か?随分とまァ時化てんなァ」
「!」
俺の頭上から声がした。反射的に顔を上げるとそこには一人の男がいた。肩に呪霊を乗せ、手には短刀を携えている。何より目を引くのは、口元にある傷と異常なまでの筋肉。その男はゆっくりと木から降り、持っていた短刀で呪霊を突き刺すと、呪霊は一際大きな声を上げながら消滅していった。
(全く気配が無かった。呪霊を祓えるってことはあの短刀は呪具か?それに、いつからいた?そもそもコイツは何者だ?ただの一般人の可能性は……流石にねぇか)
「……誰だ、アンタ」
「あ?テメェみてぇなガキに答える理由がどこにあんだよ。だが強いて言うなら、雇われの仕事人だな」
「は?何訳の分かんねえこと言っ———」
刹那。
そう形容するのが相応しいだろう。俺は、宙を舞っていた。
「がはっ……?!」
背中を地面に強く打ち付け、息が上手く出来なくなる。殴られたのだと認識するまでに、数秒の時間を要した。
「ま、こう言うことだ」
「かひゅッ……は、は、は」
(不味い……これは不味い!)
どんな術式なのかは分からないが、とにかく疾ぇ。そんでもって重ぇ!
「ひゅっ、ひゅっ……」
「なんだ、もう終わりか?サンドバッグの役目くらい、果たしてくれ」
「っがっ!?」
俺は腹を蹴られ、地面を転がる。クソ、息ができないせいで頭が回らない!どうする、どうする?!塚田さんはどこだ?ここで耐えてりゃ来るのか?
俺一人じゃどうにもならない!逃走は到底不可能で対話なんざ以ての外。
詰み、か?…………いや、まだ諦めねぇ。何か、まだ何か手がある筈!
「オイオイ、この状態で術師が術式使わねえたァ自殺志願者か?いや、使ってはいるが効果が薄すぎて俺が気づいていないだけか?まァなんでも良いがな」
「ッ……!」
男は俺に顔、腹、腕と着実にダメージを加えてくる。俺は血反吐を吐きながら、碌に回らない脳味噌をフル回転させて思考する。
(そうだ、術式。俺には術式があった。知覚は出来ていないが、確かに俺の術式は存在する。そう五条が言っていた!)
〜2週間前〜
「オイ雑魚」
「は、はい。なんでしょう……?」
「お前、何か隠し持ってんだろ」
基礎練が休憩に入ってすぐ、俺と五条はそんな会話をしていた。
「えーと、何かってなんです?五条さんに隠せるものなんて何もないと思うんですけど」
「あるから言ってんだよ。お前、この眼知ってんだろ」
そう言ってサングラスを外した五条の瞳には、放っておけば吸い込まれてしまいそうな不思議な魅力があった。
「六眼、って言ってましたっけ」
「正解。俺の六眼はこの世の全てを見通す。俺の術式が十全に使えんのはコイツのお陰だ」
「なる、ほど?」
「だが」
スポーツドリンクを飲みながら、俺は五条の声に耳を傾ける。このアホは心底ムカつくしクズだが、殊呪術に於いては嘘をつかない。だから彼の言葉は信用に足るものだ。
「だが、なんすか?」
「なんつーか、虫食い状態っつーか、靄がかかってるっつーか?お前の術式の情報だけ断片的で上手く見えねぇんだよ。なんか心当たりねえの?」
「いや全くないです。そもそもなんの心当たりですか」
「俺の六眼から見えなくする心当たり」
「ないですよ。自分の術式すら分からないのに、そんな心当たりある訳ないじゃないですか。全部見えなかったとしても、断片的な情報から類推することはできないんですか?」
お前の六眼から隠せることなんて何もねえだろうに。なぜ見えないのだろうか。
「出来ねえことはねえが、うーん……。今分かんのは、普通の術師が1の呪力から10の威力を生み出すとして、お前は1の呪力から100の威力を生み出すって事くらいなんだよな」
限定的な術式だな。そんな術式大して使い道ないだろ。
「……コスパが良い術式ってことですか?」
「いや、なんつーかな……。どうにも違う気はするんだが、取り敢えずはそれで良いわ。つか、マジで心当たりねえの?俺の六眼から隠すなんざよっぽどの事がねえと出来ねぇぞ」
「ないですって本当に」
あったら苦労してねえわ。
と、ここで五条が何か閃いたような表情を見せる。
「だよなぁ。……あ」
「なんか思いつきました?」
「もしかして、なんかいるんじゃね?お前の中」
「はぁ」
なんじゃそりゃ。そもそも中ってなんだ。
「…………尻尾が9本ある化け物、とか?」
「何処の忍ですか」
「お、分かった?」
「分かるに決まってるじゃないですか。NAR○TO貸したの俺ですよ。てかはやく返してください」
「あと1週間くらいしたら返すわ、多分」
これ返ってこないやつだなあ。そもそも貸したって言うか気づいたら部屋から失くなってたんだけどね。いっそのこと買い直すか?丁度休憩の終わりを伝えられて、そんなことを思いながら五条の下を離れようとする。
「あ、そうだ」
「なんですか?」
「良い加減敬語やめろ。さん呼びもな。後輩でもないのに気色悪いわ」
「は、はあ。分かりました……」
「次敬語使ったらブッ殺すからな」
「理不尽?!」
……大した話はしていないような気がするが、それはそれ。とにかく、『能率の強化』。
これが俺の術式に関わっているという認識で相違ないだろう。だが、そこから先へ進む事が出来ない。状況が状況、考え事をする余裕もないのだ。まぁとにかく、やってみるしかない。
夜蛾先生から借りた呪具で奴の攻撃をなんとか弾くが、その衝撃で数メートル後退する。
(よし、今……!呪力は、臍を中心に廻すイメージ。そんで、バケツに水を入れるように、術式に呪力を流し込む……!)
「フー…………」
大きく足を踏み出して敵の懐へと潜り込む。今の俺は術式を使っている状態、である筈。届きはしなくとも、かするくらいは……!
「遅ぇ」
「うぐっ!」
まあ、そう簡単に行っていたらこんなにボコされていない訳で。一瞬で後ろに回り込まれ、またしても蹴りを喰らってしまった上に、呪具も取られてしまった。
相手の気紛れか、はたまた俺を舐めているからかは分からないが、幸いにも今はそこまでのダメージは負っていない。めちゃくちゃ痛いし辛いけど。だが、それもいつまで続くか分からない。
(やばすぎんだろ……!コイツは下手すりゃ五条よりも強いぞ……!)
俺が目の前の相手への対処法を考え倦ねていると、男が口を開いた。
「何やってんのか知らねェが、その程度じゃ俺には擦り傷一つ付けらンねぇぞ」
「……なに?」
しめた、勝手に喋ってくれるとは有難い。このまま少しでもコイツが術式を明かしてくれれば……!
「俺はテメェ等呪術師とは何もかも違う。身体能力から、呪力の有無までな」
「呪力の、有無……?」
「そうだ」
何言ってんだこいつ。呪力って程度の差はあっても一般人にも流れてんじゃねえのか?俺は夜蛾先生からそう聞いたぞ。
「俺ァ、
…………?
「
「なんだ知らねぇのか。なら説明してやる。天与呪縛は、その名の通り天が与える呪いの縛りだ。しかも先天性で、解除する事は出来ない。
どんな縛りを結ばされるかはそれぞれ異なるが、俺の場合は『完全な呪力の喪失』。
俺はこの世で唯一、呪力を全く持たない人間だ」
……なんだ、そりゃ。だからさっき、何やってるか知らないって言ったのか。
成程、なんとなくは分かった。だが、ちょっと待て。
「ならおかしいだろ。
呪力を持たないって事は、呪力が見えないって事だ。つまり、お前は俺の術式も、呪霊も一切見えてない訳だ。なのにどうして、お前はさっき呪霊を捌いた?」
「……ハ。これ以上教える義理はねぇな。
あとはテメェの小せえお頭で考えてみろ!」
何故コイツは呪霊を祓える?コイツは縛りによって呪力を完全に喪失したと言っていた。なら縛りの原点を思い出せ。縛りはデメリットのみでは成立しない。例え天からの強制的なモノであったとしても、そこには必ずメリットが存在する。
となれば、そのメリットは一体なんだ……?
「考えてみろとは言ったが、考える暇を与えるとは誰も言ってねぇぞ」
「っぶねぇ!」
間一髪。奴の向けた刃が俺の頬を裂く。コレ避けてなかったら即死だったな。あーもうマルチタスクは苦手なんだよ!
「チッ、避けたか」
「疾すぎるっ……!」
漸く酸素が回るようになって、頭も正常に働くようになった。だが、もう一度あんなことをされたら今度こそ何も出来ずに殺される。
(偶々躱せただけで次は多分無理だ。それまでにあの疾さをなんとかしねえと!……ん、疾い?)
アイツ確か、身体能力も違うって言ってなかったか。身体能力にバフがかかってるって事は、筋肉を動かす為の神経、つまり運動神経が他人より異常に発達してるって思って良い。要するにアイツの強さの原点は神経にある。
とすれば。
感覚神経も、運動神経同様に優れていると考えるのが妥当じゃないか……?感覚神経が優れているというのは、それは五感が優れていることと同義だ。イコール、空気の僅かな揺れや、普通であれば聞き取れない音域等も感じ取れるということ。
(……まさか)
目の前のコイツは、俺の術式や呪霊が見えているという訳じゃあない。『何となくそこに何かある』というだけで、呪霊も、術式も、見切っているというのか!!
「オラどうした?このままだとテメェもオッサンと同じになンぞ」
「ッ……塚田さんを、殺したのか」
「あァ、邪魔だったからな」
「ンの野郎……!」
「俺に殺意を覚えるのはそりゃ勝手だが。テメェはテメェの心配をした方が良いと思う、ぜッ」
「!がはっ」
くっそ、歯ァ折れた。俺は顔面をブン殴られて地上に倒れ伏す。
「あー、つまらねェな。どいつもこいつも雑魚ばっかりじゃねえか。五条家の嫡男坊なら、もうちっと楽しめるか?」
……こんな時。五条なら、夏油傑なら、硝子さんなら、夜蛾先生なら、どうやって切り抜けるだろうか。
きっとあの人たちはいつもと変わらないまま、平然とした顔で乗り切っちまうんだろう。……そうだ、いつも通りでいろ。夜蛾先生に教わったことを思い出せ。
焦るな、怒るな。感情の発露は間違いじゃあないが、無闇矢鱈な感情は呪力の流れを乱す。努めて冷静でいろ。心は熱く、それでいて頭は冷ややかに。
俺の術式はまだ分かっていないし、相手の実力は未だ未知数。勝機はほぼ無いに等しい。
けれど。
「まだ、死ねねェんだよ……」
「……そのまま寝っ転がってたら、見逃してやったんだけどな」
ゆっくりと立ち上がった俺に、目の前の男はそう言葉を漏らした。夜蛾先生みたいな人になるって言ってんのに、死んだ振りなんてしてたらなれるもんもなれねえだろ。
「生憎と……ダセェ事はしたくない質なんでね」
「ハッ、言うじゃねえか、餓鬼。まだもう少し遊べそうで嬉しいぜ……あ?」
その時、緊迫した雰囲気には似つかわしく無い、無機質な音が鳴り響く。電話が鳴っているようだ。俺の携帯はもうとっくに壊れているから、必然的に鳴っているのは男の携帯。
「ああ、俺だ。今から来い?舐めた事言ってんじゃねえぞ、こちとら仕事中だ、っておい!……あのクソ野郎、次会ったら殺す」
誰かと通話しているようだが、呼び出された、のか?
「チッ、予定が変わった。次で殺す」
……おいおい、マジか。だがここまで来たら仕方ねえ。元より大して勝ち目なんてなかったんだ、一か八かの大勝負と出ようじゃねえか。
覚悟を決めろ、俺。
「…………来い、呪詛師」
「精々足掻いて死ね、呪術師」
(マジで全く見えねえんだけど、この速度で突っ込んで来るか?いやそれだとアイツにもかなりの負荷が掛かる筈だ、多分。となればほんの少し速度は落とすに違いない。そうだと信じたい。その瞬間が唯一の突破口なんだから)
(生き残る為には術式が不可欠な訳だが……五条の言葉を聞いてから、ずっと考えていた。俺の術式は多分、能率強化なんかじゃない。普通の術師と比べて俺の呪力の費用対効果が大きかったのは、呪力の費用対効果そのものを『強化』していたからなんだ。つまり、俺の術式は『強化』する術式なんだろう)
(さて、今度はその術式をどう使うかだ。現状、全身に流れている呪力にその術式を使った所で意味はないだろう。相手が悪すぎる。じゃあどうする?呪具もない以上、全呪力を拳に集中させた上で術式を使う。……今はこれしか思い浮かばないな)
(奴の動きは不規則に見えるが、その実規則的なものだ。等間隔で周囲の木々を移動しているのが分かる。わざと音を立ててどこから狙うか分かりづらくするつもりか。ただまあ、奴の狙いは首か心臓以外にないと考えて良い。んでもって背後から一突きで終わりにする気だろう。ならアイツが攻撃する瞬間に合わせてカウンターを決めるしかないな———来る)
「…………」
「そこだァッ!!」
「!」
俺は振り返り、背後で短刀を構えていた呪詛師に拳を振り上げる。
(よし、予想通りッ!これで俺の———おい、待て。
コイツは、何で笑ってる?)
その疑問が解消される前に、俺の身体に衝撃が走る。そして察した。ああ、負けたのだと。
「く、そ。イイ線行ってたと、思ったんだけどな」
「確かに悪くなかった。が、そのレベルで俺に勝てると思ってた時点で、テメェの負けだ」
どうやら、背後からの攻撃に対して俺が対応できる事は想定済みだったらしい。俺が振り返った瞬間に更に回り込んで背中からブスリ、って訳だ。
口から血が溢れる。呪具をずるりと抜かれた俺はそのまま倒れた。刺された箇所から血がドバドバ流れ出るが、それを止める術は俺には無い。
「あー……しくじったな」
気づいた時には呪詛師は消えていた。任務は完了した、と言うことなのだろう。
(にしても強かったなあ、アイツ。高専でもうちょい真面目にやってたら、今こうなってなかったのかもな。そう考えると因果応報か。五条と夏油傑が、あの化け物に会わないことを祈るばかりだ。あぁそうだ、メール、送らないと。任務失敗したってことくらい教えておかなきゃ。ケータイ、どこだっけな……あれ、腕が動かねえ。…………うわー、もうそんな時間かよ)
全く、理不尽にも程がある。定まらない思考を抱えながら、死ぬ間際まで仕様もない事を考えるんだなと、そう自嘲して。
俺は襲い来る眠気に耐え兼ねて、瞼を閉じた。
その空間は、凪いでいた。
酷く澄んだ水は何処までも続き、大海原を錯覚すらさせる。然れど、足をつけても手をつけても決して沈む事は無い。この空間に於いて、この水こそが地上であるが故に。そして、同心円状に出現した鳥居は無数に列を成す。まるで、参拝者をある一点へと集約させるかの様に。
終わりのない、ある種無限の空間。それは『領域』であり、同時に『世界』でもある。
そこには人の形をした者が二つと、鏡が一つ。
「———おやおや。
これはまた随分と、珍しい方がいらっしゃったようですねえ」
ニビイロドロウレ ツミキ(2018)
主人公くんには痛い目を見てもらうことにしました。
0編は要りますか?
-
いる
-
いらない
-
どっちでも