『さしすけ』ってなんだよ 作:Ex falso quodlibet
課題に追われているので初投稿です。
「———知らねえ天井だ」
一回言ってみたかったんだよな、これ。てかガチでどこだよ。真っ白であっただろう天井は、経年劣化によるものかシミが出来ており、ピッ、ピッ、と規則的に鳴る機械音が響く。
(なんだこの音は)
よく見ると、俺の身体は大量の管に繋がれていた。その先を辿っていけば液体が入ったパックと、それをぶら下げる為のスタンドがある。その傍らには、テレビ台を含むちょっとした棚と、来客者用の椅子。どうやら、ここは病室らしい。
周りに誰かいないか、首だけを持ち上げるようにしてぐるっと見渡せば、来客者用の椅子に座っているではないか。よくよく見れば、高専の制服を着ている。
という事は、ここは高専か?
「———ん、起きた?」
「だれ……って、硝子さんか」
「おつー」
ここは高専で、硝子さんがいるって事は、俺は今保健室にいんのか。
「そそ。にしても随分大変だったね。あと数分遅れてたら死んでたよ」
ああ、思い出した。俺はなんで生きてる? あの呪詛師に胸を刺されてあんだけ血を流してたんだ、確実に死んだと思っていたのだが。
「祚咫と一緒に任務に行った人、いるじゃん。どうやらその人が応援を要請してたみたい」
「塚田さんが……? いやでも、応援呼ぶ暇なんて無かった気が」
「さあ? でもこうやって祚咫は助かってるわけだし」
「っ……そうだ、塚田さんは?!」
塚田さんが応援を呼べて、俺が助かったのだから塚田も助かったに違いない。俺はそう考えたのだけれど、それは甘かったらしい。硝子さんは首を横に振った。
「……俺は、塚田さんを犠牲にして、生き残ったってのか」
そんな…… 。塚田さんが一人の時にあの呪詛師と遭遇したから殺されたのか。そうだ、俺があの時一緒に着いて行ってりゃ、塚田さんが死なない可能性もあったんだ。
塚田さんが死んだのは、俺の、俺の———
「おい」
「てっ」
硝子さんが俺の頭を軽く叩く。硝子さんにしては、珍しく真剣な表情をしていた。
「あんまり責任感じない方が良いよ。呪術師やってればこんな事腐るほどある。その度に一々そんな背負い込んでちゃ、保つもんも保たなくなるよ?」
「で、でも」
しかしながら俺の硝子さんへの反論は、突如現れた五条に遮られた。
「おーおー、話し込んでんなあ。恋バナか?」
「っ、五条」
「よっ、クソ雑魚くん」
五条の足取りは軽く、散歩にでも向かうようなものだった。その様子に、俺は言い知れない違和感を覚える。
「五条。珍しいじゃん、見舞いなんて」
「まあなー? 俺は聖人君子だからな。所で、クソ雑魚くんよ」
「なんだ。こっちは長話聞けるほど元気でもないぞ」
(なんで五条がここにいる? わざわざ俺の様子見に来た、って訳じゃねえよな。コイツはそんな殊勝な奴じゃあねえ)
そして俺が感じた違和は正しいものだったと、すぐに分かることになる。
「だーいじょーぶすぐ終わっから。ちょっと提案があんだけどさあ———お前、呪術師辞めてくんね?」
「……は?」
(急に、何言ってんだ、五条の野郎は)
「だからあ、呪術師辞めろって言ってんの。お前弱過ぎんだわ。はっきり言って足手纏い。お前の事一々看病する硝子の身にもなれよ」
「別に私は何とも思ってないけど」
「硝子は黙ってろっての」
そんなこと、馬鹿げてる。余りにも。
「ふ、ふざけんな! バカ言ってんじゃ———」
「いいや大真面目だ。流石に2ヶ月も
「おい、五条」
硝子さんの制止も無視して、五条は話し続ける。五条の言っていることは理解はできる。だが、納得できない。出来るわけがない。
「つーわけで、これ退学届。ちゃちゃっと書いて、夜蛾センに提出しとけや。んじゃなー」
言いたい事だけ言って、アイツは去っていった。保健室には沈黙だけが流れる。アイツの理屈は何から何まで納得できるものじゃなかったが、言わんとしている事はわかった。要は、『弱い奴は邪魔だから消えろ』って事だろ。
(……俺は五条に何も言い返せなかった)
アイツの発言の全てに、思い当たる節があったからだろうか。アイツが莫大な権力を持っていようが、自分に自信があれば噛み付くことも出来たはずだ。
けれど、俺はできなかった。
「あー、祚咫。多分アレ、いつもの五条の戯言だから気にしなくて良いと思うよ」
硝子さんが俺を気遣ってくれるが、五条は本気だろう。こう言う時、アイツは冗談を言うようなタイプではない。
「硝子さん、俺ちょっと眠くなってきたんで、寝ても良いすかね。あ、硝子さんももう上がっちゃって大丈夫ですよ」
「いや、まだ容態が急変するかもしれないし」
「大丈夫なんで。本当に」
「……そう、分かった。でもなんかあったら連絡してね、起きてたら行くから」
「ありがとうございます」
俺に繋がっていた管を抜いてもらったのち、半ば無理矢理硝子さんを部屋から追い出す。ごめんね、硝子さん。あとでなんか奢るから許してくれ。
一人きりになった部屋。聞こえてくるのは液体が滴る音と、微かにガラスが揺れる音だけ。
俺は、我慢できなかった。俺の気も知らずに好き勝手言う五条と、なによりもその五条に何も言い返せなかった自分に。
カッとなった俺は、五条から渡された退学届をぐしゃぐしゃにして。
けれどゴミ箱には、投げられなかった。
何処かでもう、諦めかけている自分がいるのが分かる。五条の言う通り、俺は余りにも弱い。術式をまともに理解出来ていないくらいだ、これでは足手纏いと思われても仕方がないだろう。
先程まで五条と自分自身に抱いていた感情もいつの間にか消えてしまっていて、なんでもいいや、なんて気持ちになっていた。こう言うのを厭世的って言うんだろうか。俺は観念して、近くにあったペンを取った。
もう退学届も書いて、あとは夜蛾先生に提出するだけだったのだけれど。
すぐ出してしまうとなんとなく五条に負けた気がしたので、明後日くらいに渡そう、と俺は画策する。かと言って、硝子さんに絶対安静を言い渡されているため特にやることもなし。嫌な現実から目を背けようと、俺は点滴スタンドを転がしながら屋上へと赴いた。
屋上からは、綺麗な夕暮れが街を照らす。ガキの頃は何とも思わなかったのに、こんな景色に思いを馳せるなんて、老けた証拠だろうか。屋上にポツンと設置されたベンチに座って、段々と夜に向かう街をぼんやりと眺める。
「俺に、呪術師は無理だったのかなあ」
そう独り言つ。
呪術師になって人を救う。
(こんな俺でも、誰かの役に立てるのだと、嬉しかったんだ)
でも、俺のせいで五条や夏油傑、硝子さんに迷惑がかかっていて、それが原因で本来救われる筈だった人が救われなかったのだとしたら。
間接的に、俺が殺したのと同じじゃないか。もし俺が呪術師を辞めることで、結果的に人が救えるのなら。
俺は。
「俺は———」
それを聞いたのは、全くの偶然だった。屋上から保健室へと戻る途中で五条が誰かと話しているのが聞こえたから、半分は興味、もう半分は五条への対抗心で耳を傾けた。盗み聞きって行為をここまで悔やんだのは、後にも先にもこの日だけだったと思う。
「ねぇ五条、アレ本気?」
「本気と書いてマジ。アイツがこの先やっていけそうもないのは硝子も分かるだろ」
「だとしても、もうちょっと言い方ってものがあるんじゃないの」
「ハッ、別に元々仲良し子良ししてた訳じゃねえんだ。所詮同級生ってだけだろ」
「……あ、そ。私としちゃ五条がいいならそれで構わないけど」
「……そもそもアイツにゃ、呪術師なんてもんは向いてねえよ。アイツの居場所はここじゃあない」
「『呪術師はイカれた奴にしか出来ない』だっけ? まあ確かに、祚咫は呪術師やるには、少し真面過ぎるかもね」
〜1ヶ月後〜
残暑が漸く少しずつ収まってきたと感じる9月の半ば。私達は、既に夏休みを終えて後期へと突入しようとしていた。今は絶賛ホームルーム中という訳だ。
この教室には教師が1人と、生徒が3人。本当は4人いたのだけれどね。つい最近、任務に行って瀕死の怪我を負ってしまったのさ。それでそのまま退学してしまったよ。
悟曰く、『もうこれ以上こんな目に遭いたくないから辞める』のだとか。なぜ悟が理由を知っているんだ、なんて野暮な質問はしなかった。辞めてしまった彼には彼なりの理由があるのだろう。
それを追及して、誰も良い気はしない筈さ。
「悟、大丈夫かい? 疲れているように見えるけど」
「あ?別に何ともねえよ。俺を誰だと思ってんだ」
悟はそう強がっているけれど、普段よりも些か語気が弱い。これは瓊弌が退学した事とも関係があるのだろうか? 考えてみれば、瓊弌との一悶着があって以降、悟は瓊弌と良く模擬戦をしていたな。まあ瓊弌が勝つことは終ぞ無かったのだけれど。
「傑、悟、静かにしろ」
「へーい」
「すみません」
おっと、夜蛾先生に注意されてしまったな。
…………これは、足音? まさかとは思うが、呪詛師でも侵入したのか? それでは高専に設置されているアラートが鳴らないのはおかしいが。悟は勿論、硝子と夜蛾先生もそれに気づいていて、段々と近づいてくる足音の方を注意する。
私達の教室のドアが勢い良く開かれた。皆各々戦闘態勢に入るが、そのまま戦闘に移ることはなかった。
「……祚咫? 退学したんじゃなかったっけ?」
最初に声を上げたのは家入だった。
随分と驚いているようで、彼女が普段見せないような表情だった。
夏油と夜蛾も同様で、祚咫はこの風景を写真に収めたいな、なんて場違いなことを考えている。
ただ一人、五条だけが苦虫を潰したような顔をしていた。
「そのつもりだったんすけどね、気が変わったんすわ」
「気が、変わった?」
「そっす。まあほぼ反骨心みたいなもんすわ」
「反骨心……?」
祚咫はそう言いながら、ずんずんと五条の元へ足を進める。
そして、座ったままの五条の頭に、祚咫は六法全書を叩きつけた。
「っ!?!」
「なっ——」
「ぶふっ!!」
「…………はあ」
これには各々の反応を見せた。
五条は突如感じた痛みに何も言えず。
夏油は祚咫の行動に驚きを隠せず。
家入は吹き出した後、携帯を構え。
夜蛾はため息をついて目を伏せた。
しかしながら、五条の困惑は直ぐに怒りへと変わり、当然それは祚咫へと向く。一方で、六法全書などという凶器にもなり得る学術書を何処からか持ってきた祚咫も、憤怒に燃えているようだった。
「テメェ———!!」
「なあ五条。俺を、舐めるんじゃねえよ」
「ぁア!?」
「テメェに心配されなくてもなァ、頭のネジなんざ何十本でもトばしてやるってんだよボケが!! 俺はなりたいものになる為に此処にいる! その過程で死ぬとしたら、俺は本望だ!!」
五条には、祚咫が冗談を言っているようにはとても見えなかった。夏油と夜蛾は口を噤んで成り行きを見守る。家入は携帯を構えたままだったが。
「いつまでもお前が上にいられると思ってんなら大間違いだ! 何が御三家、何が無下限何が最強! ンなもん俺が全部踏み潰して、いずれお前を越える!! ———首洗って待ってろ、五条」
祚咫から五条への宣戦布告と、五条はそう解釈する。五条に媚を売る者はこれまで数え切れないほどいた。彼がほとほと辟易するほどに。けれど、ここまで挑戦的な人間は数えるほどしかいない。
五条は嬉しくなって、少し顔を綻ばせた。
「……ハッ。負け犬の遠吠えにしちゃ、ちとうるさすぎると思うが?」
「言ってろ。何なら今ここで縛り結んでも良いんだぜ」
「俺にメリットがねえ。縛りの知識学び直して来い」
「負けた時の保険か? ダッセェなァ最強様よォ!」
「は? 殺されてぇか雑魚が」
「殺ってみろやボケカスが」
「はいはい、そこまで」
夏油は慌てて止めに入るが、もうそこまで心配はしていなかった。五条と祚咫は既に軽口を叩き合っており、その表情はどちらも明るい。
(少し、瓊弌を侮っていたかな)
「瓊弌」
静観を貫いていた夜蛾が口を開いた。
「はい」
「気は、変わらないか」
「変わる訳ないじゃないですか。俺は有言実行の男ですよ?」
「そうか。なら良い」
夜蛾は祚咫の返答に満足したようだった。
「では、全員席につけ。今日の授業を始めるぞ」
「うす。んじゃあ、これからまた宜しく頼むよ、皆々様」
彼は不敵に笑ってそう言った。
彼の呪術師生活は、まだ始まったばかり。
TEENAGE RIOT 米津玄師(2018)
まだ終わらないです。
視点がコロコロ入れ替わっている為読み辛かったかもしれません。ごめんなさい。
0編は要りますか?
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いる
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いらない
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どっちでも