『さしすけ』ってなんだよ   作:Ex falso quodlibet

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秋を感じるので初投稿です。


#8 春を歌にして

俺たちが何もしなくとも、季節は移ろう。俺たちがトイレに行ったり、飯を食ったりすることと同じくらい当たり前のこと。

あっという間に秋と冬が終わり、3月。京都校との交流戦とかもあったりしたが、それはまた今度の機会に話そうと思う。

 

五条と夏油と硝子ちゃん、そして俺の四人で行った任務の帰り。つまりは高専へと戻る道中。3人は数歩先を歩いている。五条と夏油がしょうもない話をして、硝子ちゃんがそれに茶々を入れて。そんな風に、皆で笑い合っている。

彼らの背中をぼんやりと見つめながら、俺は彼らについて考えた。

 

 

 

俺の同期は強い。敵なしと言っても遜色のないくらいに。けれど、だからと言って何が変わるわけでもない。アイツらは俺の何百歩も先を行っていて、俺はその足跡を必死に追っている。五条を越えると言った以上、甘えは許されない。その甘えで一回死にかけてるんだしな。

 

だが、その甘えが五条たちに100%ないと言い切れるか?

数ヶ月前、持たない側の人間に足を掬われるぞと、俺は五条にそう言った。勿論、五条がそう簡単にやられる筈がないのは嫌という程知っている。強力無比な術式、膨大な呪力、この地球上で五条しか持たない眼。そしてそれらを十全に使いこなす、五条悟本人の技術。しかも、どれも未だ発展途上にあると来た。そんな五条が反転術式や極ノ番、領域まで会得したらと思うと、少し身震いしてしまうくらいだ。

硝子さんだって、反転術式をアウトプットできる数少ない術師として大変重宝されている。そのためか常日頃から様々な任務に同行させられているのは、少し心苦しく思うが。

一方の夏油も類稀なる術式を有しているし、術師としてのレベルが上がっていけば領域の習得も夢ではないだろう。

 

けれど、主観として。夏油の潜在能力には、何処か底があると感じた。夏油が自分に枷をつけているとか、そう言う話ではなくて。

“強くなるため“とかではなく、“五条の隣に立つため“に呪術師をやっているのではないかと、最近そう感じるようになった。当然、呪術師をやる理由は千差万別だ。だからそれも肯定されて然るべきだろう。

しかしながら。

今のように、五条と夏油が2人で(・・・)『最強』ではなく。

もしも五条が1人きりで(・・・・・)『最強』になってしまった場合。彼が五条の隣に立つことが出来なくなってしまった場合。

 

(夏油は、どうするのだろう)

 

俺のこの意味を持たない思考に、何か理屈があった訳ではないのだけれど。あの2人が『最強』であり続けるのには、制限時間があるような気がした。

 

 

 

「おーい、どした?」

「どこか怪我でもしたのかい?もしそうならすぐに硝子に診てもらおう」

「今回は割増し料金貰っちゃうよー」

 

3人がこちらに振り返る。どうやら思考の海に潜り過ぎる余り、足を止めてしまったようだ。駆け足で彼らへと向かっていく。

 

「いや、問題ねえよ。ちょっと考え事してただけだ。それより五条、高専戻ってからも模擬戦頼むわ。術式の幅を広げたい」

「仕方ねぇ〜なぁ〜。ジュース奢りな?」

「おけ、夏油さんにツケといて」

「申し訳ないが厳しいかな」

「えー。先週奢った分のお返しって事で頼むっすよ」

「申し訳ないが厳しいかな」

「夏油、再放送してる?」

 

強情だなこの前髪ヤロー。

 

「ようし、こうなったら最終奥義だ」

「コイツ最終奥義出すの早くね?」

「祚咫の場合、最終とか奥義とか関係なく一つしか技ないからね」

「硝子ちゃん静かに!ほら、五条と硝子ちゃんも手出せ。じゃんけんすんぞじゃんけん」

「はぁ?!何で俺もなんだよ!」

「え、私も?」

 

この場にいるんだから当たり前でしょ。そこんとこどう思うよ夏油さん。

 

「その通りだ。まさか逃げるのかい?悟も硝子も随分と及び腰だな」

「誰が逃げるか!やってやろうじゃねえかよ!」

「なんでコイツこんなチョロいのよ。一周回って心配になるよ私は」

「悟はその内詐欺に引っかかりそうだね」

「単細胞は辛いな。硝子ちゃんに脳味噌治して貰え」

「どっからどう見ても超多細胞生物だろうがよ!単細胞はテメェの方だ瓊弌!」

「五条、その発言が単細胞だって気づきなよ」

 

あ、硝子ちゃんの正論パンチが刺さった。五条は納得行ってない様子だけど、この口論じゃお前に勝ち目ないからな。

 

「はーーー??どっちかっつとアホみてえな前髪してる傑の方が単細胞じゃん。ファッションセンスが単細胞だろ明らかに」

「は?もう一度言ってくれるかい悟」

 

センスに細胞もクソもないだろ。あーあ夏油怒らせちゃった、俺知ーらね。

 

「やべ、逃げようぜ硝子ちゃん」

「そうしよ。戦うなら帳下ろせよ、あと私は治療しないからな」

「「えー、そこをなんとか」」

「ずぇっっったい嫌だね」

 

さっきまで考えていた悩みなんて、もうどこかに消えてしまっていた。

 

こんな、毒にも薬にもならないような話を続けることが、どんなものよりも美しく、大切に思える。4人でバカみたいなことをして、笑い合って。肩を並べて日常を歩くその時間が、俺は大好きなんだ。

 

「そういやまたレポート再提出喰らったんだけど。俺『最強』なのに」

 

いや『最強』関係ねえだろ。なんでもかんでも『最強』って言っときゃ良いと思うなよ。

 

「てか五条、良く『最強』って言うけど誰のこと指してんの?」

「んー?俺と傑?」

「いーや俺わい!」

「瓊弌が『最強』?ククッ、それはちょっと、流石に……ブフッ」

「ちょっとそこに直ってもらっても良いですか、夏油さん。今すぐその前髪切り落としてあげます」

 

こんな時のために持っておいてよかったバリカン。チョークスリーパーで動きを止め、スイッチを入れていざ断髪。

 

「いやいや、それは流石に遠慮しておくよ。……いや、ちょっ、本当にやる気かい?!ちょ、力強!」

「高専のトレーニングの成果が出てますねえ!!」

「ストップ、ストップ!ギブギブギブ!」

 

あ、五条と硝子ちゃんに置いてかれた。前髪をカットする寸前で夏油をパッと放して、俺は2人の下へ駆け寄る。自由な身となった夏油も急いでついてくる。

 

「それ私も入ってないんだけど」

「硝子は最強ってより最凶って感じだわ」

「おい、どう言う意味だ五条」

「はあ、はあ……。ふふ、まあ私自身別に『最強』とは思っていないさ。精々悟の右腕くらいかな」

 

息切れてんぞクソ前髪。せめて息整えてから喋れ。

 

「ほーん?……じゃあ俺五条の左腕で」

「何言ってんだ瓊弌(この馬鹿)は」

「冬の寒さで頭がやられたんだよ。もう春だと言うのに可哀想だ」

「黙れや高身長共。五条が本体なんだろ?んで夏油さんが右腕で、俺が左腕。ほら完璧じゃね?」

「硝子はどうすんのさ。ハブるつもりか?」

「そうだそうだー。私が悲しむぞー」

 

硝子ちゃんもいたか。両腕は埋まってるから……。

 

「えーと硝子ちゃんは……両足?」

「何それ、ウケる」

「…………」

「どうした、悟?」

「成る程、それで俺の完全体が完成って訳か……!」

「良く分かってんじゃねえか五条!!」

「ああ、悟が瓊弌に洗脳されてしまった」

「もう私でも治せないよアレ」

 

 

ふと、会話が途切れた。沈黙に耐え切れずに吹き出したのは、誰だったか。

 

「よし。じゃあ俺たちは今から、4人で『最強』だ!俺の手足になる準備は良いか。傑、硝子、瓊弌!」

「はは、了解だ」

「はいはい、分かりましたよ次期当主様」

「面倒くせえけど、五条がこうなった原因俺だしな。ま、程々に頑張るさ」

 

俺たちは嫌々ながら五条の指示に従う。けれど、俺を含めた4人の顔にはいずれも笑みが浮かんでいた。

……4人で『最強』、か。いつまでも、そうありたいな。来月からは後輩が出来る。再来年も、その次も。そして俺たちは否が応でもいずれ大人になる。高専を卒業したあとは、もしかしたら別々の道を歩むことになるかもしれない。

けれど。

 

「また立ち止まって何してんだよー」

「もしかして、本当に頭がやられてしまったのかーい!」

「早くしないと置いてくよーマジで」

「分かった分かった、今行くから待てって!」

 

3人に再度急かされて、俺は走り出す。

 

願わくば、この青い春が、何処までも続きますようにと、そう祈って。




春を歌にして  buck number(2009)


ここまで読んで頂き誠にありがとうございます。この話で、一先ず一年生編は終了となります。
このような拙作にお気に入り登録、感想をいただけて大変嬉しく思います。返信出来てはいませんが、本稿を作成する上で参考にさせて頂いております。重ねてお礼を申し上げます。
次話からは懐玉・玉折編へと入ります。これからもご愛読頂けますと幸いでございます。長々と話してしまいましたが、何卒よろしくお願い致します。

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