同好会メンバーに愛され過ぎた侑ちゃん死亡ループ 作:ぱすたすきい
第1幕 ふりだし
「私だけの侑ちゃんでいてよ・・・ッ!!」
背後から歩夢がそう叫ぶ。
暗がりの部屋で、歩夢は覆いかぶさるように私はベッドに押さえつける。
そして・・・僅かな鉄の香りが鼻につくのを感じた後、腹部への鋭い痛みが走った。
「せつ菜ちゃんの方が大事なんだね・・・ずっと一緒にいてくれるって約束したのに・・・!」
さっきの怒声とは対象的に、消え入るような歩夢の声。
全身に悪寒が走り、消えゆく意識の中で聞いた最後の言葉がそれだった。
・・・・・・。
◆
「――――歩夢・・・っ!」
勢いよく覚醒する。
目の前には見慣れた景色。
「痛っ・・・って、あれ・・・?」
腹部に走るはずの激痛がない。
「ここ・・・部室?」
さっきまではたしかに夜だった。
一瞬ここは夢の中だと錯覚したが、窓からの日差しが肌を突き刺す感覚が、妙に現実味を帯びている。
「私、たしか歩夢に押し倒されて、それで・・・」
ダメだ、まだ意識が朦朧として考えることができない。
そう思った刹那、三度のノック音と共にドアから誰かが入ってくる音が、私を再び現実へ戻す。
「お疲れ様です、侑さん 今日はもう部室にいらしてたんですね」
「せつ菜ちゃんも今日は早いんだね」
生徒会長であり、スクールアイドル同好会の部員でもある「優木せつ菜」は、そう言って私の対面に座る。
そして、机にの上に下ろしたときに揺れるほど重そうな鞄の中から、山積みの書類を取り出し、こう続けた。
「私も生徒会の作業が中々終わらなくて・・・部室の方が捗る気がしたので、ここで作業しようかなと」
そう言いながら、彼女は鞄の中から筆記用具を取り出し、筆を走らせる。
私の目の前にも、似たような物が置いてあった。
書きかけの譜面と、いつも使っているシャープペン。
ここでようやく、今の状況に整理がついた。
なるほど、たしか私もおもむろに部室で作詞したくなって、ここにいたんだ。
「奇遇だね、私も音楽科の教室だと落ち着かなくてさ」
じゃあ、さっきまでの出来事は一体何だったんだ。
やはり夢・・・?
いや、あれは現実だった。
確かに歩夢は私をベッドに押し倒した。
力強く。
そして、私の腹を刺した。
深く、深く・・・。
最期に聞いた、歩夢の震えた声、歩夢の歪んだ感情、
暗がりの部屋、すべてが真実だった・・・はずだ。
「侑さん、やはり具合が良くないのでは・・・? 私が保健室まで・・・」
「う、ううん、平気だよ」
せつ菜ちゃんが心配そうに見つめてくる。
仕事の手を止めてまで、私の様子を伺い心配してくれる彼女に罪悪感を覚える。
私はもう、夢のことについては考えないことにした。
そうだ、あれはただの白昼夢だったんだ。
◆
ようやく譜面が形になってきた頃には、もう日が落ちていた。
集中し過ぎて時間を忘れてしまうのは私の悪い癖だ。
「せつ菜ちゃん、頑張ってるね」
「はい、もう少しで終わると思います・・・」
一方の彼女は、まだ作業が終わっていない様子だった。
山積みになっていた書類も、ようやく半分が無くなってい様子だ。
「そういえば・・・今日は誰も部室に来ないね」
ふと、同好会のみんなのことが気になった。
部室に寄らないで各々の練習に向かうことはしばしばあったが、全員が全員、部室に来なかったことは一度も無かったはずだ。
そんな見慣れない光景に少し違和感を覚える。
「・・・侑さん」
彼女が口を開く。
「つらい気持ちは分かりますが、目の前の現実を受け入れてください・・・」
彼女にしては珍しく強い口調でそう言う。
現実・・・? 何の。
「みなさんは・・・スクールアイドル同好会は・・・もう、」
――無くなったのですよ。
そう続ける彼女。
どういうこと・・・?
理解ができない。
あまりに多くの現実の層が重なり過ぎている。
分かりたくない。
だって・・・私は――――。
「侑さん・・・歩夢さんは、もうこの世界にはいないんですよ」
――――そして目の前の景色が歪んだ。