同好会メンバーに愛され過ぎた侑ちゃん死亡ループ 作:ぱすたすきい
重いまぶたを開ける。
白い天井。
手に繋がれた点滴を見るに、私は今、病院にいるらしい。
投与されている薬らしき液体の影響なのか、みるみるうちに感覚が覚醒して行く。
「侑・・・先輩? め、目が覚めたんですね!」
しずくちゃん・・・?
「先生を呼んできます!!」
「待って・・・」
声を振り絞る。
私が目を覚ましたらすぐにナースコールするよう言伝を頼まれたであろう彼女を無理やり静止する。
ここで看護師を呼ばれては、また目の前の出来事がうやむやになるのではないかという恐怖があった。
そんな私の気持ちを察してくれたのか、彼女は今の状況を説明してくれる。
「侑さん、ここは学校の近くにある病院です。 もう大丈夫ですから、安心してください・・・」
「私・・・気を失っていたの?」
「はい、部室で倒れたと、せつ菜さんがおっしゃっていました」
「そっか・・・」
「せつ菜さんは、同好会のみんなを呼びに向かっているところです」
しずくちゃんの柔らかい声を聞いて、ようやく今を実感して安心する。
加えて彼女は、私の両親がここに向かっている旨も教えてくれた。
「ねぇ、しずくちゃん・・・ひとつ、良い?」
「どうかしましたか? やはり先生を呼んできましょうか?」
私はそう言う彼女に首を振り、一度息を呑んでから話を続ける。
気を失う前、せつ菜ちゃんが言っていたアレの真偽を確かめるために・・・。
「歩夢は・・・歩夢は今どこにいるか、知ってる・・・?」
そう告げ終えた瞬間、辺りに一瞬の静寂が訪れ、鼓動の音がハッキリと聞こえるようになる。
彼女の方を見ると、うつむき加減に垣間見える表情が曇っているのが分かった。
「侑さん・・・」
重い口を開くように、彼女はこう続けた。
「歩夢さんは・・・もういないんです・・・」
「どういう・・・こと?」
唇を噛みしめる。
彼女の返答への覚悟を決めるために。
「歩夢さんは・・・自殺しました・・・」
――――え――――――――。
一瞬理解が追いつかない。
「大切な人」と「自殺」という言葉がリンクしない。
まるで病室の隅から自分のことを俯瞰しているような、そんな浮遊感に陥る。
「先輩・・・お辛いのはよく分かります、私だってそうです」
「でも、これは受け入れなきゃいけない事実なんです・・・!」
彼女にしては強い口調は、私を説得しようとするためのそれだった。
「お願いです先輩ッ! しっかりしてくださいよ・・・ッ!」
そのときの彼女の表情は、言葉とは裏腹に悲しみに満ちていた。
「しずくちゃん、ごめん・・・」
「私、歩夢がいなくなったことを受け入れられなくて、現実逃避してた」
そうか。
目の前の景色が現実かどうか、そんなことはどうでもよかったんだ。
それはただ、自己暗示のための自問自答であり、
私はただ、幻想だと思い込もうとしていたんだ。
「歩夢の死を――――私は自分の死に置き換えていただけだったんだ。」
「え・・・? 先輩、今なんて・・・」
彼女の声をかき消すように、ドアの滑る音がして、見慣れた誰かが病室に入ってきた。
「はぁはぁ・・・侑、先輩っ・・・!? はぁ・・・」
しずくちゃんも驚いた様子で、肩で息をするかすみちゃんを見ていた。
「はぁはぁ・・・先輩が倒れたって聞いて、かすみん、急いで来て、それで・・・はぁはぁ・・・」
「か、かすみさん・・・!? みんなが集まるまでロビーで待っているはずでは・・・」
「なに言ってるのしず子・・・そんなの待っていられすはずないでしょ!?」
「歩夢先輩の後に侑先輩が倒れたって聞いたから・・・居ても立っても居られないのが普通でしょ!?」
こんなにも感情をあらわにするかすみちゃんを初めて見る。
そして彼女はやりどころない怒りを撒き散らした後すぐに、申し訳無さそうに壁へと目をそらした。
しばらくの沈黙が続いた後、最初に口火を切ったのはしずくちゃんだった。
「私、病院の人を呼んできますね。 後、ロビーにいる同好会のみんなにも侑さんが目を覚ましたと伝えてきます」
本来なら吉報であるはずだが、彼女は重苦しい表情のまま病室を後にした。
かすみちゃんも曇った面持ちのまま病室の隅で、なにかもの言いたげに立っていた。
「先輩、平気ですか・・・?」
「・・・うん」
言いたいことを飲み込んで出したような言葉だった。
私もそれに対して強がりな返答をしてしまう。
当然だ。
家族のように大切な仲間が突然世界から消えてしまったのだから。
私は、しずくちゃんのことも、せつ菜ちゃんのことも不安にさせるような自分よがりな妄想に浸っていたのだから。
もうこれ以上、大切な後輩のことを不安にさせてはいけない。
「侑先輩・・・歩夢先輩の ”遺言書”、見たくありませんか?」
「なに・・・それ?」
見慣れていても聞き慣れないその単語に一瞬思考が固まる。
しかし、歩夢の死の真相が知れるかもしれない、甘美なその情報に興味を隠せなかった。
「歩夢先輩の部屋に置いてありました」
なぜ、かすみちゃんがそれを――?
そう顔に出てしまっていたのであろう。
かすみちゃんは目を細めながらこうも言った。
「歩夢先輩が亡くなっているのを一番最初に見たの、”私”なんです」
悪寒が走る。
今まで聞いたことのないかすみちゃんの声色。
かすみちゃんは、何かを知っている。そう、確信した。
「今すぐ見たい、それ」
「なら付いてきてください」
即答だった。
まるで私がそう答えることが最初から分かっていたかのように。
「歩夢の部屋に行くの・・・?」
「そんなわけないじゃないですか。ほんと、しっかりしてくださいよ先輩」
「歩夢先輩の部屋は、今警察の人でいっぱいです」
なんで警察・・・?
だって歩夢は自殺したんじゃ――
「バレないように、裏口から出ますよ」
――そう言いかけたが、いつになく大きく見えるかすみちゃんの背中を見て、言わんとする言葉を飲み込んだ。
病室を出る間際に壁に掛かった時計が目に入る。
時刻は11時を回っていて、廊下に出ると辺りは薄暗く、閑散としていた。
高校生は本来補導される時間だが、事情が事情ということもあって、特別に許してくれているのかな。
私がそんな平凡を考えている最中も、かすみちゃんはさながらスパイ映画のように壁を伝って、出口へと向かっていく。
1階まで降りたとき、ふとロビーで待っていてくれているらしいみんなのことが気になった。
こんな時間にも関わらず、今も私のために待っていてくれてるんだよね。
「みんな、心配かけてごめんね・・・」
仲間たちの好意を尻目に、私はかすみちゃんと病院を後にした。