妖精の寵児   作:イベリ

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呪いの王

『─────美味しい!オオトロ!チュウトロ!エビ!』

 

『いい食べっぷり〜、そういえばお金もって来なかったんだっけ?』

 

東京、銀座の有名寿司店にて、アーサーは悟の金で寿司を一心不乱に口に運ぶ。

 

初めて食べる生の魚に、食べる前は少し抵抗があったようなアーサーだが、口に運べばすぐさま目を輝かせた。

 

『うん、お金なんて使った事ないから持ってく習慣がなくてさ。お母さんがくれたお小遣いならあったんだけど、使えないって言われちゃって。』

 

あー、なるほどねーと相槌を打った悟は、そりゃダメだよと続けた。

 

『あー、日本では円が使われてるから、ポンドは使えないんだよ。ポンドから日本円に変えることね。』

 

『そんなことできるのか......そっかー、じゃあこれ換金すればもっと美味しいご飯食べれるかな?』

 

そう言って見せられた袋の中には、大量のポンド紙幣がこれでもかと詰め込まれていた。

 

『あー、これだけ換金すればしばらく暮らしていけると思うよ。』

 

『お母さんが「これだけあればなんでも買えるでしょう、楽しんできなさい」って言って持たせてくれたんだ〜。』

 

『そっか〜。アーサーってもしかして金持ち?』

 

『普通じゃない?バーミンガムの郊外に別荘があるけど、お母さんの!』

 

『ロンドンじゃないんだ』

 

『いや、ほら……あそこは空気汚いから嫌なんだよね。ロンドンスモックは僕たちには毒すぎる。』

 

『なるほど〜?妖精が綺麗好きってイメージあながち間違ってないのか......あれ?ロンドンスモックが問題になったのって70年くらい前じゃなかった?』

 

『何言ってるの、去年でしょ?』

 

なんか時代おかしくない?と考え込んでいると、ついに用意されていた寿司が無くなった。

 

『おっ、食べ終わった?なら、そろそろ行こうか。』

 

『OK!あ、日本だとえっと…「ゴチソウサマ?」だよね?』

 

『大正解!さ、それじゃ行こうか!あ、これ寮戻ってからも食べれるように包んでもらったから。』

 

『ほんと!!やった!ヴィヴィアンも一緒に食べようね!』

 

ニッコリと笑って仲睦まじく踊る2人に、仲良いねぇ〜と悟は笑った。

 

コウセンとやらに向かうと聞いていたアーサーだったが、悟のポッケから機械音が鳴り響き、肩を跳ね上げる。サッと取り出した悟の手に握られていた薄い板に、アーサーは首を傾げた。

 

『何それ?』

 

『え?スマホ知らないの?マジ?ま、遠くの人と話せる道具さ。』

 

オド(精霊力)もなしにつかえるの?』

 

『その〜オド?よくわかんないから後で教えてくんない?』

 

それだけ言って、悟は電話に出る。

 

「お疲れサマンサ〜!伊地知!どったの?」

 

悟が電話をしている中、退屈になったアーサーはヴィヴィアンと話しながら、寿司の中身を見ながらこれは何で〜と喋り始める。

 

『ジュジュツコウセンってどんなとこかなぁ?楽しみだね!ヴィヴィアンは中トロが好きだと思う!最初は生で食べるのはちょっと気持ち悪かったけど、食べちゃえば全然だった!』

 

子供特有の飛び飛びの会話にも、うんうんと優しく頷きながら、ヴィヴィアンはアーサーの話を楽しそうに聞いていた。すると、悟が面倒くさそうに頭を抑えたのがアーサーの目に入った。

 

『サトル、どうしたの?』

 

『ん?あー、気にしなくていいよ……いや、そうだな…アーサーなら余裕か。』

 

何やら考え込んだ悟だったが、次の瞬間にはいつものように笑いながらアーサーにオネダリをした。

 

『今から言うところに行って、さっきみたいに呪霊祓ってくれない?僕の生徒がピンチみたいでさ。まだ用事があって行けないんだよね。勿論!報酬は僕から出すし、美味しいお店も紹介するよ?』

 

『OK!わかった!場所は?あ、地図とかがあればそっちがいいかな。』

 

『あー、ココ。この少年院…って言ってもわかんないか。悪いことしたヤツが入る牢屋みたいなものだよ。』

 

『それは確かにジュレイがいっぱい生まれそうな場所だね。』

 

『そうなんだよ、ちょっとやばいらしくてさぁ。』

 

『わかった。すぐ行こうか──────【聖母の面影】【蜃気楼の丘】【果てなき(ユメ)】』

 

二つ返事で了承したアーサーは、地面に手を当てて、詠唱を開始。3節の詠唱は、母より賜った戦車を呼び出す合言葉。

 

ぶわっと風が起こったと思えば、濃密な圧迫感が悟の肌を突き刺すように周囲に満ちた。

 

(やっぱりモヤがかかってて見えない…僕の目で見えないなら、本格的に呪力とは全く関係ない力ってことかな。性質は限りなく呪力に似てはいるけど........いや、逆なのか?呪力がこの力に似ている?...分からないなぁ...)

 

五条悟の目は特別製。あらゆる呪力の流れを見抜き、呪力により扱われる特殊能力である【術式】を直接見ることが出来る。しかし、悟の目にはアーサーの力の奔流を正確に見ることは叶わなかったが、何かを召喚しようとしていることはわかった。

 

『アーサー……これは、何を呼んでるの?』

 

『お母さんに貰った船だよ!どこでも行けて、すぐに駆けつけられる!』

 

バチバチと空気が弾ける音ともに亜空から呼び出されたそれは、バイクだった。

 

『え、バイク?』

 

『そう!お母さんが「船も現代風に調整しておきました。あなたの好きなハーレーダビッドソンです」ってかっこよくしてくれたんだ!』

 

身長130cm位の少年がバイクに跨る姿は、ある意味新鮮。ちんちくりんな気もするが、何故か似合ってしまっているのは、彼の紅顔の美少年的な見た目故だろう。

 

タンデムシートに跨りアーサーに抱きつくヴィヴィアンも、完璧な造形故に、1枚の絵画として成立する位には様になっていた。

 

『じゃあ!行ってくるー!』

 

ブォン!と吹かした瞬間、亜空に飲み込まれて消えたバイクに、悟はマジかと声を出してしまった。

 

呪力は欠片も感じない、エーテル体のようなヴィヴィアンも、呪霊では無いことは確実。

 

彼を包み込むような力の存在そのものが呪力とは無関係かはさておき、未知の力であることはわかった。

 

呪霊ごと領域を浄化したあの剣。悟の目には何も情報として見えなかったため、明らかに呪具では無い。

 

呪具とは、呪いを宿す道具の総称。人が呪いを宿す場合もあれば、自然にそうなったり、呪いを宿した人間の体の一部だったりする。しかし、あの剣は全くの別物。

 

「呪いじゃない、人間や呪霊なんかよりも高位の存在による祝福……妖精、その祝福なのかな。とんでもないものを抱えちゃったかなぁ。」

 

ま、敵になるよりはマシでしょう!と切り替えた悟は、自身の仕事に向かった。

 

 

 

『─────あ、着いた。行こ、ヴィヴィアン。』

 

船───────プリドゥエン・モルガーナから降車した2人は、入口らしき場所に向かって走る。

 

すると、その道中、脂汗をかきまくった痩せ型の眼鏡をかけた男性が、車の窓越しにこちらを見て酷く焦ったように駆け寄ってきた。

 

「子供!?君たち!今は危ないのでこの付近に近寄っては行けません!」

 

何やら喋りかけられている様だったが、如何せん言葉が理解できない。しかし、悟よりも随分と小さいが、同じ力を感じた故に、悟の仲間だろうと手を振った。

 

『あ、もしかして、サトルが言ってたイジチ?』

 

「え、英語…随分古い言い回しですね…『な、なぜ私の名前を?それに、サトル…まさか、五条さんの言ってた援軍って君ですか!?』

 

『うん!サトルに頼まれて来たよ!』

 

「何を考えてるんだあの人…!呪力もないこんな、小さな子供に!『とにかく!あの人の援軍とは言え、今は入ってはいけません!』

 

『でも、中に入らないと、悟の生徒が─────ヴィヴィアン…今、中の何か消えたよね?』

 

コクリと頷いたヴィヴィアンの言う通り、この少年院に着いてからずっと感じていた、呪霊の気配が消えた。代わりに、他の禍々しい何かが動いていることがわかった。

 

『ねぇ、なんか、ちょっと強いの出てきたよ。なんだろう、変な感じ。気配がダブってて...何か被ってるみたいな…知ってる?』

 

『気配が…?……いや、まさか!宿儺が!?』

 

酷く焦った様子に、不味い自体なんだなということだけはわかったのか、アーサーはヴィヴィアンに接続許可を求める。

 

『ヴィヴィアン、聖剣を────え、たまには魔術で戦え?そんなこと言ってる場合じゃ……でも雨降ってるし、被害とか考えたらちょうどいいのかな…?』

 

うんうんと唸りながら、よしっ!と決心して、アーサーは詠唱を開始。

 

『【(さざなみ)の月】【水面の逢瀬】【契りの時雨】【湖の乙女】』

 

4節の詠唱により、異空から出現した黄金の雫がアーサーの手元に滴り落ち、4つの指輪が現れる。それはひとりでに宙に浮かび、アーサーとヴィヴィアンの左手親指と薬指にひとつずつはめていく。

 

(なんだろう、この感じは……呪力じゃない……呪力よりも、暖かくて…優しい…?)

 

その光景を見ていた伊地知は、不思議な温かさに包まれていた。

 

『よし、行こう。』

 

『ま、待ってください!まだ行っては───!』

 

『車の中の人、放っておいていいの?』

 

『─────ご、ご武運を!』

 

伊地知は少年のただならぬ気配と、気迫。そして、五条悟の推薦であることを信じ、彼を送り出した。

 

その瞬間、向こう側にあった殺意が顕著に膨れ上がった。

 

急がなければと、背後に回ったヴィヴィアンと左手を重ねれば、2人の手の間から零れ落ちた黄金の水滴が、ポチャンっと美しいクラウンを作った。

 

水滴は瞬く間に広がり、水溜まりを作り出す。その水面は、ある湖の一部を顕現させる。

 

トンッと飛び上がったアーサーは、足元から湧き出る水を操り、滑る様に目的地に急行した。

 

 

 

 

 

「───────もう怯えていいぞ?殺す。特に理由は無い。」

 

「…………」

 

目の前の圧倒的驚異に向けられる殺意にも、不思議と落ち着いた心持ちで居られた。

 

黒髪の青年─────伏黒恵は、立場が変わったのだと、冷静に理解した。

 

呪術高専の同級生であった、虎杖悠仁、釘崎野薔薇と共に特急案件にぶち込まれたと思えば、今度は呪いの王と呼ばれる化け物に学友を人質に取られ、それを相手にしなければならない。本当に、彼にとってこれほどの厄日はそう無い。

 

(……落ち着け…奴に心臓を治さなければならないと思わせる…できるかじゃない、やるんだ…!!)

 

静かな決心と共に燃える瞳を見にして、宿儺は嗤った。しかし、次の瞬間、なにかに気がついたように背後に勢いよく振り向いた。

 

「……なんだ?」

 

『────おーい!』

 

「子供…!?」

 

「………厄介なのが来たな。」

 

ストンッと悟の生徒らしい人の前に降り立ったアーサーは、怪我をしているようだった青年の体をぺたぺたと触る。

 

『サトルの生徒でしょ?平気?怪我してたら治してあげてって言われてるんだ。うん、怪我はなさそう。』

 

「え、英語…っ…!?」

 

『そうだ、言葉通じないんだよね…──────んー......これでどう?聞こえる?」

 

「あ、ああ…お前一体…日本語喋れたのか。」

 

「ふふんっ、お母さん仕込みの妖精術だよ!」

 

母から教わった技術を応用し、対象の脳に認識できる言語へと無理やり変換して、言語の壁を取っ払う。

 

「サトルに言われて来たんだ。生徒をお願いねーって───────それで、君は、敵でいいんだよね。」

 

ひとしきり喋り終えて、律儀に待っていたらしい上裸の男を睨んだ。

 

「魂の淀みも、呪力…だっけ。その力も、サトルとか、この人と違って、穢れきってる。僕は、そんな人間を見た事がない。君は、ナニ?」

 

薄桃色髪の青年は、ふむ、と2人を品定するように眺めていた。すると、ヴィヴィアンがアーサーを守るように前に出て、今までに無いほどの怒りを顕にした。

 

『───────我が愛し子を、穢れきったその眼で見る事は許さぬ。』

 

全員の頭の中に直接響くような、力強い女性の声は、普段あまり声を出さないヴィヴィアンの物。珍しさと、普段とは違う厳しい口調に、アーサーは目を見開いた。

 

「...え、ヴィヴィアン?」

 

「…ヴィヴィアン……ほう…外つ国の妖精か。」

 

「よ、妖精…?」

 

『両面宿儺......まさか、魂を分割し、自分の1分に封じ込めていたとは...となると、あの子は、失敗したのですね。』

 

嘆かわしい、と言うように表情を侮蔑のそれに変えたヴィヴィアンに、アーサーは尋ねる。

 

「リョーメンスクナ?知ってるの?」

 

『えぇ、貴方が産まれる少し前(・・・・・・・・・・)に、ジパングで暴れていた…そうですね、黒魔術師です。』

 

「黒魔術……お母さんが前にちょっと教えてくれたヤツ?ガンドとか!」

 

『その通り。』

 

「ほう、外つ国にも名が知れ渡っていたか。」

 

「有名なの?」

 

『人ながら、落ちた妖精の呼び名を冠される位には、と言っておきましょう。』

 

「うへ〜...今の状態で落ちた妖精(ヴァンシー)とか面倒だなぁ......よく知ってたねヴィヴィアン。」

 

『当時、この国に面白い人の子がいましたので、あの子は見所がありました。人々には天の使いと呼ばれていましたが、力は我々に似たものでしたよ。』

 

「クククッ……外つ国の妖精はまだ喰ったことがなかったか...どれ、少々味見でもするとしよう。」

 

下卑た視線で2人を見て嗤った宿儺に、ヴィヴィアンは冷たくあしらった。

 

『───────痴れ者が。』

 

そう、少しの怒りと共に振るわれたヴィヴィアンの左腕と共に、宿儺の周囲の雨粒が意志を持ったように広がり、水の牢獄に避ける間も無く宿儺を閉じこめる。

 

水中で術式を展開しようと呪力を練った宿儺だったが、自分の体の変化に気がつく。

 

(呪力が…乱される...いや、これは……中和されているのか?)

 

『人の生み出した神秘も侮れませんが、所詮その程度。』

 

その一部始終を眺めていた青年─────伏黒恵は、あっという間に捕らえられた宿儺に呆気にとられていたが、すぐさま身体のことを思い出し、アーサーにすがった。

 

「まっ、待ってくれ!アイツの…!虎杖の体は壊さないでくれ!」

 

『……残念ですが、人の子。あの体は活動を停止する寸前です…魂が未だ体に定着しているのが奇跡です。余程強靭な肉体と精神力を持っていたのでしょう...最後の時間くらいは、融通してあげます。』

 

「……そう、か……わかった。」

 

激昂しそうになった恵は、ヴィヴィアンの悲しげな瞳を見て、心を落ち着かせた。

 

覚悟していたことだろうと、己の中に落とし込んだ。落とさなければ、やって行けなかった。

 

そんな折りに、いち早く宿儺の変化に気がついたアーサーは、悲痛な程に叫んだ。

 

「ヴィヴィアン!!」

 

『問題ありません。』

 

パシャッと水が跳ねる音が聞こえたと思えば、ヴィヴィアンの目の前に水の盾が展開。盾が不可視の斬撃を防ぐ。

 

『......なるほど、中和する速度を上回る速度で呪力を生み出し、術を発動させたというわけですか。しかし、これではアーサーの練習になりませんね。やめです、やめ。』

 

「え、僕が戦うの?」

 

『勿論です。さぁ、アーサー、やりましょう。制御は問題ありませんね?』

 

「うん!」

 

水牢を解いたヴィヴィアンに、宿儺は今までの油断しきった態度を止め、呪力と殺意を滾らせた。

 

「......貴様は殺す、次にその小僧だ。」

 

そう凄んだ宿儺の言葉に、ヴィヴィアンは上品に笑いながら、嘲るように嗤う

 

『それしか言えないのですか?1000年しか生きていない小僧が、大口を叩くものではありませんよこれから、アーサーに手も足も出ず祓われるだけですから。』

 

次の瞬間、宿儺の体は激しい水の砲撃に晒され、押し潰された。

 




こういう能力難しいやつの二次創作書くの練習しないとなぁ。
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