01「自己紹介はそれだけです」
【0】
「―――なぜだ、貴様と私で何が、
少女の悲痛とも取れる叫び声がアリーナに響く。警告音が鳴ると同時にブースト。数瞬先までいた空間を、紫電を帯びた砲弾が通り抜けていく。当たらない。先ほどから致命傷になりえる攻撃は全て、躱されるか事前に潰されている。その事実に少女はギリッと奥歯を強く噛みしめる。
敵は自分と同じ
グレネードは強力な武装だが、撃てば硬直が発生する。散々手こずらされたが、これで決める・・・! 回避など間に合わない必殺のタイミングと間合い。少女は勝利を確信し口元を歪めるが、次の瞬間には驚愕のそれへと変わる。振り下ろした左腕が
「パイル、バンカー・・・!?」
目に映るのは鋼鉄製の杭。炸薬によって打ち出されたそれが、左腕を弾いたのだと理解するのと同時に、リロードの完了したショットガンがこちらに向いていることにも気がつく。舌打ち。クイックブーストを使い緊急回避。距離を取って仕切り直す。
「クッ・・・性能では私が上回っているはずだ。なのになぜだ、なぜ届かない・・・! 貴様と私とで何が違うと言うのだ!」
少女が吠える。目の前の敵に向かって。
「
【1】
―――木星圏コロニー居住区某所。
「レイヴン、IS学園に行って学生生活を送れ」
「・・・なんて?」
思わず聞き返してしまいました。だって、仕方がないでしょう? ソファーでテレビを見ていたら、唐突にそんなことを言われたのですから。近くに来たと思ったら唐突な話の切り出し方をしてきた人に・・・我らがハンドラー、ハンドラー・ウォルターに顔を向けます。わたしは座っていて、彼は立っているので自然と見上げる形になりますね。白髪交じりの灰色がかった髪。シックなグレーのスーツに、黒い杖。鋭利な刃物を思わせる鋭い眼光。表情の裏にある感情を読ませないポーカーフェイス。彼の人柄を知らない人が見れば冷酷なあるいは厳格な印象を受けるでしょう。まあわたしは違いますけど。わたしたちのハンドラー今日もイケてるな・・・とか思ってますけど。
「IS学園に行って学生生活を送れ」
先程も聞いた言葉をもう一度言うウォルター。わたしは少し考えて
「それって依頼? それともウォルターの願望ですか?」
「依頼だ」
そうなら最初に言って? という言葉が喉まで出掛かりますが、飲み込みます。わりと直球なせいで言葉が足りない時もあるのがウォルターくおりてぃですから。今更気にしませんとも。ええ。タブレット端末を渡されたので画面を立ち上げて見れば、企業のロゴマークを背景に依頼の内容らしき文章がつらつらと表示されます。えーと、依頼主は・・・
「クレスト系列企業、デュノア・インダストリアルからの依頼だ。場所はルビコン3のグリッド621にあるIS学園。そこでは近く入学式が行われることになっている。お前も新入生の一人として入学しろ」
「入学・・・。それも生徒の一人として、ですか・・・?」
「ああ。手続きは既に済ましてある。先日
判断が早い。もう既にIS学園へと入学する方向で話が進んでいました。依頼を受けるかどうかはわたしに任せてくれるウォルターですが、たまにこうやって受けざるを得ないようにしてくるんですよね・・・。これも今更なので気にしませんが。それにしても、今回の依頼主はデュノア・・・デュノア・インダストリアルですか。ISの量産機や実弾系武装でかなりのシェアを誇る企業ですね。ここの製品は癖が無くて扱いやすいので、わたしもよくお世話になっています。
「お前も知っているだろうが、近頃デュノアはベイラムの勢いに押されてシェアが落ちている。そこでお前にはIS学園でデュノアの主力製品を使い、その性能をアピールしてほしいとのことだ」
「つまりは広告塔になれということですね」
「まあ、そういうことになるか・・・」
それでわたしのような独立傭兵に依頼してくるとは、デュノア・インダストリアルにはそれほど人材がいないのでしょうか。
「IS学園は企業が新型ISテストを行うために、パイロット候補生も合わせて送り込んでいる。更に言えば
「ふむ・・・。つまりは企業のパイロット候補生に喧嘩を売ればいいわけですね」
「・・・。それはやめておけレイヴン」
呆れたようにため息を吐かれてしまいました。結構いい案だと思うのですが。
「レイヴン。IS学園でのお前の名義だが―――」
【2】
―――IS学園1年1組
デュノア・インダストリアルからの依頼を受けてから数か月後。わたしは無事IS学園に一生徒として入学しました。事前の書類審査等もバッチリとパス。入試だって問題なく通りましたとも。
「新入生の皆さん、入学おめでとうございます。私はヤマダマヤ。このクラスの副担任になります。これから一年間、よろしくお願いしますね」
そう笑顔で言うヤマダ先生。童顔なのも相まって小動物チックですね。胸は小どころか大豊ですけど。
それにしてもこのクラス、女子だらけですね・・・。右も左も女子生徒です。かくいうわたしもその中の一人ではあるのですが。ISコアは
「それじゃあ、出席番号で自己紹介をしましょうか」
ヤマダ先生の言葉で廊下側最前列から自己紹介が始まりました。立って自分の名前と何か一言。自己紹介ですか・・・何も考えてなかったですね。わたしのところまで順番が巡ってくるまでに何を言うか考えておきますか。まずは名前ですね。これは外せません。次に趣味や好きなことでしょうか。といっても趣味と呼べるほどの何かがあるわけでもないですが。あえて言うならテレビを見ることでしょうか。・・・いやこれ、趣味と呼ぶには微妙なラインですね・・・。そもそも依頼がない時とかの暇を持て余している時に見ているだけですし。好きなものはもちろん決まっています。我らがハンドラー・ウォルターです。あとはハウンズのお兄さんたちもですかね。あ、依頼と言えばデュノアの製品アピールするんでした。自己紹介ついでに言っておきましょう。
内容が決まったところで、黒髪の少年に順番が回って来ました。彼は緊張した面持ちで「オリムライチカです! ・・・以上です!」と、定型句を口にして儀礼的に頭を下げて上げました。何のひねりもない、それ故に失敗する要素のないテンプレートに則った自己紹介。地味ではありますが、変なことをして自爆するよりかはよほどいいでしょう。とはいえさすがに簡潔すぎたのか、ヤマダ先生が「オリムラくんはエルカノのテストパイロットなんですよ」と補足説明を入れる。エルカノと言えば、ルビコンの地元企業ですね。職人の熟練した技によって、軽さと強度を両立したパーツを造っています。大量生産に向かない分お値段は張りますが。
その自己紹介が終わったあたりで教室のドアが開き、黒のスーツでびしっと決めた女性が入って来ました。その人はツカツカとオリムラ・イチカのいる方へと向かうと・・・バシッと頭を叩きました。って、いきなり暴力沙汰!?
「まったく、自己紹介も満足にできんか、貴様は」
「げっ、黒い鳥」
「誰が伝説の独立傭兵か」
「いてっ」
暴力沙汰二度目。やり取りを見るにどうやら二人は知り合いのようですが・・・それにしてもいきなり人の頭を叩くというのもどうなのでしょう。というかこの女性はいったい誰なのか。
「ヤマダくん、クラスへの挨拶を押し付けて済まなかったな。会議が思ったより長引いてしまい遅れてしまった」
「い、いえ、私も副担任ですからこれくらいは」
「ん、そうか。・・・さて、諸君。知っているものもいるだろうが改めて自己紹介をしておこうか。私がこのクラスの担任となるオリムラチフユだ」
そう名乗るスーツの女性改めオリムラ・チフユ。苗字が同じですね・・・知り合い、いや家族なのでしょうか。どうやらパワーバランスは大分オリムラ・チフユの方に寄っているみたいですが。
「私の仕事は、お前たちのような役立たずたちを役立たずなりに使えるようにすることだ。私のいうことはよく聴け。そして理解をするように。反抗しても構わんが、その分だけタスクは増えると思え。以上だ」
わー、どこぞのレッドガン総長みたいだー。もしかしたらこの人、あのレッドガン出身なのかもしれないですね。怖い。ただ、オリムラ・イチカの方がエルカノ所属であることを踏まえるとあちらとは知り合いなだけという可能性もありますが・・・どちらにせよ反抗的な態度を取ったら愉快な遠足(比喩表現)に連れ出されそうですね。怖い。
「自己紹介の途中だったか・・・。まだ少し時間はある。手早く済ませるように」
「は、はい!」
中断していた自己紹介が再開されます。今度は途中で止まったりせずに進んでいき、わたしの番が来ました。自己紹介の内容は先ほど考えた通りに。
「・・・。わたしは
「誰が自己紹介で企業の宣伝をしろと言った。・・・まあいい、次」
わたしとしては依頼内容に則したものだっただけです。その後、アーキバス所属だという金髪縦ロールの少女が始めた自己紹介ついでの長話をオリムラ先生が強制中断するといったちょっとしたハプニングはありつつ、なんとかチャイムが鳴るまでには全員分の自己紹介が終わったのでした。
→次回予告→
「わたくしはいずれヴェスパー部隊の末席に身を置くもの。そう、エリート! エリートなのよ!」
「いや、キレイな髪だと思ってさ・・・」
「それは・・・もしかしてナンパ、というものですか? オリムライチカ?」