【3】
IS学園では入学式当日であろうと関係なく授業があります。といっても内容は基礎学習の総おさらいといった感じで、事前学習をしていれば復習に丁度いいかな、といった程度ですが。このあたりは事前学習している新入生たちでもイチから勉強する、という学校方針になっているようです。他の生徒はどうか分かりませんが、ISについては動かせるんだからそれでよくないですか? なわたしにとってはありがたいですね。こうやってじっくりと勉強をするというのも新鮮な体験ですし。それはそれとして、机の上にデェンと置かれた五冊の殺人的な分厚さの教科書らしきものは何の冗談かと思いますが・・・。まさかこれの内容全部授業でやるのでしょうか。詰め込みってレベルじゃないですよ。
「―――ISの防御システムはプライマリアーマーとセカンダリアーマー、二重のエネルギーバリアーからなり―――」
教壇でスラスラとテキストを読み上げるヤマダ先生。とても聞き取りやすい声のトーンとテンポです。オーディオブックとか出したら売れそうですね。需要はきっとあると思うんですよね。ヤマダ・マヤの読み上げるオーディオブック。どこかの企業に打診したら実現したりしないでしょうか。
「・・・九城、何かおかしなことを考えているな。ヤマダ先生の授業に集中できんというのなら、私が直々に補習をしてやろう」
「あ、いえ結構です」
「そうか。いまは授業中だ、教師の話は真面目に聞くように」
「はい・・・」
教室の隅で授業風景を見ているかと思えば、おもむろにやって来てそんなことを言うオリムラ先生。あのレッドガン出身か総長と知り合い疑惑がある人の言う『補習』なんて怖くて受けられません。姿勢を正して授業に集中します。周りのクラスメイトたちがそうしているように、ヤマダ先生の話を聞いて重要そうなところはノートにメモを取っていきます。まあ、何が重要か分からないので何かそれっぽい単語をノートに書いてるだけなんですけどね。ISの防御システムとか・・・。いやこれはめちゃめちゃ重要ですね。敵の攻撃を防ぐプライマリアーマーと、操縦者を保護するセカンダリアーマー。特にセカンダリアーマーは強度が高い代わりに発動すると大量のエネルギーを消費する。ISバトル・・・この学園でも積極的に行われている、IS同士の模擬戦闘・・・ではいかにこのセカンダリアーマーを発動させ、エネルギーを消耗させるかが肝要なのです。
「オリムラくん、何かわからないところはありますか?」
「あ、それなら・・・ここがわかりません」
「それはですね」
区切りの良いところまでいったらしく、話すのを一旦止めて教科書とにらめっこをしていたオリムラ・イチカに聴くヤマダ先生。この中で唯一ルビコンの地元企業であるエルカノから来ている彼のことを想ってのことか、単に教科書と睨み合いをしていたから心配になったのか。それはともかく、質問されたことにテキパキと淀みなく答える姿は幼さを感じる見た目とは裏腹に、頼りになる先生という印象を受けますね。
そのまま授業はつつがなく進み、やがて終了のチャイムが鳴ると二人の先生方は教室を後にするのでした。
【4】
「ちょっと、よろしくて?」
「んー?」
「まあ、なんですのそのお返事は。わたくしに声を掛けられるだけでも光栄なことなのだから、それ相応の態度というものがあるのではなくって?」
ナンダコノキンパツ。
それが彼女に抱いた最初の感想でした。この私に話しかけられたのです、光栄と思いなさい? とか
「えーと・・・オルコット? さん? 何の用でしょうか」
「なぜ疑問形ですの」
自己紹介のついでにしていた長話をオリムラ先生に止められていたのが、妙に印象に残っていたからですかね。金髪・・・ことセシリア・オルコットさん。鮮やかな金髪はロールしていて、切れ長のブルーの瞳は目尻がやや垂れ気味。彼女の所属はアーキバス・・・クレストとことさら仲が悪い、という話は聞いたことがありませんが、ライバル企業であることに変わりはないですからね。そのライバル企業の系列会社から来た相手ということで、
「まあいいですわ。あなた、デュノア・インダストリアルの
「ソウナンダ。ソレハヨカッタ」
「・・・馬鹿にしてます?」
「いや、全然そんなことないですけど?」
よく回る舌だ。刺繍でもしたらどうだろうでしょうか。というかですねこの人、あれですね、ただ自慢しにやって来ただけですね。ヴェスパーと言えばアーキバスでも選りすぐりの集められる部隊。エリートといえばエリートなのは間違いありません。いずれはその部隊のナンバー持ちになるとあれば、自慢したくもあるのでしょうね。
「ふん・・・。まあでも? わたくしは
「そうなんですね。すごいですね」
「やっぱり馬鹿にしてますわよね?」
「そんなことないですよ? ほんとですほんと」
教わるならヤマダ先生がいいです。この人に教えを請うたら鼻で笑われそうですし。あなた、そんなことも分からないですの? とか言われそう。それはそれとして、背中に氷ならぬ冷やしミールワームを放り込んだら面白いリアクションを見せてくれそうですね。いま手元にミールワームがないのが悔やまれます。
「それにしても・・・デュノア・インダストリアルからやってくるのがどんなお方かと思っていましたけれど、まさかこんなに小さくて可愛らしいとは思いませんでしたわね」
はー? なんですかこの金髪。やんのかコラー! と荒ぶるミールワームのポーズで威嚇しようと立ち上がりかけたところで、
「席につけお前たち。この時間は実践で使用する各種装備の特性について説明する」
【5】
「風が気持ちいい・・・」
夜。学生寮の屋上で、わたしは涼やかな夜風に当たっていました。入学式に、授業、アーキバスの金髪に絡まれてと、初日にしてはあれこれとありましたね。初めての学校生活1日目で、依頼に関してもまだまだこれからといったところ。そもそもデュノアの製品をアピールできるような機会もありませんでしたし。まあ、それについてはこれからいくらでも機会はあるでしょう。IS学園はISの操縦者を育成するための学校ですから、その中には当然IS実機を使った授業なり訓練なりも含まれています。それに
「学食も美味しかったな・・・」
IS学園は企業が集まってお金を出しているだけあり、IS関連の施設のみならず学生寮や学食にも力が入っています。食堂は面積が広く、座席は数え切れないほどあり、そして何よりメニューの多さに圧倒されます。100や200では済まないほどに豊富な種類の料理は最新型の食用3Dプリンターが出力。最新型だけありそのクオリティも高い。合成肉を美味しいと思う日が来るとは思いませんでした。依頼のために入学手続きを済ませてくれたウォルターには感謝しないといけません。ありがとうウォルター。
「おっと・・・先客か」
「あなたは、オリムライチカ」
「・・・覚えてたのか、俺の名前」
「当然です。クラスでただ一人の男子ですし」
学食に思いを馳せていると屋上のドアが開く音がして、クラスで唯一の男子ことオリムラ・イチカが姿を現しました。彼が着ているのは学園の制服。そういえば、彼と言葉を交わすのは初めてですね。・・・まあ、彼に限らずクラスメイトの大半とは短い言葉の一つも交わしてはいませんけど・・・。ぼっちではありませんよ? まだ初日ですし慌てる時間ではありませんから。
「・・・。どうかしました?」
「いや、キレイな髪だと思ってさ・・・」
「それは・・・もしかしてナンパ、というものですか? オリムライチカ?」
「ナンッ、いやいや、そういう意味で言ったわけじゃないぞ!? ・・・ただ、九城さんの髪の色が、その、コーラルっぽいなって思ってさ・・・。あと俺のことは、イチカでいい」
「そうですか・・・。わたしのこともアリサでいいですよ、イチカ」
「ん。わかった、アリサ」
マジマジと見ているから何かと思えば。それは褒め言葉なのでしょうか。別にいいですけど。・・・私の髪、コーラル色みたいだなんて言った人は彼がが初めてです。わたしも自分の髪は鮮やかな赤い色をしているとは思っていますが・・・それにしたってコーラルっぽいというのは独特な表現ですね。
「そういや、なんでアリサは屋上にいるんだ?」
「・・・。わたしは夜風に当たりに来たんです。そういうイチカはどうしてここに?」
「ああ、俺は・・・逃げてきたというか、な。ほら、ここって全寮制だろ。寮にも女子だらけで居心地が悪くてさ・・・」
「ああ、そう・・・」
イチカは疲れたように息を吐きました。周りが女子だらけの中で男一人という状況ですし、彼も居心地の悪さを感じているのでしょうね。人は自分と違うものには好機の目を向けるものですし・・・。それに、彼は星外企業ではなくルビコンの地元企業から来ていますからね。気にするな、という方が無理でしょう。
「そろそろ戻ります。イチカ、あなたは?」
「俺はもう少し風に当たってから戻るさ」
「そうですか。それじゃあ、おやすみなさい」
「ああ。おやすみ」
→次回予告→
「隣、いいか?」
「クラス代表を決めなければな」
「当然! わたくしがなるべき!」