IS学園に鴉は舞う   作:青いカンテラ

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前2話も大筋は変えずに改稿しております。


03「それなら俺も倒してるぞ」

【6】

 

 入学式翌日の朝。寮のベッドがふかふかだったおかげか、目覚めもばっちりです。こんなに清々しい気持ちで朝を迎えたのはいつ振りでしょうか・・・。さすがはIS学園、企業が集まってお金を出しているだけありますね。寝具にもお金が掛かっています。学生の身分でこんなにいい生活をしていると、コロニー居住区の薄くてかたいベッドでは眠れなくなりそう。この依頼が終わったら、ウォルターに頼んでいいベッドを買ってもらいましょうか。ベッドの質は依頼の達成率にも影響しますとかなんとか言って。へへへ。

 

 とまあ、未来のことを考えながら来たのは一年生寮に併設されている食堂です。学校併設のものよりは小さいですが、備わっている設備は同じもの。一年生が全員入れるくらいの広さに、豊富なメニュー、長いカウンターには食用3Dプリンターの取り出し口がずらりと並んでいます。いつ見ても圧巻ですね・・・。さて、今日は何を食べましょうか。選べるものが多くて目移りしてしまいますが、皆さんどうやって食べたいものを選んでいるのでしょうか。直感?

 

「・・・これにしましょうか」

 

 たっぷり十分ほど悩んで、タッチパネルでメニューを決定。即座に出力された料理、ワショクセットAの乗ったトレーを受け取り空いているところを探します。比較的早い時間ということもあってか、食堂内はそれほど混んでおらず空いている席はすぐに見つかりました。ラッキーですね。

 

「・・・いただきます」

 

 フォークを手にして、まずは長方形のお皿に乗っている身が赤い焼き魚から食べてみることに。一口ほどの大きさに身を切り分けて、と・・・。ん? これ結構いけますね。ほんのりと塩味で美味しい。次はお椀に盛られている白いごはんをと食べていると、誰かがやってきました。

 

「隣、いいか?」

 

 そう声を掛けてきたのは黒髪の少年ことオリムラ・イチカ。手には白い湯気の立つ丼が乗ったトレー。他に空いているところもあるのに、なぜわざわざわたしのところに・・・という疑問はありますが、断る理由もないので頷きで返します。口の中にはごはんが入っているのでね。口に食べ物を入れたまま喋ってはいけない、とウォルターが言っていましたし。

 

「それ、うまそうだな。何のメニューなんだ?」

「ん・・・。ワショクセットAです。美味しいですよ」

「へー。俺はミールワーム丼の特盛りだ」

 

 見ればわかりますが教えてくれるイチカ。大きな丼の上には、ぶつ切りにされたミールワームのお肉が盛られ、その上からソースが掛けられています。付け合わせには薄く切られた黄色い何かと、わたしのワショクセットAにも付いているミソスープ。それにしても朝から結構な量を食べますね。わたしは半分も食べたらお腹いっぱいになりそう。

 

「朝から結構食べるんですね」

「まあな。朝はしっかり食べないと持たないんだ。代わりに夜は少なめだな。これが体型と健康維持に最も無駄がないんだ」

「そうなのですか」

「ああ。・・・これ結構うまいな」

 

 それきり会話は途切れる。わたしは元々食事中に会話をしないタイプ(というか食事中にお喋りするとウォルターがうるさい)なのですが、イチカもそうなのか無言でミールワーム丼を食べ続けています。こちらとしては食べている時に変に話を振られないのは助かりますけどね。彼の食べっぷりを見ていると、わたしもミールワーム丼を食べたくなってきました・・・。次に頼むのはミールワームを使って料理にしよう・・・。うん、そうしましょう。

 

 

 

【7】

 

「ねえねえ」

 

 くいくい。

 

「・・・?」

 

 授業が終わって休み時間。次の授業担当はオリムラ先生だったか、出席簿されないように気をつけないと・・・と思っていると制服の裾が引っ張られました。誰だろう? とそちらへと顔を向けると、まず目に入ってきたのは、亜麻色の髪。それからふわりといい香りがして来ました。

 

「えっと~、自己紹介、まだだよね~? 私は~、ホンネ。ノホトケ・ホンネなんだよ~。よろしくね~」

「これはご丁寧にどうも・・・わたしは九城・リンスタント・アリサです。こちらこそよろしくお願いしますね、ノホトケさん」

「ホンネでいいよ~」

「それではわたしのこともアリサでいいですよ」

 

 ほわほわとした人好きのする笑みで長く余った袖を振るホンネ。ヤマダ先生のように小動物を思わせるというか、見ていると何だか癒されるような気がします。語尾を伸ばしたのんびりとした口調もそう思わせるのでしょうか。

 

「ん~・・・アーちゃんって、呼んでもい~い~?」

「あ、アーちゃん、ですか?」

「うん~。アリサだから~、アーちゃん。あ、えっと~・・・にっくねーむ、イヤかなぁ・・・?」

「・・・イヤではないですよ。ニックネームを付けられるのは新鮮というか、初めてのことだったので」

「そうなんだ~、よかったよ~」

 

 袖で口元を隠しながらの上目遣いを前に断れる人類が果たしているのでしょうか。イヤではないと、というのもそれこそ本音ではありますけど。ウォルターがいたら「また名前が増えたな」と言いそうですね。この学園におけるわたしの名義は本物ではないですが・・・それでも呼ばれる名前が増えるというのは、少し、嬉しくも感じます。それに名前が複数あるというのは何だかかっこいいですし。

 

「あ、そうだ。はいこれ~、お近づきの印に~」

「・・・お菓子、ですか? いいのでしょうか、教室にお菓子を持ち込んでも」

「ダイジョブダイジョブ、授業中に食べるわけじゃないし~」

「それじゃあ・・・頂いておきますね」

 

 ホンネが机の中をごそごそと探って差し出してきたのは、CMで見たことのある、シェアハッピーでお馴染みな棒状のお菓子の袋。お菓子は好きです。長期の作戦などでは、栄養補給のために現場で食べることもありましたし。パッケージングされているので持ち運ぶにも便利ですからね。・・・問題はレーションや携帯合成肉よりも遥かに美味しいのでつい食べ過ぎてしまうこと、でしょうか。ちょっと摘まむつもりで、ついつい一袋食べきってしまうなんてこともザラです。そして夕飯前にもつい食べ過ぎてしまってウォルターに小言を言われることも・・・。

 

「アーちゃんのお部屋ってどこ~? 私はね~、1026号室なのだよ~」

「わたしの部屋は1046ですね」

「ふむふむ、1046号室、1046号室だね~。あ、ねぇねぇアーちゃん、今日お部屋に遊びに行ってもいい?」

 

 アサルトブーストに点火したんですかってくらいにめちゃ距離を詰めて来ますねこの子・・・。ここが戦場なら蹴りの一つでもぶち込まれてるところです。たかが蹴り、されど蹴り。速度の乗った蹴りはそれだけで十分な脅威足りえますし、何より両手が武器で塞がっていても使えます。ダブルトリガー使いの強い味方です。

 

 ・・・。

 それはさておき。

 

 わたしの部屋は人に見られて困るようなものはありませんし、ホンネが遊びに来たいと言うのなら断る理由はありません。そう伝えると、ホンネは余り袖を揺らしながら「えへ、今日はアーちゃんの部屋で~、お菓子ぱーてぃーだね~」と嬉しそうに言っていました。わたしの部屋に来るのはいいですけど、明日にも響くのでそんなに遅くまでは騒げませんよホンネ。

 

 

 

【8】

 

「―――授業を始める前に、クラス代表を決めなければな」

 

 テキストを開いたところでふと思い出したように言うオリムラ先生。クラス代表、というのはそのままの意味でしょうね。このクラスの代表者。そして往々にして代表者というものには色々なものがついて回るものです。責任だとか、しがらみといったものがね。

 

「クラス代表とはそのままの意味だ。再来週に行われるクラス対抗戦への出場。生徒会の開く会議や委員会への出席等々・・・あとはそうだな、クラス会での取りまとめも行う。一度決まれば一年間は変更できないからそのつもりでな。自薦他薦は問わん。我こそはと思うものは挙手しろ」

 

 要は雑用係・・・実際のところは重要な仕事なのでしょうけれど、説明を聞くにやることは雑多な用事をこなす感じのようですね。クラス対抗戦は、新学期の初めにおける各クラスの実力推移を図るために行われる模擬戦闘・・・だと入学前の参考書に書いてありました。一年生時点だと大した差は無くても、学年が上がるごとにその差は大きくなっていくはず。そして差が出来るということは、そこに競争が生まれる。火を付けろ、燻っている向上心にというわけですね。たぶん。

 

 教室内はざわざわと色めき立っています。オリムラ先生の叱責が飛ばないのは、いまが授業中ではなく代表決めの時間だからですね。再来週にあるというクラス対抗戦、依頼のためにデュノアの製品をアピールする機会の一つにはなりえますが・・・どちらかと言うとクラスや生徒の能力指標を見るのがメインとなると、新入生時点での注目度はそれほど高くないはず。それに他の仕事もついてくるとなると、クラス代表に立候補なりするメリットはあまりなさそうですね・・・。

 

 他の人が誰かやってくれないかなー、と思っていると真っすぐに手を挙げる生徒が一人。

 

「はい、オリムラくんを推薦します!」

「あ、じゃあ私も」

「私も私も」

「はい、アーちゃ・・・アリサちゃんがいいと思いまーす」

「あたしも」

「私もそれで」

「九城さんを推薦するっす!」

「オリムラくんで!」

「せっかく男の子いるんだし、いいよね」

「さんせー」

 

 一人が名前を挙げれば、後に続けとばかりにあちこちから声が上がる。クラス代表なんて説明聞くだけでも面倒そうですからね、誰かを推薦するのなら便乗するのが集団心理というものなのでしょう。・・・って、あれ、なぜわたしの名前がイチカの横に追加されているのでしょうね? 書き間違いですか?

 

「他薦されたものに拒否権はない。選ばれた以上は覚悟をしろ」

 

 先回りされた!? じょ、冗談じゃ・・・

 

「さて、他にはいないか? いなければこの二人で決戦投票だぞ」

 

 オリムラ先生が閉め切ろうとしたところで、バァン! と何かを強く叩く音と、ガタンと激しく何かが動く音が響く。その音の発生源は、エリート金髪ことセシリア・オルコットその人でした。彼女は端正な顔を怒りに歪ませて怒声を発します。

 

「納得がいきませんわ! なぜわたくしの名が上がりませんの!? 実力から行けば、クラス代表になるのは、当然! わたくしがなるべき! だというのに!」

 

 自分の名前が出なかったことにめちゃ怒ってらっしゃる・・・というか、そんなにクラス代表になりたいなら立候補でもすればよか「あ゛ぁ゛!?」怖い。

 

「コホン・・・。いいですか? クラス代表になるのは実力トップがなるべきであり、それは入試で唯一教官を倒したわたくしを置いて他にはいません。だというのに物珍しいからという理由でそこのルビコニアンとマスコットにされては困ります!」

 

 エンジンが暖まって来たのか、両手ガトリングもかくやという勢いで捲し立てるオルコットさん。

 

「大体、こんな辺境の開拓惑星で暮らさなければいけないこと自体が耐えがたい苦痛で―――」

「ならルビコンから出て行けばいいだろ。あんた一人がいなくなったところで、俺たちは困らないさ」

 

 言葉を遮って立ち上がるイチカ。刃のように細められた目はオルコットさんへと向けられています。

 

「大体、あんたは自分のことを実力トップだと言ってるが、口先だけなら何とでも言えるだろ」

「なっ、わたくしを侮辱しますの!? 現にわたくしは入試で唯一教官を倒して・・・!」

「それなら俺も倒してるぞ」

「わ、わたくしだけと聞きましたが・・・!?」

「女子ではってオチじゃあないのか?」

 

 イチカの言葉に思考が停止(スタッガー)したのか、口を開いたまま固まるオルコットさん。数秒ほどして再起動すると、机をバァン! と叩いて人差し指をイチカに突き付ける。

 

「け、決闘ですわ! ここまでコケにされては黙ってなどいられません!」

「ああ、いいぜ。白黒はっきりつけようじゃないか」

「決まりだな。試合は来週の放課後に第三アリーナで行う。オリムラ、オルコット、九城の三人は用意をしておくように」

「「はい!」」

「・・・えっ?」

 

 お二人のいざこざにしれっと巻き込まれている・・・!?

 

 

 

 

 

 

→次回予告→

 

「お前の専用機だが、届くのに時間が掛かる」

 

「安心しましたわ」

 

「こちらはかんちゃんことかんちゃん」

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