「あなたは……?」
声が聞こえる。
「第四世代、旧型の強化人間……」
透き通った、女性の声。
「あなたには、私の『交信』が届いているのですね」
頭の中に、直接響く。
「私は、ルビコニアンのエア」
知っている。ずっと会いたかった。
「目覚めてください」
言われなくても。君を一人になんかさせるものか。
「あなたの自己意識が……コーラルの流れに散逸する、その前に」
そして621の頭の中で。煌びやかな赤い光が爆ぜた。
◆◆◆◆◆◆
LEAPER4はコーラルの奔流から逃れ、制御センターの屋上へと来ていた。如何にも無人機だと言わんばかりの直線的な軌道は、今のLEAPER4を操っているのがその中の人物でないことを示していた。
LEAPER4に搭載されたコンピュータが、意識を失った主に代わり、自動でコーラルの奔流から逃れようとしたのだろう。
『強化人間C4-621、生体反応を確認。オートパイロットを解除』
主が目覚めたのを感知し、
『ハンドラーへの通信を接――』
ブツっという音と共に、システムボイスが途切れた。
「レイヴン」
代わりに響くのは、聞き慣れた声。
呼びかけられて、漸く意識が覚醒する。気分が悪い。頭は酩酊しているかのようで、視界が定まらない。吐き気と寒気が身体の奥底から湧きあがり、身体の震えが止まらない。彼女の声に自分の声で応えたいのに、口を開けても声が出ない。
致死量に近いコーラルを浴びて、身体が死にかけているのだ。生きているのは奇跡と言っていい重態であった。
だというのに、621の心は歓喜に包まれていた。ああ、
一度目では裏切ってしまった。二度目では願いを叶えてあげられなかった。三度目では叶えた願いに適応できず、一人置いていってしまった。
それなのに、未だ彼女を求めるなんて。自分の傲慢っぷりに呆れてしまう。もう少し表情が動くのなら、きっと自分は乾いた笑いを浮かべていただろう。
(それでも俺は……エアと一緒に生きていたい)
最早開き直りにも近い決心を、改めてここで固める。傲慢で何が悪い。こちとら欲張りな四度目の鴉だ。欲しいものは力づくでも手に入れてやる。
「敵性機体の接近を確認しました」
エアの声でふと我に返る。そうだった。このミッションは彼女を迎え入れて終わりではない。
ウォッチポイントの異常を察知した
風を切る音と共に、果たして想像通りの奴が現れた。ACよりも一回り大きい人型と、それを囲うように配置されたリング状のパーツ。
それはこちらをロックし、リング状のパーツを展開させる。無人機であるはずなのに、その動作にはどこか殺意を感じさせられた。
「あなたの脳波と同期し……『交信』でサポートします」
また、再び彼女と共に戦える。総身に力が漲る。
「メインシステム、戦闘モード再起動」
LEAPER4と621の感覚が同調し、再びLEAPER4が621の身体となる。LEAPER4のカメラと621の視神経が同期し、視界が開ける。そこには、リング状のパーツから度肝を抜く量のミサイルをばら撒く敵の姿があった。
すかさずアサルトブーストを起動。一気に敵へと突貫する。
ばら撒かれたミサイルは暫く直進した後、一斉にその弾頭をこちらに向け、一気に突撃してくる。
しかし621は冷静にミサイルが突撃してくるタイミングを見切り、その瞬間に横にブーストを吹かす。大量のミサイルは、しかしてその大半がLEAPER4を捉えることなく、虚空へと飛んでいった。
「敵機について調べました。惑星封鎖機構の無人機体、“バルテウス”。ダメージを与えるには、展開しているパルスアーマーを剥がす必要があります」
知っている。奴と戦うのは四度目……いや、改修型も含めれば五度目か? 身体が死にかかっているせいか、思考が纏まらない。
だが、負ける気は全くしない。何せ彼女が見ているのだ。カッコ悪いところは見せられない。
621はパルスブレードを起動し、袈裟斬り二連。バルテウスのパルスアーマーはブレードに波形を乱され、強度が大幅に消耗させられる。しかし、まだ消えない。
バルテウスは一度ブーストを吹かし、上空へ逃れる。そのままACの最高速を優に超える速さで空を駆け、LEAPER4がいるのとは反対側へと逃れた。
バルテウスがLEAPER4に向き直り、肩のグレネードを構える。
アラートが鳴る。その瞬間に621は横にクイックブーストしていた。一度目であのグレネードに大苦戦させられた経験が、621に即時の回避を促す。
あの苦戦は、確かに621の血肉となった。最早バルテウスのグレネードなど、百回撃たれたら百回回避できるだろうほどに。
グレネードを躱されたバルテウスは、今度は低空飛行に切り替える。LEAPER4の背後に回り込むような動きで地面を滑り、同時にマシンガンを連射。
対する621はマシンガンを無視。どうせ当たっても痛くない。再びアサルトブーストで接近しながら、リニアライフルと10連ミサイルを撃ちまくる。次々とバルテウスのアーマーに電磁加速弾頭と誘導弾が突き刺さっていき、ついに維持できなくなった。
「パルスアーマー消失。今です、レイヴン」
アーマーの展開機構とACSがリンクしていたがために、バルテウスはアーマーの消失と同時にスタッガーに陥る。
621はまず蹴りをお見舞いする。続いてパルスブレード二連。それが終われば今度はグレネード。手持ちの武装を全て使って、とにかく一刻も早くバルテウスを殺さんとする。
バルテウスが再び動き出した。スタッガーから復帰したようだ。
三度の経験が告げている。スタッガーから復帰したバルテウスは、次に全力でこちらから距離を取って、再びミサイルカーニバルを展開するだろうと。そんな面倒なことをさせるものか。
「レイヴン! 何を──!?」
621の予想外の行動に、エアが叫ぶ。
なんと621はリニアライフルを捨てた。そのまま空いた右手でバルテウスを掴む。
ちょうど都合よくリングなんて掴みやすい部品を用意してくれているのだ。ありがたく握らせてもらい、離脱しようとするバルテウスを逃がさない。
「そんな戦い方があるなんて……」
驚くエアに冗談の一つでも飛ばしてやりたいが、まだ声が出ない。仕方がないのでバルテウスの撃破に専念する。
振りほどこうとするバルテウスに引き摺られながら、何度もパルスブレードを振るう。
一度振るうごとにリングに搭載されたミサイルランチャーが、肩のグレネードが、右手のマシンガンが、バルテウスの持つ武装の数々が破壊されていく。
「この波形は……? レイヴン、距離を!」
突然バルテウスが光を発し始め、コックピットにアラートが鳴り響く。
だが、それは知っている。即座に右手を離してバルテウスを蹴飛ばし、反動で後ろに退避する。
直後、光が爆ぜ、バルテウスの周囲を消し飛ばす。
そしてその光が収まった直後。LEAPER4はすぐさまクイックブーストで再びバルテウスに肉薄し、同じように光輝き始めた。
621もアサルトアーマーを選んだのだ。バルテウスの貼ったばかりのアーマーが一瞬で相殺され、再びスタッガーに陥る。
またしても全武装を回して追撃。グレネードが、ミサイルが、ブレードが、バルテウスを焼き、穿ち、破壊していく。
だが、それでもバルテウスは死んでいなかった。流石は封鎖機構がその技術力の粋を結集して作り上げた機体。これだけボロボロにされながら、それでもLEAPER4を殺そうと起き上がる。
「バルテウス、ミサイルランチャーをパージ。掴まれるのを警戒しているようです」
さっき掴まれて散々斬り刻まれたのが余程トラウマにでもなったのか。スタッガーから復帰したバルテウスは、その象徴とも言えるリングをパージした。
LEAPER4の右手に、空っぽのリングだけが残る。
人型だけになったバルテウスは、LEAPER4に背中を向けるのも気にせず全力で距離を取る。そして、LEAPER4の方に向き直るとゆっくりと火炎放射器を構えた。その様は、まるで怒り狂っているようにも見えた。
(随分と感情豊かな無人機だ)
そんな下らない思考が頭を過るが、すぐに集中し直す。奴の火炎放射器はACを溶断できるレベルの超火力だ。
油断すれば、今からでも死ねる。
「とてつもない高温です。あれを食らえば、ACと言えどひとたまりも……」
エアの声色に心配の色が混じる。「俺は大丈夫だ」と言って安心させてあげたかったが、喉から出たのは掠れた空気の音だけ。まだ声は出ないらしい。
「レイヴン! 来ます!」
バルテウスは炎を振りかぶった。まるでブレードのように振るわれる炎を、621はギリギリで躱していく。
袈裟斬り、一文字、真向斬り。その全てを機体裁きとクイックブーストで避けながら、10連ミサイルを発射する。
だがバルテウスはミサイルなど一切気にせず、捨て身で炎を振り続ける。どうやら、刺し違えてでも621を殺す気らしい。
こうなっては取れる手段はかなり限られる。グレネードは足が止まるから撃てず、パルスブレードは確実に一撃で殺せないとこちらが死ぬ。逃げ回りながら10連ミサイルを撃ち続けるのが安牌だが、相手の耐久限界まで逃げ続けられる保証はどこにもない。
故に──
「火炎放射器、さらに温度が上がっています!」
炎はさらに大きくなり、青く禍々しく燃え上がる。
最早自壊すらしかねないほどの高温は、掠っただけで致命傷となるだろう。
「回避を──!!」
振るわれる灼熱の青を、ローリングで躱す。同時に、さっき捨てたリニアライフルを拾い上げる。
もう一度炎を振るわんとするバルテウスを見据え、リニアライフルを一発。
その一発は、正確にバルテウスの火炎放射器の噴射口を撃ち抜いた。
自壊寸前まで温度を上げたのが運の尽き。噴射口から内部を破壊され誘爆、そのまま大爆発を起こす。
ただでさえダメージ限界に近かったバルテウスは、内側からの破壊によって弾け飛び、遂に完全に沈黙することとなった。
「かひゅー」
621は深呼吸しようとして、喉からか細い音が鳴るだけに終わった。戦闘が終わって脳内麻薬が切れたのだろう。急激な身体の怠さに襲われる。
「……レイヴン。あなたには、休息が必要です」
全くもってその通り。飛びそうな意識を必死に保ちながら、621はエアの言葉に同意する。
「それから――」
エアが何かを言おうとしたその瞬間、遠く離れたどこかで爆発が起きていた。その規模は莫大で、爆炎によって夜空が真紅に染まるほどであった。
「あなたが巻き込まれたコーラルの逆流。あれは……予兆に過ぎません。ルビコンを焼き払う、この炎と嵐の」
その通り。この後コーラルを巡って大量の死人が出ることになる。それは三度とも変わらなかった。四度目でも変わらないだろう。
「……あなたのハンドラーがすぐそこまで来ているようです。レイヴン、もう安全です」
戦いが終わったのだという実感が湧いてきて、緊張の糸が切れる。このままでは壁のときのように、また意識を失うだろう。その前に、これだけは言わなければ。
「エ、ア……」
「レイヴン? どうしましたか?」
「あ、り……が、とう」
「っ! こちらこそ、ありがとうございます。レイヴン」
そして621は意識を手放した。
621
「友人」と再会できてウッキウキ。でも身体は死にかけている子。大丈夫、ウォルターが間に合ったので死にません。
エア
漸く登場したヒロイン。初めて自分の「交信」が届く人を見つけてウッキウキ。しかもその人が死にかけた身体を押してまで感謝の言葉を伝えてきたもんだから、開幕にして好感度は天元突破。
バルテウス
感情豊かな無人機。書いてるうちに可愛げすら感じ始めてた。
掴まれてトラウマになる→背中見せて逃げる→ブチギレ火炎ブンブン→やけくそ自壊ファイヤー
これもう擬人化したらアーキ坊やすら超えるマスコットになれるのでは? 封鎖機構さん、イメージ戦略は彼(彼女?)に任せましょう。
ということで漸くChapter1が終了。一周目では二時間コースだったバルテウスも、四周目ならこんなもんでしょう。
次回はChapter2。Chapter2は一ミッションを除けば全部原作通りになる予定なので、殆どダイジェストになるかもしれません。