上層への案内の手筈は整ったが、先の戦闘でLEAPER4は結構な損傷を受けている。修理が終わるまでは上がれない。
「エア、この論文は?」
『これは……変異波形に人体を乗っ取らせる理論についてですね。共生とはほど遠い内容です』
「そっかあ……これだけあるのに、大体碌なこと書いてないなあ、キサラギ博士って」
621とエアは修理中の暇な時間に勉強会と、そして人とコーラルの共生のためにキサラギ博士の論文の調査を進めていた。
まだ621では論文の内容を理解することはできないが、エアならばできる。だから、こうしてエアが論文を読み、その内容を要約してあげているのだ。
「放っておいたらどんどん増殖していく性質……それさえどうにかなれば、人とコーラルの共生も何とかなりそうなのに……」
『地道に方法を探していくしかありませんね』
今日も二人は学びを得ていく。それがいつか人とコーラルの未来を守ることに繋がると信じて。
◆◆◆◆◆◆
「ビジター、ACの修理は完了だ。こっちも暇じゃないからねえ。行くんならさっさと行きな」
「わかった。ありがとう、カーラ」
どうやら修復は終わったようだ。ならばさっさと中央氷原まで飛んで行ってしまおう。ここに時間をかける理由は無い。
621はさっさと車椅子でガレージに入り、アセンブルを変更する。
R-ARM UNIT:
L-ARM UNIT:
R-BACK UNIT:
L-BACK UNIT:
HEAD:HC-2000/BC SHADE EYE
CORE:EL-TC-10 FIRMEZA
ARMS:EL-TA-10 FIRMEZA
LEGS:EL-TL-10 FIRMEZA
BOOSTER:ALULA/21E
FCS:FC-008 TALBOT
GENERATOR:AG-E-013 YABA
EXPANSION:ASSAULT ARMOR
完成したのは徹底して火力と機動力だけを突き詰めた機体だった。
(結局修理してもらったパーツの殆どを使ってないな……まあ、いつかまた使わないとも限らないし、修理を待ったのは悪い判断じゃないだろう)
そんなことを考えながらACに搭乗。出撃準備を整える。
『あなたと出撃するのはこれで三回目ですね』
準備中にエアが話しかけてきた。621は喜んでそれに返答する。
「ああ、そうだな」
『少し慣れてきました』
「アハハ、それは良かった。今後もこういうことは多分あると思うから、その時はよろしくね、エア」
『はい、もちろんです!』
二人して気合を入れる。さあ、海越えと行こう。
◆◆◆◆◆◆
『メインシステム、戦闘モード起動』
いつものようにACのカメラと視覚が同調し、視界が開ける。
「始めるよ、ビジター!」
カーラからの通信。三度目までもそうだったが、今回も彼女がカーゴランチャーまでの案内をしてくれることになっていた。
「伝えた通りだが、案内は任せな。あんたには、恩を売っておくのも悪くない」
表向きウォルターには何の関係もないRaDの頭領として、カーラは話しかける。ならば自分もそのように振る舞おう。
彼女を慕う人間621ではなく、利害が一致しただけの傭兵レイヴンとして。きっとその方がお互い気楽に恩を売れる。
「ありがとう、カーラ。あんたの依頼は割安で受けてやるよ」
「ハッ! この程度の恩で自分を安売りしてくれるとはねえ。あんたは相場ってもんを全然わかってないみたいだ」
お互い軽口を叩き合いながらグリッドの大型リフトに乗り込む。リフトに運ばれる先はグリッド最上部。カーゴランチャーはすぐそこだ。
「ビジター。最上部は残念ながらあたしらの縄張りじゃない。わかるかい? 封鎖機構が衛星軌道から睨んでやがるのさ」
グリッド最上部は封鎖機構によって常に監視されている。下手に出歩こうものなら、封鎖衛星による狙撃で蒸発させられることになるだろう。だからこその軽量機だ。
『上層に到達しました。マーカー情報を送信します。カーラの言う通り、この高度は封鎖衛星の狙撃圏内になっているようです』
621の視界にマーカーが表示される。マーカーが指し示すのは、封鎖衛星に狙撃されない迂回路の入り口。だが、四度目の鴉にそんなものは必要ない。
「エア、ルート提案ありがとう。でも大丈夫。この程度の狙撃には不要だ」
『え? ……ちょっ、レイヴン!? 何を!?』
アサルトブーストを起動。LEAPER4がリフトから真っすぐに放たれる。そんなことをすれば当然封鎖衛星に見つかる。LEAPER4は封鎖衛星にロックされ、危機を察知した内臓COMにより耳障りな警告音が鳴らされる。
「タイミングは……今!」
警告音が消えたその刹那。LEAPER4は横にブーストを吹かし、さっきまでLEAPER4がいた場所に超出力のレーザーが撃ち込まれる。
『危険です! 一発でも当たれば撃墜の危機も――!』
「大丈夫。当たりはしない」
もう一発封鎖衛星の狙撃。しかし当たらない。撃ってくるタイミングは完璧に把握しているのだ。今の621のとっては、むしろ当たる方が難しい。
「まさか機体一つで封鎖衛星の攻撃を躱す奴がいたとはねえ」
感心するようなカーラの声に、少し得意げになる。しかし油断はしない。カーゴランチャーまで、一息に飛ばせてもらう。
『侵入者が衛星狙撃地点を突破』
一発も当たることなく安全圏まで来れた。カーゴランチャーは目と鼻の先だ。
『レイヴン……! 無茶が過ぎます! もっと安全なルートがあったはずです!』
「ごめんごめん、でもこっちの方が早い」
『もう……! 生きてるからいいものの、死んでいたら許しませんでしたからね!?』
「ビジター。ここは戦場だ。痴話喧嘩は他所でやりな」
戦場とは思えぬ緩い会話が流れるのも致し方無しか。何せ、621以外の二人は目的地の目の前まで到達して油断しているのだから。
「せっかくだ。ついでに掃除を頼もうか、ビジター。気に入らない上の住人には退去してもらおう」
「まあ、それくらいなら
海越えの前に、カーゴランチャー前を警備するイカのような見た目の防衛兵器を排除する。10連ミサイルでマルチロック、発射。十発の誘導弾は十発それぞれ別の防衛兵器に当たり、爆散させていく。
残った数機をバズーカで撃ち落とせば、一丁上がり。
「片付いたみたいだね。カーゴランチャーを起動しようか」
『あれです。コンテナにアクセスしてみてください』
いよいよ大詰めだ。コンテナに乗り込んで海を超える……前に、一つやることがある。621は天井を見上げる。今は見えないが、きっと
覚悟を決めてコンテナにアクセスする。
「あとはあんたがそいつに乗り込んで――」
『待ってください! 敵性反応!』
やはり来た。後ろにクイックブーストを吹かすと、果たして
そいつの姿を見ていると、何故か身を焼くような怒りが湧き上がってくる。だが621は一旦心を落ち着け、冷静にそいつを見据える。
『この機体は――!?』
「あんた、まずいのに絡まれたよ」
蜘蛛のような機体は二本の大型クローに赤い光を収束させ、それを振り上げた。即座に621は蜘蛛の懐に入り込むようにクイックブースト。すぐ横で赤い光が叩きつけられ、暴力的な破壊を巻き起こす。
「C兵器、シースパイダー型……碌でもない技研の遺産が、こんなところに配備されていたとはね!」
C兵器――即ちコーラルを使用した兵器は、通常兵器と比べて出力が段違いに高い。特にこのシースパイダーは、頑丈なその機体で敵の攻撃に耐え、こちらはひたすらコーラル武器を垂れ流すという戦術を得意としている。621の高火力アセンブルも、こいつ対策に組んだものだ。
シースパイダーから、コーラル特有の鮮やかな赤色をしたレーザーが連射される。だが、今宵のLEAPER4は超軽量機体だ。横に走るだけでレーザーを避けられる。
そして、レーザーが切れたタイミングで両手のバズーカを発射。耐久力を削り、ACSへの負荷も蓄積させていく。
『高エネルギー反応! レイヴン、注意を!』
シースパイダーの上部に設置された大型レーザー砲がチャージを開始する。621なら回避は容易だが、下手に攻撃させてカーゴランチャーが破壊されるのもまずい。だから止める。
バズーカを交互に発射し、10連ミサイルも叩き込む。爆発物特有の高衝撃力がシースパイダーのACSに大きな負荷を与えていく。そして、スタッガー。シースパイダーはその動きを止めた。
『レイヴン、チャンスです!』
ウェポンハンガーを使用して、左腕の武装を入れ替える。手にしたのはパイルバンカー。必殺の破壊力を誇る近接武器の雄。
『敵機損耗、効いています!』
シースパイダーが起き上がり、今度は大型レーザー砲で薙ぎ払う。だが知っている攻撃に当たるわけがない。跳躍して回避し、再びバズーカを交互に叩き込む。そしてスタッガー。
スタッガーしたのなら当然チャージパイルをぶち込む。暴力的な運動エネルギーがシースパイダーの頑強な装甲を貫いて破壊する。
今この場において、621は完全に格上であった。シースパイダーは持てる武装を絶え間なく撃ち続けるが、そのどれもがLEAPER4を捉えられない。やがてシースパイダーの耐久限界が近づいてくる。
このままでは勝てないと判断したシースパイダーは、切り札を切ることにした。
「おいおい……飛んだよ、ビジター!」
『敵機からコーラル反応……危険です!』
足を広げて宙を舞う、シースパイダーの飛行形態。重量を感じさせないふわふわとした動きでLEAPER4の上を取る。
「こんなことを考える奴が、あたしら以外にもいたとはねえ……」
下部に取り付けられた
(だけどそんなもの、飛べば当たらない)
軽量機故の身軽さで宙を飛翔し、シースパイダーのさらに上を取る。無人機故の柔軟性の無さから、シースパイダーはコーラルビームを撃つことをやめられない。赤い極光が621のいない地面に向けて放たれ、シースパイダーは空中で隙だらけな図体を晒す。
こうなればもうやることは一つだ。621は空中から10連ミサイルとバズーカを放ち、シースパイダーはスタッガー。そのまま落下の勢いすら乗せて真上からパイルバンカーを突き刺した。
極めて単純な、しかしどこまでも暴力的な物理的衝撃は、シースパイダーを頭頂部から貫き内部にまで伝播していく。シースパイダー中で衝撃波が何度も反響し、内側から滅茶苦茶に破壊していく。
そして行き過ぎた暴力によって内側も外側もぐちゃぐちゃに破壊されたシースパイダーは、頭頂部から一気にひび割れていき――
「おいおいおい……割っちまったよ、ビジター」
――真っ二つに割れた。
『敵機システムダウン、ジェネレータが爆発します!』
エアの警告に従い、621はシースパイダーの残骸から急いで距離を取る。直後、真っ赤な爆炎を吹き出しながら二つになったシースパイダーは破裂し、無数の破片へとその姿を変えた。
『コーラルを、動力に使うなんて……』
「「……」」
それを聞いて621はやっと気付いた。怒りの正体はそれだったのかと。C兵器はコーラルを無理矢理従え、弾や動力として消費する兵器群だ。
つまりは存在そのものがエアの同胞を凌辱しているようなものなのだ。エアを思う一人の人間として、絶対に許せない存在であった。
「エア……大丈夫、こういう兵器の存在は、俺が絶対に許さないから。きっと、全部破壊する」
『レイヴン、あなたは……ありがとう』
「……」
シースパイダーの破片を前に、しばし佇む。621は、何となく動く気になれなかった。
「……さて、本来の目的に戻ろうか」
「! ああ」
カーラの声で我に返る。そうだ、今は海越えの途中。立ち止まっている暇は無い。早くカーゴランチャーで中央氷原に向かわねば。
「さっさとコンテナに乗り込みな。操作はこっちでやる」
カーラの指示に従って、空いているコンテナの一つに乗る。コンテナは広いとは言えないが、AC一機が入るには十分だ。
「よし、始めるよ」
カーゴランチャーが起動し、レール上をコンテナが動いていく。
「ところでビジター」
カーゴランチャーの準備を待つその最中、雑談でもするような気軽さで話しかけられる。
「あんた、あのウォルターに飼われてるんだって?」
「ああ。それが?」
「主人を選べる犬はいないが……それにしたってあんたは運がない。全く同情するよ」
「いいや、そんなことない。あの人は最高の飼い主だ……
621はムッとした表情で反射的にそう答えていた。
「ふん、そうかい。まあ、あたしはあんな奴のことなんて
『……レイヴン、カーゴランチャーの準備が終わったようです』
険悪になりかけた空気は、エアの一声で強制的に終わらせられた。これからカーゴランチャーで射出されるのだ。言い争っている場合では――
(――あれ?
なんだか酷く大事なことを忘れている気がする。自分は何に対してこんなにも不安になっているのだろうか。
「……ああ、それからもう一つ」
心臓の鼓動が早くなり、冷や汗が溢れ出てくる。
「こいつは飽くまで、物資輸送のための代物だ」
『レイヴン!? バイタルが異常値を示しています!』
カーゴランチャーが回転し、角度を合わせる。目標、中央氷原。
「有人で打ち出されるのはあんたが初めてになるだろうね」
ウォルターの役に立てるはずなのに、動悸が止まらない。息ができない。過呼吸になっているようだ。
「ハァ……ハァ……ハァ……」
『レイヴン、大丈夫ですか! 応答してください! レイヴン!!』
カタパルトが引かれ、コンテナに接続される。コンテナ背部のブースターに火が付き、レールに大電力がチャージされる。準備完了。あとは射出するだけ。
「あ……あ……あ……!!!」
『レイヴン!!』
コンテナ射出。
「うわあああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………………!!!!」
『レイヴゥゥゥン!!』
「……不運なあんたの、幸運を祈るよ」
ドップラー効果を伴いながら、叫び声が小さくなっていく。カーラは、生まれて初めて誰かの無事を神に祈った。
◆◆◆◆◆◆
氷雪に埋もれた大地の上に、一つのコンテナが落ちている。コンテナの扉が開き、中からゆっくりと漆黒のACが這い出てくる。
『レイヴン! 無事ですか! レイヴン!!』
「……うん……何とか」
三度の生を経験した621には、しかしそれでも決して慣れることのないものが三つだけ存在する。
一つはコーラルの逆流。
一つは自分をご友人と呼ぶ理解不能な男。
そして最後の一つはカーゴランチャーであった。
『レイヴン、先行したアーキバスの部隊と鉢合わせる可能性があります。一刻も早く安全な場所に……レイヴン?』
「ごめん、エア……ちょっと、寝かせて」
LEAPER4は雪原に突っ伏して動かなくなる。コーラル争奪戦は、いよいよこれから本格化していくのだ。
◆◆◆◆◆◆
「……行っちまったか、
グリッド086の一室にて、カーラは寂しげに呟いた。
「これから寂しくなるね」
天井を見上げながら考える。ウォルターから聞かされた、Cパルス変異波形と、その人格。あいつを誑かすとは一体どんな奴なんだと身構えていたものの、蓋を開けてみれば現れたのはちょっと辛辣だけど純真な知性体であった。
『コーラルを、動力に使うなんて……』
『こういう兵器の存在は、俺が絶対に許さないから』
「……クソッ」
自分の罪を突き付けられた気分になる。自分は技研の狂人どもとは違うと思っていた。あいつらと違って、分別があるのだと。まだ真人間なのだと、そう思っていた。
「ヘリアンサスに使ったコーラルは、今も苦しんでるのかねえ……」
何が真人間だ。あれを作った時点で、自分は人の道を外れていたというのか。エアからすれば、知らなかったで済まされる問題ではないだろう。
「……あたしはオーバーシアーだ」
飽くまでも自分は人類のために動く。それしか手段が無いと言うのなら、喜んでこの星に火をつけてやろう。その覚悟は変わらない。
「でも、もしそれ以外の手段があるのなら」
そっちに賭けてみるのも、悪くはないかもしれない。
「……キサラギ博士か。あいつの論文どこに仕舞ったっけ?」
パソコンを立ち上げる。もし自分があの二人の未来の一助となれたなら。そんなことをしても今更許されるわけがないことはわかっている。だけど、それでも。
「エアとか言ったかい? ちょっくら手を貸してやろうじゃないか」
焼くしかないと判断するにはまだ早い。ならば、それまでは多少の助けになってやろう。その方が、きっと
621
武装採掘艦護衛の時はそうでもありませんでしたが、四度目でエアとの交流が増えてからC兵器に対して怒りを抱くようになりました。ホントに情緒が成長してきてるなコイツ。
エア
任務中に621とイチャイチャするオペレーターの屑。まあ原作よりも621との交流が深いし、仕方ない。
カーラ
自前でクリーナーを飛ばしているので、シースパイダー飛行への反応もちょっと違う。
駄目そうだったら焼き払うのは変わらないが、そうなるまではエアに協力してみてもいいんじゃないかと思い始めている。
シースパイダー
割れました。
ということでChapter2終了! シースパイダーはあっさり目。四度目の鴉を苦戦させるほどのものは持ってないからね。
それにしても今回の戦闘シーン、なんか「暴力的」って言葉やたらと使ってない? パイルバンカーに人格まで支配されてしまったのかもしれません。
次回はChapter3……と言いたいところだけど、Chapter3だけプロットが全然できてない! 他はかなりガチガチに組んでるのに、どうしてここだけ!? ってな感じなんで、次回はどうなるかわかりません。