01:四度目の初仕事
車椅子に座った傷だらけの少年が、ボーっと虚空を見つめている。しかし彼はただボーっとしているのではない。彼は今、網膜に投影された彼以外には見えないモニターで、自身の現状を確認していた。
(やっぱり四度目もそうだ……今までの逆行でも持ってたパーツが引き継がれてたけど、今度も同じみたいだ)
ガレージにあるパーツリストを確認。そこには新米の傭兵にあるまじき数多のパーツが存在した。
(SHADE EYEやHAL 826フレームもある……毎回思うけど、これ一体どういう原理なんだろう?)
市場に出回っているはずのない一点ものまで引き継がれる。毎度毎度起きるこの不思議現象は、621の動かない首を最大限傾げさせるには十分だ。
(まあ、俺が考えてもわかるわけがない。気にするだけ無駄か)
621は基本的に頭がよろしくない。生まれは天涯孤独で、幼少期に強化人間にされた過去を思えばこれでも十分ではあるのだが、しかし同年代の平均よりもだいぶ下だと言わざるを得ない。だから、この件に関しては考えるのをやめた。
「621、調子はどうだ?」
杖をついた初老の男性が部屋に入ってきた。その姿を見て、621の心が震える。彼こそが621の「飼い主」、ハンドラー・ウォルター。621が何度も取りこぼした命。四度目では何があっても守りたい“大切な人”であった。
「
「……621、今のお前は喉が潰れている。車椅子に合成音声機能がついているはずだ。それを使え」
「! 『大丈夫、もう落ち着いた』」
621は車椅子の機能にアクセスし、返事した。
(すっかり忘れてた。前と同じ感覚で喋ろうとしてしまった)
621は反省する。どの周回でも、ウォルターは621が普通の生活を送れるよう、合間合間で再手術を手配してくれていた。そのおかげで、どの周でも621は、最終的に普通に喋れるようになっていた。その時の感覚がまだ抜けていない。
「621、もう少しお前を休ませたいところだが、俺たちは何としても企業のコーラル争奪戦に入り込まなければならない」
「ぅん」
「そのためには名を挙げる必要がある。いくつかの依頼を見繕っておいた。確認しておけ」
「ぁい!」
621は網膜に依頼情報を投影する。そこには「移設型砲台破壊」と「グリッド135掃討」の文字があった。
(初めに来る依頼は、何度目でも変わらないか)
それも当然だ。今の自分はギリギリランク圏内なだけの無名の傭兵でしかない。いきなり大口の依頼が来るはずもなかった。
(ウォルターのためにも俺の知名度はさっさと上げておきたい。すぐに依頼を処理しよう)
何をするにしても、まずは傭兵として名を売る必要がある。621は、早速車椅子をガレージへと向かわせた。
◆◆◆◆◆◆
「不特定多数に向けたばらまき依頼だ。肩慣らしには悪くない」
揺れるヘリの中で、621は出撃準備を整える。受けた依頼は「移設型砲台破壊」。依頼内容は汚染市街に配備されたルビコン解放戦線の移設型砲台の全破壊だ。
今一度621はアセンブルを確認する。
R-ARM UNIT:
L-ARM UNIT:
R-BACK UNIT:
L-BACK UNIT:
HEAD:HC-2000/BC SHADE EYE
CORE:VP-40S
ARMS:04-101 MIND ALPHA
LEGS:LG-012 MELANDER C3
BOOSTER:IB-C03B: NGI 001
FCS:FC-008 TALBOT
GENERATOR:VP-20C
それは対多数を意識した機体構成。無数のMTやガードメカを、それぞれ最小限の火力で落としていくことを想定している。
今回の依頼では、MTやその他防衛兵器の撃破に対して追加報酬が設定されている。ここでがっぽり稼いでやれば、自分の名も多少は売れよう。
(どうせ初めのうちは俺にできることなんて限られてる。戦うことしかできないなら、そうするまでだ)
だから、今はとにかくウォルターのために。
「621、現場に着いた。準備はいいか?」
「ぅあい!」
ヘリが展開し、一機のACが投下された。
◆◆◆◆◆◆
『メインシステム、戦闘モード起動』
無機質なシステムボイスと共に、神経がACと接続されていく。フレームはもちろんのこと、ブースターの一つ一つにまで感覚が行き渡っていく。それは、コーラルリリースのときとは少しだけ違う感覚。久しく味わっていなかったその感覚は、621が“人間”であることの証左だ。
「ミッション開始だ。ルビコン解放戦線の移設型砲台を全て破壊しろ」
視界に砲台設置点を表すマーカーが三つ現れる。それを確認した621は、アサルトブーストを起動。真っ直ぐその地点を目指す。道中に四機の小型ヘリがいたが、右肩の4連装ミサイルをマルチロックし、ファイア。放たれた四つの飛翔体は、それぞれヘリに刺さり、爆発。こうも早業で殺されては、彼らは自分が死んだことにさえ気付けないだろう。
「企業の傭兵が来たぞ!」
「もう情報が漏れたのか!? 耳聡い奴らめ……!」
無線にルビコン解放戦線の戦士たちの声が聞こえる。彼らに恨みはないが、これもウォルターの、延いてはエアのため。容赦する気はない。
(前方に敵影。MT二機)
敵の姿を確認した621は、すかさずロック。アサルトブーストを起動したまま、一機には両手のライフルで銃弾を浴びせる。たまらずMTは耐久限界を迎え、爆散。もう一機にはそのままブーストキック。ACの質量で蹴打されたMTは面白いように吹っ飛び、そのまま爆散した。
(! 警告音!)
ACの内蔵CPUが危険な攻撃の予兆を感知し、アラートを鳴らす。条件反射でクイックブーストを吹かすと、砲弾が今いた場所を通り過ぎていく。
振り返れば離れた建物の上に砲撃型MTがいた。この距離ではライフルだと威力が減衰する。ならば。
(リニアライフル、チャージ)
右手のリニアライフルにエネルギーを充填。余剰エネルギーがオレンジの光となって銃身から溢れる。
(構え、ファイア)
轟音を響かせて、弾丸が発射。真っすぐに砲撃型MTを打ち抜き、風穴が開く。撃破を確認。
そのままレーダーを確認。付近に反応は三つ。頭部のスキャンを使い、敵位置を補足。
(壁裏にガードメカ。逆足型。耐久は低い)
三度の生に裏打ちされた傭兵としての経験値が、621に最適な戦い方を示す。逆足型ガードメカは、ライフル一発で沈む低耐久。三機いるなら三発で仕留められる。
(バーストライフル、射撃モード切り替え)
トリガーを引きっぱなしにすることで、左手のバーストライフルの発射機構が切り替わる。単発射撃からバースト射撃に切り替わったのを確認。
そのまま壁を飛び越えると同時にクイックターン。同時にトリガーをリリース。回転しながら弾丸を三連発。放たれた三発は、正確にガードメカ三機を貫き、爆散させた。
「な、何なんだコイツは!?」
「今までのACとは違う!」
「手練れだ! 単機でかかるな! 包囲して押しつぶせ!」
今までの周回と比べて、敵の動揺が大きいように感じる。それも当然か。このミッションをやるのは四度目なのだから。
「見えたな。あれが目標の砲台だ」
そうこうしているうちにマーカーの地点に到達。目標の砲台が見えた。前面に防楯がついた大型の砲台が二機。
「正面は装甲に守られている。背後に……そうだ。いいぞ、621」
ウォルターに言われるまでもなく、621は砲台を飛び越して背後に回る。そのまま右肩の4連装ミサイルを発射。四発のミサイルを受けて砲台は爆散する。
もう一機も同様に、アサルトブーストで飛び越して左肩のミサイルを斉射。爆散。
「ここは片付いた。次の地点に向かえ、621」
砲台がある地点はあと二つ。そこもさっさと片付けよう。621はアサルトブーストを起動し、残りの制圧に向かった。
◆◆◆◆◆◆
「目標砲台の全機破壊を確認した。まさか、無傷で防衛部隊ごと全滅させるとは……」
「んふー」
ウォルターの当惑した声に対して、621は得意げな顔(表情筋が死んでるのでできてない)をする。
(
聞いていた通りの戦力が手に入ったことを喜べばいいのか、それともこんな子供がそんな力を持っていることを悲しめばいいのか。ウォルターにはわからない。
「621、仕事は終わりだ。帰投しろ」
「ぁい!」
とにかく、今は621の無事を喜ぼう。そう思い直したウォルターは、ヘリを向かわせた。
621
パーツも経験も引き継いでるのでしばらくは無双状態が続くかも。言葉を喋れないだけで、思考はちゃんとできます。でも合成音声使えって言っただろこの駄犬がっ!
ハンドラー・ウォルター
毎回621に人間らしい生活を教えていた我らがごすずん。新しく引き取った犬が超強くて困惑。でも飼った犬は責任をもって育てます。
バーストライフル
「バーストライフルの三連射で別の敵を狙い撃つなんてできないだろ」って? インサイドミサイルよりかは現実的な描写だから……。
ということで初戦闘。戦闘シーンでは全力でフロムマジックを利かせることになると思います。だってそうしなきゃ私の技量だと面白い戦闘シーン書けないんだもん! でもACVIは、バーストライフルのところ以外は実際に近いことができる最高のゲームだから、みんなも買おう!
次回は日常(?)回を予定。