四度目の鴉   作:Astley

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 いや、違うんですよ。私も封鎖機構は大好きですよ? 機体はカッコいいですし、滅茶苦茶真面目に仕事してますし。ただ本作だと、相手が四度目の鴉になってしまうので、どうしてもクソカッコ悪い噛ませになっちゃうんすよ。つまりこれは不本意なんです。だからセーフ! セーフなのです!


19:光明

「エア、少しいいか?」

 

「何でしょうか、ウォルター?」

 

 今日も621を乗せて拠点を爆走するエアに、ウォルターは一つ疑問に思っていたことを尋ねた。車椅子が急に止まり、乗っていた621は振り落とされかける。

 

「お前はザイレムで防衛兵器をハッキングしていたが、どのくらいの兵器までだったら奪い取れるんだ? 今後の621のミッションのためにも、限界は知っておきたい」

 

「なるほど……」

 

 確かにそれはエアとしても共有しておくべきことだった。ハッキングで兵器を奪ったり無力化したりできれば、それだけ621は安全になる。それは、エアとしても願ったり叶ったりであった。

 

「実際に試したことはないので確かなことは言えませんが、ザイレムの防衛兵器のようにセキュリティが甘い無人機なら大体は奪えると思います」

 

「なるほど……」

 

 ザイレムのセキュリティはアイビスの火以前に作られたものだ。つまりは四半世紀以上前の代物。今の兵器は当然セキュリティも相応に強化されている。

 

「今の時代の無人機は難しいのか?」

 

「はい。バルテウスもハッキングを試しましたが、あっさりと跳ね返されてしまったので……」

 

「そうか……」

 

 少しでも621の仕事を楽にできればと思って聞いたのだが、現実は厳しいらしい。だが、ウォルターは諦めない。

 

「セキュリティさえ大丈夫なら、どんな兵器でも奪えるのか? 例えば、無人ACとかを奪えるなら、621の僚機にとでも思ったんだが……」

 

「それは魅力的な提案ですが、恐らく難しいでしょう」

 

「そうなのか?」

 

 エアはウォルターにその理由を説明する。曰く、ACのような複雑な兵器の制御は自分では難しいということ。ザイレムであのような操作ができたのは飽くまで防衛兵器のAIを書き換えたからであり、自分で操作しているわけではないということ。

 

「ガードメカやドローンのような単純な兵器なら動かせますが、それでレイヴンの戦力になれるかというと……」

 

「なるほどな。やはり厳しいか」

 

「はい。もし情報導体にまでコーラルを使った兵器とかがあるのであれば、まだ動かせる可能性はありますが……」

 

「621を少しでも安全にできればと思ったんだが……待て、今何て言った?」

 

 今一瞬聞き逃しかけたが、何か物凄く重大なことを言っていた気がする。故にウォルターは車椅子(エア)に詰め寄り、問う。

 車椅子に詰め寄る老人という絵面に、車椅子の上の621が若干微妙な表情を浮かべているが、ウォルターは気付かない。

 

「え? えっと、だから情報導体にコーラルを使った兵器ならば、私でも十分に動かせる可能性があると……」

 

「なるほど。そういった兵器なら、文字通り手足にできるということか?」

 

「! 流石はウォルターです。まさにそういうことです。そういった兵器なら、私の意思をパーツの末端まで行き渡らせられるので、それなりには動けると思います」

 

 これはいいことを聞いた。上手くすれば、621とエアの二機編成で戦ってもらうこともできるかもしれない。

 

(もしエアがそれを望むのならば、エアにも訓練が必要か……戦力が二倍ということは、守るべきものも二倍ということだからな……)

 

 大事に思うのに戦場に出す。それが酷く矛盾しているのは自覚している。だが、それでもウォルターは、人類のためにも足踏みしている暇はないのだ。使えるものは徹底的に使う覚悟が、彼にはあった。

 

「ありがとう、エア。有益な情報が得られた」

 

「いえ、こちらこそ。私も、レイヴンのためにできることを、改めて考え直す機会が得られましたから」

 

 やはり二人は、621のためというその一点ではどこまでも通じ合っていた。そんな様子を目の前で見せつけられた621は、嬉しいやら恥ずかしいやらで顔を赤く染めていたのだった。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

『RaDのチャティ・スティックだ。花火会場では世話になったな』

 

 受信したメッセージに思わず笑みが零れる。四度目でも彼は相変わらずのようであった。

 

『ボスはお前とつるんでいると楽しそうだ。これからも相手してやってくれ』

 

 言われずともそうするつもりであった。カーラもチャティも、絶対に生き残ってほしいから。幾度か裏切り、殺した人間の言えることではないかもしれないが、しかしそれでも621は彼女らが好きなのだから。

 

『用件はそれだけだ。じゃあな』

 

 メッセージが終わる。このお喋りAIは本当に(カーラ)のことが好きなのだろう。なんだかシンパシーを感じる621なのであった。

 

(しかし、楽しかったな。()()で花火大会)

 

『ビジター、着弾予測地点を表示しよう』

 

『ちょっとずれたか? まあでも、大体計算通りかね』

 

『レイヴン、あれを花火と呼んでも良いのでしょうか? データベースで見た花火は、もっとこう……』

 

『エア、比喩表現だ。あれは決して花火ではない。やはりRaDと関わらせるのは教育に悪かったか

 

 思い出すと笑みが零れる。やはり、いつまでもあの四人と……それにラスティも加えて、みんなで生きていきたい。そう621は願うのだった。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 今日も来ている依頼を確認。来ているのは二つだけ。“執行部隊殲滅”と“特務機体撃破”だ。できるだけ解放戦線に味方すると決めていた621は、当然依頼主が解放戦線である“特務機体撃破”を受けることになる。

 

(相手はカタフラクトか……)

 

 コアにMTを組み込むことで、汎用性と火力を両立した恐るべき兵器。そういう謳い文句だが、621としてはいまいち強いイメージがない。何なら四度目でも“強制監査妨害”で一機撃破している。今更苦戦する相手ではない。

 

(でも、今は人とコーラルの共生の方法を探りたいから、ミッションに時間をかけたくないんだよな。どうやったら瞬殺できるか……)

 

 621の思考は、最早「どうしたら勝てるか」ではなく「どうしたら早く終わるか」という領域に達していた。

 ドルマヤンにあれだけの啖呵を切った以上、何としてでも人とコーラルの共生は成し遂げなければならない。その思いが如何に早くカタフラクトを処理するかという思考に結びついてしまったのだ。

 既に脅威とすら思われていないカタフラクト。「封鎖機構最強の地上兵器」の名が泣いていた。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

R-ARM UNIT:DF-GA-08 HU-BEN(ガトリング)

L-ARM UNIT:44-143 HMMR(プラズマ投射機)

R-BACK UNIT:KRANICH/60Z(パルスキャノン)

L-BACK UNIT:KRANICH/60Z(パルスキャノン)

 

HEAD:HC-2000/BC SHADE EYE

CORE:EL-TC-10 FIRMEZA

ARMS:EL-TA-10 FIRMEZA

LEGS:EL-TL-10 FIRMEZA

 

BOOSTER:ALULA/21E

FCS:FC-008 TALBOT

GENERATOR:VE-20C

 

EXPANSION:ASSAULT ARMOR

 

「よし」

 

 これこそが621が考えるカタフラクト瞬殺用最適アセンブルだ。右手も右肩も左肩も全て近距離大火力兵装であり、左手には()()プラズマ投射機を装備。一見ちぐはぐな組み合わせだが、その裏には621なりの確固たる戦略がある。

 

「621、準備はできたか?」

 

「うん。これでOK」

 

「そうか。カタフラクトは一度撃破したことのある相手とは言え、油断は禁物だ。今回は僚機もいない。気を付けて相手しろ」

 

 ウォルターは心配性だなあと内心で思うが、それが嬉しくもある。ならば、ウォルターのためにもカタフラクトは秒殺してみせねば。

 

「大丈夫。絶対勝ってくるから」

 

「そうか……そうだな。お前なら大丈夫だろう」

 

 ウォルターは少しだけ過剰に心配してしまっていた自分を反省した。考えてみれば、621はV.I フロイトやバルテウスなど、カタフラクトよりも遥かに強力な敵にも勝利しているのだ。

 今更カタフラクト程度でどうにかなることはあるまい。だから、今自分がすべきことは信じて送り出すことなのだ。

 

「レイヴン、ウォルター。そろそろ作戦領域に到着します」

 

「! いよいよか。二人ともオペレート頼む」

 

「ああ、もちろんだ」

 

「レイヴン、大船に乗ったつもりで戦ってください。私たちがついていますから」

 

 どこからともなく現れた車椅子が、621を乗せてLEAPER4のコックピットへと走っていく。それを見たウォルターも、自分の位置に付く。広域レーダーOK。通信OK。LEAPER4のカメラへの接続OK。システムオールグリーン。

 相手はかつて「ハウンズ」を殺したカタフラクト。そんな相手との一対一。それでも、621ならきっとやり遂げる。

 

「621、投下するぞ」

 

「ああ、行ってきます」

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

『メインシステム、戦闘モード起動』

 

 一面何もない雪原に降り立った漆黒の巨人は、その瞳を真紅に輝かせる。

 

「ミッション開始だ」

 

 その一言と共に、621はアサルトブーストを起動。レーダーの反応がある方向に向けて、真っすぐに飛んで行く。

 

「惑星封鎖機構の特務機体、カタフラクトを撃破する」

 

 やがて見えてきたのは、一対の大型キャタピラと無数の武装を持った巨大な影。その中央には、それら全ての制御を担うコアMTも見えている。

 

「カタフラクト、来ます!」

 

 エアの報告と共に戦闘開始。カタフラクトは近づいてくるLEAPER4に向けて、ガトリングを発射。しかし、621はそれを完全に無視。

 

「コード23、敵性ACを確認。これより交戦を開始――」

 

 カタフラクトのパイロットが言い切る前にコアMTの眼前まで接近。

 

()()()()。俺の勝ちだ)

 

 そして残酷なことに、この時点でカタフラクトの敗北は決まっていた。

 621はプラズマ投射機を起動。鞭のように成形されたプラズマが左腕の機器から飛び出る。621はそれをコアMTに向けて振るった。

 

「ぬうっ!? これは!?」

 

 カタフラクトのパイロットが困惑する声が聞こえる。そりゃあそうだろう。621ですら、この武器に()()()使()()()があるなんてつい最近まで知らなかった。

 プラズマ鞭はコアMTを正確に捉え、そのまま巻き付いた。プラズマでぐるぐる巻きにされたMTに対し、621は鞭を辿って急接近。そのままガトリングとパルスキャノンを一斉発射。

 

「ヒィッ!?」

 

 ガトリングによる無数の弾丸の衝撃と、絶え間なく聞こえてくるパルスが装甲を融解させる音は、中のパイロットの冷静さを奪うには十分だった。パイロットは顔を青ざめさせ、身体を震わせる。

 だがそこは封鎖機構の特務部隊員。すぐに心を落ち着け、LEAPER4を引き剥がしにかかる。滅茶苦茶な軌道でカタフラクトを走らせ、慣性で振り落とそうと試みる。

 しかし、プラズマ鞭がしっかりと絡みついているせいで、LEAPER4は全く剥がれる気配がなかった。

 

「クッ、駄目か! コード78、支援を要請する!」

 

 カタフラクトはその構造上、コアMTに張り付いた相手に攻撃できる手段を持たない。武装は自分自身の機体が邪魔して当たらないし、正面の敵に有効な突進攻撃も、張り付かれていては意味がない。つまりは詰み。カタフラクトのパイロットは、LEAPER4に殺されるのを待つことしかできないのだ。

 

「コード78! 繰り返す! コード78!」

 

 単独での撃破は不可能。故にカタフラクトのパイロットは支援を要求する。しかし、今の封鎖機構にそんな余裕はない。本格的な反攻を開始した企業勢力に多くの戦力を割かざるを得ず、独立傭兵に回せる戦力は殆どない。だから、カタフラクトに救援は来ない。

 

「コード78!! 支援を求む!! このままでは!! 支援を求む!!!」

 

 常に浴びせられ続ける鉛玉とパルス弾が、コアMTの耐久だけでなくパイロットの精神もガリガリ削っていく。

 常に轟音と融解音を聞かせられ続け、無数の鉛玉の衝撃によって揺らされ続ける。そんな環境に閉じ込められた人間が、冷静でいられるはずがない。パイロットの顔は再び青ざめ、さっきに輪をかけて身体が震え出す。

 

「助けてくれ!! 殺される!! 聞こえていないのか!!?」

 

 恥も外聞もなくパイロットは騒ぎ立てる。ふとモニターに映された被害状況が見える。他の部位は緑色のままなのに、コアMTだけは真っ赤に染まっていた。それが意味することは一つ。

 

「コード78!!! コード78!!! コード――」

 

 カタフラクトが爆発する。コアMTの損傷が全体に伝播し、次々と小爆発が起こる。その間に621はプラズマ鞭を解除して悠々離脱。

 そしてコアMTが一際強く輝いたと思ったら、そのまま大爆発して動かなくなった。

 

「カタフラクトの撃破を確認。ミッション完了だ」

 

「お疲れ様です、レイヴン……あの、すみません。今回の私は、あなたのお役に立てたのでしょうか……?」

 

「いやいや、エアはちゃんと役に立ってるから――」

 

 あまりにも一方的な殺戮劇に、エアは自身の存在意義に疑問を呈せざるを得ない。ザイレムで621が感じた感情を、今度はエアが味わうことになったのだった。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 予定通りカタフラクトを秒殺した621はさっさと拠点に帰り、予定通り人とコーラルの共生の術を探していた。

 今はウォルターもエアもこの部屋にはいない。二人とも夕食作りに勤しんでいる。特にエアは、「今日の私は役立たずでしたので、せめてこういうところで役に立ってみせます!」とか言って、恐ろしいほどに張り切っていた。

 

(今夜はご馳走だな)

 

 本当に楽しみだ。しかし、そのご馳走が出来上がるまではまだ時間がかかる。だから今日もキサラギ博士の論文を読む。

 

「『人格を持ったCパルス変異波形の存在、及びそれによるコーラル流の制御については以前の論文で述べた通りだが、本論文ではそれを利用したコーラルによる機械制御の奪取及び――』」

 

 621はこれまでウォルターやエアと共に勉強し続けたことにより、相当学が付いてきている。故に、論文は()()()()()()()()()()()()()()()という事実も知っている。本文なんて読まない。詳細な理論やデータなんて、621の頭ではわかるはずがないのだから。

 

「『コーラルは、惑星ルビコン3の幅広い環境で生息する微生物であり、その特異な生態や相互作用には多くの未解明の要因がある』……そうごさよう、そうごさよう……あった

あった、『互いに働きかけ、影響を及ぼすこと。交互作用』……なるほどね、じゃあそう書けばいいじゃん」

 

 辞書を片手に論文を解き進める様は、一般的な傭兵のイメージからはかけ離れているだろう。それだけ621が人とコーラルの共生に対して本気であるということを表していた。

 

「『本研究では、コーラルが持つ生物学的特性と、機械に対する影響を調査することで、コーラルと機械の相互作用の可能性に新たな視点をもたらすことを目指す』……前々から思ってたけどさあ、どうして学者って人種は難しい言葉を使いたがるんだろう?」

 

 学がある人にとってはその方が読みやすいからなのだが、それを理解できるほどの学をまだ621は持ち合わせていない。

 

「『コーラルの情報導体特性――コーラルの自己増殖を利用し――延いては、コーラルと機械の融合を――』」

 

 頭をフル回転させて読み進める。621にとって、正直戦闘の方が遥かに簡単であった。論文はちょっと読むだけで頭が痛くなってくる。今だって頭痛が酷い。なんかもう熱すら出そうな気分である。

 

(エアもウォルターも、よくこんな難しいものをすらすら読めるよなあ)

 

 それでも、みんなで生きる幸せな未来を求めて、621は読み続ける。唯一コーラルの知性を、Cパルス変異波形の人格の存在を信じていたキサラギ博士なら、きっとそれを実現できる()()を思いついているかもしれない。

 自分はエアやウォルターと違って頭の出来が良くないのだ。だから、使える時間はきっちり全部使って人とコーラルの共生に貢献しなければならない。そして――

 

「……この論文の内容、人とコーラルの共生に使えるんじゃないか?」

 

 自信はない。自分の頭の出来を知っているから。でも、後でエアとウォルターにも見せてみよう。何かしらの光明にはなるかもしれない。

 

「レイヴン! 夕食が出来ましたよ!」

 

「621、食べる前にしっかり手を洗え」

 

「! はーい!」

 

 二人の声に、621は弾かれるように車椅子で走る。621が消し忘れたパソコンのモニター。そこに表示されている論文のタイトル。

 

 

 

“コーラルエンボディ”

 

 

 

 それが未来を繋ぐ鍵となるのかは、今は誰にもわからない。

 




621
 13話で誰かが余計な入れ知恵をしたせいで更なる強化が入りました。なんてことをしてくれたんだ。
 勉強は順調。辞書片手なら序論も読めるようになりました。

エア
 ミッションでは役に立てなかったが、日常では大活躍の車椅子系ヒロイン。否、介護用アームを器用に使って日々の仕事をこなす彼女は最早お手伝いロボ系ヒロインと言ってもいいのでは?

ウォルター
 ナチュラルにエアちゃんも守るべきもの枠の中に入れてるパパ。本作ではいろんな影響でしれっと花火大会に参加してます。

チャティ
 ごめんね出番カットして! でも見せ場はこれからたくさん出てくるから、それまで待って!

カタフラクト
 今話で一番不遇な人。何も抵抗させてもらえず、零距離から削り殺されました。

 ということでVSカタフラクト回という名の日常回という名の伏線回。封鎖機構さん、なんで毎回酷い死に様を晒してまうん?
 次回は旧宇宙港襲撃。書きたかったミッションが漸くやってきましたよぉ……!
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