人間には、絶対に相容れない相手というものが存在する。それは、思想の違い故か、それとも嗜好の違い故か、はたまた単なる生理的嫌悪故か。とにかく、決して分かり合えない者というのは残念ながら存在するのである。
「新しいご友人……贈り物をくれるのですね……素敵だ……」
目の前で爆散していくACのパイロットも、きっとそういう類の人間なのだろう。621は無感情な目でそいつを眺めながら、そう思った。
「死んだみたいだね。良かったよ」
カーラもこの調子だ。きっと同じ気分なのだろう。ともかくこれで奴が持ち逃げしたレールキャノンを回収できる。
◆◆◆◆◆◆
「エンゲブレト坑道の調査に行きたいだと?」
「はい」
突然の
「あの坑道は最近のコーラル逆流が起きるまで半ば捨て置かれていました。しかし、坑道自体はルビコン開発中期から存在しており、歴史は古い……」
「なるほど……つまり、アイビスの火以前の情報が残っているかもしれないと踏んでいるのか」
「そうです」
エアはアイビスの火以降に生まれた変異波形だ。それ以前の時代のことはよく知らない。だからこそ、その痕跡が残っている可能性が高いエンゲブレト坑道に興味を示していた。
「今の情勢でレイヴンに不用意な外出をさせることが、どれほど危険なのかは承知してます。それでも、私はかつてこの星に住んでいた人々が、どのような営みを送っていたのか、知りたいのです」
「そうだな……」
ウォルターは考える。エアは、今まで何度もウォルターや621の助けになってきた。なのに、報酬らしい報酬を彼女に与えることができていなかった。
というのも、当たり前ではあるが変異波形は物理的な報酬を必要としないからである。人間世界から物理的にずれた世界にいる彼女は、物も金も必要としない。
かといって、非物理的な報酬を与えようにも、エアは「あなたたちと話せること自体が最高の報酬です」と言うくらいには無欲な存在だ。少しの間621と二人きりにしてやるだけで、露骨に満足そうになる。こんなものを彼女への報酬に数えていいと思えるほど、ウォルターは能天気にはなれない。
そういうことで、ウォルターはエアに結構な負い目がある。彼女が何かを望んでいるのなら、できる限り叶えてあげたいと思うくらいには負い目があるのである。
(珍しくエアが自分の願望を口にしたんだ。全力で叶えてやるのが筋か……)
そういうわけで、ウォルターとしては許可したい。だが、実際に調査するのは621だ。621本人の意思も確認しなければ。
「621、お前は──」
「勿論いいよ?」
即答だった。何となくそうなるだろうなとは思っていたが、まさかここまで返事が早いとは。
「わかった。本人もこの通りだし、許可しよう」
「! ありがとうございます!」
本当に無欲な存在だ。この程度のことでここまで喜ぶとは。やはり彼女のためにも、人とコーラルの共生は絶対に実現せねばなるまい。
ウォルターは少し前だったら絶対にしなかったであろう思考をしてしまい、遅れてそれに気付いて苦笑する。
「エア、調査のときは俺がオペレートしよう。お前は自分の目的に専念すればいい」
「そ、そんな! 私の我が儘に、そこまで手を煩わせるわけには……!」
621も言っていたが、やはりエアは優しすぎる。こんなときくらいもっと自分勝手になればいいのに。
「いや、いいんだ。俺としては、普段から世話になっている礼も兼ねている。まあ、こんなものが礼になるかはわからんが……ともかく、たまには好きに楽しんでこい」
「ウォルター……本当に、ありがとうございます」
きっとエアの身体が人型だったら、今頃深々と礼をしていただろう。そんなことを感じさせる声色だった。
「レイヴンも……我が儘に付き合わせて、ごめんなさい」
「いいんだよ、エア! 俺だってエアのために何かするのは好きだし! それに、三人で出掛けるのは楽しそうだし!」
621は満面の笑みで答える。二人揃って本当に純真な子たちだ。彼らの未来が暗いものであっていいはずがない。
(そんな子たちを戦場に送っている俺は……本当に何なのだろうな)
喜ぶ二人を見ていると背筋に冷たいものが走る。彼らが織り成す明るい未来。きっとそこに、俺の居場所は無い。
◆◆◆◆◆◆
『メインシステム、戦闘モード起動』
エンゲブレト坑道の入り口に、一機の人型が降り立つ。621は念のためこのタイミングでも、今回のアセンブルを確認。
R-ARM UNIT:
L-ARM UNIT:
R-BACK UNIT:
L-BACK UNIT:
HEAD:HC-2000/BC SHADE EYE
CORE:CC-2000 ORBITER
ARMS:AR-011 MELANDER
LEGS:
BOOSTER:ALULA/21E
FCS:FC-008 TALBOT
GENERATOR:VP-20C
EXPANSION:ASSAULT ARMOR
飽くまでも探索がメインであり、機動力を重視。武装は最小限だ。
「二人とも、付き合ってくれてありがとうございます」
「礼はいい。当然のことをしたまでだ」
「そうそう! せっかく三人いるんだから助け合わなくちゃね!」
当然のことのように助けてくれる二人に、エアとしては感謝の念が尽きない。これは今後ますます彼らのサポートを頑張らねばならぬと思うのであった。
「621、ログの回収ができそうな残骸をいくつか発見した。マーカーの場所を目指せ」
ウォルターが早速めぼしい残骸を見繕い、その場所をマーカーで示す。視界には
「よし、じゃあ時間をかける意味もないし、最速で終わらせるか」
621はアサルトブーストを起動し、坑道をすっ飛ばして行くのだった。
◆◆◆◆◆◆
「待ってください! レイヴン!」
「ん? どうしたエア?」
「あの封鎖機構の機体の残骸……まだ情報が抜けそうです! あそこから情報を抜いて換金してきます! それを二人への礼とさせてください!」
「いや、エア……そこまでする必要は……」
「そうだよ、エア。今回の調査は、俺たちからエアへの感謝の気持ちを込めたプレゼントみたいなものだ。だから、エアは気楽に過ごしてくれていいんだよ」
「それは嬉しいのですが……でも……」
「エア、感謝の気持ちは素直に受け取ることだ。感謝する側にとっても、される側にとってもそれが一番だ。そうだろう?」
「それは……そうですね。わかりました。今回はお言葉に甘えさせていただきます」
「うんうん、それがいい」
「ああ。情報の抜き取りと換金はこっちの方でやっておく」
「……それは結局やるんだ」
◆◆◆◆◆◆
「まずは一つ目」
一つ目のマーカーの場所に辿り着く。そこには、技研製ACの残骸があった。
「EPHEMERAか。アイビスの火以前にはそれなりに量産されていたフレームだ。その大半はアイビスの火によって失われたが、これだけ原型を留めているのは珍しい」
「これならばきっと当時の情報も……今解析してみます」
エアが621の頭の中から抜け、残骸へと入り込む。生き残っているメモリーにアクセスし、セキュリティを解除。情報を吸い出す。
「抜き取れました。今共有します」
621の頭の中にエアが戻ってくる。その直後、LEAPER4のモニター及びウォルターの通信端末に情報が送られてきた。
それは、“ナガイ教授の口述筆記(4)”と題されたテキストデータ。かつて訪れかけた“破綻”を前に、一人の科学者が最後まで足搔き続けた記録だった。
「……タイムスタンプによると、記録されたのはアイビスの火の二日前……やはり、あの災害は人為的に起こされたものだった。コーラルの増殖による“破綻”……それを回避するために……」
エアが一人呟く。彼女にとってそれは、遠い過去の出来事などではない。人とコーラルの共生が為されなければ、いずれ誰かが同じ災害を起こすか、あるいは破綻の末に人が死ぬか。二つに一つの絶望が待ち受けているのだ。
「人もコーラルも、大勢が死んでいった……」
「……もうこんなことは絶対に起こさせない。そのための“共生”だ」
「……ありがとう、レイヴン。きっと共生を実現させましょう」
二人して未来に思いを馳せる。かつて起こった過ちを糧に、今度こそ災害を回避してみせると、そう決意する。
そんな二人の様子を、ウォルターは沈痛な面持ちで見つめていた。
◆◆◆◆◆◆
「よし。二つ目だ」
またしても621は残骸に辿り着く。今度はBAWSの旧型ACの残骸だ。
「BASHOか。今なお現役のフレームだな」
「ドルマヤンが使っていたのも同型機でしたね。では、解析してみます」
再びエアが残骸に入り込み、内部のデータを抜き取る。そして抜き取ったデータを三人で共有する。
今度のデータは“ドルマヤンの随想録(2)”。若かりし頃のドルマヤンによる口述筆記。変異波形と交信し、コーラルの意思の存在を知りながら、それでもコーラルの消費を止められない自分の在り方を嘆いた一人の青年の記憶だ。
「これは……やはりドルマヤンも、私のような変異波形と交信していたのでしょう」
「奴はザイレムでセリアという名前を口にしていた。それが奴と交信していた変異波形の名前ということか」
ウォルターが納得したように呟く。
「やっぱりエアは、コーラルがミールワームの餌とかに使われてるのは嫌なのか?」
621としてはそこが気になった。この随想録によれば、セリアはドルマヤンらルビコニアンたちが「コーラルの恵みを摂る」ことを許容していたようだ。生きるためにコーラルを貪る。それは、動力として燃やしたり、麻薬として消費したりすることとは少し違うようにも思える。
エアにとってもその区別が、感情的な違いがあるのか。一生を賭けてエアをサポートすると決めていた621にとって、それは知っておかなければいけないことだった。
「そうですね……生物が他の命を食らって生きることは、自然なことです。コーラルもその範疇からは逃れられないというのは、私もわかってます。だから、
621が思っていたよりも、エアのコーラルの被食に対する意識はずっと穏やかだった。
彼女も彼女なりに、生物としてコーラルが食物連鎖の環の中に組み込まれていることは受け容れていたのだろう。
「でも……それがルビコンに暮らす人々にとって、必要なことだとはわかっているのですが……やっぱり、できるなら同胞たちが食べられて欲しくないと、そう思ってしまいます」
エアは哀し気にそう言った。その声には、生物として当たり前の生存本能と、他者を慮る自己犠牲の精神との間で葛藤する彼女の心が表れていた。
「エア、むしろそれが自然だ。生き物は誰しも死にたくないという感情を、仲間に生きてほしいと思う気持ちを持っている。それは全ての生物が生きていく上で獲得していった、ごく当たり前の感情だ」
長らく彼女と共に過ごして、ウォルターはエアの自己犠牲的精神の強さに気付いていた。
彼女には、コミュニケーションが成立する同族がいなかった。コーラルは意思こそ持つものの、それは人間のそれよりずっと単純で、交流できるようなものではない。故に、今のエアにとって最も身近な「仲間」は621とウォルターと言える。そんな彼女の環境が、種族的な本能よりも人類の生存を願う歪な感性を生み出した。
だが、だからといってエアにそういった本能が無いわけではない。だから苦しむ。そんな葛藤は、ウォルターには見ていられなかった。
「優しさは美徳だが、それで自分を蔑ろにしたら意味がない。エア、もっと素直に生きろ」
「ウォルター……ありがとうございます。私も、もう少しだけ自分の感情に正直になってみようと思います」
「それでいい。お前は人間のような知性を持っているが、それ以前にコーラルという種族なんだ。それを忘れて共生を果たすなんて、恐らくできはしない」
エアは心が少しだけ軽くなったような気がした。
「……表向きセリアはこう言ってたけど、きっと内心ではエアと同じように苦しんでたのかもしれないね」
「恐らく、そうでしょう……ドルマヤンは彼女のそんな内心に気付いて、それで共生を目指したのかもしれません」
「じゃあ二人のためにも、俺たちが頑張らなきゃな」
「……そうだな」
失敗してしまった先人たち。その遺志に触れて、改めて覚悟を決める三人なのだった。
◆◆◆◆◆◆
「三つ目だ」
「またEPHEMERAか。それなりにレア物なはずだが、一日に二回も見かけることになるとはな」
「早速情報を抜いてきますね」
三度目ともなると、流石に作業も早くなる。抜き取ったデータのタイトルは“ナガイ教授の口述筆記(2)”。それは、研究にのめり込むあまり人道すら無視し始めた助手を憂う一人の科学者の記録だった。
「ッ……!!」
「? ウォルター?」
通信越しですらはっきりわかるくらいにウォルターの様子がおかしい。エアは思わず問いかける。だが返事は返ってこない。
「ウォルター、もしかしてあなたは――」
「エア、それ以上は言わなくていい」
621はエアにストップをかける。記録にもあった第1助手。強化人間の生みの親とも言える男であるが、621は彼とウォルターがどういう関係にあるのかは薄々勘付いていた。紛うことなき善人である彼にとって、父親の罪を再び突き付けられるのはあまりにも辛いものがあるだろう。
だけど……いや、
「ウォルター、あなたが強化人間技術とどのような関係があるのかはわかりませんが――」
「エア!」
621が止めようとするが、しかしそれでもエアは続ける。これは絶対に今言わなければいけないことだから。
「確かに強化人間技術は許されないものだと思います。でも、それが無ければ私たちがこうして話すことはあり得なかった。人とコーラルの共生を目指すことも、きっと出来なかったと思います」
それはエアの本心からの言葉だった。確かに、人間の尊厳を無視したこの技術はあってはならないものなのかもしれない。しかし、その技術が無ければ自分はいつまでも孤独なままだっただろう。
そう考えると、強化人間技術というものを憎み切れない自分がいたのだった。一人の知性体として、対話できる誰かがいるということはそれほどまでに重要なことだったから。
「この技術の犠牲になった人たちも、きっと無駄な犠牲などではなかった。決して肯定することはできませんが、それでも意味があるものだったはずです」
「エア……」
「だから、そんなに自分を責めないでください。私たちがここまで歩んでこれたのは、その技術のお蔭でもあるんですから」
エアの言葉がウォルターの心に響いていく。自分は決して許されない存在だと思っていた。罪人の息子として生まれ、一生を賭けてその罪科を償わねばならないのだと。
だけどここに一人、そんな罪科に感謝すら示す存在がいた。それで自分の罪が許されると思えるほど楽観的にはなれない。だが、エアの言葉は、確実にウォルターに圧し掛かっていた何かを軽くしたのだった。
「……すまない、エア。ありがとう」
「いえ、さっきアドバイスをくれたお礼ですから。そんなに気負わないでください」
通信の向こうから、椅子に座りなおす音が聞こえてくる。それは、心機一転のためのある種の儀式であったか。
「621も、苦労をかけた」
「いやいや、エアが言った通りこの技術がなかったら俺はウォルターにもエアにも会えてなかったから。感謝こそすれ、恨みなんかしないよ」
あっけらかんとした様子で放たれた言葉に、再びウォルターの背負う何かが軽くなった気がする。少しだけ……本当に少しだけ、自分を許してやってもいいのかもしれないと、そうウォルターは生まれて初めて思えたのだった。
◆◆◆◆◆◆
「もう大丈夫だ。オペレートに復帰する」
「了解。じゃあ次が最後の記録になるかな」
「そうですね。マーカーはあと一つだけ。あれを確認したら帰りましょう」
マーカーが示すのは、坑道の最下層にある不活性コーラル溜まりの水面。そこに向かうために621は降りていく。
(あれ……? 四つ目?)
そこで621は気付く。
(電子戦とかだとエアの方が強いけど、広域レーダーの使い方とかはウォルターに一日の長がある。だから、一度目二度目ではエアが気付けなかった残骸にも、ウォルターなら気付けたという感じなのかな?)
果たしてそれは正解だった。エア単独でのオペレートでは気付けなかった作戦領域ギリギリに沈む残骸。ウォルターならば、それを見つけることができる。
「またしてもEPHEMERAか。あれはそこまで普及したフレームではないはずだが……三機もいるとは、この坑道に一体何が……?」
ウォルターが何かを訝しんでいるが、ひとまずはデータの回収が先だ。エアがアクセスして、情報を抜き取る。そこには、技研の誰かが記録したと思われるログがあった。
『文書データ:第一助手の口述筆記
最近IM-01の様子がおかしい。
あんなものは理論上の存在でしかないはずなのだが……いや、
だとすると、変異波形の自我も、コーラルリリースも実在するというのか? だとしたら最高だ。人類を次なるステージへ昇華させる……これほど心躍ることはない』
「これは……私のような存在や、コーラルリリースについて言及しているようですが、
このログを見る限り、
「型式番号IM-01、セフィロト。技研が開発した多人格統合型AI。コーラルに人間の意思が散逸する性質を利用して作られた、技研の狂気の産物だ」
「コーラルを使ったAI……そのようなものが……」
エアは初めて聞く話に興味をそそられたようだ。しかし、その実態はエアが想像するのよりも遥かに悍ましいものだった。
「厳密にはAIではないがな……技研はある時気付いてしまった。人が死ぬとき、その近くに一定以上の量のコーラルがあれば、そこに意識が伝播するということに」
そこまではエアも621も知っていることだった。死んだ人間の意識はコーラルに伝わることがある。そうした意識は時間と共にコーラルの流れの中に散逸し、消えていく。
「そこで技研は考えた。コーラルの流れに意識が拡散してしまうのなら、流れを機械的に制御することでそれを防げるのではないかと。実際それは成功し、安定してコーラルに人格を溶かす技術が確立された」
エアも621もウォルターの語りに聞き入る。自分の知らない技研の歴史を、静かに咀嚼する。
「この技術は技研を一つの狂った発想に至らせた。それは、一つのコーラル流に無数の人格を溶かせば、人々の意識が融合し、人の柔軟性とAI並みの計算速度を備えた集合知を作り出せるのではないかというものだった」
「な……!?」
「そんなことを……!?」
あまりにも悍ましい発想に、エアも621も絶句するしかない。
「無数の人間が犠牲になった。騙して連れてこられた労働者。自ら志願した技研の研究員。その辺で捕らえたドーザー。何百という人間が『処理速度の向上』などというふざけた題目の下に殺され、そして溶かされていった」
ウォルターは飽くまでもいつも通りの淡々とした語り口調を崩さない。それは、煮え滾る内心を押し殺そうとしているようにも感じられた。
「勿論、ただ溶かしただけでは思考はバラバラのままで集合知になどなるはずがない。だから、その発案者であった
「そんなものが作られていたなんて……」
強化人間技術やC兵器など、技研がどれほど狂った集団だったのかは知っていたつもりだった。しかし、それを優に超える狂気を見せつけてくるとは。エアは信じられない。
「……ねえ、ウォルター」
「どうした、621」
そんな中、621としては聞きたいことがあった。今の話に感じた既視感。それを確かめなければならない。
「その集合知って奴は、今はどうなってるんだ?」
「ああ、それならアイビスの火で消失したと聞いている。だから、もうこの世にはないだろう」
ウォルターはそう言うが、621は何となく確信していた。それはまだあると。恐らくどこかで生きていて、
だがそれを言ったところで流石に信じてもらえないだろう。現状では証拠となるようなものもないのだから。故に、言い方を変える。
「もし、それが生きてたとしたら……今でもコーラルリリースを目指して、何かしら企んでたりするのかな」
「そうだな……セフィロトを統合した研究者――
◆◆◆◆◆◆
「ふぅ……ただいまー」
「ただいま戻りました、ウォルター」
「621、エア。戻ったか」
坑道で情報ログを四つ回収した621とエアは、これ以上目ぼしい情報は無さそうだったので拠点へと帰ってきた。
「エア、621を部屋に連れていって休ませてやれ。俺は今から夕食を作る」
「了解です」
いつものように車椅子に乗り移ったエアが、介護用アームを使って器用に621をLEAPER4から降ろす。そのまま621を上に乗せ、部屋へと爆走する。
「エア、今日のお出かけは満足した?」
「はい、勿論です。とても有意義な時間を過ごせました」
道中、廊下で621が尋ねると、エアは嬉しそうに答えた。
「そっか。それは良かった。何かして欲しいことがあったらいつでも言ってくれよ。絶対叶えてあげるから」
「そ、そんな! ただでさえいつもお世話になっているのに、これ以上我儘を聞いてもらうのは――!」
「いやいや! こっちだっていつも助けてもらってるんだからね? これぐらいしないと罰が――」
「いえ、私はレイヴンと一緒にいるだけで――」
「それを言うなら俺だってエアと一緒にいるだけで――」
二人して恥ずかし気な声を上げながら、それでも相手に尽くしたい心が止まらない。二人は穏やかな日常を噛み締めながら、廊下を爆走するのだった。
◆◆◆◆◆◆
「……? なんだこの依頼?」
夕食が完成するのを待つ間。621は部屋で一人、来ている依頼を確認していた。エアはいない。ウォルターの夕食作りを手伝いに行っている。
「いやまあ、一度目とも二度目とも三度目とも違うことをしてるんだし、知らない依頼が来ても不思議じゃないか」
そもそも「壁」の防衛とかもしていたのだし、今更か。そう考えた621は、一旦考えるのをやめてブリーフィングだけ聞いておくことにする。
依頼名“特設ラボ防衛”。四度目の621ですら知らない戦場が、幕を開けようとしていた。
ブルートゥ
予告通りダイジェストで処理。仕方ないね、ブルートゥだもの。
621
何気にエアとウォルターへの感情が重い駄犬。セフィロトに何かを感じ取った模様。
エア
過去を知るついでにウォルターに救われ、ついでにウォルターを救った女。これは間違いのないヒロインですわ。
ウォルター
何をしても全自動で曇る人。でも今回のことで彼にも多少の救いが訪れたと信じたい。ちょっとなんか普通に人とコーラルの共生を目指し始めてて泣きそう。
セフィロト
もし生きてたら名前を変えてるかもとか621は推測してますが、一体オール何ンドのことを言っているのか全くわかりませんねえ……
ということで旧時代データ回収回。まさかこれ一本で一話かけるとは思わなんだ。三人とも結構勝手に喋ってくれるので、尺が稼げる稼げる。
次回はVS繝悶Λ繝ウ繝『ith繝ゥ繧ケ繝?ぅ縲よ怙霑大?髣倥@縺溘?縺」縺九↑縺ョ縺ォ縲√∪縺溷?髣倥→縺九◆縺セ縺偵◆縺ェ縺ゅ? おっと、オールマインドによる電波妨害ですね……
それは621たちが坑道調査に赴く数日前の出来事。
「レイヴン、次の依頼は決まったかしら?」
今来た
「でも、きっと難しい戦いになるでしょうね」
そりゃそうだろう。今回の場所には、企業の威信が賭かっているのだから。故にこそ、それを台無しにしてやりたいとも思うのだが。
「
こうして傭兵たちは依頼を受ける。それが
だから気付かない。否、気付けない。自分たちが何をしようとしているのかを。自由と無責任を履き違えた集団なんかが、自分の行いを省みるわけがない。
今日もどこかで。621たちが希望の種を蒔いているその傍で。