対アイスワームの作戦当日。ヘリに揺られる中、621は最終調整を進める。まずはアセンブルの確認。
R-ARM UNIT:
L-ARM UNIT:
R-BACK UNIT:
L-BACK UNIT:
HEAD:HC-2000/BC SHADE EYE
CORE:CC-2000 ORBITER
ARMS:NACHTREIHER/46E
LEGS:LG-012 MELANDER C3
BOOSTER:ALULA/21E
FCS:FC-008 TALBOT
GENERATOR:AG-T-005 HOKUSHI
EXPANSION:ASSAULT ARMOR
OK。アーキバスから送られてきた対アイスワーム兵器、スタンニードルランチャーもちゃんと乗せている。エアに呆れられるのは二度とごめんだ。
今回のLEAPER4のコンセプトは、完全な対アイスワーム構成。機動力を活かして強引にアイスワームにスタンニードルランチャーをぶち込み、その後はグレネードとパイルバンカーの火力で粉砕するというコンセプトだ。
アイスワーム以外の敵への対応力が著しく低いアセンブルである。しかし、今回のミッションは単独で行うものではない。五機による協同作戦であり、自分に与えられた役割は、スタンニードルランチャーによるプライマリシールドの突破。
であるならば、それに最適化したアセンブルで挑むのが最も効率的であろう。
「……時間だ。621、準備はいいか」
「ああ、勿論」
「作戦の要はあなたです、レイヴン」
ヘリが開き、LEAPER4の投下準備に入る。外は吹雪いており、視界は殆ど真っ白だ。
「行きましょう。私も、できる限りのサポートをします」
「うん。ありがとう、エア」
固定具、解除。LEAPER4投下。黒い死神は、吹雪の雪原の中でもはっきりとその存在感を示していた。
『メインシステム、戦闘モード起動』
雪の中に響くアサルトブーストの爆音。三機のACがLEAPER4を左右から追い越し、アイスワームへと向かっていく。621もそれに続いてアサルトブーストを起動する。
「ミッション開始だ。本作戦の総指揮はミシガンが取る」
「これよりベイラムとアーキバスの合意に基づき、混成AC部隊による作戦行動を開始する。始めるぞ! 命知らずども!」
「寄せ集め各員。統率を欠かないように」
オペレーターにウォルター、総指揮にミシガン、現場指揮はスネイルという、贅沢が過ぎる布陣。しかし、それでも油断はできない。
アイスワームはACを一撃で粉砕するパワーを持つ。これだけの準備を重ねたとて、下手をすれば一蹴されかねない。
故に、最前線に赴く四人は自ずと緊張感に包まれる。
(……来るか!)
近づいてくる四機に気付いたのか、アイスワームの動きが変わる。ウォッチポイントの周りを旋回するのをやめ、一度地面に潜り込んだ。レーダー反応は急速にこちらに近づいている。四機を食らわんと、地面の中から狙いを付けているのだろう。
「まずは厄介な防壁を引き剥がす。 G13! アーキバスが大金を注ぎ込んだ、贅沢な専用兵装を──」
瞬間、空気が抜けるような音が響く。それがスタンニードルランチャーの発射音だと気付けたものはいなかった。その
帯電した針状の弾頭が飛んで行ったのを見て、皆遅れて621が何をしたのかを理解する。
「ケッ! AC相手なら利口な野良犬も、化け物相手じゃ──!?」
イグアスは、621が恐怖のあまり引き金を引いてしまったのだと勘違いした。故に彼を馬鹿にしようとして口を開き、そして驚愕した。
621が発射した針状の弾頭の軌道上に、ちょうど地上に頭を出そうとしたアイスワームが現れる。
弾頭はそのままアイスワームの頭部に直撃。弾頭に蓄積されていた大電流がアイスワームの頭部の中で炸裂し、一枚目の守りを剥がした。
「なっ!? あいつ!?」
「動きを予測して弾を
「!……まあ、この程度はやってくれなければ困ります」
621にとって、アイスワームと対峙するのはこれが四度目。故に、その動きはほぼ全て頭の中に入っている。ここまで研ぎ澄まされてきた621の技量ならば、このような予測射撃も可能であった。
「目標、プライマリシールド消失!」
「シールド消失確認。レールキャノン発射シーケンスに入る」
アイスワームの一枚目の守りが剥がれたことを確認したラスティは、即座にレールキャノンの発射準備を整える。戦友の前で恥をかかぬよう、昨日まで何度も訓練を重ねてきた。故に、その動きに一切の淀みはない。
「EMLモジュール接続。エネルギータービン開放。出力80%」
「頼むぞ、戦友!」
621は思わず祈る。三度の人生で彼がこの狙撃を外したところなど一度も見たことがないのにも関わらず。それでも、彼の戦友として、彼の成功を祈る。
「照準補正良し。90、95」
レーダー反応が再び近づいてくる。狙いは恐らく621だ。アイスワームは自分の守りを一枚食い破ったその一機を、消すべき脅威と認識したようだ。
だが、621は恐れることなく、ただ立ち尽くす。心配はいらない。戦友ならば必ず成し遂げる。アラートが鳴るが、避ける必要はない。ただその時を待てばいい。遠方でまばゆい光が輝いている。準備はできたようだ。
そして、アイスワームがその巨体を地表に表した。地殻を食い破り、その威容を派手に知らしめる。そのまま首を621の方向へ向け、噛みつこうとする。
一瞬の静寂。戦闘中であるはずなのに、その瞬間だけ、その場にいる全機が、その場にいる全員が、一切の音を発しなかった。
「外しはしない」
ラスティの声と共に、規格外の弾丸が発射された。辺り一帯の電力を奪い、限界まで電磁加速された弾丸。それは、真っすぐにアイスワームの頭部を撃ち抜いた。
直後、轟音が響く。静寂が呆気なく粉砕され、さっきまでが嘘のように空気が揺れる。無敵の威容を誇ったアイスワームが、ぐったりと地面に倒れ込んだ。
「セカンダリシールド消失!」
「全機! 頭部に直接攻撃を加えてやれ!」
エアの報告に従い、ミシガンが即座に指示を下す。そしてこの場にいるのはルビコンでも上澄みの精鋭たちだ。咄嗟の連携も完璧であった。
打ち合わせなどなく、それぞれが各自で判断した結果、全員が射撃武装を同時に一斉射する。グレネードが、バズーカが、レーザーキャノンが、リニアライフルが。それぞれアイスワームの頭部を抉っていく。
そして全員が弾切れになった瞬間に621とスネイルが飛び出す。まずスネイルがレーザーランスで突貫し、アイスワームを刺し貫く。そしてレーザーランスがオーバーヒートすると同時にアイスワームの頭部を蹴って離脱。そのまま621にバトンタッチ。
621は左腕を大きく引き絞る。使うのは当然パイルバンカー。炸薬を装填し、最大チャージ。そのまま頭部に必殺の刺突を放つ。
怒涛の連続攻撃を受けて、流石のアイスワームも損傷を免れない。コーラル特有の真紅の爆炎を上げて、大きく頭を仰け反らせた。
「目標、両シールドを再展開!」
「聞こえていたな! G13! V.IV! もう一度奴の頭をひっぱたいてやれ!」
「「了解」」
ミシガンの指示に621とラスティが答える。息はピッタリ。まさに阿吽の呼吸だ。
「ビジター、目標が子機を展開した。対処する」
損傷を加えられたアイスワームは、確実に脅威を排除するために大量のドローンを展開した。621は、今のアセンブルでは対応が難しいと判断して下がる。
その意図を汲んで、スネイル、チャティ、イグアスが前に出る。
「子機の対処は我々が引き受けましょう。今のレイヴンには荷が重い」
「ビジターは後方で待機を。アイスワームの再びの襲撃に備えてくれ」
「わかってる。子機は任せた」
「チッ。楽でいいなあ、野良犬は。勝手にお守りしてもらえるんだからなあ」
イグアスが悪態をつくが、全員無視。今は子機の対処に集中しなければならないのだ。
621以外の全機が、アサルトブーストでドローンの群れに突撃。ドローンはレーザーで迎撃しようとするが、今更そんな攻撃に当たる彼らではない。左右に散開して回避し、それぞれの武装を回して次々に撃墜していく。無数にいたはずのドローンは、いつの間にかほんの数機しか残っていなかった。
(この分なら、四度目も今まで通りになりそうだ)
元々あまり心配はしていなかったのだが、それでも「万が一」ということもある。それに、周回するたびに同じミッションでも異なる展開になるということも経験してきた。
だから、この戦いでも自分の知らない展開が起きるのではないか。そう警戒することを怠らなかったのだが、その心配を余所に無事にアイスワームに一発目を当てることができた。
(問題なく勝てるならそれに越したことはない。このまま二発目、三発目も――)
「……この反応は?」
621が安心しかけたその時だった。不意にウォルターが呟く。
「広域レーダーに敵性反応……所属不明の無人機が八機、それと無人ACが一機。ラスティの方に向かっている」
「なんだって!?」
予想外の展開に621は思わず叫ぶ。こちらではなく戦友の方が狙われるとは。ラスティもオーバードレールキャノンも、この作戦の要だ。失うわけにはいかない。
「まずいな。スティールヘイズはレールキャノンに完全に固定されている。今の私に戦闘機動は行えない」
「誰かが護衛に付かないと――!」
621が不安げな声を漏らす。今の自分にはスタンニードルランチャーを当てるという役割がある。故に、戦友の護衛という役割を誰かに譲らねばならない。
そして、この場にいる他の三人もすぐにその考えに至る。故に、判断は早い。
「ビジター、俺の機体は速度に優れている。護衛にも間に合うだろう」
「寄せ集めにうちのヴェスパーの護衛を任せるのは不安が残ります。私も後から追いつきましょう」
「よし! では、V.IIとチャティは今すぐV.IVの救援に向かえ! G5! G13! お前たちは引き続き化け物に対処しろ!」
ミシガンの許可も得て、チャティとスネイルが離脱。アサルトブーストを吹かして、レールキャノンの方へと飛んでいく。
残されたのは621とイグアス。この二人だけでアイスワームに対処しなければならない。
「クソがっ! なんでてめえなんかと二人きりにさせられなきゃなんねえ!」
(それはこっちのセリフだ! 護衛がお前じゃ、頼りないにもほどがある!)
621は内心毒づくが、声には出さない。彼を激昂させて、背中から撃たれるようになったら最悪だ。正直アイスワームとイグアスなら、両方を同時に相手しても生き残れる自信はあるのだが、だからと言って自分から状況を悪くしに行くような馬鹿はいない。
「あのミサイルは……あれにはコーラルが満載されています。火力、誘導性共に脅威です。回避に集中を!」
621とイグアスに向けて、アイスワームは真っ赤に光る誘導弾をばら撒いてくる。通常のミサイルのように普通に誘導してくるものもあれば、地面を跳ねるようにしてこちらに接近してくるものもある。こうしたあり得ない軌道を取らせられるのも、コーラルによる恩寵なのだろう。
(コーラルを、こんなことに……!)
真っ白な雪原に、赤い爆炎が咲き誇る。ミサイルが着弾するたびに、命が消えてゆく。声が
「ちくしょう……! 頭が……痛え……!」
それに気を取られているせいで、621は気付けなかった。イグアスの動きが露骨に悪くなっていることに。激しい頭痛と耳鳴りに苛まれ、イグアスの軌道が精彩を欠く。
「! イグアス!?」
「しまっ――!?」
化け物が人間のコンディションを気にしてくれるはずがない。アイスワームはイグアスに対して容赦なくコーラルミサイルを発射。赤く輝く死の光が、彼に迫る。
「ぐうっ! まだだ! ミシガンの野郎を一発ぶん殴るまでは……死んでたまるかよ!」
イグアスは反射的に左肩のシールドを展開。コーラル爆発はパルス防壁に阻まれ、致命的な損傷は回避する。だが、あれだけの威力のミサイルを受け止めて、機体にかかる衝撃が少ないはずがない。
ガァン!
「スタッガー!? こんな時に!」
イグアスのAC、ヘッドブリンガーの動きが止まる。なんとかミサイルは受けきったが、その衝撃でACSへの負荷は限界に達してしまった。コックピットにアラートが鳴り響き、何をどうやっても機体は動かない。
「まずい! このままじゃあの化け物に――!?」
イグアスの懸念は的中した。アイスワームが地面から飛び出してくる。アイスワームは暴走したコーラルに乗っ取られている故、単純な思考しかできない。しかし、単純な思考でも、動かない獲物相手にどうすればいいのかなんてことは容易くわかる。ただ捕食すればいいのみだ。
地面から飛び出したアイスワームの狙いは、勿論ヘッドブリンガー。大口を開けた破砕機が、イグアスに迫る。イグアスはそれを、ただ見ていることしかできない。
「本当に、世話が焼ける!」
ガァン!!
「うおわっ!?」
しかし、イグアスが食べられることはなかった。ヘッドブリンガーが食われるその直前に、621がブーストキックで蹴り飛ばす。蹴っ飛ばされたヘッドブリンガーは、アイスワームの軌道上から逃れることに成功する。
「……これは、まずいか?」
だが、その代償は小さくなかった。ヘッドブリンガーを蹴ったLEAPER4は、その衝撃で一瞬動きを止めてしまった。それもアイスワームの目の前で。ギリギリでクイックブーストを吹かしているが、それでも避けきれない。
アイスワームの口から逃げ切れず、LEAPER4の右腕が食いちぎられる。当然、持っていたグレネードも、右腕ごと吞み込まれていった。
だが、ただで右腕をくれてやる621ではない。せめてこのチャンスに一矢報いようと、右腕を食われながらもスタンニードルランチャーを撃っていた。この至近距離で621が外すはずもなく、放たれた弾頭はプライマリシールドを再び引き剥がす。
「おい、野良犬ぅ!! てめえ、何しやがんだ!!」
「何って……助けてやったんだろう? 俺が蹴ってなきゃお前、今頃死んでたぞ?」
「余計なことしてんじゃねえ!! てめえの助けなんかなくても、俺なら避けれてた!」
「お前……! 命の恩人にお礼の一言もないのか!」
「てめえが勝手に助けただけだろ! 野良犬! 恩着せがましいんだよ!」
「人が右腕まで犠牲にしてやったってのに! 企業の首輪付きなお前にはわかんないだろうけどなあ、独立傭兵にとっては腕の一本でも高いんだぞ!?」
「誰が首輪付きだ! 俺は企業の狗になった覚えはねえ!」
「じゃあその機体は誰のものだ!? 自分で自分のACの修理費を払う苦労をお前にも味合わせてやろうか!?」
「望むところだ! てめえの修理費ももっと――」
「いつまで乳繰り合っとるんだ! 貴様らはぁぁぁあああ!!!」
621とイグアスの口喧嘩は、ミシガンによる一喝で強制的に終了させられた。鼓膜に巨大な空気の塊をぶつけられ、621とイグアスは二人して一瞬平衡感覚を失う。
「戦友、言い争っているところ悪いが、そろそろレールキャノンの準備が完了する。備えてくれ」
「……了解。すまん、戦友」
「フフ、いいんだ。君にもそういう一面があるとはね。むしろ親近感が湧く」
とんだ醜態を晒してしまった。621は、バツが悪げに返事する。グレネードを失った今、LEAPER4の火力は大幅に低下している。残念ながら、アイスワームの撃破にイグアスとの連携は必須なのだ。
「戦友、そっちは大丈夫なのか?」
「ああ、チャティは存外に戦えるようだ。私には傷一つない」
遠方でレールキャノンの光が輝き始める。どうやら本当に大丈夫なようだ。レールキャノンのチャージを無事に行えるくらいには、無人機を押し返せているらしい。そして光が一際大きくなる。チャージは完了したようだ。
「巻き込まれるなよ……!」
再び地表に姿を表すアイスワーム。やはりラスティは、それを正確に撃ち抜く。
「セカンダリシールド、消失!」
「二人とも、追撃を頼む」
「任せろ、戦友」
「……チッ」
右腕を失ってもやることは変わらない。頭部にスタンニードルランチャーを一発ぶち込んだ後、そのままパイルバンカーをお見舞いするために接近する。
イグアスも手持ちの武装で追撃を――
「イグアス?」
「……っ!」
イグアスの様子がおかしい。撃っているのはリニアライフルとミサイルだけで、左腕のマシンガンは一発も撃っていない。ただでさえこちらはグレネードを奪われて火力不足なのに、そんな悠長なことをしている暇はないはずだ。
「イグアス! 何をやってる! マシンガンも撃て!」
「う、うるせえ! 野良犬が俺に指図すんな!」
振り返って見れば、イグアスは
「いい加減にしろよ! この臆病者!」
「だ、黙れ! お、俺は……!」
イグアスは反論しようとするが、言葉に詰まってしまう。いつものように罵声を返そうとしても、口から先に出ていかない。声を出そうとしても、心に引っ掛かる。何せ、621の言葉は
イグアスは元来臆病であった。プライドだけは一人前に高いが、しかし
それでも彼が戦場に立てていたのは、信頼できる仲間が隣にいたからだ。彼は強かった。その隣に立つだけで自分も強くなったと錯覚できた。敵の注意を惹くという名目の下、盾を構えて消極的に射撃戦をするだけで敵は消えていった。
ミシガンからは何度も「もっと自分に合った戦術」を提案されたが、イグアスは頑固にも断り続けていた。命を危険に晒すなんて、馬鹿のやることだと自分に言い訳をして。隣の彼が、その「馬鹿」であることになんて、とっくに気付いていたはずなのに。
そして今。彼はもういない。隣で戦うことは二度と叶わない。だから、彼に残されたのは臆病な自尊心と、消極的な戦術だけ。化け物相手に前線を張るには、何もかも足りていなかった。アイスワームに吞まれかけたあの一幕で、彼の心は折れてしまったのだった。
「吠えるんなら相応の働きをしろよ……!」
621が愚痴りながらアイスワームに突貫し、そのままパイルバンカーで貫く。まだ奴を壊すには足りないので、そのままキック。ただ敵を倒すためだけに、化け物の口に張り付き続ける。
イグアスはその後ろでただ弾を垂れ流すことしかできない。621の愚痴がいつまでも心の中に残り続ける。それは、イグアスの心を何度も内側から突き刺し、抉ってゆく。
馬鹿にした野良犬は勇敢に戦い、自分はここで燻っている。このままじゃ駄目だとわかっているのに、身体が言うことを聞かない。あまりにも惨めだった。
やがて621が数発のスタンニードルランチャーとパイルバンカー、そしてキックをお見舞いしたことでアイスワームの損傷はさらに拡大。赤い爆炎を上げて大きく仰け反る。
「よし! あと一回ってところか?」
この後に何が起こるか知っている621は、相手の残り耐久力を分析しながらも全力で距離を取る。今までの周回と同じように、アイスワームはその長大な身体を垂直に持ち上げた。
「待て、様子がおかしい。離れろ、621!」
アイスワームの頭部から赤い雷が放出され、辺り一帯を焼き尽くす。事前にそれがわかっていた621は、余裕を以て躱していた。
そして今までの周回と違い、イグアスは心が折れたがゆえにアイスワームから距離を取っていた。結果、機体を破壊されずに残れたのは、あるいは皮肉と言うべきか。
「コーラルが……暴走している……!?」
「これは……悠長にやっている余裕は無さそうだな……」
「戦友! レールキャノンの出力を最大にまで引き上げてくれ! 次で終わらせないと、被害が洒落にならない!」
イグアスは自らアイスワームへと向かっていく621を、ただぼうっと見ていることしかできない。何故そうも命を賭けられる? 死ぬのが怖くないのか? 狂人でも見るような目つきで、LEAPER4の背中を眺める。
「G5! 何をまごついている! G13は化け物と戦っているぞ! 奴を見返すんじゃなかったのか!?」
「……お、俺は……」
そうだ。戦わねばミシガンに怒鳴られる。
何がG5だ。何がレッドガンだ。命あっての物種だ。プライドや外聞に拘るなんて馬鹿馬鹿しい。そうやって生きていたヴォルタはどうなった。
そうしてイグアスの決意は固まってしまった。アサルトブーストを起動する。目指すはアイスワームと反対方向――
「待て、621! またしてもレーダーに敵性反応だ!」
「嘘だろ……この状況で増援ってことかよ!」
イグアスは自分の不運を呪った。ウォルターが共有した敵性反応の座標。それがマーカーに示される。それは、自分が今しがた逃げようとした方向から近づいてきていた。
「……! あの機体は!」
やってきたのは五機の無人機。そいつらは、
「武装は違え……だけど、多分乗ってる奴は同じだ……!」
何となくイグアスは直感する。あのACに乗っているのは、グリッド086の時と同じ
「G5! G13は化け物退治に付きっ切りだ! あの無人機は貴様が対処しろ!」
「……ふ、ふざけんなよ! どうしてまた、てめえらなんかが!」
ACと無人機がイグアスの前に立つ。これでも精鋭部隊員であるイグアスは、ACのパーツ知識もそれなりに豊富だ。だから、ある程度相手のパーツは見ただけでわかる。ただ生きるために、必死に敵の装備を分析する。
無人ACは相変わらずの全身MIND ALPHAフレーム。武装構成は右腕に
「クソがっ!! てめえら全員ぶっ殺して、生き残ってやる!!」
逃げることは、叶わない。生き延びるためには、戦うしかない。
621
マニュアルエイム置き撃ちでアイスワームをぶち抜ける化け物。まだ子供なので、ああまで突っかかられたら流石にキレます。
エア
しれっと五人のオペレートに参加してる、対外的には621の支援AIな変異波形。カーラ製スピーカーならこんなこともできるんです。
ウォルター
不測の事態にも対応できる有能オペレーター。作戦領域外からの増援も、彼ならば気付けます。
イグアス
気張れよ臆病者。次はお前が主役だ。
チャティ、スネイル
離脱しました。今頃八機のゴーストと、KRSVを担いだ謎の無人ACを相手にしていることでしょう。
ラスティ
周囲で戦闘が起こっていようとも、正確に狙撃できる化け物。護衛が有能とはいえ、普通に考えたら結構とんでもないことしてる。
ミシガン
不測の事態でも柔軟に配置を変えられる有能指揮官。喧嘩の仲裁も手慣れたもの。
無人AC(ラスティを襲撃した方)
右腕にKRSVを持ってるし、動きも多分悪い。ゴースト八機がいなかったら、早々にチャティとスネイルに処理されていたでしょう。
無人AC(621とイグアスを襲撃した方)
グリッド086の奴なので、強いです。ヘリを四機以上墜とせます。
ということでアイスワーム撃破・前編。おかしいな、一話で終えるはずだったのに、また伸びに伸びて分割してしまった。お前はいつもそうだ。この見通しの甘さはお前の人生そのものだ。誰もお前を愛さない。
次回、「25:克己」。これで漸くChapter4に入れますよ……。