四度目の鴉   作:Astley

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 ……主人公どっちだったっけ?


30:蹂躙する個

 隔壁が開き、深度2への道が表れる。深度1までとは対照的な、圧迫感すら感じる狭い下り坂。三度目までと全く同じ、記憶通りの光景。しかし621の勘は、そこに漂う雰囲気の違いを敏感に感じ取っていた。

 まずは頭部スキャンを実行。下り坂を降りた先は右方向への曲がり角があるが、そこを先んじて確認しておく。

 

「やっぱり居やがったか」

 

 スキャン波によってハイライトされたシルエットが、視界に表示される。曲がり角の死角に、待機するMTが三機。シルエットからして、BAWS製二脚MT。装備は盾とショットガンといったところか。接近戦に強い機体を角に配置するのは、待ち伏せの常套手段だ。

 

「三機まとまってるなら、パルスブレードで一気に――」

 

「レイヴン! 上です!」

 

 瞬間、轟音と共に天井が崩落し、大きな影が落ちてくる。影の右手から青い光が発振し、それが振り下ろされる。621は、咄嗟にクイックブーストを吹かしてそれを回避。さっきまで自分がいた場所に、青い斬撃が叩きつけられた。

 

「これは……四脚MT! しかも近接型か!」

 

 落ちてきた影の正体は、四脚MTだった。右手にレーザーブレード、左手にショットガン、背中に3連バズーカを装備した完全近接戦闘仕様。この閉所では無視できない脅威であった。

 

「今だ! 突っ込め!」

 

「四脚MTを援護しろ!」

 

 四脚MTの落下と同時に、曲がり角で待機していたMT三機も突撃してきた。三機一斉にショットガンを発射するが、621はそれを跳躍して回避。

 

「もらった!」

 

 空中に逃れた621を撃ち落とそうと、四脚MTが3連バズーカを構える。だがそれくらいは想定済み。621は即座にリニアライフルを構え、バズーカを撃たれる前に三発発射。発射された弾丸はそれぞれバズーカの銃口に正確に突き刺さり、その全てを爆散させた。

 

「何っ!?」

 

「隙ありだ」

 

 バズーカを破壊された四脚MTは、大きくよろめいた。そしてそれは明確な隙であった。()()M()T()()()()()()()()

 621は即座にパルスブレードをチャージ、そして発振。過剰なエネルギーによって、巨大な刃が形成される。そして、その大きな刃を抱えたまま、621は二回転した。それは、本来ならばVvc-770LB(レーザーブレード)でしか許されない動き。しかし621は、近接機動すらマニュアル制御することで、無理矢理あの回転二連撃を再現したのだ。

 MTたちは一撃目で盾を切り裂かれ、二撃目で本体を真っ二つにされる。

 

「馬鹿な! こんな一瞬で!?」

 

「まずい! 脱出を――!」

 

 三機のMTは、間もなく爆散した。四脚MTとの連携を封じられた時点で、この手のMTに勝ち目など無かったのだ。

 

「くっ! よくも仲間を!」

 

 四脚MTのパイロットが吠える。右手のレーザーブレードを発振し、ブースターを全開にして突撃を敢行。しかし、一対一でそれが通用するはずがない。ブレードを振り下ろす直前で621は斜め前にクイックブーストを吹かし、斬撃をすり抜けて相手の背後に回る。

 背中は四脚MT最大のウィークポイントだ。前面ほど装甲は厚くなく、また、迎撃手段も搭載されていない。そんなわかりやすい弱点に対し、621はチャージしたリニアライフルを突き立てた。

 最大まで電磁加速された弾丸が、ゼロ距離で放たれる。弾丸は四脚MTの背部装甲を穿ち、内部まで続く風穴を開けた。621はそこにすかさずグレネードを発射。正確に穴を捉えた二発の榴弾は、穴の中に爆炎を送り込む。爆炎は四脚MTを内部から焼却し、その耐久力を急速に削り取っていく。

 ちょうどそのタイミングでパルスブレードの冷却が完了。即座に発振し、いつもの袈裟斬りを二連。内側から強火で焼かれた背部装甲がそれに耐えられるはずなく、四脚MTの背中には赤熱したX字状の裂傷が深々と刻まれた。それは四脚MTにとって致命傷であった。

 

「そんな! 四脚MTを、こうもあっさりと!?」

 

 四脚MTのパイロットは慄く。レイヴンの異常な強さは知っているつもりだったが、まさかこれほどとは。下手なACよりも強力なはずの四脚MTが、文字通りの秒殺。戦闘が始まってからまだ十秒も経ってない。

 

「化け物め……!」

 

 怨嗟の声を漏らしながら、四脚MTのパイロットは脱出した。奇襲を無傷で凌いだ621は、改めて頭部スキャンを実行。今度はさっきみたいな奇襲を防ぐために、上下方向にも顔を向ける。

 

「周囲に敵影無し。一旦落ち着けるな」

 

「それにしても、天井に細工して四脚MTを隠すなんて……」

 

「でも、合理的な方法だ。隠れてる機体の透視自体は頭部スキャンでできるけど、それでも上下方向に隠れてる機体は見ようと思わない限り見つけられない。どうしても見逃しがちになる」

 

「彼らはそれを突くために天井に……レイヴン、やはりこの防衛線にも五花海の手が入っているものと思われます。十分に注意を」

 

「ああ。ありがとう、エア」

 

 今の奇襲でわかった。こちらの心理を読んで、その裏を突こうとするトラップ。恐らく深度2の防衛網にも、五花海の手が加えられている。まあ、彼は先の戦いで死んでいないので、当然と言えば当然なのだが。

 

「でも、本人が前線で指揮を取れない以上、あれほどの苦戦を強いられることは流石にもう無いでしょ」

 

「それはまあ、そうかもしれませんが……」

 

 深度1での激戦は、五花海が直接指揮を取っていたからこそできたものだ。ACを失い、後方指揮しかできなくなった彼が、再びあのレベルの包囲網を作れるとは思えない。

 

「それにここはただの通り道でしかなかった深度1と違って、拠点としても運用している深度2だ。機雷や爆弾みたいな防衛手段は使えない」

 

 621の指摘も尤もだ。深度1を守るのであれば、ただ来る敵を追い返すことだけを考えていれば良い。だが、ここは拠点としても使っている深度2だ。人員や物資の流れも、深度1よりも格段に多い。それらを阻害してはいけない以上、大規模な防衛網の構築はできないだろう。それが621の見立てであった。

 

「確かに、一理あります。ですが、ここは敵地のど真ん中。油断だけはしないでください」

 

「わかってるよ。……まあぶっちゃけ、エアがいてくれてる時点で絶対大丈夫だとは思ってるけど」

 

「れ、レイヴン! 今はそういうことを言っている場合では――!」

 

 傍から見れば油断しているようにしか見えないやり取りをしながら、しかし621は順調に進んでゆく。道中に展開している大量のMTなど、彼らにとっては足止めにすらならない。なんの気概も無く一方的に蹂躙し、前へ前へと突き進んで行く。

 

(この隔壁は……)

 

 進んでいった先にあったのは、何の変哲もない一つの隔壁。しかし、621だけは知っている。三度目までの同ミッションでは、この区画の電源が落とされていたためにこの隔壁を開けられず、一度制御盤まで寄り道をさせられていた。

 

「レイヴン、ベイラムが隔壁を閉ざしていったようです。しかしこの程度のセキュリティ、私ならば……行けました。今開けます」

 

 だが、今回はこの通りであった。目の前で隔壁が開いていく。大勢の人員の通り道で電源を落とすのは、流石にリスクが大きすぎたのだろう。レッドガンが健在であった結果、寄り道が減るとは。嬉しい誤算であった。

 開いた隔壁を通り、トンネルを進んでいく。621の記憶では、この先には熱交換室があったはずだ。一度目ではそこでイグアスと戦い、二度目以降ではコールドコールと戦った。では、今回はどうなるか。

 

「この先は熱交換室です。ベイラム部隊の通信ログによると、彼らはここに物資を集積させ、前線拠点として活用しているようです。当然、相応の戦力が配置されていると予測されます」

 

「……そうなるのか」

 

 熱交換室に繋がる隔壁の前で一度足を止め、頭部スキャン。ハイライトされたのは多数のMTのシルエット。四脚が二機、二脚が十機、隔壁を囲むように配置されているのが見えた。

 

「完全に待ち伏せの態勢に入っていますね。普通に隔壁を開けたら、すかさず集中砲火が飛んでくることでしょう」

 

「これは……どうしたものか」

 

 人型MTは全機グレネードキャノンを、四脚MTは9連バズーカを装備している。これらを一斉に撃ち込まれれば、ACとて無事では済まない。正面突破は論外。隔壁だけ開けてすぐに退散したとしても、この狭い一本道のトンネルでは逃げ場もない。ならば取るべき手段は――

 

「まあでも、何とかなるか」

 

 621は()()()()()()()()()()()()()()()()()、そう呟いた。

 一方その頃、隔壁の内側、熱交換室にて。621を待ち構えるMT部隊のパイロットたちは、肌を刺すような緊張感に包まれていた。

 

「総員、構え! レイヴンは隔壁の前だ! 開いたところに全弾ぶち込め!」

 

「「「「「了解!」」」」」

 

 構える彼らに、一切の油断は無い。数で勝っていることなど何の安心材料にもならない。それは621の今までの実績がはっきりと示していた。だから、誰一人として油断はしていない。油断はしていないが――

 

(俺たちでは奴に勝てない。だが、ダメージを与えるくらいなら……!)

 

 ここは一本道だ。他に下へ行ける道は無い。だから、レイヴンはここを通らざるを得ない。相手の実力は把握しているが、この狭い通路で全弾回避するのは物理的に不可能であろう。だから確信していた。勝てないまでも、一太刀浴びせることはできるはずだと。そんな合理的な判断を、どうして油断と咎められようか。

 

「! 何者かが隔壁にアクセス! 識別信号は……レイヴンです!」

 

「総員! 覚悟を決めろ!」

 

 全員押し黙り、隔壁に集中する。通信に、誰かが息を吞む音が入ったような気がした。モニターに表示している、隔壁のセキュリティ突破率を示すメーターが徐々に溜まっていく。そして、メーターが一杯になった。

 隔壁のロックが解除され、そしてゆっくりと上がっていき――

 

「てぇーっ!!」

 

――レイヴンの姿を確認する前に、発砲指示を出した。姿が見えてからでは遅いのだ。反撃の隙を与えれば、その分だけ仲間が死ぬ。レイヴンとはそういう相手なのだ。そう認識しているからこそ、彼らは絶対に先手を譲らない。

 通路目掛けて、グレネードが、バズーカが、その他手持ち武装が、全て叩き込まれる。後先など考えない一斉射は、入口を爆炎で埋める。この狭い一本道に、これだけの攻撃。全弾命中とはいかなくても、少なくないダメージを与えられているはずだ。そう信じて弾丸を撃ち続ける。

 誰かがリロードに入れば、すかさずそれをフォローするように別の誰かが砲撃を続ける。絶対にこの部屋に入れさせはしない。そんな覚悟すら感じさせる砲撃は、この後数十秒にも及んだ。

 やがて全員が弾を撃ち切った。手持ちの弾はもうない。だが、不思議と満足感を感じている。立ち昇る煙幕の向こうに、軽くない傷を負ったACの姿を幻視する。全ての武装を撃ち尽くした自分たちは、この後為す術もなく撃墜されるだろう。しかし、これでイグアス隊長へのバトンは繋げたはずだ。これは無駄な犠牲ではない。そう確信した彼らの前で、煙幕は晴れていき――

 

「何っ!?」

 

「奴はどこに!?」

 

――その先にACの姿は無かった。逃げ場のない一本道で、もぬけの殻。砲撃に巻き込まれないよう、壁際ピッタリに立てかけられたリニアライフルだけが、レイヴンが確かにここにいたことを示している。しかし、肝心のレイヴン本人の姿はどこにも――

 

「「「「「っ!?」」」」」

 

 瞬間、黒いACが()()()()()。降りてきたLEAPER4は、即座にリニアライフルを拾い上げて突貫。弾切れのMT部隊にそれを止める術はなく、一息で中央にまで踏み込まれてしまう。

 

「レイヴン、敵は全機弾切れのようです」

 

「そっか。ここまで念を入れる必要は無かったか」

 

 万一MT部隊が弾を残していた可能性に備えて、同士討ちの危険性によって発砲を防げる中央にまで踏み込んだが、どうやらそこまでする必要はなかったらしい。621は、五花海に二段構えの策をぶつけられたのが余程堪えているようだった。

 

「そ、総員! 早く弾を――!」

 

「させない」

 

 全武装のFCSを解除し、マニュアル制御に切り替える。自身を取り囲むMT部隊に対し、グレネードを左に、6連ミサイルを右に、リニアライフルを前に、それぞれ向ける。そしてファイア。武装の反動を無理矢理機体で受け止めて、本来は不可能なフルバーストを放つ。

 

「ぐわっ!!」

 

「まずいっ!?」

 

 左に放たれた二発の榴弾は、それぞれMTが固まっているところに着弾し、爆風で纏めて焼き払う。一発につき三機、軽六機の人型MTが爆炎に包まれて大破した。

 

「か、回避を――」

 

「間に合わな――」

 

 右に放たれた六発の誘導弾は、二発ずつ三方に分かれ、それぞれ三機の人型MTに着弾した。これで三機撃破。合計九機。

 

「ば、化け物――」

 

 前に向けて放ったチャージリニアは、人型MTを正確に撃ち抜く。撃ち抜かれたMTは火を噴いて倒れた。つまりは、十機撃破。

 あれだけいたはずの人型MTは、あっという間に全滅させられたのだった。まだ四脚MTが二機残っているが、彼らも弾を撃ち尽くしている。その末路はそう変わらないだろう。

 

「なんで……一体どうやってあの集中砲火を凌いだんだ……?」

 

 621が四脚MTを蹂躙している傍で、リニアで撃ち抜かれたMTからパイロットが這い出ていた。今すぐ爆発してしまいそうな乗機を捨てて、戦場から逃げようとする。しかし、リニアの当たり所が悪かったのか、足が思うように動かない。仕方がないので、戦闘の余波がこちらに飛んでこないことを祈りつつ、仰向けに寝転がった。

 

「そう言えばアイツ……上から落ちてきてたよな……」

 

 どうせもう動けないので、暇つぶしに頭を回す。隣で四脚MTが大破させられているというのに、妙に落ち着いた気分であった。あるいは、この光景があまりにも現実離れしていたせいで、危機感が何処かへ飛んで行ってしまったか。とにかく、彼はこの蹂躙劇の始まりを思い出していた。

 

「上に逃れてたのかな……どうやって?」

 

 自分らのように、天井に細工して隠れるというのは無理だろう。ウォッチポイント・アルファの建材は非常に頑丈で、細工には結構な手間がかかる。であるならば、天井に隠れていたのではなく、天井に()()()()()()()

 

「張り付けるようなものなんて……っ!」

 

 仰向けでぼうっと天井を眺めて、ふと()()の存在に気付いた。天井に張り巡らされた配管。それは、この部屋の入口を通って、621が来た通路の天井にまで続いている。その瞬間、彼は何故621がリニアライフルを立てかけていたのかに気付いた。

 

「そうか……! 人型兵器なら……配管に掴まれる!」

 

 少なくとも二脚型ACは、ほぼ完全な人型兵器だ。だから、天井の配管に掴まったり、あるいはそこに足をかけたりして、天井に張り付くことができる。ライフルを一度置いたのは、そのために手を空けるためだったのだろう。

 あまりにも単純で、しかしだからこそ気付けなかった盲点。集中砲火のときに、通路の中央ではなく天井を狙っていれば。そんな後悔が湧き上がる。しかし、それが後の祭りでしか無いということは、パルスブレードで両断された二機目の四脚MTを見ずともわかることであった。

 

「MT部隊の全滅を確認。レイヴン、熱交換室の制圧は完了です」

 

「よし。今回はウォルターが補給シェルパを手配してるって言ってたけど、まだ必要ないかな?」

 

「そうですね。弾薬が多少減っているだけですし、ここは温存しておきましょう」

 

 621はただ前に進む。レッドガンの隊員たちがどんな思いでここに立っているかなど、知ったことではない。大事な人たちを守る。その目的の前に立ち塞がるというのなら、ただ力で以て踏み潰すだけだ。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 熱交換室からさらに先に進めば、そこはまたしてもトンネルで、さらに先へ進めば巨大な地下渓谷に繋がっている。三度目まででは、このトンネルでエンフォーサーに奇襲され、地下渓谷で狙撃されたものだった。

 だが、四度目ではトンネルでの奇襲すらない。どうやらエンフォーサーはここにはいないらしい。そして当然と言えば当然なのだが、代わりにレッドガンが渓谷に防衛網を敷いている。トンネルから渓谷の様子を窺う621は、その手厚い防衛網に辟易とした。

 

「レイヴン、渓谷の下方に橋が見えますか? あそこが深度2の最奥部まで続いているようです」

 

「ああ、見えてるよ。でも流石にこの数のドローンを突っ切っていくのは厳しいな」

 

 621の視界に移るのは、橋までの道を塞ぐように配置された大量のドローン。形状からして、恐らく分裂ミサイル装備タイプ。それが多数。空中でのミサイル回避の難しさを考えれば、完全に殺しに来ている配置と言えよう。

 

「レイヴン、それだけではありません。下方の橋の上にMT部隊が展開しています。砲撃型の二脚タイプが六機、それとスナイパーキャノン装備の四脚型が一機」

 

「レア物じゃないか。レッドガンも本気だな」

 

 スナイパーキャノンは文字通り、高精度、高弾速を誇る狙撃用の火砲だ。回避には適切なタイミングでクイックブーストを入れる必要がある。それをこの足場の少ない渓谷で強要されるのは、621とて厳しいものがある。

 

「FCSを騙す動きで狙いを逸らせば……いや、あれは細かくブーストを吹かす必要があるから見た目ほど燃費良くないんだよなあ。こんな地形でやったら最悪落下する」

 

 621の得意技である、緩急によるFCS騙しは、空中で行うには少々エネルギー消費が厳しい。それに、あの動きは直進弾は逸らせても、誘導弾に対しては無力だ。ミサイルドローンが大量展開しているこの空間では、その真価を発揮することはできない。

 

「仕方ないなあ。ちょっと危険な方法だけど、()()するしかないか」

 

「そう、とは? レイヴン、一体何を――?」

 

 エアが零した当然の疑問に対し、621は自身の作戦を語った。それは、普通のAC乗りなら絶対に不可能な方法であったが、生憎彼は普通ではない。聞かされたエアもエアで彼ならばできるだろうと確信し、その上で意見を述べる。

 

「レイヴン、そう言うことでしたらルート取りは私にお任せください。上手く運べば、避ける必要すらないかもしれません」

 

「それは助かる。エア、頼んだ」

 

「了解です」

 

 それから暫しエアは無言になった。恐らく()()に注力しているのだろう。邪魔しないように、621は静かに待機する。

 

「レイヴン、計算が終わりました。今、表示します」

 

 モニターに曲線が表示される。曲線は、今621がいるトンネルから始まり、いくつかのドローンを経由して下方の橋まで伸びていた。

 

「この通りにすれば、MTは気にせず行けるのか?」

 

「私の計算が正しければ、そうなります。ただ、万が一という可能性もありますので、油断だけはしないでください」

 

「わかった」

 

 確認も取れた621は、作戦を実行することにした。まずはアサルトブーストでトンネルを飛び出す。

 

「あれは……独立傭兵レイヴン!」

 

「総員迎撃態勢に入れ!」

 

 MTが621に気付き、ドローンも全機アクティブになる。ドローンたちは分裂ミサイルの発射態勢に入るが、構わず621はブーストで駆ける。そして一斉に分裂ミサイルが発射された。いくらアサルトブーストの速力があったとしても、直線的に動けばミサイルに喰いつかれる。故に621は――

 

「よっと」

 

――飛んでいるドローンの内の一機を足蹴にし、跳躍した。LEAPER4の移動ベクトルが急激に変化し、ミサイルはそれに対応できない。故に分裂したミサイルは見当違いの方向へと飛んでいき、LEAPER4には掠りもしない。

 

「撃て! 奴を近寄らせるな!」

 

 MT部隊による砲撃が始まる。LEAPER4の鋭い軌道に砲撃が当たるとは思えないが、しかし砲撃とミサイルによる飽和攻撃を続ければ何時かは当たるはずだ。そう判断して、MT部隊はFCSによる予測射撃を敢行する。その結果――

 

「なんだと!?」

 

――LEAPER4を狙ったはずの弾丸は、ドローンを撃ち抜いた。スナイパーキャノンも、砲撃MTのグレネードも、全て外れるか、あるいはドローンに当たるかして、LEAPER4には一発も届かない。

 

「何をやっている! ちゃんと撃て!」

 

 FCSは確かにLEAPER4をロックしている。狙いは間違っていないはずだ。それを確認したパイロットたちは、再度ドローンを足蹴にしているLEAPER4に対して砲撃した。そして弾丸はドローンを撃ち落とした。

 

「何が起きている!?」

 

 またしてもドローンを足蹴にLEAPER4が近づいてくる。だいぶ距離を詰められた。猶予はない。故に砲撃。そして落ちるドローン。

 

「まさか、狙ってこれを――!?」

 

「そんなわけあるか! 偶然だ! 撃ちまくれ!」

 

 しかし、現実はそのまさかであった。エアは、砲撃MT及び四脚MTの狙撃の弾速や連射性能、FCSのアルゴリズムと言った情報を全て把握している。それらの知識と、MT及びドローンの配置を組み合わせれば、相手の砲撃が必ずドローンを撃ち落としてしまうような移動経路だって計算できるのだ。

 勿論、そんな軌道を計算できたところで、それを寸分違わずなぞれなければ、求めた結果は得られない。しかしそこは621。そんな曲芸を完璧に熟して見せた。それだけではない。621はドローンを足場に飛び回りながら、同時にリニアライフルとミサイルでドローンを撃墜していた。

 足場になるドローンと盾になるドローンだけを残して、跳躍しながら狙いを付けて発射。621が通った後に、無数のドローンの爆風だけが残る。攻撃できるドローンを一機でも減らしておけば、「万が一」ということが起きる可能性も減る。だから、足場と盾以外は全部落とすつもりであった。

 ミサイルはLEAPER4を捉えられず、砲撃は意図せぬフレンドリーファイアだけを巻き起こす。誰も621を止められはしない。

 

「まずい! 全機退避しろ! この地形では――!」

 

 四脚MTのパイロットが叫ぶが、時すでに遅し。ドローンの側面を蹴とばして加速したLEAPER4が、いつの間にか四脚MTの眼前にまで迫っていた。

 

ガァン!!

 

 響く金属音。四脚MTのパイロットの目には、()()()()()()()()()()()()LEAPER4の姿が映っていた。否、これはLEAPER4が自分から離れているのではなく――

 

(蹴とばされた!)

 

 速度の乗ったLEAPER4の蹴りは、四脚MTほどの重量物すら押しのけたのだ。そして、橋の上という不安定な足場でそんなことをされればどうなるか。

 

「う、うわあああぁぁぁ!?」

 

「副隊長殿!?」

 

 四脚MTが真っ逆さまに落ちていく。万が一接近戦になった時に備えて装備していたショットガンもレーザーブレードも、全く日の目を見ることなく無力化される。

 そうなれば、橋の上に残るのは接近戦の対応力が低い砲撃MTだけ。ドローンは既に全機撃墜されている。援護も無し。

 MT乗りたちは、自分たちの運命を悟った。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

「621、エア。順調に進んでいるようだな」

 

「「ウォルター!」」

 

 通信から聞こえてきた声に、二人は同時に反応する。

 

「まさか無傷で最奥部に到達するとは……」

 

「エヘヘ」

 

 621は頭をかく。ウォルターを驚愕させられるほどの戦果を挙げられるとは、猟犬冥利に尽きるというものだ。

 そんな621は現在、最奥部一歩手前まで来ていた。目の前の隔壁を開けば、そこが深度2の最奥部。つまり、三度目まででエンフォーサーと戦ったあの場所が待ち受けている。

 

「念のため弾薬の補給はしておいた方がいいだろう。エア、周囲に敵影は?」

 

「ありません。ここは安全です」

 

「わかった。今補給シェルパを送る」

 

 消耗したのは弾薬のみ。レッドガン隊員たちの覚悟を無に帰す、あまりにも無慈悲な結果であった。さらに追い打ちをかけるように補給シェルパが到着。弾薬も補給して、LEAPER4は万全な状態となった。

 

(しかし、今回エンフォーサーは影も形も見えなかったな。もしかして、もうレッドガンが倒しちゃったのか?)

 

 そんなことを考えながら隔壁にアクセスする。エンフォーサーがいないなら、最奥部に待ち受けるのは恐らく――

 

「……」

 

 隔壁が開くのを、621は無言で待つ。完全に開く隔壁。露わになる最奥部。そして、そこにはある意味予想通りの光景が広がっていた。

 

「ん? 誰かと思えば、てめえか。野良犬」

 

 こちらに背を向けて、首だけ振り返るAC、ヘッドブリンガー。そしてその足元には、胴体に大きな風穴を開けられ、火花を吹いているエンフォーサー。

 

「てめえならここまで来れるとは思っていたが、こんなに(はえ)えのは予想外だぜ」

 

 そう語るイグアスの声は、心なしか苛ついているように感じられる。

 

「……野良犬。道中を守ってた連中はどうした?」

 

「全員倒した」

 

「ああ、そうか……」

 

 いや、苛ついているなんてレベルではない。明らかに切れている。通信越しですら、それがわかる。

 

「全く、しょうがねえなあ、アイツらも」

 

 軽い口調とは裏腹に、そこにはどこまでも重い怒気が含まれていた。そして、ヘッドブリンガーはLEAPER4に向き直る。

 

「いくぞぉぉぉおおお!!!! 野良犬ぅぅぅううう!!!」

 

 イグアスが吠え。ヘッドブリンガーの足元が爆ぜる。弾丸の如き速さで、ヘッドブリンガーは駆ける。そして、決闘は開幕した。

 




621
 レッドガンの覚悟を軽い気持ちで踏みにじった主人公……主人公?

エア
 やっぱりだいぶ無法な性能をしている変異波形。彼女がいなければLEAPER4に一発食らいミサイルが命中していた……かもしれない。

ウォルター
 今回のミッションに備えて、実は補給シェルパを二台も用意していた我らがごすずん。つまり、どうあがいてもレッドガンの覚悟は踏みにじられる。

レッドガン隊員一同
 本日の被害者。相手が悪すぎた。大丈夫! APも弾薬も万全だけど、集中力は多少なりとも消耗させたはずだから! その犠牲は無駄ではない! はず!

イグアス
 エンフォーサーを完封。流石は主人公。

五花海
 登場はしてないけど、防衛網に手は加えてます。でも本人が現場指揮できないとこんなもんです。

エンフォーサー
 画面外で死にました。合掌。

 ということで地中探査 - 深度2 ALT前編。前回最後に散々レッドガンとイグアスの絆を書いておいて、それでこの今回だよ! やっぱり主人公はイグアスなのでは?
 でも大丈夫! ここが終わればまた621が主人公になるはずですので! ということで次回は後半戦! 主人公イグアスはラスボス621に勝てるのか? 乞うご期待!

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