四度目の鴉   作:Astley

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 狂い火の王になったので、初投稿です。


32:サプライズ

「レイヴン! 急いでください!」

 

「621、お前の仕事はまだ残っている。集中を切らすなよ……!」

 

 火を噴くエネルギー高炉の中を、621は駆け抜ける。だがそこに焦りの色は無い。だって、無人ACをたった三十秒で処したのだ。これで間に合わなかったら、最早無理ゲーもいいところだろう。

 声を震わせる二人とは対照的に、621はどこまでも悠々と飛行する。そして、高炉を飛び出した。

 

「爆発まであと一分! レイヴン、なるべく入口から離れてください!」

 

「高炉の爆発は相当なものになると予測される。621、衝撃に備えておけ」

 

「了解」

 

 アサルトブーストで十分な距離を確保した621は、今しがた自分が破壊した高炉にクイックターンで向き直る。爆発はまだ起きていない。脱出が早すぎたらしい。

 

「エア、爆発までの予想時間は?」

 

「あと三十秒です。これだけ離れていれば、流石に安心でしょう」

 

「破片が飛んでこないとも限らん。油断だけはするな、621」

 

 口ではそう言うウォルターだったが、既に三人の間には仕事終わりの空気が漂い始めている。ミッションは終了したも同然であった。そして――

 

「エネルギー反応、臨界点に到達。爆発します」

 

「621、衝撃に備えろ」

 

 遠方で高炉が大爆発を巻き起こす。しかし、深度3の壁際まで退避している621には、なんの危害も与えられなかった。621との道連れを狙った強制執行システムの捨て身の策は、四度目の鴉の前には全くの無力であった。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 高炉が破壊されたことで、最深部への道を塞ぐレーザーシャッターは消失。今や、集積コーラルへの道は開かれたも同然だ。なれば当然、企業同士の抗争は激化していくことになる。

 片や、直近に部隊を半壊させられ、ゴール目前で足踏みを余儀なくされたベイラム。片や、レイヴンに切り拓いてもらった道筋に、後から安全に部隊を送り込めるアーキバス。一見形勢は後者に有利に見える。しかし、ネペンテスによる損耗を回避したこの世界線のレッドガンは、AC二機を失ったとは言えまだまだ数だけは健在。決して容易に討ち取れる相手ではなかった。

 だから、アーキバスは念入りに準備する。勝利を盤石なものとするためには、今残っているレッドガンの戦力を一人残らず殲滅する必要がある。一縷の逆転の望みすら潰して勝つ。アーキバスの、というよりは前線指揮官であるスネイルの狡猾さは、一切の妥協を許さなかった。

 一方、アーキバスによる攻勢が来るとわかっているレッドガンは、当然指をくわえてそれを見ているだけには留まらない。急ぎ戦力を再編し、一旦はレイヴンのことを忘れ、アーキバスの迎撃に注力する姿勢を見せている。

 両者は近いうちに、深度1にて衝突するものと見られている。両企業ともわかっている。この衝突を征した方こそが、このコーラル争奪戦の勝者になるのだと。だから、どちらも全力を賭けて戦力の編成を急いでいる。アーキバスはヴェスパーを、ベイラムはレッドガン本隊を送り込む意思を見せ、来る決戦に備えている。

 当然、こんな切迫した情勢のアーキバスに独立傭兵の動向を細かく管理するような余裕は無く、今はレイヴン含む独立傭兵たちに対して、ただ指示があるまで待機するよう命令を下しているだけであった。

 ウォルターとしては、このタイミングで裏切るのは得策でない以上、アーキバスの要請に従わざるを得ない。今は従順な振りをして深度調査を一時中断し、両者の決着を待つ。

 そんなこんなで、621たちは今とても暇だった。二企業による火花の散らし合いは、皮肉なことに独立傭兵たちに束の間の平和を享受することとなったのだ。

 

「しかし、私たちを急にガレージに呼び出すなんて……一体何があったのでしょうか?」

 

「さあ……企業に動きでもあったんじゃないのか?」

 

「いえ、企業の動向は私もチェックしています。まだ彼らは睨み合いの段階のはずです」

 

「そっかぁ……じゃあ本当になんなんだ」

 

 廊下を歩く二つの人影。621とエアだ。二人は歓談しながら、長い道のりを並んで進む。向かう先はガレージ。二人が言っていた通り、彼らはどちらもウォルターに呼ばれたのだ。

 621はともかくとして、エアをガレージに呼ぶとは一体どのような案件なのか。彼女は飽くまでオペレーターであり、基本的に直接ACに関わることは殆どない。五花海戦でやってみせた片腕制御とかは例外中の例外であり、だから今までガレージとは無縁の生活を送ってきた。

 そんな彼女をガレージに呼ぶ案件とは一体? 二人して同じ疑問を抱きながら歩いていると、ガレージが見えてきた。

 

「ウォルター、今来た……何してるの?」

 

 ガレージに入った二人が見たのは、ACのシミュレーターに座り、ヘッドマウントディスプレイを装着したウォルターの姿だった。

 このオールマインド提供シミュレーターは悔しいが高性能であり、621も新しいアセンブルの挙動確認によく用いていた。だが、それをどうして非戦闘員のウォルターが使っているのか。

 

「コーラルの導体特性、良好。数値は実物とほぼ一致。調整はこの位でいいか。……二人ともよく来てくれたな」

 

 ヘッドマウントディスプレイを外し、シミュレーターから立ち上がったウォルターは二人と向き合う。

 

「急に呼びつけて悪かったな。実は二人に見せたいものがある。エア、シミュレーターに入ってくれないか?」

 

「シミュレーターにですか? わかりました」

 

 お手伝いロボ(エアの身体)が動きを止め、その瞳から光が消える。ウォルターに変異波形は見えないが、しかしこれだけでエアが移ったことは十分に理解できた。

 

「621、お前もシミュレーターに入ってくれ」

 

「わかった」

 

 さっきまでウォルターが座っていた席に、621が座る。ヘッドマウントディスプレイを被り、接続開始。621の意識は電脳の中へと吸い込まれていき、気付けばいつも使っている何もない仮想空間でLEAPER4に乗っていた。

 621は辺りを見渡す。今見えている範囲では、特に何も変化は見当たらないように見えるが。ウォルターは何を見せたいのだろうか?

 

「621は正常に入れたようだな。エア、シミュレーターのACデータにアクセスできるか?」

 

「はい。少々お待ちください。……できました」

 

「そこに”ISB-2262B-CC”と名付けられたデータがあるはずだ。それを読み込んでくれ」

 

「わかりました。……これは――!」

 

「! ウォルター! この機体って――」

 

 一瞬の驚愕。621の前に現れたのは、全身EPHEMERAフレームのAC。それは、深度3で対峙した無人ACと全く同じ姿だ。しかし、そこに感じられるこの気配は――

 

「ああ。このACには、エアが乗っている」

 

「レイヴン! 見てください! ACが動いています! 私の身体のように!」

 

 ACが()()()()という珍妙な光景に、思わず621は笑みを零す。

 目の前の技研ACは、変異波形でも動かせるように内装をIB-C03G: NGI 000(コーラルジェネレータ)に変え、伝達系を多少弄った機体。それはまだシミュレーション上だけの存在だ。

 しかし、エアは感じていた。その余りにもリアルな感触を。ウォルターが技研のデータまで入力して作ったシミュレーションには、現実と勘違いしてしまうほどのリアリティがあった。ともすれば、将来現実で()()なる可能性を感じさせるほどに。

 

「エア、異常はないか?」

 

「はい! 全く問題ありません!」

 

 手を開閉させたり、足をブラブラと動かしてみたりして、エアは感触を確かめる。コーラルという血の通ったこの肉体は、今まで使ってきたどの身体よりもエアに馴染んだ。

 

「ウォルター! これさえあれば、私もレイヴンの隣に――!」

 

「ああ。お前さえよければ、いずれそうしたいと思っていた」

 

「えっ? でも、ウォルター。エアを前線に出すのは……」

 

 621としては、大切な人を危険極まりない前線に送り出すのは反対であった。戦場の恐ろしさは誰よりもわかっているつもりだった。何せ、あそこはちょっとした理不尽であっさりと命を奪われてしまう場所なのだから。今は621がその理不尽を押し付ける側であるが、そんな関係性も一瞬で逆転しかねない。そのことを、621は四度の人生で嫌というほど学ばされてきた。

 いくら三度目の最後では共闘したとはいえ、いくらエアが変異波形で人間に比べれば遥かにACから脱出しやすいとはいえ、それは彼女を心配しない理由にはならないのだ。

 

「わかっている。だから、エア。621がお前を前線に出しても大丈夫だと評価するくらい強くならない限り、俺はお前を実戦に出すつもりはない。大切な人の力になりたいのなら、まずは強くなれ」

 

「!」

 

 ウォルターとしても、エアは大事な大事な娘のような存在であった。だから、腕が立つようになるまで、戦場に送り出す気はなかった。

 

「そのためにこのシミュレーターを組んだ。……お前は、もう見ているだけなのは嫌なのだろう?」

 

「はい!」

 

 ウォルターの問い掛けに対して、エアは力強く答えた。即答であった。その声には、重い決意が宿っていた。

 

「そういうことだ。621、エアに戦い方を教えてやれ」

 

「……ハァ、ここまで言われちゃ、断れないじゃないか」

 

 未だに621は、エアが前線に行く可能性について複雑な感情を抱いていた。しかし、エアの強い決意を見せられたからには、それに応えねばなるまい。彼女を想う一人の男として。

 

「レイヴン。お手数ですが、よろしくお願いします」

 

「ああ。任せてくれ」

 

 こうして、621による手解きが始まった。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

「エア、今日はお疲れ様」

 

「あ……レイヴン」

 

 一通りの訓練、それに模擬戦も加えて、今日のシミュレーションは終了となった。エアはシミュレーターから抜け出して元のお手伝いロボに戻ったのだが、その様子はどこか上の空のように感じられた。

 

「どうだった? ACを操縦するのは」

 

「あ、はい。えっと……」

 

 気負わせないように、621は飽くまでも普段通りの調子でエアに尋ねる。対するエアは、一瞬答えるのを躊躇った。それは、621の知るエアとは重ならない姿であった。

 621の四度の人生の内の、三度目。そこでもエアはACに乗った。その時の彼女は、もっとノリに乗っているように見えた。ただ純粋に、ACという身体に対する知的好奇心と、自分も戦えるという高揚。それだけを見せていた。

 だが、今目の前の彼女からは、それ以外の感情も感じられる。その感情の正体を、621も知っている。だって、自分も嘗てその感情を持っていたから。否、今だって持っている。その感情の名前は――

 

「ACに乗るのは、正直楽しかったです。考えるよりも先に、思った通りに動いてくれて、これであなたの力になれると思うと……でも、――」

 

 エアは一旦区切ってから、言葉を続けた。

 

「――それ以上に、怖いと感じてしまった」

 

――その感情の名前は、恐怖。ほぼ全ての生命が持つ、極めて根源的な感情であった。

 

「あなたの力になれるのに……あなたにいつも戦わせているのに……それなのに、私は戦うことを怖いと感じてしまった」

 

 恥じるように、彼女は声を絞り出す。戦い自体はいつも621のすぐ傍から見ていたはずなのに。いざ自分がその場所に立つと、抑えきれない恐怖が湧き上がってくるのだ。

 しかし、そんなエアの様子は、621には好ましいものとして映った。

 

「エア、戦うことを怖いと思うのは当たり前のことだ。俺だってそうさ。いつだって、誰だって、戦うのは怖い」

 

 今や最強の傭兵である621だが、彼とて戦うのが怖くないわけではない。いつだって、死の恐怖は彼と共にある。

 

「なら、レイヴン。どうしてあなたはいつも戦えるのですか?」

 

「どうして、か……」

 

 改めて聞かれると、なかなかに答えづらい。どうして自分は今日まで戦えて来れたのか。一度目の頃は、戦う機能以外は死んでいたから、恐怖すらしなかった。だから、ウォルターの言うがままに戦えた。

 だが、二度目以降はどうだったか。確かに感じている死の恐怖を、どうやって乗り越えていたか。

 

「大切な人の期待に応えたいから、かな」

 

 結局物心がついて以降の621が戦う理由は、いつだってそれだった。ウォルターの期待、エアの期待、戦友の期待、カーラの期待。それらに応えたかった。戦うことしか知らない自分は、それしか応える方法を知らなかったから。

 

「みんなの期待に応えようって思ったら、不思議と怖くても立ち向かえる気がするんだ」

 

「期待に……応える……」

 

 エアはその言葉を反芻する。

 

「レイヴンは……私に、戦うことを期待していますか?」

 

「それ、は……」

 

 621は口籠る。やはりエアには戦場に出て欲しくない。だけど、同時に思い出す。三度目の人生での最終決戦。オールマインドとイグアスが駆る超兵器群。自分一人でアレに勝てただろうか?

 否。きっと、勝てなかった。だから、エアに戦って欲しいという想いも、確かにあったのだ。

 

「俺は……」

 

 621は答えられなかった。その沈黙をどう受け取ったのか、エアは続ける。

 

「私は、あなたに期待して貰えるほど強くはなれないかもしれません……でも――」

 

 そこで一度言葉を区切ると、彼女は621をしっかりと見据えた。その瞳は、単なるお手伝いロボのカメラアイに過ぎないはずだ。しかし621は、そこに確かな決意が宿っているように思えた。

 

「――それでも私は、あなたの隣に立ちたいです」

 

「!」

 

『お前は、もう見ているだけなのは嫌なのだろう?』

 

『はい!』

 

 ふと、シミュレーション前のウォルターとエアのやり取りを思い出す。結局戦場に出したくないというのは、自分のエゴでしかなかった。彼女は共に戦うことを望んだ。ならば、自分のすべきことなど、端から決まっているだろうに。

 

「……わかった。いつか君と一緒に戦える日が来ることを、俺は期待する」

 

「! はい!」

 

 表情など持たないはずのお手伝いロボの顔が、喜びでくしゃくしゃになる。621は確信した。四度目でもきっといつか、エアと共に戦う日が来ると。

 どの周回よりも人間らしく成長した彼女は、きっとこれからも恐怖というどうしようもない感情に苛まれるだろう。それでも、きっと、彼女なら。そう621は()()する。彼女の瞳を真っ直ぐ見つめて、ちょっとでもこの感情が伝わることを願いながら。

 そんな二人の様子を、ウォルターは微笑みながら見つめていた。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 エアの訓練を始めてから数日。エアの動きは日に日に良くなっていた。元々三度目のときでも、ほとんど練習した様子も無しにACを十全に乗りこなせていた。なので、当然と言えば当然の出来事ではあるのだが。

 しかし、今回の彼女が強くなっていくことは、三度目までのそれとはまるで意味が違う。人と関わり、恐怖を知り、それでも彼女は強くなろうと奮闘しているのだから。

 そんな日々を過ごしていた621たちであったが、そうした日常に終わりを告げる日がやってきた。

 

「621、企業に動きがあった」

 

 ブリーフィングルームに集められた621とエアに対して、ウォルターはそう告げた。遂に本格的な衝突が始まったのだ。

 

「両企業の抗争と並行して、こちらにもいくつか依頼が届いている。確認しておけ」

 

「わかった」

 

 来ている依頼は、記憶通りのそれ。“レッドガン部隊迎撃”と“ヴェスパー部隊伏撃”だ。621はそれらの依頼を順番に確認していく。

 レッドガン部隊迎撃に関しては、今までと全く同じ内容であった。ベイラムの息の根を止めるために、ミシガンを討ち取ってほしいというもの。受けなかったらラスティが行くことになっているのも、全く同じだ。本当に寸分すら違わない。

 レッドガン部隊迎撃の確認を終えた621は、続いてヴェスパー部隊伏撃の方も確認する。

 

『独立傭兵レイヴン、引き受けてもらいたい作戦がある』

 

(あれ?)

 

 流れてきたのは、若い男性の声。瞬間、621は違和感を抱いた。

 

『内容は、ヴェスパー部隊の番号付き二名。V.V ホーキンスと、V.VIII ペイターの排除』

 

(いや、なんでアーシルがこのミッションのブリーフィングをやってるんだ?)

 

 621の記憶によれば、確かこのミッションのブリーフィングはミドル・フラットウェルが担当していたはずだ。何故それがアーシルになっているのか。621の疑問を余所に、ブリーフィングは進む。

 

『アーキバスは封鎖機構の技術を吸収したことで、一見この抗争を有利に進めているように見える。しかし、実際はレッドガンの思わぬ反撃に遭い、予想以上の消耗を強いられているらしい』

 

 企業の戦況も変わっているようだ。いや、そっちに関してはこれまで前の周回とはまるっきり違うことばかりやっているので、まあそうなるだろうと納得できる。だが何故ブリーフィング担当が変わった。どういうバタフライエフェクトだ。

 

『アーキバスの戦力を削るチャンスはここしかない。そこで、現在深度2の調査に出向いている彼ら二人を、情報工作でおびき出す。貴方には、そこを奇襲してもらいたいのだ』

 

 作戦自体は今までの周回と同じ。だからこそ余計に何故フラットウェルでないのかが気になってしまう。

 

『本作戦では、元々帥叔フラットウェルが貴方の僚機に就く予定だったのだが……彼は現在、体調不良により戦場に出られない状態だ』

 

(え!? 体調不良!? 戦場に出られないレベルってどんなだよ!?)

 

 思わず内心で突っ込む621。その驚愕も当然であろう。まさかフラットウェルが、パワハラ上司と提携先のボスとの板挟みにあって、ストレス性胃潰瘍でダウンしているなんて、621には知る由もない。いや、知ったら知ったでそれはまた別の突っ込みを入れざるを得なくなるだろうが。

 

『勿論、番号付き二人相手に貴方一人で戦ってもらうような不義理を働くつもりはない。帥叔に勝るとも劣らない僚機を貴方に付ける予定だ』

 

(帥叔に勝るとも劣らない僚機って誰!? せめて名前くらいは教えてくれよ! 不義理だろ!?)

 

 普段の冷静な621なら、まだ依頼も受けてない傭兵に僚機の名前を明かせないのは当然だと、そう正常な判断を下せていただろう。しかし、色々と混乱している今の621では、内心でアーシルに対する罵声を飛ばさざるを得なかった。

 

『貴方の助力が得られることを願う』

 

 いつもの決まり文句と共に、ブリーフィングは終了。部屋に静寂が広がる。

 

「621、どちらを受ける? お前が選べ」

 

「え、あ……そりゃあ、解放戦線の方を受けるけど……」

 

 四度目では解放戦線の味方をすると決めたのだ。そこに迷いはない。あるのは、捻じれに捻じれてどうなるのか全く予想がつかないミッションに対する不安と困惑であった。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

『メインシステム、戦闘モード起動』

 

R-ARM UNIT:LR-036 CURTIS(軽リニアライフル)

L-ARM UNIT:HI-32: BU-TT/A(パルスブレード)

R-BACK UNIT:BML-G2/P03MLT-06(6連ミサイル)

L-BACK UNIT:SONGBIRDS(連装グレネードキャノン)

 

HEAD:HC-2000/BC SHADE EYE

CORE:CC-2000 ORBITER

ARMS:VP-46D

LEGS:VP-422

 

BOOSTER:ALULA/21E

FCS:FC-008 TALBOT

GENERATOR:DF-GN-06 MING-TANG

 

EXPANSION:ASSAULT ARMOR

 

 今回のLEAPER4は、前回に引き続きバランス型の構成。真っ黒な人型を駆る621は、今までの同ミッションと同じように、深度2最奥部の天井にある構造物に身を潜めている。

 

「ミッション開始」

 

 ウォルターの声が響く。いつもだったら621の気を引き締めさせるその一声は、今回に限っては621に届いていなかった。

 

「解放戦線と協働で、ヴェスパーの番号付き二名を叩く」

 

 自身の右隣に立つACが放つ()()()()()に、621の胃がキリリと痛む。何故お前が。何が原因だ。帥叔はどうしているんだ。無数の疑問と困惑が621の脳内を駆け巡る。

 

「情報通りならそろそろ来るはずだ。621、構えろ」

 

「りょ、了解」

 

「レイヴン? 大丈夫ですか? 今日はどこか集中を欠いているように思えますが……」

 

「だ、大丈夫。味方もいるし、も、問題ない」

 

 その味方が一番の大問題なのだが、大人な621は何とか誤魔化す。さっきから一言も喋らない隣の味方がプレッシャーを放ちまくってきてしょうがない。本人にそんなつもりはないのだろうが。

 

「! 来たぞ、621」

 

 ウォルターの言葉と同時に、下方に見える隔壁が開く。情報通り、二機のACがこの空間に入ってきた。

 

「第二隊長閣下から緊急招集とは……何事でしょうか?」

 

「スネイルにはよくあることだよ、ペイター君。人を呼びつけるのが好きなんだろうねえ」

 

「第五隊長殿。聞かれでもしたら面倒ですよ」

 

 来て早々に愚痴を零し始める下方の二人。しかし、彼らこそ今回のターゲット。

 

「目標を確認。四脚ACがV.V ホーキンス。逆関節がその補佐官、V.VIII ペイターです」

 

 今回の撃破目標、ヴェスパー部隊の番号付き二人。隣の味方と共に、彼らを撃墜すれば今日のミッションは終了だ。そんな折であった。ここまで沈黙を保っていた隣の味方が、遂に口を開いた。

 

「同志レイヴン、仕掛け時は其方に託す」

 

「あ、ああ」

 

「共に、企業の走狗どもを討ち滅ぼそうぞ!」

 

「アッハイ」

 

 感情の籠っていない空返事が響く。しかし、通信の向こうにいる件の人物は、そんなことには気付いていないようだった。

 621は今になって気付く。自分がこの人物に対して、ブルートゥと同レベルの苦手意識を持っていることに。四度も生きて、この人物とは一回しか会ったことが無かったため、今まで全く気付く機会が無かったのだ。

 ()は間違いなく実力は高いし、ブルートゥと違って別に悪い人間でもない。共闘することに何ら問題はないはずだ。しかし、何故か621の胃には凄まじい負担がかかっていた。

 

「お、俺はホーキンスを受け持ちます。ぺ、ペイターの方は任せてもいいですか?」

 

「合点承知!」

 

 合意は取れた。後は戦うだけだ。極力隣の男を無視して、グレネードで敵を狙う。狙いはホーキンスとペイターの、ちょうど中間。爆風で両方に同時にダメージを与えられる位置だ。

 狙いを付けた621は、そのままトリガーを引く。放たれた二発の榴弾は、ちょうど621の狙い通りの位置に着弾し、爆ぜた。

 

「ぐあっ!?」

 

「むうっ!?」

 

 ペイターたちが苦悶の声を漏らす。621は、立て直す暇を与えないよう、即座にホーキンスへと飛びかかった。同時に、隣の男もペイターへ向かって一直線に飛び出していった。

 

「イヤーッ!!」

 

「襲撃者!?」

 

 決断的なシャウトと共に、男は跳び蹴りを繰り出す! 殺戮者のエントリーだ!

 

「くっ!」

 

「っ! 敵ながら見事!」

 

 男の繰り出したアンブッシュに対し、ペイターは咄嗟にパルスバックラーを展開! キックを防御し、被害を最小限に抑えることに成功する!

 

「ペイター君! っ!? こちらもか!」

 

 ペイターの被害に気を取られたホーキンスは、その隙を突かれて621の接近を許してしまう。ホーキンスがその存在に気付いた時には、彼は既にパルスブレードを振りかぶっていた。

 しかし、ホーキンスも歴戦の猛者だ。彼の存在に気付いた瞬間に後方へクイックブースト。装甲の表面をパルスの刃が撫でるが、直撃だけは回避する。

 

「なるほど……理解したよ、ペイター君。スネイルを出汁に使うとは、いかにもありそうな嘘を吐くものだね」

 

「はっ、一杯食わされました」

 

 流石にヴェスパーに選ばれるだけあって、二人とも立ち直りが早い。精神的動揺による弱体化は、もう期待できないだろう。つまり、ここからは力戦になるということ。純粋な実力勝負の始まりだ。

 

「独立傭兵レイヴン……直接やり合うことになるとは……」

 

「もう一人は……独立傭兵、()()()か。解放戦線の御贔屓様が、二人でかかってくるとはねえ。ちょっと頑張ろうか、ペイター君」

 

「はっ、望むところであります」

 

 相手を確認して、ホーキンスたちに緊張が走る。レイヴンと六文銭。どちらも独立傭兵では最高レベルの実力者だ。特にレイヴンは、あのV.I フロイトを撃破したという実績もある。真正面から当たって勝てる相手ではない。

 だが、それを知りながらもホーキンスに焦りはない。

 

「ペイター君、連携行くよ!」

 

「はっ!」

 

 何故なら隣に頼りになる副官がいるのだから。ペイターがヴェスパーに入ってから、ホーキンスは彼の支えであり続けた。貪欲に上を目指す彼に、彼に戦い方を教えた。()()()()無神経な彼が周囲と軋轢を生まぬよう、緩衝役も担ってきた。誰よりも彼を知り、故に一心同体に合わせられる。それこそが彼らの強みだ。

 レイヴンと六文銭は上澄みの実力者だが、まともに連携できているようには見えない。そこに勝機がある。だからホーキンスは焦らない。

 

「621、V.VとV.VIIIはそのコンビネーションで知られている。連携させると脅威になる。分断して各個撃破しろ」

 

「了解」

 

 ウォルターもその脅威は知るところだ。故に、そもそもの連携を潰させる。621はアサルトブーストを起動し、敢えてペイターとホーキンスの間に機体を潜り込ませる。

 連携の基本は合流だ。一緒にいるからこそ、相方が何をしているのかを把握でき、またそれに合わせることができるのだ。引き離してしまえば、それは脆い。

 

「イヤーッ!!」

 

 621の意図を察知した六文銭は、即座に左腕のデバイスを起動する! その名は44-143 HMMR、プラズマスロアー! 帯電した鉄球を、プラズマ力場によってフレイルめいて振り回す! 当たり所が悪ければ重装ACすら砕いて殺す、悪逆非道の殺戮兵器だ!

 

「! 正面からの攻撃など!」

 

 しかし、ペイターもやはり手練れ! 迫る鉄球を、身を捩って躱す! ペイターのAC、デュアルネイチャーの特徴的なT字頭のすぐ横を、殺人的な加速で鉄球が通り過ぎる!

 

「油断大敵!」

 

「なっ!?」

 

 ウカツ! プラズマスロアーは、デバイスと鉄球を繋ぐプラズマ鎖にも物理的な接触力が働く! 六文銭の奥ゆかしい鎖捌きにより、デュアルネイチャーの首に鎖が巻き付いた!

 

「Wasshoi!」

 

「何ぃーっ!?」

 

 魂のシャウトと共に、六文銭は後方クイックブーストを吹かす! 同時に、折れんばかりの力で左腕を引く! 鎖で繋がったデュアルネイチャーの首が引っ張られ、機体全体が軋む! 

 

「まずいっ!」

 

 軽量なデュアルネイチャーでは、この引力に逆らえない! いきおい、デュアルネイチャーが前につんのめった! 望まぬ前進を強要されて、ホーキンスのAC、リコンフィグとの距離が開く!

 

「ペイター君!? このッ! 悪いが押し通らせてもらうよ!」

 

 このままでは連携を崩され、負ける。故にホーキンスは、強引にでもレイヴンを突破することを決意する。左腕のレーザーブレードにエネルギーをチャージし、一気に発振する。

 青い極光が刃を形作るのと同時に、前方へ踏み込み振りかぶる。当たれば僥倖、避けられたとしてもペイターまでの道が開ける。二つに一つ、ことは必ず有利に運ぶ――

 

「遅い」

 

「っ!? 馬鹿なっ!?」

 

――なんてことが、このイレギュラーを前にして起きるはずがない。ドルマヤンやイグアス。近接戦の最高峰との戦いを経験してきた621にとって、モーションプログラム通りの近接攻撃など食らう方が難しい。

 迫る刃に対し、敢えて一歩前に踏み出す。そして、脚を振り上げリコンフィグの腕を蹴り上げる。レーザーブレード自体は高威力でも、それを保持する腕自体には攻撃力はない。だから、そこを物理的に弾いてしまえばレーザーブレードは当たらない。

 斬ることも避けさせることも叶わず、ホーキンスは621を超えられない。しかし、ホーキンスにとって事態はさらに悪化していく。

 

「ルビコンを脅かす企業の狗よ! コーラルと共にあれい!」

 

「くっ! デュアルネイチャーでは、相性が悪いか!」

 

 六文銭のAC、シノビ。その右肩に装着された武装の名は、45-091 JVLN BETA! 発射されたミサイルが通過軌道上に特殊爆薬をばら撒き、時間差で連鎖爆発して相手を殺す! 悪逆無道の暗殺兵器だ!

 六文銭が発射したJVLN BETAは、デュアルネイチャーを囲むように飛翔する! ここでペイターは選択に迫られた! 後ろに下がればホーキンスに近づけるが、連鎖爆発に巻き込まれてしまう! かと言って連鎖爆発を回避するために前に出れば、ホーキンスとの距離が開く! これぞ二つに一つ! ことは必ずニンジャの有利に運ぶようになっていたのだ!

 

「仕方がない!」

 

 ペイターは後者を選択した! デュアルネイチャーは安定性の低い軽量逆関節機! 爆発を食らえば最悪スタッガーに陥り、無慈悲な殺戮の餌食となるであろう! その判断のもと、ペイターは前に活路を見出す!

 

(一刻も早く六文銭を撃破して、その後ホーキンスさんと一緒にレイヴンを倒す! それしか道はない!)

 

 幸い、デュアルネイチャーは右手にHI-16:GU-Q1(パルスガン)、右肩にHI-16:GU-Q1(パルスキャノン)、左手にはパルスブレードも装備した近接特化機体! この間合いはむしろ望ましいところであった!

 

「私はまだ上に行かねばならんのだ! こんなところで死ねるか!」

 

 ペイターは二門のパルス兵装を同時に連射し、弾幕を張る! ガトリングめいた凄まじい連射力のそれらから放たれる弾幕は、もはや壁めいた様相を呈しており、回避は不可能! ペイターはパルスに焼かれる敵の姿を幻視する!

 

「その意気や良し! だが――」

 

 だが、迫る死の壁に対する六文銭の反応は、実際奥ゆかしかった! 冷静にプラズマスロアーを回転させ、それを盾と為す! パルス弾幕は回るプラズマ鎖に阻まれ、一つとしてシノビを傷つけない!

 

「――汝は与する親を誤れり! 暴虐なる企業の片棒を担ぐなど! その罪過、慈悲は無し!」

 

「さっきから意味の分からないことをペラペラと!」

 

 間合いが縮まれば、必然戦いは格闘戦へと移行する! カラテだ! カラテあるのみ!

 六文銭は速度を乗せ、空を斬るようなキックで応戦する! 対するペイターは、パルスブレードを発振! 二体の鉄の巨人が、同時にぶつかり合う!

 

「「ちぃっ!!」」

 

 蹴りはパルスバックラーに遮られ、デュアルネイチャーに届かず! そしてパルスブレードは回転するプラズマ鎖に弾かれ、シノビに届かず! おお、見よ! 二人のカラテは互角! まるで千日手めいた膠着状態が繰り広げられていた!

 一方621とホーキンスの方は、まだ開戦して僅かでありながら、既に大局が決しようとしていた。

 

「強いとは知っていたが……まさかここまでとは!」

 

 ホーキンスとて、621に対してなんの対策も練っていなかったわけではない。フロイトと621との戦闘ログを何度も見返して、万一彼と戦場で対峙することになった場合どうやって勝つかを何度も脳内でシミュレートしてきた。

 彼の一番の武器である、緩急によるFCSを騙す動き。自分では、フロイトのようにマニュアルエイムで対処することなど到底不可能。だから、Vvc-760PR(プラズマライフル)Vvc-706PM(プラズマミサイル)の範囲攻撃で対処する。

 いくらFCSを騙そうとも、プラズマ兵装特有の広い攻撃範囲ならば。それはある意味正解であり、またある意味不正解でもあった。

 

「ぐわっ!」

 

 またしてもリコンフィグがLEAPER4に斬られる。想定と違う。

 レイヴンならば、これらのプラズマ兵装ですら避けてくると考えていた。ヴェスパーでさえ、フロイト以外避けられない脅威の引っ掛け力を持つプラズマ兵装群であるが、レイヴン程の実力者ならそれすら避けてくると思っていた。同時に、それだけ回避困難な範囲攻撃を躱させれば、その回避には必ず隙が生じるであろうとも。自分の実力なら、その隙にレーザーブレードや右肩のVP-60LCS(レーザーキャノン)をぶち当てることもできるだろうと。

 

「これは、ちょっと、予想外だね」

 

 事前の予想など、なんの役にも立たなかった。何せ、621はプラズマ兵装を()()()()()()()()()()()のだから。その癖、こちらがレーザーブレードやレーザーキャノンで攻撃すると、そっちは確実に躱してくる。

 受ける攻撃と避ける攻撃を完全に分け、相手に賽を振らせない。ここまでの判断力があるとは。つくづく彼がヴェスパーでないことが惜しい。

 

「だけど、これでも私はヴェスパーなんでね!」

 

 それでも、ホーキンスは勝利を諦めない。今だって、大切な後輩が死に物狂いで頑張っているのだ。どうして諦められる。

 

「行くよ、レイヴン君!」

 

「!」

 

 ホーキンスはアサルトブーストを起動すると同時に、レーザーブレード以外の全武装をパージした。もはや射撃戦に活路は見出せない。ならばもう、選択肢は一つ。

 

「刺し違えてでも、君を墜とす!」

 

 少しでも機体を軽量化して、この一撃に全てを賭ける。彼我の距離が急速に縮まる中で、ホーキンスはレーザーブレードを発振し、構えを取った。621は捨て身の一撃を食らわぬよう、リコンフィグの腕に意識を集中させた。

 

「フッ! その察しの良さが命取りだよ!」

 

「!」

 

 だからこそ621は反応が遅れる。まさかリコンフィグが腕でブレードを振らずに、()()()()()()回転させることでブレードを振ってくるとは。それは、上半身と下半身がパーツ単位で分かれているACだからこそできる荒業であった。

 腕の動きという予備動作無しに放たれた斬撃は、確かに621の意表を突いた。

 

「でも、遅い」

 

「っ!!」

 

 惜しむらくは、621の反応速度は意表を突かれてなお、ホーキンスの攻撃に対応できるほど早かったこと。621は咄嗟に跳躍して回転斬りを飛び越し、そのままリコンフィグを踏みつけて高く跳躍する。

 そして、跳躍から落下に移ると同時に最大出力でパルスブレードを発振した。

 

「全く、最近の若者は――」

 

 落下の速度と全体重を刃に乗せ、621は脳天からリコンフィグを叩き切った。リコンフィグは重量級ACであったが、しかし速度と重さを加算させられた斬撃は、その装甲を両断するには十分だった。

 

「――強すぎて、敵いそうにない」

 

 今の一撃による損傷は脱出装置にまで及び、もはや運命は決してしまった。それでもホーキンスは取り乱さない。笑顔で敵を称賛する余裕すらある。

 いつかこうなることは覚悟していたのだ。それが今だったというだけ。何の未練がある。

 

「すまない、ペイター君……せめて、君だけは……生き残って……」

 

 唯一の心残りは、この苛烈な戦場に後輩を一人残してしまうこと。勝ってくれなくてもいい。ただ生き残ってさえくれれば。爆散するACの中で、彼は最期まで他人を心配していた。

 

「何と機敏な仕事ぶりか! 流石は同志レイヴン! コーラルの益荒男よ!」

 

「馬鹿な……第五隊長殿!」

 

 そして当然、ホーキンスの死は彼らの知るところとなる。その反応は、歓喜と悲嘆。片方は厄介な敵が一人消えたことを喜び、片方は頼れる上司が死んでしまったことを嘆き悲しむ……はずであった。

 

「う……ううっ……」

 

「……当然の悲嘆か。許しは請わぬ」

 

 通信に響く()()の啜り泣き。今まで自分を育て、見守ってきてくれた上司が、死んでしまった。それを悲しまない人間が、どこにいようか! 余りにも真に迫る泣き声に、思わず六文銭ですらある種慰めのような言葉をかけてしまった。しかし、ペイターの真髄はこんなところではなかった!

 

「第五隊長、ペイター……ううっ……悪くない響きだ」

 

「!? 何とっ!?」

 

 ペイターは、喜びも悲しみも同時に抱ける人物であった! そう! 端的に言って、彼は極端にデリカシーが無いのだ! 上司の死を悲しむ嗚咽に、昇進を喜ぶ噎び泣きが重なる! おお、ナムサン! これでは死んでいったホーキンスが浮かばれない!

 

「人面獣心とはこのこと也か! 全く以て言語道断! 斯くの如き悪徒、もはや生かしてはおけぬ! この六文銭が、天誅を下してくれよう!」

 

 六文銭は義に生きるニンジャであった! 解放戦線に味方するのも、一宿一飯の恩義に報いるため! であるならば、このような悪逆、どうして見過ごせよう!

 実のところ、ペイターは間違いなく上司の死を悲しんでもいるので、六文銭の怒りは割と的外れなのだが、しかしこのような言動からそれを推察しろというのは無理があろう。

 

「イヤーッ!」

 

 六文銭がプラズマスロアーを投擲! かつてない速度で放たれたそれは、空気を切り裂く轟音と共にペイターに迫る!

 

「折角ホーキンスさんがこの番号を空けてくれたんだ! 私は死ぬわけにはいかない!」

 

 しかし、昇進の喜びでトランス状態へと至ったペイターも、かつてない反応速度でそれに対処する! パルスバックラーで飛来する鉄球を防御! やはりカラテは互角!

 だが、それでも! 目の前の悪鬼を逃すわけにはいかない! 六文銭は決意と共に、鉄球を再度振りかぶった!

 

「無駄だ! 今の私は第五隊長! 決して負けるはずがない!」

 

 やはりペイターはパルスバックラーで防御しようとしている! このまま投げても、また防御されるだけだ! どうする、六文銭!?

 

「がっ!?」

 

「悪鬼羅刹を討つ。それもまた、シノビの勤めなれば――」

 

 防げたはずの鉄球は、デュアルネイチャーのコアに直撃していた! 一体何が起こったというのか! ペイターは確かに防御態勢を取っていたはずなのに!

 皆さんの中に強化人間動体視力をお持ちの者がいれば、それが見えたであろう! 何と六文銭はプラズマスロアーを地面に投げ、跳弾させることによってバックラーの下から鉄球を回り込ませたのである! ゴウランガ! 何というワザマエか!

 

「――走狗死すべし!! 慈悲は無い!!」

 

 よろめいたデュアルネイチャーに、シノビが急接近! 最大出力のアサルトブーストにより殺人的な加速を作り出し、その速度の中で脚を突き出す! それはまさに、キックの姿勢! 最も殺傷力の高い体勢を維持したまま、流星の如く翔ける! その様は、いっそ美しさすら感じさせるものであった!

 

「イヤーッ!!!」

 

「グワーッ!!!」

 

 弾丸と化したシノビが、デュアルネイチャーを貫く! その一撃は、デュアルネイチャーを破壊して余りある威力を持っていた!

 

「そんな……! 今日から私が第五隊長なのに……!」

 

 哀れデュアルネイチャーはしめやかに爆発四散! 異形の貌の鋼鉄の巨人は、テツクズめいた残骸と化した! 

 カラテが互角ならば、メンタルが奥ゆかしい方が機先を制する! その当然の道理によって、遂に六文銭は勝利したのだった!

 

「任務完了……」

 

 戦闘が終了した六文銭は、一度息をつく。極限状態で異常加速していたニューロンが、ゆっくりと正常に戻ってゆく。完全に戦闘の熱を冷ました六文銭は、今回の勝利の立役者の方へと振り向いた。

 

「同志レイヴンよ、此度の共闘、感謝の極み」

 

「お、おう」

 

「貴公がこれよりも企業の暴虐に立ち向かわば、いつかまた相見えん! さらば!」

 

「さ、サラバー」

 

 感謝を終えた六文銭は、余韻もそこそこ、その場を後にする。走狗を狩れたとて、彼が喜びを露にすることはない。まだ狩るべき走狗は多数のこっているのだから。アサルトブーストを吹かし、彼は621の前から姿を消した。後に残ったのは、痛いまでの静寂だけだった。

 走狗を狩りつくしてルビコンを解放するか、それとも道半ばにて死に絶えるか。そのどちらかでしか、六文銭は立ち止まれない。いつかその時が訪れるまで、彼はルビコンに殺戮の嵐を吹き荒らし続けるだろう! おお、ナムアミダブツ! ナムアミダブツ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レイヴン」

 

「どうしたエア」

 

「……いろんな人がいるものですね」

 

「うん。全く」

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

「ふぅ……今回も、危なげなく終えてくれたな」

 

 621が任務を終え、ウォルターは一息つく。後は621とエアが無事にここまで帰ってくるのを待つだけだ。道中に敵の反応も無いし、もう緊張を解いても大丈夫だろう。特に621がピンチに陥ったりもしていないはずなのに、いつもこの瞬間はどっと疲れが押し寄せてくる。

 ウォルターは、一つ背伸びをしながら背もたれに寄りかかった。

 

「! ()()()()から情報が来ている……今回の報告は何だ」

 

 安心しきっていたウォルターの視界に映ったのは、パソコンの通知。以前(22話)にも語った通り、ウォルターは企業勢力の動向をいち早く察知するために、各企業の内部に“アンテナ”を張っている。その一つが、企業に大きな動きがあったことを知らせていた。

 

「これは……」

 

 ウォルターは報告を読み進めていく。まず始めに抱いた感情は、心配。そしてその次に、安堵。

 

「そうか……何とか生き残ってくれたか……()()()()……」

 

 報告書に書かれていたのは、621のミッションの裏で起きていた戦い。V.IV ラスティと、レッドガン本隊との戦いの顛末についてだった。

 曰く、途中まではラスティが、その圧倒的な実力で以て順調にレッドガン本隊を壊滅させていったらしい。ミシガンも前線に出撃してラスティと交戦するも、ラスティ相手では一歩及ばなかった。乗機ライガーテイルを大破寸前まで追い込まれたという。だが――

 

「突如としてACが乱入……このアセンブルは、G6 レッドか。だが、アリーナランク27のあいつが、こんな動きをできるはずがない。恐らく、乗っているのは――」

 

 レッドの乗機、ハーミットは、戦場に現れるや否や射撃武装を捨て、一気にスティールヘイズへと突撃していったらしい。そして、激闘の末、何とかラスティを退けたのだという。

 そんな破天荒な戦い方をする人間など、ウォルターは一人しか知らない。

 

「だが、ミシガンは一命こそとりとめたものの、意識不明の重体か。もはやベイラムに勝ちの目はないだろうな」

 

 ミシガンは生き残ったが、そのACは大破寸前まで追い込まれたのだ。当然、中の人間も無事ではすまない。ミシガンは重傷を負い、もはや戦える状態ではないという。

 イグアスがACを失い、落ち目にあるレッドガンがアーキバス相手に戦えていたのは、偏にミシガンのカリスマによるものが大きかった。しかし、そのミシガンが重傷とあれば、士気も大幅に低下する。この戦いは、アーキバスの勝利に終わるだろう。

 

「……今は彼の生存を喜ぼう」

 

 運命は変わった。蝶々の羽ばたきですら歴史を変えるなら、鴉の羽ばたきなら尚更だ。それが、良い兆候であればいいのだが。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 ウォッチポイント・アルファの某所にて。任務を終えたラスティは、アーキバスの目が届かないところで秘密通信を行っていた。

 

「なるほど……上の連中は私とレイヴンをぶつけるつもりなのか」

 

 三度目までとは違い、四度目の解放戦線は相当に企業を追い込んでいる。それ故、諜報活動も三度目までよりも遥かに深くまで進んでいた。

 秘密通信でラスティに知らされたアーキバスの意向。それは、突出した個人と不穏分子をぶつけ合い、共倒れを狙うというもの。アーキバス(スネイル)らしい、陰湿な手口だ。

 

「戦わない……という選択肢は、無いだろうな」

 

 ラスティは集積コーラルの正確な位置を知るまでは、何としてでもヴェスパーに居なければならない。幸い、ラスティに対する疑念はまだアーキバス上層部だけに留まり、現場の人間にまでは波及していない。

 解放戦線贔屓という認識を持たれつつあるレイヴンと一戦を交えれば、少なくとも現場の人間はラスティに対する信頼を強め、追い出されるまでの時間を先延ばしにできる。

 

「わかっている。本気でやるつもりはないさ。戦友ならば、きっと私の意図を汲んでくれる。ほどほどに撃ち合って、そして腕でも飛ばしてもらおうかな。それで言い訳が立つだろう」

 

 アーキバスの思惑を利用こそすれ、そこに嵌まる気は毛頭無い。だから、互いが死ぬことの無いよう、茶番を演じるつもりでいた。

 

「そちらこそ。一刻も早い快復を祈っているよ、フラットウェル」

 

 会話を終えて、秘密通信を終了する。今後の方針は決まった。近いうちにレイヴンと戦わせられるだろうから、そこで八百長を演じて()()()()()()。簡単な仕事だ。

 

「……」

 

 ラスティは一人物思いに耽る。今回のレッドガン部隊迎撃で、自分はミシガンを討ち取れなかった。戦略的な勝利こそもぎ取れたものの、その心に広がる感情は勝利の歓喜とはほど遠かった。

 

「…………」

 

 もしこの任務を請け負ったのが戦友であったならば、どうなっていただろうか? ラスティは、無意識の内にそんなことを考えていた。

 簡単だ。彼ならきっと、乱入ACの妨害などものともしない。ミシガンを討ち取り、その上乱入ACも討ち取り、完璧な勝利をものにしてみせただろう。

 

「戦友」

 

 命懸けの激戦はもう終わり、次は事実上の休憩の時間だ。戦友と対峙し、茶番を演じる。なんて簡単な任務だろうか。ただ()()()だけでいいのだ。

 誇りも矜持も、ルビコンを救うことに比べればちっぽけなものでしかない。そのはずだ。

 

「私は――」

 

 そのはずだ。

 




621
 ニンジャコワイなタイプの鴉。ブルートゥと同レベルって、相当やぞ。

エア
 皆さん、後半のアレのせいで忘れてはいませんか? 前半で彼女が抱いた、美しい決意のことを……。

ウォルター
 友人が一人生き残りました。これぞレイヴンエフェクト。

六文銭
 本日の主役。キギョウスレイヤー。サプライズ六文銭。今回の投稿が遅れたのは、八割方彼のせいといっても過言ではない。

ホーキンス
 本日の一番の被害者にして、ヴェスパー屈指の良識人。しかし、彼の良識人っぷりを書けば書くほど、その後のペイター君が悍ましくなるという罠。

ペイター
 六文銭みたいな人から見れば、彼は悪鬼羅刹だろうなって。もちろん生きてます。なんで?

ミシガン
 生き残りました。

ハーミットの中の人
 一体誰グアスなんだ……。

ラスティ
 良かったね! ラスティ! 次はわざと負けるだけの簡単なミッションだよ!

 ということでヴェスパー部隊伏撃。六文銭の口調のエミュが難しすぎて投稿者死亡! 四度目の鴉エタる!ってなりかけましたが、何とか投稿できました。でもやっぱり読み返すと六文銭感があんまりない気がする……どう再現しろっちゅうんじゃ!
 それとエアちゃん前線フラグが立ちました。いよいよ二人並び立つ日も遠くはない……のか?
 次回は未踏領域探査。フラットウェルは胃潰瘍なので、ラスティ単独で来ることになります。いや~、ラスティはわざと負けてくれるみたいだし、これは楽なミッションになるんだろうなあ~!

















































『第二隊長閣下、聞こえていますか? こちらはアーキバス情報部です』

「こちら第二隊長、スネイルです。聞こえています。何事ですか?」

『本日、ヴェスパー部隊に対する襲撃が()()発生。それについて報告させていただきたく』

「よろしい。さっさと話しなさい」

『はっ。まず一件目は、恐らく解放戦線によるものです。独立傭兵レイヴン及び六文銭が、深度2調査中の第五隊長殿及び第八隊長殿を襲撃。第八隊長殿は離脱に成功しましたが、第五隊長殿は戦死されたとのことです』

「またあの駄犬か! いつも我々の邪魔ばかりして! 次に歯向かうようなことがあれば、猿どもと一緒に肥溜めにぶち込んでくれる! ……それで、二件目は?」

『は、はい。深度3を調査中の()()()()殿()が、防衛兵器の生き残りと交戦して、戦死されました』

「第三隊長が、防衛兵器なんかに? 奴はそんな無能ではないはずだが?」

『はい。しかし、第三隊長のACの残骸から得られたログによれば、エンフォーサーと交戦して撃破されたようでして……』

「……どうも気になる。君、私にその戦闘ログを送りなさい。こちらでも独自に解析を進めておきましょう」

『了解です』

「……何者かによる偽装か? 一体誰が? 解放戦線にそんな技術力はないはずだが……?」
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