四度目の鴉   作:Astley

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執筆中の筆者「最近一話当たりの文字数が増え続けてるな……執筆時間も伸びてるし、大丈夫かコレ? ……まあ今回は幕間だし、精々8000字程度で終わるでしょう」
→ 2 4 0 0 0 字

\デェェェェン/

Y O U D I E D



幕間:燻る火種

 以前にも説明したことだが、現在のルビコンは中央氷原をアーキバスが、ベリウス地方を解放戦線が支配下においている状態にある。四度目のこの世界では、621が積極的に解放戦線に味方した影響でルビコニアン勢力がかなり強大化しており、そのため解放戦線のお膝元たるベリウス地方では、企業勢力はほぼほぼ駆逐されつつある。

 だが、だからと言ってベリウス地方の企業勢が完全に追い出されたわけではない。星外の物資や人員を運んでこれる企業はやはり強力であり、それ故ベリウス地方でもいくつかの地域は未だに企業の支配下にある。

 ここ、アーキバス第七駐屯地も、そんな企業支配下にある地域の一つであった。この駐屯地はルビコニアンから奪ったコーラルの井戸を確保しておくための防衛拠点であり、必然そこを守る戦力は数も質も高い。故にこれまで何度も解放戦線の襲撃を跳ね除けており、ベリウス地方における企業の橋頭堡としての役割も果たしていた。

 そんな駐屯地を守る部隊の中の、二機の兵器。その中の二人。本来敵襲に備えて集中していなければならないはずのその二人は、何とも気抜けたことに談笑に興じていた。

 

「しかし、LCは本当に凄まじい性能だな」

 

「ああ、全くだ。これならルビコニアンどもにも負ける気がしない」

 

「中央氷原の連中はいいよな。これを一足早く支給されてるんだってよ」

 

「ホントにな。上の連中はアイツらばっかり贔屓して、俺たちに対するリスペクトが足りてねえ」

 

「そうそう。連中が全力で戦えるのは、俺らがここでルビコニアンを引き付けてるお蔭だってのに」

 

 実際、現在ベリウス地方の解放戦線・RaD連合軍が中央氷原入りできていないのは、こうした拠点による働きも大きい。彼らの言っていることは、当たらずとも遠からずといったところであった。

 

「大方あの()()()()()の采配なんだろうな。『壁』で失敗してから、功を焦って仕方がないって聞くし」

 

「それって、上に早くコーラルを献上したくてたまらないってことか?」

 

「そうそう。キショいよなあ、部下に対しては『閣下』とか呼ばせてる癖に、目上に対しては媚び諂ってるって聞くし」

 

「うわあ……カスだなあ……」

 

 言いたい放題な彼らだが、この場にいるのは二人だけなのだ。止めるものがいなければ、罵詈雑言など止まるはずがない。

 

「その点、第四隊長殿は人が違う。俺らみたいなのにもしっかり気にかけて下さる」

 

「ここに封鎖兵器が配備されたのも、あの人による進言によるところが大きいみたいだし」

 

「今からでもクソメガネが戦死して、あの人が指揮を握ってくれないかなあ」

 

「ホントにな」

 

 暢気に駄弁る二人。だが、彼らは一つだけ誤解していた。二人はラスティの進言が、部下への気遣いによるものだと思っている。だが、その真意は──

 

「? なあ、おい。あれってヘリじゃねえか?」

 

「ああ、ヘリだな。識別信号は味方だ。警戒することはない」

 

「でもこの時間にヘリが来る予定なんてあったか? あのヒステリーメガネが移動の際は絶対事前連絡しろって再三怒鳴ってやがったし、あれ撃墜した方がいいんじゃないか?」

 

「でも連絡を忘れただけの可能性もあるし……下手に撃墜して万一味方だったら、俺ら再教育センター送りだぞ?」

 

「……じゃあ、他の奴らに任せるか!」

 

 どうせ自分よりも上の連中が今確認を入れているだろうし、指示があるまでは放置していい。そう判断した彼らは、武器も構えずにヘリを見送る。

 ここで上に連絡を入れていれば気付けたであろう。電波妨害で、通信が繋がらなくなっていることに。

 届かぬ上からの指示を待ち続ける彼らに、ヘリはどんどん近づいていく。そして──

 

ボガァン!!

 

「え?」

 

「へ?」

 

──ヘリが粉々に砕け散った。いや、これは砕け散ったというよりは、内側から破壊されたというべきか。

 突如としてヘリを砕いて飛び出した()()()()()に、二人は困惑を隠せない。そして、それが片方にとって、最期に抱く感情になってしまうとは露にも思わない。

 

「ハッハー! 無敵のラミー様の登場だあ!」

 

「なっ!? お前は──!?」

 

 飛び出した人型は、片方のLCに真っ直ぐ近づくと、そのまま左腕の武装を振り回した。

 

「がっ!?」

 

 刃が食い込む衝撃が、パイロットをむち打ちにする。だが、恐怖はこれで終わりではない。

 食い込んだ刃が、一気に回転して装甲を抉り取り始める。

 

「ヒッ!? た、助け──!?」

 

 連なった刃の鎖は、あっという間にゴリゴリと機体を解体し、バラバラに引き裂いてしまった。

 それを為した下手人は、振り切ったチェーンソーを天高く掲げ、悍ましい唸り声を上げる。

 

「ヒヒヒヒヒ! インビンシブルだ! インビンシブルだ!」

 

「あ、ああっ!! 相棒っ!?」

 

 機体ごとミンチにされてしまった相方を見た動揺は、どれほどのものだっただろうか。これでは、反撃などできるはずがない。

 故に、彼が直ぐに相方の後を追うことになったのは、ある意味必然であった。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

「敵襲だ! MT、LCは全機出撃! HCは起動を急げ!」

 

 漸く電波妨害を解除した駐屯地には、敵襲を知らせる警報が響き渡る。

 けたたましく鳴り響くアラーム音に急かされて、次々とMT、LCが出撃してゆく。

 

「襲撃者は何者だ? 情報求む!」

 

「現在確認中です! 襲撃者は……このACは、RaDです! RaDのインビンシブル・ラミーです!」

 

「ラミーだと?」

 

「はい! 奴は既にLC二機を撃破しています! 注意してください!」

 

「なんだと!?」

 

 LCパイロットの一人が、上擦った声で狼狽する。ラミーと言えば、あのアリーナランク最下位の男だ。それがLCを二機も撃破しただと?

 自分が知っている常識を遥かに超えた報告に、思わず耳を疑う。だが、敵はすぐそこまで来ているのだ。情報の正否に関わらず、応戦しなければならない。

 

「総員! 構えろ!」

 

 敵反応は隔壁の向こうから迫って来ている。LC、MT混成部隊は、全機一斉に隔壁へと武器を向けた。

 瞬間、チェーンソーが隔壁を貫通し、そのまま斜めに斬り裂いていく。

 

「ハッハァ! ラミー様参上! 震えて眠れぇ! 企業のカスどもぉ!」

 

「撃て! 撃て撃て撃て!」

 

 斬れた隔壁を蹴っ飛ばして踏み入ってきたのは、()()B()A()S()H()O()()()()()の黄色いAC。

 情報と違うアセンブルに一瞬困惑するが、すぐさま全機一斉に射撃を開始する。

 

「奴から距離を取れ! チェーンソーもショットガンも、遠距離戦には対応できない!」

 

 フレームは変わっても、武装は変わっていない。ある意味ラミーの象徴とも言える、左腕のチェーンソーと右腕のショットガン。そして、両肩の──

 

(両肩?)

 

 瞬間、両肩の()()が、宙に浮いた。それらはラミーにぴったり追従するように動き、柔軟に角度を変えながら周囲に弾をばら蒔く。

 

「な!? これは!?」

 

 ラミーの動き自体は至極単純。ただただ目についた敵に真っ直ぐ近づき、チェーンソーとショットガンをぶち込むだけ。しかし、両肩のそれが耐久力の低いMTを優先して狙っているため、想像以上の速度で部隊が消えていく。

 

「あれは、()()()()()()()!? なぜあんなものを!?」

 

 ラミーのACの両肩に、新たに搭載された武装。その名は、BO-044 HUXLEY。所謂実弾オービットであった。二機の実弾オービットは敵機を撃破する度に狙いを変えていて、忙しなく動き続けている。

 

「オービットをあんな風に制御するなんて……奴はドーザーじゃなかったのか!?」

 

「知るか! とにかく撃ち続けろ!」

 

「ハッ! 俺の()()()()()()()()を、その程度の銃弾で止められると思うなよぉ!」

 

 まるで死ぬことを怖がらないドーザー特有の猪突猛進と、やたら的確に敵を狙うオービットが噛み合い、防衛部隊が次々と倒されていく。マッドスタンプ改めブラッドスタンプの活躍は、とどまるところを知らない。

 だが、そんな苦戦させられている防衛部隊に、更なる苦境が襲い来る。

 

「オペレーターより入電! ACの反応あり! 敵は二機います!」

 

「何だと!? もう一機はどこに?」

 

「今マーカーで表示します!」

 

 MT、LCたちの画面に表示されるマーカー。指し示しているのは、この部屋の隅。コンテナが積んである辺り。その方向にカメラを向けると――

 

「しまった! 見つかったか!」

 

――赤いACが、コンテナに紛れて隠れていた。そのACは、上半身は嘗てのラミーの愛機、マッドスタンプと全く同じパーツ構成になっている。だが下半身は、まさかのタンクであった。タンク脚部の中でも最強の堅牢さを誇る一品、LG-022T BORNEMISSZAの上に、真っ赤に塗装されたマッドスタンプの上半身が乗っかっていた。

 

「あのACは、一体?」

 

「機体色と声からして、解放戦線のインデックス・ダナムか? だが、奴のACはあんなのではなかったはずだが……」

 

「何だっていい! 見るからにアイツの方が動きが悪い! まずはあっちから撃破せよ!」

 

 指示を受けた防衛部隊は、即座に陣形を変える。部隊の一部がラミーを引きつけ、残りがダナムを討つ姿勢だ。だが、それこそがダナムの狙いであった。

 

「生憎だが、狙われることこそが私の仕事なんでな!」

 

 ダナムはその両肩の武装を起動する。左肩に搭載されたそれは、VE-61PSA。通称、パルススクトゥム。本領発揮には長いアイドリングを必要とする異端のパルスシールドだが、その分防御性能は折り紙付きな一品だ。

 そして右肩に搭載されたそれは、EULE/60D。通称、パルスシールドランチャー。目の前に敵弾を相殺するパルス防壁を投射する、使いどころのわからない珍兵器だ。

 その二つを同時展開するとどうなるか。

 

「くっ! 駄目だ! 抜けない!」

 

「この数で、これだけ撃ち込んでるのに!」

 

 ただでさえ硬いタンク型ACが、その上二種のシールドまで展開しているのだ。その堅牢さは、もはや要塞と呼んで差支えない。ダナムは反撃すらせずただ弾丸を受け止めているだけだが、それでも彼が余裕な様子であることは想像に難くなかった。

 

「全く効いてる様子がない! 何か別の手を――!」

 

 MTの一機が、言い切る前に爆散した。ダナムに集中していたせいで、MT乗りたちは気付かなかったのだ。ラミーのオービットが、こちらを向いていることに。

 

「いくら私でも、狙うべき敵に狙いを付けるだけの仕事くらいなら、ちゃんとできるのだよ!」

 

 そう、ラミーのオービットの制御をしているのはダナムであった。さっきからオービットがやたら的確な優先順位で敵を撃破していたのも、全てはダナムがやったことである。

 以前にもドルマヤンが指摘していた通り、ダナムは絶望的に操縦の才能がない。回避と攻撃を同時にこなすことが求められるAC戦など、できるはずもない。

 しかし、そんな彼であっても、全く機体を動かさなくていいのなら攻撃に集中することができる。ラミーと違いちゃんと常識的な頭を持っているダナムであれば、状況把握さえできれば的確に敵をロックオンできるし、ロックオンさえできたなら優秀なBO-044 HUXLEYは勝手に敵を撃破してくれる。

 

「ハッハー! 俺と()()のコンビネーションに勝てるはずがあるか! 俺()()は無敵! インビンシブルなんだよ!」

 

「そうだ! 我々ルビコニアンは決して貴様らには屈しない! この()()()()()()()()()()とラミー君の力で、貴様ら全員地獄へと送ってくれる!」

 

 そう、この二人のアセンブルは、この二人の戦術は、彼らの低すぎる操縦技術を最大限戦力として役立てる、まさに無敵の布陣であるのだ。

 ドーザー故死を恐れないラミーが突撃し、ダナムの采配で弾をばら撒く。敵集団を内側から食い破り殲滅するという、合理的極まりない戦術は、見事に防衛部隊に刺さっていたのだ。惜しむらくは――

 

「ラミー君! 君はLCを積極的に狙ってくれ! MTはオービットの火力だけでも簡単に――」

 

「ハッハー! まだまだいけるぜぇ! ダァナァムゥゥゥゥゥ!!!」

 

「ラミー君!? MTにチェーンソーは過剰火力だ! もっと効率的に動いてくれ! LCだLC!」

 

――ラミーの脳みそでは、この戦術を最大効率で活かすことは絶対に不可能であるということ。彼の辞書にあるのは突撃の二文字のみ。ただ目についた敵に真っ直ぐ突撃し、ショットガンとチェーンソーを浴びせる。それ以外のことを、どうして重度の向精神薬依存者が考えられようか。

 

「ク、クソッ! ダナムは駄目だ! 硬すぎる! ラミーを狙え!」

 

「撃っても止まらないぞコイツ! このままじゃ……ギャアアアアア!!?」

 

 もっとも、別に最大効率にならなくともいいのだが。この戦術はシンプル故に対処法がない。死を恐れずに突っ込む化け物が即死攻撃を振るってくるというだけで、LCやMTではどうしようもなくなるのだ。

 その後、化け物とその外付け強化パーツによる殲滅は順調に進み、五分も経った頃にはこの辺りの防衛部隊は全て無惨な残骸と化していた。

 

「俺たち二人にかかればざっとこんなもんよ! ハッハッハッハ! 俺たちインビンシブルだ!」

 

「奪ったヘリで踏み込んで一気に殲滅する……まさかここまで上手くいくとはな。この調子ならば、()()が来る前にここを制圧できるかもしれん」

 

 自信満々な発言をする二人だが、積極的に突撃して敵を解体したラミーはともかくとして、ダナムのやったことと言えば部屋の隅で身を守りながら敵をロックオンしただけ。それでよくもまあ、ここまでやり切った感を出せるものである。

 

「よし、ラミー君。このまま駐屯地の奥に――」

 

 二人が駐屯地のさらに奥部へと行こうとしたその時だった。二人に高速で近づいてくるエネルギー反応を、彼らのACのセンサーが捉えた。ダナムはその反応に気付き、今一度警戒を強める。

 

「この反応は? エネルギー量からして、MTやLCではない……」

 

 反応は最短経路でこちらに近づいてくる。そろそろ接敵する距離だ。

 

「ラミー君! 構えろ! 新手が来るぞ!」

 

「また哀れな狗っころが殺されに来たのかぁ? いいぜぇ、何匹でもぶっ殺してやらぁ!」

 

 瞬間、壁を破壊して二人の前に姿を現す人型。LCよりもマッシブなそのシルエットは、その分だけその機体が強力であることを直観させる。

 

「こちら防衛隊長! 現場に到着した! 応答求む!」

 

「あれは……HC!? 情報よりも起動が早い!」

 

 予想外の敵の登場に、ダナムは狼狽えた。MT、LCまでならラミーの火力でゴリ押しできるが、HCとなるとそうはいかない。元々装甲が厚い上、大型のパルスシールドまで構えているのだ。当然、オービットの効きも悪い。まさに、二人にとって天敵とも言える相手であった。

 

「ラミー君、逃げるぞ! 帥叔も仰っていた! HCが現れたら、すぐに撤退しろと!」

 

「何言ってんだよダナム! 俺たち二人はインビンシブルだ! この程度の雑魚は瞬殺してやるぜ!」

 

「ああ、もう! 仕方がない!」

 

 フラットウェルの忠告は、ドーザーの頭には響かない。ラミーに撤退などという選択肢があるはずないのだ。

 仕方がないので、ダナムも腹を括る。目の前のHCを倒して、二人で無事に帰ろう。そう決意して、戦いに臨んだ。臨んだが――

 

「アッ、ガッ、ぼへっ、ぐおっ」

 

「所詮は下位ランカー! どんな小細工を弄そうとも、このHCの敵ではない!」

 

「ら、ラミー君!」

 

――まあ、何事にも限界というものはある。ラミーは容赦なくHCにボコボコにされ、ダナムは部屋の隅でスクトゥムを構えることしかできない。MT、LC相手に無双していた頃の面影など、どこにも無かった。

 むしろ、この二人で無双できていたことの方が奇跡なのだ。この光景こそが、本来あるべき姿と言えよう。

 

「お、俺のブラッドスタンプがあーっ!?」

 

「ラミーくぅぅぅん!!」

 

 ダナムの悲痛な叫びがこだまする。ブラッドスタンプもHCには勝てず、為すすべなくバラバラに大破させられてしまった。

 

「く、くそっ! ラミー君の仇!」

 

 ダナムは右腕のバーストマシンガンを構える。インフェルノピカクスは、バーンピカクスだった頃の腕武器を引き継いでいる。つまりは、右腕にバーストマシンガン、左腕に小バズーカを持っている。一応戦えることは戦えるのだ。

 

「そんな豆鉄砲が、このHCに効くか!」

 

 だが、元々腕前が絶望的なダナムでは、どれほど硬い機体に乗ったところでサンドバッグにしかなれない。スクトゥムもパルスシールドも、HCの高機動ならば回り込んで躱せる。本体が重装タンクだったとしても、HCの火力ならばいずれ融かせる。

 インフェルノピカクスはHCに一発も有効打を与えられぬままボロボロにされ、耐久限界を迎えようとしていた。

 

「くっ、すまない! ラミー君! やはり、私では――!」

 

 死んでいった相棒に、謝罪の念を送る。二人ならばどこまでも行けると思っていたのに、現実は非情であった。やはり、下位ランカーはどこまでいっても下位ランカーでしかないのだ。

 

「今、そちらに逝くぞ……」

 

 初対面から紆余曲折あったが、今ではお互いがお互いを大切な相棒と認識していた。あのラミーが日を跨いでも覚えていられる人間は、カーラ以外だと彼しかいないのだから。半身を失ったかのような深い絶望の中で、ダナムはゆっくりと目を閉ざした。

 

「死ね! ルビコニアンめ!」

 

 HCがレーザーブレードを起動し、振りかぶる。この一撃を受けて、インフェルノピカクスは破壊されるだろう。そう思った矢先のことであった。

 

「っ! アラート!? 一体どこから――ぐわっ!」

 

 どこからともなく飛んできた二発の榴弾がHCに命中し、吹き飛ばす。お蔭でダナムは命拾いすることとなった。

 

「RaDのチャティ・スティックだ。遅れてすまなかったな。反対側の部隊は()()()で全滅させた。あとはそいつだけだ」

 

「チャティ!」

 

 ダナムが思わず歓喜の声を上げる。漸く来てくれたのかと。

 実は今回の襲撃は、二正面作戦だったのだ。ラミーとダナムが内部から暴れて敵を引き付けている間に、チャティと()()()()が裏から入り込んで、駐屯地全体を挟み撃ちにする。そして中央で合流する。

 それは、フラットウェルが駐屯地にいる人間を一人も逃がさず殲滅するために打ち立てた作戦であった。その目的は実際達成され、こうして中央で四人集まったということになる。

 

「今更新手が来たところで!」

 

 HCは体勢を立て直し、今度はチャティのAC、サーカスへと飛びかかった。またしてもレーザーブレードを発振し、横薙ぎに振るう。

 サーカスはEL-TL-11 FORTALEZA(車椅子)を採用した高速機だ。水平方向への移動は速いが、上下方向は壊滅的。故に、避けられない。だから、何もなければこのまま斬られるしかない。そう、何もなければ。

 サーカスに刃が迫る中、サーカスとHCの間に割り込む影がいた。それは、橙色と空色の二色で塗装された人型。人型は左腕のパルスブレードを起動すると、HCのブレードを危なげなく受け止めてみせた。

 

「チャティ! 大丈夫?」

 

()()()()、問題ない。どちらかと言うとダナムの方が危険な状態だ」

 

「じゃあ、時間はかけられないってことだね……フンッ!」

 

「何ッ!?」

 

 雄叫びと共に、ツィイーはHCを押し返す。BASHOフレームを旧式と侮ることなかれ。こと、近接戦においてBASHOフレームは無類のパワーを発揮する。それを十全に使いこなしたツィイーは、HCすら力負けさせることができるのだ。

 

「行くよ! チャティ!」

 

「前衛は任せる。こちらは火力支援に集中しよう」

 

 役割分担は明確だ。前衛がツィイー、後衛がチャティだ。

 

「このユエユー弐式なら!」

 

 まずツィイーは体勢を崩したHCに一気に肉薄し、左肩のVP-60LCS(レーザーキャノン)をゼロ距離でぶち込んだ。高密度の指向性エネルギーを至近距離から食らい、HCがたたらを踏む。

 

「くっ! やってくれる! だが、このHCならば!」

 

 HCは大型パルスシールドを展開し、反撃に体当たりしてきた。所謂シールドバッシュだ。

 

「甘い!」

 

 だが、ツィイーはそれをあっさりとクイックブーストで躱し、すれ違いざまに右腕のMA-J-201 RANSETSU-AR(バーストライフル)を三連射した。

 

「チィッ! ちょこまかと!」

 

 HCはユエユー弐式の方へと振り返るが、その時既にツィイーは次の攻撃を放っていた。ユエユー弐式の右肩に搭載されたBML-G2/P03MLT-06(6連ミサイル)のカバーが開き、次々と誘導弾が発射される。

 だが、防衛隊長は即座にそれに反応し、シールドを構えた。

 

「そんなもの、このHCのシールドの前には――!?」

 

「ミサイル着弾。敵機のACS負荷限界を確認」

 

 シールドでは覆えない上方からミサイルが降り注ぎ、HCを爆炎で揺らす。BML-G1/P07VTC-12(12連垂直ミサイル)WR-0999 DELIVERY BOY(クラスターミサイル)によるミサイルの雨が、HCを逃さぬよう断続的な爆撃を繰り広げていた。

 

「チャティ、ナイス! とどめは私が刺す!」

 

 スタッガーで動けないHCに、ツィイーが二連撃をお見舞いする。最強の傭兵(621)すら全幅の信頼を置くパルスブレードは、やはり今回もその期待に応えてくれた。パルスの刃は一撃目で装甲を斬り裂き、二撃目で内部を焼き融かす。辛うじてコックピットは無事だが、ジェネレータを溶断された以上、遠くないうちに爆散するだろう。

 

「ば、馬鹿な! たかが二機のACに、HCが負けるだと!? こ、こんなことが、あるはずが──!」

 

 言い終えるのを待つことなく、HCは青い花火となった。

 

「敵性反応無し。この駐屯地の制圧は完了だ」

 

「ちょっと多かったけど、でもなんとかなったね。全部()()殿()()()()()()に終わったし」

 

「そのようだ」

 

 戦闘が終わって、チャティとツィイーは一息吐く。ツィイーが零した通り、実は今回の戦闘は全てフラットウェルの掌の上の出来事だ。

 フラットウェルは、ラスティを経由して戦力をベリウス地方に送るよう働きかけた。要は戦力を分散させ、各個撃破を狙ったのだ。

 解放戦線がこの駐屯地を何度も襲撃し、しかし跳ね返されてきたというのも、ここに戦力を結集させるための工作。攻めては負けるを繰り返せば、必然的に相手はここを重要目標だと誤認する。

 そしてこれらの工作によって集中した戦力を、精鋭部隊で一気に叩く。その結果がこれだ。

 解放戦線は、()()()()()()()()()多数の戦力を殲滅することができた。今回の戦いは、フラットウェルの勝利とも言えるだろう。

 

「ダナム、ラミーの生体反応は消えていない。お前が連れ帰ってやってくれ」

 

「え!? あれで生きているのか!? 相変わらずなんというしぶとさだ……」

 

 喜びよりも驚愕が先に生じるダナム。それほどまでにブラッドスタンプの状態は酷かった。脅威の生命力を誇る相方に対して、ダナムは安堵やら戦慄やら複雑な感情を抱いたのだった。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

ピピピピッ! ピピピピッ!

 

「む? 通信だ」

 

 同時刻、ベリウス地方の別地点にて。二機のACが並んで立っていた。そのうちの片方のパイロットは、自身に繋がった通信を確認する。

 

「……そうか。そっちは成功したか」

 

 パイロットは満足げに頷く。

 

「こっちか? こっちは既に終わっている。まあ、赤子の手を捻るようなものだ」

 

「……全く、とんでもない化け物だね、アンタは。アーキバスの連中が今のを聞いたら憤死するんじゃないかね?」

 

 ()の通信に対して、もう片方がそうツッコむ。それもそうだろう。彼はあろうことか、()()()()()()()を赤子扱いしたのだから。

 

「MT30機にLC8機、HC4機、ついでに強襲艦2隻。それを全部ぶった斬っておいて、『赤子の手を捻る』ねえ……」

 

 彼――ドルマヤンの周囲に転がる残骸を見て、カーラはそう零さざるを得ない。残骸は全て一刀のもとに叩き斬られていて、その切断面は完璧なまでに真っ平らであった。いったいどれ程の腕前があれば、こんな風に斬れるのだろうか。

 内心ドン引きなカーラは、しみじみと呟く。

 

「これを赤子扱いできるのなんて、アンタかビジターくらいなもんだろうよ」

 

「何を言う。お前もこれくらいできなくてどうすると言うのだ」

 

「は?」

 

 言っている意味がわからない。まさか、この化け物染みた所業を自分もできるようになれと言うのか? 思わぬ発言に、カーラは言葉を失う。

 

「アンタ何言ってんの?」

 

「お前こそ何を言っている? 戦時下において、秩序とは力だぞ?」

 

「は?」

 

「は?」

 

 鳩が豆鉄砲を食ったような顔とは、まさにこのことだろう。両者共に目を丸くして、本気で困惑していた。

 

「貴様……それでも組織の長か? 力無きリーダーに、下のものがついてくるとでも思っているのか?」

 

「いや、普通についてきてるけど……」

 

「ヴェスパーもレッドガンも、そして我らが解放戦線も、トップは皆ランク一桁台だ。なのに貴様だけランク11位とは、恥ずかしくないのか?」

 

「いや別に……あんな出来の悪いシミュレーターで格付けされても困るというか……」

 

「本人がそう考えていても、下の人間はそうではない。アリーナランクというのは素人にもわかりやすい指標だ。故に、奴らはすぐそれに飛びつきたがる。ボスを張るのに低ランクのままだと、舐められて最悪空中分解しかねんぞ?」

 

「いや、RaDの中では私が最高ランクだし……というか、それを言うならあんたこそ低ランクのフラットウェルに実権を握られてるよね? ダサくない?」

 

「な!? 貴様!! この私を愚弄するか!!」

 

「だって事実じゃん? 大体あんたのところ、ちょっと前まではドルマヤン派とフラットウェル派で派閥争いしてなかったっけ? 空中分解してるのはそっちの方だろ」

 

「貴様……これ以上侮辱するようならこのドルマヤン、容赦はせんぞ!」

 

「上等だよ! アリーナランクが当てにならないってこと、あんたで証明してやろうじゃないか!」

 

 売り言葉に買い言葉。互いに正論を吐けば、議論は平行線。部下たちはお互い仲良くなっているというのに、このトップ二人はどうしていつまでもこうなのであろうか。

 

「若作り女め! 老人の敬い方を教育してやる!」

 

「パワハラジジイが! ぶっ殺してやる!」

 

『『メインシステム、戦闘モード起ど――』』

 

ピピピピッ! ピピピピッ!

 

「むうっ!? 通信!? こんなタイミングで!?」

 

 危うく本気の殺し合いをしかけた二人だったが、ナイスタイミングな通信によって遮られることとなった。ドルマヤンとて一応組織の長。部下からの報告を無下にはできない。だから逸る怒りを一度忘れて、一旦通信を繋ぐ。

 

「もしもし?」

 

『聞こえていますか? 帥父殿、私です。フレディです』

 

「おお、フレディか。何用だ?」

 

 通信の相手は、現在中央氷原にいるリング・フレディだった。

 

『中央氷原の方でも状況が動きましたので、お伝えしたく』

 

「そうか、ご苦労だったな。しかし、お前が掛けてきたということは、フラットウェルの奴はまだ?」

 

『はい。依然療養中です』

 

「そうか……この正念場で寝たきりとは、根性が足らんな」

 

『ええ、全くです』

 

「誰のせいだと思ってんだよ」

 

 文句は聞かれないよう最小の音量で漏らす。目の前の老人も、その信奉者たる通信相手も、どっちに聞かれたとしても面倒なことになるのは容易く予想できた。

 

『して、報告の方をさせていただきます。()()()()()()()の活躍により、集積コーラルの大まかな場所が割れました』

 

「おお! でかしたぞ!」

 

()()()()()()の方からも連絡が来ています。近いうちにアーキバスの調査部隊が編成されるそうなので、その機に乗じて集積コーラルの確保を行うつもりのようです』

 

「そうか。レイヴンが動くのなら、確実だろうな」

 

『……ええ、そうですね』

 

 嬉しそうに頷くドルマヤンとは対照的に、フレディはどこか複雑な表情を浮かべていた。

 あのザイレムでの一件以来、ドルマヤンがレイヴンについて語る時はいつも笑顔であった。長らく失われていた彼の笑顔を、彼が取り戻していたのだ。ずっと傍にいた自分ではなく、あの猟犬風情が。

 

「フレディ」

 

『っ! はい!』

 

 そんなフレディの内心を知ってか知らずか、ドルマヤンは彼に呼びかけた。

 

「恐らく、これからの戦いの中心はレイヴンになる。だから、フレディよ。奴に手を貸してやってくれ」

 

『……! それは……』

 

 基本的にフレディは、ドルマヤンに対しては殆ど盲目的に従うことで知られている。帥父という人間に、それほどまでに心酔しているのである。

 そんな彼が、咄嗟に返事を返すことができなかった。その心に、一体どれほど重い葛藤を抱えているのだろうか。

 

「頼む、フレディ」

 

『……帥父殿?』

 

 通信から流れてくる、()()()()()()()。フレディは、一瞬通信の向こうにいる人間が敬愛する帥父だとは信じられなかった。

 

「彼の夢を、叶えてやってはくれぬか?」

 

『……』

 

 懇願するような口調。当然、こんな口振りを聞くのも初めてであった。

 

「頼む……!」

 

 心がざわめく。ドルマヤンは、何時だって自分に道を示してくれた偉大な方であった。彼こそがルビコンを導く指導者に相応しいと思っていた。

 そんな彼が今、()()()()()()()()()()。まるで何の力もない、ただの老人のように。

 

「頼む……! ()()を見殺しにした償いは、もうこうすることでしか……!」

 

『帥父殿……』

 

 知っていた。自分という人間が、帥父が懸想する()()の代わりでしかないことくらい。それでも、改めて突き付けられると心に来るものがある。

 どこまで行っても、彼はその人しか見ていなかった。帥父という立場も、解放戦線という組織そのものも、結局彼にとってはどうでもよかったのだ。

 いや、どうでもよかったというのは語弊がある。彼は、それらを嫌ってすらいたのだろう。だって、それを以てしても一滴のコーラルすら救えないから。

 彼にとって、帥父としての自分は独活の大木以上の何者でもなかったのだ。

 そして、フレディは気付いた。自分が心酔してきたドルマヤンというのは、まさにそういう帥父としての姿を纏った偽りのドルマヤンであったことに。

 

『……』

 

 フレディは、目の前の老人に幻滅しようとしている自分がいることに気付いた。身勝手なのは重々理解している。だが、帥父たる彼の内面に触れることこそが自分の生きる意味だったのだ。

 

『…………』

 

 不安そうに怯える老人の姿を幻視する。こんな人間に心酔したんじゃない。裏切られた。見捨ててしまえ。そんな考えが頭を過る。だが、──

 

『わかりました。このリング・フレディ、必ずやレイヴンの力となり、その夢の成就の一助となってみせましょう』

 

「!」

 

──結局、自分はどこまで行ってもこの老人の力になりたいだけなのだろう。たとえそれが報われなかったとしても。

 一度裏切られたが故に、より強くその気持ちを自覚した。

 

『私はいつ何時も、帥父殿の味方です』

 

「ありがとう! ありがとう……!!」

 

 嗚咽の声が響く。それを聞いて、これで良かったのだと安心した。

 勝手に期待して、勝手に失望するとは。そんな人間に誰が心を開くものか。お傍に置いていただけたことすら奇跡と言えよう。

 そうフレディは自嘲する。もう迷わない。それが彼の望みなら、自分はレイヴンの剣となろう。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 ウォッチポイント・アルファは、しばしば宝の山に例えられる。それはもちろん、集積コーラルという特上のお宝があるからでもあるし、それ以外にも数々の封鎖兵器といったお宝が眠っているからでもある。

 故に、通り道に過ぎない深度1~3でも、未だにアーキバスの部隊が調査を続けている。その指揮を取っているのは、V.IV ラスティだったのだが──

 

「なあ、おい! 第四隊長殿を見なかったか?」

 

「いえ、私も見ていません。今日は朝からずっと姿が確認できていません」

 

「なんだと……隊長殿は、どこへ行ってしまわれたのだ……」

 

 現在、深度1~3の調査はストップしていた。その原因は指揮官の失踪。隊員たちから広く慕われた彼の失踪は、彼らに大きな不安を齎していた。

 

「第二隊長閣下の仰っていた噂は、本当だったのでしょうか? あの、第四隊長殿が裏切り者だという──」

 

「そんなわけあるか! あんなもの、大方第四隊長殿の人気に嫉妬したあのクズが広めたデマに違いない!」

 

 ラスティの人心掌握は完璧であった。嫌味な上司と親身になってくれる兄貴分。どちらが信頼されるかなど、言うまでもない。

 たとえ、真実を語っているのが嫌味な上司の方だったとしても。

 だから彼らは決して気付かない。彼らの慕う隊長は、既に彼らを捨てて元の鞘に戻っていることなど。

 

「……これが、この機体こそが……」

 

 中央氷原某所、エルカノの工廠に、彼はいた。彼が見上げているのは、彼の新たなる力。その肩には、口枷の外れた狼が印字されている。

 

「レイヴン……次は味方同士だが──」

 

 集積コーラルを巡るこの戦いで、解放戦線はレイヴンに味方することを選んだ。つまり、自分はまた再び彼の戦友として戦うことになる。

 それはもちろん、嬉しいことだ。心通わせた戦友(親友)と、同じ志のもと戦場に立てるのだから。

 だが、それと同時に──

 

「──それが終わった暁には、もう一度……!」

 

 自分でも女々しいことだと、ラスティは恥じる。一度ならず二度までも、負けたというのに。完璧に格付けは済んでしまっているはずなのに。

 だけど、それでも。叶うのなら、もう一度。いや、彼を超えるその日まで何度でも。挑みたいという心を、ラスティは抑えられない。

 

「……全く、前はこんなんじゃなかったのになあ」

 

 いつの間にか、それ程までにレイヴンに心惹かれている。こんな気持ちになったのは初めてであった。

 

「行こう、スティールヘイズ・オルトゥス。君の力は、きっと必要だ。私にも、そして彼にも」

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

「ですから、何度も申し上げているように戦力が圧倒的に足りていないのです! 即時本社での封鎖兵器の増産、及び輸送を求めます!」

 

『むう……』

 

 モニターに向かって、眼鏡をかけた細身の男が怒鳴る。

 

『だが、スネイル君。集積コーラルに王手をかけたのではなかったのかね? そこから更に兵器の増産、しかも封鎖兵器などと……本社が封鎖機構に目を付けられでもしたら、どうすると言うんだね?』

 

 アーキバス上層部は、自分たちが封鎖機構によって直接害される可能性を恐れていた。

 現在ルビコンにおけるアーキバス勢力の封鎖機構に対する狼藉は、前線部隊の独断によるものということにされていた。そういう()()が為されていた。

 だから封鎖機構はアーキバス本社に直接干渉することは不可能であり、現場で対症療法に奔走せざるを得なかったのだ。

 しかし、本社で封鎖兵器を増産してしまったら、その前提は崩れる。それは、封鎖機構に対する明確な反逆行為だ。アーキバス全体が、封鎖機構の敵と捉えられかねない。

 上層部としては、直接襲撃されるような選択肢など、()()()()選ぶはずがない。だが、今は状況が違う。

 

「独立傭兵レイヴン」

 

『『『『『!!』』』』』

 

 その名を口にするだけで、上層部たちは戦慄する。

 

「奴は、今は我々に従順なフリをして調査に協力してくれています。しかし、過去の達成依頼から考えて、奴が裏切るのは確実。そしてそのタイミングは、集積コーラルの位置が割れた今この瞬間であると予想されます」

 

『……』

 

 スネイルの頭脳の明晰さは、上層部もよく知っている。そんな彼から語られた予測を、どうして疑えようか。

 

「また、彼は解放戦線と深い繋がりも持っています。彼の裏切りと同時に、解放戦線が一斉蜂起する恐れも拭えません。現状の戦力で、レイヴンと解放戦線を同時に相手取れると思われますか?」

 

『…………』

 

 スネイルの指摘に、上層部は黙るしかない。レイヴンは企業の最高戦力(V.I フロイト)すら退けた化け物だ。

 そして解放戦線は、企業勢力相手に度々勝利を収めており、ベリウス地方はほぼ完全に平定しかけているという。単なる現地勢力と侮ることは、決してできなかった。

 

「万一ルビコンでアーキバスが敗北すれば、次に狙われるのはあなた方である可能性もあるのです。特にレイヴンは表向き独立傭兵。企業本社に襲撃をかけたとしても、いくらでも誤魔化しが効く立場にいる」

 

『そ、そんなことが……』

 

 目の前の危機が対岸の火事でないことを諭され、上層部の顔色が青くなる。スネイルの言うことは飽くまでも一つの可能性でしかなかったが、その語り口には真に迫るものがあった。

 

「最早これは遠い辺境の惑星の問題ではないのです。長期的な安全を確保するためにも、どうか封鎖兵器の自社生産について御一考を!」

 

『わ、わかった! 君がそこまで言うのなら、封鎖兵器をこちらで生産しよう! そ、その代わり、確実に集積コーラルを確保してくれたまえ!』

 

「勿論です」

 

 やってることは実質的に脅迫だが、有無を言わせぬ口調でそれを押し通す。

 とにかく、主張は通った。これで問題なく集積コーラルの掌握を──

 

『そ、それと、良かったらでいい! あのレイヴンを再教育できないか!? アレを味方にできれば、我々は安泰だ!』

 

「……いいでしょう。このスネイルにお任せください」

 

 スネイルは内心舌打ちをする。上層部の言う「良かったらでいい」は、「絶対やれ」という意味だ。

 あれだけのことを言われて、尚も危機感の足りない上層部には呆れる他ない。

 

「では、今回の定期報告を終了させていただきます。くれぐれも、生産の件はよろしくお願いします」

 

『あ、ああ! そちらこそ、集積コーラルとレイヴンは頼んだぞ! スネイル君!』

 

 モニターが切れる。切れるや否や、スネイルは机を叩いた。

 

「頭の悪いゴミどもめ! 何が駄犬の再教育だ! あんなものを生かしておいて、どういう結果になるか想像がつかないのか!?」

 

 もう一度机を叩く。気分は晴れない。

 

「自分の身が安全な内は高圧的に接しておいて、いざ危なくなったら媚び諂うとはな! 豚にも劣る低能どもが!」

 

 『壁』で失敗した時は、全力で罵倒されたものだった。そんな彼らが、今や震えてこちらの顔色を窺っている。

 その有り様は愉快ではあったが、同時にそんな奴らの命令に逆らえない自分の惨めさを浮き彫りにさせる。

 

「今に見ていろ! 最後に笑うのはこの私だ! 集積コーラルを足掛かりに、いずれはアーキバスそのものを乗っ取ってやる!」

 

 スネイルの頭の中に無数のビジョンが浮かぶ。今、直接コーラルの扱いを決められる立場にあるのは自分だ。

 もし上の阿保どもを無視して、勝手に自分がコーラルの取引を主導してしまったら? その時彼らはどんな顔をするだろうか? そう考えれば、多少溜飲も下がるというものだ。

 結局今主導権を握っているのは、どこまでも自分なのだ。

 

「ゆくゆくは私の意思こそがアーキバスの意思になるのだ! あんな豚どもではなく、私こそがアーキバスとなるのだ!」

 

 アーキバスの全てが、自分の意思一つで思い通りに動いてくれる。それは、どれほどまでに輝かしい未来であろうか。

 自分ならば、あんな無能どもよりも余程上手くアーキバス足り得るはずなのだ。

 

「そうだ! 私が、私こそが企業だ!!!

 

 最後に特大の台パンをかまして、スネイルは大きく息を吐く。肩で息をして、身体を落ち着ける。荒ぶる激情を吐き終えて、清々しい快感に身を委ねる。

 そんな折、突然部屋の扉が開けられた。

 

「おや? どうしたんだ? スネイル。悪いことでもあったか?」

 

「……今一つ増えました。フロイト、入る時は必ずノックをしろと言ったはずです」

 

「ああ、そうだったな。すまん。忘れてた」

 

 まるで悪びれる様子もなくそう口にするフロイトに、スネイルは発散したはずのストレスが再び溜まっていくのを感じた。

 

「元はと言えば全部あなたの責任ですからね? あなたが『壁』でレイヴンを殺せていれば、私はこんな苦労をする必要はなかった」

 

「それはすまなかった。今なら彼にも勝てるから、許してくれ」

 

 やはりフロイトに悪びれる様子はなく、益々苛つくスネイル。

 だが、目の前の男こそがヴェスパー最高戦力なのだ。あまり怒りをぶつけることもできない。

 イライラは溜まる一方だ。

 

「ところでスネイル、このログを見てくれないか? ほら、俺もついに壁蹴りができるように──」

 

「そんなどうでもいい報告を、いちいち私にしないで頂けます!? 見ての通り私は忙しいのですよ!? あなたのお遊びに付き合ってる暇などこれっぽっちも無いんですからね!?」

 

「あー……すまない」

 

 初めてフロイトが悪びれた。歴史的快挙であった。

 一応彼としても、スネイルのお蔭で好き放題暴れられているという意識はあるのだ。だから、ここまで荒れてるスネイルの姿に思うところが無いわけではないのだ。

 

「えーっと、その……これからは、少しは真面目に命令も聞くから、機嫌を――」

 

「それを言うのが!! 三年は遅いと思わないんですか!? 思わないでしょうねえ!! あなたなら!!」

 

 取り付く島もないとはこのことか。恐らく、今のスネイル相手では何を言ったところで火に油を注ぐ結果にしかならないだろう。

 だが、この男にそんなことを察せられるだけの対人経験があるかというと、否。生まれてこの方強くなること以外に興味の無い男が、暫く放っておくなどという対応ができるはずもない。

 故に、彼は火に油を注ぐ。

 

「お、落ち着いてくれ。そうだ。俺がレイヴンを()()()、君の仕事も――」

 

「駄犬をぉ、殺すぅ!? そんなに貴様は私の昇進の道を絶ちたいのかぁ!!?」

 

「え、ちょ――」

 

 スネイルがフロイトの裾に掴みかかり、そのまま持ち上げる。宙に浮かされるという初めての経験に、フロイトは目を白黒させることしかできない。

 

「す、スネイル! く、首が! 絞まってる! し、死ぬ!」

 

「強化人間がそんな簡単に死ぬわけないでしょう!? あなたそれすら知らずに強化人間になったのですか!?」

 

 ACを伴わない肉弾戦の場合、強化人間歴が長いスネイルに分がある。つまり、まだ身体を使いこなせていないフロイトに勝てる道理など存在しなかった。

 

「よくよく考えたら全部あなたのせいじゃないか! 少しは反省しろ!」

 

「あ゛っ、ズネイル゛ッ、裾づがんだまま振り回すのはや゛め゛っ、流石にじぬ゛っ」

 

 強化人間歴の違いによる身体能力差故か。あるいは、スネイルの溜め込んできた凄まじい量の怒りが為せる技か。

 とにかく、スネイルはフロイトの裾を掴んだまま大回転し始め、窒息と遠心力の合わせ技で彼を死の淵へと追いやっていた。生身の頃からACの超機動に耐えてきた強化人間すら死の淵に追い込むと書けば、スネイルがどれほどの速度で回転しているかがわかるだろう。

 

「たかが一個人風情が!!! 強さしか取り柄のない人格破綻者が!!! この私に!!! 企業に逆らうなぁぁぁあああ!!!」

 

「うおおおぉぉぉ!!!???」

 

 全力全開のスイングの後、スネイルはフロイトを投げた。

 一応最高戦力を傷つけてはいけないという理性はギリギリ働いたようで、フロイトは柔らかいソファーに向けて投げ飛ばされた。

 ソファーに顔から突っ込んだフロイトに対して、スネイルは一切の容赦無く告げる。

 

「ハァ、ハァ……フロイト、あなたが強化人間の身体に慣れるまで、実戦は禁止とさせて頂きます」

 

「そ、そんな殺生な!?」

 

「あなた私に楽をさせようという気はないのですか!? これからも前線で暴れていたいのなら、さっさとその身体の使い方を覚えることです! いいですね!」

 

「は、はい……」

 

 あまりの剣幕に、逆らうなどという選択肢は存在しなかった。フロイトはソファの上でションボリと項垂れており、そんな彼を無視してスネイルは部屋を後にした。

 

「駄犬を生きたまま捕まえる……難しいオーダーですが……」

 

 歩きながら考える。どうすればあの忌々しい駄犬を再教育センター送りにできるのか。元からわかっていたことだが、あのアホ(フロイト)は使えない。残された手駒だけで、どう盤面を詰めるべきか。

 

「この私にかかれば――」

 

 無数の案が、浮かんでは消えていく。ヴェスパー内では勿論のこと、全宇宙でも指折りの屈指の頭脳をフル回転させて、駄犬を捉える網を生み出していく。

 見たところ、集積コーラルのある技研都市は、隠れる場所もかなり多い。それに、あの様子なら野良の技研兵器も相当数残っているだろう。それらや残りのヴェスパーをぶつけ、消耗させる。そして、最も無防備になる瞬間、即ち最奥部に到達した瞬間に奇襲をかければ――

 

「――不可能などない。私はヴェスパー、アーキバスです」

 

 勝利の方程式を胸に、そうスネイルは呟いた。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

「いよいよか……」

 

 部屋の中で、621は独り言つ。人とコーラルの共生。その手段となるコーラルエンボディ。それを為すためには、集積コーラルに到達することが絶対条件となる。

 やることは一度目、二度目と同じ。だが、その意味合いは大きく異なっている。鮮明に描かれた、輝かしい未来という絵図。それを実現するための戦いが、これから始まるのだ。

 そう思うと、俄然やる気も湧いてくるというもの。

 

「アーキバスが調査隊を送り込もうとしているのは三度目までと同じ。でもそこに五花海はいない。相手はメーテルリンク一人」

 

 ウォルターが入手した情報を、タブレットで確認していく。万に一つも自分が失敗するとは思えないが、それでも戦場に出る以上は慎重になるべきだ。敵を知り、己を知れば何とやらというやつである。

 

「表面上スネイルが動いている形跡はないけど……どうせアイツのことだ。絶対裏で動いてる」

 

 思い返すのは一度目と二度目でのミッション。そこで621はスネイルの策謀に嵌り、虜囚となった。

 だが、三度目でスネイルの潜伏場所を知った。業腹だが、オールマインドのお蔭でスネイル相手に先手を取れるようになったのだ。

 

「今度こそ、俺の手でウォルターを守る」

 

 三度も生きて、三度とも達成できなかった絵空事。それを今、現実にする手札が揃っている。

 

「スネイル……お前だけは、この手で……」

 

 どす黒い怨嗟の声が、621から零れ落ちる。かの鬼畜外道は、自分を捕らえるだけでは飽き足らず、ウォルターまで捕らえて非道な扱いを施したという。もはや一片の慈悲すら湧き上がらない。

 これまで彼を直接殺したことは二回あるが、()()()()()で満足できるはずがない。あの男は絶対に殺し尽くさねばならない。あれが生きていることなど、許されてはいけないのだ。

 

「精々策士気取りで待っていろ。折角用意した策がなんの役にも立たない絶望を、お前に味わわせてやる」

 

 燻る怨嗟の炎を消す方法は、ない。ただ一つを除いて。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

「エア、少しいいか?」

 

「はい? どうしましたか? ウォルター」

 

 621が一人部屋に籠ってミッションについて考えていた頃、ウォルターはエアを呼んでいた。

 

「見せたいものがある。ついて来てくれ」

 

「わかりました」

 

 そうして二人は歩き始めた。向かう先はいつものガレージ……の、さらに奥。鎮座しているLEAPER4を横目に、普段は立ち入らないガレージの深部まで歩いていく。

 

「ここだ」

 

「! この機体は……」

 

 LEAPER4の隣に立っている、一体の巨人。それは、エアも良く知るものであった。

 

E()C()H()O()……」

 

「そうだ。お前が普段シミュレーターで使っている機体そのものだ」

 

 全身EPHEMERAフレームの、真っ白なAC。シミュレーターの中だけの存在であったはずのそれが、今二人の目の前にある。

 

「いつ621の許可が下りてもいいよう、先に組んでおいた。あとはあいつさえ納得させられれば、お前はいつでも戦場に出られる」

 

「ウォルター……本当に、ありがとうございます」

 

 エアは感謝した。ずっと前から夢見ていた、621と共に戦場に立つという展望。それが今、実現しようとしているのだから。

 

「頑張ってくれ。俺から言えることは、それだけだ」

 

「いえ、十分です。いつか必ずあの人に認めてもらって、彼の隣に立って見せます!」

 

「その意気だ。期待している」

 

 決意の籠った声で宣言するエアを、ウォルターは激励する。621と共に戦場へ赴けるかどうかは、結局彼女の努力次第なのだから。

 ただまあ――

 

「……フッ」

 

 意気揚々とシミュレーターに走るエアの後ろ姿を見て、自然と笑みが零れる。この分なら、きっとそう遠くないうちに621も認めるだろう。

 

「さて、俺の仕事の方も終わらせなければな……」

 

 エアが出ていったのを確認してから、ウォルターはガレージのさらに奥へと進む。そこは一見何もない行き止まりにしか見えない。しかし、ウォルターが壁の一部を押し込むと、そこが開いてキーパッドが出現した。

 

「……」

 

 慣れた手つきで番号を入力していく。かれこれ十数秒程入力し続けて、そして最後の一桁を入力し終える。すると、壁が開いて、隠し部屋への道が開いた。

 ウォルターはその先へと進む。そこにあるのは、真紅の巨人。ウォルターはそれを見上げる。

 

「ナガイさん……」

 

 呟くのは、男の名前。碌に親らしいことをしてくれなかった実の親に代わり、殆ど親に等しい働きをしてくれた恩人。

 その人が遺してくれた力を前に、ウォルターは想いを馳せる。

 

「破綻の回避は、きっと達成されます。当初の予定とはだいぶ違う形になりましたが、でもこの方がいいでしょう?」

 

 虚空へと、ただ語りかける。天国にいるであろうあの人に、届いていることを祈って。

 いや、あの人は間違いなく自分のことを地獄行きだと思い込んでいるはずなので、ひょっとしたら彼の行先はそっちなのかもしれないが。だが、閻魔という奴がいるのなら、きっとあの人の置かれた立場を理解して天国に送ってくれているはずだ。

 そんならしくもない感傷的な思考に、ウォルターは自嘲した。

 

「これももう、必要ないのかもしれませんね……」

 

 目の前の紅い巨人は、()()()()()()()ための手段の一つであった。だがそれも、今の状況では無用の長物でしかない。だって、もう火を付ける必要はないのだから。

 

「……これが終わったら、俺はどう生きていくべきなんでしょうか?」

 

 投げかけられた問いに答えてくれるものは、当然いない。

 生まれてこの方ウォルターは、これからなどというものは全く考えたことがなかった。何故なら、最後にはこの星に火を付けて死ぬものだとばかり思っていたから。

 しかし、状況は変わった。火を付けなくても良くなった。そうして初めて、ウォルターはこれからを考えなければいけないことに気付いた。

 

「俺は破綻を回避するために、多くのものを犠牲にしてきました。そんな俺がこれからを生きるなんてことが、あってもいいのでしょうか?」

 

 アイビスの火の渦中、あの人に逃がされてから、ずっとその遺志の成就だけを目的に生きてきた。その日々も、漸く終わる。

 それがウォルターに何を齎すのか。本人すら、それはわからない。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

「おい! いつになったらその合流地点とやらに着くんだよ!」

 

「もう少しですよ、イグアス君。短気は損気。もう少し心に余裕を持ちなさいな」

 

「てめえ、このACが全損してる状況でよくそんな呑気なことが言えたもんだな!?」

 

「イグアス先輩! どうか落ち着いて! 騒いでどうにかなる状況ではありません! 五花海先輩も、煽るようなことを言うのは控えてください!」

 

 雪原を全力疾走するトレーラーの群れ。その中の一台では、三人の男による愉快な遣り取りが繰り広げられていた。

 このトレーラーの群れは、ウォッチポイント・アルファで敗走したレッドガンたちであった。三度目までの世界線とは違い、深度1での戦いでラスティを撤退に追い込んだ彼らは、辛くもウォッチポイント・アルファからの脱出に成功していた。

 しかし、これまでの戦いでACを含む兵器類を殆ど喪失した彼らにもはや戦う力は残っておらず、今は五花海に言われるがままアーキバスからの逃亡を図っているところであった。

 

「しっかし、本当にファーロンの奴らは俺たちを受け容れてくれんのか? ミシガンの野郎の元鞘とは言え、今はベイラムの傘下だろ?」

 

「当然受け容れますよ、彼らはね。何せファーロンは、傘下となった今でも裏ではずっとベイラムと火花を散らしてきましたからね。互いの寝首を搔く関係なのですよ、あの二社は」

 

 ベイラムとファーロンは、元々は敵同士である。現在協力関係にあるのも、木星戦争で両社が講和を結んだから。その講和とて、ベイラム優勢の末ファーロンに不利な条件で結ばれたもの。当然、ファーロンは相応の不満を抱くことになる。

 

「今回のベイラムの失態は、彼らを出し抜く良い機会と言えるでしょう。実際、ベイラムの旗色が悪くなってから、ファーロンは内緒で解放戦線に出資したりもしてますしねえ。コーラル云々の前に、ベイラムを追い落としたいという意思が垣間見えてます」

 

 ファーロンとしては、勿論あわよくばコーラルも手に入れたいと思っているが、それ以上にベイラムを弱体化させることこそが最も重要なのだ。

 

「なので、彼らは喜んで我々を受け容れるでしょう。ベイラムに不満を持つ戦力なんて、なんぼ有ったっていいのですから」

 

 ベイラムの内情を知り、実力も申し分ない。そして何より、ベイラムに不満を抱えている。ファーロンにとって、今のレッドガンは喉から手が出るほど欲しい人材なのだ。

 

「まあ、心配はいりません。そもそも私は、『壁』の時点でベイラムの敗北を予測し、方々に粉をかけていましたので」

 

「そんなに早くからですか!?」

 

「……本っ当に抜かりがねえな、てめえは」

 

「誉め言葉と受け取っておきましょう。まあ、そういうことなので、ファーロンとの連絡はもうついているのです」

 

 実を言うと五花海は、どう転んでも生き延びられるようほぼ全ての陣営に粉をかけてたりするのだが。しかし、三度目までとは違いウォッチポイント・アルファを脱出している以上、色々胡散臭いアーキバスよりも、ミシガンの古巣であるファーロンに身を寄せるのは当然の判断であった。

 

「ほら、見えましたよ。もうファーロンの船団も来てくれています」

 

 やがてトレーラーは、廃棄された宇宙港へと到着した。そこにはファーロンの船が多数停泊しており、五花海の手回しが上手くいっていたことを示していた。

 

「良かった……これで総長を安全な場所で治療させてあげられる……!」

 

「その通りです、レッド君。では、さっさと乗り込みましょう」

 

 そして五花海主導で人員を誘導し、船に乗せていく。イグアスも一応隊長であるので、五花海の隣で誘導を手伝うこととなった。

 

「はあ……遂にこのクソみてえな星ともオサラバか」

 

 しみじみと呟く。思えば、この星に来てから色々なことがあった。たくさんの仲間たちが死んでいった。一番の親友も死んだ。本当に散々な星だった。

 

「マジでクソだったな……ここでの仕事は」

 

 特にクソだったのは、あのアイスワーム戦か。何が悲しくて憎き野良犬と協働戦線など張らなければいけないのだ。

 

「本当に……クソだよ……」

 

 この星を出れば、もう野良犬の顔を見なくて済む。そう考えれば、愉快な気分になるはずなのに。なのに、どうしてこんなにも、心がざわついているのだろうか。

 

「おやおや、ご不満そうな顔をしてますねえ」

 

「……はっ倒すぞ」

 

 いつの間にか傍でニヤニヤしていた五花海に、イグアスは凄む。だが、迷いと葛藤を抱えた心から放たれる凄みは、いつものそれより迫力が数十分の一に落ちていた。

 

「決着付けたいんでしょう? あの鴉と」

 

「……決着なら付いてるさ。俺は負けた。もう一度やったって同じことだろ」

 

「何を言いますか。勝負は時の運と言いますでしょう? 僅かな機微ですら、時には勝敗そのものを左右してしまう。二度目も同じ結果になるとは、私は思いませんけどね?」

 

「……何が言いてえ」

 

 相変わらずにやけ顔をやめない五花海に、若干苛ついた口調でイグアスが問う。

 

「何って、そりゃあ……()()()()()()()()()()()()と言いたいのです」

 

「っ!」

 

 イグアスは言葉に詰まる。図星だった。621との戦いに、まだ満足しきれていない自分がいた。

 

「だったら何だ! もう一度アイツに挑戦しろってか!? ACもねえのに、どうやって――!」

 

「イグアス君、タブレットをご覧なさい」

 

「はぁ? 急に何を――」

 

 言われるがままにタブレットを開くイグアス。その画面に表示された()()を見たイグアスは、驚愕と疑問で目を見開いた。

 

「な!? なんなんだよ、この大金!? 一体何のために!?」

 

「これでACは簡単に買えるでしょう?」

 

 タブレットに表示された通知。それは、五花海からイグアスへの金の振込。その金額、何と数百億COAM。これだけの大金があれば、好きなACを一機組むくらいは余裕であろう。

 

「最悪の場合はこの金を元手にして、アーキバスやら解放戦線やらに身売りするつもりだったのですが。もう必要なくなりましたので」

 

 何でもないことのようにサラッと話す五花海。安全を確保できた今、彼にとってこの程度の大金は屁でもないらしい。

 

「勘違いなさらぬように。これは飽くまでも()()です。あなたなら将来この程度の金額くらい容易く返せようになると踏んでの、言わば先行投資という奴です」

 

「五花海、てめえ……」

 

「いつか百倍にして返してくださいね?」

 

「てめえ! クソ暴利じゃねえか!」

 

「ハハハ、冗談ですよ。利子は付けません」

 

 吠えるイグアスを、五花海はなだめる。実際、五花海はイグアスに期待していた。アイスワームを経て覚醒した彼ならば、強豪と名高いラスティやフロイトは勿論のこと、あの独立傭兵レイヴンすら超えられる。五花海は、そう本気で信じていた。

 だから、彼は投資する。これは飽くまで未来の利益の為だと自分に言い聞かせて。決して彼の夢を応援したいなどという理由ではないのだと言い聞かせて。

 

「なのでイグアス君。これは一方的な施しなどではなく、適正な取引なのです。ですから、感謝の必要は――」

 

「ありがとよ」

 

「――必要ないと、言ってるじゃないですか」

 

「しなきゃ気が収まらねえんだよ」

 

 五花海の言葉を一方的に遮って、イグアスは感謝の言葉を述べた。

 

「まあ、精々生き残ってくださいよ。お金を返すまでは、ね」

 

「ああ。金はいつか百倍にして返してやるさ。それまで精々首を洗って待ってろ」

 

「だから利子は付けないって言ってるでしょうに」

 

 お互い憎まれ口を叩き合い、そして別れる。飽くまでもこれはビジネスなのだと、言外に宣言して。

 そうして五花海は船に乗り、イグアスは再びトレーラーに乗り込む。それぞれの行くべき場所に、向かっていく。

 

「イグアス先輩! 何してるのですか! この星に残るつもりなのですか!?」

 

「んだよ、レッド。見りゃあ分かんだろ」

 

「そうですか……頑張ってください! レッドガン一同、応援しています!」

 

「「「「「イグアス隊長! ご武運を!」」」」」

 

「お、おう」

 

 レッドと、まだ船に乗り込んでいないレッドガン隊員が、一斉にイグアスに向けて敬礼する。見れば、船に乗り込んだ隊員も、船の窓からこちらに向けて敬礼している。

 隊員たちのまさかの行動に多少引いたイグアスだったが、しかし悪い気はしなかった。

 

「てめえらぁ!!!」

 

 だから、応えねばなるまい。こんな自分に期待してくれているみんなに。

 

「野良犬と決着付けに行く!!! 向こうで結果を楽しみに待っとけぇ!!!」

 

「「「「「了解です!」」」」」

 

 そしてイグアスは、トレーラーを走らせた。清々しい気分であった。声援を背に、アクセルに力を入れる。遠く小さくなっていく彼らの声が惜しい。

 だが、それでも皆の前で宣言したのだ。決着を付けると。

 だから、イグアスは振り返らない。この星でやり残したことを、今こそ片付ける時だ。

 

「全く……クソだぜ、この星。間違いなくクソだが……まあ、悪かねえ」

 

 目指すは市場。まずはACを手に入れる。話はそれからだ。

 




インビンシブル・ラミー
 アセン変えただけでこんなに強くなるとは。死を恐れないBASHOチェーンソーが突っ込んでくるのは、冷静に考えて割とクソゲー。

・ブラッドスタンプ
 フレームをBASHOに変えて両肩にオービットを載せたマッドスタンプ。実際に使ってみた感想としては、思ったよりも強い。オービットがスタッガー取りにも火力向上にも優秀で、そこからチェーンソーに繋げば大体のACは一撃死する。使いこなせればマジで大物喰いもワンチャンあるかもしれない。

インデックス・ダナム
 ラミーの外付け強化パーツ。なんかいつの間にかラミーと仲良くなってる。腕前の無さは、ラミーと害悪戦法でカバー。

・インフェルノピカクス
 名前の割にアセンがあまりにもみみっちいAC。実際に使えばわかるが、ガチタンスクトゥムシールド投射は笑っちゃうほどにカス。火力が死んでるので耐久以外は厳しいが、軽量AC相手なら右手のトリガーを引いてるだけで勝てるくらいにはカス。

リトル・ツィイー
 多分本作で一番原作から腕前が引き上げられた人。ドルマヤンリスペクトな理想的BASHOムーブ。

・ユエユー弐式
 BASHOフレームを活かすことと、汎用性を確保することの両立を目指した、バランス型AC。実際に使ってみた感想は……あれ? これ上記二機よりも使いづらくね? やっぱりACは尖ってる方が使いやすいみたいなところある。
 ただ、対多数戦では明らかに上記二機より使いやすい。やはり、対雑魚においてバランスは正義。

チャティ・スティック
 ユエユー弐式の火力支援に就職しました。アセンに変更は無し。

サム・ドルマヤン
 相変わらずパワハラかましてるジジイ。でも本性は、先立たれた想い人を今もずっと追いかけてるピュアピュアジジイなんです。

カーラ
 若作り呼ばわりされるとキレる。最悪死ぬ。

リング・フレディ
 ドルマヤン全肯定お兄さん。621の支援をすることを決意。コイツドルマヤンに劣らずピュアなのでは?

V.IV ラスティ
 どう考えてもスネイルより部下からの信頼が厚そうな男。まあ戦友なら人心掌握くらい余裕っしょ。それはそれとして621に脳焼かれすぎじゃないですかねえ……。

V.II スネイル
 どう考えてもアーキバスで一番真面目に働いているのは彼なのに、誰からも信頼されてない可哀想な男。でも残念でもないし当然。スネイル君可愛いね♡ じゃあ死の運命を受け入れて♡

V.I フロイト
 久方ぶりの登場が、まさか投げられることとは思いもしなかったでしょう。強化人間の身体に慣れる必要があるので、まだ前線には出ません。

621
 周回チートを使ってスネイル殺害に王手をかけた鴉。なんてことだ、もう(スネイルは)助からないゾ☆

エア
 ついに戦闘用ボディをもらってご満悦。遠くないうちに621と肩を並べて戦えるかも?

ウォルター
 HALの前で決意表明。当然のように隠し持っていました。38話も続けておいて、今話になってようやく前を向き始めてくれたような気がしないでもない。

G5 イグアス
 安全にこの地獄を脱出する手段はあったのに、まさか(当然)の残留を選んだ男。まずはACを確保して、それから動きます。

G3 五花海
 まさか彼がここまでいいキャラになるとは、この李白の目を以てしても(ry いろいろな意味で物語を動かすのに便利過ぎた。でも、そんな彼も一足先にルビコンを離脱。もう本筋に絡むことはないでしょう。

G6 レッド
 同じく離脱。なんだかんだイグアスの残留に理解を示せるいい後輩です。

G1 ミシガン
 意識不明の重体だが、ルビコンからの脱出は果たせました。これから古巣ファーロンでのリハビリ生活が待っていることでしょう。

 ということでチャプター最終ミッション前恒例の幕間でした。なんでこんなに長くなった……? 意味が、わからない……。
 そして前回予告していた通り、次回も幕間になります。内容的に考えて今回ほど長くはならないはずなので、なるべく早く更新したい!
 ちなみに次回の幕間、内容は秘密ですが、ヒントとしてサブタイトルだけ教えてあげましょう。ズバリ、「ある傭兵の見た夢」。ちなみにタイトルは暫定的なものであり、予告なく変更される場合がございます。
 それではまた次回!













































「レイヴン、ミッションの前に一つだけ伝えておきたいことがあります」

「以前頼まれていた()()()()()()()ですが……」

「そう、それです。あのスタンニードルランチャーがどこから来たのかという話です」

「結論から言えば、もともとあったスタンニードルランチャーは全てオールマインド製でした」

「使われている部品のシリアルナンバーが、オールマインドの工廠で使われている形式と一致したのです」

「それと、これは非常に不可解なことなのですが……」

「あれらの武装が製造されたのは、部品のシリアルナンバーから考えて恐らく()()()()()()だと思われるのです」

「スタンニードルランチャーは、対アイスワームのためにアーキバスが開発した武装」

「それを、企業とアイスワームが激突するはるか前に製造しているとは……」

「オールマインドとは、一体何者なのでしょうか……」
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