→ 1 6 0 0 0 字
しかもこれでまだ前半という。なんで?
今回、フロム脳塗れで捏造祭りな自己解釈回になります。正直飛ばしても全然問題ないので、苦手だったらスキップだ!
痛い。頭が痛い。身体が痛い。心が痛い。自分という人間を構成する何もかもが、痛みを訴える。
直近の記憶が曖昧だ。だがこの痛みが、
「よし。良いデータが取れているぞ。これだけ負荷をかけても死なずに耐えてくれるとは、この被験体は相当優秀なようだ」
自分をこんな目に遭わせた目の前の男を、精一杯睨む。だが、奴はそんなことには興味がないのか、俺の憎悪もどこ吹く風な様子であった。
「ふむ。十分にデータも取れたことだし、今日の実験はここまでにしよう。折角の被験体だ。ここで使い潰すには惜しい」
男の目線がこちらに向く。それは、まるで人を人とも思っていない悍ましい目付き。ゾッとするほど冷たい視線に射貫かれて、身体の底から凍え上がる。
さっきまでの憎悪はどこへやら、今は蛇に睨まれた蛙のように、ただこれ以上酷いことをされないよう祈ることしかできない。
「ガードマン、
「ハッ」
プロテクターとヘルメットで身を固めた男が、俺に近づいてくる。俺は逃げようと足掻いたが、実験でボロボロの身体で逃げられるはずもない。
俺はすぐにソイツに捕らえられ、無理矢理引き起こされる。まともに歩けない俺を、ソイツはそのまま引き摺って運んでいった。
◆◆◆◆◆◆
今の俺にとって、独房とは最も安心できる場所だ。ここは狭くて暗くてその上汚いと来ているが、痛くはない。それだけで休むには十分だ。
「やめろ! やめてくれぇ! もう痛いのはいやだぁ!!」
外から叫び声が聞こえてくる。また誰かが実験に連れていかれるようだ。ガードマンに連れていかれまいと、必死に抵抗している。だが、その動きはあまりにも弱弱しい。あの分では、もう長くはないだろう。
「だ、誰か!! 助けてくれ! 助けてくれえええええええええええええええぇぇぇ!!!!」
叫び声が遠のいていく。良かったじゃないか。多分もうすぐ死ねるんだから。この地獄から開放されるんだぞ。
俺を見てみろ。俺の身体は
それに比べれば、死ぬことのなんと穏やかなことか。全く以て羨ましい。
「……いつになったら、死ねることやら」
どれだけ長い間こんな生活を送っているのか。それすらももうわからなくなっている。
一年だろうか。二年だろうか。あるいは、それよりももっと長い間だろうか。ここに連れてこられた人間の大半は、一週間もすれば皆死ねるというのに。俺はいつまで経っても死ねない。なんと不公平なのだろうか。
「
そんなこんな考えているうちに、平穏な時間は終わりを迎える。
ガードマンが独房を開けて入り込み、カビだらけのベッドに横たわっていた俺を無理矢理引き摺り下ろす。
今日も実験か。どこか他人事のように、俺はそう思った。もはや痛みにも慣れた。どうせこの地獄からは逃れられないのだ。ならば、抗うだけ無駄というものだ。
ありもしない希望にすがるよりも、全部すっぱり諦めてしまった方が楽というもの。そんなことを考えながら、俺はガードマンに引き摺られていくのだった。
◆◆◆◆◆◆
「249番! 出ろ! 第一助手殿がお呼びだ!」
またか。今日もか。ああ、憂鬱だ。ガードマンに引き摺られて、実験室に連れてかれる。
「おお! 連れてきてくれたか! やはり
第一助手と呼ばれているその男は、相変わらず背筋が凍る酷薄な笑みを浮かべている。本当に悍ましい。
「では早速実験を始めよう! 今日は
男は俺に無数のコードを繋いでいく。それらが繋がれるたびに痛みが走るが、それももう慣れた。
コードの繋がっている先は謎の機械……はただの中継点でしかなくて、最終的には分厚い強化ガラスの向こう側に佇む
研究者どもが、何故あんなものに惹かれるのか全くわからない。
「よし、オーケー! では、身体を動かしてみてくれ」
男に言われた通りに、身体を動かそうとしてみる。だが、俺の身体はピクリとも動かない。
代わりに、ガラスの向こうでACが動いた。まさに今俺が動かそうとしたそのものの動きで。やはり、今はあれが俺の身体となっているようだ。
自分の感覚が、自分の魂が他の物体に奪われたような感覚。これだけは、何度経験しても慣れない。身体が地に足着いていないという不安感、嫌悪感が俺の心を蝕むのだ。
「素晴らしい! 反応性も追従性も、やはり君が一番だ! これを元に、更なるデータの収集と、そして改良を重ねれば――」
目の前で歓喜する屑を殺してやりたい衝動に駆られるが、すぐに頭を冷やす。だって、それを為す手段はないのだから。
ACで暴れればいい? そんな手をこの俺が試さなかったとでも思うのか? 何度もやったさ。だが、ACとこの部屋を隔てるガラス壁の頑丈さは折り紙付きだった。何度殴っても罅すら入りやしない。
だから、今ではもう諦めている。どうせ俺の一挙手一投足は全部こいつらの掌の上。抗う気力なんて残っているはずがなかった。
「よし! では条件を変えて実験続行だ! 今度は何を試そう? コーラルを脳細胞に直接注入してみるか? いや、折角貴重な被験体だ。そういう危ないのは、まずは余った
コンコンコンコンッ!
相変わらず気色の悪い世迷い事を嬉々としてほざく屑であったが、そんな奴の上機嫌はノックの音によって遮られた。
「誰だ? 私は今実験中で忙しいのだぞ! 来客なぞ――」
屑は、さっきまでの上機嫌を打ち消す程の不機嫌さを見せつける。だが、その不機嫌は続くガードマンの一声で一瞬で霧散した。
「第一助手殿。
「おお! それを早く言わんか! さあ、早く入れてやってくれ!」
今度はさっきにも増して上機嫌になる。忙しい奴だ。しかし、今ガードマンは
だとすると、よっぽど見る目の無い女がいたものだ。何を考えてこんな奴の子供を産んだんだか。金目当てか? それとも顔か? 確かにこの屑は顔だけは整ってやがる。だとしても、こんな奴を伴侶にするなんて見る目が無さ過ぎる。とんだ馬鹿だ。碌な最期を迎えやしないだろう。
そんなどうでもいいことに思いを馳せていると、扉が開かれた。この屑の息子。一体どんな醜悪な子供だろうか。折角だ。その面を拝ませてもらおう。
「お、お父さん……」
「おお、
「う、うん……」
……思ったよりも普通だ。顔立ちこそあの屑と似通っているが、その表情にアイツみたいな残酷さは感じなかった。そこにあったのは、年相応の緊張と恐怖を携えた……いや、この年の子供がこんな顔をするか? こんな、周囲の人間の顔色を窺って、常に機嫌を損ねないようにおどおどするような顔を。この年でこんなに大人しい子供は、見たことが無い。
「お父さん……あの人は……?」
「ああ! あれはね、
「う、うん……凄いね、お父さん……」
何だこれは。俺は何を見せられているのだ? こんなもの、凡そ親子の遣り取りではない。教養のない俺でもそれくらいはわかる。
「お父さん……その人は、大丈夫なの……?」
「なんだウォルター、そんな
「う……」
「大丈夫だウォルター。あれは生物学上人間なだけで、厳密には人間じゃないんだ。いなくなっても誰も心配しない存在なんだよ。そんな奴らを好きに遊ばせておくくらいなら、我々が人類のために役立ててあげた方が絶対にいい。そうは思わないか? ウォルター」
「う、うん……そう、だね。お父さん……」
「そうかそうか! わかってくれるか、ウォルター! それでこそ私の息子だ!」
ウォルターと呼ばれたその子供は、泣きそうな顔で頷いた。可哀そうに。あんな親の元に、まともな感性を持って生まれてしまうとは。そりゃああんな顔もするだろう。
「そうそう! お前に見せたいものがあると言ったな! それはこんなものじゃないぞ! もっと凄いものを見せてやろう! さあ、249番よ! さっきと同じように身体を動かしてくれ!」
なるほど。それで息子を呼んだのか。こんな教育に悪い光景を見せたがるなんて、屑の考えることは本当にわからない。
「……」
ウォルターとやらは、じっと俺を見つめている。その視線に含まれているのは、心配と、そして
誰もが持っている、至極当然な自己防衛感情。それが今は、無性に腹立たしかった。一体誰のせいで俺がこんな目に遭っていると思っているんだ? お前の父親がどれほど罪深い人間なのか、お前は理解しているのか?
していないだろうな。していたら、そんな憐憫の情を俺に向けている余裕などないはずだ。罪人の子め。己の罪深さを自覚しろ。
ガァァァアンッッ!!!
「ひっ!?」
「おお! いつもよりもアグレッシブじゃないか!」
ガァァァアンッッ!!! ガァァァアンッッ!!!
「お、お父さん!! 大丈夫なの!? ここ!!」
「大丈夫だ! 強化ガラスが私たちを守ってくれる!」
拳を叩きつける。何度も、何度も。人間の数十倍のスケールで放たれる殴打は、しかしガラス壁に遮られてこちらに届かない。
だが、轟音と衝撃は確実にこちらに伝わり、ウォルターを怯えさせる。奴のこちらを見る視線が、哀れみのそれから恐怖のそれへと変わる。
そうだ、それでいい。俺たちの怒りを知れ。お前の父親がどれだけの人間に、どれほど凄惨なことをしたと思っている。お前は生まれながらに許されざる罪を背負っているのだ。
だから恐怖しろ。俺たちの怨嗟に怯えながら暮らせ。それがお前の背負うべき咎だ。
ガァンッ!!! ガァンッ!!! ガァンッ!!! ガァンッ!!!
「凄いだろう! コーラルの伝導性を使えば、こんな巨大な機械をまるで生身の人間みたいに動かすこともできるんだ!」
「言ってる場合じゃないよ!? お父さん!! 早く止めさせて!!」
「おお、そうだな。流石にそろそろガラスも限界だ。脳深部コーラル管理デバイス、オフ」
瞬間、ACとの接続が解除され、全身に激痛が走る。
「ぐわっ!!?」
「っ!!」
思わず呻き声を上げてしまう。普段ならこのくらいの痛みなど、なんてこともないはずなのに。ACの操作に集中し過ぎていたようだ。
「凄かっただろう? この技術は、まさにブレイクスルーと言っていい! 実用化すれば、今後あらゆる分野での応用が――!」
「……」
屑が天井を見上げながら講釈を垂れているが、ウォルターの耳には入っていないようだ。ウォルターはじっと俺を見つめている。その視線に、心配の感情を携えて。
俺が呻き声を上げた瞬間。それまで恐怖一色だったはずの奴の視線に、再び心配の色が現れた。溢れ出す恐怖を押しのけて、俺を案じている。
反吐が出る。それで善人ぶってるつもりか? この偽善者が。お前はどこまでいっても加害者だ。決して許されることは無いのだ。
「さあ、ウォルター! じゃあ他の部署も見てみようか! ここには面白いものがいっぱいあるぞお!」
「うん……」
屑に連れられて、ウォルターが部屋を出ていく。その視線は、最後まで俺に注がれていた。
◆◆◆◆◆◆
クソみたいな見世物が終わり、漸く独房に戻れた。何なんだあの子供は。本当にやりづらいったらない。あんなのは二度とごめんだ。
「チッ……屑の息子なら、それらしく振る舞えよ! 何いっちょ前に真人間らしく振る舞おうとしてんだよ!」
やり場のない苛立ちを、格子にぶつける。脚が痛むが、構わず蹴り飛ばす。
いつもだったらガードマンがすっ飛んでくるところだろうが、今はいない。あいつは今、ウォルターに付きっ切りだ。
だから、誰にも止められない。伸び伸びと今日溜めたストレスを解消できる。思う存分格子に八つ当たりできる。
「人を心配してる暇があったら、首でも吊って俺たちに詫びたらどうなんだ!? 罪人の息子が! お前の罪は永遠に――!」
口を閉ざす。気配を感じる。誰かがこの独房に近づいている。ガードマンが戻ってきたのだろうか。
格子越しに外を見やる。近づいてくる足音は小さい。体重は軽い方か? ならば、これはガードマンじゃない。だったら、一体――?
「っ! お前は……!」
「……あ、あの……」
格子の向こうにいたのは、ウォルターだった。奴は俺をじっと見つめたまま、おずおずとこちらを窺っている。
「何の用だ? 目障りだ。さっさと失せろ」
「ご、ごめんなさい……でも僕……」
奴が言いよどむ。が、少しして意を決した表情を見せると、再び口を開いた。どうやら覚悟を決めたらしい。一体何を言うつもりなのか興味がわいたので、黙って続きを待つ。
「……こ、これを……」
「あ?」
格子の隙間から奴が差し入れてきたのは、豪勢な食事だった。恐らくここの職員用の食事。いつも食わされてる豚の餌とは天と地ほどの差がある、まさに
ここに連れてこられる前でさえ、こんな贅沢な食事を目にしたことは無かった。
「ぼ、僕のお父さんが、あなたに酷いことをして……本当に、ごめんなさい……」
「……」
ああ、そうか。こいつは
「ざっけんじゃねえ!! クソガキ!」
「うわっ!?」
差し出された食事を、目の前の善人気取りに投げつけた。上等なスープは奴の服を盛大に汚し、奴の顔にぶつかった食器が衝撃で割れる。
「な、なんで……」
汚され、怪我させられた奴は、逃げるでも罵倒するでもなく、ただ呆然とした様子で立ち竦んでいた。
本当に腹の立つガキだ。自分の施しが受け容れられないなんて、想像すらしていなかったに違いない。どこまで上から目線なんだ。
怒りが頂点に達した俺は、遂に決定的なことを言ってやった。
「なんでもクソもあるか! てめえは謝りたいんじゃねえ! ただ
「っ!! そんな……僕は、ただ……少しでも、あなたが楽に……」
「俺を楽にしたいってんのなら首でも吊っとけ! てめえの存在そのものが目障りなんだよ! さっさと消えろ!」
「う、うう……うわあああぁぁぁ!!!」
奴は泣きながら走り去っていった。いい気味だ。世間知らずなガキにはお似合いの姿だ。
「ケッ……今日は本当にツイてねえ」
湿気たベッドに横たわる。こういう日には、さっさと寝るが一番だ。
◆◆◆◆◆◆
あれから何日たっただろうか。多分一週間くらいか? こんな窓もない独房の中だと、時間感覚なんてものはこれっぽっちも働かなくなる。食事の回数以外で経過時間を知る方法はないのだ。
「……? ガードマンの野郎がいねえ。またあのガキが来たのか? それとも別件か?」
ふと、独房前のガードマンがいつの間にかどこかに行ってることに気が付いた。いつぞやみたいにあのガキの付き添いをやらされてるのか、それとも別の用事で外しているのか。
いや、前者は無いだろうな。前回あれだけ酷い目に遭ったんだ。あれでもう一回ここを訪れる気になるんだったら、アイツはよっぽど考える頭のない馬鹿と言わざるを得ない。奴はそんな馬鹿には見えなかった。
「あの……」
ほら、奴は
「あの……!」
仮に奴がそのレベルの馬鹿だったとして、本当にもう一度ここを訪れていたのだとしても、俺の独房に来ることだけは絶対ないはずだ。何せ、俺は奴に食事を投げつけたのだから。
痛みはあらゆる動物が持つ原始的な危険信号だ。それを無視するのは最早馬鹿という次元を超えている。
「すいません!!」
「うるせえ!! さっきから聞こえてるよ! 大声を出すな! ガキィ!」
俺の現実逃避は、目の前のガキの一喝によって強制的に中断された。
本当になんでここに居やがる。投げ足りなかったとでも言うのか?
「ほら、食事を持ってきました。こんなものであなたの気が楽になるとは思っていませんが、それでも何もしないよりはマシだと思うんです。
どうやら本当に投げ足りなかったらしい。コイツは見た目から受ける印象とは違い、実際はとんだ大馬鹿野郎だったようだ。一週間前に俺に言われたことすら覚えていないのだろうか?
「誰がそんなもん受け取るか! てめえが楽になりたいだけの施しなんて!」
「わかってます。これが、自分が楽になりたいだけの、不純なものだって。でも、それでも――」
先週奴を泣かせた必殺の指摘をもう一度擦ってみるも、全く響いた様子はない。一週間で何があった?
訝しむ俺を余所に、奴は言葉を続けた。
「――
「!」
驚いた。コイツは自分の行いが自己満足でしかないことを自覚した上で、それでも他人を助けたいとほざいているのだ。
どれだけ虫唾の走るガキなんだ、コイツは。奴は善人気取りなんかじゃない。もっとヤバい真性の馬鹿だ。
「だから僕は
ああ、だからコイツは今回
「……食事は、いりますか」
奴が食事を差し入れてきた。迷うことなく、堂々と。一週間前のおずおずとした様子が嘘のようだ。
「わかった。受け取ってやるよ」
「! ありがとうございます!」
仕方がないので、俺は奴の食事を受け容れることにした。俺の返事を聞いたアイツは、年頃の子供らしい純粋な笑みを浮かべてやがる。この程度のことがそんなに嬉しいのか。
奴はワゴンから一枚のトレイを取り出し、格子の隙間から差し入れてきた。トレイには美味そうな食事がいっぱいに乗せられており、嫌でも食欲をそそられる。俺はそれを落とさないよう慎重に受け取り――
「っ!!」
――直後、それを奴に投げつけた。
「ハッ! 素直に受け取ってもらえると思ったのか? 思い上がりも程々にしろよ! クソガキ!」
どうして俺が奴の自己満足を受け容れる必要がある? どれだけ覚悟を決めようが、所詮はガキの綺麗事。どうせ現実を叩きつけられればすぐに瓦解する。
そう思って俺は奴に食事を叩きつけた。今度は衝動に任せず、一番アイツが汚れ、怪我するよう、計算してだ。俺がどれほどお前を憎んでいるかわかったか。そうして、苦痛と拒絶に歪む奴の顔を見てやろうとした俺は――
「……」
「は?」
――期待外れな真顔を前に、間抜けな声を漏らした。またしても服を汚され、怪我させられたというのに。直前まで上げて、そして落とされたというのに。奴は堂々と俺の前に立っていた。
「……わかってます。あなたの憎しみが、この程度で晴れるものじゃないことくらい」
瞳に悲しみを滲ませながら、それでも真顔を崩さない。それは、一体どれほどの覚悟が為せる技で――
「それでも。僕はこれを続けていきたいと思います。……例え、永遠に受け取ってもらえなくても。それが僕の決意……いえ、僕の
「……チッ」
思わず舌打ちをしてしまう。これではまるでこっちが悪者みたいじゃないか。悪者はあの屑の息子であるお前だというのに。本当に居心地の悪いガキだ。
「じゃあ、今日はこれで。他の人たちが待ってますし、あまり時間をかけたらガードマンが戻ってきてしまいますので。恐らく来週にはまた会えると思います」
「……二度と来んな」
それだけ言って、あのクソガキは他の囚人にも食事を配りに行った。大半の囚人は俺と同じように、怒鳴ったり投げたりしていた。
だが、それでもアイツは辛い顔一つ見せなかった。泣き言一つ漏らさなかったのだ。
そうして全員に配り終える頃には、アイツは汚れ塗れ、傷だらけになっていた。それなのに気丈に振る舞って、痛いだろうに重いワゴンを一人で押して帰っていく。
「……」
何故だか俺は奴のそんな姿から目を離せなかった。ただ誰かの助けになりたいと願う一人の子供に、俺たちは寄ってたかって。これじゃあ、まるで俺たちが――
「っ!」
そんなわけあるか。悪いのは全部アイツの方だ。アイツの父親があんなのだからアイツはああいう目に遭ってるんだ。全部アイツ自身の咎だ。俺は、俺たちは悪くない。そのはずだ。
「……?」
ふと、足元に何かが当たる。視線を落とすと、そこに落ちていたのは茶色の固形物。
「これはパンか? 投げたときに零れ落ちたのか……」
トレイごと投げたせいで、知らずパンだけ零れ落ちていたようだ。俺はそれを拾い上げる。独房の床に落ちたパンは砂利や埃まみれで、元の美味そうな見た目は見る影もない。
「……放っておいたらガードマンに見つかった時に、どんなイチャモンつけられるかわかったもんじゃねえしな……」
だから、見つかる前に処分しなければならない。トイレにでも流せば証拠隠滅できるだろうか? いや、万一詰まりでもしたら最悪だ。水が逆流したらこの狭い独房では逃げ場がない。
「……」
一つ方法を思いついた。だが、俺のプライドはそれをしたくないと言っている。投げつけた手前、どうしてそんなことができようか。だが、見つかってガードマンに絞られるくらいなら。結局こうするしかあるまい。
「……あむっ」
できる限り砂利と埃を払い落し、パンに齧り付く。口の中に甘い味が広がった。味のある食事を食べるのなんて、いつぶりだろうか。
「はぐっ、あむっ」
夢中で齧り付く。アイツの持ってきたパンはどこまでも甘く美味しくて、だからこそ僅かにくっついた砂利と埃がどこまでも鬱陶しかった。
「あむっ! あぐ、もぐもぐ!」
ひたすらに貪り続ける。気がついたときにはもうパンは欠片一つ残っていなくて、俺は余計に惨めな気分になった。
◆◆◆◆◆◆
「食事を持ってきました!」
「おお! もうそんな日か!」
「いつもありがとなー! ウォルターの坊ちゃん!」
……あれからアイツは毎週食事を持ってくるようになった。始めは俺と同じように拒絶していた囚人たちも、毎週毎週ずっと持ってこられればいつかは折れる。そしてあの食事に手を付けたが最後、こうして奴のシンパとなってしまう。
俺は嘗て奴を、父親とは似ても似つかない普通の子供と称したが、とんでもない。奴は父親と同類……否、ある意味では父親以上に悪辣なクソガキだ。
「僕にはこんなことしかできませんが……どうか、頑張ってください」
「ありがとねえ、あんたのお蔭で今日も生き延びられそうだよ」
「いつか僕がここの職員になったら、絶対皆さんのこと逃がしますから」
「そりゃあいいぜ! 坊主! その時を楽しみに待ってるよ!」
ほら見ろ。こうしてありもしない希望を振り撒いて、囚人どもの心を容易く掌握してやがる。まだ子供ながら、とんでもない人たらしだ。
「ほら、
「……チッ」
アイツが俺の独房の前に止まる。手にはいつもの美味そうな食事。それを格子の隙間から差し入れてくる。
「っぜえんだよ!!! いい加減諦めろよ!!!」
「っ!」
差し出された食事を、蹴っ飛ばしてやる。飛び散ったスープ類が奴に降りかかる。いい気味だ。
「おい、249番の旦那ァ! そりゃあないだろ!」
「折角ウォルター君がガードマンの目を搔い潜って持って来たってのに、大人げないと思わないの?」
非難轟々だが、知ったことではない。どうして俺がこんな奴の食事を受け取らなくちゃいけない。
馬鹿どもが、こんな小僧に絆されやがって。結局コイツがやってるのは父親の罪から目を逸らすための自己満足に過ぎない。コイツは決して利他的な人間なんかじゃない。どこまでも自分が楽になることしか考えてない利己的な小僧だ。
「てめえを許してなんかやるものか! てめえは決して許されていい奴なんかじゃねえ! てめえなんかが陽の下を歩いていいわけがねえんだよ!」
「!」
「わかったらさっさと失せろ! 目障りだ!」
「……わかりました。でも、来週も食事は持ってきますからね」
この小僧は飽くまでも譲らないらしい。だったらこっちも譲らない。お前の施しなんか受けるものか。
「ウォルター! もうこんな奴気に掛ける必要ないんじゃないか? 本人もこう言ってるし、いいだろ見捨てても?」
「……駄目なんです。僕には、これくらいしかできませんから……」
ああ、全くもって気分が悪い。お前らだってコイツの父親の被害者だろうに。なんでそうやってコイツに味方する? 罪人の子め。いつかその仮面を剥いで、醜い素顔を白日の下に晒してやる。
◆◆◆◆◆◆
「ゴホッ、ゴホッ! ゲェッ! ……ハァ、ハァ……」
「おいアンタ、大丈夫か?」
どこかの独房で壁越しに囚人どもが話している。大方、死にかけの囚人を別の囚人が心配でもしているのだろう。呑気なことだ。
「ゲホッ! ゲホッ!! ……クソッ、俺はもう長くないか……」
「何言ってんだ! 今日はウォルターが来る日なんだぞ! しっかりしろ!」
「そうだったな……最後の晩餐は、豪勢な方がいい……」
「縁起でもないことを言うな! いつかウォルターに出してもらえるその日まで、頑張り続けるんだろう!?」
どいつもこいつもあんな奴に希望を持ちやがって。反吐が出る。人間がそんなに善良になれるわけがなかろうに。日々の実験でそれくらいわからないのか、ここの馬鹿どもは。
「しかし、今日のウォルターさんは来るのが遅いですね。大丈夫なのでしょうか?」
「ああ。いつもならとっくに来てもいいはずだが……それに、職員の様子がいつもより慌ただしい気がするし……何かあったのか?」
そういえばそうだ。さっきから職員や研究員どもがバタバタと行ったり来たりしている。こんなことは今までに無かった。一体何が起きたというのだろうか?
そんな時だった。足音が響いてくる。ガードマンの重苦しいそれとは違う、軽い足音。間違いない。奴が来た。見れば、汗だくで息を切らしながら走ってくる奴の姿があった。
「おお! ウォルター! 今日は食事は持ってないのか? 一体――」
「この星はもうすぐ火に包まれます!! 僕が出すから、みんな逃げてください!!」
「は?」
一体何を言っているんだ、この小僧は。星が火に包まれる? 核でもぶち込まれるのか? こんな辺境の星で? 気でも狂ったのか?
そんな俺の疑念を余所に、奴は有無を言わせず片っ端から独房を開けて回る。本当にどうかしちまったようだ。
「この混乱に乗じて鍵を盗めたのは幸いでした! 脱出路は僕が知ってます! ついて来てください!」
奴は俺含めて全ての囚人を解放し、大声で俺たちを先導する。脱出だと? そんな旨い話があってたまるか! 悪魔の子め! 今度は何を企んでやがる!
そう叫びたい俺であったが、俺以外の囚人どもは疑いもせず奴についていき始めていた。やはり、ここの囚人には馬鹿しかいないらしい。こんな子供に命を預けるなんてどうかしている。
こんな中で一人逆らったとしても、見捨てられるかリンチされるかだけだ。止むを得まい。ここは大人しく流れに従う他ない。
そうして俺たちは、ウォルターに連れられて研究所を走り回る羽目になった。どうやらこの施設は、囚人の逃亡防止のために収容区画と宇宙港を離して建設していたらしい。だから、この星を出るためには全力疾走しなければならない。こっちは毎日のように実験されて身体が痛んでるというのに。
「ウォルター様!? 囚人を引き連れて、一体何を……!?」
「っ! 父さんの命令です! 研究成果を焼失させるわけにはいかないから、彼らを星外に退避させろと言われました!」
「え? でもそんな連絡は――」
「緊急事態だから情報が錯綜しているんです! でも、確かに僕は父さんからそう命じられました! なので通してください!」
「わ、わかりました! どうかお気をつけて!」
運悪くバッタリとガードマンと遭遇しても、コイツは口八丁手八丁で切り抜けやがる。本当に末恐ろしいガキだ。この年にして人を動かす術に目覚め始めているなんて。
「こっちです! 早く!」
やがて宇宙港が見えてきた。コイツの先導が上手かったお蔭で、誰もはぐれずに来ることができた。
……驚いた。まさかコイツが本当に脱出口まで案内してくれるとは。ますます何を考えてるのかわからなくなる。
いや、これはアレか? 恩を着せて後でいいように使ってやろうという魂胆か? そうだ、きっとそうに違いない。じゃなかったらこんな大盤振る舞いするものか。全くもって反吐が出る。
「脱走した囚人を発見した! 宇宙港のすぐ前だ!」
「第一助手殿からの命令だ! 機密保持のため、一人として逃がすな! 最悪射殺許可も下りている!」
「! あとちょっとなのに……!」
後は船に乗るだけ。そのタイミングでガードマンどもが駆けつけてきた。あの様子では第一助手から直接指示を受けているに違いない。つまり、もう誤魔化しは効かないということ。
なるほど。これが狙いだったのか、このガキは。マッチポンプを引き起こして、大人たち相手に点数稼ぎをしようというわけか。本当に悍ましい。
「撃て!」
「待ってください! き、貴重な研究成果なんですよ!? 傷つけちゃ駄目です!」
だとしたら、なんでコイツは俺らとガードマンどもの間に立って腕を広げている? 訳が分からない。
いや、きっとこれは演技だ。最初っから俺たちを売るつもりだったと、そう悟らせないための演技。そう思うと、目の前の光景にも納得がいく。たいした演技力だ。感動的じゃないか。
「ウォルター様! 危険です! そこをどいてください!」
「駄目です! 僕は父さんに彼らを脱出させるよう言われています!」
「そんな話は聞いていません! どうかそこを――ハッ!? もしや、ウォルター様は囚人どもに脅されて……!?」
「今のうちに! みんな、早く船の中に!」
「くっ! 囚人どもが逃げる! だが、人質が居ては……!」
ガキが盾になってくれているお蔭で、ガードマンは俺たちに手を出せない。なんの障害も無く、楽々船を奪い取れる。
この宇宙開発全盛の時代だ。無学な囚人でも、民間用の簡素な宇宙船くらいなら十分動かせる。つまり、この時点で脱出したも同然なのだ。
「クソッ! 数が多すぎてつっかえてやがる! いつになったら出られんだよ!」
囚人の数が多すぎて、一台の船には到底収まりきらない。ガキを疑ってついていくのが遅れた俺は、列の最後尾にいた。だから、ガキを挟んでガードマンに銃を向けられるクソみてえな時間をまだ過ごさなければならない。
「狙撃部隊、位置についたか。発砲はまだだ。合図を待て」
ガードマンどもが嫌に落ち着いてやがるのが気に入らねえ。囚人を逃がしたらあの屑に何をされるかわかったもんじゃねえってのに、どうしてそんなに冷静になれる。
「ウォルター! ありがとな! この恩は絶対忘れないぞ!」
「いつかきっと恩返しさせていただきます! どうかお元気で!」
一台目の船が満員になる。あんなガキを慕って、本当にお気楽な奴らだ。あんなお花畑では、星外に逃げたところで結局最後は野垂死ぬだけだろうに。だったら代わりに俺を先に乗せろよ。その方が有意義だろうが。
そんなことを考えてるうちに囚人とウォルターの別れの挨拶も済んだようで、船の扉がゆっくりと閉じ――
「3……2……1……撃――」
ドガァァァアアアン!!!!
「! なんだ!?」
突然、宇宙港に繋がる通路が爆発した。床から
銃口を気にしなくて良くなったのは有難いが、本当に一体何が起きてやがる?
「そんな!? コーラルがここまで漏れ出してくるなんて! もう猶予は殆ど無い……!?」
ガキが盛大に狼狽えている。コイツの言っていた、「星が火に包まれる」ってのはこのことか? 窓から外を見れば、ここだけじゃなくて研究所全体のあちこちから火が吹き上がってるのが見える。
もしかして、ガキのあの言葉は、冗談じゃなくて本当に――?
「みんな、焦らないで! 僕の計算では、全員が逃げるだけの時間はあります! 押さないで、順番に乗り込んで!」
こんな状況でも、このガキは落ち着いて人員誘導してやがる。本当に恐ろしすぎるガキだ。ここで死んだ方が世のためになるんじゃないか?
そうして一台目の船が飛び立ち、二台目、三台目と次々に埋まっては飛び立ってゆく。その間に火の手はどんどん燃え広がり……いや、この燃え方は
とにかく、空は真っ赤に染まり、開放的なはずの宇宙港にすら熱気が籠っている。さっきから汗が止まらない。屑どもの実験のせいでそういう生理機能は全部弱ってるはずなのに。
……マジで、この星全てが終わろうとしてるようだ。
「五台目も無事出発した! あと残ってるのは……
いつの間にか、俺とコイツ以外は全員脱出したらしい。今や宇宙港にすら火が回り始めていて、もう一刻の猶予すら無いことがわかる。
折角自由になれる機会が目の前にやって来たんだ。こんなところで焼け死んでたまるか。俺はガキに何か言われるまでもなく、さっさと船に乗り込もうとする。
「やっと俺の番かよ。こんなクソみてえな星と心中なんて、死んでも御免だ。さっさと乗り込んで――」
そこで俺が振り返ったのは、本能的な直感が為せた技か。それとも、単なる偶然か。ともかく、俺はそこで振り返った。
そして、視界の端に
バァン!
破裂音が、鳴り響く。焼けた港に。寂れたこの空間に。そして、赤い飛沫が辺りに飛び散る。
「っ!? ウォルター様!? な、なんで……」
「ッ!!! このガキ!! どうして俺を――!!」
奴の小さな身体が目の前で崩れ落ちる。庇ったというのか? 俺を? どうして?
「ガフッ……スッラ、さん……無事、ですか……?」
「ウォルター、てめえ……!」
本当に何を企んでいるのかわからない。何の得があってお前は俺を庇った? 恩を売るにしてもやり過ぎじゃないか?
わからない。頭の中で疑問がグルグルと回り続けている。心が
だって、もし
ドガガァァアン!!! ボガァァアン!!!
「っ!」
近くで繰り返し爆発音が響く。このままじゃここもすぐに炎に呑み込まれる。早く脱出しなければ。
「……」
「……スッ、ラ、さん」
ウォルターを撃ったガードマンは既にこと切れていて、今ここで生きているのは俺と奴だけだ。もう撃たれる心配はない。だから、俺が奴を助けなければ――
「…………」
いや、どうしてこんな奴を助ける必要がある? コイツはあの屑の子供で、ただ自分が楽になりたいだけの偽善者で、俺たちを騙して内心では嘲笑ってるクソガキで――
「………………」
そうだ。ここでコイツを一緒に船に乗せたら、何をされるかわかったもんじゃない。逃げ場の無い閉鎖空間でコイツと二人きりなんて、そんな自殺行為できるはずがない。
「っ!!!」
だから、俺は、船に駆けた。中に入り、扉を閉める。そうだ。これでいい。今ここでコイツを助けたら、今まで警戒してきた自分が間違いだったと認めることになる。
俺は正しい選択をしたはずだ。馬鹿な囚人どもの中で、俺だけが正しい選択をしてきたはずなんだ。だから――
「……あばよ! 小僧! あの世で達者に暮らしやがれ!」
俺は船の扉を閉じた。アイツを置き去りにして。そのままコックピットまで走り込み、適当な星系を目的地にセットして自動操縦をオン。これでいい。これで俺は生き延びられる。
「ハァ……ハァ……これでいいんだ! これで!! いいはずだ!!」
妙に息苦しい。動悸が止まらない。必死に肺に空気を送り込み、息を整える。
船が動き出した。もう安心だ。俺はやったんだ。やってやったんだ。この地獄から逃げ延びて、あの屑の息子に復讐してやったんだ。
「フ、フフ……ひ、ヒヒヒ……」
笑いが零れる。正義は為されたのだ。ざまあみろ。悪魔の子め。
「ハハ……ハハハ……アハハハハ!」
狂ったように、空の船の中で一人笑う。
ああ、そうだ。折角だから、置いてかれて絶望している奴の顔でも拝んでやろう。そう思って俺は扉の方へ戻る。
扉に開けられた小窓から外を覗き込み、そしてすぐに奴を見つけた。奴は重傷を押して身体を起こし、顔をこちらに向けていた。そこに浮かべられた表情は――
「っっ!!?」
――奴は、ただ微笑んでいた。僅かな悲しみと、それ以上の諦観を携えて。こうなってしまうのは当然だと、仕方のないことだと納得し切った顔で。ただ、こちらに微笑んでいた。
それを見た瞬間に、俺は悟った。自分が今何をしてしまったのかを。
「待っ――!!?」
船が加速する。奴を――命の恩人を、置き去りにして。俺に向けられたどこまでも慈悲深い微笑みが、急速に遠くなっていく。もう船は止まらない。止められない。こんなクソみたいな恥知らずを乗せて。
「あ、ああ……」
やがて、船は星を出た。窓越しに、地獄が見える。惑星一つ、丸ごと赤く燃えて。全ての命を焼き尽くさんと、燃え盛っている。
「うわあああああぁぁぁぁぁ!!!」
その場に崩れ落ちた俺は、頭を抱えて叫んだ。有らん限りの後悔を吐き出そうとして。喉が痛む。声帯が切れる。叫ぶ口から血が零れ落ちる。
「ああああああああ!!!」
それでも俺は、叫び続けた。取り返しのつかないことをしてしまった。自分の愚かさをただ呪い続ける。
赤く輝く星に慟哭する。どうして俺は生き残ってしまったんだ。何故置いていかれたのが俺じゃなかったんだ。無限に続く自問自答。だがその答えはただ一つ。
お前のせいだ。
スッラ
確かに同情すべき境遇にはあった。でも、正義感と疑心暗鬼をごっちゃにして、憎むべきでない人を憎み続けた彼を、果たして純粋な被害者と呼べるのだろうか?
……ちなみに彼はまだここから堕ちます。現在の彼から逆算すれば当然なのですが。
ウォルター
親が親だったせいで、この年で艱難辛苦を背負わされた可哀そうな人。でも本番はこれからです。
あ、当然ながら生きてます。
第一助手
書いてて普通に不愉快になった屑。灰になりました。
ということでまさかのスッラ&ウォルター過去編。スッラのあの、間違いなくウォルターに生きていて欲しいけど、それはそれとしてウォルターはいぢめたいみたいなネットリした執着心はどこから来たのかなって考えてたら、こんな話ができあがってしまいました。反省はしてる。でも後悔はしていません。
今回は彼の執着心の、「間違いなくウォルターに生きていて欲しい」部分が生まれる切っ掛けを描いたので、次回は「それはそれとしてウォルターはいぢめたい」部分の誕生秘話(捏造)を書く予定です。しかし、五月病にやられてこんなに投稿が遅くなるとは……。次回こそは早く投稿したいなあ()
痛い。お腹が痛い。銃で撃たれたんだ。それも当然か。
「……」
スッラさんはちゃんと逃げられただろうか。他の囚人たちも無事だろうか。朦朧とする意識の中で考えるのは、そんなことばかり。
「……結局、僕は……許され、なかった、なあ……」
自分のせいで苦しむ人たちに手を差し伸べ続ければ、いつかは許してもらえるんじゃないか。そんな僕の浅はかな考えは、最後の最後で間違いだったと気付かされた。
だったらもうそれでいい。死ぬことが償いになるかはわからないが、このまま僕が焼け死ぬことで彼らの気が晴れるというのなら、それでいい。
「ナガイ、さん……ごめ……なさい」
最後まで僕に生きて欲しいと言ってくれたあの人には、申し訳ないけど。でも、僕だって楽になりたいんだ。あんな人間の息子という業を背負ってまで、生きたいとは思えない。
「……!」
ああ、でも。運命ってやつは、僕を生かそうとしてるらしい。
「ウォルター!」
「……カーラ、さん」
「酷い傷じゃないか! すぐ手当してあげるからね!」
「もう、時間が……あなた一人でも、逃げて……」
「馬鹿言うんじゃないよ! 私はあんたの命をナガイ教授から託されてんだからね!? あんたには絶対に生きてもらうよ!」
やっと楽になれると思ったのに。それともこれこそが僕に課せられた罰なのだろうか。それならば……きっと、生きなければなるまい。