621はACの中にいた。621の五感は強化手術によって大半が死んでいるが、全部が死んでいるというわけではない。僅かに生き残った感覚に、ヘリの振動が伝わってどこか微睡みを誘う。だが今はミッションの直前。眠ることは許されない。
それに次のミッションは彼にとって極めて重大なものであった。
(“多重ダム襲撃”……きっと今回も解放戦線から裏切りの依頼が来るんだろうなあ)
それは、解放戦線の治水拠点であるガリア多重ダムを、ベイラム専属AC部隊レッドガンの隊員二名と共に破壊するというミッションである。621はこのミッションに、レッドガンの補充要員、コールサイン“G13”として参加することになっている。つまり、表向きはAC三機で解放戦線を蹂躙するだけの簡単な仕事だ。
だが、621は知っている。二度目と三度目の生における同ミッションでは、解放戦線からの秘密通信が来た。そして、ベイラムの二倍の報酬を餌に、レッドガン二名の排除を依頼されたのだ。
(俺は、どうするべきか……)
四度目でも、きっと同じことが起きる。そして、ウォルターは間違いなく自分に判断を委ねてくれる。そう621は確信していた。
(結局のところ、俺の最終目標はウォルターとエアが生きたまま破綻を回避すること。その助けになってくれそうなのは……)
四度目になって、いつになく頭を回す。もう三度も間違えているのだ。今度こそ間違えることはできない。
(解放戦線と企業だったら間違いなく解放戦線の方が話が通じるだろうな……やっぱり、解放戦線に味方するべきか)
四度目での方針を決める。今回はできる限り解放戦線の味方をしよう。そう621は決定したのだった。
(……だったら汚染市街のときはやりすぎない方が良かったかな……いや、でも企業からの評判も高くないとコーラル争奪戦には参加できないし……どんな流れになろうとも集積コーラルへの到達は多分必須で、そうなると結局ある程度は企業の力も必要だろうし……)
早くも決定が揺らぎかける。考えて戦うことがこれほどまでに難しいこととは。621は身をもって実感した。
(…………とりあえずダムでは解放戦線側につく! これは決定! それ以降のことはきっとウォルターが何とかしてくれる!)
ひとまず、直近の方針だけは決まったのであった。
◆◆◆◆◆◆
「621、ガリア多重ダムに着いた。準備はいいか?」
言われて今一度アセンブルを確認。
R-ARM UNIT:
L-ARM UNIT:
R-BACK UNIT:
L-BACK UNIT:
HEAD:HC-2000/BC SHADE EYE
CORE:VP-40S
ARMS:VP-46D
LEGS:LG-012 MELANDER C3
BOOSTER:IB-C03B: NGI 001
FCS:FC-008 TALBOT
GENERATOR:VP-20C
完全に対ACを想定したアセンブルであった。事情を知るものが見れば、裏切る気満々であるのが見て取れるだろう。
「『うん。準備できてる』」
「よし。ACを投下する」
ヘリが展開し、621のAC“LEAPER4”が露わになる。ウォルターが最初にくれたAC“LOADER4”にあやかって名づけられたそのACは、大部分を黒色に、一部を赤色に塗装している。621の戦績と合わされば、見るものを圧倒する威容であった。
LEAPER4がヘリから投下され、雪原に落ちる。雪を巻き上げながら真紅のカメラアイを光らせるその姿は、
LEAPER4に続き、二機のACが投下される。レッドガン所属の二名、G4 ヴォルタのタンク型AC“キャノンヘッド”とG5 イグアスの二脚型AC“ヘッドブリンガー”であった。
『メインシステム、戦闘モード起動』
◆◆◆◆◆◆
「これよりベイラムグループ専属AC部隊レッドガンによる作戦行動を開始する。突入しろ! 役立たずども!」
レッドガン総長、G1 ミシガンによる号令と共に、三機のACは動き出した。相手はMTや装甲車。ACならば苦戦すら論外な相手だ。
「野良犬の世話をしろってのか。レッドガンも舐められたものだ」
装甲車を蹴っ飛ばす621に通信が入る。G5 イグアスからだ。その声にはあからさまに侮蔑の色が含まれている。
(コイツ……この後壁越えに失敗して何度も俺に負けることになるくせに、呑気なヤツ)
621は内心イラついた。心が死んでいた一度目の頃はなんとも感じなかった罵倒も、二度目、三度目、四度目と繰り返して、豊かな感受性を取り戻した今では相応に腹が立つものだ。
(でも、まあ――)
621が思い出すのは、三度目の生での最後の戦い。
『俺は……てめえが妬ましかった』
『イラつくぜ……野良犬に……憧れたんだ』
何となく自分の方が上だと感じて、内心ほくそ笑む。
彼は子供であった。好きな人に対してはどこまでも献身的であるが、そうでない人に対してはいっそ冷酷ですらあった。
◆◆◆◆◆◆
特に問題なく一機目、二機目の変電施設を破壊。解放戦線の守りは、AC三機に対しては薄すぎると言わざるを得ない。
「変電施設は残り二機だ。続けるぞ! 役立たずども!」
ミシガンの怒声に従い、ヴォルタとイグアスが三機目に向かう。それぞれ左に見えるダムを越えるルートと、右に見える丘陵を登るルートに分かれて進行した。
「……待て、621。暗号通信が入った」
ウォルターの声を聞いて機体を止める。やっぱり来た。内容も予想がつく。
「独立傭兵レイヴン。我々はルビコン解放戦線だ。単刀直入に言おう。こちらに付き、レッドガン二名を排除してもらいたい」
この声は恐らく解放戦線の実質的指導者であるミドル・フラットウェル。内容は予想通り裏切りの打診。
「報酬はベイラム提示の二倍。色好い返事を期待している」
報酬額まで予想通り。621表情筋が死んでいなければ、彼は今頃苦笑していただろう。
だがそんな思考を一旦隅に追いやり、621は集中し直す。これから起こるのは(四度目の生に限定すれば)今までのミッションとは比較にならない死闘。手練れのAC二機の排除なのだ。生半可な気持ちで為せる仕事ではない。
「……なるほど。ここはお前が決めろ、621」
「『解放戦線に付きたい。それでいいか、ウォルター?』」
念のため一度確認を入れる。返ってきたのは当然了承の言葉。こんな不義理な選択すら尊重してくれる。
(俺は本当に飼い主に恵まれている)
ならば、なるべく飼い主の利益になるような戦いをしよう。レッドガンの二人を無傷で排除すれば、自分の名も売れてウォルターも動きやすくなるか。
アサルトブースト起動。イグアスが通った右ルートを急行する。ヴォルタとイグアスの二人なら、先に狙うのは当然イグアスだ。彼のAC“ヘッドブリンガー”は中量二脚型。肩にシールドこそ装備しているが、それでもヴォルタのAC“キャノンヘッド”と比べれば明らかに耐久力に劣る。合流される前に片付けるのなら、真っ先に狙うべきだろう。
621の視界にヘッドブリンガーが映る。彼は今解放戦線のMTを相手していて、こちらには全く注意を払っていない。殺るなら今だ。
621はまず10連ミサイルを斉射。少し間を置いて連装グレネードを発射。時間差で放たれた誘導弾と榴弾は、その弾速の違いから差を縮めながらヘッドブリンガーへと向かっていく。そして──
ガァァァン!!
「なっ!?」
──ヘッドブリンガーに同時に着弾。その衝撃に
動けなくなったヘッドブリンガーに残りのミサイルも次々に殺到。その耐久力を削っていく。
「てめえ、何しやがる!」
この好機を逃す手はない。LEAPER4はすかさずアサルトブーストを起動、ヘッドブリンガーに急接近しつつ、右手のショットガンを発砲。
スタッガーで耐弾姿勢を取れないヘッドブリンガーの耐久を、散弾の雨がさらに削っていく。だが、ACは頑丈な兵器だ。こうまで撃ち込んでもまだ生きている。だから追撃する。
アサルトブーストの速力を載せてヘッドブリンガーにキック。ヘッドブリンガーは
即座に左手のパルスブレードを起動。ヘッドブリンガーに袈裟斬りを二連。これでもまだ倒れない。ならば右手のショットガンを捨てて、パンチ。再び
ここまでヘッドブリンガーを縫い付けている間に、グレネードのリロードが完了。即座にファイア。二発の榴弾がヘッドブリンガーに炸裂し、ついに耐久限界を迎える。
「クソッ! 野良犬ごときが……!?」
ヘッドブリンガーは火を上げてその場から動かなくなった。戦闘手段を喪失したイグアスは、機体を捨てて脱出。
「てめえ、抱き込まれやがったか!?」
「そう来るか、ハンドラー・ウォルター」
遅れてヴォルタの困惑した声と、怒りを押し殺したミシガンの声が届く。621の早業に漸く理解が追いついたようだ。
「G4! 応戦しろ! G13は貴様らと遊びたくなったようだ!」
ミシガンの怒声を余所に、621は捨てたショットガンを拾いなおし、ヴォルタのいる方角へと向き直る。そしてアサルトブーストを起動。自身の評判を上げてウォルターに報いるためにも、時間はかけたくないのだ。
(イグアスの方は上手くいった。だけど、ヴォルタの方はこうは行かないだろうな。向こうはもう俺の裏切りに気付いている)
相手は自分に対して最大限の警戒をしているに違いない。ならば、ここからは力戦だ。
やがてヴォルタのAC、キャノンヘッドが見えてきた。
「ケッ! 来いよ! 俺はイグアスのようにはいかねえぞ!」
向こうもこちらを認識したようだ。戦意は十分。ならば、後は力こそが全てだ。お互いに戦闘軌道に移る。
(敵ACは左手にショットガン、右肩に分裂ミサイル、左手と左肩にグレネードの大火力構成。下手に足を止めようものなら、一瞬で殺される)
冷静に相手を分析、そして戦術を組み立てる。戦い方は決まった。ならば後は実践するのみ。
まずは
「っ!! てんめえ!! おちょくってんのかあ!?」
激昂したヴォルタは、全ての武装のトリガーを引いた。
ショットガンが、左手と左肩のグレネードが、分裂ミサイルが、一斉に発射される。全てが同じタイミングで撃たれていた。
(狙い通り……これなら避けやすい)
621はクイックブーストを連続で吹かし、難なくそれらを回避する。
そして、タイミングさえわかっていれば、一斉射であろうと回避は容易。故に621には一発たりとも当たりはしない。
(相手の武装は全て単発兵器。一斉射の後はどうしても息切れする)
今やキャノンヘッドの全武装はリロード中。つまり暫くはこちらに弾は飛んでこないということだ。
621はアサルトブーストを起動。キャノンヘッドに急接近する。
「! 舐めるなあ!!」
対するヴォルタも、すかさずアサルトブーストを起動。接近するLEAPER4に対し、カウンター気味に突撃をかまそうとする。
(悪いが、それは想定通りだ)
しかし、621はギリギリでクイックブーストを吹かして回避。ヴォルタほどの腕利きならば、武装がリロード中でも反撃してくる。621はそのような教訓を、二度目の生にてLOADER4の装甲の凹みという形で思い知らされているのだ。二度も同じ間違いは犯さない。
「クソッ! どこに――ぐおっ!?」
ヴォルタの視界から外れつつ、パルスブレードを起動。袈裟斬りにする。さらにショットガンと10連ミサイルによる追撃も加える。
「まだだ! そういつまでも思い通りになると思うなよ!」
ヴォルタは咄嗟にクイックブーストで離脱。そのままドリフトターンでLEAPER4に向き直る。キャノンヘッドの武装のリロードは終わっている。一度痛い目を見た以上、挑発に乗るのも期待できない。状況は悪い。
策を弄したのはウォルターのために最速で撃破したかったから。お互いハンデ無しの正面対決になったとしても、実力は自分が上回る。負けるはずがない。
四度の傭兵人生に裏付けられた621の自信が、命知らずとしか思えない大胆な行動を可能にする。
「タンク相手に正面から来るか! バカがっ!」
621は一切迷うことなく真っすぐ接近。当然、ヴォルタはそんなカモを見逃さない。一切の油断をせず、今度はタイミングをずらしてそれぞれの武装を発射。これならば避けるのは不可能――
「なっ!?」
――普通の傭兵ならば不可能だろう。だが621は避けていた。LEAPER4で地面を蹴り、右へ左へステップを踏む。左右に揺れるLEAPER4に対し、ヴォルタはクリーンヒットさせることができない。
それは、ACを人体のように同調させる強化人間だからこそできる神業。人型兵器が人型である所以だ。どこまでも人間的なステップで、621は前へ前へと避けていく。
そしてパルスブレードの間合いに入った。
「ミシガンの野郎……何を拾ってきやがった!?」
ヴォルタが勝てる道理など、最早無かった。
◆◆◆◆◆◆
「チッ! 機体がいかれやがったか……! 離脱するしかねえ!」
キャノンヘッドが爆発、炎上する。勝敗は決した。
「G4およびG5。レッドガン二名の撃破を確認した」
ミッション完了。緊張の糸が解れる。限界まで酷使していた脳が、急激に冷やされてゆく。どこか心地よいその感覚に任せて、621は背もたれに身体を預けた。
「ミシガン、機体の修理費は俺に回しておけ」
「ふざけた遠足にしてくれたな、ウォルター。授業料の分は差し引いておくぞ」
二人の会話をBGMに、621は機体のコンディションを確認する。APは少しだけ削られている。
(ショットガンは
今日、621は新しい教訓を得た。
621
戦闘中だけIQが跳ね上がるタイプの駄犬。どの勢力に味方するべきか考えてたけど結局わからないからウォルターに任せるぜ!
ウォルター
飼い犬の意思に任せたら大暴れされた人。ハンドラー・ウォルター、その猟犬はやめておけ……
LEAPER4
621はLOADER4をごすずんの初めての贈り物と認識しているので、その名前には結構強い思い入れがあります。なので、今のACもそれにあやかった名前になってます。
四度目の時間遡行者にはピッタリな名前。
G5 イグアス
駄犬に内心で馬鹿にされてた可哀そうな人。不意打ちからのスタッガー延長でワンターンキル。彼の見せ場はまだ先です。
G4 ヴォルタ
多分今までの登場人物の中で一番善戦した人。実際ゲームでも強い。性格的に621の挑発は最初は絶対ひっかかる。
ショットガン拾いなおし
Q.ACVIにそんな機能なかったですよね?
A.AC3SLではできたからセーフ! セーフです!
ということでダム襲撃。四度目ともなれば、あのヴォルタ相手でも圧倒できる621君。なお筆者は五周目でも元気に爆殺されている模様。どうして。
次回は武装採掘艦■■。ある意味分水嶺となるミッションですね。