無人ACが形作る円形のアリーナ。その中央で、二機のACは踊る。お互いが円を描くように回るその動きは、伝統的な射撃戦の機動だ。
「チッ!」
「ククク! 情報通り、射撃は苦手なようだな!」
二度もパルスブレードを防がれたドルマヤンは、一度距離を取って様子見の射撃戦へと移行した。だが、それは判断ミスだった。
(こうまで射撃が当たらんとは!)
格闘に関しては右に出る者のいないドルマヤンだが、射撃はあまり得意ではない。マニュアルエイムはあまり上手く使えないし、ましてや最上位勢のように、先読みして弾丸を置いておくなど以ての外である。
だから、射撃はFCSに任せきりにしていたのだが。
(この動き……まるで……!)
ゆっくり動いていたかと思えばいつの間にか高速で滑っており、かと思えばまた緩慢な動きに戻っている。加減速が認識できないほど滑らかな緩急。それは才能と経験の結晶であり、こんな
だというのに。
「やはり貴様らは……オールマインドは、あってはならん存在だ!」
「ならば消してみろと言っているのだ。有言不実行ほどみっともないことはないぞ?」
「今に、やって見せるさ!」
ドルマヤンは吠えてみせるが、戦況は芳しくない。先述した通り、こちらの射撃は当たらない。対して、向こうの射撃は――
「そこっ!」
右手をナパーム弾ランチャーに持ち替え、慣れないマニュアルエイムでスッラの移動先に発射。当たれば御の字、例え外れたとて炎で相手の動きを制限できる。それは、間違いなく正しい判断であった。
「甘い」
「っ!?」
相手がファンタズマ・ビーイングでさえなければ。
発射直後のナパーム弾三つを、三本の青い光が正確に撃ち抜く。ナパーム弾はその場で爆発し、アストヒク自身に降りかかる。
(オービットを、マニュアル操作で――!?)
確かに手動照準なら理論的には可能だが。それを実践できるような者なんて、それこそレイヴンくらいしか――。
ドルマヤンはそこで強制的に思考を打ち切り、すぐさま左手をパルスブレードに持ち替え。発振と同時に斬り払い、ナパームごと炎を蒸発させる。これで炎の対処は――
「ぐわっ!?」
「私から気を逸らすとは、随分と度胸があるじゃないか」
ブレードを振り切るなどという明確な隙を、この化け物が見逃してくれるはずがない。そこを狙って放たれた特殊バズーカがアストヒクに直撃し、コックピットを大きく揺らす。
「クソッ!」
「ああ、一つ言い忘れていたが――」
アストヒクは後方にクイックブーストを吹かし、距離を開ける。今無暗に接近しても、プラズマ投射機の犠牲になるだけ。だから射撃の避けやすい間合いでもう一度立て直しを図るべし。
「マニュアル操作できるのはオービットだけじゃないぞ?」
「っ!? 後ろからっ!?」
だが、ドルマヤンの思惑は読まれていた。後方からいつの間にか迫っていた大型誘導弾頭。よく見ればそいつは、自分の視界から外れるように大きく上へ迂回した尾を引いている。
爆導索ミサイルのマニュアル操作。こちらの移動先を読んで、ちょうどぶつかる軌道にミサイルを置いていたのだ。
「ぐわあぁぁぁ!!」
コックピットに響くアラート。スタッガーの警告音。621との戦闘以来、久しく聞いていなかったそれが鼓膜を叩く。
そして動けないアストヒクに、急接近するマインドα。
「さよならだ、老兵」
「っ! まだだ!」
アストヒクから迸る、真っ赤な光の奔流。アサルトアーマーだ。それを見たスッラは即座に追撃を中断し、距離を離す。
直後、赤い光が周囲を蹂躙する。これにより三度、アストヒクとマインドαの間合いは振り出しに戻る。だが、アストヒクの傷はさっきよりもさらに深い。
「これでお前は切り札を一枚切った。あと何枚だ? あと何回寿命を先送りできる?」
「……っ!」
ドルマヤンは歯噛みする。貴重なアサルトアーマーをここで一発撃ってしまった。スッラの言う通り、近接戦においては切り札にすらなり得るその札を、だ。
残りは二発。視界の左下に表示された無機質な数字が、まるで自分の余命でも語っているかのような錯覚に陥る。
「舐めるな! 私はルビコン解放戦線帥父、サム・ドルマヤンだ! アイビスの火に比べればこの程度、小火もいいところよ!」
それでも、ドルマヤンは吠える。自分よりも若い人々も、命を賭けているのだ。ならばなぜ、老い先短い自分が燻っていられよう。
「いい加減諦めろ。その方が楽だぞ?」
「私は諦めが悪いのだよ。貴様と違ってな」
「フン。ならばその強情さがどこまで続くか、見ものだな」
再びスッラがバズーカとオービットを構える。休憩は十分。アストヒクもライフルとハンドミサイルを構え、応じる姿勢を見せる。
(セリア……あの子のためにも、どうか力を貸してくれ……)
それがどれほど都合のいい思考なのか、自覚はある。自分で見捨てた相手に、今一度祈りを求めるなど。
だが、願わずにはいられない。自分とは違い、彼は、レイヴンは間違えなかった。最愛の人と歩む未来を、その手で切り拓こうとしているのだ。
だから、先達として。自分
「行くぞ!」
◆◆◆◆◆◆
「本っっ当に、キリがない!」
一方、その頃。621は、今なお無数の無人ACの相手をしていた。
「これで三割は削ったか? ……いや、二割か? クソッ! 多すぎて分からん!」
倒しても倒しても、その後ろから次々マインドαが現れ続けるのだ。倒した数など、正確に把握できるはずがない。
かれこれ大体十分くらいか。常人ならとっくに気が狂っているような乱戦を、しかし621ならば戦い抜ける。四度も戦い塗れの人生を送ってきたのだ。もはやこれくらい今更であった。
むしろ、この戦いに耐えられていないのは――
『右腕、残弾無し』
「チッ!」
KRSVがエネルギー切れ。舌打ちを一つ、そしてKRSVを近くにいたマインドαに投げつける。
そういう用途で作られた武装でなかったとしても、KRSVほど重い物体を04-101 MIND ALPHAのパワーで投げれば、それは立派な凶器だ。KRSVはマインドαの頭部をひしゃげさせ、そのカメラアイを叩き割る。
「そらっ!」
その隙に621は急接近、マインドαの背部に回り込み、レーザーダガーを突き刺す。柔らかいブースター部分なら、出力の低いダガーでも容易に貫通できる。そのままグリグリと抉り進めば、もうそこはジェネレータだ。
621くらいACに精通していれば、意図的にジェネレータを暴走させることだってできる。感覚一つで必要な回路を探り当て、切断。これで、即席爆弾の完成だ。
「吹っ飛べ!」
背負い投げの要領で、暴走したマインドαを群れに放り投げる。数瞬後には、眩い青い花火が群れの一部を焼き融かしていた。
「これで何割だ? 四割くらいには行ってて欲しいんだが――」
花火が消えれば、その穴を埋めるかの如くぞろぞろとマインドαが湧き出てくる。いくら621でも、流石にこれは心が折れそうだ。
(KRSVは消失、オービットは残弾二割、そして残りはダガーとシールドか。絶望的だな)
敵の数に対して、武装があまりにも心許ない。ここまでほぼ無傷で戦ってこれたのは、KRSVの火力で出てくる敵を強引に一撃死させられたからだ。攻撃される前に消し飛ばすことで、そもそも撃たれること自体無くしてきたからこそ、この数相手に戦いを成立させてきたのだ。
それができなくなった以上、いずれジリ貧に追い込まれて負けるのは必至。
(かと言って、武装は奪えないし……)
周囲に散らばるマインドαの武装は、ロックがかかっていて使えない。元からACの武装には、奪われた場合に備えて持ち主以外が撃てないようロックする機能が付けられている。共通規格であるが故に発達した、ある種の自衛措置であった。
だから、落ちてる武器は使えない。エアがいればその場で解除もできたのだろうが、自分一人では無理だ。
(思い切って素手で戦うか? そんな馬鹿な真似――)
馬鹿な真似、とその思考を切り捨てようとして、ふと思い出す。そういえば、この四度目でそんな馬鹿な真似をした奴がいたような気がする、と。多勢に無勢な戦況を、
「っ!」
そう思考しているのを隙と捉えたのか、マインドαの一機がプラズマ投射機を投げてきた。
正直、これくらいなら簡単に避けれる。だからクイックブーストを――
(いや、こういう時、
回避に動こうとした意識を、思考が押しとどめる。そして、鉄球が目の前に迫り――
「こうだろ! なあ、
――鉄球を、ガッチリ掴んだ。決して離さないよう、両手で、しっかりと。
そして、全身と各種姿勢制御ブースターを使って、思いっきり鉄球を引っ張る。
「そりゃあ!」
プラズマ鎖に引っ張られて、マインドαの足が地面から離れる。それを確認した621は、軸足を地面に突き刺してアサルトブーストを起動。
「まとめて消えろ!」
アサルトブーストの圧倒的推進力を回転力に変換し、プラズマ鎖で繋がったマインドαを速度で振り回す。その様はまるでハンマー投げだ。
AC一機分の質量を持ったハンマーが弱いわけが無く、周囲のマインドαにぶつかろうが止まることはない。囲んでいた数十機をまとめて薙ぎ倒し、それでもなお加速を続けていく。
今更危機感を覚えた他のマインドαがオービットやバズーカを撃つが、621に当たる前に
「そろそろいいか?」
回転するマインドβは、その高速故に寧ろ安定し始めていた。それを感じ取った621は、軸足を地面から抜き、回転を維持したまま動き出した。
「対岸の火事だと思ってんじゃねえぞ!」
マインドβは、マインドαを振り回したまま群れの中を突き進む。さっきまで回転の範囲外に逃れていたマインドαが、一瞬にしてこの暴虐に巻き込まれ、あっけなく大破させられていく。
回転しながら迫るマインドβは、もはやただの災害であった。台風が樹木や家屋をまとめて吹き飛ばしていくかの如く、無数の無人ACを粉々に粉砕していく。
結局、どれほど技術が進もうとも、質量と速度こそが最大の暴力なのだ。
「! そろそろ限界か!」
621の優れた動体視力は、
だから621は、回転を維持したままオービットを操作し、マインドαのジェネレータの回路を正確に撃ち抜く。
「追加の花火だ! 喜べ!」
そして、投擲。鉄球を離せば、繋ぐもののなくなったマインドαは群れの方へと飛んでいく。そして、先の一射で暴走させられたジェネレータが、過剰なエネルギーにより自壊。
瞬間、眩い青い光が再び群れを包み込む。
「徒手空拳も、意外と悪くないな」
心なしか、あれだけ無限に湧き続けていた無人ACも、漸く減り始めたように見える。否、「見える」のではない。実際に減っているのだ。
ここまで無人ACを撃破し続けたことで、遂にその残りは五割を切ろうとしていたのだから。
「これは、思ったより何とかなるかもしれない!」
621の心に希望が湧き上がる。やはり、初見バルテウスに比べれば楽なものじゃないか! これならば、全滅させるのだって夢じゃない。
やりようがあるとさえ分かってしまえば、心はぐっと軽くなる。そうして621の顔に笑みが浮かびかけたその時だった。
「じゃあ早速もう一回――!?」
再び攻勢を仕掛けようとしたその瞬間、621は
即座に621は、後方にクイックブーストを吹かしてそれを避ける。
「危なっ!? 急に一体何が――」
621は、最後まで言葉を紡げなかった。だって、目の前の光景を信じられなかったから。
「ドルマヤン!?」
「ぐっ……くぅ、う……」
吹っ飛ばされてきたのは、アストヒクだった。装甲は傷だらけで、塗装の下の鈍い銀色が顔を出している。通信からは、苦痛に耐えるかのようなうめき声が聞こえてくる。
誰が見ても分かる。
「なんでっ……! アンタに限って、スッラなんかに――!」
「っ……! すまん……レイヴン……! 私では、今のスッラは……!」
「そういうことだ。所詮ヒトの身体に縋りつく老害。ヒトを超越した私の敵ではなかったということさ」
「っ! スッラぁ!!」
悠々と群れを掻き分けて歩いてくる一機のマインドα。動きで分かる。あれがスッラだ。まるで自分たち二人など敵ではないとでも言わんばかりに、あからさまにこちらを見下すように仁王立ちしている。
「さて、ウォルターの猟犬。頼みのドルマヤンは満身創痍で、貴様も殆どジリ貧。これで分かっただろう? 端から勝ち目など無かったのだよ」
「くっ……!」
621はスッラの言葉を否定しようとするが、しかし口から声が出ていかない。感情で否定しても、傭兵としての冷静な部分で分かってしまうのだ。
今でさえ何とかなってはいるが、ジリ貧なのは事実だ。そこに、ドルマヤンを倒せるほどのACが一機加わって、勝つことができるかどうか。
(無理だ……!)
どう考えても不可能。それが、621の結論だった。
「さっきは嬲るような真似をして悪かったな、ドルマヤン。だが、安心しろ。ここからは本気だ。私と無人AC全機で、全力で殺してやる」
煽るように、嘲るように、心の底から楽しそうにスッラは嘯く。スッラからしても、最早勝利は確実な盤面なのだ。あとはどう料理してやるか、ただそれだけの問題でしかない。
「まあ、私も鬼じゃない。泣いて謝るのなら、多少の手加減くらいはしてやろう。どうだ? 悪い話ではなかろう?」
「誰が、そんなこと――!」
「クックックックッ……」
そんなふざけた提案など呑めるものかと怒りに任せた621の返答は、しかし笑い声に遮られた。それは、スッラの笑い声
「クックックックッ、ハッハッハッ! アーッハッハッハッハッ!」
ドルマヤンが、笑っている。心底愉快そうに。
「……狂うには早いぞ、ドルマヤン。もう少し楽しめると思っていたのだがな」
「クックッ、いや、これを笑うなという方が酷だろう! ハッハッハッ!」
老人は笑う。
いっそ本当に狂っていてくれた方が、笑い甲斐もあっただろうに。
「上位存在ぶっておいて、こんな悪手を演じたのだからな! 笑いもするさ! アッハッハッ!」
「悪手だと?」
「私をレイヴンの下に飛ばしたことさ! なあ、スッラよ!」
「何が言いたい?」
スッラは本気で理解できなかった。621とドルマヤンを合流させたことが、悪手だと? 意味が分からない。所詮人間二人、一緒になったところでただの二人でしかありはしないというのに。
「1+1は2ではないということだ! そんな簡単な計算も分からんか! ハッハッハッ!」
スッラは気付く。この笑い声は、単なる嘲笑などではない。それは、
「クックックッ、まあ仕方がないか! 人との縁を拒み続け、ハンドラーのストーカーにかまけ続けてきた貴様では! ハッハッハッ!」
もしスッラに生身の身体があったなら、きっと通信には歯軋りの音が乗っていたであろう。それほどまでに、スッラはドルマヤンの言葉に不快感を感じていた。そして、とうとう堪忍袋の緒が切れた。
「この私をッ!! 笑うなァァァァ!!!」
バズーカを、爆導索ミサイルを、オービットを、プラズマ投射機を。全てを同時に発射するフルバースト。今のスッラの射撃能力も合わされば、それは回避不能の必殺技となる。
「レイヴン」
「え?」
「実弾は任せるぞ」
「は? え?」
ドルマヤンが621にライフルを投げ渡す。反射的に受け取った621は、何が何だかわからないまま右手でそれを構え。
そして、四度も生きた経験と、ドルマヤンからの言葉が、この場で何をすればいいのか即座に理解させる。
「こうか?」
迫るバズーカと爆導索ミサイルを、ライフルで狙撃。こちらに届く前に、両方とも爆散させた。
「流石だ! 負けてはおれん!」
時を同じくして、ドルマヤンもまた攻撃を防いでいた。空いた右手でプラズマ投射機を受け止め、それをオービットの射線上に。一発二発三発と、オービットの放つレーザーを鉄球が弾く。
「チッ! まだ――!?」
「させんよ!」
スッラが追撃するよりも早く、ドルマヤンは全力でプラズマ鎖を引っ張った。馬力に優れるBASHOフレームに全力で引っ張られれば、つんのめることは避けられない。実際、スッラも前につんのめりかけて、追撃どころではなくなっていた。
だが、ファンタズマ・ビーイングを施されたスッラの機体制御は、そこらの無人ACなどとは比較にならない。転びかけた体勢から即座に足を踏み直し、復帰。そのまま逆に鎖を引っ張り返し、拮抗状態に持ち込む。
「「っ!」」
マインドαとアストヒクが、お互いを全力で引っ張り合う。ギリギリのバランスで拮抗している以上、少しでも動こうとすればその瞬間に体勢を崩してしまうだろう。だから、どちらも動けない。
そんな隙を見逃す621ではなく、スッラは621が動き出そうとしているのを察知した。
「無人機ども! さっさと撃て!」
当然それを黙って見過ごすはずがなく、スッラは無人ACに指示を飛ばす。二人を囲む無人ACたちが、一斉にバズーカを構えようとした。
「レイヴン!」
「ああ!」
瞬間、621が動く。ライフルをバースト射撃に切り替え、オービットをマニュアル操作で起動。そして、クイックターン。
回転しながら、ライフルとオービットを乱射。いや、それは乱射ではない。まるで乱射するかの如く高速で弾をばら撒いているが、その実一発一発が正確に目標を見定めた狙撃。
無数の弾丸は、寸分違うことなく無人ACたちのバズーカの銃口へと入っていった。そして、爆発。無数の爆発が立て続けに巻き起こり、鼓膜を劈く轟音が鳴り響く。
「馬鹿な!?」
思わずスッラが零す。自分が優位にあると信じて疑わなかった彼は、今初めてその前提がひっくり返されようとしているのを感じた。
そして、その驚愕は明確な隙だ。
「ドルマヤン!」
「よし! 合わせろ!」
狙撃を終えた621は即座にライフルを捨て、自身もプラズマ鎖を掴んだ。そして、ドルマヤンと息を合わせる。
「「せいっ!」」
「っ!!」
合図なんて必要ない。お互いが最高峰の戦士であるが故、タイミングは自然と合う。
完璧なまでに同じタイミングで鎖を引っ張られたスッラは、抗う術もなく宙を舞い。そして引き寄せられた先には、それぞれの得物を構える二機のAC。
「食らえ!」
「落ちろ!」
「がはっ――!!?」
レーザーダガーとパルスブレードで、マインドαのコアにX字の裂傷を刻む。それは、初めてスッラに入ったまともなダメージであった。
「この、下等生物風情が!!!」
「「!」」
マインドαから漏れるパルスの光。アサルトアーマーだ。だから二人はすぐさま後退。大規模なパルス爆発を、悠々とやり過ごす。
「何故だ! 一対一では勝っていたはずだ!」
振り出しに戻った間合いの中で、スッラは吠える。何故だ? さっきまでドルマヤンは完封できていたはずなのに。
「そうだな。あのまま一対一を続けられていたら、今頃私は死んでいただろう」
ドルマヤンは、律儀に答える。それは、自分でも否定しようのない事実。あのまま無人ACのアリーナに囲まれて、タイマンを張られ続けていたならば。きっと自分に戦況を覆す手は無く、遠からずアストヒクは大破していたはずだった。
だが、スッラは判断を誤った。ドルマヤンと621の合流。それがどれほどの力を生み出すか、孤独な彼には分からなかったから。
「人は結局、孤独には生きていけん生き物よ。だから寄り集まり、そして複数でこそ全力を発揮する。お前にはちと難しかったかな?」
「偉そうに! そんな軟弱者に人類が務まるか! 私こそが人類だ!」
「フッ、平行線だな。ならば、どちらが人類に相応しいかは――」
お互いに譲れるはずがない。全てを失ったスッラは、全人類を自分と同じところまで堕とさねば気が済まず。最愛の“彼女”を見捨ててまで人であることに拘ったドルマヤンは、その選択に殉じる覚悟を決めていて。
だから、この議論に決着を付ける方法はただ一つ。
「――戦いで決めよう」
結局、こんな世界に生きる戦士たちに、言葉を尽くすことなど無意味なのだから。
マインドαとアストヒクの総身に力が籠り、無人ACたちが崩れたフォーメーションを整える。
その最中、ドルマヤンは621に声をかける。
「そういうことだ。協力してくれるか? レイヴン」
「当然だろ。聞かれるまでもない」
状況は変わらず絶望的。相手は凄まじい力量に引き上げられたスッラと、その制御下にある無数の無人AC。
だが、もう621の心に絶望は無かった。
621
イグアス式柔術を見様見真似で習得し始めた鴉。本人が見たら微妙な顔を浮かべるでしょう。
ドルマヤン
セリアの一件さえなければ割と人間賛歌な気がするんだこの人。たとえ彼女を見捨てたのがただの臆病の結果だったとしても、その後自分が中心となってルビコンを再建したのは間違いなく彼の意思なのだから。
スッラ
書けば書くほどどうしようもなく見えてくる人。強くなったのに。スッラ好きの皆さんすいません、ウチのスッラはこういう奴です。……今更か。
というわけで621&ドルマヤンVSスッラwith無人ACs第二ラウンド。ホントはこの一話で終わらせるつもりだったのに、どうして戦闘描写が肥大化し続けているんですかねえ。あぁ~! プロット崩壊の音~~!
次回こそはこの戦いに決着をつけるぞ! 早く他の解放戦線とか