四度目の鴉   作:Astley

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Q.四か月も何をしていたのだこのバカは?
A.地球を守るために何度もタイムリープしてました(ストーム1並感)


43:縁、手繰り寄せて

「こちらツィイー! 帥父が……ドルマヤン様が、戦死された……!」

 

『なんだと!?』

 

『そんな馬鹿な!』

 

 どよめきは、一瞬で広がる。それは、通信越しでもはっきりとわかるほどに。

 

『あ、ありえない! 我らの帥父が、こんなところで……!』

 

『ああっ! コーラルよ! ルビコンと共にあれっ!』

 

 解放戦線の戦士たちはもちろんのこと。

 

『ドルマヤンって、あのゲロ強ジジイが!? んな、馬鹿なこと……』

 

『ほ、ホントかよ!? アイツほどの実力者が死んで、俺らは勝てるのかよ!? この戦いに!』

 

 RaDですら、動揺は隠せない。今のドルマヤンは、もはやRaDにとっても他人ではなかったから。

 

『う、嘘だ!! 帥父!! 貴方がいなくなってしまったら、私は、私は!! 何を、導きとすれば良いのです!?』

 

『嗚呼、同志ドルマヤンよ……道半ばで倒れるとは、何たる無情か! 南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏……!』

 

 取り乱しているのは、末端の雑兵に限らない。あのリング・フレディが。あの六文銭が。人目も憚らずに嘆き叫んでいる。

 企業の大戦力を目の前にしてさえ、眉一つ動かさなかった彼らが。

 

(マズイな。悪い流れに傾き始めている……!)

 

 フラットウェルは表面上冷静に分析するが、しかし内心の焦りを隠せない。

 皆、折れかけている。士気が、下がっている。これでは、勝てる戦いにも勝てないだろう。どうにかしなければ。でも、どうやって?

 フラットウェルには頭脳こそあっても、カリスマはない、こういうときに、どうやって奮起させればいいのかわかるはずもない。このままでは駄目とわかりながら、それでも打つ手がない。

 そう彼が歯噛みしていたときだった。

 

『アンタたち!! メソメソしてんじゃないよ!!』

 

 鼓膜を破らん限りの、怒鳴り声。それが、強引にも涙を引っ込ませる。こういう時、アウトローは強かった。

 

『ドルマヤンのジジイが何のために死んだんだと思ってんのさ!? そんなとこで蹲って無様に殺されて、それでアイツが喜ぶとでも思ってんのかい!?』

 

『『『『『っ!』』』』』

 

 無数に重なった、息を呑む声。皆、言われずとも分かっている。このまま嘆いていることこそ、ドルマヤンの死を無駄にするのだと。

 だが、それでも感情が付いてこないのだ。戦い続けるには、失われた希望が大き過ぎる。立ち上がらなければいけないことはわかっていても、体に力が入らないのだ。

 せめてなにか新しい希望でも齎されなければ、戦うことなんて――

 

『カーラの言う通りだ、諸君』

 

 そんな戦士たちの機微を、フラットウェルは見逃さなかった。カーラの作った流れを大波に変えるには、このタイミングしかない。

 解放戦線の実質的指導者にまで登り詰めた男の勝負勘は、圧倒的なまでに深く鋭かった。

 

『アーシルからの伝達だ。「我ら、レイヴンを奪還せり」。これが何を意味するか、分からんものはおるまい』

 

『それって、レイヴンが戦場に戻ってくるってのか……?』

 

『う、嘘じゃないよな?』

 

「嘘なもんか。俺はここにいる」

 

 通信に割り込むは、少年の声。発信源は、L()E()A()P()E()R()4()。彼とそのACを知らぬものは、この星にはいない。

 

『レイヴン……!』

 

『帥父は、やり遂げたのか……?』

 

「ああ。ドルマヤンのお蔭で、俺は今ここにいる。言っただろう? “共に勝利を”って」

 

『『『『『っ!』』』』』

 

 この星でもっとも有名な個人による、参戦宣言。ルビコニアンたちは知る。確かにドルマヤンは未来に希望を繋いだのだと。最強の鴉を縛る枷は外れ、再びルビコンに舞い上がるだろう。

 

「改めて言わせてもらう。共に勝利を!!」

 

「うおおおおお!!!」

 

 耳を潰すほどの爆音は、希望の勝鬨だ。崩れかけた士気も、これで元通り――いや、元以上だ。憂いていたカーラとフラットウェルも、今では微笑みを浮かべている。

 

(もう士気に関しては問題ないだろう。となれば、私の仕事を果たさねばならんな)

 

 フラットウェルは自分に鞭を入れる。高まった士気も、的確な指示がなければ結果に繋がらない。そこは、指揮官である自分の仕事だ。

 

『レイヴン、水を差すようで悪いが、この後のプランは考えてあるか?』

 

「ああ、勿論。まずは中央氷原に行かなきゃ話にならない。だからグリッド086に行って、カーゴランチャーで飛ぶ」

 

『なるほど、ありがとう。それならば、準備はもう済んでいる。聞こえたな! 皆の者! 予定通りレイヴンをグリッド086まで送り届ける! 作戦に変更はない! 各部隊は即時作戦通りの陣形を完成させろ!!

 

『『『『『了解!』』』』』

 

 フラットウェルにとって、621の動きは想定内。故に、それをサポートするための動きも事前に考案済み。そしてそのための訓練もRaD・解放戦線両方に徹底させてある。

 だからルビコニアンたちは、フラットウェルの指示一つで即座に自分の為すべきことを理解し、一糸乱れぬ陣形を組める。この戦いが始まる前から、彼らはレイヴンに賭けているのだ。

 

『ビジター、これを見な』

 

「! これは……!」

 

 カーラから621に突然送られてきたデータ。それは、ベリウス地方の地図と、その上を蠢く無数の光点。

 

『これが何を意味するか、アンタなら分かるだろ?』

 

「これって、RaDと解放戦線の戦力配置……?」

 

『ご名答。MTは勿論、汎用平気や特殊兵器も含め、アタシら()()()()()()()()()の全機体位置がそこに映っている』

 

「この動き……」

 

 地図上の光点の動きは、主に二つに分けられる。一つは、一定の間隔を空けて点在しようとするもの。この広大なベリウス地方で、その全域をカバーできるように満遍なく散らばる動きだ。

 そしてもう一つは――

 

「道を、作っている……?」

 

『相変わらず鋭いね、ビジターは。そうさ、これこそがカーゴランチャーへの最短経路だよ』

 

――二列に真っ直ぐ並ぼうとしているもの。621のいる117番工廠と、グリッド086。この二点を繋いだ一直線。それを挟む二つの列を目指して動いている。それはまるで、グリッド086までの道を守る壁にでもなろうとしているかのように。

 

『レイヴンを安全にお届けしろ!』

 

『道を作れ! 作ったら死んでも守れ!』

 

 いや、()()()、というのは嘘だ。彼らは()()()()()だ。その命を賭して、621の道を邪魔するものを排除しようとしているのだ。

 これこそがフラットウェルの作戦。脱出した621は、絶対にグリッド086を目指す。だから、621の現在地とグリッド086を直線で結び、その付近の部隊で肉の壁を作る。自らの機体を盾として、決して潰れない道を作るのである。

 他の部隊は、壁を脅かす敵が少しでも少なくなるよう、ベリウス地方全域に展開。徹底的にアーキバスを引きつける。要は陽動だ。

 

『経路上に敵多数!』

 

『レイヴンを待たせるわけにはいかない! 無理矢理どかせ!』

 

 621が工廠を脱出する前に道を作れば、アーキバスに621の場所がバレてしまう。そうなれば、アーキバスによる救出中の621への干渉を許してしまう。これでは、621の救出など進むべくもない。

 だから、道を作り始めるのは621救出後のこのタイミング。今、現時点をもって作戦開始。急な配置変更には大きな痛みが伴うが、ルビコニアンは皆それを承知した。全ては、レイヴンにこの星の未来を賭けているが故に。

 

「ははっ」

 

 621の口から、思わず笑いが漏れる。まさかただの光点の動きで、ただの一般兵士の通信で、ここまで心動かされるとは。彼らが自分にどれだけ期待をかけているか、痛いほどわかってしまう。

 だからこそ、昂る。こうまで自分に全額ベットされてしまえば、こんなところ(拠点ヘリ)でじっとしているわけにもいくまい。

 

「アーシル! ハッチを開けてくれ! ACの速力で、()を駆け抜ける!」

 

「え? あ、ああ!」

 

 道はルビコニアンたちが全力で死守してくれている。長い時間守らせるのは、負担になるだろう。だから621は、一刻も早くそこを通り抜けようとした。

 

『待て、レイヴン。その必要はない。君の足は用意してある』

 

「え? 足って――」

 

 だが、フラットウェルはそれを止める。切り札たるLEAPER4に、無用な消耗をさせる必要はないのだ。なにせ、先に言ったように()()()()()()()なのだから。

 響く轟音。巻きあがる砂煙。()()は、凄まじい存在感を放ちながら近づいてきた。そして621は納得する。()()()があったか、と。確かに四度目では、()()が残っていたな、と。

 目の前で見事なドリフト急停止を決める、()()()()()()()巨体。ACを遥かに超える巨大さを持ちながら、その速力はACを優に超える。ひょっとしたらコイツは、小回り以外の全てでACを凌駕しているかもしれない。

 

「ジャガーノート!」

 

「待たせたな、レイヴン! 今超特急で送り届けてやる!」

 

 重装機動砲台ジャガーノート。三度目までの世界では敵として戦った強敵。四度目では、フロイトに破壊された味方。それが今、健在な姿で目の前に現れたのだった。

 そう、ジャガーノートは二機存在する。三度目までの世界では、「壁」最上部のジャガーノートを621が撃破し、増援として送られてきたもう一機はラスティが撃破して、ジャガーノートは全滅していたはずだった。

 だが、四度目は違う。621が「壁」の防衛側についたことにより、破壊されたのは一機のみ。つまり、もう一機は未だ現役なのだ。

 

「ジャガーノートの上部装甲はデカい! 拠点ヘリとユエユーを纏めて運べるはずだ! アーシル、ツィイー! 乗ってくれ!」

 

「「了解!」」

 

 ジャガーノートの上部に、拠点ヘリとユエユー弐式が着陸する。ジャガーノートの上部は、その大きさも相俟って安定感は抜群だ。乗り心地良く感じてしまう気がするほどだ。

 

「全員乗ったな!? では、行くぞ!」

 

 ジャガーノートの背に付けられた無数の大型ブースターが、一斉に火を吹く。これだけの超加速なら、グリッド086まで一っ飛びだろう。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 ジャガーノートは進む。これだけの巨体でありながら、何の障害にも邪魔されることなく。まあ、左右を無数のMTや兵器群に守られているのだから、それも当然ではあるのだが。

 

『まずいね……これはちょっと、厳しいか?』

 

「カーラ? 何があったんだ?」

 

 そんな折、621はカーラの呟きを聞いた。

 

『道の確保はいいが、陽動の方が上手くいってないみたいだね。何か手はないのかい? フラットウェル』

 

『難しいな。アーキバスの戦力が予想よりも遥かに多い。一体どこからこれだけの封鎖兵器を……』

 

 「道」を脅かす敵を減らすために、ベリウス地方全域でアーキバスを引き付ける陽動部隊。全力で戦う彼らだが、その戦況は芳しくない。その原因は数だ。

 今のアーキバスの主力は鹵獲した封鎖兵器だ。BAWS製品と違い、ルビコンでの生産が効かないそれらは、必然的に数を用意するのは不可能。それが事前の分析であった。

 だが、その前提は既に崩れている。集積コーラル確保直前(幕間:燻る火種)の会議にて、スネイルがアーキバス上層部に封鎖兵器の自社生産を要請していたからだ。それは封鎖機構への明確な反逆行為であるが、しかしスネイルはそれを通させた。

 今やアーキバス本社で大量の封鎖兵器が生産され、それらは次々とルビコン運び込まれているのだ。

 無論、先に述べた通りこれは封鎖機構に対する明確な反逆行為である。これが明るみになった暁には、封鎖機構によるアーキバスへの全面攻撃が始まるだろう。

 だが、それは今すぐじゃない。確定した未来の破滅は、今この瞬間の戦場には何ら影響を与えないのだ。

 

『陽動部隊がやられれば、次は道だ。ビジターの輸送が遅れれば、最悪中央氷原は完敗、コーラルはアーキバスの……延いてはオールマインドの手に落ちる。このままじゃアタシらは終わりだよ! フラットウェル! 打開策を考えな!』

 

『分かっている! だが、ただでさえ戦力はカツカツなんだ! これ以上、どうしろと――!』

 

「待ってくれ、カーラ、フラットウェル。策がある」

 

 加熱した議論は、最年少の鶴の一声によって強制的に打ち切られた。

 

「聞いてくれ。俺なら――」

 

 そして621は語る。彼が彼なりに考えた、彼にしかできない「策」。それは、カーラやフラットウェルが考えるような策と比べれば、はっきり言って粗暴もいいところ。単なるゴリ押しに過ぎない。

 だが同時に、ある意味では合理的な策であった。この策は本人が提案しただけあって、621自身の能力を最大限利用し尽くすものとなっている。常識的に考えて、ルビコン最強の傭兵の力を持て余すなんて勿体ないのだ。

 そして何よりも――

 

『アッハッハッハ! なんだいそりゃあ! ビジター、相変わらずアンタはブッ飛んだことを考える!』

 

『個で群を蹂躙するなどと、馬鹿げてる……だがまあ、それでこそ君らしいというものだ。提案したのが君じゃなければ切り捨てていたところだ』

 

――二人の反応が、その成功率を雄弁に物語っている。カーラは堪えることなく思いっきり笑い、フラットウェルも冷静を装いながら、しかし浮かぶ笑みを隠し切れない。傭兵の考える策など、結局はこのくらいでいい。

 

『アーシル、聞いていたな? すぐにレイヴンの言った通りにアセンを組め』

 

「了解です!」

 

『レイヴン、本当にやれるんだな?』

 

「ああ、任せてくれ。俺を誰だと思ってる」

 

 LEAPER4が組み換わり、拠点ヘリのハッチが開く。いざ、作戦開始。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

「四脚MT、盾持ちMTは前に出ろ! トイボックスの盾になれ! リロード時間を稼ぐんだ!」

 

 ベリウス地方某所にて。平原で対峙するは無数の封鎖兵器と、多数のMT。アーキバスの大部隊を、BAWS・RaD混成MT部隊が迎え撃つ。

 ルビコニアンの要はトイボックスだ。その一斉発射はLC、HCにすら致命傷を与えられる。現に今も、上空からのトップアタックを敢行したLCを、蜂の巣にして返り討ちにしている。

 

「あのダンゴムシを落とせ! アレの火力が無ければ、残りは烏合の衆だ!」

 

 だから当然、アーキバスも最優先でトイボックスを狙う。突破口をこじ開けようと、HCが四脚MTに突撃。四脚MTは両手のガトリングガンで迎撃するも、HCは即座にシールドを展開。雨霰と放たれた鉛玉は、軽い音を立ててパルス防壁に弾かれていく。

 

「ルビコニアン風情が! 舐めるな!」

 

「ぐあっ!?」

 

 HCによるシールドバッシュが、四脚MTに炸裂。いくら重厚な四脚MTと言えど、HCが全体重、全推力を掛けて放ったバッシュに耐えられるはずがない。四脚MTは、敢え無くスタッガーに陥る。そして、動けぬ四脚MTが、盾として機能するはずがなく。

 

「今だ! LCは突撃! ダンゴムシを撃て!」

 

「くっ! 止めろ!」

 

 防衛網に開いた穴を、LCが潜る。隣のMTがカバーに入ろうとするが、その前にLCは駆け抜けていく。量産兵器でLCより速い機体など存在しないのだ。

 

「コイツさえ落とせば!」

 

 LCがグレネードを構える。トイボックスはリロード中であり、反撃できない。かと言って、今から防御形態に移るのも間に合わない。自力でこの状況を打開することは不可能だろう。自力では。

 

「ここで死――ごふっ!?」

 

「ようこそ! 企業のお坊ちゃん!」

 

「ドーザー流の歓迎を受けてくれよ!」

 

 突如LCが強烈な衝撃に揺らされ、中の人間はシートに叩きつけられる。通信に割り込むは粗野な声、揺れる視界に映るは――

 

「ガードメカ!?」

 

「あんなガラクタと一緒にしないでくれよ!」

 

「そうだぜ! コイツらはうちの目玉商品なんだからな!」

 

 その二機の名は、パンチャーとキッカー。RaDの魔改造により、ガードメカとは思えぬ装甲と攻撃力を得た一品だ。その同時攻撃は、LC程度なら容易にスタッガーさせられる。

 

「トイボックス、リロード完了!」

 

「よし! 撃て!」

 

「ま、まずい!? 逃げ――」

 

 通信は爆音によって掻き消される。残されたのは、穴だらけのLC。即死であった。

 

「クソッ! 全機一度下がれ! 体勢を立て直す!」

 

 HCが下がり、それに続いてLCや封鎖兵器も退却する。

 

「ハァ……なんとか一旦は返せたか。だが、もう一度来られたら、その時こそ……」

 

 言葉の続きは言わない。否、言えない。言えば士気に関わるからだ。なんとか今回の侵攻は痛み分けに終えることができた。だが、次は無理だろう。兵器はもちろんのこと、中の人員も無視できないほどに消耗している。

 

「だったらこっちから仕掛ようぜ! 俺たちルビコニアンの意地ってもんを、奴らに見せてやるんだよ!」

 

「……そういう破れかぶれは最後まで取っておけ。まだ早い」

 

「お? やらないとは言わないんだな! それでこそ俺たちの指揮官様だぜ!」

 

「……全く」

 

 ドーザーの無鉄砲さが、今はありがたい。お陰で劣勢でも士気が保たれている。だが、士気だけではどうすることもできなくなる瞬間が、すぐそこまで迫っている。質も量も相手の方が上なのだから。

 

「せめてレイヴンを向こう(中央氷原)に届けるまでは――!?」

 

 その時だった。指揮官の頭上を通過する()()。放物線を描いて飛ぶ()()は、MTやガードメカよりもずっと小さい。だが、それが内包する破壊力は、MTやガードメカの比ではない。かつて「壁」でレッドガンのAC(G4 ヴォルタ)にそれを撃たれ、味方を消し飛ばされたことがある指揮官だからこそ、それがわかる。

 ()()は、AC用重グレネード弾であり、放物線の向かう先は――

 

「「うわあああっ!!?」」

 

「なっ!? 砲撃だと!? どこからだ!」

 

――アーキバスの、封鎖兵器だ。重グレネード弾の破壊力は圧倒的で、爆風に巻き込まれたMTは全滅、LCは一撃でスタッガー。立て直しのために足を止めていた彼らに、避ける術はない。

 

「全機散開しろ! 所詮は砲撃! 動き回ればそうそう当たるものでは――ぐわっ!?」

 

 回避軌道を取ったはずのHCが、回避先で爆発している。予め回避先を読んで砲撃を置いておいたというのだろうか?

 

「な、なんだぁ? 企業のアホどもが次々と爆発していくぜ?」

 

「こ、これは一体……?」

 

 RaDも解放戦線も、ただ困惑するしかない。自分の頭上を次々と榴弾が飛び越えていって、それらは全てアーキバスの機体に突き刺さり、周囲を巻き込んで爆散していく。

 さっきまでの劣勢はどこへやら。あっという間に戦況は覆されてしまった。

 

「ま、まさか……」

 

 この星でこんな芸当をできる人間など、一人しか知らない。そんな指揮官の呟きは、やはり間違っていなかった。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

「次はどこだ! 奴らの位置をどんどん教えろ!」

 

 高速移動するジャガーノートの上に、忙しなく動き回る二機のACがいる。一機目は、かの赤黒のAC、LEAPER4。だが、今のLEAPER4を見て、それがLEAPER4と認識できるものは少ないだろう。なにせ、基本的に機動力重視のアセンブルが多いLEAPER4で、()()()姿()になるのは初めてだから。そのアセンというのが――

 

R-ARM UNIT:DF-GR-07 GOU-CHEN(大豊製重グレネード)

L-ARM UNIT:DF-GR-07 GOU-CHEN(大豊製重グレネード)

R-BACK UNIT:DF-GR-07 GOU-CHEN(大豊製重グレネード)

L-BACK UNIT:DF-GR-07 GOU-CHEN(大豊製重グレネード)

 

HEAD:HC-2000/BC SHADE EYE

CORE:DF-BD-08 TIAN-QIANG

ARMS:DF-AR-08 TIAN-QIANG

LEGS:LG-022T BORNEMISSZA(重タンク脚部)

 

BOOSTER:NONE

FCS:FC-008 TALBOT

GENERATOR:DF-GN-06 MING-TANG

 

EXPANSION:ASSAULT ARMOR

 

 本来不可能な同武器四丁持ちも、ちょっとOSに手を加えればこの通り。なにせこちらにはカーラがいるのだから。

 そして、そうまでして持った武器はGOU-CHEN。グレネードの中でも随一の射程を誇る、大豊の傑作火器だ。

 そんなGOU-CHEN四丁を621は、それぞれ次々と持ち替えながら順次発射していく。直射では精々600メートル程度しか飛ばないGOU-CHENも、曲射ならその数倍の距離まで爆撃できる。連続発射による反動はタンクACの超重量で強引に吸収し、最高精度の砲撃を最大射程で、最大速度で繰り出し続ける。

 

『凄いねえ、ビジター! 百発百中だよ!』

 

『東部戦線は押し返しつつあるな。次は西部だ。狙えるか?』

 

「無論!」

 

 カーラが前線のMTのセンサー情報をもとに敵の位置をまとめ上げ、621とフラットウェルに渡す。フラットウェルが戦況を分析し、どこを優先で狙うべきかを指示する。後はそこを621が砲撃で狙い撃つ。言葉にすれば、たったそれだけ。

 だが、この三人の働きで、劣勢だったはずの解放戦線はアーキバスを圧倒し始めていた。否、三人ではない。勝利の立役者は、もう一人。

 

「ツィイー、次を寄越せ! リロードが完了し次第俺に回せ!」

 

「は、はい!」

 

 ジャガーノートの上で動くもう一機のAC。それはユエユー弐式であった。LEAPER4と同じく、なんとなんとこちらも両手、両ハンガー全てにGOU-CHENを載せている。

 だが、ツィイーは撃たない。621並みの超精度砲撃などできるはずもないから。なのでツィイーの役割はリロード。ACの武器はACに接続さえされていれば自動でリロードされる。ならば、隣にGOU-CHENを満載したACが一機いれば、その分だけGOU-CHENを早く撃てるということだ。

 今もツィイーは、リロードされた傍からGOU-CHENを渡していっている。リロード5.9秒のGOU-CHENでも、八丁あれば高速連射が可能なのだ。

 

『南方のLC部隊は壊滅状態。残りはアンタの援護がなくてもなんとかなりそうだね』

 

『単騎でこれほどまでに戦局を変えるとは……なるほど、これが“レイヴン”か』

 

 陽動部隊は守られ、そうなれば自動的に“道”も脅かされない。ジャガーノートは誰にも邪魔されることなく、悠々とグリッド086へ走っていったのだった。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

「見えてきたぞ! グリッド086だ!」

 

「あれが、グリッド086……? RaDの本拠地にしては、なんかボロボロなんだけど……」

 

「……まだ直ってなかったのか」

 

 行く先に見えたのは、頂上も見えぬほど雄大な建造物……のはずだが、中腹あたりは穴だらけで明らかにボロボロ。嘗てカーラがやり過ぎたこと(12:風雲カーラ城)によって受けた傷は、未だに癒えていないようだった。これで倒壊していないのは奇跡と言えるだろう。

 そして、そのグリッド086の入口には無数の封鎖兵器が殺到している。やはり、621がここを目指すのは向こうも予想していたのだろう。

 これを突破してグリッド086に入るならば、一番賢いやり方はこれしかない。

 

「入口に突っ込む! 衝撃に備えろ!」

 

「「了解!」」

 

 ジャガーノートの背部ブースターに、更なるエネルギーを充填。それを一気に爆発させれば、ジャガーノート自体が巨大な一つの弾丸と化す。

 

「隊長! 後ろから何かが――」

 

「え? うわああああ!!?」

 

「「「「「ぎゃあああああ!!?」」」」」

 

 無数の封鎖兵器を薙ぎ倒し、ジャガーノートは強引に内部へ入り込む。

 

「行くぞ、ツィイー!」

 

「はい!」

 

 そして、LEAPER4とユエユー弐式が飛び出す。ユエユー弐式は武装を元の構成――右腕MA-J-201 RANSETSU-AR(バーストライフル)、左腕HI-32: BU-TT/A(パルスブレード)、右肩BML-G2/P03MLT-06(6連ミサイル)、左肩VP-60LCS(レーザーキャノン)――に戻しており、LEAPER4のアセンは――

 

R-ARM UNIT:SG-027 ZIMMERMAN(重ショットガン)

L-ARM UNIT:SG-027 ZIMMERMAN(重ショットガン)

R-BACK UNIT:EARSHOT(重グレネードキャノン)

L-BACK UNIT:VP-67LD(レーザーダガー)

 

HEAD:HC-2000/BC SHADE EYE

CORE:NACHTREIHER/40E

ARMS:AA-J-123 BASHO

LEGS:KASUAR/42Z(軽量逆関節)

 

BOOSTER:FLUEGEL/21Z

FCS:FC-008 TALBOT

GENERATOR:VP-20C

 

EXPANSION:ASSAULT ARMOR

 

――要は高低差の激しいグリッドを駆け抜けられるよう、機動力に特化した軽量逆関節機であった。

 戦闘は最小限。もし避けられない敵が現れたら、その時は重ショットガンと重グレネードキャノンの最大火力によって瞬殺する。ただひたすらにカーゴランチャーへ早く辿り着くことを目的としたアセンだ。

 

「俺はジャガーノートで入口を守る! ツィイー、レイヴン! ご武運を!」

 

「ああ! アンタもな!」

 

「こちらアーシル! レイヴン、すまないが拠点ヘリではグリッドの高低差に付いてこれない。申し訳ないが、ここでお別れだ」

 

「大丈夫だ。中央氷原につくまでは、このアセンで多分いける」

 

 ジャガーノート及び拠点ヘリと一緒に進むのはここで終わり。ジャガーノートにはグリッド入口に留まってもらい、621たちが追撃されないようここを守ってもらうし、アーシルはグリッド086からベリウス地方各地のルビコニアンのオペレートをしてもらうことになっているのだ。

 621は惜しみながらもアサルトブーストを起動、ツィイーもそれに続く。

 振り返る必要はない。ジャガーノートのあの巨体で入口に栓をすれば、それだけでアーキバスは物理的に通行不可になるのだから。追撃される心配はないということだ。心置きなくグリッドの中を突き進める。

 

『ビジター、登るんならリフトだと遅すぎる。垂直カタパルトを使いな』

 

「ああ。ありがとう」

 

 カーラから621に、座標データが送られる。それは、グリッド086にある垂直カタパルトの位置を表したものだ。ご丁寧に、頂上への最短経路となるカタパルトだけ強調表示されている。

 

「でもカーラ、このカタパルト凄いボロボロに見えるんだけど……」

 

 だが、指定された座標にあったのは半分焦げたカタパルト。見たところパーツが欠けているといったことはなさそうだが、しかし本当に動くのかどうか不安になる程度にはみすぼらしい。

 

『そうなんだよ、ビジター。例の歓迎パーティー以来、うちの設備はボロボロだ。ま、だからこそフラットウェルに掛け合って、()()()をそっちに送らせたんだけどね』

 

『ああ。そろそろ()が到着するはずだ。是非役立ててくれ、レイヴン』

 

「彼?」

 

 カーラとフラットウェル曰く、この状況をなんとかできる人材が既にこちらに派遣されているという。だが、それが誰なのか621には全く心当たりがない。ボロボロのカタパルトを修理できるような人間なんて。

 

「一体誰が――」

 

「ハッハー! 無敵のラミー様の登場だあ!」

 

 駆けつけてきたのは、黄色いBASHOフレームのAC。インビジブル・ラミーの駆る“ブラッドスタンプ”だ。

 

「……え? 彼っていうのは()()?」

 

『いや、違う。彼というのはラミーじゃなくて、その僚機の――』

 

「というかさっきラミー撃墜されてたよね? なんで復活してんの?」

 

『BASHOフレームは安くて在庫も多い』

 

「ああ、道理で――」

 

「遅れてすまない、レイヴン! 初見となる! 私はインデックス・ダナム! 貴公のお役に立てること、光栄に思う!」

 

 621の言葉を遮るように現れたのは、赤いタンク型AC。駐屯地襲撃時(幕間:燻る火種)とは違い、両手の武装は何らかの工具らしきものに、背部の武装は大型のコンテナに換装されているそのACの名は“インフェルノピカクス”。パイロットはあのインデックス・ダナムだ。

 

「カタパルトの調整は私に任せてくれ! こう見えて私はグリッドの職工もできるんだ!」

 

『グリッドの職工()()の間違いじゃない?』『言うな、カーラ』

 

 アリーナの説明にも書かれていた通り、インデックス・ダナムは元々グリッドの職工であった。今は扇動者として、あるいは(少なくとも本人の認識の中では)AC乗りとして有名であるが、それでも人材不足の解放戦線で働いているが故、しょっちゅう建設業に駆り出されてはその辣腕を発揮してきたのだ。

 本人がどう思っているかは別として、ダナムの本領は今でもなお輝く、その職人芸にあるのだ。

 

「カーラ、カタパルトの出力は限界まで引き上げていいんだな?」

 

『ああ。今はとにかく、ビジターを最速で届けることだけを考えてくれ』

 

「……早く届けるためなら、一回使っただけで壊れるような改造をしても?」

 

『……へえ、そりゃあ面白そうだ。だったら解放戦線お抱え技術者の実力ってもんを見せてもらおうか』

 

「なんか俺たち抜きで勝手に話が進んでるんだが……」「うちのダナムがすみません……」

 

「うちのボスにも怯まないとは、流石は俺の相棒だぜ! ダナムゥ!」

 

 本人の意思は蚊帳の外に、カタパルトの魔改造はなんか既定路線にされていく。まあ、早く行けるなら621としても願ったり叶ったりなのだが。

 

「では、早速仕事に取り掛からせてもらう! キャリブレーション強制上書き、蒸気圧限界値とシリンダーストロークを再設定。安全弁を停止してバルブ駆動系を直結。スチームフロー・ネットワーク再構築。ピストン推力パラメータ、極限更新。フィードバック制御解除、慣性補正、摩擦偏差修正。緊急駆動ルーチン接続、システム・オーバーロード、カタパルト再起動――!」

 

(すっげぇ早口)

 

 何かをブツブツと呟きながらACを動かすダナム。背部のコンテナからパーツを取り出しては、それをカタパルトに組み込んでいく。こういう場面では、元々作業用として作られたAC-3000 WRECKER(WRECKERフレームの腕部)が光る。

 

「よし、完成だ。全員乗ってくれ。一気に上まで登るぞ」

 

「流石はダナムさんです! 一分も掛からないとは!」

 

「ハッハー! サイコーだぜ相棒ぉ!!」

 

(……コイツ前線に出ない方がいいんじゃないか?)

 

 ツィイーとラミーが褒めたたえる傍で内心疑問に思う621だが、口にはしない。やりたいことと得意なことが食い違うのは世の常だ。それはきっと本人が一番理解している。わざわざ指摘してやるほどのことではない。

 ウォルターから気遣いというものを学んだ621は、野暮なことは言わない。ただ黙って他三人と一緒にカタパルトに乗るのみである。

 

「全員乗ったな? では、行くぞ! カタパルト起動ぉぉぉおおおおおおおおああああああああああ!!!?」

 

「うわああああああああああああああああ!!? 相棒おおおおおおおおおおお!!?」

 

「だ、ダナムさん!?」

 

「……」

 

 当たり前だが、魔改造されたカタパルトはその分だけパイロットへの負担も増える。アリーナランク下から一位と二位に、これだけのGを耐えられるはずもなく。少年(621)少女(ツィイー)が涼しい顔でGを受け流しているその横で、オッサン二人は情けない悲鳴を上げていた。

 四機のACは僅か数秒でグリッドの三分の一ほどまでの高さまで飛び上がり、そこで漸く速度が抜けた。

 LEAPER4とユエユー弐式はすぐさま近くの足場に危なげなく着地。一方ブラッドスタンプとインフェルノピカクスは、同じ足場に盛大に叩きつけられていた。

 

『アッハッハッ! 凄いじゃないかダナム! これだけの出力を出せるなんて! この分なら、()()()()も飛べば屋上だよ!』

 

「……え? あと二回?」

 

 グリッド086は天を貫く超巨大建造物だ。これだけ馬鹿げた出力のカタパルトで跳んでも、未だ行程は三分の二も残っている。ダナムの顔に絶望が広がるまで時間はかからなかった。

 

「い、いや、待て。これ以上は私の体が――」

 

「凄いですよダナムさん! 職工としてのダナムさんは初めて見ましたが、まさかこれほどの技術力だとは!」

 

「ああ、本当に凄かった。半壊した普及型カタパルトでここまでの出力を実現するなんて。やっぱり、戦うだけが人間じゃあないんだな。勉強になった」

 

「え、ああ……」

 

 可愛い後輩の女の子と、ルビコン最強の傭兵による悪意無き純粋な賞賛。それが結果的にダナムを地獄へと追い詰めた。

 

「ありがとう。本当に助かった。すまんが、次も頼む」

 

「は、はい……誰か助けて」

 

 彼の懇願に応えるものはいない。ラミーは言葉も喋れぬほどに伸びているし、カーラは通信の向こうで腹を抱えて笑っている。

 フラットウェルは、多数(ルビコニアン)のために少数(ダナム)を切り捨てる冷酷な決断を下そうとしている。残酷だが、今この場においてダナム一人犠牲になるのが最善なのだから。

 

「く、クソぉぉぉぉおお!!! やってやる!!! やればいいんだろ!!?」

 

「凄い気迫です! 流石はダナムさん!」

 

「おお、これが職人魂ってやつか。エアとウォルターにも見てもらいたかったな」

 

 退路は絶たれた。もはや見えている破滅から逃れる術はなく、再び地獄に叩き込まれるのは確定的。ここに至って漸く、ダナムは覚悟を決めた。

 インフェルノピカクスが近くのカタパルトに飛びつき、作業を開始する。自分で自分の処刑台を組み上げるその内心は、いかほどのものか。

 しかし、ダナムの手つきは淀みない。どれほど心に恐怖が渦巻いていようとも、決してその腕がぶれることはない。職人としてのダナムは、恐るべきまでに一流であった。

 

『む? これは……』

 

 だが、フラットウェルは気付く。そんな職人の決死の生き様に、水を差さんとする存在が近づいていることに。

 

『ツィイー、戦闘準備。LCとHCがそちらに向かっている』

 

「こんな時に……!」

 

 地上戦力はジャガーノートによって物理的にシャットアウトされているが、空中戦力はその限りではない。ほぼ無限に近い飛行時間を誇るLC、HCならば、グリッド上部へ直接飛んで行ける。今のグリッド086は穴だらけ故、空からならどこからでも入り放題なのだから。

 

「チッ! 護衛ミッションは得意じゃないってのに!」

 

 621も戦闘態勢に。ダナムの作業を邪魔されれば、その分だけ氷原入りが遅れる。一刻も早くエアとウォルターを助けなければいけないのに。

 遠く空に見える黒点が一つ二つ。いや、三つ四つ五つ六つ七つ……一つ二つどころではなく、増え続ける黒点。それらは徐々に大きくなっていく。間違いない、あれら全部LCとHCだ。

 いくら621でも、この数は。殲滅するだけならできるだろうが、ダナムを守り切るのは相当に厳しい。そう621が集中力を引き上げようとするその時だった。

 

『まあ待ちな、アンタら。アタシがこの事態を想定してなかったとでも思うのかい?』

 

『カーラ? 君は一体何を――』

 

 この状況で、カーラは一人落ち着いていた。グリッド086の主として、空中から攻められる可能性が高いことくらい彼女は分かっていた。だからこそ、備えてある。空中戦においては無類の強さを発揮する()()を、再建していたのである。

 

『そこで見ていな、ビジター。あと、ツィイーも。せっかくダナムが面白いものを見せてくれたんだ。こっちも相応のモノを見せなきゃ、RaDの名が廃るってもんよ』

 

「っ! あ、あれは……!!」

 

 無数のLC、HCへ向かって飛んでいく、見覚えのありすぎるシルエット。まさか再び、その姿を目にする日が来ようとは。

 

『さあ、やっちまいな! ()()()()()()()()()! アーキバスの連中をすり潰せ!』

 

 かつて621が、あの歓迎パーティーの最後に戦った飛行型スマートクリーナー。それが、またしてもグリッドの空を翔ける。

 唐突に現れた空飛ぶ溶鉱炉は、アーキバスのパイロットたちを困惑させるには十分過ぎた。

 

「な、なんだあれは!?」

 

「わ、分からん! だが、少なくとも味方ではないことは確かだ! 撃て!」

 

 LCとHCによる集中砲火が始まる。スマートクリーナーはその巨体の割には素早く飛行しているが、しかしその巨体ゆえ回避は絶望的。無数のレーザーやプラズマがスマートクリーナーに突き刺さっていく。だが。

 

「目標に命中! しかし目標は依然として接近してきます!」

 

「下がりながら撃て! 見たところ遠距離武器は装備していない!」

 

「だ、駄目です! LCでも振り切れな――ギャアアアア!?」

 

 装甲の薄いLCでは、破砕機に巻き込まれようものならひとたまりもない。一機のLCが運悪く最初のターゲットにされ、二輪破砕機に飲み込まれる。LCはけたたましい音を立てながら圧縮、分解を同時に行われ、破砕機から吐き出される頃にはただの鉄屑と化していた。

 

「ひ、ヒィッ!? あ、アイツを近づかせるな!! 撃て!! 撃てえっ!!」

 

 スマートクリーナーに浴びせられる銃撃の嵐が、一層激しくなる。誰だってあんな残虐な死に様は嫌なのだ。

 しかし、スマートクリーナーは止まらない。グリッドの建材をそのまま流用した狂気の堅牢さは、LCとHCによる集中砲火すら弾く。

 知っての通り、開口部やブースター部分なら攻撃が通る。しかし、普通の人間が、二つの破砕機を振り回しながら高速で跳び回るスマートクリーナーを目の前にして、そんな冷静に弱点を狙ったりできるだろうか?

 

「だ、誰か! 助け――」

 

 答えは、否。上半身が丸ごと引き潰されたHCが、その事実を雄弁に示している。621が勝てたのは、彼が例外(イレギュラー)だったからだ。普通はこうなる。

 

「可哀想なくらい一方的だな。俺たちの出番はないかもしれん」

 

「まあ、楽できるならそれに越したことはないんじゃない?」

 

 ダナムが必至にカタパルトを改造するその横で、621とツィイーはまったりとこの蹂躙劇を眺めていた。一機もこちらに流れてこないので、本当にやることがないのである。緊張感も薄れよう。

 

「こうも一方的だとなんか飽きてくるな。ねえダナム、まだ?」

 

「ちょっと待ってくれ! もうすぐだから!」

 

 挙句、ダナムを催促する始末。LC、HCは既に、終わったものという認識になっていた。

 

「よし、できたぞ! 全員乗ってくれ!」

 

「ラミーはどうする? まだ気絶してるけど」

 

『優勢であるとはいえ、そこは戦場だ。流れ弾が飛んでこないとも限らん。一緒に連れて行ってくれ』

 

「わかった」

 

 動かないブラッドスタンプを、LEAPER4がカタパルトまで引き摺る。華奢な少年に介護される大巨漢という、なんとも情けない光景であった。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

「「うわああああああああああああああああ!!?」」

 

「お、ラミーが起きた」

 

 高度計の値は急速に増加していき、あっという間に三分の二地点に到達。その道中で、カタパルトによって奪われていたラミーの意識は、同じくカタパルトによって取り戻されていた。

 

「あ? え? ここはどこだ? さっきまで戦ってた敵は?」

 

 目覚めたラミーはなぜか自分を戦闘中に意識を失ったのだと思い込んでいた。向精神薬中毒の人間の海馬ほど当てにならないものはないらしい。

 

「い、いつもの通りだ……ゼェ、ゼェ……君が、全滅させた……」

 

「え、そうか? いや、そうだろうな! 流石は俺だ! インビンシブルだ! インビンシブルだ!!」

 

(……猛獣ってこうやって調教するんだ)

 

 ダナムがナチュラルに記憶を捏造しているが、指摘はしない。621とて分かる。多分これがラミーの正しい御し方なのだろう。猛獣の機嫌を損ねたら面倒だ。

 それはそれとして、三分の二地点に着いたということは、再び仕事をしなければならないということ。二度のGでボロボロのダナムに、しかしカーラは容赦しなかった。

 

『あと一回で頂上だ。ダナム、最後の一仕事だよ。気ぃ張りな!』

 

「ま、待ってくれ……休憩を……身体が、持たん……」

 

『女々しいこと言ってんじゃないよ! そこのビジターとツィイーを見てごらん!? 全っ然平気そうじゃないか! アンタも大の大人なら、子供にカッコイイとこくらい見せろ!』

 

「んな殺生な! ら、ラミー! 君のボスだろう!? 何とか言ってくれ!」

 

「ああ、任せろ! おい、ボス! いくらアンタでも俺の相棒を侮辱するのは許さねえ! ダナムはこの俺、“インビンシブル(無敵の)”ラミー様の相棒だ! この程度でへばるようなヤワな奴じゃねえ! すぐにでも立ち上がる!

 

「違ああああう! そうじゃなああああい!」

 

 ダナムは悟った。この場に味方はいない。振り返れば、LEAPER4とユエユー弐式がこちらを見ている。ACの頭部カメラに感情など籠るはずがない。なのにダナムは、その視線に期待と憧憬が含まれているように感じた。

 彼の心の中の大人な部分が、「これほど子供たちに期待されているのにまだ情けなく喚き散らすつもりか?」と責め立ててくる。

 

『……ダナム、これが終わったら特別報酬を約束する。だから、頼む……!』

 

 そして駄目押しのフラットウェル。退路はない。

 

「チクショオオオオオオ!!! やってやらあああああ!!!」

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 軋む身体に鞭打って三度カタパルトを改造するダナムと、その周囲を固める三人。三機のACは、ダナムに指一本触れさせない鉄壁の布陣を敷いている。だが――

 

「凄いなあ、グリッド086は。私、こんなに大きいグリッドに登ったのは初めてだ」

 

「だろう? ツィイー、この光景をよく覚えておくんだな! こここそがあの天下のRaDが本拠地、難攻不落のグリッド086よ! まさに無敵の鉄壁要塞! インビンシブルだ! インビンシブルだ!!」

 

「……まあ、一度俺に落とされてんだけどな」

 

――そこに流れる空気は、戦場のそれではない。だって、敵がいないのだ。ここまで追ってこようとするLC、HCは、その前にスマートクリーナーに阻まれ、そして轢き潰されてしまう。

 ゆえにこの高度は安全そのもの。護衛の三人が暇するのも無理はない。必死の形相で作業を続けるダナムに気付かず、談笑に興じてしまうのも仕方のないことなのである。

 だが、あのアーキバスがいつまでもされるがままで済ますはずがない。ついに、平穏が破られる時が来た。

 

『この機体は!? 三人とも戦闘準備! クリーナーを振り切った奴がいる!』

 

「「「!」」」

 

 LC、HCの速力ですら振り切れない飛行型スマートクリーナーが、しかし振り切られたとカーラは言う。そんなことができる機体は多くない。

 

『この速度……! 特務機体! 反応からして()()()()()()か! 数は2! そろそろ接敵するよ!』

 

「ああ、見えている」

 

 下方から高速で接近してくる、二つの影。頭と胴が一体化した異形の流線形は、間違いなくエクドロモイであった。一機はエネルギーパイルを装備した近接型、もう一機はプラズマライフル装備の射撃型。燃料基地でも見た組み合わせだ。

 

「いたぞ! レイヴンだ!」

 

「いくらレイヴンと言えど、このエクドロモイなら!」

 

 随分と自信満々なようだが、彼らは“燃料基地襲撃(16:憧憬と羨望)”の戦闘ログを見てないのだろうか。目の前の621は、同じ組み合わせのエクドロモイ相手に殆ど完勝しているのだが。

 あるいは、これが正常性バイアスという奴なのかもしれない。アーキバスで鍛えられた自分たちならば、封鎖機構のような醜態は晒さない。そんな感じのことでも思っているのだろう。なんという身の程知らずか。

 まあ、身の程知らずはこちら側にもいるのだが。

 

「ハッ! 何がエクドロモイだ! あんな貧相なヤツら、この無敵のラミー様にかかれば一捻りよ!」

 

「あっ、待てラミー! お前の腕じゃ――」

 

 エクドロモイを見るや否や、突撃していくラミー。621ですら反応が遅れるほどの、驚異的な猪突猛進であった。当然制止も間に合わない。

 

「なんだこいつは!?」

 

「ラミーだ! 所詮は下位ランカー! 落ち着けば大したことない!」

 

 真っ直ぐ突っ込んでくるブラッドスタンプに対し、エクドロモイたちの対応は冷静であった。

 まず格闘型が突撃を回避しながらエネルギーパイルを発振し、カウンターでブラッドスタンプを串刺しにする。

 次に、串刺しにしたままパイルでブラッドスタンプを振り回し、投げ飛ばす。これでブラッドスタンプはスタッガーに陥った。

 最後に、ここまでの間にプラズマライフルをチャージしていた射撃型が、投げ飛ばされたブラッドスタンプに発射。スタッガー中でACSの働いていないブラッドスタンプに、その一撃は重すぎた。

 

「お、俺のブラッドスタンプがあーっ!?」

 

「ら、ラミー君!?」

 

 ブラッドスタンプ、爆散。本日二度目の大破であった。

 

「ああ、もう! 人の話を聞かないから!」

 

 救えなかったもののことを、いつまでも嘆いていられない。だから、621はアサルトブーストを起動。軽量機ゆえ速度は一瞬で最大にまで到達し、弾丸の如く射出される。

 

(見た感じ、勝つだけだったら余裕。だけど、ダナムを守りながら倒せるかどうか……)

 

 当たり前だが、何かを守りながら戦うことは、普通に戦うのより何倍も、何十倍も難しい。エクドロモイと二対一するだけなら無問題だが、そこに防衛対象が挟まるだけで難易度は途端に跳ね上がる。

 高機動、高火力のエクドロモイ二機に、AC()()でどれだけやれるものか。そう思いかけた621だが。

 

「レイヴン! 私も御供させてもらう!」

 

「ツィイー?」

 

 ここには、もう一機いる。リトル・ツィイー、ACネーム“ユエユー弐式”。防衛ならば、当然数が多い方が容易になる。

 だが、621はいまいち彼女のことを信頼し切れていなかった。なぜなら、三度目までの世界での、はっきり言ってAC乗りとして下の下なツィイーしか知らないからだ。強くなったとは聞いていたが、果たしてエクドロモイと対峙できるほどなのか? 本当に足手纏いにならないのか? 疑問は尽きず、迷いは晴れない。

 いっそのこと彼女を無視して一人で突っ込んでしまった方が――

 

『ビジター』

 

 接敵直前の621に、カーラが呼びかける。

 

『ツィイーの腕はアタシが保証する。背中くらいは預けてやりな』

 

「!」

 

 621にとって、カーラは世界で三番目に信頼できる人物だ。ウォルター、エアの次に来るくらいには信頼しているのだ。そんな彼女からのお墨付き。これでツィイーを信じなかったら、最早それは裏切りであろう。

 

「……よし! ツィイーもついてこい!」

 

「はい!」

 

 ユエユー弐式もアサルトブーストを起動して、LEAPER4に追い縋る。二機のACと、二機のエクドロモイ。二対二の機動戦が、グリッドにて開幕した。

 

「AC風情が、舐めるな!」

 

「封鎖兵器の力を思い知らせてやる!」

 

 先行するLEAPER4に対し、格闘型はマシンガンを、射撃型はミサイルを発射して弾幕を張る。

 だが、今更この程度の温い弾幕で止まる621ではない。器用に弾幕の隙間を縫い、格闘型のすぐ横を抜ける。狙いは、射撃型。

 

「レイヴンめ! 私を無視するなど――」

 

「副隊長! ツィイーが来ている! お前はそっちの対処を!」

 

「っ!」

 

 傍を通り抜けていったLEAPER4を追おうとする格闘型だが、相方の言う通りユエユー弐式が遅れて突撃してくる。621の意図を汲んだツィイーの狙いは、格闘型。パルスブレードを発振し、振りかぶっている。

 

「時代遅れのオンボロが!」

 

 格闘型は即座にエネルギーパイルをチャージ。ラミーの時と同じように、カウンターで仕留める算段のようだ。

 急速に縮まる彼我の距離。近接戦の間合いはもうすぐそこ。後は、どちらが先に得物を振るうか。それだけだ。

 腰だめにエネルギーパイルを構える格闘型。パルスブレードを振りかぶるユエユー弐式。そして――

 

「っ!」

 

「見たか! これがエクドロモイの機動力だ!」

 

 ユエユー弐式がブレードを振り下ろすその瞬間。格闘型はクイックブーストを吹かし、ユエユー弐式の真横に張り付いた。

 そしてエネルギーパイルを突き出し――

 

「ACを、舐めるなあ!!」

 

「何っ!?」

 

――パルスブレードに阻まれた。ツィイーは振り下ろした勢いそのまま回転し、格闘型に向き直ったのだ。そのままパルスの刃でエネルギーの杭を防御。鍔迫り合いの姿勢に持ち込んだのだ。

 

「くっ、この……!」

 

「非力だね! 封鎖兵器も大したことないじゃないか!」

 

 どれだけ封鎖兵器が幅を利かせようとも、近接戦における最強の座はACから揺らぎはしない。BASHOフレームの圧倒的パワーに抑え込まれた格闘型は、鍔迫り合いの体勢から動けない。少しでもバランスを崩せば押し切られてしまうので、左手のマシンガンを撃つことすら敵わない。

 

「これでも食らいな!」

 

「ぐわっ!?」

 

 だが、ユエユー弐式はそうではない。こちらも体勢の関係で右手のバーストライフルは撃てないが、しかし背部兵装はフリーだ。何の制約もないレーザーキャノンと六連ミサイルが、ゼロ距離で格闘型を焼く。

 

「副隊長!? このっ!」

 

 LEAPER4と対峙していた射撃型は、即座に相方の危機に反応した。咄嗟にLEAPER4から距離を離し、彼に撃つはずだったチャージプラズマライフルをユエユー弐式へと向ける。

 これこそがツーマンセルの強み。どちらかが崩れかけても、即座に相方がフォローに入れられる。この一射でユエユー弐式を退ければ、立て直しも図れる。まだ、負けちゃいない。その思いと共に放たれた一射は――

 

「四度目のツィイーの、折角の晴れ舞台だ。邪魔はさせんよ」

 

 射線上にLEAPER4が割り込み、そしてレーザーダガーを起動。その短い刃で圧縮されたプラズマの塊を防――

 

「っ!!? そんな馬鹿な!? 副隊長! 避けろ!」

 

「え?」

 

 圧縮されたプラズマは、榴弾と同じだ。一定以上の衝撃を与えれば炸裂し、周囲を焼き払う。逆に言えば、衝撃さえ与えなければ炸裂はしない。

 であるならば、だ。レーザーダガーのようにエネルギー的干渉ができるものを持ち、衝撃を与えないよう完璧な角度、完璧な速度、完璧なタイミングで斬り払ってやれば。

 

「うわああああ!!?」

 

「副隊長!? クソッ!!」

 

 こんな風に、プラズマを炸裂させることなく弾道だけ逸らすことだってできる。射撃型が放った渾身のチャージプラズマは、皮肉なことに格闘型に直撃。この一撃が最後の一押しとなり、格闘型はスタッガーに陥った。

 

「今だ!」

 

 目の前でスタッガーを晒した敵を逃がす理由など、ツィイーにはない。だがブレードとキャノンは放熱中で、ミサイルはリロード中。なので、ここはライフルで――

 

「いや、こっちの方が確実! レイヴン!」

 

「ああ!」

 

 格闘型を621のいる方へ蹴っ飛ばす。その意図を察した621は、即座にグレネードを射撃型に撃ち込み、足止め。そのままアサルトブーストで格闘型の方へと向かう。

 

「これで――」

 

「――終わりだ!」

 

「や、やめ――!!」

 

 格闘型を、ツィイーのライフルと621のショットガンでサンドイッチし、接射。ゼロ距離からバースト射撃と散弾が叩き込まれ、格闘型の装甲を抉る。

 挟みこんで反動の逃げ場を無くしたことも相俟って、その破壊力は抜群。容赦なく内部までも破壊し尽くし、そのまま格闘型は爆散した。

 

「これで、一機!」

 

「あとは射撃型だけだ!」

 

「おのれ! 副隊長をよくも!」

 

 射撃型がプラズマライフルとミサイルを同時に乱射するが、ツィイーは右腕を盾にして致命打を防ぎ、621は構わずアサルトブーストで突撃。だが前進するLEAPER4に対し、射撃型の弾幕はやはり当たらない。

 

「何故だ! AC如きに、この封鎖兵器が――!」

 

 瞬間、真っ直ぐ近づいてきていたLEAPER4が、逆関節の圧倒的跳躍力で大ジャンプ。射撃型の真上を取る。

 射撃型は、反射的に銃口を上に向けた。()()()()()()()

 

「今だ!」

 

「っ!?」

 

 今この場には、ACが二機いる。真上を狙えば、もう片方は完全にノーマーク。今、ツィイーのアサルトブーストを阻むものはなにもない。

 ユエユー弐式は一瞬の間に射撃型へと急接近し、冷却の終わったパルスブレードで縦一文字。射撃型の正中線が、痛々しく焼き融かされる。

 

「旧式の分際で――!」

 

 射撃型のパイロットは、咄嗟にユエユー弐式に銃口を向けた。直近に危害を加えてきた相手に注視してしまう動物的本能に、抗えなかったのだ。LEAPER4は真上にいるというのに。

 

「ナイスだ、ツィイー!」

 

「しまっ――!?」

 

 レーザーダガーを逆手に構えたLEAPER4が、急降下。落下の勢いままに、射撃型の頭部にその刃を突き刺す。そして、621は突き刺さったダガーを、思いっきり下に下ろした。

 ツィイーが付けた斬撃の痕に沿って、射撃型の表面をダガーが下りていく。同じ部位を二度も焼き斬られれば、当然その分だけ傷は深くなる。それこそ、射撃型のコックピットに届くほどに。

 下っていくダガーは、射撃型の胴体に達すると同時にそのパイロットを蒸発させ、そのまま股下から振りぬかれた。操縦者が消滅した射撃型は沈黙。最早戦闘は不可能だろう。

 エクドロモイとACの二対二の決戦は、終わってみればAC側の圧勝だった。

 

「ふう、終わったか。無事か、ツィイー?」

 

「ハァー、ハァー、……あ、はい」

 

 余裕そうな621に対し、ツィイーは深呼吸を繰り返していた。最強の傭兵の傍で、無様は見せられない。そんな緊張の糸がぷっつりと切れて、今一気に疲労が押し寄せてきたのだ。

 

「お陰様でなんとか……」

 

「そっか。よかった」

 

 息も絶え絶えに返答するツィイー。621は息一つ乱していない。だからこそ、ツィイーは気になった。

 

「あ、あの……」

 

「ん? どうした?」

 

「私は……強く、なれたかな……?」

 

 遠回しに尋ねる。自分は足手纏いではなかったかと。レイヴン一人の方が、もっと自由に伸び伸びと、全力で戦えたのではないかと。

 だが、そんなの愚問に決まっている。

 

「当たり前だろ。君がいてくれなきゃ、ダナムを無傷で守り切ることなんてできなかった。本当にありがとう」

 

「!」

 

 今の戦いを見た誰もが確信するだろう。もはや彼女は足手纏いなどではない。立派に成長した、ルビコンの戦士なのだ。いったい誰がそれを否定できよう。

 最強の傭兵に認められた。その事実に感極まったツィイーは、その瞳から涙が、その喉から嗚咽が漏れそうになるのを感じた。

 

「ん゛ん゛っ!! そ、そういえばレイヴン! ダナムの方はどうなったかな?」

 

「ああ、そうだ。肝心かなめの護衛対象は今どうしてるのやら……」

 

 だがツィイーは、それを無理矢理抑え、話題を逸らした。今ここで泣くのはあまりにも恥ずかしい。この感動は戦いが終わるまでとっておこう。

 それにダナムの様子が気になるのも実際嘘ではない。カタパルトの改造はもう終わっているだろうか。

 

「ツィイー、レイヴン。カタパルトの改修は既に終わっている。それと、ラミーの方も既に回収済みだ。……生きていたよ。あんな攻撃を食らったのに」

 

「本当とんでもない生命力だな。あの爆発の仕方でどうやって生き延びたんだよ……」

 

「ひとまずコックピットに乗せたが……狭いし、暑苦しいな。さっさと安全な場所に下ろしてやりたいものだ」

 

「あはは……が、頑張ってください、ダナムさん。あと一回跳べば終わりですから」

 

 今のインフェルノピカクスのコックピットは、大巨漢二人が密閉された缶詰状態になっているらしい。あまり想像したくない絵面に、ツィイーは乾いた笑いを零した。

 だが、もうすぐ一仕事が終わる。これで跳べば、ついにグリッドの屋上。目的のカーゴランチャーも目の前だ。

 

「よし。じゃあ二人は屋上へ向かってくれ。私はここで待機する」

 

「え? 何言ってるんですか?」

 

 もうあのGを味わいたくないダナムは、自分は跳ばず、ここで待機すると提案した。だが、ツィイーから返ってきたのは疑問の声。

 

「私がレイヴンと一緒に跳んだら、ここはダナムさん一人になっちゃいますよ? そうなったら誰もあなたを守れないじゃないですか? 屋上の方が安全です。一緒に行きましょう?」

 

「え? え、ええ……」

 

 今のインフェルノピカクスは、武器を下ろして工具に換装してしまっている。戦闘能力は皆無。護衛のブラッドスタンプが撃破されてしまった以上、一人にしておくことはできない。

 ツィイーの言ってることは正論ではあるのだが。

 

「じゃ、じゃあ君もここに残って、屋上にはレイヴン一人で行ってもらうってことで……」

 

「本当に何を言ってるんですか! 私たちの任務はレイヴンの護衛でしょう? 一人で行かせるなんて言語道断です!」

 

「……もしかして、もう一度跳ぶのは避けられないのか?」

 

『諦めろ、ダナム。指揮官命令だ。跳べ』

 

「す、帥叔……そんな殺生な……」

 

 二度あることは三度ある。三度目の地獄も、必然であったのかもしれない。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

「ここがグリッド086の屋上か! 凄いなあ、空があんなに近くにある!」

 

「良かった、コンテナは相変わらず放置されてる。乗りやすそうなのは……」

 

 そして四人は遂に屋上へと辿り着いた。空を見上げ、焼けた空に目を輝かせるツィイー。まず真っ先に自分が飛ぶためのコンテナの確認をする621。そして――

 

「「きゅう……」」

 

――気絶したオッサン二人。三度目の正直、とも言う。三度目のGは、ラミーのみならずダナムまでも気絶させてしまった。全く手の掛かるオッサン二人である。

 

『ビジター、カーゴランチャーの操作はアタシに任せな。二度目だもの、遠隔でも完璧にやって見せるさ』

 

「ああ。信じてるよ、カーラ」

 

『ツィイー、ダナム、ラミー。君たち三人は引き続きベリウス地方で企業の相手をしてもらう。レイヴンを送り届けたら、再度地上に戻ってくれ』

 

「了解です、帥叔。ダナムとラミーにも、起きたら伝えておきます」

 

『助かる』

 

 ツィイーたちとはここでお別れだ。621のお陰で戦局がルビコニアン側に傾いたとはいえ、まだまだアーキバスの戦力は多数残存している。三人の力はまだまだベリウス地方で役立てた方がいい。それがフラットウェルの見立てであった。

 

「レイヴン()()!」

 

「!」

 

 コンテナを改めていた621に、ツィイーは声をかけた。

 

「今回は、本当にありがとうございました!」

 

「いやいや、俺はただ戦っただけさ。そんな大したことは――」

 

「それでも! あなたのお陰で、私たちルビコニアンは! きっと勝てるって! まだ見ぬ自由を掴めるって! 信じられた!」

 

「……」

 

 相変わらず自分は戦うことしかできないと、そう自認していた621であったが。それで守れるものが、大切な人たち以外にもあるのだと。目の前の真摯な少女に、そう教えられる。

 

「中央氷原に渡っても、どうか、どうか! ご武運を――

 

ガァァァァァァアン!!!

 

――きゃあっ!?」

 

「っ! 今のは!?」

 

 突如としてグリッド全体が揺れる。企業という奴は、どうしてこうも無粋なのだろうか。感動的な別れになるはずだったのに、とんでもない大水をぶっかけてくれたものだ。

 

「一体誰が――!」

 

 621は、空に見た。赤い空を悠々と飛び、レールキャノンでグリッドを狙う影たちを。

 

「強襲艦!」

 

 エクドロモイすら生産するようなタブーを犯したアーキバスが、強襲艦の増産をしていないはずがない。グリッド086から中央氷原に向かう方面の空に。まるで621を通せんぼするかのように浮かんでいる十数個の影。それらは全て封鎖機構の強襲艦であった。

 

ガァン! ガァン! ガァァァアン!!!

 

「うわっ!? アイツら、グリッドそのものを壊す気か!」

 

 十数機の強襲艦は、グリッド086に絶え間なく船底レールキャノンを浴びせ続ける。以前の無傷なグリッド086ならともかく、今の例のパーティのせいでボロボロのグリッド086なら、レールキャノンの飽和射撃で十分に壊せてしまう。

 言うまでもないが、グリッド086そのものを壊されたらカーゴランチャーも崩落し、中央氷原へ飛ぶ手段は無くなってしまう。

 

「だからと言って、この距離じゃあ……!」

 

 強襲艦は余程621を警戒しているようだ。ACの武装やアサルトブーストでは届かない遠距離から、一方的にレールキャノンを撃ち続けている。

 

「カーラ! このままじゃまずい! 無理矢理にでも飛べないか!?」

 

『いや、駄目だ! 今アンタを飛ばしたら、迎撃手段のないコンテナで艦隊の中に突っ込むことになる! いくらビジターでも、そうなったらどうしようもない!』

 

 先にも述べた通り、艦隊が位置しているのはちょうど中央氷原へのルート上だ。無理矢理突っ切ろうとすれば、集中砲火を浴びて粉砕されることになるだろう。

 いくら621とて、回避も迎撃もできないコンテナでは何もできない。

 

「クソッ! 打つ手はないのか!」

 

『いいや、備えはある』

 

「フラットウェル!? 備えって一体――」

 

『アイボール起動! 目標、アーキバス攻撃艦隊! 奴らを撃ち落とせ!』

 

『了解! コーラルよ、ルビコンと共にあれ!』

 

 聞き覚えのある声と共に、眩い青い光条が赤い空を裂く。文字通り光速で空を横切ったソレは、強襲艦を纏めて四機ぶち抜き、爆散させた。

 

「あれは、()()()()()()!?」

 

『久しぶりだな、レイヴン。あの時(04:分水嶺)の恩を返しに来た。共に、勝利を!』

 

 なんとそこに立っていたのはあの武装採掘艦、ストライダーであった。四度目では、ストライダーは落ちていない。他ならぬ621が防衛したからだ。それが今、巡り巡ってアーキバスの艦隊相手に本領発揮するとは。

 

『強襲艦、レールキャノンをこちらに向けています!』

 

『構わん! 奴らの火力では、ストライダーは落ちん!』

 

 ストライダーを先に排除すべき脅威と認識した艦隊は、全機レールキャノンをストライダーに向け、放つ。だが、巨体故の圧倒的防御力は、レールキャノンの雨霰すらまるで豆鉄砲のように弾く。

 この四度目で、621が解放戦線に味方し続けた結果、解放戦線は物的資源において三度目までよりも遥かに潤沢な状態であった。

 であるからして、四度目のストライダーは補給が間に合っている。脚部の装甲の剥離も、以前破壊されたサブジェネレータも、全て修理済み。小回りの効く機体でなければ、破壊はほぼ不可能。

 そして、解放戦線とRaDが手を組んだ際にストライダーを移動拠点として運用し始めたことで、表面に取り付いている護衛のMTの数も爆増。小回りの効く機体だったとしても、乗り込んで内側から破壊するのは難しい。

 結果、ストライダーは無敵の移動要塞として君臨することとなった。

 

『アイボール、チャージ完了!』

 

『よし! 集まっているところにぶち込め!』

 

 最大チャージされたアイボールが、艦隊を薙ぎ払うように右から左へレーザーでぶち抜く。巻き込まれた六機の強襲艦が、真っ二つに割られて落ちていく。

 ACやMT相手には過剰火力だったアイボールも、強襲艦相手なら適正火力だ。艦橋を攻撃しなければ破壊できなかったはずの強襲艦を、真正面から装甲をぶち抜き、沈めていく。まさに、圧倒的。

 

『ビジター、今なら行けるよ! さっさとコンテナに乗り込みな!』

 

「ああ!」

 

 強襲艦はストライダーのアイボール部分が弱点と見て、そこに対艦ミサイルを撃ち込む。その見立ては間違っていないが、しかしミサイルは四機のサブジェネレータが生み出すシールドに阻まれ、アイボールに届く前に爆散していく。

 そして反撃に撃ち込まれたアイボールのレーザーに飲み込まれ、三機の強襲艦が消滅する。もはや、強襲艦など脅威ですらない。

 

『角度よし! エネルギー充填オーケー! ビジター、衝撃に備えな!』

 

「もうやってる!」

 

『着弾予想地点にフレディと六文銭を送ってある。現地に着いたら合流してくれ』

 

「了解! ありがとう、フラットウェル!」

 

 既にLEAPER4はコンテナに乗り込み、カーゴランチャーも準備完了。あとは中央氷原まで一瞬だ。

 

『『『レイヴン!』』』

「レイヴンさん!」

 

 その土壇場で、621に通信が繋がる。アーシルが、ジャガーノートのパイロットが、ストライダーの艦長が、そしてツィイーが。同時に通信を繋げていた。

 

『『『「ご武運を!」』』』

 

「ああ! お前たちも、ご武運を!」

 

 通信越しに取る、互いの無事を祈った敬礼。見えなくとも、気持ちは伝わる。直後――

 

「ッ!!」

 

 コンテナ射出。赤い空を超えて、鴉は更なる戦場へと飛び立っていった。

 




621
 紡いできた縁に助けられ、中央氷原まで背中を押されて行った鴉。四度目での足掻きは、決して無駄ではなかったのです。

LEAPER4
 ついに戻ってきた我らが621の愛機。早速無茶ぶりされているような気がしないでもない。

リトル・ツィイー
 もう普通に強者側。GOU-CHENリロード係で終わるような器ではありません。多分本作で一番強化された人。解放戦線の未来は明るい。

インデックス・ダナム
 情けないオッサンその1。多分今回の話で一番の被害者。何が悲しくて絶叫マシンLV100みたいなのを三回もやらされなければいけないんですかねえ……。
 こんな職人を前線に出すなと思う反面、それでもアリーナに登録されているということはAC乗りの中では上澄みの方で、だから戦力に乏しい解放戦線としては前線に出さざるを得ないというフロム脳が……いや、やっぱ前線に出すな。

インビジブル・ラミー
 情けないオッサンその2。爆散芸人。原作から強化されたはずだが、まあこの激戦区ならこうなるよねって。でも生きてる。やはり無能生存体か。

カーラ、フラットウェル
 ルビコニアン連合軍の二大指揮官。要所要所でサポートが光る。

アーシル
 行間でLEAPER4のアセンを621の注文通りに組み替えるという必要不可欠な大活躍をしてたりします。ある意味今回の一番の功労者かも。

ジャガーノート
 お前ら絶対忘れてただろ枠その1。ジャガーノートは「2機」あったッ! あの巨体であの速度なら、足としての活用もできることでしょう。

スマートクリーナー
 お前ら絶対忘れてただろ枠その2。あの歓迎パーティーの大トリが、まさかの再登場。でも本編でも“動力ブロック破壊”で二度目の登場を果たしてたからね。

ストライダー
 お前ら絶対忘れてただろ枠その3。四度目では健在であり、必然的にベリウス地方での戦いに駆り出されました。AC相手にはでくの坊だったストライダーも、強襲艦相手ではオーバーキルに。頼もしすぎる。

ルビコニアン連合軍
 BAWSとRaDの両方の戦力で連携できるので、滅茶苦茶強い。でも、アーキバスが後述するようなズルをしてるので、621復活前の戦況は結構厳しかった。

アーキバス
 封鎖兵器の自社生産により、ルビコンでは凄まじい大勢力を築くことに成功。でもこれが封鎖機構にバレた瞬間、本社が総攻撃を受けて荼毘に付します。
 なのでその前にコーラルを確保しなきゃ破滅確定ェ!な可哀想な会社。いやこれ自業自得だな。可哀想でもないな。

 ということで激戦のベリウス地方。中央氷原よりはマシとはいえ、こっちもこっちでだいぶ凄まじい激戦になっています。まあでも621がGOU-CHENマシンガンしたせいで大勢は決したんだけどな!
 次回は中央氷原にて、エア救出作戦。終盤に名前の出てたあの二人と一緒に、オールマインドに殴り込みをかけます。乞うご期待。







































「行っちゃったね、レイヴン」

『ああ。短い間だったが、本当に鮮烈な体験だったな』

 ツィイーとアーシルが、彼の飛んでいった方向を眺めながらしみじみ呟く。最強の傭兵と、一時とはいえ共闘したのだ。今でも夢のように感じていた。

『中央氷原はここ以上の激戦と聞いてるが、大丈夫だろうか?』

『問題ない。あのレイヴンに限って、負けることなど有りはせん』

 ジャガーノートのパイロットが心配するも、すぐにストライダー艦長が否定する。艦長は“ストライダー護衛”の時に、彼の活躍を直々に見ていたのだ。こういう感想にもなろう。

『ビジターがこっちに到着すれば、いよいよもって本番ってとこだね』

『コーラルエンボディも、限りなく実現可能性が高まる。ここが踏ん張りどころだな』

 カーラとフラットウェルは、621が動くことで今後の戦況がどう動いていくかを考える。最終目標は飽くまでもコーラルエンボディ。そこまで持って行けるだろうか。いや、行かせてみせる。
 そう意気込む二人であったが、しかしそこであるはずのモノがないことに気付いた。

『なあ、ツィイー』

「はい? カーラさん、どうかしましたか?」

『ダナムとラミー、どこ行った?』

「え?」
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