『独立傭兵レイヴン、貴方に引き受けてもらいたい作戦がある。内容は、我々の重要拠点、「壁」の防衛。
先立って行われたベイラムによる襲撃は何とか撃退したが、その戦いで我々も少なくない数の同志を失った。今、壁の守りには穴が開いている。このままでは、アーキバスによる第二の襲撃には耐えられないだろう。そこで、貴方にはその穴埋めを依頼したい。
諜報部からの情報によれば、アーキバスはヴェスパー部隊による挟撃を計画している。前方の街区をV.I フロイトで、裏手の方をV.IV ラスティで攻撃するつもりのようだ。
貴方には、裏手の防衛を頼みたい。我々の部隊がV.Iを足止めしている間にV.IVを撃退、然る後に壁上で我々の部隊と合流、共にV.Iを討ってもらいたい。
……ヴェスパー部隊の番号付き二人が相手だ。厳しい戦いになるだろう。だからこそ、貴方の助力を得られることを願う』
(……まさか、こうなるとは)
ブリーフィングを確認した621は、天井を見上げて息を吐く。ストライダーを守り切ったら、今度は「壁」の防衛と来た。考えようによっては、“壁越え”よりも厳しい戦いになるかもしれない。
(一応ウォルターは受けるかどうかは自由って言ってくれてるけど……)
621がこの依頼を受けなかった場合、ウォルターがV.II スネイルに営業をかけて621を“壁越え”に組み込ませるらしい。つまり、三度目までと同じことが起きるということだ。
(だけど、今回は徹底的に解放戦線の味方をするって決めたんだ。だったら、受けるしかないだろ)
今回は「壁」を守る。621はそう選択した。
(だけど、壁を守るということは……ラスティと戦うことになるんだよな)
それが一番の懸念点であった。V.IV ラスティ。三度の生で、幾度も共に戦い、そして時には袂を分かつことになってしまった戦友。三度とも最終的には死んでしまった、621の大切な人の一人。
(最優先はエアとウォルターだけど……できることなら、ラスティにも生きていて欲しい)
四度目の鴉は欲張りだ。それが無茶であることは重々承知しているのに、それでも願うことをやめられない。
だから決意する。今回の戦いでは、ラスティは無力化するにとどめる。武装や両腕だけ破壊すれば、きっとラスティも撤退を選んでくれるだろう。
(ラスティに関してはこれでいい。もう一つの懸念点は――)
V.I フロイト。彼とはまだ一度しか戦ったことがないが、その一度は621に強烈な印象を焼き付けた。
『安そうな方から片付けよう』
『……ボス、ビジ……ター……』
「っ!」
一度目の生。空の上で繰り広げられた、企業との最終決戦。そこで殺された大切な“人”。なんだかんだで彼のことは好きだった。自分の“母”について楽しそうに話す彼の声色には、自分がウォルターに抱いているものと似たような何かが感じられたから。
二度目、三度目では自らの手にかけることになってしまったが、できるならやり直したいと、ずっと思っていた。
(そのチャンスが、今ここにある……!)
そのためにも、フロイトは確実に殺す。そう621は決心したのだった。
◆◆◆◆◆◆
「621、どの勢力に付くかはお前の自由だが――」
コックピットで出撃準備を進める621に、ウォルターが通信で話しかける。
「俺たちの目的は、解放戦線のそれとは相容れないものだ……あまり、入れ込むな」
「……『わかってる』」
ウォルターの目的は、表向きは集積コーラルへの到達。そして、本当の目的はコーラルの殲滅。どちらにしても解放戦線とは敵対することになる。
だから、
「だが、好き嫌いというのは誰でも持っている基本的な感情だ。それに従うことは、決して悪いことではない」
それでも、人間としてのウォルターは、621が人間らしくなっていくことを喜ばずにはいられなかった。自分の意思で誰に味方するかを選ぶなど、この世界においては大人ですら難しいことなのだ。
それを彼は為している。まともな親もいない環境で育ったのに、この年で。それはきっと、褒められるべきことだ。
「……『ウォルター、行ってきます』」
「ああ、行ってこい。お前の価値を見せてやれ」
ヘリが開き、LEAPER4が投下される。
R-ARM UNIT:
L-ARM UNIT:
R-BACK UNIT:
L-BACK UNIT:
HEAD:HC-2000/BC SHADE EYE
CORE:BD-012 MELANDER C3
ARMS:AR-011 MELANDER
LEGS:LG-012 MELANDER C3
BOOSTER:ALULA/21E
FCS:FC-008 TALBOT
GENERATOR:VP-20C
EXPANSION:ASSAULT ARMOR
ラスティは撤退させ、フロイトは確殺する。そんな難問に対して621が出した答えがこれだった。リニアライフルは、命中精度が良く、威力の調節も効く。武装破壊や部位破壊には持ってこいだろう。
そして、それ以下の武装については特に言うことはない。ただ殺すためだけに、一番使い慣れている装備を持ってきただけだ。
『メインシステム、戦闘モード起動』
機体と感覚を同調。視界が頭部カメラのものに切り替わり、「壁」の裏手の様子がはっきりと見える。
こちら側の防衛戦力は、MTが少々と621一人。それで全部だ。
「街区の主力部隊を迎撃するために、戦力の大半はそちらに回しているようだな。それだけV.Iを警戒しているということか」
ウォルターの言葉には、621としては納得しかない。先にも述べた通り、621はV.Iとは一度しか戦ったことがない。しかし、その一度が凄まじいまでの死闘であった。
当時の621が全力を出し尽くして、それで漸く僅かに上回れただけのバケモノ。そのくせあのバケモノは本気を出しているようには見えなかった。あまりにも底が見えない。
そんなものを相手にする以上、戦力なんてものはいくらあっても足りない。このような戦力配置になるのも当然であった。
(だけど、勝機はある)
フロイトは確かにバケモノだが、しかし彼は大体いつも手を抜いているという。曰く、
(今回のこちらの戦力は、ジャガーノートを除けば数だけの防衛部隊と新人の傭兵一人。奴が本気を出すには、きっとまだ全然足りない)
だから、彼は本気にはならない。本気でさえなければ、十分に対応できる。
(それに、あの時の俺は一度目だったが、今は四度目だ)
あの戦いで、621は確かに彼を上回った。それから二度、三度と生を重ね、傭兵としての技量がさらに上がった今なら、勝てないことはない。
(そうだ、今ならきっと……殺せる)
621は静かに殺意を迸らせる。
「621、敵の反応だ。アーキバスが来たようだな」
ウォルターの通信で、621は考えるのを止めた。まずはラスティと戦うのだ。いつまでもフロイトのことを考えているわけにはいかない。
「V.IV ラスティを確認。情報通りだ」
遠方に青いACが見える。細身のシルエットを持つ、シュナイダーフレーム。間違いない。ラスティのAC、スティールヘイズだ。後ろに何機かMTを連れているが、そんなものは621の視界には映っていない。
「なるほど……あれが噂のレイヴンか」
通信に入ってきた聞き慣れた声に、621は一瞬喜びかける。だが、今は敵同士なのだ。浮ついている場合ではない。
「あのハンドラー・ウォルターの子飼いらしいな。その実力、見せてもらおうか」
スティールヘイズがアサルトブーストを起動。621に急接近する。ならば、こちらもアサルトブースト。スティールヘイズとLEAPER4が急接近し、お互い同時に蹴りを放つ。
「「っ!」」
同時に機体を揺られ、二人して苦悶の表情を浮かべる。周囲に金属同士がぶつかる重低音が響き渡る。
それを合図として、アーキバスと解放戦線のMT部隊が交戦を開始。「壁」を巡る戦いは、ついに火蓋を落とされたのだった。
621
ラスティにもチャティにも生き残ってほしい欲張りな鴉。殺してやる、殺してやるぞフロイト!
ウォルター
ハンドラーたらんと振る舞ってるつもりだが、どう転んでもパパな人。コーラルに到達するために621には傭兵として振る舞ってもらいたいが、しかしそれ以上に621が人間らしくなるのを喜んでしまうというジレンマ。
V.I フロイト
知らない間に621の最優先殺害対象にされてしまった可哀そうな人。でもお前チャティを馬鹿にしたし、やっぱり残当。
V.IV ラスティ
俺たちの戦友。今回はまさかの初手敵対。でも解放戦線のスパイな彼にとって、今回の621の行動はむしろ好感度高いかもしれない。
ということで今回は「壁」防衛戦の直前まで。621の基本方針は、ウォルターとエアが最優先、でもそれ以外の大切な人たちもできる限り生かすという感じ。ラスティも当然大切な人枠に入っています。
次回はもちろんVSラスティから。621は彼を無力化できるのでしょうか。