四度目の鴉   作:Astley

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06:鴉である前に

 機体(身体)のぶつかり合いから始まった戦いは、お互いが距離を離すようにクイックブーストをしたことで射撃戦へと移行する。

 スティールヘイズはハンドガンとバーストライフルを、LEAPER4はリニアライフルを構え、一定の間合いを保って互いに円を描くように旋回する。伝統的な中距離射撃戦の動きだ。

 そのまま互いにトリガーを引く。二機の間を銃弾が飛び交う。一発一発がACの装甲を削るほどの威力の弾をまき散らしながら、しかし二機はさながら踊るように舞い回る。

 時にクイックブーストを、時にジャンプを織り交ぜ、FCSの予測射撃を外させる。

 時折スティールヘイズがプラズマミサイルを、LEAPER4が10連ミサイルを放ち、片方が切り返して逆回転を始めれば、相手も合わせて切り返す。お互いに近接戦を避け、徹底して観察と牽制に終始している。

 しかし、そんな一見互角に見える銃撃戦は、その実蓋を開ければ一方的な様相を呈していた。

 

(なぜだ!? なぜこうも当たらない!?)

 

 ラスティは心の中で焦る。味方のMT部隊を動揺させないよう、表向きは平然とした顔で銃撃戦を続けるが、その実内心では凄まじい焦燥を抱えていた。

 何せ、明らかに向こうの方が被弾が少ない。スティールヘイズはハンドガンとバーストライフルの二門を撃ち、LEAPER4はリニアライフル一門しか撃っていない。単純計算で二倍の物量。であるならば、まともに撃ち合ったのならばLEAPER4の方が被弾は多くなるはずである。

 しかし、現実はそうなっていない。621の放つ弾は吸い込まれるようにラスティに当たり、ラスティが放つ弾はいつも毎回当たりそうで当たらない。もちろん、いくつかはLEAPER4に当たるが、大半はギリギリで装甲を掠めるだけだ。

 この手品の種は、621がその軌道に織り交ぜた緩急にあった。ACのFCSは、相手の速度と移動方向から一瞬先の相手の位置を予測し、そこに弾を撃つように出来ている。だから、予測中に速度が変化すれば当然弾は外れていく。

 621はそれを相手に気付かれないくらいにスムーズに行っていた。時には速く、時には遅く、緩急をつけてブーストを吹かす。速度と方向は流動的に変化し、FCSを騙す。だから当たらない。三度の傭兵人生を経て、FCSの仕様を熟知した621だからこその技であった。

 しかし、ラスティの焦燥を駆り立てているのはそれだけではない。ラスティは視界に表示されたスティールヘイズの損傷状況を見る。

 

(さっきからやたらと左腕にばかり弾が当たっている。偶然か? それとも――)

 

 621が放つリニアライフルの弾は、何故かスティールヘイズの左腕にばかり直撃している。おかげで左腕だけ装甲が剥離し、内部機構が見え始めている。

 

(このままでは左腕が……)

 

 それは非常にまずい。スティールヘイズの機体構成は、右手にバーストハンドガン、右肩にプラズマミサイル、左肩にウェポンハンガーを搭載することで左腕でレーザースライサーとバーストライフルを使い分ける、というものだ。

 つまり、火力が左側に偏っている。左腕を失えば、それらが全て使えなくなるのだ。

 

(もう少し観察したかったが、やむを得まい!)

 

 ラスティは()()()()()のために、レイヴンを見極める必要があった。だから、消極的な射撃戦で彼の戦闘スタイルを引き出し、そこからその人となりにまで迫ろうとしていた。

 だが、最早それも限界だ。まさかV.IVたる自分が、ただの牽制合戦でここまで差をつけられるとは。そんな衝撃を押し殺し、アサルトブーストを起動する。

 ブースト中に左手をレーザースライサーに持ち替え。間合いに入った瞬間に起動。慣れた手つきで振り回す。

 初撃は外れた。ギリギリで反応され、後ろへと躱された。しかし、レーザースライサーは目にもとまらぬ連撃こそが売り。このまま前へと踏み込み、回転するスライサーの刃がLEAPER4を捉え――

 

「っ!」

 

――なかった。もう一度振る。当たらない。さらにもう一度振る。当たらない。さらにさらに――

 

「馬鹿な、当たる間合いのはずだ!」

 

 相手がただ後ろにクイックブーストをしただけなら、こうはならない。間合いが離れたことを確認してスライサーによる攻撃を中断、再び間合いを詰めるか射撃戦に移行するかしていたはずだ。

 しかし、今回はそれができなかった。なぜなら、LEAPER4が当たる()()の間合いの内にずっといたから。

 当たるはずの距離にいる、だからラスティは次こそ当たると判断して一歩相手に踏み込む。踏み込んでしまう。同時に621は一歩後ずさる。相手が踏み込むタイミングを完璧に把握し、合わせて後ろに下がる。だから、当たるはずの距離で当たらない。いつまでたっても、()()()()()()()()()()()。だから振り続けてしまう。

 

(そろそろか)

 

 621はレーザースライサーの連撃を躱しながら、そのタイミングを計る。ラスティがあの武装を振るう姿は何度も見てきたし、何なら自分で使ったこともある。故に、そのタイミング管理は完璧だ。

 

「オーバーヒート! ここでか!?」

 

(今!)

 

 レーザースライサーの刃が消えると同時に、LEAPER4のパルスブレードが発振。スライサーを振りぬいた直後の無防備な左腕に、その刃を押し当てる。

 

「左腕が!?」

 

 内部構造が露出するほどのダメージを受けていたところに大出力の高周波振動をぶつけられれば、いかに強固なACパーツと言えども耐えられるものではない。

 621は駄目押しにリニアライフルを構える。パルスブレードを振るう間にチャージしていたのだろう。その銃口からはオレンジの光が溢れている。

 果たして轟音と共に放たれたチャージリニアの弾丸は、正確にスティールヘイズのプラズマミサイルを撃ちぬいた。

 ミサイルが誘爆し、発生したプラズマフィールドがスティールヘイズ自らを焼く。

 

「……これ以上は無理か」

 

 残された武装はハンドガンのみ。これではあまりにも火力が心許ない。対するLEAPER4はいまだ健在。勝ち目は無かった。

 

「総員、撤退だ! 責任は私が持つ!」

 

 その言葉を受けてアーキバスMT部隊が下がっていく。同時にラスティもアサルトブーストを起動、戦場を離脱する。

 621はただその背中を見送っていた。

 

(すまない、ラスティ)

 

 内心で彼に謝罪する。621は知っている。彼は解放戦線のスパイだ。そんな彼が自身の同胞を手にかけてまでアーキバスに潜り込もうとしているのに、今回の戦いで自分はそれを邪魔してしまったかもしれなかった。

 どんな組織であろうとも、入り込むには実績が必要だ。それを自分は奪ってしまった。それも、殆ど()()とも言える方法で。

 

(万一にも殺したくなかったから、今まで見てきた動きを全部思い起こして完璧な対策を立てて臨んでしまったけど……それでラスティの立場が悪くしてしまったのなら、嫌だな)

 

 621は三度の人生の中で、何度もラスティと深く関わってきた。合計7回の共闘と、4回の対決。それだけあれば、動きも戦い方も、何もかも覚えられる。

 だからこその、一方的な蹂躙。ラスティを撤退させるという目的は達成できたのに、どこか虚しさを感じる自分がいた。

 

「独立傭兵レイヴン、どうした? 何かトラブルでも?」

 

「! 『いや、問題ない』」

 

 呆けたままラスティが撤退した方角を見つめていたら、解放戦線のMT乗りにな声をかけられた。こんなんじゃいけない。まだ仕事は残っている。

 

「621、V.IVは退けたか。この後に壁上の部隊と合流し、V.I フロイトを迎撃する手筈となっている。その前に補給をしておけ」

 

「『わかった』」

 

 ウォルターの言葉に従い、621は飛んできた補給シェルパを使う。殆ど減っていないAPとそれなりに消費した弾薬を補充し、壁上での決戦に備える。そんな折、ふと解放戦線のMT部隊の会話が聞こえた。

 

「街区の方は大丈夫なのだろうか? 相手はあのV.Iだが……」

 

「厳しいだろうな。だからこそ、壁上でジャガーノートと一緒に奴を迎え撃つんだ。あれならば、V.Iとてそう簡単には突破はできない」

 

「そうだな! それに、レイヴンもいる! これは勝てる戦いなんだ!」

 

 戦場で繰り広げるには呑気が過ぎる会話だが、今の621には有難かった。他人に頼られる喜びが、この心の穴を少しだけ埋めてくれるような気がした。

 

 

 

ドガァァァン!!!

 

 

 

 その瞬間、爆発音が響き渡った。

 

(今のは!?)

 

 621は音の発生源を探る。今の音は、上の方から響いてきたように感じられた。LEAPER4の頭部が壁の上へと向く。

 そこには、何かが黒煙を吹いて燃えているのが見えた。

 

(あれは、ジャガーノート!?)

 

 三度も見たことがあるので、遠目でもわかる。重装機動砲台ジャガーノート。壁を難攻不落なものとしてきた防衛の要。二度目三度目ならともかく、一度目の生では621ですら大苦戦を強いられた、そんな強力な兵器であったはずだ。

 それが、無惨な残骸となって転がっている。

 

(こんなことをできるのは、一人だけだ!)

 

 果たして、想像通りのモノが壁上から降りてくる。藍色の中量二脚型AC。アーキバスの所属でありながら、敵対関係にあるベイラムグループのパーツも採用しているその姿は、搭乗者がそれを企業に認めさせられるほどに強力であることを示している。

 

「はあ……やはり、こんな任務受けるべきではなかったな。あんなものを有難がるなんて、解放戦線も高が知れる」

 

 馬鹿にしたような口調と共に降りてきたその人こそ、V.I フロイト。ACネーム、ロックスミス。アーキバスの最高戦力が、621たちの前に降り立った。

 

「ば、馬鹿な! あの短時間で、ジャガーノートを落としたというのか!?」

 

「街区の方はどうした!? 通信を繋げ!」

 

 混乱する解放戦線を無視して、フロイトは621を見据える。

 

「さて、ウォルターの猟犬。お前なら楽しませてくれるか?」

 

「……!」

 

 621の歯に、無意識のうちに力が入る。やはり、こいつは嫌いだ。その強さに理由がない。何の感慨もなく、目の前にあるものを全て焼き尽くす。かつて大切な人たちの一人も、その犠牲になった。

 

(ここで、殺すしかない!)

 

「……こうなっては仕方がない。621、応戦しろ」

 

 ウォルターからの許可も貰った。躊躇う理由はもうない。殺意を剥き出しにし、アサルトブーストに火を入れる。

 

「レイヴン、我々も援護を――!」

 

「『必要ない、逃げろ』!」

 

 一拍遅れてMT部隊が参戦しようとするが、621はそれを断る。いたところで足手纏いになるだけだ。無駄に命を散らす必要はない。

 

「雑魚から片付けるか」

 

 そんな621の思いは、フロイトのそんな一言と共に引き裂かれた。ロックスミスの左肩から六機のドローンが展開され、次々にMT部隊を撃墜していく。

 

「ぐわっ!!」

 

「駄目だ! 避けられん!?」

 

「っ!!」

 

 彼らの断末魔が聞こえる。胸の内に沸々と湧き上がる何かに任せ、パルスブレードを起動、ロックスミスに向けて振りかぶる。

 フロイトは即座に反応して後ろにクイックブースト。あっさりと躱されてしまった。

 

(感情任せに振るっても、当たるわけがない……!)

 

 621の衝動的な行動の代償は、至近距離からの拡散バズーカという形で支払わされた。衝撃でコックピットが揺れるが、構わずロックスミスに肉薄。

 パルスブレードは冷却中、故にブーストキック。これも横に回避されるが、即座にクイックターン。距離を取ろうとするフロイトに全力で張り付く。

 

「お前の戦い方……これは、犬か?」

 

 飽くまでも余裕な様子のフロイトに、621は再び頭に血が昇りかける。だが、ついさっきそれを咎められているのだ。今度こそロックスミスに蹴りをお見舞いした621は、一度冷静に距離を取って様子見に徹する。

 

「いや、犬じゃないな。犬ならもっと獲物に執着する」

 

 フロイトが何か言っているが、621は無視。リニアライフルと10連ミサイルで弾幕を張る。

 

「今度はこちらから行くぞ」

 

 しかし、フロイトは構わずアサルトブーストで前進。ミサイルはギリギリで避け、リニアライフルは無視。そのまま左手のレーザーブレードをチャージする。

 それに気付いた621は咄嗟に膝を曲げ、跳躍。レーザーが水平に薙ぎ払われ、LEAPER4の爪先が焼ける。

 空に逃れた621に、今度はレーザードローンが襲い来る。それらはいつの間にかLEAPER4を囲むように配置されていた。

 621はブーストを駆使してそのまま空をふわふわと飛び周り、ドローンによる攻撃を躱す。地面には降りない。地上では拡散バズーカを構えたフロイトが待ち受けているからだ。

 

「やはり、犬ではないな。これは、鳥か?」

 

 空中での回避を強要され、エネルギー残量がかなり心許ない。このままでは地上に落ちて、拡散バズーカやレーザーブレードを叩き込まれかねない。

 そう判断した621は、近くの建物にクイックブースト。そのまま建物の壁面に足をつけ、蹴る。武装採掘艦護衛で習得した壁蹴りを、早くも実践投入したのだ。

 LEAPER4は勢いよく跳躍し、エネルギーを使うことなく高速で飛翔。心許ないエネルギーで、何とかドローンを振り切った。

 

「鳥ではないな。飛ぶ鳥は壁を恐れるはずだ」

 

 621は空中で連装グレネードを構え、発射。一発目は避けられるが、回避先を読んで放った二発目がロックスミスの近くに着弾し、その装甲を焼く。

 フロイトは、621はこのまま地上に落ちてくることはないと判断して、アサルトブーストで飛ぶ。

 今度はフロイトが距離を詰め、621が離す番だ。フロイトはアサルトライフルで的確に621を狙いながら宙を翔ける。

 対する621は、建物から建物へと跳び移りながらリニアライフルを撃つ。地面につくことなく、それでいてエネルギーに余裕を持たせたまま空を駆ける。

 

「そんな動きもできるのか。この戦い方は猿か? 少なくとも鳥ではないな」

 

 興奮気味なフロイトの声を無視してひたすらに壁を蹴る。

 壁蹴りは確かに素早く移動できるが、アサルトブーストから逃れられるほどではない。徐々に距離が詰まっていく。フロイトは今度こそ真っ二つにしようと、レーザーブレードをチャージする。

 だから621は再び壁を蹴った。

 

「へえ……!」

 

――下方向に。LEAPER4が地面に向かって弾かれ、ロックスミスの足元に潜り込む。今まで散々空を飛ばれていたところに急に下方向に逃げられて、流石のフロイトも反応が遅れた。

 621はそのままロックスミスの下をくぐってその背後を取る。パルスブレードを起動、二連撃。背後からの急襲には対処できず、この戦いが始まってから初めてまともに攻撃を食らった。

 

「なるほど、猿ではないな。猿はもっと地面を忌避する」

 

 直撃を受けたのに、フロイトはその余裕を崩さない。LEAPER4から距離を取ると、クイックターンで向き直る。

 一息では踏み込めない間合いを保ち、二機のACが睨み合う。お互いがお互いの次の行動を見逃すまいと構えて、それ故にお互い動けない。

 そんな中で、フロイトは漸く得心がいったとばかりに声を上げた。

 

「ああ、そうか。やっとわかったぞ。お前のその戦い方――

 

 

 

――人間だ」

 




621
 鴉である前に人間であるタイプの猟犬。ラスティがACVIをやってる中、突然ACLRとAC3SLをプレイし始める駄犬。ラスティに酷いことをしちゃってションボリ。でもフロイトは殺す。

V.IV ラスティ
 見極めようとしたらボコボコにされてしまった戦友。でも、
「壁越え」×3
「旧宇宙港襲撃」×3
「動力ブロック破壊」×1
で7回共闘、
「未踏領域探査」×3
「カーマンライン突破」×1
で4回対決して、知らないうちに手の内を621に全部見せてしまっているので、これはしゃーない。やはり時間遡行はチート。

V.I フロイト
 本任務における621の最優先抹殺対象。最強のエンジョイ勢。ジャガーノートが弱くてガッカリしていたら、なんか凄い動きをする傭兵を見つけてウッキウキ。
 ゲームと比べて実力が盛られまくってる気がするが、まあトップランカーだしこんなもんでしょ。

ジャガーノート
 爆散しました。共闘を期待していた方、申し訳ない。

 ということで壁守り前半戦。残念ながら戦友の活躍シーンはまだ先になります。相手が悪すぎた。
 フロイトはちょっと強さを盛りすぎたかもしれない。真人間とは一体……ウゴゴゴ……
 次回はフロイトとの決着。果たして621は彼を抹殺することができるのか。
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