ジト目三白眼メンタルつよつよ不遜ロリ系TS転生者 作:じとい
今更言うまでも無いが、私は転生者である。
いわゆるTS転生者、前世は男だったのに、女として生まれ変わってしまった哀れな転生者である。
まぁ、そもそも前世からして大した人生でもなかったけれど。
まさか女に生まれ変わってしまうとは、どんな因果だと一言物申したくはある。
私の意識がこの世界で目覚めたのは、とある森の中だった。
ボロボロの布切れを身にまとい、人の住めそうにもない場所に打ち捨てられていたのだ。
はっきり言って、転生したのにそのまま餓死するんじゃないかというような状況だが、そうはならなかった。
森の住人に助けられたのだ。
後に知った話だが、その森は“魔女”が住む森と言われている。
私を助けたのは、その魔女本人だ。
魔女、と言われる割に善良なその女性は私を助けると、私に住処と食事を与えてくれた。
私としても、危うく死んだ後にまた死にかけるところだったから、そのことには感謝しかない。
それから魔女――私は先生と呼ぶことにした――先生は私にこの世界での生き方と戦い方を教えてくれた。
魔女と言われるだけあって、先生はそれはもう強かったが私の身体も少しばかり他人とは違っていた。
魔力量が尋常でないほどに多かったのだ。
意識して抑えないと、体中から魔力が溢れ出してしまうほどに。
このとき、溢れ出した魔力が刃のように周囲を切り裂いてしまうことから、私は後に“魔刃”という二つ名を与えられることになるのだが。
そう考えると、私が捨てられた理由も納得がいく。
普通の人生を送るにはあまりにも不自由すぎる特性だろう。
先生に預ければ、もしかしたら人の世界で生きていく方法を見つけられるかもしれないから――
なんとも、夢見がちというか、偽善的な考え方だ。
まぁ、その御蔭で今の私がいるので、私を捨てた両親には感謝の気持ちもあるのだが。
とにかく。
先生から魔力を制御する方法と、戦い方、それからこの世界の常識を教わった。
言葉遣いはいいから、せめて一人称は女性らしくしてくれ、とかね。
ただ、今にして思うと前者二つはともかく、最後の常識っていうのは正直失敗だったな。
ぶっちゃけ先生が人里で活動していたのはもう何十年も前の話だ。
ただでさえ人外で、寿命が他人よりも長いのに、常識はアップデートされていない。
結果何が起こったか――
ある程度の教育を終えて先生の元を離れた私は、やらかしたのだ。
転生モノには自分の実力を過小評価しすぎて、周囲との認識に齟齬が発生することはよくあることだ。
そして、そんな自己評価で好き勝手やらかした結果が――
この、Sランク冒険者という立場である。
冒険者といえばランク制、ランクの一番下はGとかE、一番上はSというよくあるやつ。
そんな冒険者の頂点に、私は数年で上り詰めてしまったのである。
いやはや、なんか私に対する周囲の評価が妙に高いな、と思ったり、妙に順調に昇格しているなと思っていたが。
まぁ、若気の至りというやつだ。
それから、色々と自己認識を改めて落ち着いた私は、今はSランク冒険者としての身分を伏せて旅をしている。
理由はいくつかある、Sランクの冒険者は目立ちすぎるのがまず1つ。
そのくせ、Sランク冒険者でなければ受けれないような依頼はポンポン転がっていない。
世界はそれなりに平和なのだ。
国同士の戦争とか、先程の野盗とか、ダンジョンとか魔物とか、色々問題はなくもないが。
異世界特有の、滅亡の危機とかは一切ない。
なら、無理にSランクとして振る舞う必要はないじゃないか、という話。
旅をしているのは、まぁいくつか理由はあるけれど、話していると長くなるので割愛する。
ああ、でも一つだけこれまでの説明だけで十分なものがあるな。
“両親の捜索”だ。
私をあの森に置き去りにしたのが誰だったのかを知りたい。
別に、あって感動の再会をしてみたいわけではない。
どういう人物なのか興味があるのだ。
後、先生もそうなのだけど、私も実年齢的にはおそらく20を超えてるだろうに全然成長しない。
多分人じゃないと思うんだけど、両親がわからないので正体も不明なのだ。
そこのところも正直知りたい。
というわけで、私は両親を探したりしながら、旅をしていた。
===
もうすぐ夜更け。
太陽が山の向こうに沈んでいくのを見届けながら、街の関所を警備している衛兵は、一人の少女が森の奥からやってくることに気がついた。
マント姿の、幼い少女だ。
見た目はおそらく十と少し、明らかに一人でこんな場所を旅していい立場ではない。
衛兵が守る街『スワン』は、街そのものはそこそこ治安はいいものの、周囲を森や山に囲まれていて魔物や野盗の潜伏場所として優れた地形をしている。
こんな時間に、一人で森を歩いていれば当然野盗にも狙われるだろう。
それを彼女はくぐり抜けてきたのだ。
マントは雷撃魔術を受けたのか少し黒焦げており、彼女の苦難を示している。
見れば、その相貌は明らかに高貴な血が流れている。
それを見ただけで衛兵は一瞬にして無数の物語を想起してしまった。
ああ、可哀想に。
でも、無事で良かった。
そして、無事だからこそ衛兵は心を鬼にしなくてはならない。
彼女は一人で森を歩くべきではなかった。
それもこんな時間に。
それをきちんと彼女に伝えた上で、無事だったことを喜ぼう。
彼はそう考えた。
――彼女が引きずってきた、あるものを目にするまでは。
簀巻きにされた野盗だった、それも二人。
ええ――
衛兵はドン引きした。
二周り以上違う背丈の男を軽々と引きずりながら歩いてきたのだ。
簀巻き自体もかなり手慣れている様子が見られる。
ドン引きである。
――アイナはここでも見誤っていた。
確かに、自分のような少女が日暮れの時間帯に森の中を歩いていたら心配される。
もしもアイナが野盗を引きずってこなければ、アイナが想像したような対応をされたことだろう。
だが、実際のアイナはこれである。
光景が現実的でなさすぎて、衛兵の脳はバグってしまったのだ。
お労しや……
「あー、ちょっといいか?」
結果、衛兵はアイナに声をかけられるまで動けなかった。
「あ、ああ……こんな時間に何のようかな?」
「中に入って宿に止まりたい、こんな時間だ。流石に私も疲れてるんだよ」
「ど、道理だね……彼らは?」
「道中で襲ってきたからしばき倒した。ついでに処理を頼んでもいいか?」
「しば!?」
しかも、野盗たちをこうしたのは彼女自身だった。
たまたま通りかかった別の旅人に助けてもらったとかではないようだ。
……簀巻きにした男たちを片手で同時にひょいっと持ち上げるのを見て、衛兵は納得するしかなかった。
「街に入っても問題ないか?」
「あ、ああうん……一応、規則で何個か質問をすることになってるけど、問題はないと思うよ……」
結局。
衛兵は規則通りにアイナへ質問をして。
アイナは衛兵に野盗たちを任せると、街へすんなり入ることができた。
言うまでもなく、アイナはそのことを嬉しく思ったが、自分の所業にドン引きされたからだとは気づいていない――
自己認識のズレは転生者の義務。
もちろん今もズレてます、やったね。