ジト目三白眼メンタルつよつよ不遜ロリ系TS転生者 作:じとい
妾は魔女。
魔女アスタロト・キースタック。
魔女の森と周囲から(安易に)呼ばれている森に住まう、悠久を生きる魔女である。
魔女というのは、人間が魔術を極めた結果寿命を超越した存在。
これが男なら“魔人”と呼ばれる。
まぁ、すっごい偉いと思っておけばよかろう。
妾の場合、元は妾の生まれ故郷であった魔術王国――今はもう滅んでしまったが――にて魔術研究をしていた結果、うっかり人間をやめてしまった結果魔女になった。
まぁ、研究には時間がいくらあっても足りないので、別にそのことを悪いとは思ってはないんだが。
ただ魔術王国において魔女や魔人というのは畏怖の対象である。
仮になってしまったらどんな処罰をうけるか分からない。
結果妾は、魔女になった際に消息を絶ち、以来この森で研究をしているというわけじゃな。
本来、あの森に人が訪れることはない。
妾が設置した無数の魔術的トラップにより、中を探索することは敵わないからだ。
流石に命こそ取りはしないが、研究の邪魔になるので人が入ってくることを許容したことはない。
ここ数十年、妾は一人で研究に没頭していた。
妾が魔女になってからも親交のあった人間が亡くなり、妾を知る人間がいなくなったからだ。
正直、少し魔術の研究は行き詰まっていた。
生きる意義のようなものが、年々薄れてしまっていたからだ。
人付き合いは人間だったころから嫌いじゃった。
しかし、だからといって長い間一人でいることを耐えられるほど妾は強くなかったらしい。
それでも、少し前までは外に人付き合いもあったのだが。
もうそれも、なくなってしまった。
妾は、選択を迫られていた。
このまま一人で、生きる意義を失うまで惰性で研究を続けるか。
もしくは、森の外に出て他者との関係を持つか。
本音で言えば、妾は後者を望んでいた。
というよりも、一人で研究を続けていれば自然と人恋しくなる。
そうならざるを得なかったというところか。
だが、行動を起こすことはできないでいた。
なにせ妾には無限の時間がある。
どれだけ先送りにしていても、別に困る者はいないのだ。
だから、後でいいか、後でいいかと行動を起こせないでいた。
そんな時だった、森に捨てられた子供を見つけたのは。
おかしな話だった。
森には無数のトラップが仕掛けられている。
それをかいくぐって、森の奥に子供を捨てるなど普通はできない。
なにより、その子供はひと目で見てわかる程に膨大な魔力を有していた。
そのまま放置していれば、周囲を傷つけて最後には自分自身すら殺してしまうような危うい魔力。
妾にこれをどうにかさせたかったのか? と思うほど。
そして、その少女の瞳は生きていた。
不思議な話だ。
こんな場所に捨てられて、妾が見つけるのが一日遅れていれば彼女は飢え死んでいただろう。
しかし、そんな状況で彼女は生きていた。
瞳にあまりにも強い、魔力だとかなぜここに子供がいるのかだという疑問すら押しつぶしてしまうくらいの。
強い力が宿っていた。
だから妾は思わず彼女を家に連れて帰り――保護することに決めたのだ。
薄れていく意義と、意味を失っていく妾の生に、変化を与えてくれるという確信をくれたから。
彼女にはアイナという名を贈った。
それはかつて、妾の最も親しかったものが娘ができたら付けたいと話していた名前で――そして、叶わなかった願いの名だ。
===
アイナは妾の想像通り、とても強く聡明に育った。
というよりも、あの幼さの割にアイナは既に聡明であった。
大人顔負けの思考と、強い精神力。
まるで、大人が少女に生まれ変わったかのようだと、出会ってすぐは考えたものだ。
が、すぐにそんなことはどうでもよくなった。
アイナとの生活は、妾に大きな変化を齎したからだ。
まず、食事を取ることが増えた。
老いを失い、食事も嗜好品でしかなくなった妾にとって、それは研究よりも優先されるものではなかった。
確か前に、一年食事を取っていなかったこともあったはずだが、アイナはそうも行かない。
二人して、大した料理などできなかったものだから、お互い試行錯誤を繰り返しながら料理の腕を磨いた。
……間違えて魔術の薬品を鍋に投入し爆発させ、二人して笑い合ったり。
当時の思い出は、今でも容易に思い出すことができる。
炊事洗濯、それから掃除。
日常的な家事をするようになると、気分転換の手段が増えた。
それをおろそかにしていた頃より明らかに研究は順調に進んだ。
どうしてこうしてこなかったのか、今更自分の愚かしさを省みる程に。
ただ、アイナのそれはただの日常的な家事に留まらなかった。
妾の魔術を借りて、様々な生活の改善に取り組んだのだ。
中でも一番の発明は、間違いなく「フロ」というやつだろう。
東方の島国ではこういった文化は一般的だと聞いたことがあるが、一体アイナはどこで知ったのか。
ともあれフロと言うやつは最高だ。
一日の疲れを一気に落とせるだけではない。
フロに入ると、妾もアイナも一段と美しくなる。
自分の容姿に興味などこれまでもなかったが、目の前に妾でも美しいと思う素体がいて。
そして磨いてみれば妾も案外美しいではないかと気づくと、途端に化粧というやつに嵌ってしまった。
アイナは自分のことを「俺」というし、言葉遣いもぶっきらぼうだったが、なんとか「私」にすることに成功。
最低限の女子としての体裁は保てた……と思う。
とにかく、そんなふうに妾とアイナの日常は目まぐるしく過ぎていく。
それまで、一年というのは気がつけば過ぎている程度のものでしかなかったが。
今では、一年がすぎるのがあまりにも長く感じられるほどになり、そして数年。
アイナは、十と少しで成長が止まり、以降成長することはなかった。
===
もとよりアイナは普通ではなかった。
尋常ではない――魔女である妾すら、足元にも及ばない――魔力量。
聡明さから来る魔術や戦闘の才能。
一体どこから知ったのか知らない知識を無数に有しておる。
アイナは、大人が少女に転生したのではないかと昔推測したが、案外間違っていないのだろう。
まぁ、妾にとってもはやアイナはなくてはならない家族であり、アイナはアイナだ。
たとえ前世がむくつけき大人の男だったとしても、妾は気にしないだろうが。
問題は、アイナの体質である。
成長しない――不老であるというのは妾にとっては嬉しいことである。
自分と同じ時間を歩める存在が家族であるというのは、生きる上で非常に大きな意義となる。
もう、大切なものと別れるのはゴメンだ。
だが、アイナにとってはどうだろう。
人と同じ時間を歩めないということは、場合によってはとても不憫なことだ。
そう、アイナは不憫だ。
まだ十とそこらだというのに、魔女と同じような生き方を彼女は定められてしまった。
そして、さらに厄介なことにアイナは魔女ではない。
魔女には必ず、体の一部に魔女であるという証が刻印として浮かび上がるのだが、アイナにはそれがない。
妾も長く生きてはおるが、魔女や魔人以外に、人が長命になるという事例を聞いたことはとんとなかった。
きっと、魔女でも魔人でもない人ならざるもののアイナは、多くの困難に巻き込まれるだろう。
それは彼女の望まない厄介事を無数に彼女の元へと届けてしまう。
このまま妾と永遠に森の中へ引きこもっていても、いずれは世界がアイナを見つけてしまうから、それも意味のないことだ。
それだけの立場に、何の落ち度もなく置かれてしまっては。
あまりにアイナが不憫である。
しかし、そのことをアイナに話すと、アイナは驚くほど平静だった。
「別に、私は構わないよ。もともと、そうなるんじゃないかって気はしてたんだ」
ああ、思い返してみれば。
アイナはそういう子だった。
妾はアイナを不憫に思うあまり、見誤ってしまっていたのだ。
「だったら、それをどうにかできるくらいの力がアレばいい。幸いにも私には――」
アイナの瞳には、力があった。
あの時妾が、思わず見惚れてしまうくらい。
アイナは最初から強かったのだ。
そして、
「
妾は、そんなアイナが好きだ。
妾のことを先生と――母と呼ぶのがおそらく小恥ずかしいから――呼んでくれるこの子が。
心の底から、愛おしくて仕方がない。
結局、妾とアイナは後に“魔刃”と呼ばれるアイナの力を制御する術を研究し、会得し。
そして、アイナが誰にも負けないくらい強くなれるよう努力した。
外の世界に旅立って、見識を広めること。
そして何より、アイナという存在のルーツを探るため、アイナの両親を探ること。
その目的を胸に、アイナが旅立つ頃には、妾はすっかりアイナに戦いでは勝てなくなっていた。
しかし、料理の腕では妾の方が上である。
もとより研究者として、試行錯誤は得意分野だ。
アイナは少しばかり大雑把なきらいがあるから、そういった面で向き不向きはあるじゃろう。
だからな、アイナ?
もし帰りたくなったら、いつでも好きなときに帰ってくるとよい。
妾は、お前さんの帰りをいつだって、待ち続けておるのじゃから――
他人視点は定番ですね。