「おっはようございま~す!!」
平日の午後、苺プロのオフィスに元気のいい挨拶が響く。
声の主はメムだ。学校の帰りに直接事務所へやってきたのか制服姿である。
職員達からの挨拶の返事を聞きながら彼女はいつものようにオフィスの奥へと歩いていく。
「やっほー、ルビーちゃん、マリンちゃん。おはよう!」
「あ、メムちゃん! おはよう!」
「おはよ~」
初めて見た時は他の新人達と揃って驚いたものだが今となっては見慣れたものであるキッズスペースへと近づくと、メムはそこにいる彼女の小さな友達、マリンとルビーにも挨拶をする。
挨拶をしながらメムはそこにいるべき人物が一人足りないことに気付きルビーに尋ねる。
「今日は二人だけ?」
「え? あ、うんお兄ちゃんならまだお仕事中。もうすぐ帰ってくると思うけど…」
「この時間に戻ってないって結構珍しいね?」
「私達は朝からで昼過ぎには終わったんだけどアクアは午後からだったから」
「ふむふむなるほど、いやぁ3人とも売れっ子だねぇ…私も頑張らないと」
「一緒にお仕事するの楽しみにしてる!」
「それは私も楽しみ…だけどまずは肩書から候補生を外せるようにならないとね、よし!」
マリンとルビーとの会話にメムがやる気を出していると、メムの背後で扉が開く音が聞こえ続いて彼女にとってももはや聞きなれた声が聞こえてくる。
「戻りました」
「戻ったぞ」
噂をすればなんとやらで、タイミング良くアクアと壱護が戻ってきた。二人は周りの職員に挨拶をしながら奥へと、メム達の方へと近づいてくる。
「「アクア、お父さん/お兄ちゃん、パパ お帰り!」」
「あぁ、ただいま」
「マリン、ルビーただいま。メムさんおはようございます」
「ありゃ、先に挨拶されちゃった。おはよう
「おう、おはよう」
「メムさんはこれからレッスンですか?」
「うん、そうだよー。っとそろそろ行かなきゃねそれじゃあ
メム達とアクアと壱護がそれぞれ挨拶を交わし会話をしているとメムは自分の持つ鞄が誰かに引っ張られていることに気付く。どうしたのだろうかと顔を向けるとそこには何やら驚愕したような表情でメムの鞄を掴み、じっとメムの方へと視線を向けるマリンとルビーの姿があった。
「えっと…ルビーちゃん? マリンちゃん? どしたの急に」
メムの疑問にマリンとルビーはすぐには答えず、しばしの間メムと姉妹の視線が交差し続けやがて震える声でルビーが口を開く。
「さっきメムちゃんお兄ちゃんのこと…」
「ん? お兄ちゃんのことって―――あ、あぁ! そういえばマリンちゃんとルビーちゃんに言ってなかったっけ」
ルビーの言葉に合点がいったのかメムは続ける。
「えっと…一昨日の土曜日のことだけどさ、アクた…アクア君凄く落ち込んでたじゃない? その時にB小町の先輩方とかスタッフさん達、それに
「「ふむふむ」」
先日の訃報騒ぎのあった日、アクアが落ち込んでいたという話は知っていることであったためマリンとルビーは頷きながらメムの話を聞いている。
「それで私もその日アクア君を慰めようの会に参加したわけなんだけども…まあ、何と言いますかその時の流れ? であだ名で呼んでいいかって話になってね」
「滅茶苦茶ざっくりいったね!?」
「細かく説明した方がいいのは分かるんだけど…正直言うとあの時アクア君をどうにか慰められないかで必死だったからあんまり細かいところは覚えてないんだよね…」
「「ふーん…」」
少し不機嫌ですと言った不満げな表情をしているマリンとルビーにメムは内心やらかしてしまったのではないかと気が気ではない。
しかしマリンとルビーの次の一言はメムにとって予想外の内容であった。
「「―――ズルい!」」
「……はい?」
ズルい。なにがズルいのだろうかとメムは考える。今、話の中心となっているのは自分がアクアのことをあだ名で呼んだことだ。つまり
「えっとぉ~…ズルいって言うのは私がアクア君のことだけあだ名で呼んだこと…であってる?」
「「うん」」
「なるほどぉ…うーん」
メムにとって予想外の反応であったが、その内容はむしろ大歓迎なものであった。
ならばとマリンとルビーのあだ名をその場で考えることにししばし思考に耽るメム。
一方のマリンとルビーだが、彼女達は前世において友達がおらず、故に誰かに自分のことをあだ名で呼んでもらうということに対してあこがれのようなものがあった。
そのような理由もあってその様子をマリンとルビーがわくわくしながら数十秒ほど眺めているとメムが口を開く。
「マリたんルビたん、は個人的に語感が今一……ちょっと安直かもしれないけど、マリちゃんルビちゃんとか、どうかな?」
メムはあだ名を付けるとしても凝ったものを考えるタイプではなかったようで、マリンとルビーに対して提案されたあだ名は極めてシンプルなものであった。
「「マリちゃん/ルビちゃん……」」
告げられたあだ名を小さく口にして黙り込んでしまったマリンとルビー。
そんな二人を緊張した面持ちでじっと見つめながら反応を待つメム。気分はさながら某100万円クイズの解答者のようである。
緊張で大きくなっていく心音がメムの耳に響く。実際には十数秒程度しか経っていない時間が数分かそれ以上に感じる。
メムが、ついでに周囲の職員達が固唾をのんで見守っていると、突如マリンとルビーが勢いよく顔を上げ――
「「……!」」
ぱぁっと輝くような笑顔でメムを見つめていた。
その様子にほっと胸をなでおろすメム。
「それじゃあ…これからそう呼ばせてもらうね―――っと、そろそろレッスンの準備しないと。じゃあね、ルビちゃん、マリちゃん、アクたん」
「「「いってらっしゃい」」」
レッスンのために退室するメムを見送るアクア達。
その後もマリンとルビーは上機嫌であった。
「よかったな、二人とも」
「「うん!」」
▽
ルビーとマリンがメムとさらに仲良くなれてから数時間後、苺プロのレッスン室ではメム達候補生がレッスンに励んでいた。
候補生達のレッスンは基本土日祝日に行われており、その日は専門のコーチがついてのレッスンになるのだが平日は全員が学生ということもあり基本的には自主練である。
しかし今日レッスン室にいるのは候補生達だけではなかった。彼女達の先輩アイドルであるB小町、そのメンバーの一人であるめいめいがコーチの代わりに候補生達を指導している。
何故めいめいがここにいるのかというと、彼女は今日久々のオフであったのだが予定を早々に終了させてしまい暇つぶしを兼ねて苺プロへと遊びに来ていた。
その時に後輩達が自主的に集まっていると聞きならば一肌脱ごうと合流したのであった。
「はい、それじゃあ一旦休憩しよっか」
めいめいの言葉に従ってレッスン室内で肩で息をしながら座り込む候補生達。
「水分もしっかり摂るようにね」
さすがはB小町のダンス担当と言うべきか、候補生達とは逆にけろっとしているめいめいは水分補給用のペットボトルの水を候補生達に手渡していく。
ありがとうございますや水おいしい等といいながら休憩している候補生達を尻目に、めいめいはレッスン室の壁沿いに入口へ―――
「ルビーちゃん」
「―――!?」
傍に寄ってきていためいめいに気付いていなかったのか跳ねる様にめいめいの方へと顔を向けるルビー。
ルビーのいいリアクションに小さく笑いながらめいめいが目線を合わせる様に屈む。
めいめいの行動で入り口にルビーがいることに気付いた候補生達のうち、声を出す元気のある数名がルビーちゃーんなどと声を上げながら手を振り、その元気がまだない者たちも手だけは振っていた。
ぎこちなく候補生達に手を振り返しているルビーにめいめいが質問をする。
「それで、私たちの誰かに用事かな? ルビーちゃん」
「え、あ、ううん―――えっと…外を通った時に少し気になったというか…ごめんなさい」
「別に謝る必要なんてないよ? ルビーちゃん達なら私達いつでも大歓迎だから」
めいめいの言葉に嘘はない。それどころかルビー達がレッスンを見学したいと頼めばお菓子とジュースとクッションがセットになった特等席が用意されるだろう。
めいめいの言葉に小さくありがとうと告げたルビーに再びめいめいが話しかける。
「あ、そうだ。良かったらルビーちゃんも一緒にダンス、してみる?」
めいめいとしては何気ない思い付きの提案。いいの!?などと嬉しそうに言いながら参加しようとするだろうとめいめいは予想する。
しかしその予想は的中はしなかった。
「―――え? あ、その…ダンスは―――いい、かな」
めいめいの予想に反してルビーは萎縮しながら小さく告げる。
「えっと…あ、そろそろ私戻らないと。それじゃあね! 皆もレッスン頑張って!」
「あ、ルビーちゃん!?」
めいめいからの返事を待たずに一方的に別れを告げると足早にルビーは去っていく。
ルビーの去っていった方向を見続けていためいめいだが、しばらくすると気を取り直して休憩中の候補生達の方へと振り返る。
「よし、それじゃあ休憩終わり! レッスン再開するよ!」
「「「「「はい!!」」」」」
先ほどのルビーの様子を気にしつつも、めいめいは候補生達へと指導を続けるのだった。
▽
翌日の苺プロ、その中のレッスン室。平日の午前中であるため
部屋の中には小さな影。鏡の前にポツンと一人でルビーが立っている。普段の彼女の様子とは異なった緊張した面持ちだ。
何故ルビーが一人でこんなところにいるのか。答えは単純で今日はルビー達兄妹は三人揃って休みでありオフィスで過ごしていたのだが、三人揃って昼寝をしていた最中にルビーが一人目を覚ましお手洗いのためオフィスから出た。その時にふと昨日のめいめいとのやり取りを思い出したルビーの足は引き寄せられるようにレッスン室へと向かったのだった。
緊張をほぐすためかルビーはまず鏡の前で深呼吸をし、瞳を閉じる。そして頭の中でダンスを、前世からずっと比喩抜きに何千何万回と見てきたB小町のダンスの振り付けを思い返す。
曲はどれしようかと数瞬悩んだが、B小町の代表曲『サインはB』に決める。
曲を決めるとルビーの頭の中では『サインはB』の振り付けが再生され始める。
イメージトレーニングはずっとしてきた。だからきっと大丈夫だ。そう自分に言い聞かせルビーは頭の中のイメージと現実の自分の姿を重ねるつもりで体を動かし始める。
―――が
「いたた…」
踊り始めて数秒もたたずにベチンと音を立ててルビーが転ぶ。
転んだ痛みと悔しさで涙が滲みそうになるがなんとか堪えて立ち上がる。
立ち上がると今度こそと再び踊り始め――――――また転び、涙を堪えて立ち上がる。
踊る、転ぶ、立ち上がる。踊る、転ぶ、立ち上がる。踊る、転ぶ、立ち上がる。
踊る、転ぶ、立ち上がる。踊る、転ぶ、立ち上がる。踊る、転ぶ、立ち上がる。
踊る、転ぶ、立ち上がる。踊る、転ぶ、立ち上がる。踊る、転ぶ、立ち上がる。
―――ベチン。
途中で数えるのもやめてしまったためルビーにも何度鳴ったか分からない音がレッスン室に響く。
転んだルビーは先ほどまでと同じように涙を堪えて立ち上がれ―――なかった。
限界が来てしまったのか堪えきれなかった涙がルビーの眼から溢れ、涙と一緒に立ち上がる気力も流れてしまったかのように立ち上がれず転んだままの体勢から動けない。そんな自分がまた情けない。
やはり自分にダンスは無理なのだろうか。こんな自分がアイドルになるなんて出来っこない。などとネガティブな思考がルビーの頭の中を埋め尽くしていく。
「やっぱり私なんかじゃ…」
ルビーが一人消え入るような声で呟いた時だった。
「ルビーちゃん」
「―――え?」
一人しかいないはずの部屋で突然名前を呼ばれたルビーは驚くとともに顔を上げる。
「めいめい?」
「うん、めいめいお姉ちゃんだよぉ」
ルビーが顔尾を上げるとそこにはめいめいがいた。
何故めいめいがここに? とルビーが困惑していると、ルビーの呼びかけに返事をしためいめいがルビーの脇の下に手を入れ立ち上がらせる。
ルビーが自分で立っているのを確認するとめいめいはルビーの頬を指で撫で始める。
「うーん、ぱっと見ケガしてそうなところはないかな? ルビーちゃんどっか痛いとことかない?」
「え? あ、うん。大丈夫」
「そっか良かった良かった。かわいいルビーちゃんがケガなんてしたら苺プロの損失だもんね」
冗談を交えて話すめいめいにルビーは気まずそうに告げる。
「…ごめんなさい」
「うん? 急にどうしたのルビーちゃん」
「えっと――勝手にレッスン室使って…」
「あぁそれかぁ…まあルビーちゃんなら使うこと自体は問題ないんじゃないかな? ただ一人で使ってたのはダメだったかな。皆心配しちゃうし」
「…うん」
会話をしているおかげか落ち着いてきたルビーの様子にめいめいが告げる。
「あ、ごめんなさいって言うなら私もルビーちゃんに謝らないといけないかな」
「めいめいも?」
「うん、さっきまでルビーちゃんがダンスの練習してたの実はちょっと前からこっそり見てたんだよね。だからごめんね?」
「―――え?」
あの誰にも見られたくない失態を見られていたのかとルビーの頬が羞恥で赤く染まる。もしめいめいがおらず一人でいたならまた倒れ伏していたに違いない。
そんなルビーの心境を知ってか知らずかめいめいが問いかける。
「ねぇルビーちゃん…転ぶの怖い?」
「…うん」
ルビーが躍る様子を観察していて気づいためいめいの問いかけをルビーは肯定した。
ルビーのダンスにおける悪癖とも言える動きは前世のトラウマに起因している。
アイドルに憧れたがすでに自由に体を動かすことが出来なくなった少女。もちろんダンス等できるはずもなく、それでも憧れから踊ろうとするも体はうまく動かない。ダンスとは到底思えないぎこちない動きしかできない。その動きですら無理をした上のものなので限界がきて転んでしまう。そんな自分に涙しながら立ち上がろうとするがそれですら困難な自分がより惨めに感じてしまう。
こういった経験がルビーの中で未だ深い傷跡として残ってしまっていた。
「まあ気持ちは分かるけどね。私も最初はよく転んでてそれが怖くて変な動きになってるってよく怒られたし」
「―――めいめいも?」
ルビーにとって一番の推しはもちろんアイである。しかしそれ以外が推しではないのかと言われればそうではない。
総合的に判断すれば一番がアイなのは揺るがない。しかし部分的にはアイ以上だと思っていた人物もいる。
たとえば歌唱力であるならばありぴゃんときゅんぱん、今現在話題の中心に据えられているダンスでは目の前にいるめいめいがそうだ。
ルビーにとってダンスという要素においてはアイ以上であるめいめいが嘗て自分も転んでいたしそれが怖かったという言葉がルビーには俄かには信じられなった。
自分を慰めるための虚言であるのかとも一瞬疑ったが嘘を言っているようには聞こえなかった。
「そうだよぉ。それでその時にね、コーチに言われたんだ。転ぶのを怖がると余計に転びやすくなる、だからもっと胸を張って自由に踊れって」
「胸を張って…自由に…」
めいめいの言葉を繰り返し呟くルビー。しばらく俯くように顔を下に向けていたが顔を上げめいめいと視線を合わせる。
「ねぇ、めいめい」
「なぁに?」
「私も―――踊れるかな?」
「勿論」
さあ、とめいめいに手を取られ再び鏡の前に立つルビー。
ルビーの様子を確認した後にめいめいは自分のスマホを操作し、画面をルビーの前に差し出した。画面に映されているのは基礎的なダンス練習用動画だった。
いきなり
ただでさえトラウマがあるのに基礎を飛ばしていては踊れるものも踊れないではないかと今更になって気付くと、ルビーは自己嫌悪に陥りそうだったがなんとか堪える。せっかく推しが一緒にいてくれるのだ、そんな無駄なことに時間は使えない。
「それじゃあ最初はゆっくりと。一気に全部踊るんじゃなくて短く区切って一つ一つ丁寧に行こう。準備はいい?」
「うん」
短く答えるルビーの顔に先ほどまでの陰りは無かった。
本来よりもゆっくりとした動きは段々と元の速度に近づいていき、短く区切られた動作も徐々に繋げて長くなっていく。
めいめいが踊ってみようと提案した動画の踊りは基礎的且つ簡単なものである。しかしそれを差し引いてもルビーは乾いたスポンジのようにめいめいからのアドバイスを受けて技術を吸収する。
ルビーに指導をしながらめいめいはその様子を驚嘆していた。
ルビー達に才能があるのは知っていた。彼女達の最初の仕事であった映画を見に行った時はその演技について一緒に見に行ったB小町のメンバーとともに語り合ったし、その後の仕事も可能な限りチェックしていた。
それによりルビー達に芸能人としての才能があることは分かっていた。だがそれはモデルや役者としてのものである。
目の前のルビーの踊りはめいめいのものとは比べるまでもなく未熟なものだ。しかしその所作全体から楽しみたい、輝きたいという気持ちにあふれている。その輝きに、ルビーの持つアイドルとしての才能に思わず見入ってしまう。
そこからめいめいが提示した踊りをルビーが踊りきれるようになるまではさほど時間がかからなかった。
時間にして数十分ほどだろうか、踊り続けるルビーにそろそろ最後にしようかとめいめいが告げる。
めいめいにわかったと返事をするルビー。最後だからと一度深呼吸をし気持ちを落ち着かせてから踊り始める。
最初の頃から驚くほどに改善されたダンスを踊るルビー。その踊りが終わるまでの間、めいめいはそれに見入りまた見守るのだった。
踊り終わり少しだけ息を弾ませるルビーをめいめいは正面から抱きしめ抱き上げた。ルビーがこういったスキンシップを好むのを知っていたからご褒美になるだろうと思ったからだ。
急に抱き上げられたことに驚くもののうまく踊れたことに対しての喜びが上回ったのか、興奮した様子でルビーがめいめいに話しかける。
「どうだった!?」
「良かった」
「本当!?」
めいめいの素直な感想にルビーはめいめいにギュッと抱き着いた。
その後ルビーを抱きかかえたまま二人が会話をしていたのだが、途中でめいめいがとあることに気付く。
閉めていたはずのレッスン室の扉が少しだけ開いていたのだ。その光景にデジャビュを感じながらよく見ると低い位置に誰かがいる。
「……マリンちゃんとアクア君?」
「え? お兄ちゃんとお姉ちゃん?」
そこにいたのはマリンとアクアだった。正確には扉の影からマリンが中を覗いており、その後ろに若干呆れたような様子でアクアが立っていた。
めいめいとルビーに見つかったアクアとマリンはレッスン室の中に入ってくる。
そのマリンの様子にめいめいは違和感を感じていた。
マリンは普段はいつもニコニコと周囲に愛嬌を振りまいているのが常であるのだが、今はなんだか不機嫌さがにじみ出ているような気がしていた。
近づいて来たマリンの顔を見ると不機嫌なだけでなく目の端にすこし涙も浮かんでいるのだが、めいめいには理由が全く分からなかった。
そんなマリンにめいめいが混乱しているとマリンが口を開く。
「めいめいにルビーの初めて(のダンスレッスンの相手)盗られたぁ!!!」
「人聞きの悪いこと言わないで!?」
突然とんでもないことを言われためいめいだがなるほど、と納得もした。
要はルビーが初めてダンスをするなら自分と一緒にしたかったらしい。悪いことをしてしまったかと思っためいめいであったが放っておけなかったのも事実なので許して欲しいとも思う。
「えっと…マリンちゃんも一緒にダンス……やる?」
「やる!!」
先ほどまでの不機嫌さはどこへやら、驚きの変わり身の早さであった。
アクアもとその手を取りレッスン室の中心へと歩いていくマリン、めいめいがそっとルビーを下ろしてやると彼女も姉の元へと歩いていく。
めいめいは先ほどまでルビーが踊っていた踊りの動画を再びスマホに映し、アクアとマリンにも見せる。
ふむふむと頷きながら確認するアクアとマリン。一通り見た後少し練習をするとマリンはほぼ完璧に、アクアもぎこちないながらも踊れるようになったようだ。ルビーと異なり転ぶことへの恐怖等もない様子でその点にルビーが嫉妬等してしまうかもしれないとめいめいは一瞬不安になったがキラキラとした目で二人を見ているルビーにその心配は不要だったかと改める。本当に仲がいい兄妹であった。
その後三人は並んで踊り始める。マリンとルビーは心の底から楽しそうに、アクアは若干恥ずかしそうにしながらも妹二人につられるように彼もまた楽しそうに踊っている。
踊る三人の背景に、めいめいは自分たちが踊っているようなステージが一瞬見えた気がした。
めいめい:B小町のダンス担当。候補生達へのダンス指導も予定が合えばやっており、たぶんどっかの世話好きの影響だと本人は笑っている。今回の件から休みの日等でたまにルビー達と一緒に踊っている姿が見られるとか。
斉藤ルビー:ダンスへの苦手意識を克服できた三つ子の末っ子。書けば書くほどさりな時代の人生が辛すぎるってなる子。でも今は幸せなのでOK。ちなみにルビーがB小町の三人の中で一番懐いていたのは元々めいめいだったのだが今回の件からもっと懐くようになった。
メムのアクア達への呼び方の話とルビーのダンスへの苦手意識克服回でした。
やっぱメムからアクアへの呼び方はアクたんじゃないと違和感しかなかったので何とか呼べるように頭をひねったらこうなりました。前話の件で落ち込んでるアクアを慰めるにはどうすればいいかとメムが考えてもっと仲良くなればいいのではとなった結果です。ついでにマリンとルビーの呼び方も変更。ルビーに関しては今作中で原作通りに呼び捨てになることは絶対にないのでその代わりの意味もあります。
後半はルビーのダンスネタ。せっかくB小町の面々がいるんだから登場させなきゃと原作から大幅に違う話になってめいめいメインに。ただ彼女原作では映画編ですら本人は出てこず台詞もメムが演じてるワンシーンのみなのでしゃべり方etcに関しては完全に捏造です。仕方ないね。
本日9月25日をもちまして本作『星の三つ子』は1周年を迎えました。
遅筆とはいえ割と三日坊主な方な私が1年書き続けられたことに自分で驚いています。
これもひとえにいつも読んでくださる皆様のおかげです。ありがとうございます。
今後とも投稿を続けて行こうと思いますのでどうかよろしくお願いいたします。