星の三つ子   作:大空

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みんな大好きなあの子がようやくの登場


子役

 苺プロに子役部門が新設され、そこにアクア達が所属することが決定してから数日が過ぎたある日のこと、苺プロに一人の来客があった。

 やって来たのは五反田監督。アクア達の所属が決まったと連絡を受けた彼が台本が完成したら持って行くと約束をしたのがつい先日のこと。壱護はこの約束をしてから五反田監督がやって来るまではしばらく時間がかかると思っていた。なんせ新規の登場人物を3人も増やすのだ、完成済みの脚本と齟齬が出てきて当然であるしその修正に苦労するだろうと。

 そんな壱護の予想を裏切り、わずか数日で台本が完成したと連絡を受けたのが昨日のことだ。これには壱護も非常に驚いたのだが、今日やって来た五反田監督の様子を見て納得した。目の下には隈があるし壱護は五反田監督とは初対面だが若干テンションも高いように見える。

 原因は薄々予想できるのだがあえて壱護は応接室で自分の対面に腰かけている五反田監督に問いかける。

 

「大丈夫ですか…? 隈が凄いことになってますけど…」

「うん? あぁ心配するようなことじゃない。ちょっと筆が乗っちまってね、気付けば数日徹夜してた。んでこれが台本ね」

 

 徹夜していたと言う五反田監督に若干の呆れを含んだ眼を向けていた壱護であったが、五反田監督が荷物の中から台本を取り出し渡してくると表情を引き締め手の中の台本をじっと見つめる。

 

「拝見しても?」

「勿論」

 

 五反田監督に許可を得た壱護は受け取った台本をペラペラと捲り内容をザっと確認する。

 

「『それが始まり』…山奥の村にある病院―――ホラー作品ですか」

「ああそうだ。あの子達の役は序盤と中盤に出てくる子供」

 

 その言葉を聞いた壱護は該当箇所をさらに確認する。

 

「――――――ずいぶんとあの子達を買ってくれているんですね」

「というと?」

「あの子達は演技どころか芸能活動そのものが今回初めてです。だというのに3人合わせて複数シーン、はっきり言って破格の扱いだ。もちろん親としても事務所社長としてもあの子達ならやれると信じてますがね」

「……」

 

 壱護の言葉に五反田監督はしばしの間閉口しながら目を閉じ、その後ゆっくりと目を開き語り始める。

 

「俺がどういう経緯であの子らを使いたいと思ったかは聞いてますかね?」

「妻経由ですが休憩中にアクアと偶然出会って会話して興味を持たれた、と」

「まあ概ねその通りだな、現場の空きスペースで偶然おたくの早じゅ―――アクア君と出くわしましてね。んでその後アクア君を追いかけてきた妹二人とも顔を合わせて、三人と少し話をしたわけなんですが」

 

 そこで五反田監督は一旦言葉を切り、数舜待ってから再び口を開く。

 

「最初に感じたのは…あぁ気を悪くしたらすまねぇが誉め言葉として受け取って欲しい。気味が悪い子供、だったな。あんたは親だから普段から思ってるかもしれんがあの子達は…2歳児にしてはちょっと頭が良すぎる。特にアクア君は顕著だ、もはや異常と言ってもいい。本人は両親に連れられて事務所で育ったからなんて言ってたがそれだけでああはならんだろう。ありきたりな言い方になるが所謂ギフテッドの類かとも思ったね」

「……」

 

 "気味が悪い"という五反田監督の言い分に思わず反論しそうになった壱護だが、続く言葉に口を噤んだ。"アクア達三つ子は頭が良すぎる"という言葉に。

 思い返されるのはつい先日のことだ。芸能事務所の社長という立場故に仕事以外に付き合いなどでも帰宅時間が遅くなりがちな壱護はその日も夜が更けようとしている頃合いに帰宅した。まだ幼児である三つ子はもとより、最近は三つ子を寝かしつけるのと一緒に自身も寝ることの多いミヤコも既に眠っているであろう時間であったため、起こしてしまわないように注意しながら帰宅すると、妹達と同じ布団で眠っているはずのアクアが壱護を出迎え、聞きたいことがあると壱護に話しかけてきた。

 その時は息子が自分を頼ってくれたことがうれしく深く考えてはいなかったが、アクアは「芸能界で大切なことは何か」と今にして思えば2歳児がするとは思えないような疑問を投げかけてきていた。

 

 壱護が口を噤んでいる様子を見て、肯定と受け取った五反田監督は話を続ける。

 

「まあ色々言ったが要はあの子達は普通の子供じゃない。んで普通じゃない奴を撮れば普通じゃない映像が撮れる―――そうすれば俺の作品をもっと良い物にできる。結局のところ映像監督なんて生き物はそれが全てでしてね。そういった自分の直感に従ってあの子達を撮りたいと思った、今回の話はそれ以上でもそれ以下でもないですよ」

「……直感に従って、ですか」

 

 自分の直感に従って、という言葉に壱護は今は亡きアイを思い返す。

 街中で偶然見かけたアイにこれだというものを感じ、はたから見れば通報されてもおかしくないような勧誘をしたものだ。今自身の目の前にいる五反田監督が我が子に同じようなものを感じたのだろうと壱護は納得する。

 

「納得していただけましたかね?」

「そうですね…俺自身似たような経験はありますから――――――あの子達をよろしくお願いします」

「おう。こちらもよろしくお願いしますわ」

 

 そう言い合い壱護と五反田監督は握手を交わすのだった。

 

 

 

 

 

 

 五反田監督が帰った後の苺プロ応接室。壱護はアクア達を呼んで欲しいと職員に伝え、それを待っていた。数分も経たずに応接室のドアがコンコンとノックされた。それに反応した壱護が「おう」と短く答えるとドアノブが回転しガチャリと音を立てながら扉が開く。するとそこには壱護の思っていた通りにアクアがおり、その後ろにはマリンとルビーの姿もあった。

 アクア達は応接室に入ると壱護に近寄りながら話しかける

 

「父さんが呼んでるって言われて来たんだけど…」

「あぁさっき台本が出来たって監督さんが来ててな。ほれ、これがそうだ」

 

 話しながら壱護はアクア達それぞれに五反田監督から渡された台本を1冊ずつ手渡していく。台本を手渡されたことで自分が子役としてデビューするという実感が改めて湧いてきたのかアクア達はそれぞれ手に持った台本をまじまじと見ていた。

 マリンとルビーは笑顔を浮かべており、一方でアクアも笑顔ではあるもののその中には多少の困惑が含まれているようで、浮かんだ疑問を壱護に投げかけてきた。

 

「ねえ、父さん」

「うん? どうしたアクア?」

「俺達が出演するって監督に連絡してからまだそんなに経ってないけど……台本ってこんなに早く出来るものなの?」

「え? あー…まああれだ映画っていっても色々あってだな、今回の場合は監督個人の裁量でかなり自由にやれるってパターンだったみたいだな」

「ふーん」

 

 流石に"低予算の映画だから監督がある程度自由にやれる"などとアクアに告げるのはためらわれたのか、多少ごまかすように壱護はアクアの質問に答えた。

 質問に答えながら壱護は先ほどの五反田監督との会話を、その中で出てきた"頭が良すぎる" "気味が悪い" "普通じゃない" といった内容が思い返されていた。

 今の質問にしてもそうだった。普通の2歳児が気にするとは思えないようなことをアクアは尋ねてきた。

 アクア達を引き取ってから約2年、今までは気にしていなかったが一度他人から言われてしまうとどうにも気になってしまう。

 そのようなことを考えながら壱護はじっとアクア達の様子を眺める。アクア達三人はそれぞれ台本を持って楽しそうに話していた。

 

「…………ま、それがどうしたって話だわな」

 

 そう小さく呟くと壱護は立ち上がり、数歩ほど移動しアクアの傍へと寄るとアクアの頭に手をのせ撫でる。サラサラの金髪の感触が心地よかった。

 

「ん―――どうしたの父さん?」

「うん? …なんでもねぇよ」

 

 きょとんとしているアクアの頭から手を離すと続いて壱護はマリンとルビーの頭も撫で始めた。アクアと同じように多少困惑はしているもののマリンとルビーは気持ちよさそうに目を閉じて笑っている。

 

「今日はもう来客の予定はないから台本読むならこの部屋を使うといい。俺はこの後出掛けるけどミヤコは事務所にいるから何かあったら言うようにな」

 

 頭を撫でるのをやめ、そう告げると壱護は応接室を後にする。

 それを見送ったアクア達は応接室のドアが閉まると互いに顔を見合わせる。

 

「―――パパどうしたんだろうね?」

「うーん俺にも分からん」

 

 "マリン分かる?"とアクアが尋ねるがマリンは首を横に振って答える。

 

「私もあんなしゃちょー初めて見るかなぁ…ま、なんか嬉しそうだったしいいんじゃない?」

「…怒ってたり泣いてたりじゃないなら俺たちが気にする必要もないか」

「そうそう! それじゃ台本読も読も」

 

 壱護の様子に疑問を抱いた三人であったが、気にする必要はないと結論付けると応接室のソファに並んで座り台本を読み始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 都内にあるとある芸能事務所。子役専門であるその事務所の中で一人の女の子が椅子に座り子供向けの雑誌だろう本を一つ自分の膝の上に広げて読んでいた。

 女の子の名前は"有馬かな"。今現在"10秒で泣ける天才子役"と評されている売れっ子の子役である。

 空いた時間に読書に励んでいた彼女だったが、ふと顔を上げると彼女のマネージャーが何か袋を胸に抱えて近づいてくるのが見えた。

 

「あぁかなちゃん居た居た」

「どうしたのマネージャー?」

「かなちゃんの次の仕事の台本がさっき届いてね。持ってきたのよ、はいこれ」

「ありがと」

 

 かなのマネージャーが袋から取り出した台本を受け取ると直前まで読んでいた雑誌を片付けといてとマネージャーに渡し、台本を読み始める。

 

「じゃあ私は仕事があるから行くけど事務所にはいるから何かあったら言ってね」

「うん」

 

 台本に視線を固定し集中しているのか短く答えるかなの様子に頼もしさを感じながら、かなのマネージャーは自分の仕事をこなすためデスクへと向かうのだった。

 

 

 

 

 

「ムムムムムム……」

 

 かなが台本を読み始めてから数十分ほどが経過した頃。台本を受け取った時と同じ場所に同じような体勢で座っていた彼女であったがその雰囲気は先ほどまでといささか異なっていた。

 最初に台本を受け取った時の上機嫌さはどこへやら、私不機嫌ですという表情を顔に貼り付けなにやら恨みがましく唸り声をあげている。

 

 そんなかなの様子に周囲はどうすればいいのか分からず困惑しており、思わず仕事中であった彼女のマネージャーに助けを求めてしまうほどであった。

 

 その要請に応え、かなの様子を見に来たマネージャーだったが彼女もまた困惑することになる。彼女が見たことないほどにかなが不機嫌であったからだ。

 正直に言って声をかけるのも躊躇してしまうマネージャーであったが意を決してかなへと声をかけようと近寄ると、彼女が声をかける前にかなの方から彼女の方へと話しかけてきた。

 

「ねぇ、マネージャー」

「え、えっと…どうしたの、かなちゃん?」

「斉藤アクア、斉藤マリン、斉藤ルビーって名前の子、聞いたことある?」

「え…?」

 

 予想だにしていなかったかなの方からの問いかけにマネージャーは言葉に詰まる。質問をされるとは思っていなかったこともそうだが、今かなが口にした名前に全く心当たりがなかったからだ。

 かなが所属しておりマネージャーが働いている事務所は業界でもそこそこの規模の事務所であり、また子役専門ということも相まって他所の事務所であっても子役の情報は入ってきやすい。しかし今かなが口にした名前はマネージャーも初めて聞く名前であった。

 

「斉藤……苗字が同じってことは兄弟姉妹? それで子役なんてやってたら噂くらいは聞こえてくるはずなんだけどなぁ……ごめんねかなちゃんちょっと聞いたことない名前だわ。その子達がどうかしたの?」

 

 マネージャーからの問いにかなは苦虫を噛み潰したような表情で答える。

 

「この映画の共演者の子達なんだけど……この子達かなよりも出番が多いの」

「出番が…?」

 

 かなの言葉にマネージャーは思考を巡らせる。

 確かに有馬かなは今現在勢いに乗っている子役だ。と言っても彼女はまだ3歳の幼児である、一口に子役といってもその年齢には当然幅があり、下はかなのような幼児から上は小学生程度までが一般的である。件の新人子役がかなよりも年上であるならば出番が多いのは特に不自然な話ではない。

 だがもしその新人がかなと変わらない年齢だった場合、その上で制作陣からその子達は有馬かなよりも多く使いたい、有馬かなよりも上である、そう思われていたら―――。

 

「――――――まさかね」

 

 自分の考えをありえないと切り捨てた彼女は一言そう呟くと、なおも不機嫌なままであるかなの機嫌を直してもらわねばと奮闘するのであった。

 

 

 

 

 

 

 五反田監督が台本を完成させてから2週間程度経ったある日、先日と同じくミヤコの運転するワンボックスカーに乗車しているアクア達、高峯がおらず乗っているのはアクア達とミヤコの4人だけという点が先日とは異なっている。

 

 車が走り出して間もなく、後部座席に取り付けられたチャイルドシートに座っているルビーがミヤコに質問をした。

 

「ねぇママちょっといい?」

「ん~、どうしたのルビー?」

「えっとね、さっき今日は本読み? っていうのに行くって言ってたけど…本読みって何?」

「うん? あぁそっか普通は知らないわよね…ルビーはリハーサルってわかる?」

「それなら分かる! 本番の前に練習することだよね」

「その通り。それで本読みだけどそのリハーサルのさらに練習、みたいなものよ。映画とかドラマで実際に演技をするよりも前に役者さん達や他の関係者さん達が集まって台本を読むの」

 

 ミヤコの言葉にアクア達は揃って"へぇ~"と口にした後、今度はマリンがミヤコに話しかける。

 

「じゃあカメラで撮ったりはしないんだ」

「えぇそうね。本読みの後には立ち稽古っていって立ち位置を確認したりしながら軽く練習みたいなこともするけど、実際に撮影に入るのは聞いているスケジュールだと後1週間くらい先になるわ」

「そっか」

 

 マリンはミヤコの回答に短く返すとアクアとルビーと共に今日の本読みに思いを馳せながら雑談に興じるのだった。

 

 

 

 

 

 

 本日の目的地である都内のレンタルリハーサル室に到着したらミヤコは先日の高峯の撮影の時のようにアクア達に待っているように伝えた後に挨拶回りに行ってしまい、残されたアクア達は本読みが始まるまで談笑しつつ改めて台本を確認するなどしていた。

 そうしているとアクア達に近づいてくる小さな影が一つ。

 

「あんた達が斉藤兄妹ね!」

「「「うん?」」」

 

 近づいてきたのは赤みがかった髪色と瞳が特徴的な少女、有馬かなだった。

 

「……ムム」

「「「……」」」

 

 アクア達をじっと観察しながら何やら唸っているかなと、突然話しかけてきたかなに驚ききょとんとした表情をかなに向けながら固まっているアクア達。

 数瞬固まっていたアクア達とかなだが、近づいてきた人物が誰かを把握したアクアが口を開く。

 

「えっと…有馬かなさん…だよね? 苺プロダクションの斉藤アクアです。はじめまして」

「斉藤マリンです!」

「あ、えと…斉藤ルビーです」

「そうよ、私は有馬かな! 今日の共演者よ!」

 

 丁寧に挨拶をしてきたアクアとそれに合わせるように挨拶をしてきたマリンとルビーに対し気が良くなったのか上機嫌に返すかな。

 それを見ていたルビーがかなを見ながら呟く。

 

「この子どこかで見たことあるような……あ、重曹を舐める天才子役?」

十秒で泣ける天才子役! なによその間違い方!?」

「ルビー…流石にその間違い方はどうかと思うよ?」

「う…ごめんなさい」

「俺からも、妹がごめんな」

 

 ルビーの言葉に怒りをあらわにしていたかなだったがマリンの嗜める言葉と続くアクアからの謝罪に怒りを収める。

 

アクア(あなた)まで謝る必要ないじゃない。これじゃあ私が悪いような気分になっちゃうし…ああもう! 色々言いたいことあったのに忘れちゃったじゃない! ここはプロの現場なんだからしっかりしなさいよね!」

 

 そう言い残すとかなは足早にアクア達から離れていった。

 それを見送ったアクア達はしばしの間口をつぐんでいたが、アクアがポツリと呟いた。

 

「プロの現場…か」

「お兄ちゃん?」

「アクア?」

「ううん、なんでもないよ。さ、もうちょっと台本確認しよう」

 

 アクアの言葉にマリンとルビーは頷くと三人で固まって本読み開始まで台本を確認しあうのであった。

 

 

 

 

 

 

 本読み及びその後の立ち稽古はつつがなく終了した。厳密には立ち稽古自体は続いてはいるもののアクア達は子供であるため自分の出演するシーンが終わり、特に問題はないとして解散という運びになった。

 ミヤコとアクア達は今日の稽古についての話をしながら帰るための準備をしている。

 

「3人とも良かったわよ」

「ほんと!?」

「えぇほんとよ。お母さん誇らしくなっちゃうわ」

「「えへへ~」」

 

 ミヤコはアクア達を褒めながら頭をなでていた。マリンとルビーは気持ちよさそうに声を出しながら、アクアも声こそ出していないものの嬉しそうに表情を緩めながら頭をなでられ続けていた。

 アクア達がほのぼのとしているところに再び小さな影―――かなが近づいて来る。

 

「アクア、マリン、ルビー!!」

 

 かなが声を上げることで近づいてきたことに気付いたアクア達は揃ってかなの方へと視線を向ける。

 視線を向けるとそこにはマネージャーを引き連れたかながいた。しかしなぜかかなの目じりには涙が溜まって今にも溢れそうになっており、またその口は横一文字に結ばれていた。

 かなの様子に驚いたアクアは何故そのような状態になっているのかが分からず、かなへと声をかけようとしたがそれよりも早くかながアクア達へと指をさしながら口を開いた。

 

「今日はあくまでも本読みと立ち稽古! 本番は撮影! 撮影日には本当は私の方が凄いって分からせてやるんだから!!―――帰るわよマネージャー!!」

「え、あ、ちょっとかなちゃん!? すみません、失礼しました!」

 

 言うだけ言って立ち去るかなとそれを慌てて追いかけるマネージャー、突如現れて突如去っていった二人を呆然と見送るアクア達。

 

「「「……?」」」

 

 ミヤコとマリン、ルビーは意味が分からないと頭上に疑問符を浮かべながら首を傾げている。

 

「……」

 

 しかしアクアは他の三人とは別の感想を抱いたようで、かなが立ち去って行った方へとその姿が見えなくなった後もしばらく視線を向け続けていた。

 

 

 

 

 

 

 最後にひと悶着あったもののその後は何事もなく苺プロへと戻ってきたアクア達。

 もはや苺プロ内での自室のような扱いになっているオフィス隅のスペースにアクア達が集まり休憩をしていると唐突にアクアが口を開く。

 

「……あの子凄かったな」

「あの子って――――あぁ播磨ちゃん?」

「有馬だよお姉ちゃん。凄かった…というか変な子じゃなかった? なんか最後意味わかんないこと言って帰っていったし」

「あれは単純に悔しかったんだと思う。変な勘違いしてたとはいえ他の子役に興味なんてなかったルビーが微かに記憶してた程度には既に有名で、たぶんだけどいままで周りに自分と同じくらいに演技ができる子がいなかったんじゃないかな。実際今日の稽古のときも隣で見てて上手いと思ったし」

「なるほど。今までライバルがいなかったところに私たちみたいなのが三人も急に現れてしまった、と」

 

 話の内容は今日出会った子役の女の子、有馬かなについてであった。

 今日の最後の行動については納得ができたものの、アクアが彼女を"凄い"と評したことがマリンとルビーには今一つピンと来ていなかった。

 

「あの子の年齢知ってる?」

「知らない。でも見た感じ私たちとそう変わらないと思うけど…」

「3歳だよ、俺たちの1個上」

「へぇ、そうなんだ」

 

 かなの年齢を確認したのちにアクアは続けて質問をする。

 

「あの子が今日最初に会いに来た時なんて言ってたか覚えてるか?」

「最初って…自己紹介したくらいじゃ?」

「厳密には最初に会った時の去り際だけどね。あの子"プロの現場なんだからしっかりしなさい"って言ってたんだよ」

「あぁ~なんだかそんなこと言ってたような…」

「俺たちみたいに"特殊な事情がない普通の3歳の女の子が自分をプロだと認識してて悔しさに涙を流せる"―――これって凄いと思わない?」

「なるほど言われてみると…有馬かなちゃん、か」

 

 アクアの説明に納得したのかマリンはかなの名前を呟いてその名前を覚えようとする。

 マリンが珍しく人の名前を覚えようとしている隣でルビーはマリンとは対照的に不満顔でいた。兄が自身と姉以外の女の子のことを褒めているのが気に入らなかったのだ。

 

「むぅ…えい」

「うん? ルビー? 急にどうした?」

「……なんでもない」

「なんでなくはないと思うんだけど…」

 

 一人むくれていたルビーだが唐突にアクアへと抱き着いた。突然のルビーの行動にどうしたのかアクアは尋ねるがまともな答えは返ってこなかった。

 どうしたものかと途方に暮れるアクアであったがとりあえず胸元のちょうどいい位置にルビーの頭があったため撫でることにした。嫌がっている様子はなく気持ちよさそうにしているので正解であったらしい。

 

 なおマリンはそんな様子のアクアとルビーを微笑ましく見守っていた。

 

 

 

 

 

 

☀☀☀☀

 

 

 

 

 

 

 今日の本読みと立ち稽古からの帰り。マネージャーの運転する車に乗っている私は今日のことを振り返る。

 

 斉藤アクア、マリン、ルビーの三兄妹。苗字が同じだから兄妹だとは思ってたけど会いに行ってみたら同じくらいの大きさの子達だった。どうやらあの子達は三つ子らしい。

 

 双子でもタレントとしてプラスになるのに三つ子なんてズルいと思う。三人ともかわいらしかったし。

 

 そんなことはどうでもいいのよ。私は有馬かな、"十秒で泣ける天才子役"なんて言われてる子役。断じて"重曹を舐める天才子役"などではない。というかなによ重曹を舐めるって、覚え間違いにしても言う前に変だってわかるでしょ普通。

 

 また話がそれたわね、泣きの演技が凄いって評判になっている私に今度は映画の仕事が入ってきた。五反田監督の『それが始まり』ってタイトルの映画。

 

 その台本を見た時に初めて私はアクア達の名前を見た。といっても最初は見ただけで変わった名前の人がいるくらいにしか思わなかったのだけれど。

 

 その名前を強く意識するようになったのは台本を読み進めているときだった。私の役が不気味な子供Aでアクア達がそれぞれ不気味な子供BCD。

 

 台本を読んでみるとこの不気味な子供BCDが私の不気味な子供Aよりも出番が多かった。天才子役って言われている私よりもポッと出の子達がだ。

 

 それに納得ができなかった私は今日、その子たちに話しかけに行った。とはいってもルビーの重曹云々のせいで色々言いたかったことを忘れてしまったので、自己紹介してから一言注意するくらいで終わってしまったのだけど。

 

 私を差し置いて出番が多いあの子達が本読みや立ち稽古で無様な演技をしようものなら監督にも文句を言ってやろう。そんなふうに思っていた、でも―――

 

 

 

『この村に民宿は一つしかありません――――――』

 

『こんにちは! 私達? 私達はこの村の子じゃないよ――――――』

 

『お姉さんもお医者さんに用事で来たの? 私もなんだ――――――』

 

 

 

 三人とも演技で詰まったりもせず堂々として上手だった。むしろ私の方がダメだった。

 

 今まで年上のベテラン俳優なんかは別として子役、ましてや同い年くらいの子で私より演技が上手な子なんていなかった。

 

 それなのに今日突然私よりも上手な子が三人も現れた。それが本当に悔しくて帰り際に捨て台詞みたいなことを言ってしまうくらいに。

 

 とはいえ言ったこと自体は本心だった。今日はあくまで本読みと立ち稽古、本番は撮影だ。

 

 撮影まで後1週間ちょっとあるんだ、それを思い出した私は運転中のマネージャーに声をかける。

 

「ねえマネージャー、この映画の撮影本番までの間に私のお仕事って入ってる?」

「うん? 確か子供服のモデル撮影の仕事が1件入ってたはずだけど…それがどうしたの?」

「じゃあその仕事の時間以外全部レッスンの時間にして」

「え? でもかなちゃん今まではそこまで沢山レッスンは…」

「お願い。あの子達に負けたくないの」

「…分かったわ。そこまで言うならお母さんや社長にも話は通しとく」

「ありがと」

 

 マネージャーは驚いた様子だったがそんなことはどうでもよかった。手に持った『それが始まり』の台本を握りしめて呟く。

 

「見てなさいよアクア、マリン、ルビー」

 

 今日この時の私は過去最高に燃えていた。

 




有馬かな:やっと出番がきたみんな大好き重曹ちゃん。今作では本読み段階でアクア達がいるのでコネの子とは思ってない。相手が3人いるのでわからせも原作比3倍だった。リベンジに燃えているが1週間時間があるのは相手も同じだとは気付いていない。

斉藤アクア:アイに対しての侮辱発言がないためかなに対して悪い感情は持ってない。むしろ転生者でもないのに3歳でプロ意識もしっかりしてるこの子凄いなと本気で感心しているくらいには好意的。多分アクア(吾郎)的に輝いてるor輝こうと頑張る子とかが性癖なんじゃないかな。

斉藤マリン:アクアから説明を受けてかなに対しては凄い子だと思ってる。珍しくちゃんと名前を覚えようとする程度には。それはそうとかなに嫉妬して(息子)に甘える()がかわいい。

斉藤ルビー:かなは凄い子だと認めたけどそれはそうとして(せんせ)(アイ)と自分以外の女を褒めるのは気に入らない。もっと甘やかせー、ナデナデしろー。家族に甘えるのは末っ子の当然の権利なんですけどー。

斉藤壱護:言われてみれば家の子変わってるなと今更気付かされた。まあそんなこと言われても家の子かわいいからどうでもいいかと流す。カワイイは正義

斉藤ミヤコ:演技もしっかりできるなんて家の子やっぱ天才なのでは?(親馬鹿)




 最初は原作通りに撮影開始時点でアクア達合流で書いてたんですが、原作を読み返してたらドラマ撮影→1ヶ月後の放送でアイの出番が削られてて監督に連絡→アクア苺プロ所属って流れだったのが、今作だとドラマ撮影→アクア達苺プロ所属になってるので1ヶ月前倒しになってるじゃないかとなったのでこんな感じになりました。ほんと原作通りに進めれないなこの作品。






 思いつきで書き始めた本作ですがおかげさまで沢山の人に見ていただけているようで本当にうれしく思っています。
 月1か月2更新で精いっぱいで遅筆な本作ですが来年も書き続けていきたいと思っていますので応援よろしくお願いいたします。それでは皆様よいお年を。
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