星の三つ子   作:大空

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【ご注意】
今回若干のホラー表現があります。そこまでのものではないと思いますが苦手な方はご注意ください。


それが始まり

 アクア達と有馬かなが出会った本読みの翌日。かなの所属する事務所、その中のレッスン室でかなは自身の演技を向上させようと『それが始まり』の台本を片手に練習に励んでいた。

 

「ようこそおきゃくさん…かんげいします――――――これじゃダメ…」

 

 自身の役を演じながらこれではダメだとかなは溢す。他の者からすれば何がダメなのかと問われるほどであるだろうそれに納得がいかないようで、今日この場でずっと繰り返されている光景だった。

 

 眉間にしわを寄せながらかなが台本を睨んでいると、かなの手から台本が取り上げられた。突然のことに驚いたかなは下手人を確認しようと視線をあげる。そこにいたのはかなのマネージャーだった。

 

「…なにするのマネージャー。台本返して」

「返す前にかなちゃん、あそこの時計を見てくれる?」

 

 マネージャーの言葉に疑問を持ちながらも台本を返してもらうためにかなはレッスン室の壁に掛けられている時計に目を向ける。そろそろ11時になろうかという時間だった。

 

「かなちゃん今日何時からこの部屋使ってるか覚えてる?」

「たしか…10時前くらい?」

「最初に約束したよね? 一時間に一回は休憩するって」

「…でも私疲れてないもん」

 

 かなの様子にマネージャーは小さくため息と吐くとその場に屈んでかなと目線を合わせる。

 

「あのねかなちゃん。練習するのはもちろんいいことだけど、練習を頑張りすぎるのは良くないことよ」

「…なんで?」

「かなちゃんはまだ経験ないと思うけどね。練習で頑張りすぎた結果、本番で力尽きて失敗。なんてことは大人でもよくあることなのよ」

「ふーん…」

「昨日のあの子達に負けたくないって気持ちは分かるけどね、このまま休憩もせずに頑張っても撮影当日に頑張れなくなっちゃうかもしれない…そんなのはかなちゃんも嫌でしょ?」

「……うん」

「それじゃあはいこれクッション。それ使って私が良いって言うまで休憩すること。いいわね?」

「…はぁい」

 

 クッションと台本をかなに渡し、休憩すると約束させるとマネージャーは自分の仕事に戻っていった。マネージャーを見送るとかなは壁際に置いてあった自分の荷物の傍へとクッションを置き、その上に座る。

 

 かながふと視線を自分の荷物へと向けると、その中のタブレット端末が目に入る。かなの母親から自由に使いなさいと渡されていたものだ。

 手持無沙汰なのも相まって、かなはそれを手に取る。電源ボタンを押してパスワードを入力するとホーム画面にズラリと各種アプリのアイコンが並んでいる。

 休憩中の暇つぶしに丁度いいかと、かなはその中にある動画配信サービスのアイコンとタップする。何を見ようかとジャンルの一覧を表示させ、そこに並んでいる中に"ホラー"の文字が目に留まる。

 かなは自分の足元に置いている台本に目を向け、そういえばこれもホラー作品だったなと考えたところで、ふとある事に()()()()()()()()

 

「そういえば私ホラーって見たことないわね…」

 

 親が余程のホラー好きでもない限り3歳児が見る機会があるようなものではないのだが、かなには知る由もないことであった。

 ホラーの文字をタップするとずらりとサムネイルが表示される。

 

「うーんサムネだけじゃ内容が分からないしそんなに長く休憩するつもりもないし…人気順で上の方のでいっか」

 

 この時のかなにとって不幸だったのはそばに止めてくれる人がいなかったことと、選んだ作品が序盤からホラー要素全開なタイプであったことだろうか。

 

 

 

 

「――――――――――――ピッ!?」

 

 

 

 

 この後様子を見に来たマネージャーの元へとかなは全力で駆け寄り脚に抱き着き、事情を知らないマネージャーを酷く混乱させるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かなが盛大に自爆している頃の苺プロのレッスン室。そこにいつものようにアクア達三つ子が集合していた。いつもと異なっている点を挙げるとするならば、いつもは大体3人で横か円形にならんでいることが多いのだが、今日はマリン一人とアクアとルビーの二人が対面するような形になっていることだろうか。

 

「それでは今日の練習を始めます!」

「はい!!」

「それはいいんだけど一個聞いてもいいかマリン」

「うん? どしたのアクア?」

「そのカメラどうしたの?」

 

 アクアの言葉の通りに今マリンの手には小さめのデジカメ、所謂コンカメが握られていた。小さめと言っても2歳児であるマリンにとってはそこまで小さいものではなかったが。

 マリンは自分の持っているコンカメに視線を向けるとそれを胸元まで持ち上げ言う。

 

「ああこれ? さっきお母さんに貸して♡って頼んだら貸してくれた!」

「―――前から思ってたけど母さん俺たちに甘くない?」

 

 それ結構高いやつじゃないか?、とあきれたようにアクアは続けるがアクアも基本的に妹二人の頼みは断らないので完全にお前が言うな状態である。

 

「まあまあそれは置いといて、改めまして今日はこのカメラを使って練習をします!」

「はい!!」

「ルビー燃えてるね!」

「あの子には負けられないからね…!」

 

 昨日アクアが他の女(かな)を褒めたことをまだ気にしているのかルビーはやる気に満ちていた。そんな様子のルビーに対し首をかしげているアクアと微笑ましく見守るマリン。今後幾度となく見られる光景である。

 

「それで、そのカメラで何するのさ」

「えっとね、カメラで撮られる練習をしてみよっかなって」

 

 話を本題に戻そうとアクアがマリンに質問をするがその回答に首を傾げる。

 

「"カメラで撮られる練習"? 演技の練習じゃなくて?」

「うん。撮影までになにができるかなってちょっと考えたんだけどさ、苺プロってアイドル事務所だから演技指導できる人とかいないでしょ? 私だって前世で演技するような仕事はあんまりしたことないし…だから演技の練習はそこまでやる意味が薄いかなって。それで何か役に立てることはないかなぁって考えたら役者の経験は無かったけどMVの撮影なんかでカメラに撮られた経験はそこそこあったなぁ、と。あ、二人は(アイ)のMVとか見たことあるよね?」

「「百万回見た」」

「おぉ…知ってたけど二人が(アイ)のこと好きすぎる…」

 

 若干食い気味のアクアとルビーの発言にマリンは少し照れたように小さく呟いた。その後軽く咳払いをして続ける。

 

「こほん。とまあそんな感じで演技に関しては私も素人だけど、カメラ映りに関してならアドバイスできるかなって」

「なるほど、それで"カメラで撮られる練習"か」

「そういうこと! それじゃあ練習始めよっか!」

「「わかった/はーい!」」

 

 

 

「それじゃあアクアとルビーで左右対称になるように横ピースして…ルビーは気持ち腕下げてアクアはちょっとあげて…そうそう…! きゃわ~!! いい、二人ともいいよぉ! あ、これなら私がちょっと動くのもいいかな…二人ともポーズと目線もそのままで…きゃわ~! 二人とも最高!」

 

 マリン曰く"カメラで撮られる練習"を始めてから十分ほどが経過した苺プロのレッスン室にはアクアとルビーも初めて聞くハイテンションな声をあげながらカメラを構え写真や動画を撮り続けるマリンと、そんなマリンの様子に若干困惑しているアクア、ノリノリで撮られているルビーの姿があった。

 マリンの指示通りのポーズをとりながら横で自身と同じようにポーズをとっているルビーにアクアが話しかける。

 

「なぁルビー」

「ん? どうしたのお兄ちゃん?」

「さっきはマリンの説明に一応納得したわけなんだけどさ―――これマリンが俺たち(我が子)の撮影会したかっただけじゃない?」

「あぁ~……まあお姉ちゃん楽しそうだからいいんじゃない? 私も楽しいし」

「――――――それもそうか」

 

 その後もマリンの 練習 (撮影会)は続き、しばらくした後に「マリンの撮影もするべき」と被写体を交代し、推し(マリン)を好きなだけ撮影する権利を得てしまったファン二人(アクアとルビー)が暴走したりとその喧騒は昼食の時間だとミヤコが呼びにくるまで鳴りやむことは無かった。

 

 

 

 その日の午後、苺プロのオフィス。たっぷりと練習をした(遊んだ)後に昼食を食べた三つ子は疲れてしまったのか3人並んで昼寝をしている。

 そのすぐそばでミヤコは自分の席でパソコンを使い何やら作業をしており、穏やかな表情で眠っている三つ子とは対照的に真剣な表情であった。

 その姿は本人の美貌もあり如何にも出来る女といった風であった――――――パソコンの画面に先ほどまでアクア達が撮っていた写真や動画のサムネイルがずらりと並んでいなければ、だが。

 

「副社長今まで見たことないくらい真剣な顔してますね…」

「美人は真剣に仕事するだけで絵になるよなぁ」

 

 なおパソコンの画面が見えていないため周囲は都合よく勘違いをしていた。

 

 苺プロは今日も平和である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『それが始まり』の本読みから約1週間後、撮影本番の日。映画冒頭のシーン、主人公の女が不気味な2人の子供に出迎えられる場面の撮影が終了した。

 五反田監督は思わず口角が上がってしまうのを抑えられないでいた。とあるドラマの撮影現場で偶然出会った三つ子、彼らを有馬かなに引き合わせたのは大正解であったと確信できた。

 本読みの日に有馬かなと三つ子の間でなにやら一悶着あったことを五反田監督はたまたまそれを目撃したスタッフから聞いていた。

 それがあったからだろうか有馬かなの演技は素晴らしい出来栄えであったし、斉藤アクアも五反田監督の意図をくみ取った満点の演技だった。

 いざ出来栄えを確認しなければと五反田監督はスタッフに指示を出し、今撮影したばかりの映像を見る。

 

 

 

ようこそお客さん…歓迎します――――――」

 

この村に民宿は一つしかありません――――――」

 

 

 

 確認した映像は十二分に五反田監督を満足させるものであった上、仕上げてきた有馬かなの演技と比較すると流石に劣っていたように見えたアクアの演技が、カメラ越しだとやけに目を引くのは五反田監督にとってうれしい誤算だった。

 

「(誰かに教わったかはたまた天性の…どちらにしろ、か)」

 

 縁は出来たのだしまた使わせてもらおう、等と五反田監督が思考しているとなにやら騒がしい。

 

 五反田監督が声のする方へと顔を向けると、そこにはアクアに詰め寄るかなの姿があった。

 

 

 

 

 

 

 有馬かなが一日千秋の思いで待っていた『それが始まり』の撮影日、自身の出演シーンの撮影を終わらせたかなは上機嫌であった。

 今日の自分の演技は完璧だったと、斉藤アクアの演技も本読みの時よりも良くなっていたがそれ以上の出来であったと確信していた。

 

 五反田監督が映像を確認すると言っているのでかなは監督に頼んで一緒に映像を見せてもらった。そこには自分が一番輝いていると信じて。

 

「――――――え?」

 

 しかしそこに映っていたのはかなの予想していたものとは違っていた。

 自分の演技はいい、変わらず渾身の出来であった。違ったのはアクアの演技だ。

 隣に立って演技をしたときは自分の方が上だと確信した。なのに映像でみると自分よりもアクアの演技の方に目が向いてしまう。

 理解不能であるそれを知らねばと気付けばかなは離れた場所で休憩をしているアクアへと詰め寄っていた

 

「アクア! あれ、何したの!?」

「えっ、有馬さん? あれって何のこと?」

「とぼけないで! 演技は絶対に私の方が上手だった! なのに映像で見たらあなたの方が目立ってる!」

 

 突然かなに詰め寄られ困惑するアクアであったが続く言葉に合点がいったのか小さく呟く。

 

「あの練習ちゃんと効果あったのか…」

「聞いてるの!?」

「あ、あぁアレは―――むぐ」

 

 別に教えても構わないと判断しアクアがかなに説明をしようとしたが横から伸びてきた手によってアクアの口が塞がれる。口を塞いでいる手を辿っていくとそこにいたのはルビーだった。彼女は少々不機嫌そうな顔でかなを睨んでいる。

 

ういー(ルビー)?」

「…なによ」

「―――企業秘密!」

「むっ…うぅ」

 

 もう少しで教えてもらえそうであったのにルビーに遮られてしまい、かなの目尻に涙が溢れてくる。

 

「な、泣いたってダメなんだから!」

「泣いで、ない゛もん……―――?」

 

 誰がどう見ても泣いているかなが強がりを言っていると、目元に何か柔らかいものが優しく押し当てられる。

 ルビーが乱入してきたことで蚊帳の外に置かれてしまっていたアクアがハンカチでかなの涙を拭っていた。

 

「えっと、教えてあげるのはダメみたいで…ごめんね」

「うう゛ぅ…」

「ただ知りたいならこの後マリンとルビーの演技を見学したらいいんじゃないかな。それは俺たちにも止める権利はないから」

 

 あと俺よりマリンとルビーの方が演技上手だし、とアクアは続ける。

 それを聞いたかなはその場から数歩下がりアクアから離れると、アクアとルビーを指さし声を上げる。

 

「あんたたちの"それ"! 絶対見破ってやるんだから!」

 

 言い終わるとかなはマネージャーの元へと帰っていく。

 なんとかなったとアクアは安堵するも、すぐに別の問題が浮上する。

 

「むぅうううう…」

 

 ルビーの機嫌がものすごく悪い。原因はアクアもなんとなくは分かってはいるのだが、自分が泣いている子をほっとけるような性分でないことはルビーも知っているのだから許して欲しいとアクアは切に思う。

 

 その後ニコニコと少し離れたところで成り行きを見守っていたマリンとともにたっぷりと甘やかすことでアクアはルビーのご機嫌をとるのであった。

 

 

 

 

 

 

 アクア達から離れたかなはマリンとルビーの撮影を見学できるようにマネージャーを説得して(にわがままを言って)いた。

 最初は難色を示したマネージャーだったが、かなのためになるかと許可を出すことになる。

 

 許可が下りたことにかなが喜びをあらわにしていると、そこに一人の人物が近づいてくる。

 足音が耳に入ったかながその方向を向くとそこにいたのは五反田監督だった。

 五反田監督が寄ってきたことにかなが首を傾げ、マネージャーが頭を下げていると五反田監督はその場で屈んでかなと目線を合わせる。

 

「話は聞こえてたが残って見学したいのか?」

「うん…ダメだった?」

「いや、そのくらいなら別にダメじゃねぇ…けどな有馬、一つだけ覚えとけ」

 

 五反田監督からも見学の許可が出たことに笑みを浮かべるかなに対し監督は険しい目つきで続ける。

 

「俺の現場で騒いだりして迷惑かけるのは禁止だ。さっきのは目ぇつぶってやるが次騒いだらつまみだす。わかったな?」

「ひゃ、ひゃい…」

 

 かなの顔にせっかく引っ込んでいた涙が再び少しだけ顔を見せてしまっているが、五反田監督は気にせず立ち上がり現場のスタッフに対し叫ぶ。

 

「おーし、次の撮影するぞ! 移動だ移動!」

 

 五反田監督の声にスタッフたちが各々返事をし、移動の準備を始める。

 

 次はいよいよマリンとルビーの出番であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■■■■■■■■■■

 

 

 

 坂湯村、山奥のその村にある病院。そこで整形をするために私ははるばるやってきた…やってきたのだけれど。

 

 先ほど村の入口でであった子供達が頭にしみついて離れない。二人ともこんな言い方は失礼かもしれないけど不気味な子だった。

 

 ひょっとしたら普通の人間ではないなにかだったり―――流石にそれはないか。

 

 そんなことを考えながら男の子の言っていた民宿を探して村の中を歩いている。山奥の村だけあって道は全く舗装されておらず、手に持ったスーツケースはガタガタと音を立てているしそもそも歩き辛くて時たま転びそうになる。

 

 私が田舎道に苦戦していると前からポンポンと音を立てて何かが転がってくる。足元まで転がってきたそれを見るとどこにでもありそうなボールだった。

 

 ボールを拾い上げて転がってきたであろう方向へと視線を向けると黒髪の女の子が走ってくるのが見える。

 

 走り寄ってきたその子へと話しかけながら私はボールを差し出す。

 

「このボール、お嬢ちゃんの?」

「うん! お姉ちゃんありがと! それとこんにちは!」

 

 女の子はボールを受け取ると元気にお礼と挨拶を言ってきた、礼儀正しいいい子だ。それによく見るとすごく可愛い子だった。

 私は挨拶を返すついでに女の子に質問をしてみることにする。

 

「はい、こんにちは。お嬢ちゃんはこの村の子かな?」

()()? ()()はこの村の子じゃないよ」

「私達…?」

「え? うん、私達…あれ?」

 

 一人でいるはずなのに複数形で私達と言ってきた女の子に思わず聞き返すと、女の子はキョロキョロと辺りを見渡す。誰かとボールで遊んでいたらボールが転がって行ってしまい一人で拾うためにやってきたのだろうか。そんな風に考えていると答えが向こうからやってきた。

 

「お姉ちゃーーん!!」

「こっちこっちーー!」

 

 金髪の女の子が黒髪の子を呼びながら走り寄ってくる。お姉ちゃんと叫んでいるので妹さんらしい。

 妹さんが黒髪の子の傍まで寄ってくると私がいることに気付いたのか黒髪の子の後ろに隠れ、顔を半分ほど出して私の方をじっと見つめてきた。元気に挨拶までしてきた黒髪の子とは対照的に人見知りなのだろうか。二人そろってとてもかわいいのは共通しているが…私と違って。

 

「こんにちは」

「…こんにちは」

 

 妹さんに挨拶をしてみると恐る恐るとだが返事をしてくれた。どうやら怖がられたりはしていないようだ。

 

「このお姉ちゃんもね、お外から来たんだって」

「そうなんだ? それじゃあ、お姉さんもお医者さんに用事で来たの? 私もなんだ」

 

 妹さんも? 私は所謂美容整形のためにこの村まで来たわけだけどこの子達の年齢でそれはない…よね? 件の病院は整形外科も兼業してるのかな。妹さんは外でボール遊びなんてしてるのもあって、体のどこかが悪い風にはとても見えないのだけれど。

 

「うん、そうだよ。この村の病院に用事があって来たの」

「そっか――――――それじゃあお姉さんも()()()()()()()()()()

「え―――?」

 

 ()()()()()()? この子の言っていることが私には理解できない。

 

「えっと……同じにってどういうこと…かな?」

 

 私の質問に妹さんはこちらにじっと顔を向けて来る。その表情はまるで感情が抜け落ちたようで。

 

「同じは同じだよ? お母さんがね、言うんだぁ。あなたはお姉ちゃんと比べて駄目な子だからお姉ちゃんと同じにしてもらいなさい―――って」

「……」

 

 妹さんの言ってることが私には意味不明であり言葉を失う。なんとかして次の言葉を発しようとするのだが上手くいかず、そうしていると黒髪の子が口を開いた。

 

「あ! そろそろ私達戻らないと! ほら行こ! お姉ちゃんバイバイ!」

「あ、うん…わかった。お姉さん、バイバイ」

「えっ…あ、ちょっと!」

 

 黒髪の子が妹さんの手を繋いで駆け出してしまう。まだ聞きたいことがあるのに止める間もなくあの子達は行ってしまった。

 

「なんだったのよ―――――」

 

 なんだかとても嫌な予感がするのは、気のせいだと思いたい――――――

 

 

 

■■■■■■■■■■

 

 

 

 村に到着した翌日の夕方、私は件の病院で問診を受けてから民宿への帰り道を一人で歩いていた。

 

 昨日の奇妙な出会いのせいで病院もなにかあるのではないかと身構えてしまっていたが、特に何もなかったので良かった。

 

「あれ? もう夕方…? そんなに長いこと病院にいたかなぁ?」

 

 山奥の田舎で灯りがないせいかな? 等と考えているとポーンポーンとボールが跳ねる音が聞こえてくる。

 ボール…とくれば想起されるのは昨日の姉妹だ。普段なら気にすることもないであろうその音に背筋が冷える。

 とはいえ民宿に戻るにはこの道を行くしかない。私は緊張しながらも歩を進める。

 

 音の方へと進むとそこにいたのは昨日の黒髪の子だ。

 

「…こんにちは」

「うん? あ! 昨日のお姉さん! こんにちは!」

 

 私が気にしすぎていただけだろうか、女の子の様子は昨日と変わらなかった――――本当に?

 

「今日はお嬢ちゃん一人なのかな? 妹さんは?」

 

 私が問いかけると女の子はゆっくりと返してくる。

 

「―――妹? ()()()()()()()()()()

「え? いないって…先に帰っちゃった、とか…かな?」

 

 先ほどまでの朗らかな印象と一変、この子を見てると背筋が凍りそうに感じる。私をじっと見ている眼も今はどす黒い暗闇のようで。

 

「妹は()()()()()()()()()から、もういないんだ」

 

 

 

 あぁ、さっき感じた違和感の正体に気付いた。この子は昨日、私のことは『お姉ちゃん』と呼んでいた。私を『お姉さん』と呼んでいたのは―――

 

 

 

 

 

 

 

あれ、昨日のお姉ちゃんだ

 

 後から聞こえたのは目の前の子と同じ声。私は気付けば走り出していた。

 

 

 

 

 

 

「ハァ…―――ハァッ…ハァッ…」

 

 脇目も降らず走り続けていた私だが、限界まで走り続けた後に立ち止まり肩で息をしながら周囲を見渡す。

 

「ハァー…ここ、は―――」

 

 街灯もない夕暮れの山奥、走るのに必死になっていた私には村から続いている山中のどこかということしか分からない。

 それでもなにかないかと見渡し続けていると見覚えのあるものが見えた。坂湯村の石銘板だ。

 

「……村の、入口――――――」

 

 自分がやってきてしまった場所を把握したとたんに身の毛がよだつ。

 この場所は―――。

 

 

おや、昨日のお客様ではありませんか

「―――ヒゥッ…」

 

 叫び声をあげそうになるのを堪えはしたが、完全に恐怖から足が動かなかった。

 あの子はまだ幼児と呼称されるくらいの容姿だった、こんな時間に山中で出会うのはおかしい。ありえない、それに――――――

 

 

 

 

 

 

「「どうかなさいましたか?」」

 

 

 

 

 

 

 同じ声が、重なって――――――

 

 

 

 ――――――私の意識はそこで途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁっ!!――――――あ…?」

 

 バサッという音とともに勢いよく上体を起こす。

 ぼやけた頭で周囲を見渡すと見覚えのあるこじんまりとした和室、私が泊まっている民宿の部屋だった。その中央に敷かれた布団の上に私は今座っている。

 窓から差し込んでいる朝日が眩しい。

 

 周囲の確認が済むと私は脱力して呟いた。

 

「え、夢―――? ……なんだぁ」

 

 安心感から脱力した私はポスンと音を立てて枕に頭を落とし、ぼうっと天井を眺める。

 

 

 

 あぁ夢で良かった――――――本当に?

 

 

 

■■■■■■■■■■

 

 

 

 

 

 

 自分達の撮影が終わったアクアは現在一人で撮影現場近くのベンチで休んでいた。マリンとルビーはミヤコと共に衣装から着替えるために席を外している。

 アクアが手持無沙汰に撮影現場をぼうっと眺めているとアクアの元に誰かが近づいてきた。足音がした方へアクアが顔を向けると五反田監督が満足げな表情をしながら近づいてきていた。

 

「お疲れ、早熟。妹達とお袋さんはどうした?」

「着替え」

「あぁそりゃそうか」

 

 挨拶代わりの他愛のない会話を交わした後、五反田監督がアクアの隣に腰かける。

 

「お前達の演技良かったぜ、俺のイメージにピッタリだった。満点やるよ」

「…ありがと」

「お? いっちょまえに照れてんのか早熟」

「そんなんじゃないし…」

 

 アクアの反応が予想外だったのかニヤリと笑いながら五反田監督がアクアを揶揄う。

 話を変えるためにアクアはそういえばと気になっていたことを口にする。

 

「ねぇ監督」

「うん? どした?」

「俺達を使いたかったのって、俺達を有馬さんにぶつけるため?」

「……お前やっぱ2歳児じゃねぇだろ」

「正真正銘2歳児だけど? で、どうなの」

 

 アクアからの問いに五反田監督は頭を掻きながらしばし考え返答する。

 

「まあ、それもある。けどそれだけじゃねぇ。お前今日有馬の演技をすぐそばで見たろ、どう思った?」

「どうって…凄く上手いと思ったよ」

「だよな。お前達とは方向性こそ違えど有馬は天才と言っていい。でもだからこそな、あの子は気持ちを共感したりできる仲間がいない、事務所内の先輩にもあの子の才能について行ける奴がいない。孤独なんだよ」

「―――孤独」

 

 五反田監督の語る有馬かなの現状。彼女が孤独だという彼の言葉を聞き、アクアの脳内に浮かぶのは前世で救えなった少女の姿。

 

「そっか、じゃあ監督は俺達に有馬さんの友達になって欲しかった、と」

「……なあ、俺そろそろお前と会話すんのが怖くなってきたんだけど?」

「当て書きでホラー映画の登場人物になれる幼児だからね」

「やかましい―――まあ、余計なお節介だったかもしんねぇけどな。あ、一応言っとくが一番は良い画を撮りたいだからな」

「はいはい」

「このガキ…」

 

 アクアと五反田監督がじゃれ合うような会話を続けていると、着替えが終わりミヤコに連れられたマリンとルビーがアクアを呼ぶ声が響いた。

 

「「アクアー!/お兄ちゃーん!」」

 

 その声にアクアが手を振って答えていると、アクアの元までマリンとルビーと共にやってきたミヤコが五反田監督に頭を下げる。

 

「監督、今日はうちのアクア達がお世話になりました」

「あぁ、アクア君達のおかげで良い画が撮れた。また機会があればよろしく頼みますわ」

「えぇその時は是非」

「それじゃあアクア、マリン、ルビー。またな」

「うん」「「バイバーイ!」」

 

 五反田監督が立ち去るとミヤコはアクア達に声をかける。

 

「それじゃあ帰りましょうか。今日はお疲れ様、頑張ったわね」

 

 そういいながらミヤコはアクア達の頭を撫でる。その後帰るためにアクア達を車へと連れて行こうとするが、そこでアクアが待ったをかけた。

 

「あ、母さんちょっとだけ待ってくれる?」

「あら、どうしたのアクア、忘れ物?」

「忘れ物じゃないけどね、最後に挨拶しとこうかなって」

 

 そう言うとアクアはキョロキョロと周囲を見渡し目的の人物を見つけるとそちらに向かって歩き出す。

 アクアの進む先にはかなが居た。かなは何故か傍に立っているマネージャーに縋るように震えていた。

 

「有馬さん」

「―――――ピッ!?」

 

 アクアとしてはただ声をかけただけなのだが、何故かかなは悲鳴をあげマネージャーの後ろに隠れてしまう。

 

「ア、アアアア、アクア!? な、なんの用よ!?」

「帰るからその前に挨拶しとこうかと思っただけなんだけど―――何かあったんですか?」

 

 挙動不審なかなの態度に疑問を持ったアクアはかなのマネージャーに尋ねる。

 

「あぁ~、アクア君は気にすることないんだけど…ちょっと、ね。ほらかなちゃん態々挨拶しに来てくれたんだから」

 

 マネージャーに促されたかなが前に出てくる。それを確認するとアクアはかなの前に右手を差し出す。

 

「……なに?」

「なにって、握手。有馬さんが嫌ならしないでかまわないけど」

「……嫌じゃないわよ…」

 

 そう言うとかなはアクアの手を取り握手を交わす。思わずかながその感触を確認しているとアクアと握手している手とは逆の手を誰かが握ってきた。

 それに驚いたかなが顔をそちらに向けるとニコニコと笑顔を浮かべているマリンがかなの手を取っている。

 

「今度は私とも一緒に演技しようね!」

「―――うん」

 

 マリンの言葉が予想外だったのかかなは少し呆けた後に口を結んで小さく呟いた。気恥ずかしいのかその頬が夕陽以外で赤く染まる。

 しばらくアクアとマリンがかなの両手を握っていたが、やがてアクアが手を放し後ろを振り返る。その時にかなが一瞬寂しそうな顔をしたのを握手し続けていたマリンだけがキラキラとした顔で見ていた。

 

「ルビー」

 

 アクアに呼ばれてルビーがかなの近くに寄ってくる。ルビーも握手をしようと手を出すがそれを見るとかなはプイと顔を背けて空いている右手を背中に隠してしまい、ルビーの手は空を切ることになる。

 

「―――あなたはいい」

「え?―――あっ…」

 

 拒絶されて思い出すのは今日かなの撮影が終わった直後、企業秘密とアクアの口をふさいだ時のことだ。

 ルビーの行動はかなに対しての嫉妬心故のとっさの行動であったが、かなからすると意地悪されたと取られても仕方ないものだった。そのことにルビーは思い当たると手はそのままに気まずそうに顔を下げる。

 

 数瞬そうしていたルビーであったが不意に顔を上げるとかなに更に近づいた。かなは逃げようとしたが未だにマリンが手を握ったままであったため逃げられず、後ろに隠していた手をルビーに取られる。

 両手でしっかりと握られてしまいかなはその手を振りほどくことが出来ずにいた。かなが視線をルビーの顔へと向けると、ルビーは何かを言いたげに口をもごつかせている。

 

「えっと…その――――――イジワルしてごめん…」

「……別に、いい」

 

 互いに気恥ずかしいのかかなとルビーを互いに顔を背け合っていたが、その後かなが振り払おうとはせずにその手はしっかりと握られていた。

 

 

 

「も、もういいでしょ! 帰りましょ、マネージャー」

「あらかなちゃん、もういいの?」

「いいの!」

 

 しばらく経つと気恥ずかしさが限界になったのかかなはマリンとルビーの手を振りほどいてしまい、マネージャーと共に帰路につこうとする。

 名残惜しそうなルビーとマリン、後ろで成り行きを見守っていたアクアとミヤコがその背中を見送っていると、途中でかなが振り返る。

 

「アクア! マリン! ルビー! ――――――またね」

 

 言い終わるとかなはすぐに踵を返し、足取りも軽く歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 ミヤコが今度こそ帰りましょうかとアクア達に言い、ミヤコを先頭にして帰路につく。ミヤコのすぐ後ろにアクアが続き、そこから少し離れたところをマリンとルビーが付いて行っていた。

 

「ルビーなんか嬉しそうだね」

「そうみえる? そっかぁ」

 

 楽し気に体を揺らしながら歩くルビーにマリンが声をかける。

 

「…私の前世の話なんだけどさ」

「さりなちゃんの?」

「うん。前世の私って4歳ぐらいから病気になって、入退院を繰り返してて最後はずっと入院しっぱなしになってさ」

 

 ルビーはゆっくりとした口調で独白する。

 

「そんなだったから友達なんていなくて…せんせは…友達、とはちょっと違うだろうし、そういうのよくわからなくて。でもさっきかなちゃんと握手した時からなんだかポカポカしてて―――友達っていいね」

「――――――うん、そうだね」

 

 ルビーの言葉にマリンも自分の前世を回想し、呟く。

 

「あぁ、そういえば…喧嘩したままだったなぁ…」

「お姉ちゃん?」

「なんでもないよ―――ルビー、友達、大事にしなきゃね?」

「うん!」

 

 そうしてマリンとルビーが話していると二人の前方を歩くアクアが声を上げる。

 

「マリン! ルビー! 置いてくぞー!」

 

 話に集中してしまいマリンとルビーはミヤコとアクアからかなり距離が空いてしまっていた。

 

「アクアー! 待ってー! 行こ、ルビー」

「うん。お兄ちゃーん!待ってー!」

 

 兄の呼びかけに答えマリンがルビーの手を取り一緒に駆け出す。

 

 

 

 

 

 

 こうして、アクア達の初めての撮影は終了した。

 『それが始まり』は低予算ながらもいくつかの賞にノミネートされることになり、世間でもそれなりに注目され評価される作品となる。

 世間で評価されるということは芸能界でも同じく注目されることになり、斉藤アクア、マリン、ルビーの名もまた業界内で知られていくことになるのだった。




有馬かな:努力して仕上げてきた天才。でも転生者(チート)3人にはまだ勝てなかったよ…。なお純粋な演技力だと、かな>三つ子ではある。休憩中に視聴してしまったホラー映画で盛大に自爆、今後しばらくホラーが大の苦手に。でも今回の映画が評価されてしまうので多分またホラー作品の出演依頼が来る。そしたらたぶん泣きながら受ける、プロの鑑。

斉藤アクア:不気味な子供B役で出演。かなのことは割と高評価。妹達と友達になってくれて良かったと思ってる。涙を拭いたり自分から握手しに行ったりと見ようによっては誑かそうとしているようにしか見えないムーブをかましてるが本人は気付いてない。

斉藤マリン:不気味な子供C及びB(二人目)役で出演。さらっとアクアとルビーの両方と共演でき、撮影を一番楽しんだかもしれない。かなは今世で初めての友達に、今度はずっと仲良くしたいと思ってる。

斉藤ルビー:不気味な子供D及びC(二人目)役で出演。撮影外でマリンとマリンに扮した自分でアクアを挟んだり、アクアとアクアに扮したマリンの二人に挟まれたりした写真をミヤコに頼んで撮ってもらった。前世含めて初めての友達に心がポカポカした。

斉藤ミヤコ:持ってきたカメラで三つ子の写真をめちゃめちゃ撮影した。後日大容量の外付けSSDを買いに行った、経費で。






 『それが始まり』の撮影編でした。原作で細かい内容が不明なので好き放題しました、整形がテーマのホラーなら安直ですがこんな感じかなぁと。

 ルビーの前世で友達がいなかったは作者の捏造だけどありえなくはないかなと思ったので今作ではそういうことにしといて下さい。
 
 今回はフォント変えてみたり劇中劇やってみたり、いつも通り思い付きでシーン追加したりと色々詰め込んだら、文字数が膨らんで12,000文字こえちゃいました。毎回文字数増えてんなこの作品。映像フィルム風の区切りは気に入ったのでまたどっかで使いたい。



 UA20,000件、お気に入り500件突破していました。いつも沢山見ていただけているようで本当にありがとうございます。前話で月一か二で更新とか言いながら1月に投稿できなかったのは本当に申し訳ございませんでした。引き続き頑張りますので応援いただけましたら幸いです。
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