阿修羅。そう呼ぶにふさわしい戦いぶりであった。
豪雨のように降り注ぐビーム掃射を潜り抜け、目の前に広がる無数の敵をビームで薙ぎ払う。
周囲いたるところでおこる爆発の光が彼の駆るMS《ブレイヴ》を照らし出た。
青の機体を赤色に輝かせ、神速で敵機を屠っていく。
だが敵の進軍は止まらず、爆炎の中から次々と押し寄せてくる。
放たれるビームをかわして反撃の一撃を放ち、撃墜を確認するまもなくすぐさま反転してトリガーを引き粒子ビームを叩き込む。
すでに撃破した敵の数は大小合わせて数千を超えていた。
当然ブレイヴも無傷ではない。
金属異星体という未知なる敵の圧倒的な物量に押され、腰のGNキャノンを1門失いところどころ銀色の被膜に覆われていた。
それでも躊躇することなく、いくつもの光がまるで走馬灯のように浮かんでは消えていく中を駆け抜ける。
まるで命が燃え尽きようとしているかのように。
そんな想像をらしくもないとコクピットでパイロットが不敵に笑う。
口端から血を流す彼の下半身は金属の被膜に覆われ、コクピットと同化していた。
ELSと呼称される金属異星体は触れたものと同化する性質があり、たとえわずかな接触でも数分ももたずにMS程の大きさでも浸食されてしまう。
人間など数十秒ももたない。
それでも彼は耐えた。
驚異的なまでの精神力で侵蝕を抑え込み、部下をおいて敵しかいない最前線で戦っていた。
だがこのままでは男の末路はただひとつ。
だというのに恐怖に戦意を失うどころかむしろ勇んで突き進んでいく。
そんな彼の睨むモニターの先で長大という言葉では表現しきれないほどの光柱が出現した。
敵の本陣、その最深部である月大の超大型ELSへと光柱が振り下ろされる。
莫大な光を収束した巨大なビームサーベルがELSの表面を斬り裂いていく。
この一撃が誰によるものか、男にとって確かめるまでのないことだ。
そしてこの一撃が望ましい結果にはならなかったこともすぐにわかった。
斬撃はELSに直撃し、めくれあがった表皮の下にある球状の結晶体を露出させるも、結晶体の表面でビームは拡散されて滑っていく。
受け流され、わずかについた裂傷も再生を始めている。
万事休す、といったところか。
光柱と見間違うほどのビームサーベルを放ったガンダムもどうするべきか迷っているようだ。
男は即断した。
もはや私の命運は決している。
だが、私はあきらめの悪い男だ。
定められた最期を遂げる前に、この肉体を駆使して、生命の輝きに一筋の光彩を加えてやろうではないか!
「少年!」
男は、青いガンダムに乗っている少年にむかって叫ぶ。
すでにブレイヴはその大部分を金属異星体に覆われ、自身も今や上半身にまで浸食されていた。
それでも、ビームライフルで道を切り開きながら愛機をわき目も振らず飛翔させる。
「未来への水先案内人は! この、グラハム・エーカーが引き受けた!!」
赤い流星のような軌跡を描きながら、己のMSを、少年がELSに付けた裂傷へと突進する。
「これは、死ではない!」
そう、断じて違う。
死ぬことが、私の戦いではない。
彼は言葉を血にまみれさせながら吐き、唯一動く右腕で機体のトランザムのリミッターを解除する。
『 Emergency
GN Drive[T] critical point over 』
臨界点突破の警告を無視し、操縦桿を一気に押し込む。
機体の輝きが増し、2基のGNドライブが放出する粒子がメビウスの輪を描く。
もはや機体を止めることはできない。
視線だけを横に動かし、少年の乗るガンダムを見た。
青と白のコントラストに剣を手にした姿は7年前、初めて邂逅したときの姿を思わせる。
かつてガンダムに抱いた、相反する感情。
心の中の矛盾を否定しようとして逆に蝕まれ、私は歪んだ。
矛盾することが人である証しであるというのに。
ガンダムに乗る少年は矛盾を肯定し、抱き続けている。
だからこそわかりあう術を模索するのだろう。
人という矛盾した存在のために。
この私、グラハム・エーカーは肯定する。
今でも抱える矛盾を。
人である為に、この矛盾を未来へと、繋げるために!
そうだ、これこそが――
「人類が生きるための――!」
四肢が吹き飛び胴体のみとなった機体が、ついに裂傷の中に滑り込む。
GN粒子の光に包まれた彼の口元は笑っていた。
――生きて、未来を切り開け、
直後、莫大な粒子を放ちブレイヴはそのパイロットとともに光と消えた。
少年に立ちはだかった最後の扉を押し開いて――