機動戦士フラッグIS カスタム   作:農家の山南坊

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#09 青い雫

 検査の結果、骨や内臓にダメージが見つかりそのまま医務室のベッドにグラハムは寝かされていた。

 本来の肉体なら問題はなかっただろうが今は成長途上の体。

 グラハムが思っていた以上に空中変形は負担となってしまったようだ。

 怪我そのものはたいしたことはない(とグラハムは考えている)が、大事をとって一日入院することになった。

 初戦でこの怪我。

 学園側が大事を取らせたいのは理解できた、が。

 

「口惜しいな」

 

 そう悔しさをにじませながらつぶやくグラハム。

 一夏達の専用機とやらとも戦ってみたかったものだな。

 特に一夏は大方の予想に反し,ルフィナに勝利したらしい。

 

『あの千冬女史のISと同様の力を秘めている』

 

 これを聞いてますます口惜しくなったものだ。

 だが、私とて人の子だ。

 そう何度も無理はできない。

 次の機会を待つほかあるまい。

 ふっ、とそのときを待ち焦がれるように微笑を浮かべているとドアが開いたらしく、グラハムは視線を向けた。

 

「失礼しますわ」

 

「セシリア・オルコットか」

 

 医務室に入ってきたセシリアがグラハムのベッド横まで歩いてきた。

 

「お加減はいかがですか」

 

「骨に軽いひびが入った程度だ。心配は無用だ」

 

「そうですか……」

 

 セシリアの表情からあの高飛車な雰囲気はうかがえない。

 

「あの、申し訳ありませんでした」

 

 突如頭を下げてきたセシリア。

 

「なんのことかね」

 

「あなたのこと男子というだけで下に見ていましたわ。……今回のことで自分の不甲斐なさが嫌というほどわかりました」

 

「…………」

 

 どうやらセシリアはあの試合で思うことが多々あったらしい。

 それがグラハムにも分かった。

 普段人の内面の機微の変化に鈍感な彼ですらわかるほどセシリアは変化していた。

 そんなセシリアにふっとグラハムは笑みを見せた。

 

「不甲斐ないのは私も同じさ。ちゃんとしたパイロットなら私のように怪我することもなかっただろう」

 

「ですが……」

 

 何か言いたげなセシリアの言葉を左手で制止し,だからとグラハムは言った。

 

「私にISの操縦法をレクチャーしてもらえないだろうか」

 

「え?」

 

 それはセシリアにとって意外な申し出だった。

 

「先の試合は勝てたがやはりISの操縦は難しい。やはり個人的に誰かに師事したいと思っていてね」

 

「ですが、わたくしなどに……」

 

「セシリア。少なくとも、君は私よりもISの経験が豊富で技量もある。君が負けたのは視野が狭かったからだ」

 

 これはグラハムの本心だった。

 楯無の時とは違い、最初からセシリアは全力だった。

 セシリアの慢心がこちらに有利をもたらしたのだ。

 だがたとえ慢心していても全力で戦ってくれたことをグラハムは称えていた。

 

「今の君にそう簡単に勝てるなどとは思わない。だが私も負けたくない気持ちはある。そのためにも私は君に師事し、互いに切磋琢磨できる仲でありたい」

 

「…………」

 

 黙り込むセシリア。

 その顔をグラハムはしっかりと捉えていた。

 

「わかりましたわ」

 

 しばらくしてようやくセシリアが目線を上げる。

 

「わたくしに何ができるかわかりませんが、お受けいたしますわ」

 

 そうか、とグラハムは表情を緩める。

 

「よろしく頼む」

 

「では、退院なさったらすぐに始めますからそのおつもりでいてくださいな」

 

「望むところだと言わせてもらおう」

 

「で、では失礼いたしますわ」

 

 意気軒昂とした目で笑んでみせると顔をそらすようにグラハムの視線を避け、セシリアはそそくさと出て行ってしまった。

 すぐにはそう打ち解けられんか。

 閉まったドアを見てグラハムは思う。

 

「……だが」

 

 私はセシリアとわかりあえたのだろうか。

 いや違うな。

 わかりあうためのまだ一歩を踏み出したところだ。

 わだかまりを完全になくし打ち解けることができてはじめて『わかりあう』ということなのだろう。

 それにあくまでこれは個人同士の話。

 人と人とがわかりあえる道を模索し続けた少年にはまだまだ遠く及ぶまい。

 それでも少しは近づけたのだろうか。

 

「少年……」

 

 君はELSとわかりあえたのか。

 世界ともわかりあうことができたのか。

 いつか超えなくてはならないと誓った人を思い、グラハムは目を閉じた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 シャワーノズルから熱めのお湯が噴き出す。

 シャワーを浴びながら、セシリアは物思いに耽っていた。

 

(今日の試合、わたくしの完敗でしたわ……)

 

 いつだって勝利への確信を抱き続けていたセシリア。

 だが速射で負け、ブルー・ティアーズを破壊され、その自信を打ち砕かれた。

 それなのに相手は勝利を鼻にかけなかった。

 その上、自分の至らなさを自覚し、あれほど高飛車に接してきたこちらに教えを乞うてきた。

 互いに高めあおうと手を差し伸べてきた。

 

(――グラハム、エーカー――)

 

 あの金髪の少年を思い出すと不意に、最も身近にいた男性を逆連想させる。

 父は母の顔色ばかりうかがう人だった。

 そんな父を幼いころから見ていたセシリア。

 父のような情けない男とは結婚しない。

 そう抱かずにはいられない程に父は情けなかった。

 それはISの発表からさらに拍車がかかり、そんな父を母は疎んでいるきらいがあった。

 

「…………」

 

 母は強い人だった。

 厳しくもあったが憧れの人だった。

 だがそんな両親はもういない。

 死者百人を超える大規模な鉄道事故。

 その中に母と父の名前があった。

 一度に両親を失ったが悲しむことも泣くこともしなかった。

 幼くして当主となり、手元に残った莫大な財産を群がる金の亡者から守るためにあらゆる勉強をした。

 その過程で受けたIS適性が評価され操縦者となり、努力を重ね国家代表候補生に選ばれた。

 強くなければならない。

 強くなくては亡者たちに勝つことができない。

 両親の残してくれたものを守れない。

 強迫観念にも近いものに急かされ続け、ついに専用機持ちとして《ブルー・ティアーズ》の運用試験を任されるまでになった。

 けれど、本当に自分は強くいれているのだろうか。

 どうしてもその不安を払しょくできない。

 プライドの下に隠した弱い心が出てきてしまう。

 そんなとき、自分のそばにいて支えてくれる人がいてくれればと考えてしまう。

 弱い心を吐露できる人が。

 強い意志を持った、理想の男性が。

 

「グラハム、エーカー……」

 

 彼の瞳は強い意志を宿していた。

 未来を切り開いていく、そんな強さをしていた。

 

「…………」

 

 ――なんですの、この気持ちは。

 彼のことを意識すると途端に胸が熱くなる。

 今まで経験したこのない感情の奔流に心が苦しくなる。

 ――知りたい。

 彼のことを。

 その強い意志をたたえた瞳の奥にあるものを。

 そして、この感情の正体を。

 

「…………」

 

 浴室にはただただ水の流れる音だけが響いていた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 翌朝 SHL。

 

「一組のクラス代表は織斑一夏君に決定しました。一繋がりでいいですね」

 

「あの、先生」

 

 山田の言葉に一夏は手を挙げた。

 

「どうして俺なんですか?」

 

「そ、それはですね――」

 

「それはわたくしが辞退したからですわ!」

 

 山田の代わりに答えたのは席を立ったセシリアだ。

 腰に手を当て、いつものポーズをとっている。

 

「まぁ、勝負はあなたの負けでしたが、しかしそれは考えてみれば当然のこと。なにせわたくしセシリア・オルコットが相手だったのですから。それは仕方のないことですわ」

 

 相変わらずの高飛車な物言いだが事実故に一夏は反論できない。

 

「むしろ、初見でわたくしにあそこまで喰らいついたことは賞賛に値しますわ。それで、まぁ、わたくしも大人げなく怒ったことを反省しまして、クラス代表を譲ることにしましたわ。やはりIS操縦には実戦がなによりの糧。クラス代表ともなれば戦いに事欠きませんもの、早くわたくしに追いついてくれることを期待してますわ」

 

「いやぁ、セシリアわかってるね!」

 

「そうだよね~。せっかく世界でたった二人の男のIS操縦者がいるんだから、同じクラスになった以上持ち上げないとね!」

 

「私たちは貴重な経験を積める、他のクラスの子には情報が売れる。一粒で二度おいしいね、1組は!」

 

 わいわいとクラスの女子達がセシリアに同調し、男子のクラス代表誕生に盛り上がる。

 クラスメイトで商売するなよ、と一夏は内心呟くももちろん誰も気づかない。

 

「でも、グラハムとルフィナは?」

 

「私もこの件は辞退させてもらった」

 

 一夏の疑問に今度はグラハムが席を立った。

 

「今回のように怪我をしていては、一組は笑いものだろう。だから辞退させてもらった」

 

 残念至極とわずかに肩をすくめてみせるグラハム。

 

「教師としても負傷者を選出するわけにはいかないからな」

 

「残った織斑君とスレーチャーさんでは織斑君が勝っていたので織斑君になりました」

 

 千冬と山田の説明に一夏は何も言えず唖然とするのみ。

 だが、千冬は気にすることもなく

 

「クラス代表は織斑一夏。異存はないな」

 

「「「はーい!!」」」

 

 ――なんでだよ。

 女子の声が重なる中、ただ一人一夏は肩を落としていた。

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