意識を取り戻したグラハムが最初に見たのは、空だ。
雲一つない快晴の空模様。
グラハムの好きなものだ。
暖かな陽気に包まれながら空を見上げるのも一興。
しかしその前にいろいろと確認しなければならないことがあった。
「ここは……」
ここはどこなのだろうか。
直前の記憶は思い起こすまでもなかった。
私は宇宙でELSと戦っていたはずだが……
最期にいたのはELSの軍勢の最深部。
しかも少年の道を切り開くために衛星クラスの超大型ELSに特攻を仕掛けたはずだ。
何かの間違いで脱出できていたとしても地上にいることなどありえない。
グラハムは自分の体を見る。
ソルブレイヴスの隊章のついたパイロットスーツを着ており、肩にまで浸食していた金属異星体の姿を確認できない。
不思議なことだと思ったグラハムが立ち上がるとそこには海が広がっていた。
背中の感触や潮風から予想はついていたが、どうやら彼は砂浜に倒れていたらしい。
とはいえ、海に流されてきたわけではないようだ。
「成程」
どうやら、私は涅槃にいるようだ。
日本では死後の世界には三途の川というものがあるらしいが、海まであるとは聞いていない。
遥か先には船舶や橋のようなものも見える。
若干の差異はあったがグラハムの知る沿岸地域と同じ光景だ。
「死後の世界というものは存外、現実的なものだな」
自分の格好も含めてそんな感想を抱いていていると、そばにヘルメットが落ちているのに気が付いた。
パイロットスーツの機能も生きているらしく護身用の武器も装備されたままだ。
これも選別というものだろうか。
私は軍人。極楽浄土に行けぬことぐらいは理解しているつもりだ。
謹んで受け取らせてもらおうとヘルメットに手を伸ばしたとき、
「動くな」
鋭い女性の声にはたと動きを止めた。
閻魔の使いかとグラハムが振り返ると黒色の鎧を纏った女性が鋭い視線を向けている。
まるでMSのような鎧は腕と脚に重点的に装甲を持ち、肩部には袖を思わせる大きな装甲が宙に浮いている。
そして彼女の右手、こちらへと突き付けているのはまるでウンリュウを思わせる刀状のサーベル。
あのような兵器は地球連邦軍には存在しない。
明らかに既存の兵器から逸脱している。
「理解した」
ここは私のいた世界ではない。
そして、おそらく涅槃でもない。
まったく私の知らない世界だ。
その証拠となるものが目の前にいるのだ、否定しようもあるまい。
死んだはずの身が不可思議な世界でこうして生きて存在している。
あまりにも冷静な自分に驚きつつも、グラハムは久しぶりにセンチメンタリズムな運命を感じられずにはいられなかった。
改めてグラハムは女性と向き合う。
向けられる殺気や漂う貫録から、パイロットは只者ではないだろう。
こちらはMSがなく、武装は護身用のハンドガンとソニックナイフ、短刀しかない。
勝機はまずないといってもいい。
この場を切り抜けるために武を振るうのはナンセンスだ。
規模は小さいが対話することを要求されていた。
「失礼した。私は地球連邦軍ソルブレイヴス隊所属グラハム・エーカー少佐だ」
敬礼をとりつつ名乗る。
「地球連邦軍? なんだそれは」
訝しげに尋ねる女パイロット。
地球連邦軍、つまり地球連邦を知らない。
西暦2314年においてなら赤子でもなければまず誰もが知っている常識中の常識。
このパイロットが嘘を言っていることもあるがそれはないだろう。
目を見ればわかる。
鍛えられた心眼によって、グラハムの持つ疑問の一つが解ける。
思った通り、ここは私の知る世界ではないようだ。
だが彼の疑問がすべて解けたわけではない。
「すまないがどこか話ができる場所はないだろうか。このようなところではゆっくりと話せまい」
まるでよく研がれたナイフのような鋭い視線をグラハムはまっすぐ見つめ返す。
グラハムを信用したのかは分からないがパイロットから帰ってきた返答は剣を下ろしての、
「いいだろう」
という言葉だった。
「感謝する」
グラハムは頭を下げた。
すでに女性は彼に背を向け、ついて来いと言わんばかりに宙へと浮く。
その機能に思わず目を輝かせながらもヘルメットを抱え、後を追った。
これが、グラハム・エーカーに待ち受ける乙女座の数奇な運命の始まりだった
正直、一章はそこまで表だった変更点がありません