「まさか、初めてISに乗って更識と引き分けるとはな」
試験を終えピットに戻ったグラハムを千冬が迎えた。
最後の一撃、グラハムの予想だにしない言葉に反応を鈍らせた楯無は完全に出遅れた。
しかし斬撃が放たれた瞬間、反射的に振るった槍刃がグラハムの乗った《打鉄》を捉え、同時に二人のシールドエネルギーは底を尽いた。
引き分け。これがグラハムの試験の結果となった。
結果だけで見れば入学試験三位タイ。
だが全力できた試験官、しかも学園でも教師含め指折りの実力者と互角に切り結んだという事実は後々大きな波紋を呼ぶことになる。
そんな結果を残したのだが、グラハムはいたっていつも通りだ。
「最初から全力で来られていたら負けていたさ」
「確かにISの技量はまだまだ未熟だ。だがそれを補うだけのパイロットとしての実力があることは確認させてもらった」
「そうか」
言葉だけなら落ち込んでいるようにとれるが、グラハムの表情は清々しかった。
彼なりに初搭乗の手ごたえがあったのだろう。
「とりあえず、お前の専用機を用意させよう。ガンダムのようにはいかないが要望があるならできるだけ応えさせる」
千冬の言葉に打鉄から降りたグラハムは思案気に顎に手をあてる。
とはいえコンセプトは決まっているのでIS風に言い換えるのに少し考えてから口を開いた。
「機動性と運動性を重視した全身装甲の機体にしてもらいたい。無論、装甲を可能な限り薄くしてくれて構わない」
「無茶を言ってくれる」
と言う千冬に
「多少強引でなければ、ガンダムは口説けんよ」
そうグラハムは微笑んだ。
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一週間が経った。
グラハムは宛がわれた来校者用の宿泊棟の一室でISの設計図と向き合っていた。
本来ならば今日からが新学期だが、転入の形をとっている彼は明日からの登校である。
国籍の取得や経歴の捏造など、生活に必要なことを千冬に丸投げしているグラハムだが、この一週間は彼なりに忙しい毎日を送っていた。
模擬戦から最初の三日間はISや日本語についての勉強に明け暮れた。
最初に参考書の山を見たグラハムは、
「さすがは武士道の国日本、勉学もできてこその漢だ!」
と(事実上の)女子校なのにも関わらず感涙し、漢字やひらがなに苦戦しつつも用意された参考書を読み解いていった。
すでに異世界に来てしまったという
だが三日目、千冬経由でパソコンに送られてきたグラハム専用機の設計図を見て事態は急変する。
一応要望は伝えた、と千冬からの短い文章に添付された設計図はグラハムの期待を大きく下回った代物だった。
《打鉄改》と名付けられたISは軽量化という要望に反して人革連のMS《ティエレン》を彷彿とさせる鈍重な見た目。
ガンダムはバリアーを突破できるほどの攻撃力を有している。
それ故に装甲を強化したというのが向こうの言い分だ。
だが装甲を厚くしたせいで機動性は打鉄から大きく落ちているにも関わらず装甲自体の耐久性は従来機の約一割増し程度でしかない。
その程度の装甲ではビームサーベルに耐えるどころか実体剣にさえ断ち切られるだろう。
グラハムは思わずため息を吐いた。
「これで勝てるなら私の世界でガンダムはティエレンにすら劣るな」
そんなことをぼやき、携帯を取り出す。
幸い日本の某社の携帯用充電器が対応していたため持っていた携帯を使うことができた。
200年以上も先の技術で造られた携帯の保存ファイルには親友のビリー・カタギリが話の種に送ってきた多くのMSの設計図が保存されていた。
正直機密といってもいい情報をここまで流してくる親友は本当に軍属なのかと頭をひねってしまうが、この場合においてはグラハムにとって非常にありがたかった。
軍規にルーズな親友に感謝しつつ、数ある設計図の中からGNドライヴ非搭載機のものを選び出す。
SVシリーズの設計図数枚を携帯に映し出させつつパソコンに映る設計図に手を加えていく。
そして四日後、パソコン画面に映る打鉄改は名を変え、ようやくグラハムの望む形になってきた。
カタギリとの会話とグラハム自身のテストパイロットとしての経験が意外なところで生きる結果となった。
あとは武装の確認となったとき、グラハムは作業の手を止めた。
そして備え付けのお茶の準備を始め、お茶を二つの湯呑に注いだグラハム。
「用があるなら入りたまえ」
グラハムの言葉に部屋のドアが開く。
「いつから気づいていたのかしら?」
扇子をあおぎながら入ってきたのは生徒会長だというISパイロット、楯無だった。
湯呑を差し出しながらグラハムは澄ました表情で答えた。
「今から二十三分前に君が私の部屋の前に来てからだ」
それに、と付け加える。
「この一週間に渡って窓ごしに私を観察していただろう」
楯無はわずかに驚いた顔をした。
一週間完全に気配を消していたのにもかかわらず気づかれていたことに驚きと彼に対する興味の感情を持ったことに間違いはなかったと彼女は思った。
「さすがはグラハム・エーカー少佐と言ったところかしら」
「千冬女史から聞いたのか」
さして驚いた様子もなくお茶を飲むグラハム。
彼はIS学園にとある孤児院を飛び出してきた少年として転入することになっている。
国籍に関してもハーフというふれこみで日本国籍を取得した。
正体を知っているのは千冬だけ。
ただし、対ガンダムに協力するという約定から幾人かに正体を明かすことについては了承もしていた。
だが、それでもいきなり正体をつかれても自然体なグラハムに楯無は興味を強くする。
グラハムの向かいに腰かけた彼女はお茶を飲む。
「おいしい」
見ればインスタントのお茶のパッケージが置かれている。
やはりただものじゃない、ともう一口飲む。
「用件を聞こう」
グラハムが自分の湯呑にお茶を注ぎながら尋ねた。
「窓ではなく、ドアからこちらを伺っていたんだ。用件は何かね」
そうね、と湯呑をテーブルに置く楯無。
「とりあず、挨拶かしら」
「挨拶?」
「貴方は一年生として入学するけどボロが出ないように私が学園内での生活をサポートすることになったの」
バッと扇子を開く。
「そして一段落ついたら生徒会にも入ってもらうわ。一応学内での有事の際に自由に動けるようにね」
「ほう」
どうやらすでに学内でグラハムが動けるようにいろいろと根回しが行われていたらしい。
経歴の捏造といい、やはり千冬という女性は侮れないなと面白そうに口端を上げるグラハム。
「しばらくは私と織斑先生、それとグラハム君の三人で有事の際に活動することになるわ」
「ロシア代表の生徒会長に『ブリュンヒルデ』。精鋭中の精鋭だな」
「ええ。あなたのいた部隊にも劣らないはずよ」
「それは楽しみだな」
グラハムが笑う。
精鋭3人による部隊。
その響きはどことなく懐かしいものを彼は感じていた。
「とりあえずよろしくね、グラハム君」
「こちらこそよろしく頼む」
両者が丁寧に頭を下げる。
ああそれと、と頭を上げた楯無は何かを思い出したように告げた。
「部屋は私と相部屋ね」
「何!?」
さすがのグラハムもこれには驚いた。
「私はてっきり千冬女史の弟とやらと一緒なのだと思っていたのだが」
「そっちの方が何かと便利でしょ」
それとも、と扇子を口元に当てて笑う。
「お姉さんと一緒は恥ずかしいかしら?」
企みたっぷりの笑顔で顔を近づけてくる楯無。
目の前の童顔の少年の反応を楽しみたかったのだろう。
しかし、対する偽少年グラハムは余裕の表情で軽くかぶりを振っただけだった。
「さてね。それよりも今日中に設計図を送らねばならない。すまないがお茶の時間はここまでだ」
「あら、つまらないわね」
拗ねたように楯無は席を立ちあがる。
だがその目は全く別の感情が映っていた。
――まさに、興味以上の対象というやつね。