機動戦士フラッグIS カスタム   作:農家の山南坊

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#07 カスタムフラッグ

「いよいよだな……」

「ああ」

 

 クラス代表を決める月曜日を迎え、入学試験以来の試合に緊張気味な一夏に対し余裕のある笑みで頷くグラハム。

 すでに放課後となった教室にはセシリアとルフィナの姿はなく、グラハムと一夏も教室から出ようとしたところで千冬に呼び止められた。

 

「織斑」

 

 ビクリと肩を震わす一夏に苛立ちを覚えるが彼女は用件を優先した。

 

「お前の専用機の準備が先に終わった。お前とスレーチャーの試合を先に行う」

 

「ハ、ハイ!」

 

「女史、私のISは?」

 

 グラハムの質問に視線だけ向け、

 

「エーカーの機体はまだアリーナには運ばれていない。だからお前は控え室で待機していろ」

 

「了解した」

 

 彼の返事を聞くと、千冬は踵を返し、一夏もあわててついていく。

 友人を見送ってからグラハムもまた歩き出した。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「…………」

 

 アリーナの控室で、ISスーツに身を包んだグラハムは座禅を組んでいた。

 まもなく、彼の試合が始まる。

 昂る精神を落ち着かせるには、やはり座禅が一番だとグラハムは思う。

 もともと愚行に走っていた頃に覚えたことだがこれだけはいまだに続けている。

 己のテンションが良い具合を保ち始めた時、

 

「エーカー……何をしている」

 

 呼びに来たのであろう千冬の声に、目を開いた。

 

「気持ちが高ぶってしまってね。座禅を組んでいた」

 

 千冬は少し呆れているようだが気にするつもりはなかった。

 日本人が持っていたイメージとだいぶ違うというのは、グラハムが日本で過ごしているうちに気が付いたことだ。

 かつて武士道の師事を受けたアロウズ司令ホーマー・カタギリの方が日本人らしく見えるのは、武士道を志しているか否かの差なのだろうか。

 もっとも、彼の武士道も本来のものとは違っていたようだが。

 同じく歪んだ武士道を理解しているつもりでいた私に言えたものではないがね。

 

「――別の世界にトリップするな!」

 

 ふと前を見ると、出席簿が見えた。

 だが甘いと咄嗟の動きで千冬の腕を掴むグラハム。

 

「私の番、ということだろうか?」

 

 舌打ちが聞こえるがグラハムは気にしない。

 

「そうだ、準備をしろ」

 

 ピットに着くと、そこには漆黒のISがグラハムを待っていた。

 

「――これが」

 

 座禅で落ち着けたはずの心が高揚する。

 背部と腰部に取り付けられた大小のバックパック。

 大小二対の翼。

 なによりも、MS的なこの洗礼されたフォルム。

 これはまさしく――

 

「お前の専用機、《カスタムフラッグ》だ」

 

 千冬の言葉が、グラハムの高揚感をさらに高める。

 まるで、旧友に出会えたかのようだ。

 

「可能な限りお前の要望に応えさせた」

 

「私の我儘を聞いてもらったこと、感謝する」

 

 つくづく私は幸せ者だ。

 再びフラッグファイターとして戦えるとは。

 見ていてくれ、ハワード、ダリル。

 フラッグファイターとしての矜持を、この世界に見せつける!!

 最大限の敬意を表して敬礼したグラハムはフラッグを装着する。

 

『Access』

 

「感謝する暇があるなら試合に勝て」

 

「了解した。グラハム・エーカー、カスタムフラッグ出るぞ!」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 アリーナへと飛び出したグラハムはセシリアと対峙した。

 

「逃げずに来たこと、まずは褒めて差し上げますわ」

 

「男の誓いに訂正はない」

 

 そう、とセシリア。

 

「ならば、最後のチャンスをあげますわ」

 

 なに、とグラハムはわずかに眉をひそめた。

 

「わたくしが一方的な勝利を得るのは自明の理。ですから、惨めな姿を公衆に晒したくなければ、今ここで謝るというなら、許してあげないこともなくってよ」

 

 降参を促しつつもレーザーライフル『スターライトMk―Ⅲ』をグラハムへと向けた。

 抜け目のない行為だがグラハムはフッと笑みさえ見せた。

 

「悪いが、その意見は却下させてもらう。フラッグファイターには意地があるのでね」

 

「そう……残念ですわ。でしたら――」

 

 レーザー砲の引き金を引こうとした瞬間、《ブルー・ティアーズ》の非固定ユニットに衝撃が走った。

 咄嗟にユニット、前の順で視線を動かすセシリア。

 いつの間に展開したのか、フラッグの左手に握られたライフルの銃口が着弾点を向いていた。

 

「射撃なら私も少々腕に覚えがあってね」

 

 余裕の笑みを浮かべているグラハム。

 対するセシリアは怒り心頭だ。

 

「よくも、わたくしのブルー・ティアーズを!」

 

 レーザーを放つが、グラハムはそれを後退しながら躱していく。 

 若いな。

 ISの動きに感情が乗っている。

 回避を続けながらグラハムもライフルのトリガーを引いた。

 連続して襲い掛かる青の弾丸をセシリアは回避するものの、グラハムとは違い余裕のない彼女はなかなかレーザーを放つことができない。

 ぎりぎりの位置を狙われ続け、ついに一発のリニア弾が直撃する。

 初弾よりも大きな衝撃が走りバランスを崩し、後ろへと弾き飛ばされるセシリア。

 さらに警告音とともにシールドエネルギーが削られたことを伝えてきた。

 あきらかに先程と威力が違う。

 いったい何が!?

 動揺と衝撃の大きさのあまり制動が鈍り、それを逃すまいとライフルの連射が襲い掛かった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 フラッグが左手に装備しているリニアライフル『トライデント・ストライカー』。

 その名の通りかつてオーバーフラッグス所属の機体に装備されたものと同一の機構を持っている。

 銃口を三つ持ち、中央は威力の高い単射用でその両隣が連射用となっている。

 単射用の電力チャージ時間を連射用で補うのが基本的な運用方である。

 グラハムはそのセオリーに準じた遠距離戦をしている。

 連射用で相手を誘導しフルパワーのリニア弾を正確に着弾させる巧みな銃捌き。

 しかし本来なら彼の最も得意とする近接戦闘に持ち込みたいところだったが、

 ――フラッグの速度が私の反応についてこない!

 理由はわかる。

 一次移行を完了していないためだ。

 スラスターの偏向といった姿勢制御がグラハムの命令から一拍以上空いて実行されている。

 当然だが人間の反応速度に機体がついてこれないのは戦闘において不利でしかない。

 IS操縦者として必要以上に速いグラハムの操作技術が逆に足を引っ張る。

 ライフルで牽制しつつグラハムは一次移行完了を待つしかない。

 だがなかなかそのときがこない。

 セシリアが苦し紛れに放ったレーザーを難なく回避するも、連射にもわずかな隙が生まれる。

 

「ブルー・ティアーズ!」

 

 その瞬間を狙っていたのだろう、セシリアの声とともに非固定ユニットから射出された四つの小型兵器。

 それらはグラハムの周囲を縦横無尽に飛びそれぞれからレーザーが放たれる。

 その動きはまるでファング……いや、ビットか!

 

「さぁ、踊りなさい。わたくし、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズの奏でる円舞曲で!」

 

 セシリアの一声にビットの攻撃が激しさを増す。

 レーザーを回避、または右腕のディフェンスロッドで弾くことでダメージを抑える。

 だが確実にエネルギーを削られていく。

 このままではまずいとグラハムは思った。

 私と機体の間に反応の齟齬がある状況下でのオールレンジ攻撃は防御に徹するしかあるまい。

 それでもこの状態が続けばこちらの敗北は必須。

 何か手を打たなければ――

 

『フォーマットとフィッティングが完了しました』

 

 突如、機体の速度が上がった。

 本来の速度をフラッグは得たのだ。

 同時にグラハムの顔を黄色のマスクとクリアブラックのバイザーが覆う。

 一気に速度を上げ、レーザーの雨を潜り抜ける。

 さらに文字が表示される。

 

『クルーズポジション使用可能です』

 

 その言葉を待っていた!

 グラハムはフラッグを変形させた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「へ、変形!?」

 

 セシリアは驚愕の声を上げる。

 いきなりブルー・ティアーズの攻撃から脱したかと思えば戦闘機のような姿に変形したのだ。

 オプションパッケージによる高速展開を目的としたISをアメリカが開発しているという話は聞いたことがあったがこのISは違う。

 航空機形態への変形を基本装備、しかも完全自立でこなしたのだ。

 しかし驚いている暇はなかった。

 変形したフラッグが速度を上げ、そのままこちらへ向かってくる。

 距離を詰めさせないようにセシリアは後ろへ飛ぶと、その背目掛けてグラハムは機首のライフルを撃つ。

 連射される弾をなんとか回避しながらスラスターの出力を上げ、セシリアは飛び続ける。

 

「ぐっ!」

 

 高出力であろう大口径の弾丸をギリギリ回避した直後、弾丸が通った位置をグラハムが飛び去った。

 そのままセシリアも追い抜く。

 

「なっ!?」 

 

 センサーがこちらを突き放す機影を捉える。

 亜音速でアリーナという限られた空間を自在に駆け抜ける姿は現行のISとしてはありえない性能だ。

 

「あの速さで飛ぶISがいたなんて……」

 

 ですが、とレーザーライフルを構える。

 

「好きにはさせませんわ!」

 

 レーザーを放つ。

 だが旋回することで回避される。

 鼻先をこちらへ向け、一直線で向かってくるグラハム。

 もう出し惜しみはしません!

 

「ブルー・ティアーズ!」

 

 先の四機にミサイル搭載型二機を加えた六機でフラッグを前から包囲する。

 レーザーとミサイルが同時に放たれる。

 一気に直進する敵に回避する手段はない。

 これで決まりましたわ!

 が、まさに着弾しようとしたとき、グラハムの機体が躍った。

 飛行機のような形態からIS本来の人型へと再び変形したのだ。

 変形による減速と空気抵抗によりフラッグが上昇。その股下をレーザーとミサイルが通り抜ける。

 あまりにも無茶な回避行動に本日否、この男に対して数回目となる驚きの声をセシリアは上げた。

 

「なんなんですの、あなたは!?」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「人呼んで、『グラハム・スペシャル』!」

 

 グラハムは笑っていた。

 体にかかるGはすさまじく、骨をきしませるが、その機体の手ごたえに満足していた。

 この空中変形、このGの感触。まさしくフラッグだ!

 素晴らしい。やはり千冬女史には改めて礼を述べねばならんな。

 この機体の性能が信じられんか、セシリア。

 それを操る私が何者か知りたいか、セシリア。

 ならば。

 セシリアとの通信を開く。

 

「あえて言わせてもらおう――!」

 

 左手を右前腕に当てる。

 目を閉じ、思い浮かべるのは黒鉄の腕。

 ――右前腕部装甲展開。

 ――抜刀。 

 目を開くと同時に左手を抜き、プラズマソードを出現させた。

 スラスターをふかし、一気にセシリアへと加速する。

 

「グラハム・エーカーであると!」

 

 こちらとセシリアの間を隔てるビットを切り捨て、彼はそのまま突撃をかけた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 ……本当に名乗ってくるとは思いませんでしたわ。

 ビットを突破されたことよりもそちらに一瞬気をとられるセシリア。

 それでもすぐにレーザーを放つ。

 だがそれらをグラハムは軌道変更することで回避する。

 ついに目前まで迫ってくる。

 ここまでの接近を許すなんて!

 フラッグが青の光剣を振りかぶる。

 

「イ、 インターセプター!」

 

 近接ブレードを呼び出し、刃を支えることでプラズマソードを受け止めた。

 

「わたくしに剣を使わせるとは!」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「身持ちが堅いな、セシリア!」

 

 軌道変更による減速があったものの勢いは突進した側にある。

 このまま倒させてもらうぞ、セシリア!

 だが小さな影がグラハムの左右に現れた。

 咄嗟に離れると同時に眼前をレーザーが飛び交う。

 残りのビットか!

 セシリアがレーザーを放ちながら後方へと飛ぶ。

 右のディフェンスロッドでそれらを防ぎながらグラハムは追う。

 私のアプローチを袖にしてくれるとは。

 やはり、代表候補生はだてではないな。

 だが、私のしつこさはMSWAD、オーバーフラッグス、ソル・ブレイヴスの全てにおいて折り紙つきでね。

 決めさせてもらうぞ、セシリア!

 フライトユニットすべてのスラスターの出力を上げ、一気に最大速度まで加速する。

 セシリアに並ぶ。

 その一瞬、バイザー越しにセシリアと目があった。

 ワルツを踊りきれたな、セシリア!

 私の勝ちだ!

 追い抜きざまに最大出力のプラズマソードを一閃。

 直後、ブザーが鳴り響いた。

 ついにセシリアのシールドエネルギーが尽きたのだ。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 

 

「さすがだな。代表候補生を倒すとは」

 

 グラハムがピットへ戻ると千冬が待っていた。

 

「彼女が慢心していたからにすぎんよ。それに空中変形ができたからだ」

 

「――そうだ、空中変形のことだが」

 

 なにかな、とISを待機状態――文字盤に武士の面具が彫られた腕時計――にしたグラハムに鋭い視線を千冬はむける。

 

「すぐに医務室で検査を受けてこい」

 

「なんと!?」

 

「あんな速度で可変機構を使用すればどうなるかわからんお前でもあるまい」

 

「だが、私はこれから一夏やルフィナと…!」

 

「それは後だ。それと今後、スタンドポジションで出せる速度を超えた状態での変形を禁止する」

 

 唖然とするグラハムをその場に残し、千冬はピットを出た。

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