異世界でもお前のパンチを見せてやれ! 作:Hetzer愛好家
「っ、ここは……」
ワームホールに入ったと思ったら、途端に視界が白塗りとなった。
それもすぐに収まったのだが、俺の視界に広がった光景は、黒一色の何もない世界である。
足裏から伝わる感触的に、地面はしっかりあるようだ。試しに歩いてみれば、コツコツと足音が鳴り響く。
少し歩くと、今度は遠くにポツリと、光のような物が見えた。
今度こそ出口だと思い、軽く走ってその光に向かう。
だが、少し走ったところで、俺は腕を何者かによって掴まれた。
『それ以上進む事は許さん』
声の主を見て、俺は息を呑んだ。
似たような経験は、つい最近したばかりである。だが、その時以上の衝撃が俺を襲った。
「俺……?!」
そう。姿形は、完全に真久野ケンその人だったのである。
氷雪洞窟では、俺自身の心の闇と言うべき物を実体化した虚像と戦った。奴はご丁寧にも、見た目から俺と明確な違いをつけて、あくまでも大迷宮の〝試練〟である事を強調していたのだが、目の前に立つこいつは、おそらく虚像ではないし、大迷宮の試練でもない。
こいつは、間違いなく俺である。そんな確信があった。身に纏う雰囲気が、皮膚を切り裂く寒風のように冷たい以外は、俺と全く同じである。
『正確には、別世界の真久野ケン、だがな』
「何だと?」
『しかし、存在自体は真久野ケンに違いない。お前の予想は、8割ぐらいは正解だと言える』
手を振り払い、少し距離を置いて構える。
すると、別世界の真久野ケンと名乗った奴も、戦闘を行う構えを取った。
ボクシングの構えではなく、空手の構えを。
その構えは、俺よりも更に洗練されているように見えた。師範代の姿が重なって見える。
『お前は良いよなァ、こっちの世界の真久野ケン。俺が心の奥底で欲しいと願っていた物を、何個も持っている。羨ましくて、妬ましくて仕方がない』
「……訳ありと見えるが、お前は何を経験してきた。別世界の俺なら、全く同じではなくとも、似たような経験をしてきたと推察するが」
『ハッ、似たような経験ね。笑わせてくれる。悪いが、随分と生温い経験をして生きてきたお前とは、比較にならないぐらいに慈悲のない経験ばかりだったよ』
拳をギリッと握った奴が、瞬きする間に距離を一気に詰めてきた。
初動が全く見えず、俺はアッサリと接近を許してしまった。風神ステップの動きをしたのだろうが、あまりにも洗練されているので、古武術の〝縮地〟に近い動きだったように感じる。
超近距離で次々と繰り出される空手の拳打に加え、人体を確実に破壊するための手刀、貫手、肘鉄と言った、ボクシングでは禁止とされる技を、俺はパーリングとスリッピングを駆使して何とか捌いていく。
籠手を装着していない今は、障壁で楽にガードしたり、衝撃波によって仕切り直しに持っていく事ができない。頼れるのは、己の技術のみ。それは相手も同じだが。
『こっちの世界の真久野ケンの完全に魂を封じ込め、そして消滅させれば、俺は貴様と成り代わる事ができる。目的の完遂まで、もうすぐなんだ。悪いが、ここが貴様の墓場となる』
「チッ、好き勝手言いやがる……!」
師範代と同等か、下手したらそれ以上に磨き抜かれた殺人空手。動きを知っているが故に、対処自体はできているが、無傷とは行かない。
特に、俺の左ジャブと同じようなスピードである貫手が厄介だ。パーリングが間に合わず、頬を切られながらのスリッピングで精一杯である。貫手なだけあって、それ相応に威力も高い。
『どうした。その程度か?』
被弾が増えてきた段階で、奴の口から煽り言葉が飛ぶ。
致命傷を全て避けているが、顔面や腕に刻まれた無数の切り傷は無視できない。その傷の数だけ、俺の余裕がない事の証明となる。
守りに入るだけではダメだ。ずっと相手のペースで進行する戦闘ほど、面倒な物はない。
〝瞬光〟によって爆発的に集中力を向上させると、奴の攻撃のスピードとリズムを身体で覚えながら、虎視眈々と反撃の機会を伺う。間違いなく僅かしか存在しない反撃機会だが、完全にゼロという事はあり得ない。
攻撃動作の起こり、実際に攻撃が着弾するまでの時間、そして体勢を整えて、技を終えて次に移行するまでのフレーム数。全ての攻撃を、限界まで細かく分析していく。
『終わりだっ!』
飛来したのは最速風神拳。眼下から伸びる拳を押さえつけるようにブロッキングするが、その威力を完全に殺し切る事はできず、俺の身体は軽く後ろへ弾き飛ばされる。
それを見た別世界の俺が、逃がすものかと前へ出ながら貫手を放つ。
すぐに片足を上げて、大きく仰け反りながら貫手を回避するも、既に奴は風神ステップによって深く沈み込んでいた。
そこから放たれる雷神拳。俺が片足を降ろして地面を踏み抜き、拳を握った頃には、もう目と鼻の先に奴の拳があった。
『デリャア!!』
ドパァン!
吸い込まれるようにして、奴の左拳が俺の顎に突き刺さった。
銃声のような、パンチで出したとは思えない凄まじい轟音。少し遅れて、硬直する身体。
俺は、
雷神拳を放ったがために、軽く宙に浮いていた別世界の俺は、降下を始めたタイミングで強烈なアッパーカットを受けた。
ズダァン!!
重力を無視し、更に高空へと吹き飛ばされた別世界の俺を追撃しようと跳び上がるが、即座に体勢を整えてこちらの肩を蹴り、後方へ宙返りする事でその場から離脱した。
『くっ、バカなのか。あんな受け方を続けたら、今に脳震盪を起こすぞ』
「……その程度の攻撃で、俺の脳を揺らせると思っていたのか?」
体重差が2倍以上あるボクサーのパンチを脳天に受けたとしても、俺は脳震盪を起こす事なく耐えられる。流石に師範代の一撃を何発も耐えられる自信はないが、それでも数発は問題ないだろう。
簡単に俺からダウンを奪えると思っていたようだが、見当違いも甚だしい。
「早く帰らないといけないんでな。サッサと来い。ここがお前の死に場所だ!」
訳ありの人生を送ってきたらしいが、俺には1ミリも関係ない事である。
優花と優奈の待つ、現実世界に帰る。それを邪魔する奴は、誰であっても殺す。それだけだ。
『舐めるなよ、俺にだって後に退けない理由がある。必ず打ち倒し、全てを手に入れる!』
示し合わせたかのように、2人同時に地面を蹴って接近を試みる。
スピードは全くの互角。ほぼ同時に殴り掛かる体勢を取った俺たちは、そのまま激しく拳打を浴びせ合う。
攻守の立場がハッキリしていた先程とは異なり、互いの攻撃がぶつかり合っては相殺されるを繰り返す、完全なる拮抗状態にもつれ込んだ。どうやら、素のパワーも互角らしい。
ならば。より多く、命を投げ捨てるぐらいに大胆な手を打った方が勝者となるだろう。
攻撃の相殺を頭の中から捨て去ると、俺は奴の拳打を捌く事はなく、腕や顔、胴体で受け止めながらカウンターでスマッシュストレートとその派生技、上下のスマッシュを振り抜く、お得意の相打ち殺法に切り替えた。
貫手で左腕を貫かれても、構わずスマッシュボディフック。
閃光烈拳や最速風神拳で顎を打ち抜かれても、怯む事なく下半身にスウィングパンチ。
脳天を叩き割ろうと繰り出される手刀や鉄槌は、頭頂部に食らいながらもダイナマイトアッパーカットかスマッシュアッパーカットで切り返す。
風神閃焦拳や奪命拳によって心臓付近や顔面を殴り抜かれたとしても、こちらもスマッシュストレートで応戦。
それによる戦局の変化は、すぐに顕在化する。
『ぐ、あ……』
「もう終わりか?」
受けた傷の多さこそ俺の方が上だが、ダメージは奴の方が多く残る結果となったのである。
カウンターで貰うスマッシュ技は、どう足掻いても悪い体勢で受けざるを得ない。スマブラなら単なる単発交換に過ぎないため、与えられるダメージ量に変化はないが、リアルで受けるカウンターはそうも行かない。
多分、倍率補正が場合によっては1.5倍程度は掛かるのではないだろうか。
発生が速い貫手を軸に、多彩なコンボでこちらを制圧しようと企んでいたみたいだが、単発交換に持ち込んで流れを断ち切ってしまえばこっちのもんだ。
『クソ、まだまだァ!』
攻撃を先出しすると、全て相打ちによって受け止められ、自身が繰り出した攻撃以上のダメージを負うと悟ったのか、隙の少ない貫手と置き技気味の忌怨拳を誘い水に、何とか俺からの攻撃を引き出そうとしてくる。
間違った戦法ではない。攻撃を空振りさせて、その隙に痛烈な一撃を与えるという狙いは、対リトルマックで有効になる事が多く、スマブラでは何度も煮え湯を飲まされてきた。
まあ、だからこそ、2度と煮え湯を飲まされる事がないように、対策に対する対策を講じるのだが。
貫手の全体フレームはもう身体で覚えた。忌怨拳も、カウンターかつ無防備な状態で貰わなければ脅威にはならない。
貫手を腕で防ぎ、前へ出たところへ待ってましたとばかりに繰り出された忌怨拳をダッキングで回避。生まれた後隙をカバーするべく、また放たれた貫手をヘッドスリップで頬を切らせながら躱すと、次の貫手が繰り出されるよりも先に、最速かつ最大威力の左ジャブを放った。
唐突に繰り出された意識外からの攻撃に、初見で対応できる奴はいない。それは、別世界の俺であっても例外ではなかったようだ。
一瞬。だが確実に、奴は白目を剥いた。
すぐさま追撃としてテンプルを狙った右フック、更に顎を狙った左ショートアッパーを打ち込み、軽く浮かび上がった別世界の俺が着地する前にワン・ツーパンチを命中させ、大きくその場から吹き飛ばす。
吹き飛ばしたら全速前進。奴が地面に落ちる前に追いつき、腹部にスマッシュアッパーカットを命中させて打ち上げてから、ワン・ツーパンチでまた吹っ飛ばして運び続ける。そう簡単に着地させてたまるか。
何とか着地したいのか、別世界の俺はこちらがスマッシュアッパーカットを繰り出す直前に蹴りを入れてくるが、全て無意味だ。その程度の攻撃では、俺の痩せ我慢を突破する事はできない。
「ん、あれは……」
運送コンボとも言うべき連携を数度に渡り別世界の俺に叩き込んでいると、いつの間にか遠くに見えていたはずの光が、随分と近くの位置にある事に気がついた。
すぐさまスマッシュアッパーカットではなく、スマッシュボディフックに切り替えて運送コンボを終わらせると、激しく咳き込んで地面に倒れる別世界の俺の横を通り抜けて、光の方へ足を運ぼうとする。
だが、足首をガシリと掴まれた事で、また歩みは止められた。
「……しつこいぞ」
『その光の先へは、行かせるものか。ここで、確実に貴様を消さなければいけないから』
もはや怨念じみた何かを感じる。一体何が、彼をここまで突き動かしているのだろうか。
足首を掴んでいる手を踏み抜いてから、奴の顔を蹴り飛ばして距離を取るも、すぐに立ち上がってきた。フラフラと足取りは覚束ないが、その目に宿した強烈な殺意と嫉妬の念は消えていない。
『手に入れる、絶対に。もう、あの地獄に戻るのは御免被るんでね……!』
「地獄、か。余っ程辛い目に遭ったらしいが、こっちの世界も色んな意味でキツいと思うぞ」
『黙れっ。俺とは違って、愛する人がいる。そして、愛してくれる人がいる貴様が、泣き言を口にする事は断じて許さん』
「厄介オタクかよ。注文が多いなァ」
僅かな情報からでも、何となく別世界の俺が、どんな人生を歩んできたのか想像はつく。俺自身、何度か考えた事があるから、想像するのは容易だ。
こいつは、優奈や優花と出会わなかった俺なのだろう。愛する人、愛してくれる人がいないとは、つまりそういう事だ。
優奈と出会わなければ、俺はボクシングを始める事は間違いなくなかったし、延々と裏世界に身を置いていただろう。中学を卒業する事はできても、高校へ進学できたかは微妙なところである。
そして、高校へ進学しなければ、優花と出会う事もない。仮に進学できたとしても、全身どっぷり浸かった裏世界が、俺に心が安らぐ瞬間を与えてくれるとは全く思えない。施設にいる事もできなくなり、そのうち日銭を稼ぐ目的で、唯一の持ち物と言える空手を活かして殺し屋を開業するのではないだろうか。
と、まあ大体の予測はできているし、ある程度のラインまでは奴の心情を理解できるだけの脳もあるのだが。心底どうでも良いというのが実際のところである。
別世界で生きていると言うのであれば、それはもう俺ではない。
「そこまで執着するぐらい、のっぴきならない理由があるのは分かったが、取り敢えずお前は死ね。お前の存在そのものが鬱陶しい」
ギリッと拳を握る。ここまでずっと、冷静に戦うために抑え込んでいた怒りの感情が、殺意を滾らせた瞬間に制御ができなくなっていく。
怒る理由はただ1つ。俺と成り代わる事で、愛する人たちを奪い取ろうとしたから。それだけだ。
優花と優奈は120%泣くし、何なら既に泣いている可能性もある。2人を泣かせてしまう可能性すら、俺は許せない。
『絶対に……絶対に、諦めるものかっ。貴様から、俺は全てを手に入れる……!』
別世界の俺が、爆発的な踏み込みと共に、形振り構わず突っ込んできた。ここに来て、出力を最大化させたらしい。
さっきまでフラフラとしていたのは、俺を油断させるための演技だったのか。そう疑いたくなったが、その目に余裕は一切見られない。最後の力を振り絞っていると見た。
手負いの獣の処理は何とやら。息の根を確実に止めるまで、徹底的に破壊し尽くす事を俺に決意させるには、十分すぎる要素である。
明らかなる不利状況を、一撃でひっくり返して逆転勝ちする手段を、俺は知っている。仮にガードしようとしても、間違いなく無意味に終わるだろう。
受けるか、それとも避けるか。本来なら、割の悪い2択を迫られるところだが。俺なら、腹さえ括れば、奴の作戦を滅茶苦茶にする択を増やせる。
凄まじい踏み込みから風神ステップに繋げ、そこから時計回りに何度も回転しながら前進するという、物理慣性を無視しているようにも見える動きで迫る別世界の俺に、こちらも臆さず突っ込む。
奴までの距離を計算すると、少し離れた位置で
別世界の俺を見れば、通常よりも回転数を大幅に積み重ねた上で、左アッパーを放つ準備を終えていた。こちらが右アッパーカットを繰り出すのと、ほぼ同時のタイミングで奴の攻撃が放たれるだろう。
世にも珍しい、アッパーカット同士のぶつかり合いとなる。拳が着弾するタイミングも、下手したら同時になるので、ボクシングの試合ではまず見られない光景が広がるに違いない。
『死ねェ!!』
真・鬼神滅裂
互いの腕が伸び、そして交差する。俺が外側、奴が内側だ。
かなり変則的な形だが、状況としてはクロスカウンターのそれである。内側を陣取る事ができれば、相手からのパンチを内から弾く事でブロックしたり、僅かにだが拳が着弾するまでの時間を短縮できる。
奴は、最速最短で俺を殴り抜くためにも、内側を優先して陣取った。
一見、不利に見える外側。だが、俺は敢えて、こちら側を選んだ。
ボクサーとしては間違っている選択を、これから俺は取ろうとしている。そして間違った解釈の技を、今から繰り出そうとしている。しかし、リトルマックとしてなら、この上なく正しい選択であり、何処までもリトルマックらしい技だ。
地面を蹴り、浮かび上がろうとした瞬間。別世界の俺が繰り出した一撃が、顎に突き刺さった。
だが。拳の着弾に合わせて、進行方向と同じ向きに跳び上がった事で、俺の動きは止まらず、更に加速する事となった。
そして意識も。8時間近く睡眠して、朝日と共にスッキリ目覚めた時のように、ピンピンしている。着弾の瞬間に、首を左斜め上に捻って威力を軽減した甲斐があった。
もはや、俺を邪魔する者はいない。天へ届けと言わんばかりに、右腕を強烈に伸ばして拳を振り抜くのみ!
「エイヤァ!!」
奴のアッパーカットによって加速した事により、こちらの右拳が凄まじい勢いで、別世界の俺の顎にめり込んだ。
その破壊力はあまりにも凄まじく、顎へ右拳が着弾した瞬間に、奴の頚椎がボキッと嫌な音を立ててへし折れてしまった。様々な要因で威力が増したK.O.アッパーカットを受けた事で、首と胴体が泣き別れになる前に、頚椎が限界を迎えたらしい。
拳を振り抜いた勢いに逆らう事なく、緩く横に1回転しながら着地した俺は、次いで墜落してきた別世界の俺の亡骸を一瞥する事もなく、光の方を振り向いた。
「優花、優奈……」
今度こそ、邪魔をする者はいない。一刻も早く、2人の元へ帰るために。俺は、眼前に広がる光に飛び込むのだった。
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『……行ったか』
光の先へ、完全に辿り着いたようだ。一際輝きを増したかと思うと、ブツリと電源が切れたかのように跡形もなく消えてしまった。
頚椎を折られて動けない〝器〟から離脱すると、実体を保てなくなった〝器〟は、細やかな光の粒子となって消滅していく。
実際に存在する、別の時間軸の真久野ケンを参考に作ってみた〝器〟であるが、こちらも凄まじい力を秘めていた。こちらの世界の真久野ケンのように、異世界へ飛ばされるような事はないだろうが、いつか何かしらの形で神格を得るだろう。
「しかし、幸せを願わずにはいられない情報で溢れていたな。道理で、我の制御下から外れて暴走し、成り代わりを目論む訳だ……」
本来の計画では、最終試練として立ち塞がるだけの予定だった。しかし、〝器〟の持つ記憶も含めて完璧に再現してしまったが故に、あのような殺し合いにまで発展してしまったのである。
そんな異常事態の発生が、別の時間軸を生きる真久野ケンも、いつか必ず神格を得ると確信するに至ったのだが。
「さて、我の試練は全て終了したが。まだ、大迷宮とやらの試練が残っているな。最後まで、見届けなくては……」
残された試練はあと1つ。感情の反転を強いる魔物の討伐だったか。
そこに至るまでの試練は、紡いだ絆の道標を失った状態であっても、見事に乗り切ってみせた。今更、感情の反転を強制したところで、万に一つもないだろう。
だが。それでも我は、特等席でその様子を見届けるべく、行動を開始した。
何か、凄まじい事が起こる。そんな予感がするのだ。
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「うっ、ここは……」
また、立った状態で気を失っていたらしい。
再び一変した景色に目を白黒させながら、俺は現状把握を急ピッチで進めていく。
上を見上げれば、かなり遠い場所に石壁が見える。足場は背後のバカみたいに大きい巨木から無数に伸びた、これまた巨大な枝のようだ。そして下は、底が見えない程に深い。まるで奈落の底である。
超巨大な地下空間の上層部に立っている。そう考えるのが自然だろうか。
真正面には、全長3メートル程度のゴキブリ……らしき魔物。姿形は俺の知る楕円形のそれではなく、どちらかといえばムカデのように胴長で尾には針が付いており、足も10本ある。一番前の足などは刃物のように鋭利な指が付いていた。顔面には黒一色の眼がついており、顎は鋭く巨大だ。そして、背中には三対六枚の半透明の羽が付いていた。おそらくボス級の魔物なのだろう。
若干の
右隣には優花の姿が、そして左隣にはサンドマンの姿が見える。やや後方には、白竜に跨ったフリードと中村もいた。
全員、特に傷を負っている様子はない。それを
「……ケン」
その声音は、正の感情を少しも感じさせない、強烈な冷たさを持っていた。
「貴方が、憎い。憎くて、仕方がない」
その言葉に対し。俺もまた、胸の奥から沸々と溢れ出てくる
だが、直前で開きかけた口を閉じる。
脳裏に浮かぶ、彼女との数々の思い出。どうやら、記憶までは改竄されなかったようだ。
そんな優花は、口からは呪怨を吐き出し、目には必殺の意思を宿しながらも、涙を零している。
その様子を見て、俺は左手で顔半分を強く掴みながら、湧き出た憎悪を凄まじい勢いで塗り替えていく次の感情に支配されぬよう、必死に堪える。
しかし、それを許さぬ追撃が、俺の胸を深々と刺した。
どのような経緯でここまで辿り着いたのか、全く記憶になかったのだが。今になって、津波のように押し寄せてくる。
大迷宮に足を踏み入れてから、どのような状態になっていたのか。全てを知った頃には、もう自制できるだけの理性は完全に消滅していた。
「……最低最悪だな」
その言葉に、優花がピクリと反応する。
違う。この言葉は、優花に対して吐き捨てた物ではない。この俺自身に、刃として突き立てた物だ。
抑え込んでいた力を、1つずつ解放していく。〝魂魄解放〟と〝天魔天変〟、そして最大倍率で〝身体強化〟を発動させ、魔力を一気に枯渇させて〝逆境強化〟と〝闘神〟を引き出すと、そこから更に〝神格化〟によって1度オフ状態になった強化系の技能を、全て最大倍率で再発動させていく。
荒れ狂い、巨大な枝を大きく揺らす程の暴風を巻き起こす魔力を、外に出ないように内へ抑え込み、余す事なく身体の強化に回した上で、最後の仕上げに取り掛かった。
「〝魂魄解放・第二限界突破〟」
潜在能力の更なる解放によって、内包する魔力量がまた大きく向上する。そして、数度の閃光が脳内に奔り、新たなる境地の到達を知らせてきた。
枝を陥没させながら、ゆっくり前へ出る。いつの間にか、巨大ゴキブリは大量の子分ゴキブリを生み出し、様々な魔法陣を形成してこちらを攻撃しようとしていたのだが、俺が目を向けるとその動きをピタリと止めた。
「〝覇潰〟」
そして、新境地に達した証を発動させた瞬間に、ズルズルと後退っていく。
「どこへ、行くんだァ?」
強すぎる怒りの感情が、漆黒色の殺意を全身に行き渡らせる。
もはや、力を抑える必要はないとして、ギガマックの力を完全に解放してやると、明らかに恐慌した様子で巨大ゴキブリが叫んだ。
「ギチチチチッ!!」
解き放たれる、一回り小さいサイズのゴキブリたち。黒い大津波と言える程の勢いで、こちらに迫る。
それを見ても、焦りは全く感じない。感じるのは、強烈な怒りのみ。
「ハッ――!」
軽く吠えて力むと、俺を中心に暴力的な突風が発生し、こちらに向かっていたゴキブリたちを全て風圧によって圧殺した。
「ギギィ!?」
焦りながらも、再びゴキブリたちを生み出して魔法陣を形成。危機的状況だからか、とんでもないスピードで完成した巨大な魔法陣が赤黒くスパークしたかと思えば、モコモコと出現した黒煙が霧のように広がる。
足場が腐食し、崩れ落ちていく様子を見て、その効果を察した俺は、〝空力〟で宙を歩いて黒煙の中へ足を踏み入れる。
そして、何事もなく黒煙を抜けると、唖然としている巨大ゴキブリの顔面部を鷲掴みにして持ち上げた。
「お前だけは簡単には死なさんぞ。触れてはいけない、変えてはいけない部分に手を出すお前だけは……」
ジワジワと。しかし確実に、血祭りにあげてやる。
スマブラのリトルマックしてるなぁ、何ならめっちゃブロリーしてるなぁ……と思いながら執筆してました。