異世界でもお前のパンチを見せてやれ!   作:Hetzer愛好家

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 ウロボロス3世さんはハジメくんたちとの連戦になりますが、原作のように焼き払っていないという認識でお願いします。


帰郷への足掛かり

 破壊、再生。そして破壊。

 

 空間魔法でその場に縫い付けて、拳打の衝撃が僅かにも逃げないようにした状態で、〝震天〟を纏ったスマッシュストレートを叩き込んだ瞬間に再生を執り行うという、実に回りくどい手法で巨大ゴキブリを殴り続ける。

 

 再生した途端に元気を取り戻し、耳障りな羽音を鳴らしながら逃げようとしたり、様々な攻撃魔法の陣をゴキブリによって即座に形成して反撃したり、無限に湧き出るゴキブリを特攻させたりと、意地でも俺を引き剥がそうとしてくるが、全て無意味だ。

 

 炎弾が、電撃が、腐食煙が、ゴキブリたちの特攻が俺の肉体に命中しても、ただ弾かれるだけである。特に弾かれたゴキブリたちは悲惨だ。その後に繰り出されるスマッシュストレートの風圧で、跡形もなく消し飛んでしまうのだから。

 

「何なんだァ、今のは?」

「ギギギッ!?」

「雑魚の援護をいくら受けたところで、俺を引き剥がす事はできんぞ」

 

 そう口にして、またスマッシュストレートを放つ。

 

 怒りの赴くままに拳を振り上げていると、徐々に巨大ゴキブリから滲み出る感情に、少しずつ変化が生じている事に気がついた。

 

――圧倒的な恐怖と絶望

 

 何かを思い返しているような様子も見受けられる。植え付けられたトラウマをほじくり返されて、酷く恐怖する。そんな風に見えた。

 

 何処となく人間臭い感情であると気がつけるだけの余裕が戻った俺は、拘束はそのままで、一旦腕の力を抜いてギガマック状態を解く。

 

 怒りの感情は、まだ鎮火した訳ではない。まだまだ強火で燃え続けている。

 

 だが、多少なりとも巨大ゴキブリを殴り飛ばした事で、僅かながら冷静さを取り戻せたようだ。

 

 かつての俺なら、多分まだ拳を振り上げていただろうが。前よりは、感情のコントロールが上手になったのかもしれない。

 

「……攻略を認めるなら、見逃してやっても良い」

「ギイ?」

「どうする。このまま戦っても、お前に勝ち目はゼロだが。それでも続けるか」

 

 空間魔法による拘束を解き、顔面部を鷲掴みにして問うと、巨大ゴキブリはジタバタと手足を動かしながら感情表現を行おうとする。

 

 このままでは意思がイマイチ分からなかったので、バッと手を離し、ジロリと見下ろすと、巨大ゴキブリは人間のように2足で立ち上がり、コクコクと頷くようなジェスチャーを見せた。

 

「なら、早く視界から消えろ」

 

 俺の言葉を理解したのか、巨大ゴキブリはすぐにその場から飛び退き、他のゴキブリたちを引き連れて、奈落の底へ姿を消した。

 

 軽く息を吐くと、俺はクルリと後ろを振り向く。

 

 全員、何とか無事だったようだ。強力な障壁を張り続けたのか、中村とフリードはかなり息が上がっていたが。

 

「ケ、ン……?」

 

 特に息が上がっている様子はない優花は、フラフラとこちらに近づいてくる。

 

 思わず、笑みが溢れた。ついさっきまで、自分でもドン引きするぐらいに怒り狂っていたのが嘘みたいである。

 

「何だ、優花」

 

 ああ、名前を呼ぶだけでも、胸の奥が愛情で満たされる。

 

 そんなバカらしい事を考えていると、優花が目に涙を浮かべたまま、俺の胸に飛び込んできた。

 

 まだ〝神格化〟を解いていないので、大丈夫なのかと少しだけ焦ったが、彼女は意に介す事なく抱き着いて、俺の名を口にしながら泣いている。

 

「良かった、本当に良かった……!」

「……ごめん。けど、もう大丈夫。君の事を、2度と忘れたりはしない」

 

 頭を撫でながら、そう宣言する。

 

 俺の言葉に、一段と泣きじゃくる優花。これは、暫くの間泣き止む気配はない。

 

 ただひたすら、優花が落ち着けるように。黙って手を動かし続ける。

 

 完全に動けなくなった俺たちの元に、中村たちも歩み寄ってきた。どうやら、感情の反転は克服できたか、或いは解けたようだ。

 

「元に戻ったんだ。姿形も、記憶も」

「ああ。悪かったな、中村。随分と苦労をかけた」

「別に。ただ、今の君の方が、色々と安心できるかな」

 

 そうだろうな。間違いない。

 

 俺は完全に心が死んだ人殺しと化していたし、優花は情緒不安定気味だったし。中村からすれば、最高戦力の2人がこんな有様だったので、気が気じゃなかっただろう。

 

「……坊や。もしやさっきのが」

「ん、ああ。火山の大迷宮攻略の時に言った、真の姿だな。単独でやれる事は、あれが現状の限界だ」

 

 どこかホッとした感じが見受けられるサンドマンからの質問に、優花の頭を撫でながら答える。

 

 一応、優奈がスピリッツとして取り憑く強化が残ってはいるので、完全なるフルパワーではないけど。

 

「おい貴様、その力は一体何だ。魔力の質が激変したように見えたが」

「〝神格化〟しただけだよ、フリード。そっか、お前たち初めて見るよな、この状態」

「神格、だと……!? そんなバカなっ」

「まあ、その反応が普通だよな。だが、ホラを吹いている訳ではないから、そこは理解してくれよ。時間はどれだけ使っても構わないから」

 

 そう口にした俺は、スッと目を細めて優花から少しだけ離れようとする。

 

「ケン……? 離れたらやだ……」

「すぐ終わるから、ちょっとだけ我慢してくれ」

 

 ほんの僅かに離れただけでこれである。まあ、俺が全て悪いんだが。

 

 右手で再度優花を胸元に抱き寄せたので、自由が効くのは左拳だけか。

 

……いや、全く問題ないな。何なら過剰戦力の可能性まである。

 

 左拳にオスカー製の籠手を装着してから、ボソリと呟いた。

 

「来たな」

 

 下層から、悍ましい無数の羽音がせり上がってくる。

 

 現れたのは、先程よりも遥かに数を増やしたゴキブリの大群。もう、津波という言葉では随分と生易しい表現だなと思えてしまう程である。敢えて言うなら、ゴキブリで造られた閉鎖空間だろうか。

 

 俺たちを中心として、ドーム状に展開したゴキブリたちは、腐食の黒煙を身に纏いながら、急速にドームを縮小させていく。

 

「中村とフリードは〝蒼天〟を、白竜は極光を、俺の左拳に向かって撃て」

「「は?」」

「早くしろ! 威力を俺が倍増させて、奴を討ち滅ぼす! サンドマン、お前はフリードたちが魔法を撃ち終わったら、障壁を張るか空間魔法で2人と1匹を連れて避難してくれ!」

「……任せろ」

 

 間近まで迫ったゴキブリたちを防ぐべく、内に抑え込んでいた魔力を今度は一部だが解放し、〝魔力放射〟と〝魔力操作〟によって物理的な壁としての形を持たせて球形状に展開する。

 

 魔力の質がクリアな物へ変異した事で、澱みがある魔力や選定していない物質と反発し合い、容赦なく弾き返す特性を活かしている形だ。

 

 これまでも、その気になれば実行できたのだが、特に攻撃能力がない通常の魔力で、相手の魔法だの物理的な動きだのを止める、または押し返す行為は、凄まじく骨が折れる。無抵抗の人間が相手なら、気絶させるぐらいの曲芸は可能だったかもしれないが……。

 

 人間を気絶させるにも、純粋な魔力だけでは相当量必要になる。労力に見合ってはいない。だったら、〝威圧〟するなりパンチで気絶させた方が楽である。

 

 魔力が変異したからこその、超パワープレイだ。多分だが、〝聖絶〟を複数枚展開したところで、ゴキブリたちの包囲網は防げないので、一応正しい選択を取れている……はず。

 

 そうこうしている間に、詠唱が完了した中村とフリードが〝蒼天〟を、白竜が極光を俺に向けて放った。

 

 左拳を翳し、尽くを焼き払う最上級魔法2つと、強烈無比な殺傷力を持つ純白の極光を籠手で吸収する。

 

 吸収が完了したら、内に残っている変異魔力を籠手に注ぎ込み、更なる威力の増幅と、複数吸収した魔法たちを合体させ、1つの魔法に形成していく作業を行う。

 

 籠手が超新星爆発でも起こしたかのように、急速に輝きを増していく。それを見たサンドマンは、ほんのり冷や汗を額に浮かべながらも、空間魔法を駆使して次元の狭間のような場所へ2人と1匹を連れて避難した。

 

 それを確認してから、俺は頭上を見上げる。

 

 魔力壁の外は、ゴキブリの形が認識できないぐらいに密集しているせいで、どこも真っ黒に見える。だが、1箇所だけ外界が見えるところがあり、そこから巨大ゴキブリがこちらを覗き込んでいた。

 

「よお、さっきぶり。まさかとは思うが、その程度の攻撃で俺を倒せると思っていたのか?」

 

 軽く笑いながら嘲りの言葉を投げてやると、巨大ゴキブリは狂乱したように叫びながら、俺の展開する魔力壁を何とかして突破しようと、必死に攻撃してくる。

 

 どうやら、籠手から放たれそうになっている攻撃のヤバさが伝わったようだな。

 

「綺麗……」

 

 そんな状況で、優花は俺の胸元に埋めていた顔を上げて、籠手が発する輝きを見つめながらそんな事を口にする。

 

 確かに星のような輝きを見せているので、彼女の言葉通り綺麗であり、幻想的な光景である。

 

 だが、それ以上に可愛いの塊かよと、思わず考えてしまう。

 

「優花の方が綺麗だけどな」

 

 ほぼ条件反射のように、俺はこう口にした。

 

 すると、優花は少し背伸びをすると、流れるように唇を俺の唇に重ねる。

 

「そんな貴方は、世界で1番カッコいい」

 

 胸の奥から、新しい感情が湧き出てくる。

 

 もはや暴力的と言えるぐらい、とんでもない質量の愛おしさが、一瞬にして思考を支配した。

 

 テンションが最高潮に達した俺は、左拳を突き上げると、ノリと勢いで潜在能力を追加で引き出す決意をする。

 

「〝魂魄解放・第三限界突破〟!」

 

 内に抑え込むには、あまりにも莫大すぎて勢い良く溢れ出てしまう量の魔力が、魔力壁を更に強靭な物へと作り変えていき、発射の時を待つ吸収した魔法の破壊力を激増させる。

 

 そして、魂魄魔法を追加で発動させると、攻撃の対象とする存在の〝選定〟を行った。

 

 ここらが頃合いだろう。反射機能を顕現させるべく、敢えて魔力が流れないように堰き止めていた魔力回路に、大量の魔力を流し込んだ。

 

「完全に消えてしまえ!」

 

 拳の先から、小さな星が誕生したかと思えば、魔力壁や俺自身から噴き出す魔力を取り込みながら、急速に巨星へと成長していく。

 

 魔力壁にへばり付いていた巨大ゴキブリや、奴が率いる他のゴキブリたちは、大慌てで逃げ出そうとするが、もう遅い。膨張を続ける巨星に呑み込まれて焼き尽くされ、そして消滅していくだけだ。

 

 球形状に展開した魔力壁の、左右や奈落の底側にいたゴキブリたちは、巨星が俺の頭上で成長していく関係上、何とか巻き込まれずに済んだようだが、安心するにはまだ早い。

 

 俺は、ゴキブリ全てを攻撃対象として〝選定〟している。尽く滅ぼすまでは、決して攻撃が止まる事はない。

 

「ハアッ――!!」

 

 視界全てを埋め尽くすぐらいにまで膨張した巨星は、俺が完全に解放した魔力を一気に取り込んだ事で、遂に大爆発を起こした。

 

 頭上で発生した大爆発だが、俺と優花には傷1つ負っていない。〝選定〟の対象外には、一切被害が及ばないという、非常に便利な効果があるのでね。

 

 大爆発を引き起こした巨星だが、単に爆裂して終わりではない。辺りに散らばった巨星の欠片たちは、そのまま猛烈な熱を持つ流星へと変化し、奈落の底へ逃げようとしていたゴキブリたちを猛追する。

 

 クラスター弾のように降り注ぐ、滅びの流星が完全に止んだのは、巨星の爆発からピッタリ10秒後の事であった。

 

 静けさを取り戻した地下空間。念の為、数分に渡って気配を探るが、さっきまでは大量に感知できたゴキブリの気配は、どこにもない。

 

「よし、終わったな」

 

 所詮、クズはクズ、虫けらは虫けら……なんてバカを言う事はなく、次元の狭間に避難していたサンドマンたちを呼び寄せて合流する。

 

 少しずつ、全身に巡らせている魔力の量を減らしていきながら辺りを注視していると、頭上から巨大な木の枝が新たに伸びてきた。

 

 まるで、天へ続く階段のようである。他に先へ進めそうな通路は見当たらないので、あの枝を進めという事なのだろう。

 

 歩いても地面を陥没させないぐらいには力をセーブした俺は、皆に目配せして先へ進む意を伝えると、優花と一緒に枝通路を進んでいく。

 

 一応、警戒は解かずに進んだが、特に襲われるような事態は発生せず、無事に登り切る事ができた。

 

 登り切った先には、何度目かの洞があった。躊躇いなく進むと、案の定、光が溢れ出し転移陣が起動する。

 

 光が晴れると、眼の前には庭園が広がっていた。

 

 空が非常に近く感じられる。

 

 空気はとても澄んでいて、学校の体育館程度の大きさのその場所にはチョロチョロと流れるいくつもの可愛らしい水路と芝生のような地面、あちこちから突き出すように伸びている比較的小さな樹々、小さな白亜の建物があった。

 

 そして1番奥には円形の水路で囲まれた小さな島と、その中央に一際大きな樹、その樹の枝が絡みついている石版があった。

 

「どうやら、ここがゴールみたいだな」

 

 辺りを一通り探索してから、そう結論づけた。

 

 他の皆も、俺と同意見のようだ。全員が大迷宮を制覇した経験を持つが、全員の意見が一致しているので、間違いないだろう。

 

 ひとまず、最奥にある石板を目指して歩く事にした。

 

 水路で囲まれた円状の小さな島に、全員で可愛らしいアーチを渡って降り立つ。途端、石版が輝き出し、水路に若草色の魔力が流れ込んだ。水路そのものが魔法陣となっているようだ。ホタルのような燐光がゆらゆらと立ち昇る。

 

 いつものように、脳内を探られた感覚の後に、新たな神代魔法が刻み込まれて――。

 

「うっ!?」

「あ、ぐううう!」

 

 何の前触れもなく、凄まじい頭痛が俺を苛む。声を上げたのは、優花もか。

 

 感覚的には、神代魔法を脳に直接刻み込まれているそれと同じだが、与えられる情報量と負荷がとんでもない。

 

 まさか、これが。

 

「概念、魔法……?」

 

 何とかダウンする事だけは免れ、優花が倒れ込まないように支えてやるところまでは何とかなったが、それ以上は動けそうにない。優花の方も、気絶だけは免れたようだが、俺以上にグロッキー状態だ。

 

 中村とサンドマンが、心配そうにこちらを見ているが、首を横に振って問題ない事を伝えたタイミングで、目の前の石板に絡み付いた樹がうねり始めた。

 

 何事かと身構える俺たちを尻目に、立ち昇る燐光に照らされた樹はぐねぐねと形を変えていき、やがて、その幹の真ん中に人の顔を作り始めた。ググッとせり出てきて、肩から上だけの女性とわかる容姿が出来上がっていく。

 

 そうして完全に人型が出来上がると、その女性は閉じていた目を開ける。そして、そっと口を開いた。

 

「まずは、おめでとうと言わせてもらうわ。よく、数々の大迷宮とわたくしの、このリューティリス・ハルツィナの用意した試練を乗り越えたわね。貴方たちに最大限の敬意を表し、ひどく辛い試練を仕掛けた事を深くお詫び致します」

 

 どうやら、樹を媒体にした記録映像のような物らしい。

 

 ストレートの髪を中分けにした、気品ある王族のような雰囲気を感じるエルフ族の美人のように見える。オスカーのような、鮮明に姿形が遺された記録映像とは異なるので、全てがハッキリと分かる訳ではないが。

 

 リューティリスと名乗ったそれは、何故今回のような試練を与えたのか。その理由について語り出した。

 

 神々の策謀により、何を信じれば良いのか。分からなくなる時があるかもしれない。心という物は何処までも不安定で、揺らぎ得る物なのだと。

 

 だが、神々であっても簡単には手を出せない物がある。それが、これまで紡いだ絆の道標だと言うのだ。

 

 人と人、人と動物、動物と動物が個人間で紡いできた絆は、時には神々の力すら越えてしまう程の力を持つ。それを神々は心底恐れ、あの手この手で絆の道標をなかった物にしようと策を巡らせる。

 

 それでも、決して諦めるな。そして忘れるな。信じ続けろ。そう力強く、何度も念押しされた。

 

 話はやがて、習得した神代魔法の説明へと移っていく。

 

 今回の大迷宮攻略で習得した神代魔法は〝昇華魔法〟だ。

 

「わたくしの与えた神代の魔法〝昇華〟は、全ての〝力〟を最低でも一段進化させる。与えた知識の通りに。けれど、この魔法の真価は、もっと別のところにあるわ」

 

 中村たちは顔を見合わせているが、俺と優花はリューティリスが何を言いたいのか、察する事ができた。

 

 与えた知識通り。ああ、確かにその通りだ。0が1に、1が2に進化した際の恩恵は計り知れないだろう。

 

 だが、今回習得した昇華魔法含め、全ての神代魔法の真髄は、そんな上っ面の能力説明だけでは、完全に理解する事は叶わない。

 

 普通の人間であれば、1つの神代魔法の真髄を理解しようとするだけで、脳がパンクしてしまう。そう思わされるだけの、凄まじい情報量であった。それを7つ全てともなれば、殺人的な情報量になる事は明白である。

 

「昇華魔法は、文字通り全ての〝力〟を昇華させる。それは神代魔法も例外じゃない。生成魔法、重力魔法、魂魄魔法、変成魔法、空間魔法、再生魔法……これらは理の根幹に作用する強大な力。その全てが一段進化し、更に組み合わさることで神代魔法を超える魔法に至る。神の御業とも言うべき魔法――〝概念魔法〟に」

 

 そう。全ての神代魔法の真髄を理解する事は、ただのスタートラインに過ぎないのだ。

 

 俺と優花は、今回の大迷宮攻略の完了によって全ての神代魔法を習得した事で、神代魔法の真髄の理解に加えて、〝概念魔法〟の知識も刷り込まれたのである。

 

 概念魔法。言葉の通り、ありとあらゆる概念を現実に引き起こす事を可能とする、魔法の極致とも言える凄まじい御業だ。

 

 しかし、概念魔法の発動は、理論では成す事ができない。必要となるのは、〝極限の意思〟である。

 

 実にフワッとした抽象的な説明だが、本当にその通りなのが難しい。

 

 ものすごく簡単に説明すると、魂魄魔法と昇華魔法によって、自身の望みを概念化し、そこに魔力を通せば完成する訳だが。そう容易く発現させられる代物ではない。

 

 リューティリスは言葉を続ける。解放者たちは、長い年月をかけたが、最終的に3つの概念魔法しか生み出せなかったと。

 

 もっとも、概念魔法が持つ力の凄まじさから、その3つだけでも十分だったらしいが。

 

 そのうちの1つを貴方たちに。そうリューティリスが言った直後、石板の中央がスライドし奥から懐中時計のようなものが出てきた。裏側にはリューティリス・ハルツィナの紋章が刻まれているので、攻略の証としての役割もあるようだ。

 

「名を〝導越の羅針盤〟――込められた概念は〝望んだ場所を指し示す〟よ。どこでも、何にでも、望めばその場所へと導いてくれるわ。それが隠されたものでもあっても、あるいは――別の世界であっても」

 

 リューティリスの説明を聞いた俺は、この羅針盤を使う事で、解放者たちが何を行おうとしたのかすぐに察した。

 

 しかしそれ以上に。別の世界だろうと導いてくれるという言葉に、俺の心臓は確かな高鳴りを見せた。

 

「複数回の大迷宮の攻略完了を願って、いくつか複製を残してあるけど……もし、複製の在庫が切らしてしまっていたら、わたくしの話が終わった後に、最後の試練が行われた場所まで戻っていただけるかしら。事情を知る者が、迎えに上がるわ」

 

 どうやらリューティリスは、神殺しを成せる猛者が複数回現れる事を願って、随分と気を回してくれたらしい。

 

 俺が手にしている羅針盤は、おそらく複製の物だろう。オリジナルは、ハジメが所持しているはずだ。

 

「全ての神代魔法を手に入れ、そこに確かな意志があるのなら、貴方たちはどこにでも行ける。自由な意志のもと、貴方たちの進む未来に幸多からんことを祈っているわ」

 

 その言葉を最後に、リューティリスの姿は消えていき、ただの石板だけがその場には残された。

 

「……優花」

「うん」

 

 さっきよりも強く、優花を抱き寄せる。

 

 ずっと。異世界に召喚されたあの日から。俺たちは、故郷に帰る事を夢見ていた。その夢を叶える一手を今、手に入れたと言って良いだろう。

 

 まだ、実際に帰るとなると、もう少し先の話になるとは思うが。それでも、嬉しい物は嬉しい。

 

「真久野。それに優花、もしかして……」

「ああ。概念魔法を、理論上は扱える状態になった。それに、この羅針盤があれば」

「故郷に、日本に帰れる。まだ無理だろうけど、近い将来必ず、ね」

 

 概念魔法を扱える状態になったと聞いて、フリードとサンドマンは驚愕の表情を、中村は何となく納得したかのような表情を浮かべた。

 

「故郷と言ったな。坊やたちは、別の世界から人間族の手によって召喚されたと耳にはしていたが。帰りたいのか?」

「大多数の召喚組が、召喚されたあの日からそう思っているさ。最初は、魔人族との戦争を終結させた際の褒美で、エヒト神が俺たちを元の世界へ帰してくれる事を願うしかなかったんだけどな」

「貴様らイレギュラーが故郷とやらに帰還するのであれば、我ら魔人族の悩みのタネの多くが消滅するのだがな」

「暗に早く帰れと言ってるだろ、フリード。だが、俺と優花、それにハジメたちは魔人族との戦争に参加する気は全くないし、複数の神代魔法を所持しているお前たちが、中途半端な強さの勇者たちに負ける道理はないから、その心配は杞憂だと思うけどな」

 

 少なくとも、空間魔法と昇華魔法を持つフリードとサンドマンに、勇者たちや人間族側が戦争で勝てるとは思えない。フリードだけで、いくつかの国の軍勢を個人で所持しているような物だし。サンドマンは一騎当千の強者だし。

 

 あとは、多くの魔人族を洗脳していると思われるダーズをぶっ潰せば、間違いなく戦争には勝利できるだろう。

 

 そう伝えると、フリードは渋い表情を浮かべながらも、一応納得は行ったようで、僅かに首を縦に振った。

 

「さあ、もう用事は済んだから、サッサと大迷宮を出るぞ」

 

 ショーカット専用の魔法陣もいつの間にか出現している。特に目ぼしい物も見当たらないので、早いところ外に出て、長めの休息を取りたい。

 

……可能なら、優花や優奈に構い倒したい。寂しがらせて、更には泣かせてしまった詫びと、単に俺の欲望が今にも爆発しそうという2つの観点から。




 スーパーノヴァして\\デデーン//していくスタイル。とっておきだぁ……。

※マックくんの技紹介
★魂魄解放・第n限界突破
✪潜在能力の底上げと解放を段階的に行う
…魂魄に記憶された、将来的に解放される予定の潜在能力を底上げした上で、前借りという形で発現させる。発動させる度に、潜在能力(伸びしろ)が無限に強化される。

 持続時間は第一限界突破の時点で2分。潜在能力を解放させる比率が上がるにつれて、持続時間は低下する。

 第一限界突破では、潜在能力の30%を解放する。なお、解放の時点で魂魄の情報を更新し、5%程度潜在能力の成長限界を引き上げた状態で実際は発現する。

 第二限界突破では、潜在能力を40%解放。最後のきりふだをいつでも発動できるようになる。

 第三限界突破では50%。ギガマックの力を100%引き出しても姿を変えずに済むようになる。
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