異世界でもお前のパンチを見せてやれ! 作:Hetzer愛好家
ショートカットを使い、大迷宮から脱出した俺たちは、一旦ミレディの住処へ帰還した。
俺たちが帰ってきたのを見たミレディの騒がしさは、それはもう凄まじかった。
中村に号泣しながらのジャンピングハグを敢行し、白竜を撫で回し、フリードとサンドマンにも「偉い!」「頑張った!」とストレートに誉め言葉を投げつけていた。
俺と優花は、オスカーに「リューティリスが色々とごめん」と謝られた。どうやら、相当彼女の扱いに苦労したらしい。後々になって、ミレディからも同じく「リューちゃんが色々とごめん……」と言われたので、よっぽどの奇人だった事が見受けられる。
ちなみに、ハジメには〝念話〟で攻略が完了した事と、帰郷への足掛かりとなる概念魔法を手に入れた事を伝えてある。
その際の、ハジメの「何ィ!?」って叫び声は中々に面白かった。ビックリしすぎて、〝念話〟なのにハジメの声と被って、〝あの〟声が重なって聞こえてくるぐらいだ。
それぐらい、彼にとっては重要な事項であり、詳細を根掘り葉掘り聞きたがる事を分かっていたので、特にツッコミを入れる事はなかったが。
あと1つ、大迷宮を攻略できれば日本へ帰る手段が手に入ると分かったハジメは、これまで以上にやる気を見せていたので、そう時間は掛からず概念魔法を手に入れるだろう。
その場合、白崎とユエも概念魔法を手に入れる事になるので、通常なら1回限りの発動となる概念魔法をアーティファクトに付与し、何度も発動させられるようにする事もできるはずだ。頭数が多ければ、それだけ余力が生まれるはずなので。
さて、ミレディの住処に戻った俺たちだったが。戻ってきて1時間もしない内に、俺の前に霊体の優奈が現れた事で、また外出する事になった。
「先輩とお姉ちゃんの事を、神様が呼んでるの」
優奈の言う神様とは、彼女が霊魂を今日まで現し世に存在させる事を許した存在である。曰く、エヒトのような狂ったバカ野郎ではないらしい。
ただ、好奇心がとても強いようで、ちょっと困った部分もあると言っていた。
そんな神様が、俺と優花に会いたいと口にしているようだ。
ノンビリ休むつもりだったが、既に故人の優奈と触れ合う機会を与えてくれた、ある種の恩人からの呼び出しを無碍にする事はできない。
そんな訳で、神様が指定した場所へ行く事になった。
指定場所は、優奈が現し世にいない時に滞在する、この世とあの世の狭間である。
羅針盤によって難なく発見できたから良かったが、持っていなかったらどうするつもりだったんだろうか。1度仮死状態になるとか?
指定場所の座標を優花に伝え、昇華魔法によって強化された空間魔法を早速用いて、俺たちは移動するのだった。
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「さて、指定場所に来た訳だが……」
「上も下も、右も左も星空が広がってるね。不思議な空間だなぁ」
「本来なら、赤黒いだけの殺風景な空間なんだけどね。神様にお願いして、色々カスタマイズさせてもらったんだ〜」
まるで、宇宙に浮いているかのような感じを覚える、天球状の空間である。足場は見当たらないのだが、どのような体勢でも常に地面がある感覚があるのが、何とも不思議だ。
とても、この世とあの世の狭間とは思えない光景であるが、優奈が手を加えたと言うなら納得だ。
よくよく眺めると、全ての星座を再現した星の配置をしているのが分かる。春夏秋冬に加え、南半球でしか見られない星座も見えるので、かなり時間を使ってこの空間をカスタマイズしたのかもしれない。
――来たか
数々の星座を眺めていた俺だが、空間に染み渡るようにして鳴り響いた声に身を固くする。
「あ、神様。連れてきましたよ〜」
優奈の目線の先を辿ると、そこにはいつの間にか、光の粒子を身に纏う人型の何かが出現していた。
見た目は、この世の者とは思えないぐらいに美しい女性である。だが、見惚れるよりも先に、恐れと敬意が湧いて出てくる。
見た目に関しては、優花と優奈が誰よりも綺麗であると常に思っているので、特に琴線に触れるような事はなかったのだが。それを差し引いても、俺が感じている恐怖と尊敬の感情の大きさは、ちょっと異常だ。
これが神様、なのか。
「そう恐れるな……と言っても、難しい話か。神格を得た貴殿は、この場の誰よりも、我の持つ神格の強さ、そして格式の高さを感じ取れているだろうからな。思念体の身であっても、貴殿との差は途方もなく離れてしまっているが故、仕方のない事だ。あまり気にしすぎるな」
「っ、何者なんだ、アンタは。間違いなく神様である事は分かったが、明らかにそこらの神とは格が違うだろ。名を聞かせてくれないか」
「ふむ、我の神名か。複数存在するが、そうだな。まずはこちらで名乗らせてもらおう」
場を支配する神聖さが増幅する。
神がその名を口にするだけで、あまりの神聖さに首を垂れ、そのまま手を合わせる人がいるのは知っていたが、これはそんな次元じゃない。
神格を得ている俺は無論だが、優花と優奈もその神聖さに圧倒され、目を見開いて神様から目を離せずにいる。
「我は黄泉津大神、そして道敷大神。黄泉国の主宰神である」
そう名乗った神様の周囲に、無数の雷が現れる。こちらへ被害が及ぶ事はなかったが、その凄まじい威圧感に、久しく流していなかった冷汗が背筋を通った。
程なくして雷は消えたが、その残光は強烈に瞼の裏まで焼き付いている。
「そして、もう1つ。我は――」
だが、彼女が告げた神名がどのような文字の羅列なのかを理解し、咀嚼した俺は、今から発せられようとするもう1つの神名が何なのか、察してしまった。
おいおいマジか。確かに格が違うとは言ったが、そこまでの大物という想定まではしていなかったぞ。
「伊邪那美大神である」
伊邪那美大神。日本の神話をそこまで知らない俺であっても、その名は耳にした事がある。
簡単に言ってしまえば、日本の母と言える存在だ。彼女と、そして番である伊邪那岐大神がいなければ、そもそも俺たちは存在していないとされている。
過去、日本で生活していた頃は、神なんぞクソ喰らえだ、所詮人間が作り出した偶像だと考えていた。
しかし、実際に神とされる存在が確認できる異世界へ飛ばされてからは、俺の中での考えは随分と変化した。
まあ、決定打となったのは、肉体を失ったはずの優奈が様々なイレギュラーを起こしたからなんだが。
「そうか、伊耶那美大神だったのか。だから、死人となったはずの優奈も……」
彼女のもう1つの顔は、最初に告げた通り黄泉国……あの世の主宰神だ。
何かしらの奇跡が生じて、優奈は伊耶那美大神に見初められたのだろう。
「真久野ケン。そして園部優花。我は、貴殿らに謝罪の言葉を口にせねばなるまい」
「……何だと」
「神様が、私たちに?」
そんな伊邪那美大神が、俺たちに謝罪したいと言い出した。
伊邪那美大神ほどの超大物が、一介の人間と格式が低い神に対し、わざわざ謝罪をする事の異常性は、言葉ではとても言い表せない。
「我は、1つの好奇心から、真久野ケンの記憶領域に手を出した。大迷宮の攻略とやらに合わせてな」
一瞬、何を言っているのか理解できなかったが、程なくして悟った。
直近の大迷宮攻略で、俺がどのような立ち振舞いをして、優花に辛い思いをさせたのか。あの巨大ゴキブリをブチのめす直前に、全てを知らされた。
その元凶を探し出せたら、必ず殴ると心に決めていたのだが。まさか、こんなにも早く出会えるとは。
「アンタが……」
いや待て。焦るな。
彼女は、好奇心から俺の記憶領域に手を出したと言った。
強い怒りはあるが、何に対して好奇心を持っていたのか。それを知ってからでも遅くはない。
「……好奇心と言ったな。神ともあろう御方が、何を知りたくてこんな事をした?」
「人としての成長だ、真久野ケン。今の貴殿を形成する上で、最も大切な物を失った時。そして、理想郷に閉じ込められた時に、どのようにして乗り切るのか。成長するのか。それが見たかったのだ。神として成長する過程に入れば、もう見られない物だったのでな」
「へえ。そんな物珍しいやつだったのかい」
「愛しい人の記憶や命を失い、自己形成の多くが崩れたとしても、神であれば乗り越える事は容易い。理想郷に呑み込まれても、何の問題も発生しない。意識しなければ、永劫を生きる都合上、感情そのものが薄れていくからな。そんな神を、我はこれまで何度も見てきた。無論、それは人間にも言える事であるが……」
神と人とでは、決定的に違う部分があると、彼女は言う。
神は、感情が希薄だから傷つかない。感情を保持する事はできるが、その苦しみを永劫に渡って味わい続ける地獄を、自らの意思で選択する神は非常に少ないらしい。
一方人は、その都度深く傷つく。耐え切れず、精神的に潰れてしまったり、死を選ぶ者もいる。
だが、前へ進む意思を見せる者も、確かに存在する。
「神にはほとんど見られない〝成長〟。それを、見せてもらいたかった。唯一貴殿が手を出していなかった、自己形成の崩壊、消失を乗り越えるという形でな。大迷宮の試練とやらも、今回は利用させてもらったよ」
「……それで、満足の行く結果は得られたかい」
「期待を遥かに超える、素晴らしい結果を得られたさ。記憶を失おうと、魂に刻まれた愛は永遠に不滅だという事を、貴殿は示してくれた。更には、異次元の進化速度も顕にした。流石は、我が見込んだ若神なだけある。我が神子と同じく、魅せてくれるなぁ」
優奈と共に、俺は随分と昔から彼女に目を付けられていたようだ。
実に光栄な事である。伊邪那美大神からの、最大限の賛辞と受け取って良いだろう。
だが、俺は眉1つ動かさずに、伊邪那美大神をジッと見続ける。
「アンタが何をしたくて、大迷宮の試練に便乗する形で俺の記憶領域に手を出したのか。それは理解した。優奈と同じく、目を掛けてもらっている事も分かった。アンタが目を掛けてくれなければ、優奈との再会はなかっただろうから、そこは感謝する」
「礼には及ばんよ。その者は、神をも恐れ慄かせる、眩い輝きを放つ愛という名の〝星〟を我に魅せてくれた。その〝星〟が絶える事は、とても許す事はできぬ。貴殿の連れも同様だ」
「……そうか。ただ、1つだけ言わせてくれ」
サラッと、優奈と優花の愛情は、神すらも魅入ってしまうぐらい強烈な輝きを持つ事が伝えられたが、今はそれに喜ぶ余裕はない。
俺の怒りは、完全には鎮火していない。
「優花を泣かせた事だけは、俺はどうしても許せないんだよ」
1度は引っ込めた神格を、再び顕現させる。
怒りに呼応して増大していく力は、ほんの僅かに残された理性の欠片で、辛うじて抑え込まれている状態だ。些細なキッカケ1つで、容易く暴発してしまうだろう。
ついさっき手に入れた〝昇華〟の力が作用しているようで、神として本能的に一段階上のレベルに至ったのだと分かるぐらい、大迷宮攻略時点よりも強大となった魔力が吹き荒れる。
「……貴殿の母君に告げられた事だが、やはり己の感じた痛みよりも、他者が感じた痛みに怒るのだな」
「母……? 何を言ってるのか分からんが、そうだな。俺が苦難を受ける分には何も文句は言わないが、優花と優奈に火の粉が降りかかるなら話は別だ」
「元より、納得行くまで殴られる心積もりだった。貴殿の気が済むまで、我の事は好きにするが良い」
見た感じ、伊邪那美大神は本体ではなく、実体を持つ思念体だと思われるので、何処までやれるのかは正直分からない。
強烈な怒りこそ覚えてはいるが、完全に無抵抗の、人型サンドバッグを殴る趣味は持ち合わせていないのも、懸念点の1つだ。確かに殴ると決めてはいたが、まさか相手方から殴って良いと言われるとは思いもしなかった。
……いや、わざわざ気にする必要はないか。相手は伊邪那美大神。思念体で数割の力しか出せなかったとしても、遥かに格上である事に違いはない。全力をぶつけても、問題はないだろう。
それに、あの伊邪那美大神が、構わないと口にしているのだ。神に二言はないだろうよ。
体力が完全に回復した訳ではないので、あまり長い時間は全力で戦う事はできないが、構うものか。
新たに手に入れた力も躊躇いなくフルで発動させ、〝魂魄解放・第三限界突破〟によってギガマックの力を100%引き出しながらも、姿形を変えずに戦えるようにしたところで、優奈がフワリと俺の背後に佇んだ。
「ケンさん」
「おう」
阿吽の呼吸で、スピリッツとしての憑依を受け入れる。そうだな、120%の実力を発揮するなら、君の憑依が必須だな。
彼女の魂が俺の魂の隣へやって来たのと同時に、肉体が巨大化を始める。
ギガマックの力なら姿を変えずとも扱い切れるが、優奈の力を上乗せした場合は、これでも足りない。
故に、更なる潜在能力を引き出す。
「〝魂魄解放・第四限界突破〟」
巨大化を半ばで食い止め、体格を元に戻すと、伊邪那美大神を正眼に見据えた。
本来なら無条件で超巨大化をする状態だが、制御できるだけの潜在能力を引き出した事で、多少ゴツくなった程度で抑えられている。その代償として、体内を巡る魔力が荒れ狂い、今にも暴走しそうなぐらい気を張り詰めているが、ギリギリ俺はまだ正気のままだ。
「ケン」
「大丈夫だ。君たちがいる限り」
泣かせるものか、絶対に。
その強い決意が、今にも消えかけている理性を、強固に繋ぎ止める最後の綱となる。
「……待たせたな」
「素晴らしい力だな、真久野ケン。さあ、来い。貴殿の拳打を見せてみろ」
黙ってスマッシュホールドを行う。
昇華魔法を手に入れた事で、ホールド時間に応じて破壊力が増加する特性が追加された。他にも、リトルマックの〝情報〟をより正確に再現できるようになったので、様々な面で性能が強化されている。
ホールド時間は1秒弱。その間に右拳に〝集中強化〟を施した俺は、伊邪那美大神の顔面部に向かって、渾身のスマッシュストレートを叩き込んだ。
大気を震わす程の衝撃波が発生し、俺の前髪を激しく持ち上げて強制オールバックにしてくる。辺りに何か構造物があれば、即座に崩壊していたのではないだろうかと思うぐらいの、凄まじい衝撃だ。
相手は思念体という事で、拳が通り抜けてしまうか不安だったが、それも特に問題はなかった。しっかりと俺の右拳には、人の顔を殴った時の感触が残されている。
だが、思念体を殴り抜いた瞬間に、伊邪那美大神の姿は見えなくなってしまった。
何処かに吹き飛ばしてしまったのかと考えた俺だったが、すぐにそれは間違いであると証明された。
「く、くく……ほんの一時的にとは言え、思念体の維持ができなくなる程の破壊力。これでまだ、神格を得てから日が浅いというのだから、驚きだよ」
背後から、また奴の声が聞こえた。
すぐさま振り向くと、眼前に無傷の伊邪那美大神が佇んでいた。
焦った様子も、怒った様子も見られない。ただ悠然とそこに立ち、俺の繰り出した一撃を手放しで称賛しながら、穏やかに微笑を浮かべている。
「……おいおい、マジか」
思わずそう零してしまった。
気合いストレートの方が威力は高いとは言え、スマッシュストレートの破壊力も並大抵の物ではない。フルホールドで、かつ様々な強化技能を全て最大倍率で発現させていたともなれば、場合によっては空間の断裂すら有り得る。空間魔法との併用も行えば、多くの生物は拳を受けた事すら認識せず塵と化すだろう。
だが、どうだ。目の前に立つ神は、微塵もダメージを負ったように見えない。
空間の方にも、何か起こったような様子は見受けられない。特別頑丈に作られているようだ。
「そこまで動揺する事もなかろう。最初に告げた通り、貴殿と我とでは、神格の強さ、そして格式の高さに、埋めようのない大きな差が存在する。本来ならば、2割程度の力しか持たせられない我の思念体に対しても、一時的にとは言え維持が難儀になる程の一撃を与える事は、まず不可能だ」
何かめっちゃ褒めてくれているが、だとしてもショックは大きい。つい先刻、俺と対峙したあの巨大ゴキブリは、こんな絶望的な気持ちを抱えながら頑張っていたのだろうか。
スマブラにおいて、所謂詰みカードだと言われるキャラと、トーナメントの初戦で当たってしまった時に感じる絶望感以上である。これはヤバい。
長らく、自分よりも格上の存在に会わなかった事も、この衝撃の大きさに拍車をかけているのだろう。
最後に出会ったのは、オルクス大迷宮のヒュドラの時か。いや、何ならもっと前の、師範代や紅蓮の格闘家の時以来か……。
「あれ、ケン笑ってる……?」
優花の声で、俺は自分の口角がどうしようもないぐらいに吊り上がっている事に気がついた。
実に久しぶりとなる、越えるべき壁の出現。長年感じる事のなかった感情が、怒りを塗り替える形で急激に呼び起こされていく。
――越えたい
――強くなりたい
感情が赴くままに、身体を動かす。
「優花、援護を頼む」
「……任せて。〝禁域解放・瞬光〟」
途端に展開されるナイフ群。視界に入るだけで、得られる安心感は半端ではない。
内からは優奈が。外からは優花が、確かに一緒に戦ってくれている。それが分かるだけで、暴走するリスクは一気に抑えられる。
「すまん、伊邪那美大神。趣旨はかなり変わってしまうが、1分だけ稽古を付けてくれ。傲慢な物言いだが、稽古を付けてくれたら、それでアンタがした事は全て許す」
この力が維持できる時間は、本来であればあと20秒もない。だが、そんな制限時間を踏み倒す手段は、少し考えればいくらでも湧いて出てくる。
折角、神代魔法を自在に扱えるのだ。悪用してやるべきだろう。
「……良いだろう」
伊邪那美大神は、ゆるりと両の腕を広げると、雷を無数に出現させた。
そう認識した時には、既に雷は俺たちの目の前まで迫っている。
更なる力を引き出すために、〝瞬光〟で知覚能力を爆発的に向上させ、雷撃をジャブの連打で相殺。難しい物は際々のところでスリッピングして躱す。後方に向かった雷撃は、優花がナイフを操って軌道を逸らしたり、重力魔法を使って上手く受け流したようだ。
雷撃を防いだ俺は、性能が飛躍的に向上している〝縮地〟を使用した踏み込みで、伊邪那美大神との距離を詰めようとするが、少し行くと唐突に現れた、凄まじい火力を持つと分かる狐玉が行く手を阻む。
ナイフから放たれた無数の水のレーザーによって、ほんの僅かに火力が下がったような様子を見せたが、消える気配はない。
――ケンさん、これ使って!
優奈の声が脳内に響き渡ると、何処からともなく札が現れ、焼け落ちると同時に拳が金色の炎に包まれる。
すぐさま炎の特性を理解した俺は、燃え盛る拳で狐玉を殴り、狐玉の持つ莫大な火力を吸収して、そのまま自分の体力へと変換していく。
それでも途中、〝神格化〟を維持できる限界時間が訪れ、力が抜けてしまいそうになったが、合わせて再生魔法を行使する事によってダウンを許さない。対処療法的な処置であり、すぐまた時間切れとなるだろうが、その都度再生魔法を使えば、あと40秒は戦えるだろう。重篤な精神障害が発生するギリギリまで、倒れるつもりはない。
優花の繰るナイフたちの、凄まじい密度のオールレンジ攻撃を正確に、かつ最低限の防御で切り抜けている伊邪那美大神に、今度こそ突っ込んだ。
パッと見は動いているように見えなかったが、実際はそう思えるぐらい超高速で、更に微細な動きだけで回避を成していたようで、近づくと奴の輪郭がボヤケて見えた。
そんな、恐ろしいとまで思える奴の懐に飛び込む事が、全く怖くないかと言えば嘘になる。だが、同時にワクワクもする。
水平方向に放たれた〝天灼〟と〝破断〟の少し下を超前傾姿勢のダッシュで通過し、遂に拳が届く距離まで肉薄した俺は、走った勢いを乗せてハンマーパンチを繰り出した。
「甘いぞ」
「そうかな?」
予備動作がそこそこ大きいので、彼女には通用せず、通り抜けたのかと錯覚するぐらい引き付けられてから躱されてしまったが、地面に叩き付けた拳を軸に反転。インファイトの距離に入る。
俺を迎撃しようとする伊邪那美大神だが、背後から少し遅れて到達した〝天灼〟と〝破断〟を躱した事で、ほんの僅かだが攻撃が遅れた。
伊邪那美大神が放つ、発生1F未満の貫手と雷撃をダッキングとヘッドスリップで直撃を避け、手傷を負いながらも、K.O.アッパーカットをカウンターで繰り出す。
「ぬう……!?」
空間を裂くようにして突き上げられた拳を、伊邪那美大神は顎の真下で両腕をクロスさせて抑え込もうとしたが、その威力を完全には殺し切れず、軽く後退しながらガードを崩された。
K.O.アッパーカットの威力を、最風によるガード崩し程度にまで軽減された光景に衝撃こそ受けたが、想定した範囲内だ。
「優花ッ!」
「――選定、〝四方の震天〟!」
オールレンジ攻撃を行いながら、同時進行で構築が行われた神代魔法は、直接の物質破壊に長けた〝震天〟を、昇華魔法によって更に強化させた物だ。
当然のように魂魄魔法で攻撃対象の〝選定〟を行っているが、相当無理をしているようで、優花の呼気が乱れたのが分かった。
俺自身も、再生の度に効能が薄れていくのを感じており、そろそろ限界の先にある極限を迎えそうである。
攻勢を仕掛けるラストチャンスだろう。ここで全てを出し切れ!
伊邪那美大神の四方の空間が瞬間的に圧縮され、そして弾け飛んだのと同時に、俺も右拳に〝震天・集〟を纏わせてスマッシュストレートを放つ体勢を取る。
「面白い……!」
四方から襲い来る〝震天〟による衝撃波で、その場から動く事は叶わないようだが、伊邪那美大神は心底楽しそうに美しく微笑むと、指をパチリと鳴らして数多の雷鎚をこちらに飛ばしてきた。
だが、身体を貫いていく雷鎚を物ともせず、拳を振り上げる。
これまでの、リトルマックを真似たスーパーアーマーは、言ってしまえばただの痩せ我慢であった。しかし、今は違う。〝情報〟として、正真正銘本物のスーパーアーマーが、特定動作中に発動するようになった。
無論痛みは感じるが、動作が完了するまでは、攻撃を受けても怯む事はない。
「ゼアッ――!」
俺の右拳は、伊邪那美大神の首と胸元の間に届いた。
そしてその瞬間。視界が何の前触れもなく、暗転するのだった。
マックくんが切れる手札は以下の通りです。〝闘神〟の効果で一律2倍化してます。
☆魔力操作による身体能力強化(2~4倍)
☆身体強化(2×2倍)
☆集中強化(3×2倍)
☆豪腕(常時腕攻撃1.5×2倍)
☆スマッシュホールド(技威力1.4倍)
☆魂魄解放・第四限界突破
☆天魔天変or最後のきりふだ(50×2倍→100×2倍)
☆昇華(リトルマックの情報を全て手にする)
☆神格化
☆逆境強化(5×2倍)
☆闘神
☆覇潰&限界突破((5×2)×(3×2)倍)
☆スピリッツ優奈ちゃん(腕攻撃強化1.5倍)
こんなヤベー奴が、〝集束拳打〟と〝浸透破壊〟を常備して、超高性能アーティファクトを全身に纏い、神代魔法を連発しながら襲い掛かってくる恐怖。
そんなマックくんと、原作のユエ並に神代魔法を連発しながらオールレンジ攻撃を両立する優花さんより遥かに格上な神様もヤバい。