異世界でもお前のパンチを見せてやれ! 作:Hetzer愛好家
頑張って2026年の間に完結させられたらと思ってます。
「……あれ、優花?」
「おはよ、ケン」
吹っ飛んでいた意識が覚醒すると、俺は優花に膝枕された状態で寝転がっていた。
優花のすぐ隣には、ニコニコと笑いながら俺の頭を撫で回している優奈の姿もある。
「って、伊邪那美大神は……」
「我はここだ」
そして伊邪那美大神は、特に気分を害した様子もなく、宙にフワフワ浮きながら頬杖をついてこちらを見ていた。どこに肘を置いているのだろうか……?
「まだ力の制御が完全ではないようだな。故に、全力で能力を行使できる時間は極端に短いと。だが、現時点でもあれだけの戦闘力を発揮できるのであれば、今後の成長が一層楽しみだ」
「そりゃどうも」
「愛情によって、力の奔流による暴走を抑制する考えも、見事に機能していた。そう遠くない未来、貴殿は確実に化けるだろう」
起き上がろうとしたが、優花と優奈の手によってやんわり元の状態に戻されたので、一旦諦める事にした。まだ起きてはいけないらしい。
神様も軽く手を上げて、そのままで構わないというジェスチャーを見せてきたので、遠慮なく甘えるとするか。
「まあ、アンタが大化けが確実だと言ってくれたとしても、エヒトの馬鹿やキーラダーズを倒せなきゃ意味がない。成長予測線を上回る事ができるぐらい、これまで以上に精進するさ」
「うむ、その心意気や良し。我から伝えられる助言があるとすれば、まずは力を強引に抑え込みすぎない事だ。特に潜在能力の多くを解放した際に、貴殿はその身に余る力の奔流と昂ぶる気を、強靭な精神力1つで無理に抑え込もうとしていた。短時間であれば問題ないが、これから先の戦いを見据えるならば、改善は必須だろう」
全く持ってその通りである。
今回が連戦に近い形であった事を鑑みても、今の持続力に難がある状態は好ましくない。エヒト、キーラ、ダーズの3つの勢力と同時に激突する可能性もあるため、どんなに短くても数日間は連続して〝神格化〟の状態を保てるようになる必要があるだろう。
「具体的な施策はあるのか? 正直、俺には少しずつ身体に慣らす以外思いつかないんだが……」
「いや、それで良い。更に言えば、神として過ごしながら、人としての生活を何事もなく送れるようになれば、問題は発生しないだろう」
「ああ、なるほど。〝神格化〟ではなく、〝神〟である事を当たり前にするのか」
いきなり〝魂魄解放・第四限界突破〟の状態で始める事は無謀なので、本当に少しずつ段階を上げながら慣らしていく事になるだろう。
変身を変身とは思わない。多くのサブカルチャーに触れてきたので、その重要性と効果の高さは理解している。今からでも始めるべきだな。
「……今はダメ。まだ回復してない」
「無茶したら怒るよ?」
「あ、はいスンマセン」
完全に優花と優奈に心を読まれた。まあ、回復が済んでからでも良いか。具体的には数時間後ぐらい……いや、もうちょい後回しで。また不穏な空気を感じた。
そんな俺たちの様子を、ニコニコと微笑を絶やさず眺めている伊邪那美大神。どうやら、本当に彼女たちが持つ愛の〝星〟に魅せられているらしい。
「ああ、そうだ。もう1つ伝えなければならない事がある」
子を見守るような母の顔から、いきなり真面目モードに切り替わったので、思わず優花の膝枕から起き上がると、背筋をピンと伸ばして体育座りをする。
間髪入れず優花が背中に抱き着いてきたので、曲げていた膝をすぐ伸ばす羽目になったが。
「貴殿はこれから、異世界を統治する気狂いの神気取り、光の化身、そして混沌と闇の化身と戦う事になる訳だが。その際に、トータスの地で戦闘を繰り広げてはならぬ」
「何だと? それはどういう……」
「単純な話だ。1つの世界に対し、貴殿を含めた4つの強大な存在が全力で戦闘を行えば、あの世界はいとも容易く崩壊する。そして崩壊の余波は、隣り合った場所に位置する世界……貴殿らの故郷をも滅ぼすだろう」
世界の崩壊。あまりにもスケールが大きすぎて、すぐには想像がつかない。柄にもなく、そんな馬鹿なと考えてしまう。
しかし、俺たちが帰ろうとする世界までもが滅びてしまう可能性があると聞けば、そうも行かない。嫌でもその事実を受け止め、対策を練らなければならないだろう。
「エヒトの野郎は、〝神域〟と呼ばれる別世界に普段はいると聞いている。そこにキーラとダーズを誘い込んだ上で戦う事ができれば、世界の崩壊は起こらないと思うが、どうだ?」
「……いや、エヒトとやらを討ち滅ぼす事に成功したとしても、〝神域〟が崩壊する余波が世界を巻き込む可能性がある。しかも、光の化身と混沌と闇の化身が顕在だった場合、崩壊を起こした世界か滅び行く世界で相手取る必要がある。そうなれば、貴殿は全力を発揮できなくなるだろう」
「そうなると、〝神域〟からエヒトを引きずり出した上で、別の場所に誘導する必要があるか。ちなみに、あの世とこの世の狭間であるこの空間や、黄泉国におびき寄せるのは?」
「悪い案ではないが、最悪の場合はトータスにある黄泉国までもが崩壊を起こし、更に収集がつかなくなるぞ。特にこの空間は、異世界の黄泉国に近いから我の力が及びやすいだけだ。思念体しか送れず、そちらの世界の黄泉国の主宰神と話がつけられない現状では、最終手段として頭の片隅に置く事が望ましい」
思った以上に事情が複雑だな。
ついでに、この空間が伊邪那美大神の力が及ぶ事に着目して、何とか日本へ帰る事ができないかと考えていたのだが、実際はトータス世界のあの世に近い場所だと聞いてすぐに無理だと悟った。流石に別世界のあの世から、黄泉国へ出て更に現し世へ脱出するのは、色々と不確定要素が多すぎる。
ひとまず、トータスのあの世を巻き込むのは最終手段であり、極力使わない方向で考えるとして。他の案を出さねばなるまい。
「ケンさん。ちょっと気になる事があるんだけど」
「何だ?」
「キーラとダーズが元いた世界って、私たちの故郷やトータスからどの程度離れた位置にある? 距離次第だけど、そこに全員を連れ込むのはどうかなって」
優奈の言葉を受けて、俺はすぐに羅針盤を取り出した。
概念魔法の持つ力が本物であれば、多分フワッとした位置指定でも指し示してくれるはず。そう信じて、羅針盤に魔力を流しながら念じる。
すると、羅針盤の針が軽く回り、ある1点を指し示したと同時に、俺の中に奇妙な感覚が芽生えた。
俺が調べようと思っていた世界が位置する場所、そして距離。何となく、本当に何となくだが、羅針盤から伝わってきたのである。
その代償として、とんでもない量の魔力がゴッソリ持っていかれたが、そんな事はどうでも良い。危うく魔力枯渇するところだったのも、今は置いておこう。
「場所は分かった。距離もな。ただ、気が遠くなりそうなぐらい離れた位置だけど」
「そんなに離れてるの?」
「マジモンのスマブラ世界らしいのがアダとなって、三次元の世界から二次元の世界へ移動する必要があるっぽい。この世界に到達するには、相当骨が折れるぞ。既存の空間魔法じゃまず無理だ。10年以上、常に連続で空間魔法を発動させて移動する。或いは新しく概念魔法を作り出して、それを何度も発動させられるようにすれば、不可能ではないが……」
「そっかぁ。それはちょっと現実味がないね」
残念そうに言葉を口にする優奈の頭を撫でながら、あまり落ち込むなという意を伝えると、すぐに笑顔になった。
と、ここでずっと口を開かずにいた優花が、俺の頬に軽く自身の頬を擦り付けてから、1つ提案をしてきた。
こんな時でもマジで超可愛い。もう末期。
「なら、作っちゃえば良いんじゃない? 世界に影響が起こらない位置に、それ専用の空間をさ。それか、何処にでも行ける鍵みたいな物を作るとか」
「え、作る? どうやって……ああ、なるほど。概念魔法か」
確かに優花の言う通り、概念魔法を生み出す事ができれば、理論上は何でもできる。
問題となるのは、〝極限の意思〟とやらを発現できるかどうか。そして、単発の発動で終わらないようにするためには、間違いなくハジメかオスカーの協力が必要不可欠になるのだが。ハジメに協力を要請する場合は、最後の大迷宮の攻略を終え、俺たちと合流してやる事をやるまでの間、奴らが大人しくしてくれるかどうかを祈る必要がある。
俺としては、可能ならハジメの協力をマストにしたいところである。この超短時間で練った構想を実現させるなら、おそらくオスカーよりもハジメの方が適任である。俺の考える世界……否、決戦の地を細部まで知り尽くしているのは、ハジメと優奈だけだ。
取り敢えず前者は何とでもなるだろうが、後者は現時点だと完全に運任せとなる。
特にキーラとダーズは、ほぼ同時に撃滅しなければならないのだが、双方を同時に抑え込むのは個人の能力だけでは非常に難しい物がある。そこを解決できるなら、迷わず選択して良い案のだが……。
「ふむ。ならば、我が時間稼ぎを行うとしよう」
「え、神様手伝ってくれるの?」
言葉に出しはしなかったが、優奈と全く同じ事を胸の内で思った。
「異世界への干渉は、我とて容易ではない。故に、短期間の時間稼ぎが限度となるだろう。だが、半月程度なら抑え込む事が可能だ」
「願ったり叶ったりな提案だが……色々と大丈夫なのか? アンタ、2割ぐらいの力しか持たない思念体を送るので割と手一杯なんだろ。それに、神は他所の世界への干渉は許されるのかも微妙なところな気がするんだが」
「貴殿の言うように、別世界に干渉するような真似は、神々の間では基本的に禁忌とされる。ただ、統治する世界が滅びの危機を迎える可能性が、ほんの僅かにでも見受けられるのであれば、特例で認められる
「……それもそうか。黙って指咥えて見ているだけの神じゃねえよな、アンタは」
「認められない事もあるにはあるが、貴殿らが気にする必要はない。統治する世界を護るためにも、一肌脱がさせてもらうぞ」
とんでもねえ御方が、自ら助太刀すると宣言しているのであれば、もう任せてしまう方が良いだろう。
恐れ多い気持ちは未だにあるが、四の五の言えるような状況ではない。心強い事には違いないので、今回は提案に乗る事にした。
「確認だが、最低でも半月は抑えられるって認識で間違いないか?」
「ああ。もっとも、それは現時点での話だ。急変が起こる可能性も捨て切れぬ故、可能な限り早期に目標を全て達成する事を推奨する」
「分かった。じゃあ、早速動くとしよう」
指針は決まった。ここからは、ハジメたちの大迷宮攻略が完了するまでに、できる限りの準備を行う事になる。
一刻の時間も惜しいため、俺はスッと立ち上がると、優花に目線を送ってから伊邪那美大神を真っ直ぐに見据えた。
「頼むぞ、伊邪那美大神。負担はデカいだろうが、アンタが最後の砦となるからな」
「ふっ、生意気な物言いをする」
最初、あんな態度で糾弾した手前、いきなり素直に頼る事は、どうも難しいと言うか。恥ずかしいと言うか。
親に対し、素直に物を頼めない子の気持ちって奴は、多分こんな感じなんだろうな。この年になって、初めて経験した気がする。
「……必ず、アンタの限界が来る前に準備を終わらせるよ。〝約束〟する」
「期待してるぞ、若き闘神。そして拳神よ」
既に空間魔法を使用し、帰り道を作り出している優花と手を繋ぎ、霊体の優奈を背負った状態で、俺はゲートに飛び込むのだった。
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神域
「ええいアルヴヘイトめ、裏切りおって! これでは魔人族を利用して、神子の肉体を我が物とする計画は使えないではないか……!」
エヒト――真名エヒトルジュエ――は、かつてない程に苛立ちを覚えていた。
魔人族側に、想定を遥かに超える強さを持つ者が出現した事から始まった、〝遊戯〟の崩壊の音色は、もうエヒトルジュエの耳元にまで迫っていたのである。
魔人族側のイレギュラーな存在であるフリードと、主人を上回る可能性を秘めたサンドマンの出現により、人間族は滅びの危機に瀕した。そんな名目で、己が統治する世界とはまた別の世界から、召喚した人間族たち。ほんの少しだけ、現地人よりも力を与えてやる事によって、滑稽に様変わりする人間族と魔人族の戦争の行く末を見届ける。その目論見は、無数に現れたイレギュラーな存在によって、脆くも崩れ去った。
南雲ハジメと白崎香織。運命の歯車を狂わせるキッカケを作った、最初の異世界人だ。魔物肉を食らう前から、独力で固有技能を増やすという、後の覚醒の兆候こそあったが、エヒトルジュエは問題視せず、ただ静観していた。
しかし、彼らはエヒトルジュエの想像を遥かに超える心の強さを持っていた。それ故に、神の使徒を歯牙にもかけない程の強さを、驚異的なスピードで手に入れてしまった。
もっとも、イレギュラーな存在がこの2人だけであれば、何の問題もなかった。確かに神の使徒を滅殺できるだけの強さは手にしたが、所詮は人間。神には敵わない。それどころか、過去に〝神子〟の称号を与えるも、長きに渡って存在を隠されてしまったアレーティア・ガルディエ・ウェスペリティリオ・アヴァタール……ユエを表舞台に連れ出した。その功績があったから、多少目に余る行為を働いても、許してやるつもりでいた。
だが、南雲ハジメが師匠と慕い、白崎香織とも良い関係を築く人物である真久野ケンと、彼に惚れた女たちは、エヒトルジュエが個人的に憎悪の念を抱く程に、何もかもを滅茶苦茶に破壊した。
真久野ケンは、最初は〝勇者〟の称号を与えた男より、局所的に上回る能力値を持つだけの人間だったが、それが今ではどうだ。神格をサラッと得て、尚も凄まじい勢いで成長を続ける怪物である。
現恋人である園部優花も、神となった恋人に呼応するかのように急成長した。人間という枠組みを越えて、真人類に目覚めた彼女を、エヒトルジュエは万が一を起こしかねない脅威として認識している。
そして、エヒトルジュエにとって最大のイレギュラーと言えるのは、優奈が異世界の神子である事だ。トータスよりも格の高い世界で生まれた神子の脅威は、計り知れない物がある。仮に神子を何とか排除できたとしても、親元の神が出張る可能性があるのだ。下手な真似はできない。
エヒトルジュエは、南雲ハジメと白崎香織に気を取られている場合ではなかった。真久野ケンたちだけでも、日本へ帰すべきだったのだ。
そう後悔した頃には、神の使徒をただの肉塊に変え、ついでに聖教教会を壊滅させていたのだから笑えない。
「強引にでも今すぐ神子の肉体を奪い、現し世に降臨するべきか……」
否。すぐにそう結論づける。ユエの肉体の主導権を奪えたとしても、怒りと復讐心に燃えて奪還に乗り出す真久野ケンたちに、エヒトルジュエだけで立ち向かうには不安を覚えたからだ。
神の使徒が肉壁としても役に立たない上に、死が間近にある戦場であればある程に急成長する真久野ケン。今は神としての格式が上でも、超短時間で追いつかれ、そのまま超越される可能性を、エヒトルジュエは否定できなかった。肉体を奪った直後で、スペックをフルに発揮できるか分からない点も、作戦の決行に待ったをかける一助となっている。
もっとも、これはアルヴヘイトと魔人族の協力があれば、迅速に神域へ撤退する事ができた事から、迷わず実行に移せた作戦であるのだが……つくづく間が悪い。
「何か、何か手立ては……む、使徒からの報告か」
エヒトルジュエの目には、北の山脈付近にて潜伏する、ある存在の姿が映った。
地上に降り立った神の使徒が、これまでは見受けられなかった物として、単に報告したに過ぎない。
「此奴は深く手傷を負った状態で、イレギュラーと互角だったか。対の存在には、現時点では力が劣っている……」
普段のエヒトルジュエなら、脅威にはならないとして見送るだけだった。
しかし、己が口にした言葉を反芻したエヒトルジュエは、聞き捨てならない事実を自分自身で吐いたと気がついた。
「互角。深く手傷を負った状態で、か」
幾星霜を生きたエヒトルジュエの頭脳は、久方ぶりにフル回転で思考を回して。そして、1つの案に辿り着いた。
「く、くく。なるほど。我とした事が、神子が現れた事に浮かれていたようだな。ハ、ハハハ……!」
神域に、空虚に響き渡る狂神の笑い声。
それに応える者は、誰もいない。
エヒト、可哀想だなと思いながら執筆してます。オリ主とその周りがあまりにもイレギュラーすぎるし、深く関わった人たち全員が魔改造されてるし……。