異世界でもお前のパンチを見せてやれ!   作:Hetzer愛好家

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 視点移動有りです。ご注意くださいませ。

 着実に決戦の刻に近づいています。


〝日〟から〝年〟へ

 やる事が決まってしまえば、その後は実に動きやすい。

 

 ライセン大迷宮に戻った俺と優花は、現状の共有と、今後の具体的な動きについて全員に伝える事となった。なお、その際に〝念話〟を使ってハジメにも言葉を送る運びとなった。地味ながらもマルチタスクで、ほんのり疲れたのはここだけの話である。

 

 さて、準備に使える期限は、最大で半月。その間に、トータスを弄ぶ狂った神と、何らかの要因で迷い込んだと思われるキーラとダーズの墓場の制作を行う事になる。

 

 また、並行して奴らの喉元に届き得る〝牙〟を量産しなくてはならない。

 

 切り札が1つだけではダメだ。大量に用意しておくべきだし、何ならどれだけ用意しても足りないと考えておくべきである。

 

 物品の量産はオスカーとハジメに任せるとして、俺たちがやれる事と言えば、既存戦力の強化だろう。

 

 現状、存在自体が切り札となるのは俺、優花、優奈、オスカー、ミレディの5人だ。現段階であっても、奴らに対抗できるだけの力を持っており、鍛錬によっては単独で勝利できる可能性が見えてくる。

 

 次点でハジメ、白崎、ユエと続く。この4人は、タイムリミットまでに十分奴らに喰らいつける力を得られるだろう。

 

 彼らに概念魔法を発現できるぐらいの技量が身に付けば、すぐに最大級の脅威として警戒される怪物になる。何なら、俺なんか軽く飛び越えてしまうのではないだろうか。

 

 問題は、残りのメンバーをどうするかである。

 

 無論、彼ら彼女らが足手まといとは全く思っていない。それこそ、神の使徒辺りが相手であれば、余裕を持って戦える者がほとんどだろう。

 

 だが、もう一押し欲しい。奴らの生存を脅かす一手の獲得が、必要最低限のラインだ。

 

 時間が足りるかは微妙だが、何とかするしかあるまい。そう伝えた俺だったが……。

 

「あ、それならミレディちゃんに良いアイディアがあるよ!」

 

 そう言ってピョコンと立ち上がったミレディは、オスカーと目配せして集中を始めた。

 

 何を始めるつもりなのか、サッパリ分からなかった俺だが、その答えはすぐに出された。

 

 オスカーが作り出した水晶柱に、ミレディが手を翳して短く詠唱を行う。

 

「〝刹破〟!」

 

 すると、ミレディから発生した凄まじい魔力の奔流によってバタバタと跳ねていた俺たちの髪の毛が、徐々にその動きを緩やかに変えていく。

 

 再生魔法の知識がある俺には、ミレディとオスカーが何を成そうとしているのか、ようやく理解できた。

 

 再生魔法〝刹破〟は、時間を引き伸ばす魔法だ。効果範囲は、何もしなければ半径数メートル程度であり、引き伸ばせる時間の長さは、術者の技量と肉体の強度に依存しているのだが。魔法を行使しているのはミレディであり、発生した魔法を生成魔法によって水晶柱に付与しているのは、錬成と生成魔法を極めたオスカーである。

 

 周囲の景色が色褪せていき、ほとんど灰色にしか見えなくなったところで、ミレディが目を開けて肩で息をしながらふらつくが、即座にオスカーがミレディを支え、黒傘を開いて光源を発生させた。多分、あの光源は魔力を回復させる効果を持つのだろう。

 

「ふう、ありがとうオーくん。これですっかり全回復だぜ!」

「それは何より。 ……うん、会心の出来だね」

「オスカー。説明頼めるか」

「1日の長さを、この部屋の中だけ1年に引き伸ばしたんだ。これで、かなり余裕が出るはずだよ」

 

 マジか。さも当然かのようにサラッとやってくれたが、とんでもねえぞ。

 

 ハジメにも、何が起こったのかを説明すると、大層驚いた様子で「マジで!?」と言ってきた。

 

 その後、流れるように精○と時の部屋じゃないかと言われたので、軽く笑ってしまったが。実にハジメらしい受け答えである。

 

 タイムリミットの半月。日数にすると、大体15日程度だが、時間が引き伸ばされた事で、15年近くは使えるようになった。

 

「ちなみに、これ以上の引き伸ばしは不可能なのか?」

「理論上は行けるけど、ミレディへの負荷が大きすぎるかな。すぐには難しい。僕が再生魔法を行使しても良いんだけど、そうなると生成魔法を僕並みに扱えるハジメくんの協力がないと厳しいね。現状、生成魔法に適性があるのは僕とハジメくんだけだし」

「そうか。いや、十分すぎるぐらいに余力ができたよ。ハジメたちが合流するまでは、取り敢えずこのまま鍛錬と切り札の量産をしよう」

 

 善は急げ。俺は〝神格化〟し、早速慣らしの鍛錬を開始する。

 

 優花もほぼ同時に〝禁域解放・瞬光〟を使ったようで、ハイライトが消えた目となった。判断が実に早い。

 

「マック坊や。早速だが」

「おう、やるか」

「恵里。フリード。2人は私の鍛錬に付き合って」

「フッ、すぐに追い抜かしてやる。行くぞウラノス!」

「……これ、何回か死ぬんじゃないかなぁ」

「じゃ、僕たちは取り敢えずアーティファクトの量産をしようか、ミレディ?」

「はいはーい! 世界に出したらひっくり返るレベルの、とんでもアーティファクトいっぱい生み出しちゃうカッコいいオーくんをミレディちゃんは見たいでーす!」

 

 各々が、来たるべき戦いに向けて歩み出した。

 

〝マックくん。3日以内にそっちに行くね。勇者パーティーもいるけど、爆速で終わらせる〟

〝ああ、待ってるぞ〟

 

 サンドマンの拳打をパーリングしながら、ハジメとの〝念話〟を終えると、本格的に俺は攻勢に出た。

 

 ギリギリ、サンドマンが回避できるか否かの速度でジャブを飛ばし、回避した先に何度かストレートを置いて反応速度と対応力を鍛えていく。

 

 俺は俺で、この消耗が激しい力を、自由自在に操れるように鍛錬しなければならない。一見セーブして戦っているこの状況も、かなりキツいトレーニングとなっている。

 

「くっ!」

「被弾するな、弾くか避けろ! 少しずつ拳打が見えてくるはずだ。被弾の数を少しずつで良いから減らせ!」

 

 サンドマンは言葉ではなく、身体の動きで応える。

 

 少しすると、ジャブに被弾する頻度が減っていき、数回に1度はパーリングに成功するようになった他、スウェーで避けられるようになってきた。徐々に速度を覚えているようだ。

 

 やがて、反撃が返ってくるようになった。ジャブを無力化し、回避先に置かれるストレートの軌道を読んでスリッピングしながら、前に出てカウンター気味に左右の打ち下ろしを放ち、流れを変えようとしてくる。

 

 〝神格化〟の状態であっても、十分に速いと感じさせるサンドマンの左右の打ち下ろしをウィービングで回避し、追撃のコークスクリューブローもバックスウェーで躱すと、一旦距離を置いて構え直す。

 

「……俺の番だ!」

 

 猛然と突っ込むサンドマン。その動きは、スパーリングを開始した当初よりも素早く、キレが良くなっている。

 

 叩けば叩くだけ、技術を吸収して己の糧とし、無限に成長していく。それがサンドマンなのだろう。

 

 確信はなかったが、かつて帝国での拳闘大会で戦ってから、次にグリューエン大火山で会った時に感じた異様な成長速度と、今現在も徐々に高まっていく彼の戦闘力。ハジメと似た成長の仕方をするという俺の予想は、どうやら当たっていたようだ。

 

 サンドマンの、刻一刻と鋭さが増すラッシュを捌く最中だと言うのに、口角が上がる事を止められない。

 

「良いねェ、サンドマン。だが、もっとだ。お前なら、もっと行ける。俺に、届かせてみろ。〝神〟に、お前のパンチを届かせてみろ!」

 

 捌き、躱し、そして反撃。だが、その反撃をも弾き、更なる攻勢に出るサンドマンと、真っ向からぶつかり合う。

 

 最終的にはカウンターの応酬となり、一撃が命中すれば難なく命を刈り取れてしまうような、壮絶な殴り合いと化してからも、俺は終始笑みを浮かべたままであった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

ハジメside

 

「……さて、僕も今のうちから準備を始めないとね」

 

 〝念話〟を終えると、飛行艇を自動飛行モードに切り替えてから、船内のベンチシートでくつろいでいた皆に、マックくんから伝えられた事を包み隠さず口にした。

 

 船内には、いつものメンバーに加えて、本当は連れて行きたくなかった勇者パーティーの面々もいる。

 

 まあ、元を辿れば、最初は八重樫さんだけ連れて行く心づもりだったのだが、俺も連れて行けと言って聞かない勇者(笑)がどうしても納得してくれず、それに乗って他のメンバーも神代魔法が欲しいと言い出したので、面倒くさくなってしまったのが原因である。

 

 坂上くんと谷口さんはともかく、天之河くんを連れて行くのは心の底から嫌だった僕も香織も、あまりにもウザったく感じて、物理的に黙らせてしまおうと考えたぐらいだったが、樹海の大迷宮だけなら良いかと最終的には妥協した形になる。

 

 まあ、大迷宮の攻略完了時点で、即刻ハイリヒ王国に送り返すつもりだったのだが、またもや八重樫さんから頼まれてしまったので、今回も同行する流れになったのだが。

 

 何だかんだで、ヘルシャー帝国での亜人族の反逆からずっと一緒に行動しているので、細かい話をする必要がないのが、唯一の救いかもしれない。

 

 特にマックくん絡みの話は、最初から説明すると日が暮れてしまう。彼らにそこまで割いてやる時間はない。

 

「これから僕たちは、可能な限り素早くシュネー雪原の大迷宮を攻略する事になる。今のうちから、ほとんど休息はないと思って欲しい。攻略後は、すぐにライセン大迷宮に滞在しているマックくんたちのところへ向かい、設けられた制限時間いっぱい鍛錬をする流れになるよ」

 

 マックくんは敢えて口にしなかったが、彼が僕たちに何を求めているのかは、何となく理解できている。

 

 如何にして神に近づくか、ではない。それではきっと、足りないだろう。

 

 神の領域へ到達し、その力を十全に扱い切るところまで、彼は求めているはずだ。

 

「ま、待ってくれ南雲。その制限時間が来たら、もう決戦って事か? その、南雲が言ってた狂った神や、帝国で戦った奴との」

「そうだけど、何か問題でも? 時間的にも、戦力的にも何とかなると思うけど」

 

 オスカーさんとミレディが、リアル精○と時の部屋を作ってくれたお陰で、かなりの余裕が生まれたと思っているのだが。まだ足りないとでも言うのだろうか。

 

 睡眠時間や、その他諸々の時間を削ったとしても、10年近くは準備に使えるはずだし、何なら僕と香織が更に引き伸ばす事も可能である。

 

 何を不安がっているんだ、彼は。

 

「まさか、怖気づいた?」

「な、そんな訳ないだろ!? ただ、今回の大迷宮攻略も上手く行かなかったら、俺は……」

「あのさぁ、今から失敗する未来を考えてどうするのさ。そんな弱気な事を考えているの、多分君だけじゃない?」

 

 僕たちは無論の事だが、坂上くんも、谷口さんも、八重樫さんも、必ず大迷宮を攻略するって気概を持って臨んでいるはずなのに。パーティーの統率を取るべき勇者(笑)が、そんな弱気では士気に関わる。

 

 思いっきり。それはもう思いっきりため息を吐くと、心底ウンザリした様子を隠す事もなく、棘のある言葉を投げ付けた。

 

「もう良いよ。〝限界突破〟と〝覇潰〟を乗算方式で使える天之河くんだったから、決戦でも戦力にカウントできると思って同行を許していたけど。これ以上こちらの士気を下げるようなら、今すぐにでもハイリヒ王国に帰ってくれ。端的に言って邪魔だから」

「んなっ、そんな言い方はないだろう! お前はいつもそうやって――」

「〝いつも〟って言える程の深い関係じゃないでしょ、僕たち。僕の事を排他するために、ある事ない事をクラスメイトや王国の人に吹き込んだくせに、言葉が心の深い場所まで響く仲間です感を無理して出さないでくれないかな。気持ち悪い」

 

 ここらが我慢の限界であった。いや、逆だな。今まで良く頑張ったと自分自身を褒めてやりたいところである。だが、とうとう終わりの時が来たようだ。

 

 心の中で、こうしてサブカルチャー風にふざけないと、とてもじゃないがやってられない。そう思うぐらいに、知らず知らずの間に随分と摩耗していたらしい。

 

「無駄に足踏みをしている時間は一切ないんだ。もう君には帰ってもらう。このままじゃ、僕たちにまで悪影響が出る」

「ふざけるなっ、勝手な事を――」

「ユエ」

「ん……」

 

 飛行艇内に静寂が戻る。

 

 ユエが天之河くんの足元に作った〝界穿〟によって、ハイリヒ王国のどこかに強制送還されたからだ。

 

 念の為、後でタイミングを見て、メルド団長に連絡を入れておくか。彼なら、事実を真っ向から受け止めてくれるだろう。

 

「南雲くん、その……」

「謝らないでよ、八重樫さん。坂上くんと谷口さんも、次は自分だみたいな顔をしないで欲しいな。大迷宮を攻略する意思がある間は、君たちの同行を許すつもりだからさ」

 

 まあ、この2人なら大丈夫だろう。攻略できなかった前回はそこそこ落ち込んでいたが、それでも立ち直って「今回こそは!」と気合を十分に入れているようだし。

 

 とんだアクシデントが発生してしまったが、やるべき事は変わらない。

 

 サクッと気持ちを切り替えると、彼の事は頭の中から消し、この間もずっと動かしていた飛行艇を、峡谷の一角に着陸させた。

 

 外は極寒の地であるが、情報を予め貰っている僕に抜かりはない。しっかりと、如何なる極地でも問題なく活動できるアーティファクトを用意している。

 

 さあ、行こうか。最後の大迷宮攻略だ。




 原作の香織さんが、本編最終章の時点で時間を10倍に引き伸ばしてましたが、ミレディちゃんとオーちゃんさんの手に掛かれば、範囲内の部屋で6時間5分経過した段階で、ようやく外の世界が1分経つ代物を作れちゃいます。

 ほんで勇者(笑)。王国に強制送還です。原作以上に屈辱を感じてそうだし、大暴走しそうだけど気にしない。
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