異世界でもお前のパンチを見せてやれ! 作:Hetzer愛好家
外の時間にして2日と半分。使った時間は2年半近く。
何度も気絶しそうになっては、その都度ど根性で意識を繋ぎ止めた事で、俺は〝神格化〟による力を自由自在に操れるようになった上に、手持ちのカード全てを切った状態であっても、その気になれば永遠に維持できるようになった。
それも、ただ維持だけをしていた訳ではなく、皆との鍛錬を行いながらの維持だったので、正直かなりシンドかった。
誇張抜きに、何回も三途の川をこの目で見たし、中腹辺りまで渡った事もあった。
その度に優奈が連れ戻してくれたり、優花の声で瀕死の状態から完全復活したりと、彼女たちの協力がなければ早々に死んでいただろう。
しかし、それだけの苦労をしてでも飼い慣らした神の力は、恐ろしいまでの汎用性を誇る代物だった。
力を自由自在に操れるという事は、全力の状態を保つ以外にも、戦闘力の微細なコントロールの習得にも繋がっていたのである。
その気になれば、異世界に召喚される直前の強さに戻った上で、そこから再成長する事だって可能だ。当然、成長して分は最終的な戦闘力に加算されていくので、決して無駄にならない。
強さの上限その物を伸ばすか、それとも新しいスキルツリーを開拓して乗算していくかという具合に、自身の戦闘力を伸ばす手段が1つではなくなったのは、非常に大きな変化と言えよう。
そんな俺だったが、今日は一時的にライセン大迷宮の外に出て、ハイリヒ王国の方に足を運んでいる。無論、優花と優奈も一緒だ。
目的は、世話になった人に対して、これから何が起こるかを伝える事である。メルド団長、リリアーナ姫、畑山先生、ソウさんとルウさん辺りに報告できれば、取り敢えずは良いだろう。
長い時間の滞在は予定していない。1分1秒すらも惜しい状況下なので、やるべき事を最低限やったら、すぐにでも戻るつもりだ。
あの大規模侵攻以来に足を踏み入れたハイリヒ王国は、倒壊した建物の残骸が未だに残されており、戦いの傷跡が色濃く残っている状態である。
正面から入るとなれば、きっと厳しい身体検査をされたはずだ。大結界を破られ、王国内に魔人族と魔物が侵攻してきた際の恐怖は、想像を絶する物だったに違いない。故に、その種を早期に発見し、潰してしまう意識が今は非常に強いだろう。まあ、それを最初から見越して、最初から気配を消した上で、門をスルリと通過しているのだが。
さて、メルド団長には、予め〝念話〟を入れて、待ち合わせをする予定のため、目的地までは軽いデートみたいな形となっている。
認識阻害を行うアーティファクトを身に纏っている状態とは言え、地味に公の場で2人と一緒に出かけるのは初めてだ。しかも、両手に花の状態である。
当然、煩わしい視線はビシバシ感じている。更には、優花と優奈を見た野郎連中が、何度も振り返るのに対し、牽制の意を込めた殺気を飛ばすので絶妙に忙しい。
待ち合わせ場所として指定された噴水広場に到着してからも、俺はジトッとした目つきを崩せないままだ。
「ふふ、そんなに牽制しなくて良いのに」
「でも、先輩の独占欲を感じられて嬉しいよね〜」
地味っぽい服装とメイクで変装しているのに、ここまで男の目を引く2人だから、こうもなるわ。
いやまあ、最初にサラッと流したが、鍛錬開始から2年半の月日が経過している。
それに合わせて、肉体の方もキッチリと成長しているのだが……これが、俺の心に致命傷を毎秒与える要因と化していた。
端的に言ってしまえば、マジで恐ろしいぐらいに美しく成長しているのである。色々なところが。
優花は年齢に直すと20歳前後であり、優奈も17歳ぐらいとなっている。鍛錬を始めた当初よりも、明らかに子どもっぽさが抜けており、ふとした瞬間に致命傷を負うぐらいには美しくなっているのだ。
実は、中村も大人っぽくなっていて「綺麗になったな」と思ったし、フリードはより漢らしい顔つきになったと感じているのは、また別の話である。
「……お、メルド団長来たな。姫さんと先生も連れてきてくれたらしい」
流石にそのままの姿で出歩く訳には行かないのだろう。全員が変装をしていたが、魂の形が見える俺には関係ない。
認識阻害のメガネだけ外すと、団長はすぐ俺に気がついた。
何か、周囲が妙にザワついているが、まあ気の所為だろう。女性の声が多いのも、絶対に気の所為だ。
「ども、元気すか」
「おおっ、随分と大人びたなぁ! 2人とも、一体何があったんだ? それに、そちらのお嬢さんは……」
「そいつを話すと長いから、また今度で。取り敢えず、大切な家族みたいなもんだと思ってくれ。外見の変化は、実際にその年月を経験したからとしか言えないな」
優奈がニコリと笑いながら、俺の左手を握った。優花も負けじと、右手をギュッと握る。
何となく察したようで、メルド団長は「なるほどねぇ」とだけ口にすると、ニヤリと笑った。
……先生、明らかに動揺してるし、姫さんは羨ましそうにこちらを見ているが、ツッコミは入れずに放置である。
立ち話をするのもアレなので、王城に向かいながら早速本題に入る事にした。
「今日から2週間もしない内に、以前話をしたエヒト神と、近頃様々な都市に現れては甚大な被害をもたらす光の化身、その対となる混沌と闇の化身と、決着をつけるための戦いが起こる」
三者に緊張が走る。
簡単に言い出して良い事ではないのは、十分に承知している。だが、敢えて自重せず口にした。
ボカす意味はない。どうせ、大なり小なりこの世界に影響が出る戦いになる。
「……南雲くんも、参加するんですよね?」
「そりゃ勿論。最後の大迷宮の攻略が完了次第、合流して準備に取り掛かる予定です。まあ、どれだけ準備しても、確実に足りていないと感じる戦いになると思うから、戦闘中の急成長にある程度期待を寄せないといけないけど」
「そう、ですよね……」
随分と心配しているらしい。リリアーナ姫も、これまでの戦いとは一線を画す物になると感じ取ったようで、居ても立っても居られないといった表情に変わった。
「あの、真久野さん! 私に、何かできる事はありますか? 少しでも力になれたらと思うのですが……」
「っ、先生にもお手伝いをさせてください! 貴方たちだけに任せるのは、先生として許せる物ではないのでっ」
「俺もだ。ケンたちがこれから目を投じるのは、文字通り世界の命運が掛かった戦いだろう? 王国騎士団の団長としても、俺個人としても黙って見ている事はできないな」
「うーん、そう言ってくれるのは凄く嬉しいけど、かなり厳しいってのが実際のところかな。奴らとの直接戦闘は、最低でも〝人間〟の枠を超越していないと即死するレベルだし……」
神代魔法を複数習得している事が、奴らとの直接戦闘に参加するための絶対条件だろう。
しかし、折角の申し出を無碍にはしたくない。
少し考えた俺は、1つの可能性に思い至り、取り敢えず提案をしてみる事にした。
「先生。直接戦闘に参加しない代わりに、奴らの手勢が侵攻してきた時の防衛をお願いしても良いすか。姫さんと先生は遭遇した事がある、銀髪の女。それと、メルド団長が以前王国内で戦った、空飛ぶ白手袋。そいつらが、守りが手薄となるこの世界に攻め込む可能性がある」
トータスの崩壊が、連鎖的に俺たちの故郷をも巻き込んでしまう事を考えると、守備を疎かにする訳にも行かない。
だが、エヒト、キーラ、ダーズを討ち滅ぼすべく、この世界にとってのバグ枠のほとんどはトータスから離れてしまう。そうなると、手薄となったトータスに侵攻して支配するか、最悪の場合は手勢同士が激突した際の衝撃で、世界その物が壊れてしまう恐れがある。
現時点ではあくまで可能性でしかないが、不安要素を胸に抱えたまま、激闘間違いなしの最終決戦に身を投じたくはない。可能な限り、余計な事を考えなくても大丈夫な盤面を、先に整えておくべきだろう。
「無論、今のまま戦ってもらうつもりはなくて、ハジメや俺の協力者に、神代級のアーティファクトを量産してもらって、皆の戦力を底上げするつもりっす。少なくとも、あの銀髪の女を単騎でしばき倒せるぐらいにはなってもらわないとなので」
ステータスにすると、オール12000以上……いや、その3倍ぐらいの数値は必要か。しかも、単騎で多数の神の使徒を次々と薙ぎ倒す事を想定するなら、更に高い能力がないと不可能である。
これが、3日ぐらいしか時間がない状況下であれば、敵を総じて大幅にデバフした上で、味方側を超強化する事が必須であった。デバフするのは良いのだが、それありきの作戦は、破綻した時のリスクが大きすぎる。デバフなしでも、神の使徒クラスの敵を次々と倒せるぐらいの強さが望ましい。
複雑な工程を必要としない。しかし、神の使徒をも屠れる強力な一撃を、最短最速で繰り出せるアーティファクトがあれば、ひとまず何とかなるだろう。
幸い、こちらには現代最強の錬成師兼魔王と、この世の摂理を捻じ曲げて復活した神代最強の錬成師が味方にいる。生産と量産は心配せずとも上手く行くはずだ。
「あとは、どれぐらいの人数が集まるか、だな」
「王国騎士団は総出撃できるが、流石に人手が足りないな。俺のツテを使って、元神殿騎士の奴らや帝国に住む冒険者たちにも声を掛けよう」
「では、私はヘルシャー帝国のガハルド皇帝と、フェアベルゲンのアルフレリック殿に、非常事態宣言と協力の要請を致しましょう。どの程度集められるかは未知数ですが、やってみる価値はあるでしょうから」
「先生はすぐにでも、生徒に声を掛けてきますね! あ、でも1つだけ気になる点が……」
「気になる点?」
「実は、2日前に南雲くんと同行しているはずの天之河くんが突然帰ってきたのですが、今朝になって行方が分からなくなってしまったんです」
結構な人数が集まりそうだなと思っていたところへ投入される、割と大きめで無視できない爆弾。え、勇者(笑)いつの間に追い出された? てか、行方知らずなの?
いやまあ、十分に有り得る話ではある。ハジメや白崎がブチギレたとかなら、大迷宮攻略のメンバーから追放されてもおかしくはない。
だが、その後行方不明となっている事に関しては、ちょっと意味が分からなかった。精神を病んで失踪したのか、それとも別の理由があるのか。真相は、少なくとも今は分かりそうにないな。情報が少なすぎる。
「ワンチャン戦力にと考えていたが、まあ仕方ないな。ひとまず、居るメンツだけ集めてくれたらそれで良いっすわ」
念には念を入れて、天之河が敵に回っても即殺できるようなアーティファクトに仕上げてもらう事を、俺は密かに決意するのだった。
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コンコン
扉をノックすると、家の中を移動する音が徐々に近づき、やがてガチャリとドアノブが回った。
「はーい、どなたですか……って、コースケお兄さんにユナお姉さん! 幽霊のお姉さんも!」
俺たちの顔を見るなり、花が咲いたような笑顔を浮かべたルウさん。サプライズは成功したようだな。
あの3人と別れた俺たちは、もう1つの目的地であったソウさんとルウさんの家に足を運んだ。
ソウさんには連絡を入れてあったが、折角なのでルウさんをビックリさせようという話になったので、こんな形での登場となった。
「えー、来るなら先に言ってくださいよ! 知ってたら、ちゃんとお出迎えする準備をして待ってたのに〜」
「はは、すみませんね。今回はそんなに長居できないので、急な来訪になってしまったんですよ」
ルウさんに手を引かれて、家の中に入った俺は、リビングからヒョコッと顔を覗かせたソウさんに軽く挨拶してから、椅子に腰を下ろした。
隣の椅子には優花が座り、優奈はルウさんとキッチンに入っていった。
「お久しぶりです、コースケさん、ユナさん。それに、幽霊の御方もお元気そうで何よりです。なんか、色々変わりましたね。雰囲気とか顔つきとか」
「そんなですか?」
「全員、随分と大人っぽくなった気がします。それこそ、2歳ぐらい加齢したんじゃないかと思ったぐらいには」
どうやら、相当に変わっているらしい。優花と優奈は分かるが、第三者から見ると、俺にもかなりの変化があるようだ。
それにしても、ドンピシャで幾つ加齢したかを言い当てたソウさんには感心するばかりである。あのずば抜けた観察力は顕在らしい。
「……それで、今回はどうしましたか? そうだな、一世一代の大勝負をやるとか?」
「ははっ、流石ソウさん。その通りですよ」
思わず笑ってしまった。
連絡の段階では何も説明していないのだが、彼はバッチリ言い当ててきた。
「どんな大勝負なんですか、今回は。よっぽどの大物が相手と見ていますけど」
「相手はエヒト神と、概念的な奴らです。ちょっと、世界を救おうと思いまして」
「そりゃまた、大きく出ましたねぇ」
冷静に考えなくても、意味不明な話でしかない。いきなり世界を救うとか言い出したら、普通の人はまず精神の疾患の類を疑うだろう。頭ごなしに否定してくる人だっているはずだ。
だが、ソウさんは、ただ黙って話を聞き、続きを促すだけである。
それが良い。それで良い。そう感じる。
もっと、もっと話したくなる。聞いてもらいたいと思える。究極の聞き上手と言えよう。
「取り敢えず、挨拶だけでもと思ったんですよ。次はいつ会えるのか、ちょっと分からないですし」
「え、そんな危険な戦いになるんですか……?」
お茶を持って戻ってきたルウささんが、酷く心配そうに眉を顰める。ソウさんも、難しそうな表情を浮かべている。
言葉を濁したつもりだったのだが、しっかりと裏の裏まで読まれてしまった。
「負けるつもりは一切ありませんから、そこまで心配しなくても大丈夫ですよ。これ以上ないぐらい準備をしてから挑む予定ですから」
「……でも、お兄さんたちが死んでしまうかもって知ってしまったら、行かせたくないって思っちゃいます。ワガママなのは、分かっているんですけど」
「こら、ルウ。あまりコースケさんたちを困らせたらダメだ。僕たちに、皆さんを止める権利はない」
「っ、お兄ちゃんだって、魂の奥底では行って欲しくないって考えてるじゃん! お兄さんたちだって、口では大丈夫と言ってるけど、深層心理に眠る恐怖心や不安を必死に押し殺しているじゃないですか! なのに、どうしてそんな簡単に割り切れちゃうんですか……?!」
どうやら、魂が知覚できる事を利用して、こちらの深層心理を読み取っているようだ。
ちょっと迂闊な発言だったと後悔した。ルウさんが特異体質であった事が、頭からすっかり抜け落ちていたらしい。
……これ、俺たちが偽名を使っている事もバレているんじゃないか?
「私、お兄さんたちが死んじゃうのは、絶対に嫌です。受けた恩を、何も返せていないですし。何より、マッ……コースケお兄さんに、私はまだ……」
ハッと我に返ったのか、みるみる顔を赤く染めていくルウさん。
敢えて問い詰める必要性は感じなかったので、それ以上俺から追求する事はしなかった。途中、マックと言いかけた事についても、ツッコミはなしだ。
「ルウさん。心配してくれて、ありがとう。ソウさんも、気を遣ってくれてありがとうございました」
「コースケお兄さん……」
「自分たちは、どうしても行かなければなりません。何せ、世界の命運を決める戦いですから」
「ううっ、それでも嫌な物は嫌なんです。もう会えないかもって思うと、心の奥がキュッとして苦しくなって、どうしようもなくって」
「それは、貴女が自分たちの事を、心の底から心配してくれている証拠ですよ。それだけで、正直私は嬉しいなって思えます。案外、自分たちの事を人間扱いしてくれて、人並みに心配してくれて、更には帰りを待ってくれる人ってのは少ないですから」
少なくともこの世界には、ほとんど見当たらない。
大切な人たちのほとんどが、俺と一緒に奴らとの直接戦闘に臨むってのもあるが。その他の人間は、勝利を願いこそするだろうが、俺たちの事をそもそも人間扱いしていないので、心配なんてしないし、帰ってくるのが当然だと考えているだろう。
だからこそ、彼女の素朴な優しさが心に沁みる。
それは優花と優奈も同じだったようで、2人揃ってルウさんの隣に立つと、頭や頬を愛おしげに撫で始めた。
「ただの人間ですよ。コースケお兄さんも、ユナお姉さんも、幽霊のお姉さんも。どれだけ強くても、弱さを併せ持つ、1人の人間です」
「そう、ですか」
笑みが深くなっていくのが分かる。振り切ったはずの未練だったが、意外と気にしている部分もまだ残っていたようだ。
神。真人類。そして霊。誰もが人間扱いしない存在を、彼女は〝ただの人間〟と称した。
真の平等主義者というのは、彼女の事を指すのかもししれない。
俺はルウさんが淹れてくれたお茶を飲み干すと、立ち上がって彼女と目線を合わせるように少しだけ屈んだ。
そして、ルウさんの小指を、俺の小指を絡めて握る。
1つ間違えれば、強力な呪いに転ずる〝約束〟だが、ルウさんとなら、多少重めの物でも交わして良いだろう。そう考えられるぐらいには、俺は彼女の事を信用している。
「お、おお、お兄さん!?」
「まずは深呼吸。そして、貴女が落ち着いたら。1つ、〝約束〟しましょう」
アタフタしていたルウさんだったが、俺が〝約束〟と口にした瞬間に、急激に落ち着きを取り戻した。
彼女なら、もう分かっているだろう。俺の中で、〝約束〟がどれだけ重たい言葉なのかを。そしてそれは、ソウさんも同じ事だ。彼は、実際に体験しているのだから。
「必ず生きて、また顔を見せに来るって〝約束〟します」
「ホント、ですか? その場凌ぎが目的の、安易な嘘だったら、絶対に許さないですからね?」
「貴女は、既に知っているはずですよ。僕にとって、〝約束〟がどんな意味を持つのか。それでも尚、信じ難いなら。いっそ神に誓いましょうか」
「……ふふっ、これからその神様を倒そうとしているのに、神に誓うだなんて変なの。でも、そこまで言われたら、誰でも信じちゃいますね」
肩の力を抜いて笑ったルウさんは、指を離すと、真っ直ぐに俺の目を見つめてきた。
命の輝きを存分に煌めかせる瞳が、軽く俺を圧倒する。
「分かりました、〝約束〟ですよ。あ、でも1つだけワガママを言っても良いですか? できればお姉さんたちにも、同じ事をお願いしたいんですけど……」
「ええ。何でもどうぞ」
「なら、遠慮なく。被っているギルド職員としての仮面を外して、皆の素が見たいです。無論、他言無用を徹底しますよ」
……なるほど。そう来たか。
本名を明かすのは、全ての戦いが終わり、次に顔を見せた時にでもと考えていたが、まあ良いだろう。遅くても早くても、特に変わらない。
優花と優奈に目線を送ると、2人は同時に頷いた。構わないようだ。
なら、もうオスカーメガネやウイッグは必要ないな。
「えっ、リトルマック!? それに、神の使徒の園部優花さん、ですよね!?」
「その名をご存知でしたか。僕……基、俺はリトルマック。本名、真久野ケンです」
変装を解いた俺たちを見たソウさんが、かなり驚いた様子で声を上げた。どうやら、彼は俺の正体に気がついていなかったらしい。
まあ、ルウさんのような特殊ケースを除けば、基本的にバレる事はない。こちらが下手に口を滑らせなければ、であるが。
「長らく本名を明かさず、偽名を使っていた事については申し訳ないです。出会った当初は、本名で活動すると、何かと都合が悪かったので」
「い、いやいや! そこは全く気にしてないですよ! それよりも、あのリトルマックに稽古を付けてもらって、更に奥方様には何度も命を救っていただいてる事に対して、何てお礼をしたら良いのか……!」
「ソウお兄ちゃん、リトルマックの大ファンだもんね。まあ、私もですけど」
あ、そうだったの? なら、逆に本名は隠しておくのが正解だったかもしれない。下手に気を遣われたら、俺としてはやりにくさを感じてしまうだろう。
最後の心残りであった、2人を偽名で騙し続ける事に対する罪悪感。そして、今更になって本名を明かす気まずさは、いざ話してみると、案外アッサリと終わってしまった。
俺が抱える悩みの多くが、過ぎてみると、そこまで懊悩する事だったかと思う物ばかりだな。考えすぎてしまう悪癖は、神になっても変わらないらしい。
「あの、お兄さん。お兄さんが、命を懸けてまで戦う理由を、最後に教えてくれますか?」
「戦う理由、ですか」
故郷に帰り、〝約束〟を果たすため。永劫に変わる事がない、俺の軸である。
……だが、長期的な目標だけを追い掛けていても、道程が漠然としすぎる。短期的、そして中期的な目標も改めて作るべきだろう。
「2人と交わした〝約束〟を果たすため。そこにブレはありません。でも、まずはルウさんとの〝約束〟を果たすために、奴らと戦おうかなって思ってます。そのためなら、何にだってなれる。神にも、悪魔にも」
「……徹頭徹尾、〝約束〟のため、なんですね」
ルウさんは、胸の前で祈るように手を組むと、聖女のようにフワリと微笑んだ。
「貴方の、戦う理由の1つになれた。そして、〝約束〟してもらえるぐらいに信用してもらえた。それだけで、満足です。どうか貴方たちと、生きて再び会えますように。そう、心からお祈りして待ってます」
少しの間だが、目を見開いてルウさんを見つめてしまった。
だが、すぐに俺も笑みを浮かべて、小さく声を漏らす。俺は、ルウさんに助けられてばかりだ。
ずっと抑えていた力を解放し、 神代魔法を限界まで駆使して、放っておけば今にも消えてしまいそうな、新たな星の〝種火〟に手を伸ばす。
小さくとも、確かに〝極限の意思〟が込められたルウさんの願い。そして、俺自身が彼女と交わした〝約束〟。この2つの言霊を、魂魄魔法で捕捉すると、昇華魔法によって事象が発現できるぐらいにまで力を引き上げていく。
チラッとルウさんとソウさんの事を見ると、優奈が手渡したであろう札を手に持ち、固唾を呑んでこちらを見守っていた。更に、優花がアーティファクトナイフを操って、俺から溢れ出る力の奔流を空間から断絶している。
うん、流石の対応力。これならば、周囲を気にする事なく力を行使できるだろう。
爆発的に高まった〝願いの力〟の情報に、再生魔法による効果時間の永続化を組み込んだ上で、これまでは知覚しているだけだった〝己の命〟と言うべき灯火を、魂魄魔法と変成魔法によって、それぞれ魔石として一時的に顕現させる。
そして今度は、2つの魔石を生成魔法によって1つの形に作り変え、重力魔法によって引き出した半径3キロ以内の地殻深くに眠る自然由来の莫大な魔力を、これまた生成魔法で付与した。
さあ、最後の仕上げだ。
新星の誕生の如く、強烈に煌めく魔石を手に取ると、空間魔法によって生物的、物質的な境界を消した状態にして、同じく境界が消えている俺の心臓と、変成魔法の力で同化させる。
これまで感じた事のない、途轍もなく強大で荒々しい力の奔流によって、意識が何度か飛んでしまいそうになるが、それをど根性で無理やり押さえつけると。完全顕現のトリガーとなる詠唱を口にした。
「〝
ビキッ、バキッと優花が展開している空間魔法の壁に、無数の亀裂が入った音が鳴り響く。
バリィン!
やがて、ガラスが砕け散ったかのような音を立てて、空間魔法が完全に打ち破られた。
キラキラと舞い落ちる空間魔法の破片が、尚も輝きをま増す煌星の光を激しく乱反射する。
だが、数秒もすると、光は急速に収まった。
代わりに、〝概念魔法〟を発現させた事による激しい消耗で、肩で息をしながらも。何とか制御下に置いた、〝拳神〟が、姿を見せるのだった。
初の〝概念魔法〟の発現は、優花さんでも優奈ちゃんでもなく、敢えてルウちゃんを起爆剤としました。
今まで〝約束〟に固執し続けた成果と、神代魔法を自由自在に扱える〝神格化〟の無法さが、概念魔法として現れています。発現のやり方が正しいのか、ちょっとだけ不安ですが。
概要はまた次回詳しく説明しますが、オリ主は条件付きの不死をその身に宿しています。元から不死身みたいなもんですが、概念魔法によるそれは、一層彼をゲームのリトルマックに近づけていると言えるでしょう。
見た目、身体能力、無敵やアーマーといった特性を情報として既に持っている訳ですが、唯一〝スマブラ〟のリトルマックとして足りない物を補完する物です。