異世界でもお前のパンチを見せてやれ! 作:Hetzer愛好家
静寂を破り、真っ先に駆け寄ってきたのは優花だった。俺を押し倒すのではないかと思うぐらいの勢いで飛びついてくる。
「大丈夫? どこか辛いとか、身体がシンドいとか、魔力切れたとか……」
「落ち着け。魔力消耗は確かに激しかったけど、別に何ともないから」
空間魔法の壁をブチ抜く魔力放出だったので、かなり心配してくれていたようだ。俺が大丈夫だと口にしても、ヒシと抱き着いて離れようとしない。
一応、ソウさんとルウさんの前だと言うところだったが、多分照れながらも離れない気がしたので、取り敢えずそのままにしておく。俺の羞恥心はとうの昔にお亡くなりになっているので、この程度問題ない……いやあるわ。クソ恥ずかしいわこれ。
が、嫌か嬉しいかで言えばめっちゃ嬉しいので、そのままの状態を維持する。
「先輩の中から、何か物凄い力を感じるんだけど、何をしたの? 明らかに今まで持っていた力とは、全く物が違う気がするけど」
「そうだな。説明がかなり難しいが……」
何事もなかったかのように話を続けてくれた優奈に感謝しつつ、俺は発現した概念魔法についての簡単な説明を始めた。
そのタイミングで、優花も俺から離れる。真面目に話を聞くモードになったらしい。
「簡単に言うと、不死身になった。条件付きだけど」
概念魔法〝決して尽きぬ永劫の命〟は、名称の通り対象者に不死をもたらす。
更に踏み込んで説明すると、俺がルウさんと交わした〝約束〟を果たすまでは、如何なる出来事があっても生物的に死ぬ事ができなくなる。仮に致命傷を負っても、次の瞬間には全快の状態に逆戻りだ。
一見、完全無欠のチート能力に見えるだろう。いや、実際チートなんて陳腐な言葉では足りないぐらい、ヤバいにも程がある効能だが。先に言った通り、不死の効力を発揮するための条件が複数個ある。
まず、絶対条件としてルウさんが生きていなければならない。肉体的、霊的等問わないが、少なくともこの世に存在していなければ、概念魔法の効力は失われる。
また、俺とルウさんが何らかの要因で記憶を失った場合も、不死の効力は発揮されなくなるので、これまで以上に記憶操作の対策を徹底しなければならない。
そして、俺とルウさん双方が、〝約束〟は果たされたと認識すると、この概念魔法は完全に消えてなくなる。俺が〝約束〟を果たさなければ、効果は確かに永続だが、そんな不義理は決してできない事が、実質の制限時間の設定に直結している。
しかし、こればかりは仕方がない。そもそもの話、俺の〝約束〟に対する特異な向き合い方がなければ、この概念魔法は生まれていないのだから。
総じて、強力な魔法であるが、人間同士の〝約束〟という細い鎖1つだけで維持されている、ある種の脆さを併せ持つ、途轍もなくピーキーな概念魔法である。
「と、まあ概要の説明はこんな感じだな。イメージは、タイム制の乱闘におけるキャラの生死の扱いが1番近いかもしれない」
「ああ、なるほど。タイム制なら、制限時間内はどれだけ自滅してもゲームは終わらないもんね。確かに、条件付きの不死身って説明には適してる」
そう。スマブラのタイム制乱闘の特性を手に入れたと言っても過言ではないのだ。自分に有利な特性しか発現していないが。
無論、あれはゲームの勝敗が最終的には決められるので、自滅したり相手に倒されてしまえば、戦局はどんどん不利になる。しかし、不死性のみを抽出してしまえば、無法と評すべき強烈な能力に早変わりだ。
スマブラに置き換えた説明には首を傾げていたソウさんとルウさんだが、ひとまず俺が不死となった事は理解できたようで、2人とも「マジか」って表情を浮かべている。
「ルウさん」
「は、はいっ」
「ありがとう。優しい貴女の願いが、自分にどんな苦境も乗り越えられる、絶対的な力を授けてくれた」
頭を優しく撫で回す。みるみる間に顔を真っ赤にしたルウさんが、助けを求めて多方に目線を飛ばすが、誰も動かなかった。
ソウさんは腕を組んで頷くだけ。優花は俺と同じくルウさんの頭を撫でる。優奈は、ルウさんの背後から包み込むようにしてバックハグ。しかし、誰も俺の事を止める様子はない。何なら動けなくしてしまっている。
いよいよ爆発するのではないか。その寸前で、パッと俺は手を離した。
「それじゃあ、そろそろ行きますね。ソウさん、ルウさんの事を頼みます。後ほど、何が来ても良いように装備品一式を送りますので」
「ええ、任せてください。背中の事はどうかお気になさらず、存分に暴れてきてくださいね」
ソウさんと固く握手をしてから、俺は玄関口に向かおうとした。
だが、ソウさんから手を離して足を動かそうとした瞬間に、何かが勢い良く背中に激突した。
別に痛みはなかったが、優花や優奈ではない事が分かっている俺は、軽く呻いてしまった。
2人ではないなら、自ずと背中に抱き着いている人物が誰か分かる。
「ルウさん……?」
ほんの一瞬だけ、キツく抱き締めてきたルウさんは、俺が振り返る頃にはソウさんの背後に隠れてしまっていた。
「信じてます。皆さんの勝利を。 ……お兄さんが、また頭を撫でてくれるのを」
真っ赤に染まった顔を、ソウさんの背中側から小さく覗かせると、消え入りそうな声で。しかし、ハッキリとそう口にした。
……完全にやらかしたかも。
何とかその場では取り繕い、家を出る事はできた。だが……。
「相変わらず隅に置けない男だねぇ、ケン先輩?」
「分かっていた事だけど、女誑しの才があると思うよ、ケン」
「いやマジで申し訳ないです」
声が届かない場所まで来た途端にこれである。
しかし、今回に関しては俺が全面的に悪いので、皮肉を飛ばされても、責め立てられても、ひたすら平謝りする他ない。
「案外、施設で一緒に暮らしていた人の中にも、ルウちゃんと似たような感情を抱いた娘がいたりしてね。昔から身内、特に年下にはとことん甘いし、庇護の対象になった人への対応もそこまで変わってないし」
「……一切否定できねェ」
「たちが悪いのは、ケンは全くの無自覚な点だよね。何人が人知れず恋心を抱いて、結局成就せず涙を流したのやら」
俺が自覚していないだけで、実はやらかしていたエピソードはまだまだ出てきそうである。
過去の優奈に対する接し方なんかは、特級のやらかしエピソードの1つと言えよう。
無自覚、そして無知は大罪。それを誰よりも知っているつもりでいたのだが、まだ認識が甘かったらしい。
いや、過去は兎も角、今現在も無自覚にやらかしている理由は、間違いなく優花と優奈に夢中であるが故だろう。想像以上に、俺は周りの事が見えていないし、割とお座なりになっている。
「それで、ケンはどうするの?」
少しだけ不安そうに、優花が尋ねてきた。
ルウさんを受け入れるのか、それとも否か。俺の中で、その答えは既に決まっている。
「想ってくれる事に対する嬉しさはあるけど、彼女が期待しているような結果にはならないだろうな。俺は、ハジメみたいな凄まじい覚悟を決められる男ではない。でも、このまま彼女の想いを利用し続ける真似もできないから、全てが終わったら真正面から向き合うつもりだ」
「……そっか」
優花と優奈。2人を愛している事実に対して、長らく懊悩していた程だ。更に増えるとなると、一層俺の心労は加速するだろう。
どこかホッとしたような表情を浮かべる優花。優奈は、最初から俺が何を言うのか分かっていた……と言うより、信じてくれていたのか。ニコニコと笑いながら、小さく頷いた。
「さあ、憂いもなくなった事だし、私と優花お姉ちゃんの想いを使って、強烈な概念魔法を生み出しちゃおうか!」
明るい優奈の声を聞いて、俺と優花は全く同じタイミングで吹き出した。
何度、彼女の、明るさに救われてきたのか。もう数え切れないな。
「そうだね、優奈ちゃん。私たちのケンに対する想いが、〝極限〟じゃないなんて言わせない」
「と、言う訳でケンさん。覚悟してね?」
「……お手柔らかに頼む」
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「お帰り、皆。おや、もしかして」
「想像通りだ。概念魔法を生み出した」
ライセン大迷宮に戻った俺たちを出迎えてくれたオスカーは、何かを悟ったようで、軽く目を見開いていた。
「それで、どんな概念を生み出したのかな?」
「まず1つ目は、〝決して尽きぬ永劫の命〟だ。特定の条件を満たしている限り、俺は死ななくなった」
「わあ、相変わらず概念魔法はブッ飛んでる……って、1つ目? まさか、複数の概念魔法を?」
「正解。優花と優奈、それぞれの俺に対する想いと、俺の2人に対する想いを使って、もう2つの概念魔法を生み出して、俺に2つ、優花には1つ、魔石化した〝命〟に定着させた」
「……マジかぁ」
オスカーが、乾いた笑みを浮かべた。もはや、笑う他ないといった様子である。
まず、優花と生み出した概念魔法は〝
効果は実に分かりやすく、優花との愛が途切れない限り、双方にスーパーアーマー状態を付与すると言う物だ。
スマブラにおける、クッパやカズヤの特性に近い物とも言えるだろう。一定のラインまでは、攻撃を被弾しても一切怯まないので、こちらの精神力と耐久力の限り絶対的なアドバンテージを得る事が可能となる。
そして、優奈と生み出したのは〝
こちらは、少し前に昇華魔法で情報化した〝リトルマック〟と言う2人にとっての理想像を概念化し、俺に定着させ、体現させる効果を持つ。
情報から概念に変化した事で、より鮮明に理想像を体現できるようになった他、第三者にも概念を流し込む事によって、俺たちにとっての理想像〝リトルマック〟を、正確に理解してもらう事もできる。
理想像の内容は単純明快。スマブラにおけるリトルマックを、現実世界で体現する事だ。
そこまで話したところで、俺はオスカーに1つ提案をする事にした。
「なあ、オスカー。3つ目の概念魔法を悪用すると、中々に面白いアーティファクトが作れると思うんだが」
「……是非とも聞かせてくれ」
「今回、俺たちが理想とする存在を概念化した訳だが。その中にある、拳打であったり特定動作時の特性の情報を、アーティファクトに付与できないか? そいつを、協力してくれる一般人に籠手と防具として貸し与える事で、大幅な戦力増強が見込めると思うんだ」
安直なネーミングになるが、総人類リトルマック化計画とでも言うべきだろうか。
情報量が膨大なので、採用する技を一部に絞ったり、再現する特性を限定する必要があるかもしれないが、それでも敵からすれば計り知れない脅威となるだろう。
威力だけでも再現できれば、拳さえ命中すれば汎ゆる敵を粉砕する事が可能になる。特性の再現まで手が及べば、取り敢えず即死は免れるはずだ。
オスカーは、少しだけ考える素振りを見せた後に、ニヤリと悪そうな笑みを浮かべた。
「良いね、実に面白い。君の一撃必殺の拳打が再現できれば、控え目に見積もっても神の使徒なら難なく殲滅できるだろうし、僕たちの戦力強化にも繋がる」
「なら、すぐにでも試作品の制作に取り掛かるぞ」
可能ならば、ハジメたちが合流するまでに、量産体制を整えておきたい。
優花たちが引っ付いた状態のまま、俺はオスカーとアーティファクトの制作に取り掛かるのだった。
不撓と不屈を分けた結果生まれた概念魔法が、無法にも程がある効力を持つ事になってしまいました。ちなみに、3つある概念魔法がそれぞれ不死性を担保しているので、ストック制の特性も偶発的に得ています。
スマブラキャラとしての特性を完全に得ると、マジでヤバい存在になるみたいですね。最初からスマブラの特性を持たせず、持ち前のど根性で解決させておいて正解でした。