異世界でもお前のパンチを見せてやれ! 作:Hetzer愛好家
あれから、現実時間で4時間程度、体感時間で2ヶ月が経過した。
オスカーと意見を出し合いながら、完成品までこぎ着けたアーティファクトは、結果から言えば全ての技や特性を再現するには至らなかった。
しかし、籠手にはスマッシュストレートとK.O.アッパーカットをワンボタンで切り替えながら放つ機能が搭載され、防具には攻撃を受けた瞬間に〝金剛〟を多重に展開する事で、擬似的にスーパーアーマーを付与できるようになったので、最低限〝スマブラのリトルマック〟の再現はできていると言えるだろう。
他にも、スマッシュストレートを放てる状態の時は、俺が普段やっているように衝撃波を飛ばせるし、籠手同士をクロスさせればバリアバーストも可能な〝聖絶〟を展開できる。K.O.アッパーカットに至っては、命中すれば神の使徒であろうと首が簡単に吹っ飛ぶ代物だ。
あくまで籠手はサブウェポンであり、メインウェポンはこれから制作するが、長物を扱えない者は、いっそメインウェポンに据えても良さそうな性能をしている。
そのメインウェポンであるが、こちらはつい先程合流したハジメと、籠手と防具の量産体制を整えたオスカーが制作中である。
ひとまず、〝身体強化〟と〝斬羅〟が付与されたバスターソードを作るようだ。剣筋や刀身が何故か黄緑色に染まっているが、極力俺は気にしないようにしている。金髪の空後ブンブン丸を思い出させる見た目だが、気にしていないったら気にしていない。
ちなみに、ハジメから何故勇者(笑)を大迷宮攻略のメンバーから追放したのかについて、事の顛末を聞いたのだが。まあ追い出すのが妥当だろうと感じる言い分だった。
大迷宮は無事に攻略できたようであるし、残った勇者パーティーの面々も神代魔法を習得できたらしいので、結果的には追放したのが正解だったと俺は判断した。士気が下がった状態で大迷宮に挑むのは、色々とリスクが高すぎる。
概念魔法を扱える人物と、今からでも鍛えれば直接戦闘に参加しても、全く問題ないぐらいにまで仕上げられる可能性を持つ人物が増えた。それだけで十分だ。
現に、勇者(笑)が行方不明になったと知っても、多くの人物はあまり興味がなさそうな反応しか返さなかった。その程度の認識なのだろう。
なお、勇者パーティーの面々と、随分と久しぶりに顔を合わせた中村は、中々に気まずそうな顔をしているが、こちらも時間が解決してくれるはずだ。わざわざ俺が、手を出す必要性は感じない。
「ケン」
「おう。一旦休むか」
閑話休題。ボクシングの技術に加えて、殺人空手の技術を、〝再成長〟させる事で研鑽していた俺は、優花の一声で拳を下ろした。
すると、俺と空手の稽古をしていた坂上も、ゼーハー言いながらその場に座り込む。
こいつも、無事に変成魔法を手に入れる事ができた。フリードのように、魔物を使役したり生み出す才は残念ながらなかった。だが、俺のギガマック化のように、自身に魔物の特性を付与する手法には適性があったらしく、近接戦闘に強そうな魔物を適宜チョイスしながら鍛錬している。
ちなみに、フリードのように魔物の軍勢を率いる方向に才覚を示したのは、谷口の方だったりする。奴は、一度真のオルクス大迷宮に足を運び、大量の魔物を使役してから帰ってきた。
何か、虫型の魔物ばかり使役していたので、俺は思わず「インセクトクイーン、虫の女王様だな」と零してしまい、涙目となった谷口に耳元で喚かれてしまった。失言癖は相変わらずである。
「坂上。お前、無理して俺の鍛錬に付き合わなくて良いんだぞ? 第一、俺とお前では、空手の流派に違いがありすぎると思うんだが」
「へへっ、1番強い男の近くで鍛錬する事が、強くなる近道だと考えているんでな! 誰が何と言おうと、俺は真久野と鍛錬するぜ!」
「脳筋かよ。まあ、お前がそう言うなら俺は止めないが」
空手家の坂上からすれば、流派は違えど、俺の殺人空手から得られる物も多いのだろう。乱取りでボロボロにされながらも、少しずつ成長を続けている坂上は、俺の目には好ましい物として映っていた。
それを優花や優奈にはバッチリ見抜かれており、隣に座る優花は脇腹をつんつんしてくるし、ミレディや中村と鍛錬している優奈は、目が合うとニヤニヤしながらこちらを見てくる。
「それにしても、真久野が空手をやっていたとは知らなかったぜ。ボクシングは知っていたけどよ」
「……本当に色々あったからな。今は割り切っているが、あまり表には出したくない技術だった」
「へえ、勿体ねえな。お前ぐらいの実力があれば、ウチの部活でも間違いなくエースを張れたのによ」
「中学生の時に、ボクサーに転向しちまったからな。ただ、仮に競技転向をしなくても、俺は部活には入らなかっただろう。俺が習得した技術は、全て人殺しに直結する。演武なら良いが、実戦では防具があっても手加減しなければならない」
そもそも論だが、高校に進学できたのかも怪しい。
幼い俺の身と、優奈の短すぎる天寿を全うするまでの命を護り抜いた実績こそあるが、同時に人間性を大きく損なう要因となってしまった。
全てを語る必要はないと考え、そこで口を閉ざした俺だったが、坂上は特にそれ以上追求してくる事はなかった。脳筋なりに、多少気を遣ってくれたのだろう。
「……あ、そうだ真久野と園部。全く話の内容は変わるんだが、お前たちに相談があってな」
「何だよ、いきなり畏まって」
「え、私も?」
「この手の話は、パーティーメンバーには相談できねえんだよ。特に、恋愛相談って奴は」
「「……はあ!?」」
優花と全く同じタイミングで、素っ頓狂な声を出してしまった。
脳筋で通っている坂上が、いきなり畏まったかと思えば、口にしたのは恋愛相談。しかも、鍛錬の休憩中である。想定できるかこんなの。
しかも、この脳筋が誰を好いているのかは、一瞬で見抜けてしまった。十中八九、谷口だろう。
パーティーメンバーに相談できないと言うのも、一定の理解はできる。天之河はラノベ系主人公のテンプレを征く唐変木だし、八重樫はハジメにお熱だから話しにくいだろうし。それに、中村とは未だに気まずそうだし、本命の谷口に相談するなど、以ての外だろう。
しかし、何で俺たちなんだ?
「何だよ、2人揃って。そんなに意外か?」
「お前が色恋沙汰に現を抜かす事も意外だが、わざわざ俺たちに相談するってのが予想外でな」
「南雲たちじゃダメだったの? それか、親友の天之河でも良かったじゃん」
「南雲たちの恋愛は、ちょっと参考にならねえんだわ。光輝に関しては、恋愛相談するにはちょっと頼りねえし。何より、行方不明だし」
「ああ、なるほどなァ……」
確かに、男としてハジメの恋愛を真似しようとは思えないわ。羨ましいとは感じるかもしれないが、冷静になって考えてみると、自分の器量では不可能だとすぐに納得できる。
ステレオタイプの恋愛をしている人物と言えば、オスカーたちも候補に挙げられるが、流石に見知ったばかりの人物に恋愛相談は難しいだろう。
そうなると、消去法で俺と優花になる。俺たちも、ステレオタイプの恋愛をしているとは言えないのだが、優奈との歪な関係を知らない坂上からすれば、唯一マトモに相談できそうな人物として見ていたに違いない。
「相談に乗るのは別に構わねえけど、この戦いが終わったら告白するみたいな、死亡フラグの建築だけはするなよ」
「げっ、死亡フラグになるのか!?」
「……手遅れだったか」
初手からこの調子だが、大丈夫だろうか……?
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ハジメside
「……うん、一般兵に支給する武具はこんなもんで良いね。さて、そろそろオスカーさんやマックくんたちと、〝ステージ〟の作成に取り掛からなきゃ」
もう、何ヶ月が経過したのか分からない。神様となったマックくんや、人体錬成によって復活を遂げたオスカーさんは、正確に経過日数を把握しているらしいが、生憎な事に僕はまだ生物の範疇から飛び出していないので、時間を把握する事は早々に諦めた。
さて、マックくん発案の〝対エヒト・キーラ・ダーズ専用ステージ〟の制作であるが、こちらの原案は既に僕の頭の中で完成している。
オスカーさんが近くにいるにも関わらず、敢えて僕に構想をブラッシュアップして原案を練ってくれと彼が頼んできたのは、メンバー内でマックくんが構想した〝専用ステージ〟の細部を知る、数少ない人物だったからだろう。
決戦の地を自らの手で生み出す事で、2つの世界の崩壊を防ぐと聞かされた時は、話のスケールの大きさに軽く目眩がしたのも、今となっては懐かしい思い出だ。
「ハジメくん。そろそろ作成に取り掛かるのかい?」
「丁度呼ぼうと思っていたところですよ、オスカーさん。他の、概念魔法を使える人たちも、すぐに呼びますね」
誰よりも早く、僕の思考を悟ったオスカーさんが、ニコリと笑ってその場に佇む。
この空間に足を踏み入れてから、長い期間彼とひたすらに〝錬成〟をしながら、様々な話をした。
半分近くは、互いの恋人の惚気だったが。残りの半分は、神代の頃の話であった。
〝神殺し〟なる概念が、やけ酒の末に開かれた悪口大会のノリで生まれた話を聞かされた時は、流石に腹を抱えて笑ってしまったものである。
他の解放者の面々も、濃ゆいメンバーばかりだ。何処となく、僕のパーティーメンバーと被っている点もあったので、互いに「大変だよねぇ」と同情し合うような場面もあった。ドMの扱いは大変だ、本当に。
ああ、それと。一際印象的な話として記憶に刻まれているのは、最終決戦が終わってからの展望だ。
「ミレディは、独りのまま最終決戦を迎えたら、最後は自爆してでもエヒトを討とうとしていたんだってさ」
そう告げたオスカーさんの顔には、何処となく寂しそうな表情が浮かんでいた。
彼は、誰よりもミレディの事を理解している。だから、彼女なら絶対にそうすると、確信を持っていたのだろう。
「でもね。僕が蘇り、幾星霜の刻を得て再会してからは、神が亡き後の世界を見守る夢ができたんだって言ってた」
そう語るオスカーさんは、一筋の涙を流しながら。しかし、幸せそうに笑っていた。
「君たちのような、勇気ある攻略者が現れてくれて。本当に良かった。ありがとう」
どれだけの想いが込められた〝ありがとう〟なのか、僕に推し量る事はできない。推し量るには、僕には生きた時間が足りないだろう。
だから、こんな言葉を返すだけで精一杯だった。
「愛する人との明日を、永く迎えられると良いですね」
稚拙な僕の言葉だったが、彼は目を細めると、声を上げて笑った。
「君もね。無論、真久野ケンくんたちもだ」
そんな思い出の数々を振り返りながら。僕は、呼び掛けに応じて即座に集まってくれた皆に、1人ずつ視線を送ってから、口を開く。
「始めようか」
原案を僕が口にすれば、すぐに改良案がポンポンと飛び出す。それを聞き入れ、更に原案をブラッシュアップしていき、また意見を出す。その繰り返しだ。
少しすると、これ以上にない案が完成した。3人寄れば文殊の知恵と言うが、それ以上の人数が集まった上に、全員が恐ろしく頭が良い。完成形まであっという間に到達するのも、当然の結果と言えるだろう。
全員が案の内容を完全に理解したタイミングで、僕は作業開始の合図を出した。
オスカーさんが〝錬成〟によって生み出した、浮遊する球形の物体を中心にする形で全員で囲むと、それぞれが手を翳して集中を始める。
1人ずつ異なる魔力光がうねりを上げ、交わり、解け合っていく中で、その心に宿した概念を現実に呼び起こしていく。
やがて、全ての工程を得た事によって、球形の物体が強烈に輝き始めた。
何の合図もなく。しかし、一糸の乱れも感じられないシンクロ率で。皆が口を開き、概念魔法をこの現実世界に呼び覚ます。
「〝