異世界でもお前のパンチを見せてやれ!   作:Hetzer愛好家

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 最初は神様視点で。後半からは、この物語ではおそらく初めての三人称視点で進行します。ご注意くださいませ。


開演の時

「ふむ、これは……」

 

 足止めを始めてから、少しの時が経った。

 

 混沌と闇の化身を牽制し、〝神域〟と現し世との境界となる場所に封術を施す事で、時間稼ぎに徹していたのだが。どうも、釈然としない点がある。

 

 それは、光の化身が何処にも見当たらない点と、エヒトルジュエが一切の反撃姿勢を示さない点だ。

 

 混沌と闇の化身は、我の牽制に対して猛烈な反撃を、現在進行系で行っている。何としてでも突破し、この世の全てを闇で覆い尽くしてやるという強烈な意思が見え隠れしており、気を抜けばあっという間に現し世への本格的な侵攻を開始するだろう。

 

 だが、エヒトルジュエは動かない。不気味なぐらいに、沈黙を貫いている。

 

 少しでも己の邪魔をする者は、即座に排除を試みると考えていたのだが、読みが外れたか。いや、そう結論づけるには、間違いなく早計だ。

 

 よもや、光の化身が忽然と姿を消した事と、何か関係があるのではないかと、今は考えるべきだろう。

 

 下手すれば、我が若き闘神たちと対面を果たしている僅かな期間に、同盟を組んで潜伏している可能性もある。そうなれば厄介だ。

 

「今日で、8日。混沌と闇の化身のみであれば、更に長期間の足止めも可能だろうが……」

 

 まだ推測の域を出ない考えを、彼らに伝えるべきか否か。神らしくもない〝悩む〟という行為に、何とも言えない気分になる。

 

 そんな我だったが、1つの連絡によって事態は急転直下の展開を迎える事となった。

 

〝聞こえるか、伊邪那美大神〟

「む、真久野ケンか」

〝準備完了だ。いつでも行けるぞ〟

「そうか。想定より早かったな」

 

 半月と提示した時間を限界まで使うだろうと考えていただけに、これには少しだけ驚いた。

 

 聞いたところによると、どうやら時間の流れを極端に遅くする事によって、より多くの時間を確保したようだ。

 

 しかし、いつまでも感心している訳にも行かぬ。

 

「闘神、真久野ケンよ。1つ、厄介な事が起こった可能性がある。エヒトルジュエと光の化身が、揃って姿を消した。今現在、トータスに姿があるのは混沌と闇の化身だけだ」

〝……なるほど、実に嫌な予感がしやがる。実は、こっちの方でも人間族側の〝勇者〟が、忽然と姿を消しているんだ。これは、今のうちから最悪の事態を想定するべきだな〟

 

 何かを感じ取ったのだろう。奴の声音が、僅かに固くなった。

 

「どうする。混沌と闇の化身のみに絞れば、更に半月程は食い止められるが」

〝いや、これ以上の足止めはしなくて良い。その代わり、俺が指定する場所までダーズを誘導してくれるか? 誘導が完了したら、後は俺たちで何とかする。幸い、エヒトがどの辺りに潜んでいるのかは、オスカーたちのお陰で分かっているんでね〟

「策があるのだな」

 

 遠くの方で、真久野ケンがニヤリと笑ったような気がした。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 混沌と闇の化身ダーズ。彼なのか、それとも彼女なのか。誰も知らない。知ろうともしない存在であるダーズは、世界の全てを闇で覆い尽くすためだけに生まれた。

 

 対の存在である光の化身キーラと勢力争いをするも、ファイターとの戦いが勃発してからは、時折激突をしつつも、基本は正面戦闘を避けるべく闇の世界に潜伏。キーラの力が弱まるのを、ただひたすら待ち続けた。

 

 やがて、その時は来る。キーラが取り逃がした、たった1つの〝星〟から始まった、ファイターたちの総反撃。そして、スピリットとなっても意思までは死ななかった、数多の世界の住人たちによる協力。その勢いはあまりにも猛烈で、キーラは一時撤退にまで追い込まれた。

 

 そこを見て、透かさずダーズは侵攻を開始。勢力を拡大するべく、魔の手を伸ばそうとする。

 

 しかし、ファイターたちの持つ底力は、ダーズの想定を遥かに超えていた。

 

 キーラと同じように、手勢は各地で撃破されていき、やがてダーズ自身も撃退に追い込まれたのである。

 

 一時的に勢力を伸ばしたダーズであったが、ファイターたちの尽力により、最終的にはキーラと同じぐらいの勢力にまで弱体化していた。

 

 光、闇、そしてファイター。三つ巴の最終決戦は、キーラとダーズが手駒にしていた〝右手と左手〟が自我を取り戻した事で、事態が急変する。

 

 創造神。そして破壊神。二神の助力を得たファイターたちは、少しの犠牲も出す事もなく、決戦の地に殴り込みをかける事ができたのだ。

 

 双方、これまで手駒とした〝ボス〟を複製し、ファイターたちにぶつけるも通用しない。

 

 遂には、直接対決に持ち込まれる事となった。

 

 対の存在を排除するべく、隙があれば容赦なく殺意を込めた攻撃を放ちながら。キーラとダーズは、ファイターたちと激戦を繰り広げた。

 

 しかし、勝利の女神が最後に微笑みかけたのは、ファイターたちの方であった。

 

 ほぼ同時刻に、完全に討ち滅ぼされた光の化身、そして混沌と闇の化身は、力なく海に沈んでいった……はずだった。

 

 どのような力が働いたのかは、分からない。分かるのは、ボロボロな状態ながらも生きているという事だけである。

 

 ダーズは、目を覚ますと魔国ガーランドにある城の地下にいた。

 

 ここは何処だ。そもそも、何で生きているのだ。そんな事を考えるよりも先に、ダーズは己の身を癒やすべく、すぐさま行動を開始した。

 

 ダーズにとって幸運だったのは、居城の主である魔王アルヴヘイトが、圧倒的な闇を放つダーズに魅入られた事で、協力を惜しまなかった事だろう。その過程で、アルヴヘイトは本来の主君であるエヒトルジュエを裏切っているのだが、ダーズからすればどうでも良い出来事であった。

 

 魔王城の地下に根を張り、魔人族や魔物を餌にして急速に己の身を癒やし、力を取り戻していったダーズは、良きタイミングを見計らって地上への侵攻を開始しようとした。

 

 全くの同タイミングで、エリセン近海から対の存在であるキーラが侵攻を開始しており、その時初めてキーラも同じ世界に飛ばされた事を知ったダーズであったが、まだ直接対決する時ではないとして、今は放置する事を決め込んだ。

 

 この世界には、以前邪魔をしてきたファイターたちは存在しない。何者も、自身の侵攻を止められやしない。そう高を括っていたダーズは、大きな衝撃を受ける事となる。

 

 シュネー雪原の方面より、氷の竜に乗って現れた男女。そして、途中で合流したもう一組の男女。これまで食い散らかしてきた魔人族のように、己の糧としてやろうと考えていたダーズだったが、戦闘が始まった途端に、警戒心を一気に引き上げた。

 

 1人目の女は、中に浮かんだ数え切れない量のナイフを己の手足のように操り、圧倒的な物量を単騎で押し返し、全滅させていく。背後から攻め入ろうとしても、まるで未来予知でもしたかのように先回りされるので、全くダメージを与えられない。

 

 メガネをかけた男は、不敵な笑みを浮かべながら様々な武器を振り回し、最短効率で制圧していく。時には洗脳した魔人族の解呪を試みたり、痛みがないように介錯をする余裕すら見せる。

 

 メガネを装着したもう2人目の女は、あまり目立たないように見えたが、縁の下の力持ちといった様子であり、広範囲に火炎をばら撒いて隙を作っていく。少しでも隙が生まれたら、他の者の攻撃で消し飛ばされる。こちらも、相当厄介であった。

 

 だが、最前線で暴れ回る1人の男は。ダーズに植え付けられた潜在的恐怖を大きく刺激した。

 

 見覚えがある、なんて次元ではない。緑色のボクシンググローブと短パン。黒いノースリーブと靴。凄まじい地上での機動力と、ゴリ押しの極みとも言える拳打の数々。間違いなく、あの男だ。

 

「全員かかってこい! 纏めて相手してやる!」

 

 その男は、あまりにも〝リトルマック〟と酷似していた。

 

 異なる点も多々あり、かつてダーズが対峙したリトルマックとは別物のオーラを身に纏っていたし、空に足場を作って自由に駆け回るという、明らかに人間離れした芸当も度々見せている。

 

 しかし、第一印象が強烈すぎて、ダーズにはその男が、あのリトルマックにしか見えなかった。

 

 ダーズは、最初から出し惜しみなしで戦う事を決意した。それが功を奏したのか、本体へマトモな攻撃がヒットした回数は1回だけである。

 

 その1回が、経験した事がないぐらいに強烈だったのだが。

 

 神代魔法を駆使したK.O.アッパーカットは、たった一撃でダーズの体力ゲージを9割近く削ったのである。その後、仮に追撃を許してしまえば、間違いなく命を奪われるとダーズが感じた程であり、即座に徹底を判断した事で何とか生き長らえた。

 

「ダーズ様、その傷は一体どうなされたのですか!?」

 

 アルヴヘイトが思わず戦慄する程の手傷を負いながらも、居城へ逃げ帰る事に成功したダーズは、次は負けないために一層多くの魔人族や魔物を時には食らって糧にしていき、時には洗脳して使い捨ての駒を量産していった。

 

 特に、フリード・バグアーの複製を用いて制作した竜の群れは、新たに生み出したクレイジーハンドの複製体と並んでダーズ軍の主力となっており、前回のように雑兵が簡単に蹴散らされるような事はないと踏んでいた。

 

 複製とは言ったが、性能はフリードの相棒である白竜と同等である。大量に用意できれば、中途半端な強さの敵が相手であれば、間違いなく瞬殺だろう。

 

 自身の強化にも余念がなく、多くの供物を己の糧とした事で、更なる強さを得た。もう、負ける道理はないと絶対的な自信を持ったダーズは、今度こそ、世界を闇で覆い尽くす。その足掛かりとして、まずはトータスを支配する。そんな目的を掲げ、アルヴヘイトや彼直属の神の使徒も引き連れて、本格的な進軍を開始した。

 

 途中、何者かの干渉によって大幅に進軍が遅れるアクシデントはあったが、8日目にして自分を邪魔する干渉が突然消え失せたので、ダーズは軍勢を率いて一気に侵攻する。

 

 通った箇所を闇で覆いながら、前へ前へと進み続けたダーズは、やがてハイリヒ王国を視界に収めた。少し先には、神山の存在もはっきりと確認できるぐらいの距離まで迫っており、普通に行けば人間族の絶滅が秒読みとなるぐらいの場所だ。

 

 しかし、ここまで来ても、人間族からの抗戦の兆しは見られない。これまで通過した村や町にも、人の姿はなかった。

 

 同時に、キーラの姿も見当たらなかった。対の存在であるが故に、常に存在を互いに感知し続ける関係にあるのだが、何故か気配すら感じないのである。

 

 沸々と湧いてくる疑念を抱えながらも、ダーズは進み続ける。後退という選択肢は、最初から存在していなかった。

 

 ハイリヒ王国を守る大結界のすぐ近くまで足を進めたダーズは、雑兵に突破を命じる。

 

 魔物に搭乗した魔人族の複製体は、能面のような表情を張り付けて突撃し、アルヴヘイト直属の神の使徒は、遠距離から強烈な魔法による波状攻撃を仕掛ける。少し遅れて、クレイジーハンドの複製たちも拳を握って大結界を殴りつけた。

 

 しかし、予想外が発生する。

 

 大結界は数多の魔法を受けても破られず、近くに寄った魔物と魔人族の複製やクレイジーハンドは、起動した罠によって次々と駆逐されていくではないか。

 

「……おい、何をしている。あの程度の結界を破るなど、お前たちなら造作もない事だろう?」

 

 ダーズのすぐ近くにいたアルヴヘイトが、やや苛立った様子で神の使徒たちを睨む。

 

 感情がないはずの神の使徒たちは、アルヴヘイトに睨まれても動揺を見せない。だが、どれだけ時間を使っても結界を破る事が叶わず、徐々に目尻がピクピクと動くようになった。

 

 躍起になって殲滅魔法を何度も繰り出すが、大結界はビクともしない。その様子を見たアルヴヘイトは、舌打ちをしながら前に出ようとする。

 

 しかし。不意に、背筋に悍ましい殺気を感じて、その歩みを止めた。

 

 ほぼ同時に、痺れを切らしたダーズが自ら触手を勢い良く伸ばして大結界を破壊しようと試みる。だが、その触手は大結界に触れる手前で、何者かの拳によって全て弾き飛ばされた。

 

「……よお、ダーズ。久しぶりだなァ」

 

 一切の気配もなく、突如現れて地上に降り立ったその男は。特段構える事もなく、大胆不敵な笑みを浮かべながら、ダーズたちを睥睨する。

 

 一際異彩を放つ男に、神の使徒たちは訳も分からず突進する。今すぐにでも、あの男を排除しなければならない。そんな使命感に囚われていた。

 

 彼女たちは、男の事を知らなかった。随分と早い段階で、アルヴヘイトがエヒトルジュエを裏切った事により、情報がかなり長い期間更新されずにいたのだ。

 

 ギリギリまでエヒトルジュエに裏切りを悟られないように、神の使徒全員に本来は備え付けられた共有機能を秘密裏に切り、アルヴヘイト自身は居城に潜伏……いや、引き篭もりを続けていたのが原因である。その間、外界の詳しい情報を仕入れる事もなかった。

 

 裏切っていなければ、彼女たちは少なからず情報を手にしていただろう。現に、エヒトルジュエの配下である神の使徒は、全員が眼前に立つ男や、白髪の〝魔王〟の情報を共有されている。その情報から、数多の対策を立てているので、全く同じ過ちであれば繰り返さないだろう。

 

 無知は罪である。そんな格言を、彼女たちは身を持って知る事となった。

 

 男の半径数メートル以内に接近した瞬間、神の使徒は顔面を潰され、胸元に大穴を穿たれて機能を停止していく。回避どころか、攻撃の認識すらままならない。

 

 ほんの僅かな時間の激突で、数百の神の使徒が屠られた事で、不用意に前へ出られなくなったタイミングで、男がまた口を開く。

 

「雑魚はお呼びじゃない。何匹引き連れていようが、俺には関係ないって事を忘れたのか?」

「ッ、ダーズ様への無礼は許さんぞ!」

「金魚のフン如きがキャンキャン吠えるな。ったく、こんな小心者が魔王とか、フリードたち魔人族も気の毒だな」

 

 みるみる間に、煽られたアルヴヘイトの顔が真っ赤に染まっていく。

 

 主君を貶める無礼者を討ち滅ぼすべく、自身が持つ神としての力を加減なしに振りかざそうと、生の感情を剥き出しに言葉を発する。

 

「アルヴヘイトの名において命ずる、〝動――〟」

「おい、後ろ危ねえぞ」

 

 ニヤリと笑った男が指を指した方向を、反射的に振り向いたアルヴヘイト。だが、そこには誰もいない。

 

 ただのブラフか。とことん舐めやがってと、一層怒りを燃え上がらせながら男の方を向いたアルヴヘイトは、表情筋を引き攣らせた。

 

「だから言っただろ? 危ねえってな」

「ウラノス、殺れえええ――!」

 

 アルヴヘイトの眼前に現れた、大口を開けた白竜。そして、それに跨る魔人族の男――フリードは、必殺の意思を瞳に宿して絶叫した。

 

 途端に放たれる、純白色のブレス。アルヴヘイトは抵抗する間もなく、呑み込まれていった。

 

 ブレスの勢いは凄まじく、周囲の魔物、魔人族、クレイジーハンドの複製を尽く消滅させていき、そのまま後方に控えていたダーズの元にまで到達する。

 

 ダーズは、眼前に空間を裂いて穴を生み出し、ブレスを異界に飛ばす事で難を逃れたが、凄まじい破壊力のブレスに内心焦りを覚えた。

 

「おの、れええ! この神敵めらが、必ずや討ち滅ぼしてくれるぞ!」

 

 超至近距離でブレスの直撃を受けたアルヴヘイトは、全身至る場所に傷を負い、現在進行系で身体が内側から溶かされる恐怖と戦いながらも、怒りを顕にしてフリードと白竜を睨んだ。

 

 対するフリードは、少しの揺らぎもなく構える。

 

「真久野ケン。この紛い物の魔王は、私が殺る」

「ああ、任せるぜ。このクソッタレを殺る役目は、お前さんが適任だろうからな。存分に暴れろ」

 

 フワリと浮かび上がった男――真久野ケンは、アルヴヘイトには目もくれず、ダーズに向かって手招きをする。

 

「来いよ、ダーズ。まさか、尻尾巻いて逃げる訳ねえよなァ?」

 

 売り言葉に買い言葉。ダーズは赤黒い波動を撒き散らしながら、応じる様子を見せた。

 

 予告なし。しかし、必然的に起こった最終決戦。その幕が、遂に上がった。




 次回は、少しだけ開戦直前の描写からスタートする予定です。
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