異世界でもお前のパンチを見せてやれ!   作:Hetzer愛好家

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序幕からアクセルベタ踏み

 時は少しばかり遡る。

 

 伊邪那美大神との〝念話〟を終えた俺は、すぐさまメンバー全員に声をかけ、現実時間で1日もしないうちに最終決戦が始まる事を告げた。

 

 その言葉に対し、慌てるような様子を見せる者はいない。ただ、来るべき日が来たかと言いたげな表情を浮かべるばかりである。

 

 現状、キーラとエヒトルジュエがこの世界には見当たらない事も伝えたが、それも特に問題にはされなかった。

 

「どちらも〝神域〟に潜伏してるんじゃない?」

 

 軽く口にしたオスカーだったが、その目の色は確信に満ちている。

 

 俺もオスカーと全く同じ見解であり、何なら手を組んでいるか、最悪の場合は融合を果たしているとまで考えていたので、特に焦りは感じなかった。

 

 ただ、本来であれば同時進行すると思われたキーラダーズと、それに合わせて〝神域〟から出てくるであろうエヒトルジュエを、俺たちが作り出した決戦の地へ誘う予定であったが、これは大幅な変更が求められる事になった。

 

 とは言え、作戦は至ってシンプルだ。

 

 神山の近くまでダーズを攻め入らせてから、まずはオスカーたち解放者が過去に調べをつけていた〝神域〟の入口をこじ開けて、そのまま共に突入。本拠地への殴り込みを間違いなく良しとしないエヒトルジュエたちを、近くまで誘き寄せたら決戦の地へ〝ご招待〟する。

 

 あとは、現地で各自協力してキーラ、ダーズ、エヒトルジュエを同時撃破する。これだけである。

 

 なお、ガラ空きとなる地上は、何としてでもアルヴヘイトの討伐をしたいと名乗り出たフリードとサンドマン、竜人族に協力を取り付けてくれたティオ、クラスメイトの統率を行う目的で勇者パーティーが残る事となった。何の因果か、無数の竜が並び立つ運びになったのは、運命の悪戯だろうか。

 

 畑山先生やリリアーナ姫、メルド団長たちの尽力によって集結した連合軍や、遊軍として動くであろうソウさんの存在。そして、ハジメとオスカーの指示によって要塞化されたハイリヒ王国の王城と、彼らが支給したアーティファクトがあれば、取り敢えず地上の守護は何とかなるだろう。

 

 閑話休題。もう間もなく王国の大結界が見えるであろう距離までダーズ軍が到達した段階で、伊邪那美大神から逐一侵攻の状況を聞いていた俺の指示で、ライセン大迷宮から出陣した。

 

 初動で奇襲を仕掛けるのは、俺とフリードである。フリードの極まった空間魔法を使って潜伏をしながら、ひたすら〝その時〟を待つのだ。

 

「……真久野ケン。貴様には、感謝せねばなるまい」

「何だよ急に。柄でもない」

 

 奇襲を仕掛ける直前、フリードから突然彼らしくもない言葉が飛んできたので、俺は思わず失礼な物言いで返してしまった。

 

 だが、フリードは特段気を悪くする様子もなく、言葉を続ける。

 

「我ら魔人族が、邪神から植え付けられた人間族に対する不信感、憎悪、蔑視の感情は中々消えるものではない。だが、私は多少なりとも、改善する事はできたように思う。それなりに、長い月日を要したがな」

「……そうか。言われてみれば、8年以上は共に過ごしたけど、鍛錬の続行が不可能になるぐらいには争わなかったよな。最初の頃は、ハジメたちとは犬猿の仲だったが」

「それも、真なる悪を理解してからは、随分と落ち着いたように思う。 ……全てが終わったら。その時は、長い月日を使ってでも、人間族との融和を進めていくべきなのかもしれんな。我々が争う理由は、もうないのだから」

 

 人間的感覚が薄れていた俺は忘れてしまっていたが、俺たちは8年以上もの月日を、空中分解が起こるような事もなく過ごしてきた。神基準なら大した長さではないが、人間視点で見れば十分に長い年月である。

 

 その内訳も、この世界の常識ではあり得ない物だったように思う。人間族、魔人族、亜人族、人造人間、真人類、神子、神。それぞれが水と油のような性質を持っていたはずなのだが、最後まで鍛錬を終えられたのは、ある種の奇跡と言えるだろう。

 

 全ての種族が、争う事なく1つの目的に向かって歩める実例として、後世に残せるかもしれない。

 

 奇跡と片付けるのか、自分たちも分かり合える日が来ると希望を持つのか。後世の人間は、何を思うのだろう。

 

「それに、だ。貴様らは、戦いが終わればすぐにでも帰郷の準備に取り掛かるのだろう? ならば、このタイミングで話してしまう方が良いと考えてな」

「丸くなったなァ、お前。 ……いや、魔人族に対してなら、元からこんな感じなのかな」

 

 崇拝にも近いレベルで慕われていたらしいので、きっと同胞の前では面倒見が良く、気を遣う事ができて、更には心優しい男なのだろう。

 

 その優しさを、少しだけだが異種族に対しても向けられるようになった。そう考えれば、とんでもない進歩と言える。

 

 体感時間にして8年以上はあった、最終決戦に向けての準備期間は、戦力以外にも大きな成長をもたらす結果となったようだ。

 

 それ以上はお互い何も口にすることはなく。しかし、完璧なタイミングで奇襲を決めると、俺はダーズ本体と、フリードはアルヴヘイトと奴が率いるダーズ軍を相手取る姿勢を見せる。

 

 俺が結界内へ空間転移を行うと、ダーズも追従してくる。どうやら、今回は逃げずに真っ向から来てくれるらしい。

 

 飛来する触手をパーリングするか、スウェーで回避しながら所定の地点まで移動した俺は、遠目に見えるフリードと白竜を一瞥してから、背を向けて待機している皆に〝念話〟を飛ばす。

 

 すると、各所に潜伏していた仲間たちが、一斉に飛び出して配置についた。

 

 真っ先に動いたのはハジメとオスカーで、神山の頂上付近まで一気に上昇すると、オスカーは指輪の中から羅針盤を、ハジメはかなりのサイズ感がある鍵の形状をしたアーティファクトを取り出した。

 

 彼らが、〝神域〟への道を必ず開いてくれる。それまでの間は、ほんの僅かでも触れさせやしない。

 

 フリードと白竜、そして遅れて合流したティオとサンドマンの苛烈極まりない猛撃を掻い潜ったらしい神の使徒と魔物たちが、ダーズを追い越して猛追してくる。だが、ハジメとオスカーを射程圏内に入れるよりも先に、小型のブラックホールのような物と白色の閃光弾が、彼女たちを容赦なく襲った。

 

「しばらくぶりだねぇ、木偶人形。久しぶりの再会早々で悪いんだけど、オーくんにはこれ以上近づけさせないよ!」

「ハジメくんの邪魔はさせないっ!」

 

 気配なく現れたのは、普段のおちゃらけた様子は鳴りを潜め、愛する人を守るべく闘気を漲らせるミレディ。そして、確固たる守護の決意を胸に抱き、ハジメの物とは対の色である白い拳銃を2つ構え、永久凍土の如く冷めた瞳を宿している白崎だ。

 

 2人の凄まじい圧に、ほんの少しだけ動きが鈍くなった神の使徒と魔物たち。無闇に突っ込めば、少なくない被害を出すだろう。

 

 そんな軍勢の背後に、新たな死神が現れる。

 

 突如として、魔物が血飛沫を上げて息絶えた。それに驚いた神の使徒が、横を見た瞬間に首をへし折られ、機能を停止する。

 

「油断大敵ですよ、人形さん」

 

 敵中で堂々と挑発したのは、兎人族の特技である隠密行動を活かし、複数体の魔物と使徒を素手で撲殺したシアだ。華麗な、しかし僅かな隙も見受けられない足技で、次々と生物の弱点である頭部を蹴り潰していく。

 

 シアへの対処に気を取られると、即座にヘッドショットや関節狙いの魔法が飛んでくる。かと言って、ミレディと白崎だけに意識をやれば、その瞬間に一撃で死ねる蹴りが突き刺さる。

 

 シンプルながらも、3人の卓越した戦闘力の高さが、戦況を一気にこちら側へ引き寄せた。

 

 さて、前線が大混乱に陥っている間、ダーズの触手や魔弾を捌き続ける俺の方にも無数のクレイジーハンドが襲来してきたが、こちらにも心強い援軍が、最高のタイミングで駆けつけた。

 

 雷竜が俺の目前を通過してクレイジーハンドたちの動きを止め、怯んだ奴らを流星が貫く。

 

「ケン先輩!」

「マック、援護する」

 

 優奈とユエ。神子2人が、ゆるりと構える。

 

 意思を持たないクレイジーハンドの複製たちが、指からミサイルを飛ばしたり、レーザーを放ったり、拳を握って特攻してくるが、尽く撃ち落とされるか相殺されて無効化されていった。

 

 その間にも、絶え間なく飛来するダーズの攻撃を凌いでいた俺は、頃合いを見て叫んだ。

 

「優花!」

 

 現れた無数のワームホールから、アーティファクトナイフが大量に飛び出す。

 

 触手と魔弾を一気に切り裂き、一時的に攻撃の波が収まったタイミングで、死角から投じられた小さな魔剣〝氷結式〟が、ダーズ本体に突き刺さる。これにより、ほんの一瞬だが、ダーズの動きが完全に止められた。

 

 その瞬間に、〝神域〟への道が開かれたらしく、ハジメから〝念話〟で「行くよ!」と連絡が入った。

 

 それを受けて、何処からともなく姿を現した優花がダーズに向かって手を翳すと、ハジメたちの方へ向かって投擲の動作を行う。

 

 すると、優花の〝投擲術〟の支配下に置かれたダーズが、開かれた〝神域〟への入口である空間の裂け目に向かって、物凄い勢いで吹っ飛ばされた。

 

「押し込め!」

 

 俺の号令でミレディが放った黒球に、ダーズが吸い寄せられていく。更に、優奈の繰り出す無数の流星が、何とか逃れようとするダーズの抵抗を封殺していった。

 

 最後の一押しとして、前線から抜け出したシアと、〝神域〟への入口近くにいたハジメが、同時に回し蹴りを繰り出すと、そのままダーズを空間の裂け目に押し込んだ。

 

 すぐさま残りのメンバーも、空間の裂け目に突入していく。逃がすまいと追撃してくるダーズの手勢を迎撃する俺と優花が、1番最後に〝神域〟の入口へと辿り着いた。

 

「優花、脳への負荷は?」

「全く問題なさそう。ケンこそ、無理する前に頼ってよ?」

「はは、そうだな。是非ともそうさせてもらおう」

 

 いつものようにグータッチをすると、一際力を入れたスマッシュストレートを放って近寄ろうとする敵を大きく吹き飛ばした俺は、優花と手を繋いで空間の裂け目へ突入するのだった。

 

 主君だけを行かせてなるものかと、少し遅れて空間の裂け目まで辿り着いたダーズの手勢たちだったが、突入する直前に〝神域〟への入口は閉ざされてしまった。

 

 間に合わなかったものは仕方あるまい。せめて、地上で抵抗を続けている人間を狩り尽くし、主君が帰還したらすぐにでも世界を闇で覆えるようにしてやる。

 

 そんな目論見は、闇よりも深い黒色のブレスと、空間を物理的に叩き割る程の威力を持った拳打によって打ち砕かれてしまったが。

 

「無事に突入できたようじゃ」

「ふん、奴ならこの程度造作もないだろう。我らは、与えられた役割を全うするのみだ」

「……相変わらず不器用じゃのぉ」

 

 早々に空間の裂け目があった場所から目を離し、襲い来る敵と向き直ったサンドマン。そんな彼の心中を見抜いたのか、ティオはフッと笑ってから眼を龍のものに変える。

 

 俺たちが〝神域〟へ突入した場所からはやや離れた、神山の頂上付近の空に、次々と亀裂が入る。

 

 同時に、空の色が赤黒く染まった。夕焼け空のような鮮やかさは一切ない。敢えて詳細に表現するなら、人々の不安を掻き立て、恐怖心を煽るような酷く不気味で生理的な嫌悪感を抱かずにはいられない色である。

 

 そして、異様な色の世界には異様な音が鳴り響く。世界そのものが鳴動しているのだ。大地も、大気も、恐れ戦くように震えながら悲鳴を上げている。

 

 やがて、空に入った無数の亀裂は、1つの大穴へと変貌した。

 

 世界に轟く破砕音を鳴り響かせ、完全に割れた空間からは、粘性を感じさせる瘴気が漏れ出ている。まるで、奴の性根を表しているかのようだ。

 

 その空間の裂け目から、黒い雨と白い雨、そして銀色の雨が降り注ぐ。

 

 俺たちが姿を消した瞬間に始まった、世界の終わり。それに対抗するべく集った連合軍は、王城から、あるいは各地に建設された小規模の要塞から空を見上げると、自身を奮い立たせて各々武器を手に取った。

 

 四方の地面に突き刺さったナイフが生み出した結界に守られている家から、空の変化を見た兄妹が、祈りと決意を胸に抱いて外に出た瞬間に、その時は訪れる。

 

「ルウ、家の中へ。逃げ込んだ人や動物を、落ち着かせておいてくれ」

「うん。ソウお兄ちゃん、気をつけてね」

 

 今にも結界に到達しそうな魔物の群れの前に、ソウさんが立ちはだかる。

 

 彼はいつものようにしゃがみ込んで構えると、結界に魔物たちがぶつかる直前に、腕を大きく振ってクロスさせた。

 

「――〝天龍〟!」

 

 途端に、魔物たちの足元から、風の刃が吹き荒れる竜巻が出現した。

 

 その規模や破壊力は、随分と前に檜山を相手取った時とは比にならない物と化している。直径1キロもの巨大竜巻に巻き込まれた魔物の群れは、一瞬で壊滅状態に陥った。

 

 続けて、人間族が放つにしては異常な規模と破壊力の竜巻を目撃した神の使徒が数体襲来する。だが、その動きは結界によって呆気なく阻まれた。

 

 何度攻撃しても破壊できない結界に眉を顰めた使徒の前に、跳び上がって結界を内側から〝通り抜けて〟現れたソウさんは、その勢いのまま得意技を繰り出す。

 

「――〝来翔蹴・廻〟!」

 

 サマーソルトキックが直撃した使徒は、理由も分からぬまま首が吹っ飛んだ。

 

 蹴りを終えたソウさんは、そのまま〝来翔〟でフワリと浮かび上がって2段ジャンプをすると、呆然として成り行きを見守っていた使徒の胸元に正拳突きを落とす。

 

 ただの人間が放つ正拳突きなら、食らったところで痛くも痒くもない。そんな慢心は、胸元に開けられた風穴によってボロボロに打ち砕かれた。

 

 鮮やかに地面へ着地したソウさんが、ジロリと残った神の使徒を睨む。

 

どうした、来い(Hey,C'mon!)

 

 情報の共有もできぬまま、神の使徒は固まる他なかった。

 

 各地で、似たような事態が頻発していることを、彼女はまだ知らない。




 非力な人間族と侮ることなかれ。最低でもデフォルトマックくんレベルの拳打を持つ人間が、各々の特技と両立した戦闘を繰り広げてくるという、この世の地獄みたいな戦いです。ただの人間でも、神の使徒を容赦なく狩ってきます。
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